ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る 作:竜羽
ユエのお話後編です。
原作だと一話で済む話なのに、私が描くとすごく長くなりますね。その分面白く書けていればいいのですが。
ユエが樹海に落ちた後、香織とネフェルティモンは助けに行こうとしたが、襲い掛かるプテラノドン似の魔物とクワガーモンI(イミテーション)に阻まれていた。
「〝縛煌鎖〟!!」
「《カースオブクィーン》!!」
香織が光の鎖を伸ばしてプテラノドン達の動きを制限し、ネフェルティモンの光線が撃ち落とす。
だが、そこにクワガーモンIが上空から奇襲を仕掛けてくる。
「キシャアアアッッ!!」
その巨大な顎を広げ、ネフェルティモンを挟みこもうとする。
「くッ」
「ネフェルティモンッ!?」
体を捻って何とか躱すネフェルティモン。香織が大丈夫かと声をかける。
さっきからこれの繰り返しだった。
香織達がプテラノドン達を攻撃しているとクワガーモンIが奇襲を仕掛け、クワガーモンIに立ち向かおうとすると、プテラノドン達が割り込んでくる。
激しい空中戦を繰り広げる香織達の疲労はどんどん溜まっており、攻撃を受けるようになってきた。
「大丈夫。当たっていない」
「よかった。でも、何とかしないと。ユエ達を助けに行かないといけないのに」
「そうね。まだこの階層の完全体が出てきていない。遭遇したらユエ達だけで勝てるかわからない」
ユエの実力は香織達も信じている。しかし、スペックだけでこの迷宮を生き残れるわけではない。
周囲の環境や能力、心理状態などの様々な要因で強者と弱者の立場は反転してしまう。
今の香織達もそうだ。
ネフェルティモンとクワガーモンIの能力値は互角であり、本来ならこのように一方的な戦いにはならない。だが、クワガーモンIのテリトリーである樹海の階層にいることと、プテラノドン達という邪魔者の存在が、香織達を追い詰めていた。
もしも、ユエの所に完全体デジモンのイミテーションが現れて、ユエと相性の悪い能力を持っていたら負けてしまうかもしれない。
一応、香織との勉強でユエもデジモンの知識を得ているが全部ではない。もしも知らない完全体デジモンが出てきて、厄介な能力を持っていたら不味い。
「早く助けに行くために、なんとしても切り抜けよう。じゃないと……」
香織は眼下の樹海を見下ろす。いつの間にか樹海は白い霧が立ち込め始めていた。
徐々に真っ白になっていく霧に、このままではユエが落ちた場所がどこかわからなくなりそうだ。
その霧の中にガルルモンに乗ったハジメが飛び込んで行くのが見えた。
「ハジメ君がユエのフラグを完璧に立てちゃうよ!!」
「こんな時にそれ!? 何を考えているの香織!?」
「コホン。失礼噛みました」
「噛んでないわよね? はっきり言っていたわよね!!」
誤魔化す香織にツッコミを入れるネフェルティモン。意外に余裕があったのかもしれない。いや、ハジメが必ずユエを助けると確信しているから、余裕ができたのか。
「噛みました! とにかく急いでユエを助けに行くよ! そのためにあいつを倒す!」
香織はデジヴァイスとカードを取り出し、魔物の群れとクワガーモンIを見据えた。
■■■■■
ユエを幻覚の霧で惑わし、捕らえたジュレイモンのイミテーション。偽物とはいえ完全体デジモンのすぐ近くにいることに、ユエは息をのむ。
これまでの階層で出現した完全体デジモンのイミテーションは、どれも一筋縄ではいかない魔物だった。
このジュレイモンIも同等の強さであろう。なのに、今はユエとムンモンしかおらず、しかも囚われの身だ。ムンモンもユエと同様に蔦に捕まっている。
「ッ……〝緋槍〟!」
「オオオオオッッ」
