ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る   作:竜羽

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お待たせいたしました。やりたいことを詰め込んだ結果、思ったよりも時間がかかってしまいました。その分面白く思っていただけたら嬉しいです。

遂にオルクス大迷宮攻略が終わります。



25話 完全体総進撃 放てトリニティバースト!!

 香織とユエは眼の前の光景が信じられなかった。

 暴力的だが、圧倒的な強さを誇っていたブラックメタルガルルモンが、仰向けに倒れて、動こうともしない。胸には大きな刺し傷があり、どう見ても致命傷だ。

 まさかあの女達にやられたのかと思ったが、上空で大きな爆発音がすると、また何かが落ちてきた。

 

 ドサドサッと今度落ちてきたのは黒くて小さな塊だった。

 

「……うっ」

 

 最初は何かわからなかった香織だが、よく見るとそれは人の上半身や下半身などの体の一部だった。ものによっては鎧の一部が付いていることから、あの女たちの物であることがわかった。気分が悪くなり思わず口を押えてしまう。

 

 そして今度は、少し離れた所にズシンッという音を立てて大きなものが落ちてきた。

 

「グ、ガアァァ」

 

 巨大な鋼の竜。メタリックドラモンだった。しかし、輝くメタリックシルバーだった体は無数の傷を負っている。しかも左右の翼は大きくひしゃげており、もう飛ぶことは出来なさそうだ。

 メタリックドラモンに目を向けていた香織は、その尻尾に剣の形に固定されたレーザーを見つけた。おそらくあれがブラックメタルガルルモンを貫いたのだろう。

 

「相、打ち……?」

「いいえ。違います」

 

 呆然と呟いた香織に、美しいが感情のこもっていない声音が返ってきた。

 ハッとすると、空の上から先ほど現れた女二人が降りてきた。

 彫像の様な美しい体と鎧には傷1つない。では、あの黒焦げのバラバラ死体は?

 その答えは降りてきた三人目の女の姿を見てわかった。二人と同じ顔と容姿をしている。

 

「総勢1200人いた我々を一瞬で3人まで蹴散らし」

「メタリックドラモンの飛行能力を奪った」

「損害としては我々の方が大きいでしょう」

 

 彼女たちは複数いたのだ。全く同じ姿をした存在が、言葉通りならば1200人も。

 ブラックメタルガルルモンが殲滅したようだが、三人残ってしまった。

 

「しかし、結果としてはこちらの勝利です。もはやそちらは戦う力はないようです」

 

 女の言葉と同時に、ブラックメタルガルルモンが光に包まれる。やがてその姿はハジメとガブモンに分離した。二人ともボロボロだ。女の言うとおり、とても戦えない。

 

「最高戦力は倒れ」

「パートナーデジモンも傷ついた」

「あなた達二人はほとんど無傷ですが、我々三人とメタリックドラモンには勝てません」

 

 女たちはそう言うと大剣の切っ先を香織達に向ける。

 香織は反射的にアイギスを構え、倒れているハジメとデジモン達の盾になる。ユエも手を向けて、魔法を放つ構えをする。

 

「あなた達は、何なの?」

 

 香織は気になっていた女たちの正体を聞く。女たちは表情一つ動かさず応えた。

 

「神の使徒」

 

 神の使徒。それはハイリヒ王国に召喚された香織達の呼び名だ。だが、おそらくそれとは違うだろう。見た目と雰囲気、そしてテイルモン達を倒した砲撃や空を自由に飛ぶ翼。神が生み出したと言われてもおかしくない力をもっている。

 だが、そんな存在がなんで反逆者が作ったと言われているオルクス大迷宮にいるのだろうか?まさか反逆者が作ったというのは嘘で、大迷宮は神が作ったのだろうか?

 

「次は我々が問いましょう」

 

 今度は女──―神の使徒が問いかける。

 

「戦いますか?戦いませんか?」

 

 つまり、抵抗するかしないかということだった。

 お決まりの問いかけなので、香織もお決まりの質問返しをしてみる。

 

「……戦わなかったら、どうなるの?」

「苦しまずに死ねます」

 

 やっぱりお決まりの答えだった。

 香織は後ろを振り向く。

 そこには傷ついたデジモン達とハジメがいる。彼らを守れるのは香織とユエだけだが、二人で神の使徒と名乗る三人と戦えるだろうか?しかも、

 

「グウルアアアッッ!!」

 

 離れた所に落ちたメタリックドラモンが動き始めた。翼が傷ついているのでうまく動けないようだが、こっちに向かってきている。

 手負いとはいえ、究極体デジモンまで敵に回るとなると絶望的な戦力差だ。

 

