ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る 作:竜羽
いろいろ詰め込みました。本来なら分割するべきだと思う文字数なんですが、はやめに明かしたいと思いまして、1章並みの文字数です。
シア達が特訓をしていたのと同じ頃。
フェアベルゲン近郊では、ダークタワーが邪悪な気配を漂わせていた。
タワー内部からは邪悪なエネルギーが今にも溢れ出しそうな程、膨れ上がっている。
もはや偽装も意味をなさない。
メフィスモンが捕らえたバルキモンに掛けた魔術。それはデジモンとダークタワーを融合させるものだった。暗黒物質の塊ともいえるダークタワーを、無理やり自身のデータに書き加えられたバルキモンはデジコアが変質し、闇黒進化を始めてしまった。
そして今この時、進化は終わった。
カッと黒い閃光が弾け、中から巨大なデジモンが姿を現す。
──オオオオォォォンン──オオオオオオォォォ──ンンッッ──
怖い、苦しい、痛い、泣きたい、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!!
そんな強烈な負の感情しか感じられない鳴き声を上げながら、そのデジモンは動き出す。
骨のような見た目とダークタワーと同じくらい巨大な肉体は、ハジメ達が遭遇したスカルグレイモンを彷彿とさせるが、デジコアから溢れ出す黒い冷気は、周囲の動植物を死の恐怖に陥れ、黒く染めていく。赤く輝く瞳には鳴き声と同じく、負の感情しか浮かんでいない。
現れたデジモンは死の冷気を振りまきながら移動し始める。
これこそがバルキモンが、ダークタワーと融合進化してしまったアンデッド型デジモン。
その過程でバルキモンの命は尽きてしまい、その屍から無理やり蘇生して進化した。その呪いが、振りまかれる死の冷気だ。
哀れなこのデジモンの名はスカルバルキモン。
感情や知性は存在せず、求めるのは強いエネルギーがある場所。
目的は、この苦しみを終わらせること。
■■■■■
樹海の中をハジメ達のベースキャンプへ向かって進む集団がいた。
熊人族の族長、ジンを中心としたフェアベルゲンの主力部隊だ。
彼らの目的はシアやハジメ達の討伐だ。
忌み子であるシアに加え、人間族のハジメたちまで、亜人族の領域である樹海にいることに我慢ならなかったのだ。
アルフレリックの懇願で一時は見逃していたが、それもここまで。
未だこの樹海に居座り、さらには集落まで築いているという。
どういうわけか他の森人族まで付いていったことには驚いた。それに対抗するためにジンは、フェアベルゲンの主力部隊を動かした。武闘派のジンが主導したことで他の長老に反対する者はおらず、賛同する者以外は静観した。
流石にフェアベルゲンを留守にするわけにはいかないので、部隊全員ではなかったが、ジンが信頼する者達で固めた精鋭100人が付き従った。
ジンが最も信頼する副官が調べ上げてきた、ハジメ達のベースキャンプの場所へと迷うことなく進んでいく。
そして、遂にハジメ達のベースキャンプが見えてきた。
彼らの前に立ちはだかるのは、フェアベルゲンのものにも引けを取らない門と防壁だった。
「報告にあったとはいえ、人間族の力を借りるとは。亜人族としての誇りすらも失くしたかアルフレリック。もはや問答は無用だ! あれしきの門、破壊してくれる!」
「ジン殿。攻城戦の用意も出来ております」
「よし。前に出ろ! あの生意気な壁を破壊しろ!」
巨大な木の槌を持った者たちが前に出る。これで城壁を破壊しようというのだ。
数日前に副官が用意してくれたこの武器なら問題ないと頷くジン。
ここで、今まで攻城戦などやったことが無いフェアベルゲンの者である副官が、なぜこんな兵器を用意できたのか、不自然に思えただろう。しかし、なぜかジンも部隊の者達も疑問に思わなかった。
副官と同じくジンの右腕的な存在でもあるレギン・バントンが率いる小隊が、攻城戦の為に前に出る。
その頃になると、ベースキャンプの方も迎撃準備を整えていた。
森人族の弓の使い手が、門と城壁の上から矢をつがえている。その中からアルフレリックが進み出る。アルテナはハウリア族の捜索のために出払っていて不在だ。
