ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る 作:竜羽
三連休なので執筆をはかどらせたかったのですが、意外と筆が進まなかったです。
でもなんとか更新できたし、もうすぐハジメ視点に戻るので更新速度を上げていきたいです。
では、どうぞ。
ハイリヒ王国の王宮はあわただしい喧騒に包まれていた。
なぜならハイリヒ王国と並ぶ人間族の大国であるヘルシャー帝国から使者がやって来るからだ。しかもその中には帝国のトップである皇帝ガハルド・D・ヘルシャーが同伴しているというのだ。いきなり早馬で知らされた王国の重鎮たちは大慌てで出迎えの準備に奔走していた。
上が慌てれば、下の者たちも慌てる。侍従や騎士、末端の兵士まで慌ただしくしながらも噂話に興じていた。
「まさか皇帝陛下が直々にやって来るとは」
「やはり勇者様のことが認められたのだろう。何せあのベヒモスを倒したのだから」
「たった一か月で伝説の冒険者を超えるとは、神の使徒の力とは凄まじいものだ」
「勇者様以外の皆様もメルド団長並みの実力らしい。魔人族など恐れるに足らずだ」
「そうだな。勇者様万歳!エヒト様万歳!!」
「勇者様万歳!エヒト様万歳!!」
「「ハッハッハッ!!」」
二人の兵士がそんな軽口を叩きながら通路を通り過ぎた後、通路の陰から1人の少年が姿を現した。目を吊り上げ、ギリギリと歯を噛み締めている顔は途轍もない憤りに染まっている。
少年、檜山大介は沸き上がる感情を爆発させる。
「なんでだよ!!!なんであんなヘボ勇者が!!!俺の方が強かったはずだろうがッ!!!!」
悪態をつきながら壁を殴る檜山。すると殴った個所が大きく揺れ、ひびが入った。天職が〝軽戦士〟の檜山の腕力ではこんなことはできない。だが、訓練するたびにどんどん上がる魔力と上達した身体強化魔法を使うことで、天職に見合わない膂力を発揮できるようになった。謹慎期間もあったというのに、檜山の成長速度は勇者である光輝に匹敵していた。
もしも、勘のいい人物が檜山の力を知れば異常だと思っただろう。しかし、今の彼は王宮内で腫れもの扱いをされていたので、気が付くものは居なかった。
戦闘能力が上昇するに従い、檜山は横柄に振舞うようになった。
訓練では自分の力を誇示するように兵士や騎士を痛めつけ、王宮の侍従たちには無理難題をひっかけ威張り散らした。神の使徒の肩書があるので誰も逆らうことが出来ず、触らぬ神に祟りなしという言葉通り、どんどん人が離れていく。すると、称える人間がいなくなることでむしゃくしゃし、機嫌が悪くなっていく。負の悪循環が檜山の心の中から増悪を際限なく引き出していく。
その姿は地球での彼と、本当に同一人物なのかと疑わしくなるほどだった。
地球での檜山大介という少年は休み時間に馬鹿騒ぎをしたり、性格が大人しい生徒に横柄に振舞ったり、クラスカーストが高い相手には媚びへつらう態度をしていた。典型的な少し不真面目な普通の生徒だったのだが、自分の身の程をわきまえて行動していた。なのに今は自分の力に過剰な自信を持ち、誰かれ構わず当たり散らしている。彼の変化に、付き合いのあった友人たちでさえ困惑し、距離を取っている。
「ぜってえ認めねえ!!俺の力を称えろよ!!俺に媚びへつらえよ!!俺の方が力があるんだ!!強いんだよ!!全部全部全部!!───俺の思い通りになれよ!!!」
溜まりに溜まった檜山の鬱憤が最高潮に達した。
荒れに荒れた心に、大きな隙ができる。
その時を見計らったかのように檜山の後ろに黒い影が現れる。
『では思い通りにしましょうか』