 もはや勝ち目はない。

 

「そう思えるなら、こんなところにいないよね」

 

 香織は苦笑すると、アイギスを握る手に力を入れて構え直す。それだけでユエも香織の考えを察し、隣に並ぶ。

 

「ユエ……」

「……カオリ。わかっている」

 

 言葉は少ないが、二人はわかっていた。今倒れている皆を守れるのは自分たちだけで、戦うことを諦めたら、ここまで戦ってきた意味がなくなってしまう。

 パートナーデジモンとの出会いも、仲間との絆も、思い人への愛も。大切なもの全部を守るために少女たちは決意する。

 

「「私たちは戦う!戦って勝って生き残る!!」」

 

 二人の返事と同時に、神の使徒達が三人で合計6本の剣で斬りかかってきた。

 

「〝聖絶〟!!」

 

 香織の発動させた魔法の障壁が、6本の剣を受け止める。香織の規格外の魔力で生み出された障壁はビクともしない。だが、障壁を維持するために香織は動けなくなってしまった。

 神の使徒たちは斬撃を止められても動じずに、剣に魔力を込める。すると剣に眩い光が灯り始めた。光を宿した剣は、強固な香織の障壁にジリジリと食い込み始めた。

 この光こそ、先ほどネフェルティモン達を飲み込んだ砲撃の正体。物質だけでなく魔法でさえも分解する極光の砲撃だ。その力を宿した剣が、香織達の命を奪おうと障壁を斬り裂こうとする。

 だが、この場で戦えるのは香織だけではない。

 

「〝蒼天〟」

 

 香織の傍で魔法の準備をしていたユエが静かに呟く。それはユエの得意な最上級魔法。蒼く輝く火球が展開される。しかも、

 

「〝流星群〟!!」

 

 今までは一つだけだった火球が、同時に七つ展開される。

 実はユエはハジメの技能である〝並列思考〟のことを聞き、使えるようになれればと思い、練習してきた。結果、90階層の攻略中にハジメのように魔法を同時に展開し、別々に操作できるようになった。

 展開された七つの〝蒼天〟は空中を飛び、神の使徒の頭と胴体を吹き飛ばそうと迫る。

 咄嗟に飛び退り、神の使徒達は火球を躱す。だが、ユエにコントロールされた火球は目標を追尾する。

 一人につき二つが張り付き、残った一つが隙を窺い待機する。

 やがて、魔法に追い詰められた神の使徒の一人が大剣で火球を打ち払う。大剣を振り抜いた無防備な体勢になったところへ、ユエは残った火球を銃弾のように撃ち込む。

 

「〝聖絶〟」

 

 しかしその火球は防がれる。香織が展開しているものと同じ障壁で。

 

「あなた達が使う魔法程度、我らが使えないと思いましたか?」

 

 ユエの攻撃が防がれたのと同時に、同じく火球を振り払った二人の神の使徒が再び障壁に斬りかかってくる。

 

「ふううぅ……広がって!!」

 

 それに対し香織は、すでに発動させている魔法にさらに魔力を込める。

 〝魔力干渉〟の技能を使い続けたことで、香織はすでに発動させた魔法にさらに魔力を込める術を身に着けた。そうすることで魔法の操作に磨きがかかり、香織のできることが増えた。

 例えば、発動した〝聖絶〟に魔力を込めて、障壁の範囲を一気に広げるたり。

 

「くっ……」

「なんとッ」

 

 双大剣を振り上げた状態で迫ってきた障壁に不意を突かれた神の使徒たちは、空中で弾き飛ばされバランスを崩す。

 すかさずユエが攻撃する相手を切り替え、魔法を放つ。

 

「〝緋槍・穿千(ひそう・うがち)〟」

 

 炎の槍を生み出す〝緋槍〟をさらに大きく鋭くし、回転をつけて貫通力を上げたユエの改良魔法が二人の神の使徒に迫る。例え〝聖絶〟を張られても貫くことができる。

 

 二人の使徒は〝聖絶〟を張るが、炎の槍は易々と貫く。だが、貫く際に生じた僅かな時間で、先ほどユエが狙撃した神の使徒が猛スピードで二人の手を掴み、その場を離脱した。

 

「逃がさない!」

 

 ユエが追撃の魔法を放つ。しかし、体勢を立て直すと神の使徒たちは双大剣を振るい、全てを分解する魔法で消し去る。

 そして再び香織とユエに迫る。

 香織も〝聖絶〟を展開しなおし、ユエとハジメ達を守る。だが、今度は障壁が紙のように斬り裂かれてしまう。

 