「何用だ。ジン・バントン」
「知れたことよ。忌み子と人間族の側に付き、樹海を荒らす裏切り者に鉄槌を下しに来たのだ!!」
「長老会議の約定により、我らには手を出さないはずではないのか?」
「そんなものさっさと樹海を出て行かないのが悪い! 貴様らがさっさと出て行けばよかったのだ!」
アルフレリックの問いに、ジンが答える。しかしその答えは、いささかこじつけに近かった。確かに手を出さないという事しか決めていなかったが、こんなに早く手を出してくるとは。
アルフレリックは何とか対話でことを収められないかと口を開こうとするが、ジンに副官が声をかける。
「また口八丁手八丁で我らを言いくるめるつもりですよ。構わず攻撃しましょう」
「そうだな。レギンやれ!!」
「はっ! 全員かかれ!!」
ジンの命令にレギンが自分の部隊を率いて動き始める。
アルフレリックも最早戦いは避けられないと、弓を構える。その横に姿を隠していたハジメが現れる。
「アルフレリックさん」
「ハジメ。……はぁ、とうとう起こってしまった」
「なんというか、ここまで頭でっかちだったんですか? 長老というか、まとめ役らしからぬ振舞いですが」
「わからん。ジンが子供のころから知っているが、ここまで考え無しではなかった。一体どうしたというのか……」
「とにかく迎え撃つしかないですね」
「ああ。あの木槌を持つ者の腕を狙え。何としても門を守るのだ!」
苦い表情を浮かべながらもアルフレリックは指示を出す。
だがその時──不思議なことが起きた!!
ボンボボンッ!!
「うわっ!?」
「なんだっ!?」
「け、煙がッ!?」
突如、レギン達のど真ん中で煙が発生し、彼らは混乱する。
アルフレリックとハジメ達も何事かと思い、攻撃しようとした手を止める。
両社が足を止めていると、立ち込める煙の中を黒い影達が駆け抜ける。
影がすれ違う度にレギン達の部隊の熊人族達が手足をナイフ等で斬り裂かれ、「あぐっ」「ぐわっ」「うぅ」と悲鳴を上げる。
部隊の者達を一方的に攻撃しながら駆け抜け、影達は門の前に集結する。
「何者だ!?」
ジンが傷ついた者達を下がらせ、代わりに前に出て影達に正体を問いかける。
煙が徐々に腫れていき、影達の正体が明らかになる。
奇妙な集団だった。黒いマントにバンダナを身に纏い、顔を隠している。
背丈も体格もバラバラで、さらには黒いマフラーを靡かせた者達が7人の集団だった。
その内、真ん中の人物が一歩進み出てジンに相対する。
「我らの名を名乗る前に、1つ問いたい。貴殿たちはなぜあの者達へ攻撃しようとした?」
「ふん。なんだ? 貴様たちも森人族の者達か?」
「否。我らは影に生き影に消える者。だが、目の前で不条理な争いが起きようとしているのに静観できん」
「部外者ならば黙っていろ!! 邪魔立てするのならばあそこにいる忌み子と裏切り者、人間族と共にまとめて殺す!!」
「……それが理由か」
ジンの言葉を聞いた人物はマントに手をかけ、勢いよく脱ぎ捨てる。残りの6人もマントを脱ぎ捨てる。
マントの中から現れた彼らの格好は、全身黒ずくめの動きやすい軽装をしていた。両手には短剣やナイフ、吹き矢等の暗器を装備している。
「聞けい!」
「影に生き、影に消える定めを背負い!」
「闇より暗き深淵の使徒!」
「しかして、その心は義を忘れない!」
「大いなる元帥と」
「煌めく皇女の名の下に」
「我ら仁義の刃を振るう!!!」
クルッとターンを決めてビシッとポーズを決める集団。
なんだかハジメは既視感を覚えた。
「「「「「「「我ら! アビスブレイダー/ライダーアビィ/仮面アビス/アビィスニウム戦隊/深淵必滅隊/シンエンジャー/アビスX!!!」」」」」」」
空気が──凍った。
『『『…………………………』』』
御大層な口上を述べていたのに、最後の最後で全員の言葉が揃わなかった。
集団も動きを止めている。
「タイム」
真ん中の人物、おそらくリーダーが両手でTの字を作ると、集団全員が身を寄せ合って相談を始める。
「おい! さっき決めただろう? 我らの名前はアビスブレイダーだと!」