「思い通りにしてやる。俺は神の使徒で天之河なんかよりも強いんだよ!!」
影からかけられた言葉に檜山は気が付かない。檜山の心が荒れているのもあるが、影は彼の深層心理に語り掛けるようにしているからだ。影の言葉は普通にかけられた言葉と違い、檜山の精神の根幹にするりと入り込んでいく。
『あなたは強い。この世界では称賛される強さを持っています』
「俺は強い!!だったら何をしてもいいんだ!この世界は強いやつが偉いんだから!!」
『しかし認められない。なぜですか?』
「なのになんでだよ!!俺に何が足りないんだよ!!?」
『一方でさっきのように称えられている勇者。彼が持っている物は?』
「天之河なんか天職が勇者だったってだけだろ!?ステータスプレートに表示されていたってだけで、俺より弱いじゃねえか!!なのにちやほやされて鎧や聖剣なんざ渡されて自慢げに振り回しやがって!!……聖剣?」
ふと自分で呟いた言葉にひっかりを覚える檜山。
聖剣。ハイリヒ王国の宝物庫から勇者である光輝に授けられたアーティファクトであり、勇者にしか扱うことが出来ない剣だ。
今では光輝の象徴であり、勇者の活躍と共に語られている。
「そうか。聖剣かあ。天職はどうにもならねえが、聖剣ならもしかしたら……。できなくても……ヒヒヒッ」
ニヤアと口を三日月のように歪めて、檜山は嗤った。
■■■■■
一方、檜山が妬みを向けている光輝。彼とパーティーメンバーも帝国からの使者が来るということで王城に戻って来ていた。
国王と教皇に帰還の報告をしてから、久しぶりに王城に残っていたクラスメイト達の顔を見に行くと、驚くべきことを聞いた。
「雫!もう元気になったんだな!!」
「光輝。まあ、なんとかね」
突然王宮の客室に入ってきた光輝に、中のソファーに座っていた雫が返事をする。
「天之河君。いきなり部屋に入って来るのはマナーが悪いですよ」
「あ、せ、先生。す、すみません」
ノックもせずに入ってきた光輝に、雫と同じ部屋にいた愛子が注意をする。
部屋の中には雫と愛子以外にも数人の人物がいた。
一人は雫のクラスメイトの園部優花。彼女も雫ほどではないが、オルクス大迷宮での訓練で心が傷つき、戦闘訓練から離れていた。
そしてこの部屋にはこのハイリヒ王国の王女、リリアーナがいた。傍らには彼女の専属侍女のヘリーナもいる。
「えっと、邪魔しちゃいました?」
「いいえ。ちょうど話は終わったわ」
ばつが悪そうにする光輝に、雫はそう言うと愛子とリリアーナにさっきまでの話し合いで決まったことを言う。
「それじゃあ今後、私と優花は畑山先生のお手伝いについていきますね」
「よろしくお願いしますね。シズク、ユウカ。アイコさんも引き続き王国の農地をお願いします」
「リリアーナさんには生徒の皆さんのためにいろいろしていただいていますから」
「私も寝込んでいる間、先生とリリィには助けてもらったから。どこまでできるかわからないけれど頑張るわ」
「私も。愛ちゃんのことはしっかり守るから」
「ちょっと待ってくれ!?」
雫たちの話に光輝が割り込む。
「雫は元気になったんだろう!?だったら俺達と一緒に戦闘訓練をするべきじゃないか!?」
「……」
「そんなことさせられません!」
雫は光輝の言葉に雫は顔を俯かせ、愛子が立ち上がる。
「八重樫さんは回復しました。でもそれは身体だけで心は全然治っていないんです。そんな状態で危険な迷宮で戦闘訓練なんて、絶対にさせません」
愛子の言うとおり、雫の身体は通常生活を送れるまで回復した。しかし、心は大きく傷ついたままだ。特に発症してしまった魔物へのPTSDは酷く、騎士団が訓練用に捕獲していた魔物の声が聞こえただけで全身が強張り、立っていられなくなってしまう。鳴き声だけでこれなのだ。魔物そのものと相対すれば、戦うなど無理だろう。