「なっ!?」

「ワンパターンです」

 

 最初に受け止めた時と違い、双大剣には先ほどユエの追撃を分解した魔法がそのまま宿り、圧縮されていたのだ。いうなれば分解剣。あらゆる物質、魔法を斬り裂く必殺の剣だ。

 その必殺剣が、香織とユエを斬り裂こうとする。

 

「カオリッ!」

 

 〝聖絶〟を展開していた為、すぐに動けなかった香織をユエが庇う。おかげで香織は神の使徒達からの攻撃から逃れられたが、代わりにユエが斬り裂かれる。

 両腕に腹部、胸部、左耳、右太腿を斬り裂かれる。特に腕と耳などは斬り飛ばされてしまう。

 〝自動再生〟があるから治るだろうが、このままではユエは無防備だ。

 

「ユエッ!!?」

 

 香織は〝身体強化〟で肉体を限界まで強化すると、その手に持ったアイギスを投擲する。

 神の使徒たちはアイギスを〝聖絶〟のように斬り刻む。その隙に姿勢を低くした香織が接近。二人の神の使徒の足を掴むと、膂力と〝魔力干渉〟を併用して振り回す。

 香織のまさかの行動に神の使徒達が正気を取り戻す前に、放り投げる。

 そして残った一人に対しては、体を大剣の間合いの内側に流れるような動きで潜り込ませる。翼で飛ばれる前に腕を掴んだ香織は、足払いで体勢を崩し、先の二人と同じように投げ飛ばす。

 強化された身体能力と体捌きで、僅かな時間で神の使徒を少し引き離した香織。

 この隙に香織はユエを掴み、ハジメ達の所に下がり、再び〝聖絶〟を張る準備をする。

 アイギスはないが、ユエが回復するまで持ちこたえてやると香織は身構える。

 

 だが、投げ飛ばされただけのはずの神の使徒達は、なぜか距離を取り始めた。ダメージも与えていないはずなのになぜ?

 

「グオオオオッッ!!!」

 

 香織の疑問を吹き飛ばすように響き渡る咆哮。そちらに目を向けてみれば、こちらに近づいてきていたメタリックドラモンがいた。その尻尾のレーザーガンをこちらに向けていた。

 

「まずっ、きゃあああああっっ!?」

 

 香織は慌てて何とかしようとしたが、レーザーガンの光が放たれる方がはるかに早かった。

 直撃はしなかったが手前に着弾。あまりの衝撃に何もできずに吹き飛ばされる香織。彼女の後ろにいたユエとハジメ達も同様だ。

 

「ううぅ」

 

 倒れた香織が痛みに呻きながら顔を上げると、さっきまで香織達がいた場所の近くに大きなクレーターができていた。浮遊島も大きく揺れたのか地震のような揺れが起きている。手負いであろうと究極体の名に相応しい威力だ。

 クレーターのさらに向こうには、こっちにレーザーガンを向けているメタリックドラモンの姿がある。神の使徒達はメタリックドラモンの攻撃に巻き込まれないように離れている。だが、すぐに止めを刺しに戻って来るだろう。

 

「ま、まだ……」

 

 何とかして起き上がろうとする香織だが、痛みに体が上手く動かない。

 

 万事休すかと思った香織の目の前に、小さな背中が現れた。

 大きな耳、長い尻尾に付いたホーリーリング。それは香織の頼もしいパートナーデジモン、

 

「テ、テイルモン?」

「ああ。守ってくれてありがとう。香織。ここからは、私が守る」

 

 勇ましく宣言するテイルモンだが、体は香織と同じくボロボロ。メタリックドラモンどころか神の使徒一人でも相手ができるか。

 

「む、無理だよ、テイルモンだけじゃ……!」

「そうだな」

 

 香織の言葉をあっさりと肯定するテイルモン。

 

「だから、香織。私を戦わせてくれ」

「え……?」

「この迷宮で戦ってきてわかっているだろう?私は香織のパートナーデジモンだ。戦うにはテイマーの、香織の力が必要なんだ。香織の力が私の力になるんだ」

「私の力が、テイルモンの力……」

 

 テイルモンの言葉を反芻する香織。

 立つことも難しい自分に、そんな力があるのか。

 

(……力。そういえば、ハジメ君が言っていた。デジモンテイマーの力。それは……!!?)

