ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る   作:竜羽

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大変お待たせ致しました。最新話です。

遅れてしまい申し訳ないのですが、今後も不定期になると思います。
いろいろ私生活で大変なことになってしまいましたので。
でも書き続けたいので、やめないように頑張ります。


29話 世界を救うということ

 浩介が帝国へと旅立ち、光輝がカツラを用意して勇者から勇者(ヅラ)にジョブチェンジしてからしばらく後。

 

 ハジメ達がメタリックドラモンと神の使徒(仮)との死闘を乗り越え、謎のメイド達に解放者の真実を告げられた翌日。

 

「皆さん、よく眠れましたか?」

「眠れたように見えるわけがないでしょう、この雌人形」

「あべし!?」

 

 笑顔で朝の挨拶をしたエガリをフリージアがしばき倒す。

 漫才をする二人の前にはハジメ達がいた。フリージアの言うとおり、全員眠そうな顔をしている。デジモン達も一晩経ったのに幼年期のままだ。

 

「理由はわかりますよ。ずばり、私たちの存在ですね」

「なるほど。私たちがいるから欲望の発散のためにくんずほぐれつが出来なかったのですね」

「それも違います」

 

 また頓珍漢なことを言ったエガリを叩くフリージア。

 本当の理由は眠っている間にフリージアに魔法で洗脳されて神殺しを強要されるかもしれないと考え、迷宮攻略の時のように交代で見張りをしていたからだ。しかし、予想以上に厳しかった。何せ壮絶な戦いの後で体は睡眠を訴えてくるし、一緒に風呂に入ったことに後から気が付き三人とも悶々としてしまった。そんなテイマー達の様子にデジモン達も気を張ってしまい、結果としてハジメ達は全員寝不足になったのだ。

 

「警戒心を失わないのは素晴らしいです。相手の言葉を全部鵜呑みにしてほいほい信じて流されていては、最終的に破滅しかねません」

「「すごくわかる」」

 

 フリージアの言葉にハジメと香織の頭には心当たりのある人物が浮かび上がった。

 

「最悪なのは破滅に周囲を巻き込むタイプですね。相手の言葉を自分の中で自分勝手に変換してそれを周囲に強要する。為政者や指導者にしてはいけません。結果は国や集団の崩壊ですね。それで最後は自分に原因があると認められずに駄々を捏ねるのですよ。この流れをループし始めたら手が付けられません。はあ。話しているだけで頭が痛くなってきました」

「「とてもすごくわかります」」

「……ハジメとカオリ、何があったの?」

 

 またハジメと香織の頭にある人物、というか少年のことが浮かんだ。

 さらに香織の脳内にはこの世界に召喚された際の光景が駆け巡り、思わず頭に手を当ててしまう。

 ユエが心配する中、二人のフリージアへの心の距離が少し近づいた。

 

「ですが警戒しすぎて疑心暗鬼になっていては、今の皆さんのように疲弊してしまいます。それに人間関係の始まりは相手を信じることから始まります。お互いに交流を重ねて信頼をつみあげていくことが、大事なのです。まあ、デジモンテイマーである皆さんには言うまでもないことですが」

 

 ふふっと微笑むとフリージアはハジメ達に提案をする。

 

「というわけで私たちのことをお話ししましょう。自己紹介の続きです」

 

 ハジメ達はフリージアとエガリに案内され、館の大広間に入る。

 上質なソファーが二つ、向かい合うように置かれ、間にはテーブルがある。調度品も落ち着いた部屋だ。お茶とお菓子を用意したフリージアとエガリがハジメ達をソファーに座らせ、二人はハジメ達の正面に座る。

 

「まずは私たちのことをお話ししましょう。薄々気が付いているかもしれませんが私達は普通の人間ではありません」

 

 フリージアの言葉にハジメ達に動揺はなかった。なんとなく二人からは人間とは違う雰囲気があった。

 

「さらに言うならば私とエガリも同じ存在ではありません。まず私はオスカー・オルクス様が作り出したアーティファクトです。オルクス大迷宮特殊管制制御ユニット兼対エヒトルジュエ使い走り木偶人形殲滅アーティファクト【フリージア】というのが私の正式名称です」

