ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る   作:竜羽

67 / 107
感想・評価・お気に入り登録ありがとうございます。
今話でミレディとの闘いが決着します。最後の大どんでん返しをお楽しみに。

・前回のあらすじ
ミレディの言葉から大迷宮を攻略する糸口をつかんだハジメとガブモンは、絆を導に進化を果たす。その姿に続くように、香織とエンジェウーモン、ユエとルナモンも絆を確かなものとしてパワーアップを果たした。そして浩介も今まで制御できずに使わずにいたビーストスピリットを使用。カイザーレオモンへと進化した。決着の時が近づく。


25話 最強チームへ

 トレイシーは深淵卿こと遠藤浩介に対して、恋愛感情は持っていない。

 勇者も含めた神の使徒の中で特異な存在で、強い信念を持っている興味深い少年だった。

 立ち位置としてはシエルと同じだ。

 ヘルシャー帝国の皇女として生まれた彼女は、父に似て戦闘狂でもあり、とても強い好奇心を持っていた。だから彼らを手元に置いてみた。その判断は結果的に大当たりだった。

 突然の婚約破棄から、皇帝の命を無視した国外追放による転落劇。そこに襲来してきた謎の銀髪の女。正直、トレイシーとしてはあの時に殺されてしまうと思ったのだが、興味だけで手元に置いていた2人が退けたのは嬉しい誤算だった。

 それからも皇女として生きていたら、絶対に起こらなかったことの連続だった。内心ではこの状況を少し楽しんでいた。

 

 だが、ライセン大迷宮の最深部に到達してからは、全く役に立てていない。

 ハジメの事を甘い覚悟しか持たない軟弱者かと思ったが、一歩も引かずにミレディ達に立ち向かい、圧倒的に不利な状況を覆してしまった。

 彼に続くように他の者達も奮起し始めた。

 そして、浩介までも制御できなかったビーストスピリットを使いこなし、新たな力を手に入れた。まさしく浩介の言った通り、ハジメの存在が皆を新たな世界へと導く燈火となった。

 

「はあ。……彼の覚悟が甘いなら、今のわたくしは、状況に甘えているだけですわ」

 

 戦いへの強い思いを自負し、強者としての自覚を持っていたトレイシー。しかし、今の彼女はハジメ達の戦いを眺めているだけの、その場の状況に甘えて見ているだけの少女だ。彼女の力では及ばない戦場があるなら、そこに飛び込まないでどうする。ましてや、そのための手段があるのに!! 

 

「まさかこの展開を見越して、わたくしにこれを預けたんですの? シエル」

 

 ドレス風戦闘服の胸元から取り出したものを見て呟く。

 それは金と空色のカラーリングのデジヴァイス。しかも浩介の物と同じタイプだった。

 

「アビスゲート卿があの力を使いこなしたというのなら。わたくしもやってみせますわ! 従者に戦わせるだけなど、わたくしの矜持が許さないですわ!」

 

 デジヴァイスを掲げるとそこからスピリットが浮かび上がり、トレイシーの前に出てくる。

 

「スピリット! エヴォリューション!!」

 

 トレイシーを猛烈な風が包み込んだ。

 

「ぐうぅ、ぐぁぁぁぁああ!!!」

 

 スピリットから流れ込んでくる荒々しい力に苦悶の声を上げるトレイシー。その勢いはどんどん増しており、風というより烈風と言えるほどになって来ている。

 このスピリットはシエルが持っていた風のスピリット、その内のビーストタイプのスピリットだ。ヒューマンスピリットは、今もシエルが持っている。しかし、風のビーストスピリットの方は、浩介と同じくシエルも制御することが出来ず、持て余していた。それを何故かシエルは、迷宮の攻略前にトレイシーに渡していたのだ。彼女はお守り代わりと言っていたが、もしかしたらトレイシーに何かの可能性を感じていたのかもしれない。

 

「とんでもない力ですわ。でも、コウスケやナグモハジメが見せた様に、わたくしも畏れを受け入れてみせますわ! ただ守られるお姫様など、冗談ではないですわ!!!」

 