 

 香織はハッとする。そして自分の腰につけているカードケースに手を伸ばして一枚のカードを取り出した。

 

「カードは、カード。私達デジモンテイマーが信じることで、カードは力になってデジモンを、テイルモンを強くさせるんだ!!」

 

 香織は取り出したカード、《超進化プラグインS》を見つめ、次にテイルモンに目を向ける。テイルモンは何も言わないが、その目には香織への全幅の信頼が宿っている。その信頼に、応えたいと香織は強く願った。

 

「テイルモンを、ユエを、レキスモンを、ハジメ君とガブモンを。仲間と大好きな人を守るために!!」

 

 香織の願いに、カードが青く変わっていく。

 

「ブルーカード。進化できる……!」

 

 ブルーカードに変わったことに驚きつつ、倒れたまま香織はデジヴァイスを取り出す。そして迷うことなくブルーカードをデジヴァイスに通す。

 

「カード、スラッシュッ!《マトリックスエヴォリューション》!!」

 

 ──MATRIX EVOLUTION──

 

「テイルモン進化!!」

 

 光に包まれたテイルモンのデータが分解され、再構築されていく。

 小さな猫のような姿だったテイルモンの姿が、大人の女性の姿になる。

 背中には8枚の純白の翼が広がり、ピンクの羽衣を身に纏い、左手には羽根の装飾のあるロンググローブを嵌める。

 顔の上半分を十字架の描かれた仮面を被る。

 これこそがテイルモンが進化した完全体。テイルモンの時よりも聖なる力を操ることができる、慈愛の心と強大なパワーを持つ大天使型デジモン。

 

「エンジェウーモン!!!」

 

 舞い散る純白の羽根と共に、降臨したエンジェウーモン。香織はずっとアニメで見ていた姿に、場違いではあるが感動する。

 神の使徒達も警戒しているのか、こちらの様子を窺っている。

 エンジェウーモンは両手を頭上に上げて、光を放つ。

 

「《セイントエアー》!!」

 

 光から虹色の粒子が溢れて、周囲に広がっていく。

 

「これって、アドベンチャーの……。傷が、治っていく」

 

 それを見た香織はアニメ『デジモンアドベンチャー』でエンジェウーモンがこの技を使っていたことを思い出す。

 邪悪な存在であるヴァンデモンの動きを封じるだけでなく、仲間のデジモン達を癒して力を与えていた。つまり、敵へのデバフと味方への回復とバフを行う強力な支援技だ。

 アニメの場面のように、香織の傷もどんどん癒えていく。

 

 それは少し離れた所で倒れていたユエも同様だった。

 

「……ん。温かい、光」

 

 〝自動再生〟という技能を持っているために回復魔法の世話になったことが無かったユエにとって、エンジェウーモンの癒しの力は初めての感覚であり、とても暖かく感じられた。

 〝自動再生〟との相乗効果で体は急速に癒えていき、同時に心地いい気持ちに浸っていたユエを、覗き込む影があった。

 レキスモンだ。

 エンジェウーモンの《セイントエアー》で、癒され起き上がれるまで回復したのだ。

 

「……レキスモン」

「ん。ごめん、ユエ。守れなくて」

「いい。いつも守ってもらっているから。お互い様」

 

 体を起こすユエ。デジヴァイスでエンジェウーモンのデータを見る。

 

「……あれは、エンジェウーモン。大天使型、完全体。必殺技は《ホーリーアロー》と《ヘブンズチャーム》。テイルモンが進化した?」

「ん。テイマーとパートナーの力」

「……そっか。やっぱり、カオリは凄い」

 

 ユエは生まれて初めての感情を抱いていた。

 吸血鬼族の王族に生まれ、〝自動再生〟と魔法の才能を持ち、恵まれた環境にいたユエ。その後、悲劇に見舞われてしまったため、終ぞ縁がなかったその感情の名前は──憧れ。

 ユエは香織という少女に憧れ始めていた。

 

「……なりたい。カオリや、ハジメみたいな、デジモンテイマーに……」

 

 永劫の封印の果て、巡り合った少年少女との交流で抱いた憧憬を強く強く思うユエにレキスモンは声をかける。

 

「なれる」

「……レキスモン」

「ユエが願ってくれたから、私は生まれた。私が願ったから進化できた。私とユエが願い、信じればなれる。香織とテイルモンみたいに」

「私とレキスモンが願えば……」

 

 パートナーの言葉を反芻するユエに、レキスモンは最後の問いを投げかける。

 