「いやこのマフラーからして仮面アビスだろう?」
「どこに仮面があるんだよ!? だったら元帥から聞いたライダーの方が良いって。ライダーアビィ!」
「貴方たち何言っているのよ! 私達チームなのよ? だったら戦隊よ戦隊! アビィスニウム戦隊!」
「ふっ。みんなセンスないですぜ? やっぱりここは深淵必滅隊でさぁ」
「いえいえ! それよりもシンエンジャーの方が!」
「シンプルイズベスト! アビスXこそが!!」
ギャイギャイと自分達の名前を主張し合う集団。
「なあ、ハジメよ。あの者達はなんと名乗ったのだ?」
「アビスライダー仮面戦隊しかわかりませんでした」
「珍妙な名前だな」
「うーん……なんというか、所々聞き覚えがあるんですよねえ」
ハジメは苦笑しながらゴーグルを下ろす。もしかしたらあの集団の中には、ハジメが思い浮かべている人物がいるのではないかと思い、ゴーグルで見てみる。
だが、しびれを切らしたジンが怒声を上げた。
「ええい! おちょくっているのか貴様ら!! いいだろう。邪魔するのならば、まずは貴様らを血祭りにあげてやる!!」
ジンの号令と共に無事だった熊人族と部隊の者達が集団──仮称:アビスライダー仮面戦隊に襲い掛かる。
言い合っていた彼らだが、すぐに止めると、武器を構えてバラバラに散る。
「いでよ! 深淵の使徒達よ!!!」
さらにリーダーの号令と共に茂みの中から彼らと似たような風貌の者達も現れて、ジン達に襲い掛かる。
突然の強襲にジン達は対応できず、もろに攻撃を許してしまった。
その結果は──蹂躙だった。
「ほらほらほら! 深淵の牙から逃げられるかあっ!?」
「影は捉えられない。逃げても無駄よ」
「デッドリーファントムストリーム!!」
亜人族の最強種と名高い熊人族とそれに匹敵する実力を持つ者達、ジンが集めた精鋭部隊がアビスライダー仮面戦隊に翻弄され、手も足も出ない。
彼らは個々の実力はジン達以上ではない。しかし、気配の強弱の調整に死角からの攻撃、そして連携の練度が凄まじい。時折、追加の煙を発生させる煙玉を使い、隠密性を上げている。
ジン達の得意な戦いを徹底的にさせない戦い方は、防壁の上から戦いを見ていたアルフレリックとハジメ達見えており、素晴らしい戦い方だった。
「お、おのれええええ!!!」
部下たちがなす術もなくやられる姿に、激昂したジンが愛用の武器である戦斧を振り上げて、先ほどのアビスライダー仮面戦隊のリーダーに襲い掛かる。
「ふっ」
それを鼻で笑い、リーダーは戦斧による一撃をするりとターンで躱すと、ジンの懐に潜り込み、ナイフを一閃。そしてすぐさま離脱する。
「ぐうっ!?」
胸元を斬り裂かれ、苦悶の声を上げるジン。しかし、流石は族長というべきか。武器を落とさず、構えている。
だが、突然体から力が抜けてすぐに取り落としてしまった。
「ぐうっ!? か、体に力がッ!?」
「ナイフには樹海の毒草から作った毒を塗っておいた。早めに解毒することをお勧めする」
「お、おのれ。卑怯な」
「我らや彼らを殺そうとしただろう? ならばこちらも手段を選ぶつもりはない。そうなる覚悟もなかったのか?」
「ぬぐぅ……」
言い負かされて悔しそうに歯噛みするジンは、毒が回ってきたのか膝をついてしまう。もっともこの毒は動けなくするだけなので命に別状はないが、そんなことを知らないジンは焦燥感にかられる。
見て見れば他の部隊の者達も制圧されていた。
もはや戦いの決着は付いた。
その時、ジンは何かに気が付いた。
「そ、その声、思い出したぞ! 貴様、ハウ「ていさぁ!!!」りごはうあっ!?!?」
何かを言いそうになったジンをリーダーが蹴り飛ばす。
リーダーは何やら焦ったように捲し立て始める。
「ななな、なにを言っておる! 我らは闇に生き闇に消える深淵の使徒!! 貴様とは初見だ! さあ毒が回りきらぬうちに敗北を宣言せよ! そうすればフェアベルゲンまで送り届けよう!!」
「ぐ、うう……」
リーダーの言葉に痛みに呻きながら、そうするべきだと考える。
もうすでに部隊は壊滅しているし、ハジメ達のベースキャンプを攻め落とすことも不可能だ。