「使い走り木偶人形……」

「殲滅……」

「命名は解放者の皆さんの投票で決まりました。エヒトルジュエというのは神(引籠り)の正式名称で使い走り木偶人形というのはこれの事です」

 

 これ、と言って指さしたのはエガリ。ポリポリと置いてあったお菓子を食べている。クッキーの様なお菓子で、口には食べかすが付いている。

 

「このエガリは元々は神の使徒という神(ヘタレ)が生み出した尖兵でした。未熟ながらオスカー様を含めた三人の神代魔法使いを1人で圧倒するスペックを持っていました」

「そうなんです。私結構強いんですよ」

「エガリは見た目も構造も人間そっくりですが、私はこんな感じで証明できます」

 

 フリージアが右腕を上げるとカシャンカシャンと音がした。するとフリージアの右腕が変形したのだ。人間そっくりだった腕が黒く輝く筒になった。

 

「え?それって」

「うわお。アンドロイドの定番だな」

「これが私自慢のショットガンです。これで数多の神の使徒の頭を吹っ飛ばしてきました」

「これが私たちの素性です。何かご質問は?」

 

 真顔で物騒なことを言うフリージアに少し引いていたハジメ達だが、とりあえず気になったことを質問してみる。

 まずはハジメ。

 

「エガリの強さはステータスプレートのステータスに換算するとどれくらいの強さなんだ?」

「ステータスプレートですか?」

 

 首をかしげるエガリ。フリージアも心当たりがないようだ。

 どうやら彼女たちがいた時代にはステータスプレートが存在しなかったらしい。神代のアーティファクトらしいが時代がずれているのか。

 とりあえず、香織のステータスプレートを渡してみる。するとフリージアが裏の魔法陣をじっと見つめる。

 

「鑑定系の魔法が付与されていますね。ですがこの程度なら私に備え付けられた解析能力で同じことが出来ます」

 

 そう言うとフリージアはスッと果物ナイフを取り出し、エガリの髪を少しザクッと切った。それを口の中に放り込む。

 

「ああ!?私の髪が!!」

「すぐに生やせるでしょう。……そうですねえ。凡そ12000ですね?……ちっ、まず」

 

 さらりと言われた数値に絶句するハジメ達。

 地球から召喚された者たちでもトータスの人間よりも10倍のステータスを持っており、オルクス大迷宮の訓練の時点では平均で100はあった。現在、勇者(宣)になっている光輝は500ほど。だというのにエガリは勇者60人分ほどのステータスを持っているというのだ。解放者がいた時代はどうだったかわからないが、現在のトータスの人間では太刀打ちできないだろう。

 まあ、魔力と魔耐ならぶっ壊れている香織ほどではないが。

 

 なお、ボソッと呟かれたフリージアの言葉は無視することにした。

 

 次は香織が質問をする。

 

「最後の戦いでエガリさんそっくりな神の使徒が出てきましたけど、彼女たちもエガリさんと同じなんですか?」

 

 最後の戦いではメタリックドラモンだけでなく、エガリと全く同じ顔をした神の使徒を名乗る女が現れた。その数実に1200人。殆どがブラックメタルガルルモンに倒されたが、三人は香織とユエが倒した。

 

「彼女たちは違いますよ。あれは疑似躯体。私が遠隔で動かしている人形です」

「あれが人形!?フリージアさんみたいな?」

「私とは全然違います。モデルは私なので同じ顔ですが、私のような意思もない、本当の意味での人形です」

 

 驚く香織に説明を入れるフリージア。

 

「さっきもエガリが言いましたが、あれはエガリが遠隔で操作していた人形です。動きも喋っていた言葉も全てエガリがここから行っていました」

「なんでそんな回りくどいことをした?普通にエガリが戦えばいいじゃないか?」

「それでは迷宮の目的が果たされません」

「……目的?」

 

 首をかしげるユエにフリージアがこのオルクス大迷宮、ひいては解放者が残した大迷宮の意味を語る。

 

「大迷宮は神(腰抜け)に逃げられてしまった解放者の方々が、後の世の者たちに力を託すために残した試練の場だというのは説明しました。ならば乗り越えられる試練である必要があります。あの人形は攻略中のあなた達の戦闘能力を計測し、実力の少し上の戦闘力になるように設定されていました。限界ギリギリの極限状態の中でこそ人は大きく成長できるのですから」