「私は願っている。ユエと一緒にいたい。強くなりたい。ユエは?」

「…………私も、願っている。レキスモンと、ハジメとカオリ達といたいって!!」

 

 その時、ユエがハジメ達からもらったカードを入れたケースから青い光が放たれた。

 取り出してみると、一枚のカードが光を放っている。

 光っているカードを手に取ってみると、それは先ほどの香織のカードと同じように、ブルーカードに変わった。

 

「ん!!」

 

 頷き、デジヴァイスを掲げるユエ。レキスモンはそれを静かに見つめている。その目に浮かんでいるのは、テイマーへの揺るがない信頼。

 

「カードスラッシュ!《マトリックスエヴォリューション》!!」

 

 カードを通した瞬間、デジヴァイスから光が溢れる。

 光はレキスモンを包み込み、データを分解・再構築させていく。

 兎の様な身体はあまり変化しないが、身に着ける武具が大きく変わっていく。

 両足には新たに兎の様なレッグアーマーを履き、より強力な蹴り技を出せるように。

 三日月のマークがあったグローブはガントレットになり、三日月の形を模した斬撃武器『ノワ・ルーナ(羅:新月)』を手に持つ。

 これがルナモンの完全体としての姿。柔軟でしなやかな動きで敵を討つ魔人型デジモン。

 

「クレシェモン!!!」

 

 進化したクレシェモンと共に、ユエは香織とエンジェウーモンの元に駆け寄る。

 香織は進化したクレシェモンの姿に驚く。

 

「わっ。進化したんだ!クレシェモン。魔人型の完全体。必殺技は《ルナティックダンス》と《アイスアーチェリー》、《ダークアーチェリー》」

「ん。カオリとエンジェウーモンのおかげ」

「私?」

 

 ユエの言葉に首を傾げる香織。悪戯っぽく笑いながらユエは前を向く。

 パートナーが復活して、さらに完全体に進化したことでこちらは戦力が大幅に上がった。だが、相手は神の使徒を名乗る強力な分解魔法を放つ女三人に、手負いとはいえ究極体デジモンだ。

 でも、少女たちの心に諦めはない。

 

「ハジメ君とガブモンもどこかに飛ばされちゃった。早く見つけないと」

「ん。だから早く倒す」

「メタリックドラモンは私とクレシェモンが引き受ける。テイマーを危ない目に遭わせたくないけれど……」

「これが最善。メタリックドラモンが一番危険」

 

 エンジェウーモンとクレシェモンがテイマーの前に出て、こちらに向かってくるメタリックドラモンに構える。

 本来なら神の使徒を素早く倒し香織達の安全を確保したいが、彼女たちはエンジェウーモン達を警戒して、メタリックドラモンの近くに移動している。近づけばメタリックドラモンとも戦いになり、神の使徒たちを見逃してしまうだろう。

 だったら最初から狙いを絞って戦うことにする。

 

「頼んだよ。二人とも」

「香織。これ」

 

 ユエは自分が持っていたアイギスを渡す。防御を香織に任せていた為、先ほどは展開していなかった。おかげで手放さなかったので、結果オーライだ。

 

「さあ、行くよ!」

「ん!」

「ええ!」

「はっ!」

 

 香織の号令に、ユエは応え、エンジェウーモンは飛び立ち、クレシェモンは駆けた。

 それぞれが、それぞれの戦うべき相手に向かって。

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 メタリックドラモンに向かうエンジェウーモンとクレシェモン。

 8枚の羽根を羽ばたかせて空を飛ぶエンジェウーモンは、メタリックドラモンの頭部に向かう。香織達に攻撃が行われないように、メタリックドラモンを撹乱するためだ。

 

「《ホーリーアロー》!」

「ガアアッ!!」

 

 時折、雷撃の矢《ホーリーアロー》をメタリックドラモンの急所、瞳や口内に放つ。

 メタリックドラモンはそれに驚くがあまりダメージにはなっていない。

 エンジェウーモンだけでなく天使型の技は、邪悪な存在であれば究極体デジモンでも絶大な効果を発揮するが、それ以外のデジモンにはその世代相応の威力しか発揮できない。

 

 完全体の攻撃では、究極体には届かない。

 

 だが、それでもやりようはある。

 

「《ダークアロー》!」

「ガウアッ!?」

 

 地上から今度は闇のエネルギーの矢が、メタリックドラモンの翼に放たれる。

 驚異的な脚力でメタリックドラモンに接近していたクレシェモンの技だ。

 両手に持っていた『ノワ・ルーナ』を合体させて放たれた闇の矢は、傷ついた翼に更なる傷を穿つ。

 痛みに悶えて暴れるメタリックドラモンから、クレシェモンは持ち前の脚力で離脱。再び攻撃を撃ち込む隙を窺う。

 