シアやアルフレリック達への怒りは収まっていないが、頭の冷静な部分では負けていることを理解している。
もはやリーダーの言葉を飲むしかない。
そう考えていたジンの傍に、副官がやってきた。
どうやら傷は負っていないようで、しっかりと歩いている。
「す、すまん、副官。俺の代わりに、皆に撤退の、指示を」
毒により蝕まれている身体を必死に動かし、右手で副官の足を掴んで懇願するジン。
しかし、副官はそれに答えず、取り出した剣を一振りした。
「ぐあっ!?」
振るわれた剣は、足を掴んでいたジンの腕を斬り飛ばした。
突然の副官の行為にジンも、リーダーも、そしてハジメ達も動きを止めて、副官を見つめる。
「ふ、副官どの! 一体何を」
「まったく。これだけお膳立てしましたのに、満足に踊ることも出来ないとは。所詮獣は獣ですか」
右腕を斬り飛ばされて痛みに呻くジンに代わりレギンが問いかけるが、副官は答えずに冷たい声音で言い放つ。
今までの副官とは異なる態度に、ジンを始めとする熊人族達は混乱する。
それは様子を見ていたアビスライダー仮面戦隊のリーダーや、ハジメ達も同様だった。
「アルフレリックさん。あの熊人族はなんというものなんですか?」
「いや、詳しくは知らん。ある時からジンが副官にした者としか。なにせ他の長老のことについては深く聞かなかった」
「では、名前は? それくらいは知っているのでは?」
「ああ。名前は……」
副官の名前を言おうとして言い淀むアルフレリック。何と、副官の名前が出てこなかったのだ。いや、思い返せばあの副官は名乗ったことが無かった。ジンも名前を言わず、ずっと「副官」と呼んでいた。それをずっと気にも留めていなかった。
「何という事だ。我らはあの副官の名前を知らない。一体、あの者は何者なのだ!?」
「その正体ももうすぐわかると思います。……香織達に連絡が取れないのも気になりますね」
頭を抱えて混乱するアルフレリックの横で、ハジメはゴーグルで副官を調べる。それと同時に、香織達にも念話で連絡を取ろうとしているのだが、なぜか繋がらない。
そのことを頭の片隅で考えていると、副官はハジメに向かって剣を投げてきた。
「っと」
それを左腕で受け止める。いくら膂力に優れる熊人族とはいえ、防壁の上にいるハジメに向かって、とんでもない勢いで正確無比に投げるとは、些かおかしい。
「覗き見とは不快ですね。やはり私が直々に全てを終わらせましょう」
副官の身体が光り輝く。光の中で、熊人族だった見た目が大きく変わっていく。
熊の耳は消えて、髪は大きく伸びていく。
服装も白を基調としたドレス甲冑を身に纏う。
背中からはバサリと美しい銀翼が広がる。
その姿はオルクス大迷宮の最下層で出会った、エガリ・エーアストと瓜二つだった。
「神の使徒ゼクスト。不要になった盤上の駒を廃棄します」
「やっぱり神の使徒か。ガブモン!!」
ゴーグルの解析結果で副官の正体を看破していたハジメは、急な展開に動けない周囲の者達を守る為に前に出る。
当然、ガブモンも一緒だ。
「カードスラッシュ! 《マトリックスエヴォリューション》!!」
「ガブモン進化! ──ワーガルルモン!!」
ガブモンはガルルモンを飛び越えてワーガルルモンに進化を果たし、背中のサジタリウスを広げて飛び上がる。
ハジメも技能の〝空歩〟で空中に足場を作り出し、続けて飛び上がる。
「まさか神の使徒が亜人族の首脳陣に紛れ込んでいたとは。いや、教会が無い亜人族を洗脳しているなら当然か」
「我らの事を知っていますか。デジタルモンスターを連れていることと言い、かつての危険分子に匹敵するようですね」
「危険分子、ね。解放者の事か?」
ゼクストの言葉から解放者の事を問いかける。
「迷宮の攻略者ならば知っているのは当然ですか。やはり、消しましょう」
ゼクストは両手に大剣を取り出すと、切っ先をハジメとワーガルルモンに向けた。
「来い! 《メタルストーム》! 《ガルルバースト》! 《ガルルトマホーク》!!」
ハジメは宝物庫から自身に宿ったメタルガルルモンのデータを解析して生み出した武装を展開する。