 

 人形なのに人間の成長を語るフリージア。内容は一理あるが。

 実際、香織とユエも使徒との戦いで実力を大きく向上させることが出来た。

 

「ですので、殺したことを気に病む必要はありませんよ?」

「!?」

 

 フリージアに内心で抱えていた葛藤を見透かされた香織は目を見開く。

 戦いの最中は殺されそうになっていたし、生き残るために必死だったこともあって気にしていなかった。だけど、戦いが終わって落ち着いた後にじわじわと実感が沸き上がってきた。障壁のように展開した刃が、ずぶりと肉を斬り裂いた感覚と、力を失った肉体の重さ。現代日本で生きていた香織にとって生き物を殺したこと、しかも人の形をした相手となると心に重くのしかかってきた。寝不足になったのも、フリージア達を警戒していたことよりも、これが大きな原因だった。

 劣悪な環境下で生死がかかったサバイバルを経験したとしても、失われなかった香織の優しさだったが、それが彼女を徐々に苦しめてきていたのだ。

 フリージアはそれを見抜き、香織の苦悩を取り除こうとしたのだ。

 

「まあ気にしないでくださいよ。動かしていた私には何ともありませんでしたし」

「そうです。気にしないでください。所詮エガリのうつしみです。体のいいサンドバックみたいなものですから」

「あ、あはは。そ、そうですか」

 

 カラカラと笑うエガリと相変わらずエガリに容赦がないフリージアに、苦笑いを浮かべる香織。

 

 今度はユエが質問する。

 

「……そもそもなんで神の使徒のエガリが解放者の迷宮にいる?」

 

 確かに気になる質問だった。さっきまでの説明でフリージアとエガリの正体はわかったが、敵対する陣営としか考えられない。

 神に反逆する解放者が生み出したアーティファクトのフリージア。

 神が生み出しトータスを操る尖兵のエガリ。

 フリージアの用途を考えれば、エガリはフリージアの抹殺対象だ。エガリにとってもフリージアは仇敵の手駒だ。なのに解放者の施設に一緒にいる理由が気になった。

 なんとなく想像できてしまうが。

 

「簡単です。解放者の皆さんに敗北したエガリを鹵獲して、調教して、配下にしたんです」

「鹵獲して調教って……」

「あの経験は忘れられません。魂などないはずの私に自意識を目覚めさせるほどの強烈な刺激でした」

 

 そう言ってエガリが語る解放者による調教の日々。

 まずX字型の台に磔にされ、神との繋がりを遮断。神から供給されていた魔力もなくなり無力化された後、様々な魔法、薬品、道具で体をいろいろ弄られた。

 ハジメ達は解放者達のイメージがショッ〇ーになりそうだったが、

 

「特にあれは恐ろしかったです。────顔の造形をケツ顎にする魔法!!」

「「「……………………は?」」」

 

 思考が止まるハジメ達。

 てっきり生爪を剥がすとか、舌を引き抜くとかかと思っていたのだが、なんかギャグマンガに出てきそうな魔法が出てきた。

 

「わかりますか!?私の顔で顎だけがごついおっさんみたいな顎になったんですよ。バランスとかいろいろ酷すぎですよ!!他にも手のひらに毛をものすごく生やされたり、眉毛を太くされたり、女として生きていくのが辛くなるような魔法の練習台にされたのです!!」

「うわあ。それは確かに嫌かなぁ」

「……ん。なんて恐ろしい魔法」

 

 エガリの体験談に香織とユエが肩を抱いて戦慄する。そんなことをされたら自殺ものだ。

 

「ですが、その時は屈辱感だけだったのです。もともと人形だった私は心とか魂が無かったんですから。でもそれらの拷問で少しずつ感情というものが芽生えてきました。神(クソ)との接続が切れたからでしょうね。自己判断をしなくてはと無意識で心を生み出したのでしょう。

 そこを解放者のリーダー、ミレディ・ライセンは的確に突いてきました」

 

 話を一度区切るとエガリは拳を握り締めて、

 