 クレシェモンが狙うのはブラックメタルガルルモンが付けた傷だ。それを起点にダメージを蓄積していけば、倒せる可能性がある。

 エンジェウーモンが撹乱し、クレシェモンが傷口を広げていく。そして致命的な傷になれば、一気呵成に責める。

 これが2体の作戦だ。

 

「完全体でも究極体と戦えることを証明するわ」

「……ユエのため、倒す」

 

 進化したばかりで体から溢れる力に身を任せて、2体は美しく舞い戦う。

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 デジモン達が奮闘する一方で、テイマー達も死闘を演じていた。

 香織達は、今度はそれぞれ分かれて戦う。

 

「〝聖絶・纏〟!!」

 

 〝聖絶〟をアイギスに纏わせるように展開、一回り大きな盾にする。そのまま斬りかかってきた神の使徒の一人の大剣と、アイギスをぶつける。

 さっきは大剣の分解魔法で斬り裂かれていたアイギスだが、今度は斬られることも分解されることもなく、大剣を受け止めた。

 

「これは」

「さっきまでと同じと思わないでね!」

 

 広域の結界を展開する〝聖絶〟をアイギスのサイズまで圧縮したことで、結界の魔力の密度を上げたのだ。分解されても圧縮された魔力で無理やり固めれば崩れない。香織の膨大な魔力を込めることで分解魔法に拮抗できるのだ。

 

 さらに、香織は〝魔力操作〟の技能を発動させる。

 すると、障壁の形が変化する。アイギスと同じ形から鉤爪の様な刃が付いた形になる。そのまま障壁は回転運動を始め、大剣を弾き飛ばす。

 そのまま香織は丸鋸のようになったアイギスを神の使徒に振るう。

 

「猟奇的ですね」

 

 無表情で呟く神の使徒。当たれば言葉通りの猟奇的な光景が展開されるだろう攻撃を、最小限の身のこなしで躱す。そして、翼を広げて飛び上がり、空中から分解魔法の砲撃を繰り出す。

 それに対して香織はアイギスを掲げて防御する。高密度の魔力障壁は分解魔法さえも受けきる。

 遠距離も近距離も、神の使徒の攻撃を香織は防ぎ切った。

 そして戦いは再び至近距離での大剣と盾のぶつかり合いになる。膨大な魔力で圧縮した結界を維持しつつ、身体強化魔法も併用する香織は、極限状態の中で持てる力の全てを振り絞る。

 イメージするのはアイギスを使うと決めた時から意識してきた盾を使う自由の国のヒーローと、騎士王の円卓の盾を担うデミ・サーヴァントの少女。それに自分が習っていた太極拳の流れるような動きを加えていく。限界ギリギリの戦いの中で、戦い方はより洗礼されていった。

 

 このことに神の使徒は無表情ながら、どこか嬉しそうな雰囲気を発した。

 

 

 

 一方ユエも、2人の神の使徒と戦っていた。

 近接戦闘主体で戦う香織と違い、魔法による遠距離攻撃の乱れ撃ちになっていた。

 ユエは最上級魔法ではなく、初級魔法である〝火球〟を何百発も撃ち続けて弾幕を張る。

 まさしく火の雨と言える攻撃にさらされて、神の使徒達は近づけなくなっていた。1つ1つは弱い魔法だが、当たり続ければ全身丸焦げになってしまう。しかもユエは魔法を神の使徒達の周囲で発動させ、全方位から撃ち込んでいく。

 隙を見て分解魔法を撃ってくるが、風魔法で浮き上がり、ユエは躱す。

 はた目から見ればユエが圧倒しているように見えるが、

 

(……頭、痛い)

 

 神の使徒という化け物二人の動きを読み、魔法を数百も同時展開し続けるという離れ業を行うユエは徐々に頭に痛みを感じ始める。このような魔法の使い方は今までやったことはない。最上級魔法を撃ちさえすれば、それで戦いは終わっていたからだ。だが今回の相手はそうじゃない。

 最上級魔法でも倒せるかわからない相手。だからこそユエも、香織のように自分の力を振り絞る。

 展開する魔法の全てを完璧にコントロールし、戦いの流れを自分の支配下に置く。それは彼女の稀代の魔法使いの才能を、300年ぶりに大きく花開かせていく。

 より効率よく、より緻密に火球の弾幕は縦横無尽に動き、神の使徒達を追い詰める。もはや反撃は許さない。回避だけで精一杯になっていく彼女たちの顔には──―とても小さいが笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 戦いの中で成長していく香織達だが、それでも神の使徒達を倒せないでいた。