左腕にガトリング砲《メタルストーム》。両肩と脚部には小型ミサイルポッド《ガルルバースト》。右腕には巨大ミサイル《ガルルトマホーク》を身に着ける。
ハジメは神の使徒ゼクストと戦闘を開始した。
■■■■■
樹海の中を走る人影が3つあった。
彼らは自分たちが保護している者達が、戦っていることを聞き、その場へと急行していた。
きっかけは今朝方、亜人族の部隊が何やら怪しい装備で移動しているのを樹海の探索中に見つけたことだった。
故あってフェアベルゲンの者達と接触したくない彼らだったが、流石に怪しかったので監視させていた。
その間に3人は彼ら本来の目的を果たすために、少し樹海の外へ赴いていた。
だがそこに、監視させていた者達からの伝令がやってきて、戦闘が始まったことを知らせてきた。
状況を聞くにやむを得ない場面だったことはわかるが、彼らはまだ戦闘訓練を始めて1ヵ月ほどしかたっていない。不測の事態が起きないとも限らない。幸い戦闘の場所は樹海の外れなので、樹海を通らずに駆け付けることが出来る。
駆ける彼らのうち、1人が何かに気が付く。
「むっ?」
「どうした?」
「樹海の方から何やら強い気配を感じます。おそらく、デジモンです。それもかなり強い」
「なんと。でしたら急ぎませんと」
「ええ。先行してください。私たち二人は後から追いつきます」
「それがいいですわ」
「かたじけない。マイ・ミストレス」
2人の言葉を受けた1人が急加速する。その行く先は、ハジメ達のベースキャンプだった。
■■■■■
一方、ハジメ達と神の使徒ゼクストの戦いは一方的な展開と結末になった。
「バカな、こ、こんなことが……!?」
ボロボロの身体を氷漬けにされて身動きできないゼクストは、自身の状況が理解できなかった。
戦いが始まってから、終始ハジメ達が圧倒していた。
ゼクストのあらゆる攻撃に対して、ハジメは自身が作り出した武装を駆使して対処した。
2本の大剣による剣術は悉く見切られた。そもそもワーガルルモンの格闘戦に付いていけなかった。
分解魔法による砲撃は、撃つ動作をした瞬間にメタルストームのガトリング弾を浴びせられキャンセルされた。
分解効果を持つ銀翼をばら撒こうとすれば、全てガルルバーストのミサイルで撃ち落とされた。
そうして全ての攻撃手段を封じられ、ボロボロになったところに、ワーガルルモンのカイザーネイルと、ガルルトマホークの巨大ミサイルが直撃し、地面に落とされた。そして、氷漬けにされて動けなくなった。分解魔法で氷を消そうとするのだが、なぜか消えない。
「なぜ……なぜなのですかっ!?」
「答える必要がないな」
本来ならば、全てのステータスが12000であり、あらゆるものを分解する魔法と自在に空を飛ぶことが出来るゼクストは強大な難敵だ。加えてエヒトから無限の魔力供給を受けているため、限界というものが存在しない。
そんなゼクストを、ハジメ達は無傷で圧倒して見せた。
なぜならオルクス大迷宮のオスカー邸で滞在中、ハジメ達は元神の使徒だったエガリと戦闘訓練を重ねていたからだ。
今後、エヒトの下僕である神の使徒と戦いになることはわかっていたので、戦い方と対策を徹底していた。氷が分解できないのも、分解魔法を無効化する魔法効果をミサイルに付与していたからだ。ミサイルが炸裂することで生み出された氷は、分解魔法では破壊されないのだ。
その成果が表れていたのだ。
解放者がいた時から神の使徒がスペックアップしていることを危惧していたが、懸念だったようだ。
奥の手であるハジメのハイブリット化を使うまでもなかった。
それでも警戒心を解かずに、ハジメはメタルストームの銃口を眼前に突き付けながら、ゼクストへ尋問を始める。
「さて、なんの目的で亜人族の中に潜入していたんだ……と言っても予想は出来るが」
「くっ。お、おのれ」
「大方、亜人族を神が望むような脆弱な種族のままにするためだろう?」
「……ふふふっ。その通りですよ」
ハジメの言葉に、吹っ切れたのか笑いながら肯定するゼクスト。
「亜人族を我が主エヒト様の玩具として、いつでも使えるように飼育しておく。それこそが私の役目。愚かな獣風情は主の盤上を賑やかす役目を果たすまで、みっともなく森の中で縮こまっていればよいのです」