 烈風の中心でトレイシーが吠えた時、ビーストスピリットが彼女と一つになる。

 顔に、腕に、体に、足に。

 スピリットの全ての力が宿った時、烈風の中から新たな闘士が飛び出した。

 

「シューツモン!!」

 

 現れたのは鋭い鉤爪と金色に輝く翼を広げた鳥人型デジモン。一見、落ち着いた大人の女性風の姿だが、エンジェウーモンとは違い気だるげな雰囲気を纏っている。

 

「トレイシーさん!?」

「まさか進化したのか?」

「びっくり」

 

 香織、ハジメ、ユエが驚く中、ラヴォガリータモンと戦っていたカイザーレオモンが笑みを浮かべる。

 

「それでこそ我が主だ」

 

 一方のミレディとラヴォガリータモンはシューツモンを警戒する。

 

「まさかあのエグゼスの子もデジモンになるなんて。もう予定外にもほどがあるよ」

 

 やれやれと肩をすくめるミレディ。

 しかしすぐさま構えを取り、ラヴォガリータモンへと攻撃の指示を出す。

 

「《ワイルドブラスト》!!」

 

 空気中に漂っていた粉塵が次々に爆発していく。それに対し、シューツモンは翼をはためかせ、体を回転させる。

 

「ハアアアアアアア!!!」

 

 するとシューツモンを中心に烈風が巻き起こり、その風によりラヴォガリータモンの粉塵は吹き飛ばされ、狙いとは別の場所で爆発する。

 これこそが風の闘士の力を受け継いだシューツモンの力。この空間の全ての空気を掌握し、操ることが出来るのだ。しかし、閉鎖空間であるため限界があることと、初めての進化のために十全とは言えない。だが、いままで厄介だったラヴォガリータモンの予期せぬ爆破は、これで封じられた。

 

 トレイシーがビーストスピリットを使用したことは、同じ属性のスピリットを持っているシエルにも伝わった。

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

「そうですか。ビーストスピリットを使用しましたか」

 

 その手に風のヒューマンスピリットを持ちながら、スピリットの共鳴というべきか、ビーストスピリットが使用されたことを感じ取るシエル。

 スピリットから視線を上げると、巨大ミレディ・ゴーレムへと怒涛の攻撃を加えるワーガルルモン達の姿があった。シエルはそこに向かって身を躍らせた。

 

「《ホーリーアロー》!!」

「《ダークアーチェリー》!!」

 

 光と闇。相反する2つの属性の矢が、巨大ミレディ・ゴーレムの手足を貫き、粉砕する。

 

「《カイザーネイル》!!」

「ちぃ!!」

 

 無防備になった胴体にワーガルルモンの爪撃が迫るが、自身にかかる重力を後方に掛けることで緊急離脱する。

 

「《アルナスショット》!!」

「まだだよ!!」

 

 サジタリウスからのレーザー砲で追撃するが、重力を操り射線上に足場のブロックを落とすことで防ぐ。

 

「人間のしぶとさ、舐めないでね!」

「舐めていないさ! 全力で行くぜ!!」

 

 重力魔法を駆使して完全体三体の攻撃を捌くミレディ。驚異的な魔法の腕前だ。

 周囲に足場ブロックの破片を集めて自分を中心に旋回させる。まるで星を中心に回る衛星のような岩塊は、ワーガルルモン達の攻撃を防ぐ防壁となり、その間に巨大ミレディ・ゴーレムは手足を修復しようとする。

 

 そこに音もなく忍び寄る白い影。

 

「どうも」

「えわ!? な、なな!?」

 

 突然目の前に現れたシエルに驚くミレディ。ワーガルルモン達の存在に気を取られて、すっかり忘れていた。

 それも仕方ない。なにせシエルの技や戦闘スタイルは隠密・暗殺向きだ。巨大なゴーレムには歯が立たない。

 それゆえに気配を消して、岩塊を隠れ蓑にして近づくことが出来た。

 

「お、驚いたけれど君に何ができるんだい?」

「こんなことが出来ます」

 