上級火属性魔法で拘束する蔦を焼き切ろうとするユエ。しかし、ジュレイモンIは身体から霧を吹き出し始めた。
ユエを誘い込んだ幻覚を見せる霧だ。
魔法を使おうとしていたユエは再び幻覚に惑わされてしまった。
目の前が暗闇に包まれる。
光などどこにもない闇の中で、ユエは身動きできずに囚われている。
そんな彼女の前に現れるハジメ、香織、ガブモン、テイルモン。そして、ムンモン。
だが、彼らはユエに背を向けるとどんどん離れていく。
「……ハジメ……カオリ……ガブモン……テイルモン…………」
そして、最後に残ったムンモンも──―消えた。
「ムンモンッ!? いやあああああああああっ!!??」
絶叫を上げるユエ。彼女の心は未だにあの封印部屋に囚われているのだ。
ジュレイモンIの見せる幻覚は、彼女の心を恐怖で縛りつける。
それも無理はない。
気の遠くなる程の年月の封印を解いてくれたハジメはもちろん、全ての繋がりを失ったはずのユエに新しい繋がりをくれたムンモン。吸血鬼と知っても変わることなく接してくれた香織達。徐々に彼らのことを信頼し心を許し始めていたところだったのに、その心を裏切るような光景を見せられたのだ。一度許した心を裏切られたとき、受けたショックの大きさは計り知れない。そのままユエは恐怖によって魔法を使えず、蔦による拘束を解くことができなくなった。
動けないユエを、ジュレイモンIはさらに蔦で念入りに拘束していく。
このままでは本物のジュレイモンのように、養分にされてしまう。
「ユエ! ユエ!」
必死にユエに呼びかけるムンモン。しかし、恐怖に顔を歪めるユエは応えない。
何とかユエの元に行こうとするが、幼年期の力では自分を捕える蔦から抜け出せない。ムンモンは自分の無力に顔を歪める。
そして、願う。
強さを。テイマーを救う力を!
テイマーの危機とパートナーの願いが、ムンモンに秘められた力を開放する。
ユエの持つデジヴァイスが光を放つ。
──EVOLUTION──
「ムンモン! 進化!」
ムンモンの体が光に包まれ、大きくなる。
分解され再構築されていく肉体はムンモンの時とは違い、手足が生まれる。
耳はまるで兎のように大きくなり、額に触角が生える。
この姿こそムンモンに秘められていた月の観測データの力が覚醒し、進化した哺乳類型の成長期デジモン。
「ルナモン!!」
進化を終えたルナモンは可愛らしい顔を険しくして、ユエを拘束する蔦を睨みつける。
ルナモンは両手の爪に闇の力を籠める。
「《ルナクロー》!!」
闇の力を纏い、鋭くなった爪をルナモンが振るう。
ルナモンの必殺技の一つ、《ルナクロー》だ。ザクザクとユエを拘束する蔦を斬り裂いていく。
「……ユエ。ユエ。絶対、助ける!」
テイマーを助ける一心で腕を振るうルナモン。何とかユエの目を覚まさせようと顔の周りの蔦を斬り裂こうとする。だが、それを黙って見ているジュレイモンIではなかった。
ジュレイモンIが蔦を操り、ルナモンを拘束しようとする。
それに気が付いたルナモンは蔦を斬り裂くのを一度やめると、耳をくるくると回し始める。
「《ロップイヤーリップル》!!」
回る耳からシャボンが発生する。発生したシャボンは渦を巻き、蔦を巻き込んでいく。
ルナモンの技の一つで、シャボン玉で相手の動きを鈍らせる。
シャボン玉はどんどん増えていき、ユエとルナモンを包み込んでいく。シャボン玉で蔦の動きが鈍った隙に、ルナモンは再び蔦を斬り裂き始める。
それを見たジュレイモンIは不愉快そうに顔を歪めると、頭の茂みを揺らす。すると茂みの中から赤いサクランボの様な木の実が落ちてくる。
ジュレイモンの必殺技《チェリーボム》だ。イミテーションとはいえジュレイモンIも使える。
落ちた木の実はユエ達の周りでボンボンと爆発する。
「うッ!? くあっ!?」