「そのために亜人族達が発展するのを妨害し、魔力を持つ亜人を忌み子として追放させたんだな。500年前から」
「ええ。獣風情は騙しやすかったです。まあ森人族は多少厄介でしたが、数が少ないのなら大きな流れに逆らえない、同じく無力な存在です」
「洗脳魔法か。それで亜人族達の認識をいじっていたんだな。いや、そこまでしなくても簡単に意識を誘導するだけでも十分か」
完全な洗脳をする必要は無い。魔力を持つ者への悪感情を持っている者達の意識を少し過激な方向に誘導させれば、周囲を巻き込んで大きな流れを生み出していく。
500年前の魔力を持つ亜人族達の追放も、種を明かせば彼女の暗躍だったのだろう。
それを聞いたゼクストはニヤリと笑い肯定する。
「流石。考える頭のない獣とは違いますね。それも最早ここまでですか」
「そうだ。これ以上は、亜人族達の意思への介入はさせない」
2人の会話はアルフレリックとジン達にも届いていた。
アルフレリックはハジメから神の使徒が暗躍している話を聞いていたので、落ち着いて森人族達を落ち着かせていた。
一方、全くの寝耳に水の話だったジン達は混乱する。
信頼していたはずの副官が全く違う存在に変わり、見たこともない強力な魔法を使いまくった。挙句の果てに、長年にわたり自分達を獣と見下し、操ってきたというのだ。
もはや怒ればいいのか、嘆けばいいのかわからず、全く体が動かない。
彼らがこれからどうするか、ハジメは頭の片隅で考えながら、メタルストームの引き金を引こうとする。
だが、彼の頭にユエの言葉が過る。
──0から1になるのはもっと考えて決めてから──
神の使徒は人間ではない。エヒトにより作られた人形で、基本的に魂はないとされている。
それでも見た目は人間だし、意志を持っている。解釈によっては生きているともいえる彼女を殺すことに、ハジメは逡巡を覚えた。
やはり、まだハジメにも覚悟が定まっていなかった。
ゼクストがそんなハジメの逡巡を感じ、訝し気に目を細めたその時、ズシンッ──ズシンと大きな地鳴りが起き始めた。
ハジメはゼクストが何かしたのかと思ったが、ゼクスト自身も怪訝な顔をしていた。
そして、樹海の中から樹々をなぎ倒し、巨大な生き物が現れた。
──オオオオオオォォォ──ンンッッ──
全身が骨でできた巨大なアンデッドデジモンだった。
「ハジメ! デジモンだ!」
「ああ!」
ゼクストの傍から離れ、戦闘体制を取るワーガルルモンと、両手の武装を仕舞いデジヴァイスを構えるハジメ。
デジヴァイスにはデジモンのデータが表示された。
「スカルバルキモン。完全体。アンデッド型デジモン。必殺技は『グレイブボーン』と『デッドリーフィアー』」
フェアベルゲン近郊でダークタワーと融合進化して生まれたスカルバルキモンが、ここに現れた。
スカルバルキモンは驚愕する周囲に構わず、ハジメ達に向かってくる。
その巨大な前足を振り上げ、叩きつけてくる。
巨大な足で敵を踏み潰し、地中に埋没させる《グレイブボーン》だ。
「ワーガルルモン!」
「《カイザーネイル》!!」
ハジメの指示に即座に反応したワーガルルモンが、必殺技の爪撃で対抗する。
2体の技は拮抗し、強烈な衝撃が周囲に広がる。
「ぐっ、離れろハジメ!!」
ワーガルルモンの警告に反射的に飛び退くハジメ。同時に前足と爪が弾け、2体のデジモンも吹き飛ぶ。
ワーガルルモンは誰もいないところに静かに着地したが、知性のないスカルバルキモンは地面を大きく揺らす。
必殺技のぶつかり合いとスカルバルキモンが起こした振動によって、ゼクストを拘束していた氷に罅が入り始める。
これならばと、ゼクストは力任せに氷を砕き、戒めから抜け出す。
「不測の事態でしたが、幸いでした。ここは引くことにしましょう」
飛び上がり離脱を図るゼクストだが、彼女にスカルバルキモンの冷気が纏わりつく。
「な、何ですかコレは!? ……あ、ああああああああああああああああああああっっ!!!???」
冷気に触れた瞬間、ゼクストに途轍もない死の恐怖が沸き上がる。スカルバルキモンが身に纏う呪いの力だ。