 シエルはデジヴァイスを取り出し、スピリットの力を開放する。

 

「それは!?」

「スピリットエヴォリューション!!」

 

 シエルの身体が風に包まれて、スピリットと1つになる。

 顔に、腕に、体に、足に。

 現れるのはシューツモンと同じ、風の闘士の力を受け継いだヒューマン形態のデジモン。

 

「フェアリモン!!」

 

 妖精(フェアリー)の名前の通り、蝶々のような羽をもつ可憐なデジモン。薄いピンクの衣装に身を包み、バイザーで目元を隠した顔には蟲惑魔的な笑みを浮かべている。

 

「君もかい!?」

「《ブレッザ・ペタロ》!!」

「うぎゃああああああ!!??」

 

 フェアリモンが両手の指から小さな竜巻を起こし、巨大ミレディ・ゴーレムの胴体を吹き飛ばす。手足が無くなり重量が軽くなっていたことと、重力魔法で空中に浮いていたことで吹き飛ばされる。

 

「ナイスパス! 《カイザーネイル》!!」

「ひぎゃああああああ!!??」

 

 吹き飛ばされた先にいたワーガルルモンが思いっきり腕を振るい、爪で斬り裂きながら弾き飛ばす。まるでバレーボールのアタックだ。

 飛んでいった先にはクレシェモンがいた。

 

「……ぶっ飛べ」

「うわあああああああ!!??」

 

 クレシェモンの強靭な脚力は、飛んできた巨大ミレディ・ゴーレムを真上に蹴り飛ばす。

 そこにはエンジェウーモンが浮かんでいた。右足には聖なる力がチャージされて、眩い光が宿っている。それに加え香織の得意な身体強化魔法も重ねがけして。

 

「さっきのお返しよ! 《ホーリーチャージキック》!!」

「ぶへええええええええ!!??」

 

 ズガンという重低音と共にエンジェウーモンの蹴りが突き刺さる。

 度重なる連続攻撃に、ゴーレムの核を守るクロンデジゾイドの装甲に罅が入っていく。

 そのまま巨大ミレディ・ゴーレムは吹き飛んでいった。

 

「あ、ハハ。わかっていたけれど、大したものだよぉ。でも、まだ動けるからね。最後まで足掻くのが、人間さ」

 

 吹っ飛びながらも戦う意思を失わない。

 

 だが、飛んでいく先で真紅の炎が吹き上がった。

 

「あの炎は。コロナモンか?」

「私達が出来た。ならコロナモン達も出来る」

 

 クレシェモンの言葉を肯定するように、炎の中から紅蓮の獅子が飛び出した。

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 朦朧とする意識の中でシアとコロナモンは、周囲の様子を何となく感じていた。

 兎人族であるシアの優れた聴覚と、獣型デジモンの鋭い感覚が、変化する状況を把握していく。

 そして知った。

 ハジメの夢への思いと、それを支える香織達の強い覚悟。

 人とデジモンという違いすぎる両者の未来を、自分に見ていたことが嬉しかった。

 しかし、同時に無力感も抱いていた。

 そこまで思われていたのに、今の二人はミレディに手も足も出ずに倒れ伏している。

 無力な自分が嫌だったから、強くなろうと特訓したはずだった。

 ユエ達に頼んで、無茶苦茶しごいてもらった。おかげでコロナモンはファイラモンに進化した。身体強化魔法にも磨きをかけて、ライセン大渓谷の魔物を瞬殺できるようになった。

 なのに、今この場では無様に倒れ伏しているだけ。

 悔しいという思いが一人と一体の心を占める。

 

「このまま終わっていいんですか?」

「いいわけがない」

 

 シアの言葉にコロナモンが応える。シアの心に炎が灯る。

 

「倒れたままでいいのかよ」

「いいわけないですぅ」

 

 コロナモンの言葉にシアが返す。コロナモンの闘志が燃え盛る。

 

「ハジメさんが言っていました。『互いの恐ろしい一面を見ても、遠い隔たりを超えることが出来る絆を結ぶことが出来るか』って」

「ワーガルルモンも言っていた。『恐怖をもたらす恐れを、畏敬を抱く畏れとして受け入れられるか?』って」

 