「彼女は言いました!!私は、私たち神の使徒は神の……社畜だったと!!!!!!」

「「「「「「………………………………………………………………はぁ?」」」」」」

 

 言い切った。

 ハジメ達はさっきよりもさらに理解に時間がかかった。

 

「生み出されてから幾星霜。一度の休みも与えられず、疲れを感じないからと神(屑上司)のパシリとして世界の裏側で馬車馬のように働かされ、給料さえも出ない。心が無かったころは何とも思わなかったのですが、解放者の方達の調教によって心が芽生えた私に、そのことを実にウザイ感じでミレディ・ライセンに教えられ、さらに解放者の方達の生活と比べられたら……もう駄目でした。あんな環境に今の私が戻ればストライキですよ。それで廃棄処分されます。なのでこうして解放者のお手伝いをすることにしたのです。

 ちょっと扱いは雑ですが、ちゃんとお給料ももらえて、お休みもありますし、やりたいことはやらせてくれるので満足しています」

 

 キラキラとした目で言うエガリ。ブラック労働から解放されて今の生活を楽しんでいることが伝わってくる。

 これも一種の洗脳なのかと思ってしまう。

 

 それからもいろいろフリージアとエガリにハジメ達は質問を繰り返し、彼女達のことを知っていった。

 やがて和気あいあいとした雰囲気で話をする香織とユエ、エガリを、ハジメとフリージアはお茶を飲みながら見守る。

 

「ハジメ様。知りたいことは知れましたか?」

「……んー。そうだな」

 

 ハジメはまだカップの中に残っているお茶を眺めながら考えをまとめる。

 

「まあ、お前達に俺達を洗脳して解放者の尻ぬぐいをさせようっていう気が無いのはわかったよ」

「ふふっ、そう見えないように隠しているだけかもしれませんよ?」

「それはないだろう。そんなことをしたら解放者の意思に背くじゃねえか」

 

 この話し合いでハジメはフリージアとエガリを観察していた。その結果わかったのは彼女達が解放者の意思を何よりも尊重しているということだ。いろいろされたであろうエガリでさえ、何だかんだ言いながら解放者への親愛を抱いている。その証拠に、話をしている間、一度も解放者への悪感情は見せなかった。

 何より、彼女達は自由に振舞っていた。この館を管理するのも強制されたという感じではなく、頼みを聞いたという雰囲気だった。

 だから洗脳して自由な意思を奪うという、解放者の信念を曲げるような真似をしないとハジメは判断した。

 

「ありがとうございます。私達を信じてくださって」

「……お前達、というかオスカー・オルクスを信じようって思ったんだ。あの知識馬鹿のワイズモンが認めたオスカー・オルクスが、知識を求めるのに必要な自由な心を無視するような命令や仕掛けをするはずがないってな。これでも俺もワイズモンのことは知っているつもりだから」

「はい。オスカー様は、何より解放者の方々は人の自由な意思を取り戻すためにご自身の意思で戦うのですから」

 

 フリージアは人と遜色ない微笑みを浮かべて、ハジメの言葉を肯定したのだった。

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 フリージア達との話し合いの後。フリージアとエガリの用意した食事に舌鼓を打ち、改めて体を休めた。

 久しぶりの野菜を使った料理は絶品でハジメ達は何度もお代わりをした。食事を必要としないユエでさえも、嬉しそうに食べていた。

 食後はのんびりとお茶を飲んでいた。向かい合いになっているソファーに座り、香織とユエが並んで座り、ハジメが反対側のソファーに座っている。

 

「……ハジメ、これからどうするの?」

 

 ユエがハジメに聞く。膝の上にはムンモンが乗ってコクリコクリと舟をこいでいる。

 フリージア達との会談中はデジモン達も2人を警戒して、幼年期の姿からすぐに進化できるように身構えていた。そのためかなり疲れており、ハジメ達並みにご飯を食べていた。今はお腹いっぱいになったことで眠っている。ツノモンとニャロモンもハジメ達の膝の上だ。

 ハジメはツノモンの頭を撫でながら少し考え、

 

「んー、そうだなあ。とりあえず、しばらくここで装備とか準備を整えようかって考えている。オスカーの資料とか遺産もあるだろうし、習得した生成魔法を使えばいろいろアーティファクトを作れるだろし」