そんな状態でも雫は何とか立ち直りたいと思い、王宮で引き籠るよりも、王国の農地改革に勤しむ愛子の手伝いを申し出たのだ。手伝いに出向いた先で魔物に遭遇する可能性もあるが、オルクス大迷宮で訓練するよりもずっと低い。何より、農業は心の傷の治療法の一つでもあるので、愛子は彼女の申し出を快く引き受けた。
雫と同じく心に傷を負った優花も同様の理由で愛子の手伝いを申し出た。彼女の場合はそれに加えて、戦えない自分たちのために働く愛子を守りたいという思いもあった。
「で、でも雫は〝剣士〟の天職ですし、技能だって戦闘向きなんですよ。それに魔物からだって勇者の俺が守りますから!!」
「そういう問題ではありません。今の八重樫さんが魔物と戦おうとすること自体が間違いなんです!!いくら光輝君が守ると言っても、そもそも戦闘訓練が八重樫さんの心を癒すことには繋がっていません!!」
「そ、そんなことないです。道場で一緒に訓練したみたいにしていれば雫の心だって」
「天之河君がなんと言おうと先生は八重樫さんが傷つくことを許可しません!!」
光輝に一喝する愛子。学校では見たことのない姿に気圧される光輝。
異世界に飛ばされた中で唯一の大人として生徒達を守るために奔走したことで、知らず知らずのうちに彼女の中で覚悟ができてきたのだ。
光輝に言い切った後、愛子は顔を少し俯かせて内心を吐露する。
「本当なら天之河君達にも戦ってほしくなんてありません。戦いに積極的になって、元の世界に、日本に帰った時に元の生活に戻れるのか心配だからです。力を振るうことに躊躇わなくなって欲しくないんです」
「俺達はそんなことになりません!!」
「……先生もそうであってほしいと、願っています」
一喝した時とは違い小さな声で言われた愛子の言葉に、優花は内心で同意する。光輝は気が付いていないようだが、召喚された生徒の中には力を振るうことに躊躇いが無くなってきている者がいる。
それからも光輝は何とか雫を自分のパーティーメンバーにしようとごねたが、愛子が一歩も譲らなかった。雫自身も光輝のパーティーへの加入を断固拒否したので、結局光輝は意気消沈して部屋を後にしたのだった。
■■■■■
その日の夜。光輝は寝付けなくて王宮の庭園を散歩していた。
庭園は月明かりに照らされて、夜だというのに神秘的な雰囲気を醸し出している。
安全な王宮内なのでいつもの装備を身に着けず、久しぶりに元の世界での高校の制服を着ている。
「やっぱり、雫が立ち直るには香織を助け出すしかないんだ。絶対にあのデジモンを倒して香織を……」
ゆっくりと歩いているうちに、気分が落ち着き、改めて自分の考えを固める光輝。無意識に呟いた独り言だったが、突然闇の中から応える声がする。
「ハッ。お前じゃ無理だよ天之河!!」
「!?だ、誰だ!!」
咄嗟に身構えて周囲を警戒する光輝。
すると、自分の体の上に影が現れたことに気が付き、本能的に飛び退く。
直後、さっきまで光輝がいた場所に黒いロープを身に纏った何者かが剣を振り下ろす。
もしも光輝が動かなかったら真っ二つになっていた。
「何者だ!?魔人族の刺客か!!」
「クククッ」
ロープの男が嗤いながら立ち上がり、剣を構える。夜の闇とロープのせいで顔はわからないが、体格と声からして若い男のようだ。
「見せてみろよぉ。勇者様の力を!!」
剣を振りかぶり、斬りかかって来る男。光輝は攻撃を見極めて避けようとするが、
「は、速い!?」
あまりに速い斬撃に避けることで精一杯になる。