 意識が朦朧としているからこそ、シアとコロナモンはテイマーとパートナーの繋がりを辿って、お互いの心を通じ合わせていく。

 

「難しいことはわからないです。でも確かにデジモンの力は怖いって思いました」

 

 ラヴォガリータモンに掴まれた時の、肉体を燃やし尽くされるほどの熱を思い出すシア。

 

「俺も人間の罠に嵌められて怖いって思っている」

 

 誘導された足場が爆発して、自分のものよりも熱い炎に焼かれた苦痛を思い出すコロナモン。

 お互いにそれぞれの種族の恐ろしさを、身をもって味わった。

 それを踏まえて、シアとコロナモンは叫ぶ。

 

「でもそれが何なのですか!! デジモンよりも怖いものなんて、私はいっぱい知っています!!」

「シアを追い出した奴らを見た時から、人間には酷いやつがいっぱいるって知っていた!!」

 

 思いを吐き出すたびに、2人の心が近づいていく。

 

「「だからデジモンも人間も、それだけで否定なんかしない!! 何より今、倒れていることの方が嫌だ!! 弱いままの自分なんて大っ嫌いだ!!!」」

 

 思いが重なり、2人を新たなステージへと導く。

 朦朧としていたシアとコロナモンの意識が覚醒し、2人は起き上がる。

 コロナモンは炎を身に纏い燃え上がる。

 シアはデジヴァイスを取り出し、カードを構える。

 やるべきことはただ一つ。自分達も力を振り絞り、この大迷宮の試練を乗り越える。

 

「カードスラッシュ!」

 

 カードをデジヴァイスにスラッシュする。するとカードがブルーカードに変化していく。

 

「マトリックスエヴォリューション!!」

 

 シアのデジヴァイスから放たれた光が、コロナモンに降り注ぐ。

 

「コロナモン進化!」

 

 コロナモンの肉体がデータに分解され、再構築されていく。

 成熟期のファイラモンから、紅蓮の炎に包まれながら、さらにその先へと進化する。

 四足歩行から四肢が発達し、再び二足歩行になる。

 コロナモンとは全く違う強靭な肉体になり、鬣が伸びていく。

 尻尾と額の炎も煌々と燃え盛り、まるで炎の衣を身に纏っているようだ。

 これこそがコロナモンの完全体。一見怖そうだが、仲間の為にはどんな困難にも立ち向かう心の強さを持った獣人型デジモン。

 

「フレアモン!!」

 

 進化したことで傷を治したフレアモンは飛んできた巨大ミレディ・ゴーレムの胴体に対して、拳を構える。

 

「うえええええええええ!!??? ここでいきなり進化した!?」

「はあああああ!!!!」

 

 まさかの事態に狼狽えるミレディに構わず、拳に獅子の闘気と火炎を集中させるフレアモン。そして、飛んできた巨大ミレディ・ゴーレムの胴体に向かって繰り出す。

 

「《紅蓮獣王波(ぐれんじゅうおうは)》!!!」

「みぎゃああああああああ!!??」

 

 フレアモンの拳から獅子を象ったエネルギー波が放たれ、直撃する。

 それが限界だった。

 ゴーレムの核を守っていたクロンデジゾイドの装甲が砕け散り、中の核が放り出される。

 それをフレアモンがキャッチする。

 

「あ~あ。負けちゃったか。流石にここから逆転する方法はないからね。砕いちゃっていいよ」

「やらない。それはハジメの、シアの思いも踏みにじる」

「……はぁ。甘いねえ~」

 

 核から聞こえてきた声に、そう答えるフレアモン。シアと心を重ねた時、向こうのやり取りを聞いていた。だから攻撃も核を壊さず、装甲だけを砕くように放ったのだ。

 駆け寄って来るワーガルルモン達にフレアモンは核を掲げて見せた。

 