 何度か攻撃が掠るが、致命傷には至らずギリギリの戦いが続く。戦いが始まってからそれほど時間は立っていないが、香織とユエにとってはとても長く感じている。

 時間が経つのに比例して精神的疲労は蓄積していき、二人の精神は追い詰められていく。

 

 やがて、破綻が訪れた。

 

「あっ」

 

 香織が障壁の魔力の圧縮に綻びを作ってしまい、大剣がアイギスを真っ二つにした。もう一本の大剣が香織の体を両断しようと振り下ろされる。

 香織はバックステップして躱そうとするが、間に合わない。

 

「うっ」

 

 ユエが意識を一瞬失い、火球の弾幕に乱れが生じた。神の使徒二人が弾幕を抜けて、ユエに迫り来る。

 ユエは魔法で迎撃しようとするが、間に合わず、神の使徒達が大剣を振り上げた。

 

 もうだめかと二人が思ったその時……二人の後ろから三つの閃光が放たれた。

 閃光は三人の神の使徒の腕に命中し、大剣ごと吹き飛ばす。

 何が起きたのかわからなかったが、香織とユエは反射的に動く。

 

 香織は二つになったアイギスの半分を両手で持ち直すと障壁を刃の様に展開。そのまま神の使徒の腹部に突き刺した。

 

 ユエも残っている全ての魔力を集めて1つの火球を作る。初級魔法だが、上級魔法並みの魔力を込められた火球は猛スピードで1人の神の使徒の胸に命中。爆発せず、熱で胸に大きな穴をあけた。

 

「「見事です」」

 

 離れていたが、二人に倒された神の使徒達は同時に呟いて事切れた。

 

 そして残った最後の神の使徒は、片腕になりながらもユエに斬りかかる。だが、彼女はユエの後ろから飛び出してきた人物が手に持っていた狙撃銃の銃剣に貫かれた。

 ユエはその人物を信じられない思いで見つめる。

 

「……ハジメ?」

「おう。待たせたな」

「っっハジメ!!!」

 

 ユエを助けたのは、ハジメだった。傷だらけで動けなかったはずなのに、しっかりと立ち上がって、神の使徒を倒した。ユエはハジメに思いっきり抱き着き、彼の無事を喜ぶ。

 

 ハジメが立ち上がれた理由はエンジェウーモンの力だ。先ほどの《セイントエアー》はハジメにも届いており、傷が治ったハジメは状況を把握。香織とユエ、エンジェウーモンとクレシェモンが戦っているのを確認すると彼女たちを助けるために準備をして駆け付けたのだ。

 先ほどの閃光は、ハジメが周囲の鉱石を全魔力と演算能力をつぎ込んで即席で作成した狙撃銃からの弾丸に、技能〝纏雷〟で電磁加速を行い即席のレーザーガンにしたことで放った攻撃だ。ガトリングレールガンを持つブラックメタルガルルモンに進化したことで思いついた攻撃方法であり、同時にハジメが無意識のうちに抱えていた不安を乗り越えた結果だった。

 これまでの迷宮攻略で、ハジメは暴走しているときに使用していた武器の即時錬成や〝纏雷〟による雷撃を使わなかった。それはハジメが抱えていた暴走への恐怖のせいだった。それには香織達たちは気が付いたが、ハジメは究極体への進化という切り札があるので問題ないと、むしろ不確定要素だからと後回しにしていたのだ。

 だが、切り札のはずの究極体への進化の方が暴走を引き起こしかけてしまい、香織達を危険に陥らせてしまった。

 後悔の念に押しつぶされそうになったが、死力を尽くして生き残るために戦う香織達の姿に、ハジメは恐怖を押さえつけて、力を使った。

 

 その結果、狙撃銃は3発撃ったことで銃身が使い物にならなくなったが、彼女たちの危機を救い最後の神の使徒をハジメの手で倒すことができた。

 

 そして、ハジメが立ち上がったということは、彼のパートナーデジモンも立ち上がっていた。

 

「《カイザーネイル》!!!」

 

 エンジェウーモンとクレシェモンの元に、ワーガルルモンが猛スピードで駆け付け、メタリックドラモンの右目に必殺技を繰り出す。急所に必殺技を受けたメタリックドラモンは首を振り回して暴れる。ワーガルルモン達はその隙に距離を取る。