しかも男自身もとんでもなく身軽で、勇者である光輝の動体視力をもってしても、完全に目で追いかけられない。
「せめて、聖剣があれば」
「聖剣ん?」
思わずぼやいた言葉に、男が攻撃の手を止める。
訝しむ光輝の前で男はロープの中から何かを取り出す。
「そいつはこれの事かぁ?」
「それは聖剣!?なんでお前が!!?」
純白の鞘に収められたバスターソード。何より使用者である光輝自身が、男が取り出した剣が本物の聖剣であるとわかった。
「ちょっと武器保管庫に行ってなあ。もうちょっと警備をちゃんとしたほうがいいんじゃないかあ?」
「盗んだのか!!返せ!!それは俺の聖剣だ!!」
「お前のじゃないだろう?これは勇者の剣だ」
激昂する光輝に男はせせら笑いながら言う。
「だから勇者である俺の剣だ!」
「勇者ぁ?お前がぁ?はっ!!」
刹那。一瞬で光輝と距離を詰めた男の剣が、光輝を袈裟斬りにする。無意識に一歩下がることで致命傷は裂けた光輝だが、右脇腹から左肩にかけて、大きく斬り裂かれてしまう。斬り傷から血が噴き出し、激痛が光輝を襲う。
「ぐああああぁ!?」
「こんなに弱いお前が勇者なわけないだろう!!」
膝をつく光輝。聖剣を奪われていたことでできた隙をつかれた。
「これでお前は俺よりも弱いことが証明された。勇者は魔人族をぶっ殺すのが役目だ。ならより強い俺の方が相応しい。なあ、聖剣」
男は聖剣の柄に手をかけると鞘から引き抜こうとする。
聖剣は勇者の象徴であり、光輝がステータスプレートに天職が〝勇者〟と表示されただけでなく、聖剣を引き抜くことが出来たからこそ、勇者であると認められた。その象徴を男は我が物にしようとしているのだ。
しかし、男がいくら力を込めても聖剣は引き抜かれることはなかった。
「ちっ。まあ、力をみせるだけで引き抜けたら騎士団長でも引き抜けたか」
舌打ちをして聖剣を放り投げる男。自分を認めない武器など、どうでもいいという考えなのだ。大切にしている武器をぞんざいに扱われた光輝が男を睨む。
「じゃあ第二案だ。死ねよ、天之河」
剣を突き付ける男。
「お、お前の目的は何なんだ!?」
「……そうだなぁ。冥途の土産に教えてやるよ」
光輝の問いかけに男は少し考えると、ロープを取ってその顔を露わにする。
男の顔を見た光輝は驚愕する。
「お、お前は、檜山!?」
ロープの男、檜山大介はニヤァと嗤う。
「その反応。やっぱ俺って解らなかったんだなあ?まあ、人気者の天之河からしたら俺なんざ眼中になかったんだろ?なのにこうして膝をついているとか、嗤えるぜ」
「な、なんでお前がこんなこと……?」
「なんで?だあ?」
檜山は光輝に鋭い蹴りを放つ。蹴りは光輝の顔に当たり、大きく吹き飛ばす。
「俺はこの世界で力を手に入れた!!あっちじゃ考えられなかった力だ!!しかも世界を救うために呼ばれた救世主としてだ!!なのに称賛されるのは弱いお前だ!!お前なんざたまたま天職が勇者だっただけの虫けらなんだよ!!それがさっき証明された!!」
光輝に指を突き付ける檜山。言われた光輝は痛みに呻き、応える余裕もない。
「勇者なんて御大層な名前だが、要は魔人族をぶっ殺せればいいんだ。聖剣を持っていることも重要じゃない。こんな簡単なことに気が付かないこの世界の連中も救いようのない虫けらだが、俺様が救ってやるよ。そんで称えさせてやる。そのためには、お前にいてもらうと困るんだよ。弱い勇者様?」
檜山はゆっくりと光輝に近づく。その手に持つ剣で止めを刺すつもりなのだ。