 そして、デジモン達は試練を突破した。

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 一方のテイマー達の戦いも終わりが近づいていた。

 シューツモンの操る風がラヴォガリータモンの粉塵を吹き飛ばしたおかげで、ハジメ達の不利な状況は覆った。

 

「ぐ、流石に初めてですから、長くは持ちません。急いで決めてください!!」

 

 だが、シューツモンに始めて進化したトレイシーでは、周囲の空気を長時間にわたって操ることはできない。彼女の言うとおり、早く決める必要があった。

 

「《メルダイナ―》!!」

「《シュヴァルツ・ドンナー》!!」

 

 ラヴォガリータモンの熱線と、カイザーレオモンの黒色の気弾がぶつかり合う。

 その周囲では重力魔法で浮遊するミレディを倒そうと、ハジメ達が怒涛の攻撃を繰り出していた。しかし、それに対してミレディも一歩も引かずに最上級魔法を連発する。

 

「〝極大・蒼天槍〟!! 〝極大・天雷槍〟!!」

 

 炎属性最上級攻撃魔法〝蒼天〟3発分を圧縮した槍に、雷属性最上級攻撃魔法〝天灼〟3発分を圧縮した槍を繰り出すミレディの魔法が乱れ飛ぶ。重力魔法で圧縮しているので、通常の魔法より貫通力が桁違いだろう。

 

「ぬう。負けない。〝氷闇撃〟!!」

 

 魔法使いとしてのプライドを刺激されたユエが、クレシェモンの力を使ったオリジナル魔法で対抗する。《アイスアーチェリー》と《ダークアーチェリー》を合わせた魔法が、ミレディの魔法とぶつかり合う。しかし、ぶっつけ本番で作った魔法では、ミレディの魔法の槍を撃ち落とせず、少し軌道を変えるだけだった。

 しかし、それでいい。なにせあの槍の向かう先にはハジメと香織がおり、2人の攻撃の邪魔をさせないためだったのだから。

 

「《ガルルトマホーク》!!」

「《ホーリーアロー》!!」

 

 それぞれのパートナーの技を放つ。大型ミサイルと光の矢がミレディに当たりそうになるが、自身を浮遊させていた重力を反転させて落下することで躱す。

 そこにサジタリウスを起動させてハジメが接近する。

 

「貰った!」

「捕まえちゃイヤ~ン♪」

 

 手を伸ばしミレディを拘束しようとするハジメだが、ミレディは小さな体を捻ることでするりと躱す。

 

「〝禍天(かてん)〟!」

「あがっ!?」

 

 置き土産に小さな重力球をハジメにぶつける。〝絶禍〟ほどではないが、突然の重力球に対応できず、ハジメは真っ逆さまに落下する。

 

「よくもハジメ君を!! うおりゃああああああ!!!」

 

 激昂した香織が、身体強化魔法を全開にしてアイギスを投擲する。

 フリスビーのように回転しながら飛んでいくアイギスは、そのままミレディへ直撃すると思われた。

 

「こんな攻撃当たらないよ!」

 

 ひょいと再び浮遊しながら攻撃を躱すミレディ。だが、躱したと思ったことで油断してしまった。飛んで行ったアイギスの先に、

 

「行きなさい! シア・ハウリア!!」

「はいですぅ!!」

 

 シューツモンの風で撃ち出されたシアが、砲弾のように飛んできたことを。

 猛スピードで飛んできたシアは、そのままドリュッケンを振りかぶり、アイギスを殴りつけ打ち返す。アイギスは再びミレディに向かっていく。

 

「ふぇ? はにゃあああああ!!??」

 

 まさかの攻撃にミレディは、さっきまでの余裕を無くして回避する。

 しかしそこにシアが迫る。シューツモンが必死に風を操り、シアの飛んでいく軌道を変えたのだ。しかしそこで力尽き、シューツモンはトレイシーに戻ってしまった。

 これが最後のチャンス。シアはドリュッケンを手放して身軽になると、身体からフレアモンが身に纏う炎を噴き出し、さらに勢いを加速させる。

 

「これで、終わりですうう!!!」

 