感じたことのない猛烈な死の恐怖に動けなくなるゼクスト。そんな彼女にスカルバルキモンが迫る。
そのままスカルバルキモンは、ゼクストを一飲みにした。
これが数百年の間、亜人族を裏から操っていた神の使徒の最後だった。
ゼクストを飲み込んだスカルバルキモンはしばらく動きを止める。
この隙に何とか香織達を呼び戻そうと念話で呼びかけるハジメだが、相変わらず繋がらない。
(もしかしてスカルバルキモンのせいなのか)
原因を予想し、スカルバルキモンに目を向ける。
すると、スカルバルキモンから白銀の光が漏れ出し始めた。
さっきからおかしなことが起き過ぎだと内心で思っていると、ようやく香織に念話が繋がった。
もしかしたらスカルバルキモンのあの光のせいなのかと思いながらも、簡単に状況を伝える。
〝簡潔に説明するぞ!
フェアベルゲンから俺達を襲おうと、熊人族を中心とした集団がやってきた。
そいつらを、アビスライダー仮面戦隊と名乗る謎の集団が強襲。
乱戦になっているところで熊人族の1人が神の使徒になって、族長の腕を斬り落とした。
そのまま俺は神の使徒と戦いになった。
そしたら今度は、樹海の中からでかいアンデッドデジモンが出てきて神の使徒を喰いやがった〟
一息にさっきから起きていたことを説明するが、当然向こうは困惑する。
〝どんな状況!?!? 〟
〝俺にもわからん! とにかく急いで戻って来てくれ! エンジェウーモンの力が必要だ! 〟
アンデッド型デジモンが相手なら、聖なる力を持っているエンジェウーモンの技が効果的だ。
それだけを伝えると念話が切れた。
スカルバルキモンを見ると白銀の光も収まっていき、再び動き始めた。
カパリと大きな口を開くと、そこに白銀の光が収束していく。
その光がなんなのか知っているハジメは急いで声を出す。
「全員離れろ!!!」
ハジメの声と同時に、スカルバルキモンの口から光が放たれた。
それはゼクストの分解魔法の砲撃。あらゆるものを分解する滅びの光が、一直線に突き進む。
幸いにもその先には何もなく、樹海の外に向かっていた為、荒野に着弾する。
そして、爆発も煙も何も起こさず、全ての物がボバッという音共に塵になった。
「ゼクストの魔法を吸収したのか!?」
「まずいぞハジメ。このままあいつを野放しにしたら全てが消される」
「ああ。とにかく俺達で引き付けるぞ!」
飛び立つハジメとワーガルルモン。彼らは細かく攻撃し、とにかく分解魔法による砲撃をさせないように立ち回る。
しかし、そうなるとスカルバルキモンの巨体が暴れ回ることになる。
アビスライダー仮面戦隊や亜人の部隊の者達が危険にさらされる。
「くっ、急いでこの場を離れるぞ! 倒れている者も連れていくのだ!」
アビスライダー仮面戦隊のリーダーが指示を出す。敵対した者達だが、見殺しにはできないということだろう。現にリーダーはジンの身体を抱えて移動しており、他の者達もリーダーの指示に従い、手近にいた者達を助け出している。
彼らの精神性にハジメは好感を覚えた。
一方困惑しているのはジン達だった。
「な、なぜ我らを助けるのだ?」
「無益な殺生は好まん。それに貴様らが死ねばフェアベルゲンの者達が復讐を考えかねん。ならば、生き恥を晒して帰れ!!」
そう言いながら安全圏内へと足を進める。
「こちらにこられよ! 急げ!!」
アルフレリックが門番にベースキャンプの門を開かせながら叫ぶ。
森人族達もアビスライダー仮面戦隊と共に、動けない部隊の者達を助けていた。
だがその時、スカルバルキモンから溢れる呪いの冷気が広がってきた。
冷気に囚われた者達は死の恐怖を味わってしまう。
心の強い者達は何とか動けるが、大部分が動けなくなってしまった。
ハジメとワーガルルモンが何とかこの場からスカルバルキモンを引き離そうとするが、それよりも冷気が広がるのが速い。
このままでは死の恐怖に囚われ、本当に肉体が死んでしまう。
この呪いを浄化できるのは、香織とエンジェウーモンだけだ。
呪いを浄化できないハジメとワーガルルモンでは、彼らを助けられない。
どうすればいいのかと、ハジメが歯噛みしていると、
──その時、再び不思議なことが起きた!!!