「お前が死んだら魔人族のせいにしてやるよ。そんでそいつを俺が殺したことにすれば、全員コロッと騙されるさ。何せ俺はお前よりも強いんだからなあ。そんで魔人族どもを皆殺しにすれば俺の天下だ。クラスの連中も全員俺が守ってやるから安心して死ねよ」
そして、剣を光輝に向かって振りかぶる。
「ああ。白崎と八重樫のこともちゃんと助けて可愛がってやるよ」
「……かお、り。し、ずく」
最後にかけられた言葉に、光輝は目を見開く。
幼馴染の少女達のことを引き合いに出されたことで、彼の心に炎が灯る。
右手を掲げ、何かを掴もうとする。
そんな光輝の最後の悪あがきにも見える姿を嗤いつつ、檜山は剣を振り下ろした。
だがその時、光輝の右手に聖剣が飛んできた。勝手に飛んできた聖剣を光輝は掴み、振り下ろされた剣を防ぐ。
「はっ?」
「うおおおおおッッ!!!」
勝手に聖剣が飛んできたことで檜山はわけもわからず動きを止める。
その隙を見逃さず、光輝は聖剣をしっかりと両手で握ると、裂帛の気合を込めて振るう。
この時、光輝は聖剣に無意識に魔力を流していた。そのため聖剣に光の魔力刃が形成され、刃が届く範囲と切断力が向上。檜山の持っていた剣を斬り裂くだけでなく、彼の身体にまで届いた。
「ぐぎゃアアアアアアアアッッ!!!??」
血をまき散らしながら悲鳴を上げて後ろに下がる檜山。
光輝は油断なく構えながら立ち上がる。
技能〝物理耐性〟と派生技能の〝治癒力上昇〟で傷はすでに治り始めており、血は止まっている。
「もうやめろ檜山。聖剣を持った俺にお前は勝てない。いや、もともとさっきの勝負も卑怯な手を使わないとダメだったんだ。このまま戦えば俺の方が───強い」
檜山を諭す光輝だが、檜山は聞いていない。さっきから右腕の辺りを抑えている。
「く、ぐうぅぅ。天之河ああああああああああああああああああっっ!!!!!」
「ッ!?」
檜山の憎悪の籠った叫びが王城に木霊する。
「お前お前お前!!よくも俺の───右腕を!!!」
血走った目でロープを脱ぎ捨てる檜山。彼の右腕は肘から先が無かった。
「え?ひ、檜山、なんで、腕がないん」
「死ねえええええッッ!!!!」
再び動揺する光輝に、檜山が飛び掛かる。
光輝は自分が人間、特に同じ召喚された仲間の腕を斬ったことが理解できず棒立ちになっている。
このまま掴みかかられると思われたその時、二人の間に新たな影が割り込んだ。
「そこまでだ!!」
「なっ!?」
新たに割り込んだ人物。騎士団のメルド団長が檜山を掴むと、力任せに投げ飛ばす。
地面に倒された檜山は立ち上がろうとするが、メルド団長の部下が現れ彼を取り押さえる。
「武器保管庫が荒らされているという報告がもたらされた。コウキの聖剣とダイスケの剣が盗まれていたことから王宮を捜索していたのだが……犯人はわかったな」
メルド団長は騎士団に拘束されていく檜山を複雑そうに見る。オルクス大迷宮の一件から彼の振る舞いには頭を悩ませていた。親元から無理やり引き離され、戦争に参加させることになった彼らが生き残れるように訓練を行ってきた。だが、訓練で得た力を振りかざすようになるとは。
(俺に教育者は向いていないな)
後悔が胸の中に溢れる。それでも一度引き受けたことは投げ出さないと、この失敗を糧にすることを誓う。そして、何とかして檜山のことも更生させねばと。
しかし、メルド団長の決意は果たされることはなかった。
翌朝、王宮の牢屋に入れられていた檜山の姿は忽然と消えていた。
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「畜生畜生畜生!!!!」
騎士団に拘束された檜山は、神の使徒の1人ということで、一時的に王宮の牢屋に入れられた。斬り落とされた右腕は応急処置がされ、牢屋のベッドの上で横になっている。