 拳を振りかぶり、ミレディに突き出す。偶然だが、その光景は巨大ミレディ・ゴーレムに引導を渡したフレアモンの姿に重なっていた。

 迎撃の魔法を使おうにもシアの方が速い。

 ミレディの危機にラヴォガリータモンが助けに入ろうとするが、

 

「《シュヴァルツ・ケーニッヒ》!!」

「《コキュートスブレス》!!」

 

 カイザーレオモンの黒いオーラを纏った突撃に吹き飛ばされ、ハジメの冷気により氷漬けにされる。抜け出すことはできるだろうが、もはや間に合わない。

 

「ああああああ!!!」

 

 そして、シアの拳がミレディの身体を粉砕──しなかった。

 

 ミレディの身体に抱き着いたシアは勢いをそのままに、ミレディと一緒に吹っ飛び足場のブロックに激突。痛みで飛びそうになる意識を必死に保ちながら、ミレディの手足に組み付き、自身の身体で拘束した。

 香織が八重樫道場で習った柔術の基礎を、触りだけシアに教えていた。それをハジメの望む結果で戦いが終わるようにと、シアは咄嗟に使って見せたのだ。

 

「ぐえええええ!!? ギブギブギブゥ!!」

「放しません! 放しませんよう!! 全力☆全開☆フルパワー!! ですぅ!!」

 

 もっともシアが力を込めすぎているせいで、ミレディのゴーレムの身体がメキメキと音を立てながら変形している。ニコニコマークの仮面も変な形に歪み始めていた。

 ミレディが悲鳴を上げているのだが、シアには聞こえていないようで、一向にミレディの体を放そうとしない。

 駆け寄ってきた香織、ユエ、トレイシーはそれを見て何とも言えなくなる。

 

「……シア、わざと?」

「大迷宮での罠とか、あの文章とかでイライラが溜まっていたのかな?」

「それと火傷を負わされたこともでしょうね。その鬱憤を晴らそうという事でしょうか」

 

 シアの気持ちはわかるのだが、そろそろ何とかしないとミレディが変なオブジェになってしまう。

 

「わわ、わかったわかった!! 負けましたあ!! ミレディちゃんの負けです!!」

 

 その前にミレディの敗北宣言が響いた。

 同時にカイザーレオモンとハジメが抑え込んでいたラヴォガリータモンも動きを止めた。そして、シア達のいる足場のブロックの少し離れた所に、魔法陣が2つ現れた。

 

「シア。もうその辺でいいよ。戦いは終わったみたいだし」

「ふぇ? もう終わったのですか?」

「ん。だからそろそろミレディを放して。壊れちゃう」

 

 香織とユエに言われて、戦いが終わったことに気が付くシア。ミレディもようやく解放されたが、やっぱり体が歪んでしまったのか、ひょこひょこと変な動きで離れる。

 

「頑張ったね、シア」

「ん。特訓の成果が出た」

「カオリさん。ユエさん。う、うえええぇ!! わ、わだじぃ」

 

 褒められて感極まったのか、シアは破顔して泣き出す。

 2人はそんなシアを優しく抱きしめて、頭を撫でてあげる。トレイシーはそんな3人を見守っていた。

 そこにハジメと進化を解いた浩介がやってきて、トレイシーと同じように見守る。

 やがて泣き止んだシアがハジメ達に気が付いて、近づいて声をかける。

 

「よくやったな。シア。ありがとう」

「えへへ。そんな、お礼を言われるほどの事はしてないですぅ」

「いいや」

 

 テレテレと照れるシアに、ハジメは笑みを浮かべながら頭を下げる。

 

「俺の我儘を聞いてくれて、ミレディを倒さずに戦いを終わらせてくれた。本当にありがとう」

「そ、そんなの当然ですぅ。私もハジメさんの夢が好きですから。分かり合えるなら、傷つかない方が良いに決まっていますから」

 

 傷つけられてきたシアだからこそ、ハジメの夢の体現者でもあるミレディを傷つけたくないという願いに共感できたのだ。

 

「お疲れ様です。トレイシー皇女」

「貴方もですわ。アビスゲート卿。わたくし、この大迷宮に来てよかったですわ」

 