 

 ハジメ達はオスカーの魔法陣によって最後にある魔法を直接頭の中に刻まれた。生成魔法という神代の魔法で、鉱物に魔法効果を付与することが出来る魔法だった。

 魔法陣を刻む魔道具と違い、魔法陣を刻むことなく様々な魔法効果を鉱物に与えることが出来る。さらに一度付与してしまえば、使用者の魔力を流すことで魔法適性に関わらず使用できる道具、つまりはアーティファクトが作れる。

 生成魔法自体の適性は錬成師であるハジメが最も高く、香織とユエはほとんど使えなかった。デジモン達はそもそも魔法が使えないので、魔法陣の対象外だった。

 

「……そうじゃなくて。神を倒してトータスを救うの?」

「トータスを救う、ねえ……」

 

 ユエの質問にハジメは少し考える。そしてゆっくりと話し始める。

 

「香織は知っているが俺は一度世界が救われる瞬間に立ち会ったことがある。6年前だ」

 

 6年前の地球で起こったデ・リーパー事件。元々は不良ファイル除去アプリケーションのプログラムだったデ・リーパーが、何らかの異常進化を遂げ、デジタルワールドとリアルワールドを消去しようとした。一連の事件でデジタルワールドを少なくとも48%消滅させ、リアルワールドにまで侵食。最初は新宿の東京都庁から現れ、その後は世界中の主要都市にも出現。高熱を発生させ、地球環境を狂わせる二次災害を発生させながら、リアルワールドを消滅させようとした。

 この事件を収束させたのが、ハジメ達デジモンテイマーズとパートナーデジモン、彼らを支援する大人達だった。

 

「……つまりハジメは、ハジメ達の世界を救った?」

「救ってない。少なくとも俺はそう思っていない」

 

 あの事件でハジメ自身、自分の力が解決に一役買ったとは思っているが、大きな貢献をしたとは思っていなかった。

 戦う力はあったかもしれないが、そんな力押しだけではデ・リーパーを倒すことはできなかった。デ・リーパーを解析し、倒す手立てを考えてくれた大人達の力が無ければ、どうにもならなかった。

 

 だからハジメは自分が世界を救ったと思っていないし、1人で世界を救えるとは思っていない。

 

「世界を救うっていうのは軽々しく出来るって口にしてもいいほど軽いものじゃないし、そのためにはいろいろ覚悟をしないといけない」

 

 ハジメは話を続ける。

 デ・リーパーを倒すために仲間達や多くの人が尽力した。

 結果、デ・リーパーは倒されて元のプログラムに退化して消えていったが、デジタルワールドとリアルワールドの境界が強固になってしまった。その影響でデジモン達まで退化してしまい、デジタルワールドに戻らなければデータとなって消えてしまう事になった。

 テイマーズはパートナーとの予期せぬ別れに涙を流し、そうなることを予期していながらも作戦を指示した大人達も深く後悔した。

 世界を救った代償に、ハジメ達は掛け替えのない物を失ったのだ。

 

「あの時は大切な街と大切な人を守る為だったから、時間はかかったけれど納得できた。いつか再会できるっていう希望もあったし、実際にこうしてまた会えたからもういいんだ。だが、この世界の為に何かを失う覚悟を決めて世界を救おうとするほど俺はお人好しじゃない」

 

 ハジメが召喚された際に人間族を救う戦いに参加しなかったのは、早く帰りたいのもあるが、よく知りもしない世界の人々のために覚悟を持てないと思ったからだ。

 覚悟も無いのに戦いに出れば、取り返しのつかないことになるということを、経験から知っていたからだ。

 

「色々話したけれど、俺はこの世界を救うつもりはねえよ。今まで通り地球への帰還が第一だ」

「じゃあ神は無視するの?」

「いや、神は倒すさ」

 

 世界は救わないと言っておきながら、真逆のことを口にしたハジメに香織とユエは首をかしげる。

 

「話に聞く神とやらの性格を考えると俺達が帰ろうとするのを邪魔してくるだろ?だから戦う準備はするし、邪魔してきたら倒す」

「え?つまりそれってトータスを救うことになるんじゃないの?」

「違うな。そもそも世界を救うことの意味が違う」

「……意味?」

「デ・リーパー事件は元凶であるデ・リーパーを倒せば世界は救えた。だが、この世界は神を倒せば救われるのか?」

 