爆発の衝撃にシャボン玉も吹き飛び、ルナモンはバランスを崩して地面に落ちてしまう。
ルナモンが離れたことでユエはまた蔦に囚われ、今度はジュレイモンIのすぐ近くに引き寄せられる。
「くぅ。《ティアーシュート》!!」
ルナモンは額の触覚に力を集め、綺麗な水球を生み出し放つ。
水球はジュレイモンIの顔に命中するが、成長期のルナモンの技では蔦ならともかく本体にはダメージにならない。
「《ティアーシュート》! 《ティアーシュート》! 《ティアーシュート》!」
それでも何度も技を使う。しかし効果はなく、ジュレイモンIは鬱陶しくなったのか蔦を鞭のように動かし、ルナモンを弾き飛ばす。
「ああっ!?」
地面を転がるルナモン。何とか起き上がるが、ルナモンが見たのはもう体のほとんどを蔦に囚われたユエだった。
囚われていくユエを見ながら、進化したはずなのに無力なままのルナモンは涙を流す。
本来ならテイマーを守るはずのパートナーデジモンなのに、ユエを助けられないルナモンは悔しさに体を震わせる。
「……誰か、ユエを……助けて」
自分じゃなくてもいい。ユエを助けてくれというルナモンの願いは果たして──届いた。
「カードスラッシュ! 《ホルスモン》!!」
「《テンペストウィング》!!」
竜巻を身に纏い、霧を吹き飛ばしながら突進をしてきたのはガルルモン。ハジメのカードの力で得たホルスモンというデジモンの技で、ユエを拘束している蔦を全て斬り裂く。
解放されたユエが放り出される。
そこに霧の中からハジメが現れた。右肩には香織が近くにいない時に片腕でカードスラッシュをするためのデジヴァイスを固定する器具をつけている。
霧の中に飛び込んだハジメは荷物の中からその器具を取り出すと、1枚のカードを使用した。
探索能力を持つ《サーチモン》だ。
その効果で霧の中からユエ達の居場所を見つけたのだ。
幻覚を見せる霧には最初は惑わされたが、ガルルモンの鋭い嗅覚が幻覚だと見破った。
落下するユエの体を、ハジメが優しく受け止める。
「ガルルモン! ハジメ!」
ルナモンは囚われたユエを助けたガルルモンとハジメに笑顔を浮かべる。
ハジメはそこでルナモンに気が付き、訝し気な目を向ける
だが、ルナモンの体色からムンモンが進化したのではと気が付いた。
「もしかして、ムンモンか?」
「ん。今はルナモン。ユエを助けてくれてありがとう」
ルナモンの答えに納得したハジメはとりあえず、ジュレイモンIから距離を取る。
「ガルルモン。しばらく任せていいか? 俺はユエを」
「わかった!」
ガルルモンがハジメの指示に従い、ジュレイモンIに立ち向かう。
その隙にハジメとルナモンは少し離れた樹の陰に身を隠す。
「大丈夫か! ユエ! しっかりしろ!」
「……」
ハジメが呼びかけるがユエは反応せず、恐怖に顔を歪ませ震えている。
「ジュレイモンに幻覚見せられた。ユエ、怖がっている」
ルナモンがユエに何があったのかハジメに教える。それを聞いたハジメは神水を取り出し、ユエに飲ませる。ペシペシと頬を叩き、もう一度呼びかける。するとユエの震えは収まり、瞳がはっきりする。
「ユエ!」
「……ハジメ?」
「ハジメだ。大丈夫か? 意識ははっきりしているか?」
パチパチと瞬きしたユエは、ハジメの顔に手を伸ばして触れる。ハジメの存在を確かめるように。それでようやくハジメの存在を実感したのか安堵の吐息を漏らす。だが、すぐにその顔には恐怖が浮かび、手を放してしまう。そのユエの様子にハジメは困惑する。
「……どうした?」
「……もう、いや。信頼して、裏切られるのは、嫌だ!!」
泣きながらユエはジュレイモンIに見せられた幻覚を話す。誰もいない空間でハジメ達に見捨てられて一人になる光景を。