 ハジメ達がお互いを労っている横で、コウスケとトレイシーもお互いに労う

 

「ですが、まだまだですわ。進化できる時間を延ばす必要がありますし、エグゼスも使いこなさなければならない。課題はたくさんありますわ」

「それは俺もです。カイザーレオモンとしての戦い方を身に付けたり、スピリットの力を使いこなさないと。まだまだこれからですね」

 

 和やかな空気が流れるところに、浮遊ブロックに現れた魔法陣から何かが現れた。

 

「おーい! ハジメ!!」

「ワーガルルモン!!」

 

 それはワーガルルモン達だった。巨大ミレディ・ゴーレムの核を持っているのはフレアモンだった。ハジメ達に近づくと核を置いてき、シアの側に向かう。

 

「ふええ。コロナモンですよね? 進化したのは感じていましたが」

「ああ。今は完全体のフレアモンだぜ」

「かっこよくなりましたねえ」

 

 パートナーの進化した姿に驚くシア。小さな子ライオンだったコロナモンが、威風堂々とした獅子のフレアモンになったのだ。自分の目で見ると、改めて嬉しく思う。

 

 シアだけでなくハジメ達はそれぞれのパートナーを労い、また労われる。

 今回の戦いで苦難を乗り越えた彼らは、また1つ強くなれた。

 名実ともに、最強チームへと至っていく。

 

「「あのぉ~、いい雰囲気で悪いんだけどぉ~、ちょっといいかなぁ~?」」

 

 そこに2つの場所から、同時に同じ声が聞こえてきた。ハジメ達がそちらを見ると、巨大ミレディ・ゴーレムの核の横に座り込んだミレディがいた。その後ろにはラヴォガリータモンもやって来ており、その身を横たえている。

 戦う様子は無いようなので、デジモン達も戦闘態勢を解き、進化前に戻る。

 

「「いろいろ想定外もあったけれど、君たちは合格だよ。デジモン達が出てきた魔法陣に入れば、先に行けるよ」」

「わかりました。ではミレディさんも抱えて」

「「あー。それはいいよ」」

 

 ハジメ達がミレディを抱えていこうとするが、それはミレディ自身に拒否された。

 

「「結構無茶しちゃったからね。もう力が残っていないんだ」」

 

 その言葉を裏付けるように、ミレディの身体が燐光のような青白い光に包まれ始める。

 

「そんな」

「カ、カオリさんの回復魔法で」

「無理だよ。私の魔法じゃゴーレムは治せない!」

「だ、だったらハジメさんに」

「すぐに調べる!」

 

 まさかの事態に香織達は狼狽し、浩介とトレイシーは目を見張り、ハジメはゴーグルを下ろして解析を始める。

 

「「気にしないでいいよ。もともともう限界だったんだ。最後にデジモンとテイマーのいい絆を見ることが出来た。悔いはないよ」」

「神を殺すのはいいの?」

「てっきり私達に頼んでくるのかと思った」

「「それは私達の目的で、君達の目的じゃないでしょ? まあ君達なら目を付けられると思うから、覚悟はしておいた方が良いね。あ、そういえば君達の目的とか聞いていなかったね」」

「ああ。それは」

 

 香織はちらりとハジメを見るが、解析に集中しているのかさっきから黙っている。なので、香織が自分達の素性と、最終目的が地球への帰還であることを説明する。

 

「「ふむふむ。なるほど。別の世界から。まあ、あのくそ野郎ならやりそうだね。だったら1つアドバイス。神代魔法は7つ全部手に入れるんだよ。じゃないと君達の望みは叶わない。場所はオー君の迷宮のメイドちゃんと、社畜ちゃんに聞いているよね?」」

 

 メイドちゃんはフリージア、社畜ちゃんはエガリの事だろう。

 確かにハジメ達はオルクス大迷宮を出るときに、他の大迷宮の情報を二人から貰っている。何せ今のトータスでは、半分ほどの大迷宮の場所がわからなくなっているのだ。その中には思わぬ場所もあり、聞いたときは驚愕した。