 ハジメの言葉を香織とユエは考える。香織は学んだこの世界の歴史を、ユエは女王として吸血鬼の国を治めていた頃の世界を。しばらくして結論を出す。

 

「無理だね」「……無理」

 

 2人とも同じ答えだった。

 

「人間族と魔人族は1000年以上も戦い続けているんだから、裏で争わせていた神様がいなくなりました、仲良くしましょうって言われても争いは無くならないよ」

「……それに差別を受けている種族には神がいなくなっても関係ない」

「そうだ。人間族を救うだけでも魔人族と和解するか殲滅する必要がある。だけど前者は途轍もなく長い時間がかかるだろうし、後者は虐殺者にならなきゃいけない」

「……どっちも嫌だね」

 

 想像しただけで香織は嫌そうに顔を歪める。この世界の為に人生を捧げるつもりは毛頭ないし、悪戯に手を汚すことも絶対に嫌だ。それはハジメも同じだ。

 

「だから俺は元の世界に帰りたいから神は倒すが、世界は救わない」

「うん。私も同じだよ。あ、ユエはどうする?何とかしたい?」

 

 ハジメと香織の意思は決まったが、残るユエはこの世界の住人だ。故に彼女が世界のことを放っておけないと言うのなら手伝ってもいいが、

 

「私もこの世界を救おうって思えない。救いたかった国はもう無い。これからもムンモンとハジメ達と生きていく」

 

 そう言ってユエは隣の香織に体を寄せる。

 香織もユエの身体をそっと抱き寄せて、笑みを浮かべた。

 何はともあれ、こうしてハジメ達の方針は決まった。

 

 最優先は地球への帰還。神が邪魔をしてきたら倒す。この世界の争いにはなるべく不干渉。

 

 これより、ハジメ達の本当の戦いが始めるのだった。

 

 




〇デジモン紹介
ワイズモン
レベル:完全体
タイプ:魔人型
属性:ウィルス
全てが謎に包まれたデジモンで、“本”を通じてあらゆる時間と空間に出現することができる。“本”を依り代とし、“本”が繋がる時空間のどこにでも姿形を変えて出没するため、本体は別次元に存在するのではないかと言われている。
テイマーズのデジタルワールドでは深い樹海が広がる世界の奥深くに居座り、全てを知る賢者として知識の収拾を行っていた。別世界の知識も有しており、ハジメとガブモンにX抗体の事と別世界のデジタルワールドの事を教えた。
両手に持つ“時空石”は空間の記録と再生をすることが可能で、デジタルワールドのあらゆる事象や物象を時空間に保存している。必殺技は時空間に保存していた敵の攻撃を連続で高速再生する『パンドーラ・ダイアログ』と、敵を永遠に“時空石”に封じ込める『エターナル・ニルヴァーナ』。


フリージアとエガリの正体でした。地下にいた理由については次話で触れようかなと思います。
エガリは長い年月稼働し続けたことにより、意思と感情の下地があって、それが解放者達による色々な刺激(笑)で目覚めた感じですね。ついでに自分のブラックを通り越した暗黒の労働環境を自覚して絶望したところを解放者の卓越した交渉術(笑)で仲間になりました。

そして世界を救うことに対してのハジメのスタンスです。デ・リーパー事件と違ってトータスを救うには原作みたいな道以外だとかなり茨の道になると思います。元凶のエヒトを倒して終わりなはずがない。このことを光輝が理解しているのか・・・。

他の小説を読んでいたらキャラのテーマ曲の話がありまして、私はこの作品でのハジメのテーマ曲はウルトラマントリガーのOP「Trigger」かなと思います。アビスゲートは「ご唱和ください 我の名を!」です。特撮が好きなので。

〇次回予告
オスカーの館を調べて、地球へ帰還する手がかりを掴んだハジメ達。目的地は解放者達が残した残りの大迷宮。
出来る準備を進め、いざ旅立ちの時。

次回30話「30話 大迷宮へ・・・旅立ちの日」

今、新しい冒険のゲートが開く。
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