「……最後は、またあの部屋に……」
「トラウマを刺激して恐慌状態にするってことか。くそったれ!」
幻覚の内容を聞き、悪態をつくハジメ。そんなハジメを見ながらユエは恐怖に震えながら、
「……もう、裏切られたくない。裏切られるなら、信じたくない!!」
と心の中の思いを吐き出した。
裏切られる恐怖から、信じることも怖くなってしまっているのだ。
ハジメにはユエの恐怖を理解できない。
この奈落に落とされた経緯は、檜山の余計な攻撃による裏切りの結果ともいえる。だが、ハジメにとって檜山は同じ世界の出身というだけで信用も信頼もしていなかった。ガブモンを攻撃した光輝も同様だ。怒りはあるが仲間意識は低く、裏切りとは思っていない。
せいぜい、元の世界に帰ったら、ねっちょりしている母の漫画のアシスタントの人に二人をBL同人誌の素材にしてもらって、嫌がらせしてやろうって考えているくらいだ。……実際にもう一度出会ったらどうなるかわからないが。
そんなハジメでは、ユエにどんな慰めの言葉を掛ければいいのかわからない。
だから、ハジメは今の自分が伝えられることを伝える。ユエをあの封印部屋から出すときに決断したのだ。助けると。その決断をあっさり捨てるつもりは毛頭ない。
「ユエ。前にも言ったが俺はお前を助けた。だからお前が助かるまで絶対に見捨てない。お前が信じなくても俺はお前を助ける!! お前が一度でも向けてくれた信用と信頼と、自分で決めたことを絶対に裏切らない!!」
「ハ、ハジメ……」
「それに、お前のことをずっと信じ続けてきたやつが、もっと近くにいるだろ?」
「……え?」
ハジメはユエの顔を掴むと、横に向ける。
そこにはユエのことを心配そうに見つめるルナモンがいた。
「……あなた、は?」
「……ルナモン。ムンモンから進化した」
「……ルナ、モン?」
ルナモンを呆然と見つめるユエ。
「ルナモン。お前はユエを助けるために進化したんだろう?」
「……ん。でも、ユエを助けられなかった」
「それでもお前はユエを助けるために進化したんだ。そのユエを助けるっていう思いは本物だ。裏切ることなんて絶対にありえない、確かな証拠だ」
「ああ……」
「……ユエ」
ユエの手をそっと握るルナモン。
ルナモンの存在が自分は孤独ではない証拠だと言うハジメの言葉に、ユエは涙を浮かべる。
「それにな。ムーンとルナっていうのはユエと同じ、俺の世界で月を意味する言葉なんだ。まさにユエのパートナーデジモンに相応しいって俺は思うぜ」
その言葉がトドメだった。ユエはルナモンを抱きしめると、声を押し殺して泣いた。ルナモンという、唯一無二のパートナーの存在を確かなものとして感じるために。ルナモンもひしとユエを抱きしめる。
抱き合う二人を見つめるハジメは、これで大丈夫だと安心すると、自身のパートナーに目を向ける。
無数の蔦を操り物量で押してくるジュレイモンIに、ガルルモンは攻めあぐねていた。力もスピードもガルルモンの方が上だが、蔦の数が多い。爪や牙、背中のブレードで斬り裂いても次から次へと蔦が殺到してくる。
必殺技の《フォックスファイアー》を使えば蔦を燃やせるが、他の樹にも燃え移ってしまい、ハジメ達を危険にさらしかねない。しかも、霧の幻覚に惑わされないように目を瞑っていることも、戦闘が硬直してしまっている理由だった。
ここは進化するべきかと思ったハジメは、ユエを見る。
ルナモンを抱きしめながら、ハジメを不安げに見つめている。
ルナモンに対しては信じられるようになったのだろう。だが、ハジメ達についてはまだ不安に思っていそうだ。だから、ハジメはユエに信じてもらうために、デジヴァイスを差し出した。
「……え?」
「持ってくれ。俺はユエを、信じている」