だが切断面から痛みが広がっており、ハジメも陥った幻肢痛までし始めていた。そのため、横になっていても眠ることが出来ないでいた。だから痛みを心の中から溢れてくる憎悪で誤魔化していた。
「天之河天之河天之河ッ!!!どいつもこいつも俺を見下しやがって!!何が卑怯な手だ!!戦争だぞ!!卑怯も何もあるか!!殺し合いを試合かなにかと勘違いしている癖に!!!」
悪態をつきながら、心の中から更なる憎悪を引き出す檜山。
「殺してやる!!俺を見下した虫けらをぜってえ許さねえ!!」
『ふふふ。だいぶ闇が深まったようですね』
檜山の枕元に闇が溢れ、人型となる。檜山へ黒い球体を埋め込んだ影だ。
「さあ、暗黒の種の芽吹きの時ですよ」
影が檜山に手をかざすと、濃密な闇のエネルギーが檜山に注ぎ込まれる。
檜山の身体がジワジワと闇に侵食され、やがて全身が闇一色に染まる。
「アイズモン」
影が名前を呼ぶと、牢屋の中が真っ黒な闇に覆われる。そして闇の中に無数の目玉がギョロリと蠢く。
「仕上げです。行きなさい」
影の言葉に闇が凝縮していく。
現れたのは無数の目玉を持ち、巨大な口を持つ不定形な体のデジモン。
魔竜型デジモンのアイズモンだ。
影の中に潜むことが出来る能力を持っている。
アイズモンは影の合図に従って檜山の影の中に入り込む。すると檜山の失われた右腕の先に腕が現れた。アイズモンが檜山の腕の代わりを形作ったのだ。
パチンッと影が指を鳴らすと、檜山を覆っていた闇が霧散する。
檜山の姿恰好は大きく変わっていた。光輝に付けられた傷は全て癒え、右腕もアイズモンが代わりとなっている。しかもアイズモンの特徴である無数の目玉が蠢いている。
服装も王国の兵士が着るような服ではなく、王侯貴族の様な豪奢な服にマントを羽織っている。しかし、その色は煌びやかなものではなく、闇を象徴するような黒や藍色を中心としている。
もしもこの姿をハジメが見ればこう思うだろう。
まるで、アニメのデジモンアドベンチャー02に出てきた最初の敵、デジモンカイザーみたいだと。
「気分はどうですか?知らない仲ではないのでお力をお貸ししたのですが」
「ああ。最高だ。力が溢れてくる。格好もいかしているぜ」
体の中から溢れてくる力に檜山は恍惚とした笑みを浮かべる。
「これならやれる。天之河をぶっ殺せるぜ!!!」
檜山の宣言が牢屋の中に響き渡る。これだけ檜山が騒いでも誰も駆けつけてこない違和感に、檜山は最後まで気が付かなかった。
そして翌朝、牢屋がもぬけの殻になっており、看守が惨殺死体となって発見されたのだった。
〇デジモン紹介
アイズモン
世代:成熟期
タイプ:魔竜型
属性:ウイルス
影の中に潜むことが出来るデジモン。データを蓄えた分だけ強大化する特性を持ち、貯蔵量次第で力は完全体も超える。多くの目を持ち、敵のどんな動きも見逃さない。必殺技は、全ての目から発する呪いの光線『邪念眼』と、蓄えたデータを物体に変換し攻防に使う『愚幻』。現在は檜山の右腕となっているが、何を考えているのかは不明。
遅れました。意外に難作でしたね。
今作での檜山はハジメよりも自分よりも優れた評価を得ている存在全てに妬みの感情を向けています。今のところ一番恨んでいるのは光輝ですが、もしもハジメと出会えば・・・。
次回は皇帝とのお話。でもここもがっつり変えていきます。お楽しみに
〇次回予告
お願い、死なないで光輝!
ここで貴方が倒れたら、勇者としての使命はどうなっちゃうの?
相手の動きを見極めれば聖剣は届くんだから!
次回28話「勇者()死す」
デュエルスタンバイ!