 

「ワーガルルモン!無事だったのね」

「よかった」

「心配をかけた。2人は進化できたんだな」

「ええ。テイマーの、香織のおかげよ」

「ユエを守るため」

 

 言葉を交わし合った3体は改めてメタリックドラモンと対峙する。

 また、テイマー達もデジモン達のように合流する。

 

「ハジメ君!無事でよかった!よかったようぅ」

「……悪い香織。心配かけた」

「ううん。いいの。ハジメ君が無事なら!!」

 

 香織も思わずハジメに抱き着きそうになるが、それはハジメがやんわりと抑える。

 なにせまだデジモン達が戦っているのだ。テイマーならばパートナーの戦いはしっかり見届けなければいけない。さっき抱き着いたユエも、今はクレシェモン達の戦いを見つめている。

 ワーガルルモン達はメタリックドラモンを攻め立てるが、なかなか決定打にならない。

 

「クレシェモン。勝って」

「勝つ。俺たちテイマーが信じる限り、デジモンは絶対に勝つさ」

「それにテイマーには信じる以外にできることがある!」

 

 デジモン達の勝利を願うユエに、ハジメと香織がカードを取り出して声をかける。それを見たユエも、1枚のカードを取り出す。

 3人のテイマーの思いが、カードをデジモン達の力へと変える。

 

「「「カードスラッシュ!《運命の煌めき》!!!」」」

 

 カードがスラッシュされると、デジモン達の体が眩い光に包まれる。3体は身体の奥から力が溢れてくるのを感じる。

 それだけでなく絆で結ばれた3体と3人の心が1つに重なる。

 

「行けぇ!」

 

 ハジメの叫びと共に、ワーガルルモンが黒いエネルギー体になる。

 

「行けぇ!」

 

 香織の叫びと共に、エンジェウーモンが白いエネルギー体になる。

 

「行けぇ!」

 

 ユエの叫びと共に、クレシェモンが蒼銀色のエネルギー体になる。

 

 3つのエネルギー体となった3体は1つになってメタリックドラモンに向かっていく。

 

「「「《トリニティバースト》!!!!」」」

 

 三位一体となった攻撃は相乗効果でそのエネルギーを何倍にも高めていく。その威力は究極体にも匹敵、いや凌駕する。

 3色のエネルギーがメタリックドラモンを貫き、浮遊島の外に吹き飛ばす。

 そして、3体の完全体デジモン達は元の姿に戻る。

 パートナーの勝利にハジメ達が笑顔を浮かべる中、天空の世界全体が光に包まれていった。

 




〇デジモン紹介
エンジェウーモン
レベル:完全体
タイプ:大天使型
属性:ワクチン
美しい女性の姿をした大天使型デジモン。性格はいたって穏やかだが、まがったことや悪は許しておけず、相手が改心するまで攻撃の手を緩めることはない過激な一面も持っている。
必殺技は強力な雷撃『ホーリーアロー』。別名「天誅」ともいわれる。また、美しさと優しさの詰まった必殺光線『ヘブンズチャーム』は、デジモンの悪しき力が強いほど効果を発揮する。
回復などの力にも長けており、『セイントエアー』は味方を癒し、力を与える。治癒師の香織とは相性ピッタリのデジモンだ。



メタリックドラモンと神の使徒との闘いの決着でした。
これで香織とユエはパートナーを完全体に進化させられるようになり、本人たちの戦闘力も上がりました。実戦に勝る訓練無しというのを意識しました。

あとハジメにもちょっと吹っ切れてもらいました。これまでの迷宮攻略では実は暴走していた時の雷撃とか、武器の即時錬成は使っていなかったんです。ステータスプレートを無くしたので技能がわからなかったというのもありますが、暴走への不安もあったんです。いくら香織やガブモンが止めるって言っても積極的にやるほどの勇気はなかったんです。それに究極体への進化の方が強いので。
でも、今回のことでその恐怖へと向き合う必要が出てきたので、これから強くなっていくでしょう。

次回はおそらく気になっているでしょう、解放者の真相ですね。温めていた設定を解き放つとき。お楽しみに。

〇次回予告
遂にオルクス大迷宮を攻略したハジメ達。最深部で彼らを待っていたのは、美しいメイドさんだった。
彼女と、そして思わぬ人物が現れハジメは驚愕する。
そして語られるトータスの真実に、ハジメが下す決断とは。

次回26話「世界の秘密 再結成デジモンテイマーズ!」

今、冒険のゲートが開く。
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