ハジメはユエの目を真っ直ぐに見つめる。ユエもハジメの目を見て、そこにある真剣さに恐る恐るデジヴァイスに手を伸ばす。
ハジメはユエの手にデジヴァイスを預けると、一枚のカードを取り出す。
《超進化プラグインS》。デジモンを進化させるカードだ。
カードを構えると、ハジメはガルルモンとの繋がりを強く意識する。
すると、カードが青く光り輝き別のカードに変化した。
「それは、ブルーカード……」
「ユエ。デジヴァイスを頼む」
「……ハジメは、私を信じるの?」
「当たり前だ」
「……どうして?」
「ユエを信じるって決めたからだ」
「……裏切らない?」
「裏切らない」
「……信じて、良いの?」
「信じても信じなくても、俺はユエを助ける。ただ、それだけだ」
「…………ん!!!」
ハジメの言葉を噛み締めたユエは、探索前の香織のように、ハジメのデジヴァイスの溝を向ける。
そこに向かってハジメはブルーカードをスラッシュする。
「カードスラッシュ! マトリックスゼヴォリューション!!」
──MATRIX XEVOLUTION──
ハジメのデジヴァイスから蒼い光が迸り、樹海を包み込む。
ハジメとユエは一緒にデジヴァイスを持ち、その光をガルルモンへと向ける。光はデジヴァイスを飛び出し、ガルルモンを包み込む。
「ガルルモン! X進化!!」
ガルルモンがデータに分解され再構築されていく。
現れるのは戦闘のスペシャリストである孤高の人狼。
「ワーガルルモンX!!」
進化したワーガルルモンはクロンデジゾイドの手甲を装備した爪を振るう。爪に当たるだけでなく、腕を振るうことで発生した衝撃波だけであっけなく蔦は斬り裂かれる。それだけでなく、ジュレイモンIの巨体まで吹き飛ばす。
ワーガルルモンとジュレイモンは同じ完全体同士。だが、このジュレイモンは偽物だ。成熟期デジモンよりは強いだろうが、完全体には及ばない。
もはや勝敗は決した。完全体のワーガルルモンに、ジュレイモンIの力も能力も歯が立たない。ジュレイモンIもそのことをわかっているのか、ワーガルルモンの威圧感に怯えて動けない。
後は爪を振るうだけで、この敵は倒れるだろう。
その光景を見ていたルナモンは、意を決するとユエの腕の中からワーガルルモンに声をかけた。
「待って!」
その声にワーガルルモンは動きを止め、ハジメ達もルナモンに視線を向ける。
「そいつは、私が倒したい」
「……ルナモン?」
突然のルナモンの言葉に、ユエ達が困惑する。
ルナモンはユエの腕の中から飛び出すと、ユエを見上げる。
「私はユエのパートナー。なのに、ユエを助けられなかった……」
「……そんなことはない。ルナモンが、私を助けるために頑張ってくれた。それだけで私は……」
「ダメ。それじゃあダメ」
首を横に振るルナモン。そして決意を込めた瞳でユエに訴えかける。
「私はもっと強くなって、ユエを守りたい。ユエが信じてくれるから、応えたい!」
その証明のためにジュレイモンIを倒したいのだとルナモンは訴えかける。
「ユエ、私に力を。ユエは……私のテイマー!!」
「ッ……!!」
小さなルナモンが抱いた大きな思いに、さっきから強烈な思いをぶつけられていたユエはお腹いっぱいだった。
(今、こんなに信じてくれる仲間がいる。あの孤独な日々を吹き飛ばしてくれる優しくて、強くて、強烈な仲間たち)
ハジメ。私を助ける誓いを守り通そうとしてくれる優しい人。考えるだけで、なんだか心がポカポカしてくる。
ガブモン。ハジメが信頼する力強くて誇り高い戦士。
香織。私にいろいろ教えてくれる友達……かもしれない。
テイルモン。香織の愛を見守る気高い聖獣。
ルナモン。私にできた、私と同じ月の名前の唯一無二のパートナー。
(みんなが信じてくれている。なら、私も信じる。皆のために。ここから先の、未来に進むために!!)