 香織達は頷く。

 

「「じゃあ……言い残すことは……無いね」」

「……随分としおらしいですわね。あの煽るような口調やセリフはどうしましたの?」

 

 トレイシーは今のミレディに、迷宮内のウザイ文章を用意したり、戦闘中の神経を逆なでするような口調でしゃべったりした様子とは無縁の誠実さを感じていた。

 

「「あはは、ごめんね~。でもさ……あのクソ野郎共って……ホントに嫌なヤツらでさ……嫌らしいことばっかりしてくるんだよね……だから、少しでも……慣れておいて欲しくてね……」」

 

 そこまで言うといよいよ時間が無くなってきたのか、ミレディの身体から光が消え始める。言葉も途切れ途切れになって来ている。

 その光が蛍火の如く、淡い小さな光となって天へと登っていく。死した魂が天へと召されていくようだ。とても神秘的な光景である。

 おもむろにユエがミレディの傍へと寄って行った。もう動く力もないのか、小さなゴーレムの身体は動かない。

 

「「何かな?」」

 

 囁くようなミレディの声。それに同じく、囁くようにユエが一言、消えゆく偉大な〝解放者〟に言葉を贈った。

 

「……お疲れ様。よく頑張りました」

「「……ふふ。ありがとね……君達のこれからが……自由な意志の下に……あらんことを……」」

 

 まさかの労いの言葉に、ミレディは少し驚いたように呆然とした雰囲気を漂わせた後、お礼の言葉を返した。続けてオスカーと同じ言葉、解放者の理念を伝えた。

 それを最後に光は消えて、ミレディは沈黙した。

 

 解放者の最後を見届けた一同はしんみりとした雰囲気になる。

 

「……最初は、性根が捻じ曲がった最悪の人だと思っていたんですけどね。ただ、一生懸命なだけだったんですね」

「……ん」

 

 ミレディのことについて言葉を交わすユエとシア。

 香織はふとさっきから喋らないハジメの方を見る。相変わらずゴーグルをつけたまま、ミレディを見ている。最初は倒さずに無力化しようとしたミレディが、死んでしまったから落ち込んでいるのかと思った。しかしそれにしては静かだし、気持ちが沈んでいる様子もない。

 

「ねえ、ハジメ君」

「先を急ぐぞ。いつまでもここにいても話が進まない」

 

 そう言うと先に進む方の魔法陣に向かうハジメ。香織達はその様子を訝しげに見ながらも、後についていく。

 

 そして、魔法陣の輝きに包まれて、ハジメ達が転移した先には──。

 

「やっほー、さっきぶり! ミレディちゃんだよ!」

 

 十四、五歳くらいの金髪ポニーテールの少女が、右手で横ピースした手を添えてウインクしていた。

 

 




〇デジモン紹介
カイザーレオモン
レベル:ハイブリッド体
属性:ヴァリュアブル
タイプ:サイボーグ型
伝説の十闘士“闇のスピリット”を受け継ぐデジモン。“漆黒の獅子”と呼ばれ、そのボディはクロンデジゾイドの一種で、漆黒に輝く「オブシダンデジゾイド」と呼ばれる特殊な金属で覆われている。そのため、防御能力が高いだけでなく、装甲自体が鋭利な鋭さを持っている。カイザーレオモンが駆け抜けた後は、一陣の黒い風により、全てが切り裂かれると言われている。必殺技は黒色の気弾を放つ『シュヴァルツ・ドンナー』と、全身に纏った黒のオーラで敵を撃砕する『シュヴァルツ・ケーニッヒ』。


11月から始めたミレディとの闘いがようやく終わりました。
トレイシーがシューツモンになる展開は当初は無かったのですが、それだと彼女が完全にお荷物なので、急遽展開を変えました。今後、どうなるのかお楽しみに。
さて、衝撃的な最期でしたがこれは当初から決めていました。スリープはスリープでも、コールドスリープからの生身のミレディちゃん復活でした。
ありふれ零を読み返しながら、次話を書いていきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。