突然、呪いの冷気が一転に収束していく。
あり得ない現象の中心に1人の男が立っていた。なんと、その男が呪いを吸収しているのだ。
冷気が消えたことで動けるようになった者達が、男へ目を向ける。
皆の視線を集めつつ、男が呟く。
「呪いとは闇に属する力。ならば深淵の貴族たる我が扱えぬはずがない」
その声を聴いた、アビスライダー仮面戦隊の者達が歓声を上げる。抱えていた部隊の者達を取り落としながら。
「ぼ、ボス!!」「マスター!!」「我らが主!!」
「無事か。我が使徒達よ?」
彼らの呼び声に答える男。さらに歓声が大きくなる。
一方、ハジメは男を見て驚愕ともやっぱりともいう顔をする。
「お、お前は、いや、やっぱりお前だったのか!! ──浩介!!」
「久しいな
「……やっぱ、初っ端から深淵卿全開か……」
何となくわかっていたが、浩介は深淵卿状態全開だった。
今も香ばしいポーズをしながら、左手で顔の半分を覆っているし。
「再会を喜びたいが、今はこの哀れな
懐に手を入れる浩介。そこから何かを取り出す。
それを見たハジメは驚愕する。
「それはデジヴァイスか!? だが俺のとは形が違う」
「行くぞ!!」
浩介が取り出したデジヴァイスを構えると、何かが浮かび上がる。
「スピリットエヴォリューション!!」
デジヴァイスから闇が溢れ、浩介の身体を包み込む。
初めて見る現象にハジメ達が驚いていると、闇の中から何かが姿を現した。
「レーベモン!!!」
胸・両肩・両肘に獅子の意匠をあしらい、金の装飾を施された漆黒の鎧を身に纏った青年の姿をしたデジモン、レーベモンだった。その手には漆黒の槍が握られている。
「人間が、デジモンになった!?」
「俺達みたいに融合したわけじゃないのに!?」
驚くハジメ達を横に、レーベモンは槍を構えるとスカルバルキモンと戦闘態勢を取った。
スカルバルキモン
世代:完全体
タイプ:アンデッド型
属性:データ
陸上最大の哺乳類とされる化石のデータに、幾つかの化石のデータが偽造されて再製された巨大なアンデッド型デジモン。感情や知性は無く、体内に張り巡らされた神経のデータだけで反射的に体を動かしているため、容赦も加減も無い攻撃を自らが動けなくなるまで繰り返す。屍のデータから無理やりに蘇生させられた呪いか、デジコア(電脳核)より止め処なく溢れ出す黒い冷気は、どんなデジモンをも死の恐怖に陥れるという。必殺技は巨大な足で敵を踏み潰し、地中に埋没させる『グレイブボーン』と、黒い冷気の空間の中に敵を閉じ込め、死ぬまで果てしなく追いつめる『デッドリーフィアー』。
前話の裏でベースキャンプで起きていた内容と、その後に起きた超展開でした。
いろいろありますが、今回もラストでぶっこみました。
深淵卿こと浩介はパートナーデジモンではなく、スピリットで進化していくスタイルです。
実はこれ、1章20話「ご唱和ください我の名を!」で少し暗示していました。
この時に深淵卿は「闇に埋もれて眠るがいい」と呟いており、これはアニメデジモンフロンティアでレーベモンに進化する木村輝一のセリフです。
あと数話前のスピリットエヴォリューションの正体の時、感想の予想に深淵卿の名前が無くて、流石深淵卿だと思いました(笑)。
さて、なんで深淵卿がここにいるんだとか、どうしてレーベモンになれたのかだとか、次話から明かしていきます。お楽しみに。