ユエは覚悟を決めてデジヴァイスを取り出す。
「……ハジメ。カードを貸して」
「はいよ。ついでの他のカードも使え」
「……ん」
ハジメはユエの手に、さっき使ったばかりのカードと自分のカードデックを渡す。
そしてユエは、自分のデジヴァイスを構える。
「……初めて。行くよ。ルナモン」
「……ん!」
ユエとルナモンは、ジュレイモンIを見据える。トラウマを呼び起こす幻覚を見せ、恐怖で縛った魔物。
あまりの恐怖からハジメ達を信じることさえも恐れてしまったが、おかげでハジメ達を本当の意味で信じることができた。
「……これはそのお礼。カードスラッシュ! 《超進化プラグインS》!!」
──EVOLUTION──
デジヴァイスから進化の光が迸り、先ほどのガルルモンのようにルナモンを光が包み込む。
「ルナモン進化!」
ルナモンのデータが分解・再構築を経て新たな姿となる。
手足はさらに伸び、俊敏に動き回ることができるように。
背中には透き通るような水色の突起が生える。
手には三日月のマークが描かれたグローブが装着される。
これこそがルナモンの進化した獣人型デジモン。
「レキスモン!!」
愛らしさを残しつつも、神秘的な佇まいを見せるレキスモン。霧の樹海に降り立ったその姿は、とても美しかった。
「レキスモン。獣人型デジモン。成熟期。必殺技は《ムーンナイトボム》と《ティアーアロー》」
ハジメがデジヴァイスで読み取ったレキスモンの情報を読み上げる。
レキスモンはワーガルルモンの前に出ると、両腕を構える。
「ここからは、私にやらせて」
「了解だ。頑張れよ」
ワーガルルモンの激励を受けて、レキスモンはジュレイモンIに立ち向かう。
さっきからワーガルルモンの威圧感に怯えて動けなかったジュレイモンIは、その鬱憤を晴らすとばかりにレキスモンに猛然と襲い掛かる。
無数の蔦がレキスモンを捕えようと迫りくる。
「……遅い」
レキスモンは蔦を軽快な身のこなしで躱していく。
レキスモンはワーガルルモンと同じ、近接戦闘を得意とするタイプのようだ。攻撃的な動きのワーガルルモンと違い、相手を翻弄するような動きでまるで踊るように戦う。
「……蔦は無視。本体を狙って」
「……ん」
小さな声で呟かれたユエの指示を、自慢の耳でしっかりと聞き取ったレキスモンは、蔦を躱しながらジュレイモンIの本体に近づく。
そしてレキスモンは大きくジャンプする。
目の前で突然跳躍されたジュレイモンIは、一瞬レキスモンを見失う。
「《ムーンナイトキック》!」
跳躍したレキスモンはそのまま急降下キックを繰り出す。
ルナモンの時とは桁違いに強力になった脚力から繰り出されるキックは、ジュレイモンIの体を砕く。
「オオオオッ!!?」
肉体を傷つけられたジュレイモンIは、怒りを露わにしながら頭を激しく揺すり《チェリーボム》を飛ばす。
まるで絨毯爆撃のような攻撃。いくらレキスモンの動きが素早くても避けられない攻撃。だが、戦っているのはレキスモンだけではない。
「……カードスラッシュ。《ホルスモン》」
「《テンペストウィング》!」
さっきハジメが使ったカード。愛情のデジメンタルで進化したアーマー体デジモン、ホルスモンのカードを使うユエ。
すると、レキスモンにホルスモンの力が宿り必殺技が発動する。
体を回転させることで巨大な竜巻が起こり、《チェリーボム》が巻き上げられていく。
空中でボンボンと爆発する木の実。しかし、レキスモンは無傷だ。
「……レキスモン。隙を作って。そのあとは、合わせて」
ユエの指示に頷くレキスモン。
両手を構えるとそこに水の泡を発生させる。
「……《ムーンナイトボム》」
そして泡をジュレイモンIに投げつける。
ジュレイモンIは蔦を振るい、泡を破裂させる。
レキスモンの攻撃は失敗したかのように見えた。しかし、
「オ、オオ……?」
ジュレイモンIは意識が鈍り、微睡み始めた。
《ムーンナイトボム》の水の泡には攻撃力はない。代わりに敵を眠らせる催眠効果があるのだ。破裂することで、効果は出てくる。
動きが鈍り始めるジュレイモンI。
この隙にユエは魔力を高める。レキスモンも背中の突起から美しい氷の矢を引き抜いて構える。
ユエ達が力を蓄えている間に、ジュレイモンIは何とか意識をはっきりさせようと頭を揺する。
すると《チェリーボム》がすぐ近くに落ちてしまい爆発する。
自分の攻撃手段でダメージを受けてしまうジュレイモンI。だがそのおかげで朦朧としていた意識がはっきりした。
だが、ユエとレキスモンの準備は終わっていた。
「〝
ユエが魔法のトリガーを引く。ジュレイモンIの周囲が一気に凍てつき始める。ビキビキッと音を立てながら、ジュレイモンIが蒼氷に覆われていく。まるで花が開いていくかのように、氷がそそり立っていく。それはまさに氷華と呼ぶに相応しい光景だった。
氷華の中心にいるジュレイモンIは完全に身動きできなくなる。しかし、まだ生きているのか目には光が宿っている。
「《ティアーアロー》!」
そこにレキスモンが構えていた氷の矢を放つ。ユエと同様に力を溜めて放った必殺技は、氷に包まれたジュレイモンIを貫通した。
これで決着。
強敵ジュレイモンIは倒された。
「……お疲れ。レキスモン」
「……ユエも。私の我儘を叶えてくれて、ありがとう」
レキスモンをねぎらうユエ。お礼を言うレキスモン。
この日、ユエは本当の意味でデジモンテイマーとして歩み始めた。
「お疲れさん。ユエ」
「レキスモンも。いい戦いだった」
ハジメとワーガルルモンが二人の戦いを称える。
「……ん。ハジメ。ありがとう……」
「カードくらいこれからいつでも貸してやるよ」
「……ううん。それだけじゃない」
ユエは首を振ると、そっとハジメに近づく。そして、ハジメの体に抱き着いた。
「おおっ!?」
突然の抱擁にハジメが驚く。
ハジメの体を強く抱きしめながら、ユエは思いを吐露する。
「……ありがとう。私を助けてくれて。あの部屋から出してくれてありがとう、さっきも、信じてくれて、ありがとう。……ハジメ「見つけたあああ!!!」……ん?」
ハジメのぬくもりを堪能するユエだが、上から聞こえた声に顔を上げる。ハジメと一緒に声の方へ視線を向ける。
そこにはネフェルティモンに乗った香織がいた。
霧を発生させていたジュレイモンIがいなくなったことと、ユエの魔法で周囲の樹々が凍り付いていることから、この場所を見つけられたのだ。
「ユエ無事だった……ん?」
降りてきた香織だが、ハジメに抱き着いているユエを見て言葉を止める。そして、徐々に二人が何をしているのか香織は理解していく。
「や、やっぱりフラグが立っているうぅ!?!?」
静けさを取り戻した樹海に、香織の叫びが響き渡った。
〇デジモン紹介
ルナモン
レベル:成長期
タイプ:哺乳類型
属性:データ
月の観測データと融合して生まれた、うさぎのような姿をした哺乳類型デジモン。ムンモンが進化したデジモン。大きな耳でどんな遠くの音も聞き分ける事ができる。憶病で懐きやすく、恥ずかしがり屋なデジモン。だがユエに似たのかクールで大胆な面も見せる。一見可愛らしいが闇の力の籠った爪で引っかく《ルナクロー》と、力を額の触覚に集中して綺麗な水球を放つ《ティアーシュート》を必殺技に持つ。また、シャボン玉を発生させて相手を妨害する《ロップイヤーリップル》も持っている。
レキスモン
レベル:成熟期
タイプ:獣人型
属性:データ
ルナモンが進化した獣人型デジモン。驚異的なジャンプ力を身に付け、素早い動きで敵を翻弄する。月の満ち欠けのように、つかみどころのない性格をしているが、その佇まいはどこか神秘的。必殺技は、両手の“ムーングローブ”から発生させた催眠効果のある水の泡を投げつけ、敵を眠らせる《ムーンナイトボム》と、背中の突起から美しい氷の矢を引き抜きいて放つ《ティアーアロー》。肉弾戦にも強く、空高く跳躍し、急降下キックを繰り出す《ムーンナイトキック》も強力。
原作しか読んだことなかったので、ユエがハジメに惚れた理由がよくわからず、書籍も読んでみたのですが、今作のユエには合わないかなと思い、オリジナルですがこのような経緯にしました。
二度目の裏切りを見せられ、一時は本当に誰も信じられなくなりますが、ハジメとルナモンの思いで再び立ち上がりました。
そろそろ香織とハジメの取り合いが書けるかなとちょっとワクワクしています。
次回は少し時間がかかるかもしれません。そろそろ一章のクライマックスなので書き貯めをしたいなと思っております。
最後くらい次回予告とかで盛り上げたいというのもありますので。