ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る 作:竜羽
ありふれの原作開始です。
今話の投稿前に設定集も投稿したのでよければそちらもどうぞ。この作品でのデジモンの設定とかも載せています。
01話 さらばありふれた日常
月曜日の朝。多くの人が休日の終わりを実感する憂鬱な朝だ。
しかし、高校二年生に進級した南雲ハジメにとってはさほど苦にならなかった。
それは今の学園生活が充実しているからだ。
「行ってきます」
「いってらっしゃい。香織ちゃんと雫ちゃんによろしくね」
「うん」
母である南雲菫に見送られながら、ハジメは家の玄関を出る。そのまま家の横にあるガレージへ行くと、そこに止めてある愛車のバイクを引っ張り出す。
去年、デジタルワールドを冒険するときに乗り物があった方がいいと考え、免許を取得。両親の仕事の手伝いで稼いだアルバイト代をすべて使い、愛車を購入したのだ。
持っているカバンを収納スペースに入れ、エンジンをかける。ドゥルドゥルルルッという駆動音が響き、エンジンに問題がないことを確認したハジメはヘルメットをかぶり、バイクに跨る。
そこに玄関から出てきた菫が声をかけた。
「言い忘れてた。今日は忘れずに早く帰ってきなさいよ。誕生日会やるんだから」
「もちろん。忘れるわけないよ。今日はガブモンが生まれた日なんだから」
「そうよね。あんたが忘れるわけないか」
菫が感慨深げに呟く。
ハジメがガブモンと別れてから今日で6年目。未だリアルワールドとデジタルワールドの境界にゲートが開くことなく、デジモンがリアライズしたという話もない。
当然、ハジメ達テイマーズはパートナーデジモン達と再会していない。
それでもハジメ達テイマーズは、デジモンと出会った思い出を大切にしていた。
アクセルを踏み、ハジメは学校に向けて走り出した。
20分ほどバイクを走らせて学校に着いたハジメは、すぐに教室に向かわずに昇降口で一人たたずんでいた。
その姿を登校してきた生徒達がチラチラ見る。
ハジメの容姿は特別優れているわけではない、平凡な顔立ちだ。しかし、過去の経験からか一本の芯が通った雰囲気を身に纏い、大人びた印象を与える。しかも太極拳を習っていることで適度に引き締まっており、細マッチョといえる体格をしている。
加えて学業も優秀で、この学校のエリートが集まる国際進学科で常にトップの成績を維持し続けており、体育の時間でも優れた成績を収めている。
そんな学校の有名人であるハジメだが、彼をもっと有名にしている理由がある。
「ハジメ君おはよう!今日も早いね」
ニコニコと微笑みながらハジメに声をかけたのは白崎香織だった。
成長した香織は腰まで伸ばした艶やかな黒髪に、少し垂れ気味の優し気な大きな瞳。スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。
誰もが間違いなく美少女と断言するまでに成長した香織は、ハジメの姿を目に収めるとパタパタと駆け寄ってきた。
そしてハジメの腕に抱き着こうとしたその時、
「おはよう、ハジメ!」
横から出てきた別の少女の腕にハジメの腕は取られてしまい、香織の手は空を切る。
「し、雫さん?」
「今日も早いわね」
突然現れたのは八重樫雫だった。
全く気配がしなかったのは、彼女の家に伝わる剣術の技術によるものなのだろうか?
「まあ、バイクで登校しているし。あのそれより」
「バイク通学かあ。ちょっと怖いけど便利そうだし、私も免許取ろうかしら?そうしたらいろいろ教えてくれる?」
「僕でよかったら教えるよ。あのでもですね?それよりも香織さんが」
「おはようハジメ君!」
香織を無視してハジメと話す雫の間に香織が割込み、二人を引き離す。
「あら香織。おはよう」
「何今気が付いたみたいにしているのかな?かな?」
「だってハジメに会いたかったんだもの。私の気持ち、親友のあなたならわかってくれるでしょ?」
「確かに私もハジメ君と会いたくて、雫ちゃんを無視したことあるからわかるけど。今のはどう見ても私が話しかける場面だったでしょ!」
「アピールするときは積極的に行くのがお母さんの教えよ。遠慮なんてしていられないんだから」
ふふんと胸を張る雫。ついでに人差し指を口に当ててウインクまで決めちゃった。
周囲の生徒は男女問わずメロメロだ。
雫もハジメと出会ってから三年。美しく成長し、その凛とした佇まいだけでなく、女の子らしい可愛さも身に着け始めた。
時折見せる可愛い姿にギャップを感じて彼女のファンになるものは後を絶たず、今では香織を超える数のファンが学校だけでなく町中にもいる。
「というわけで教室に行きましょうか、ハジメ」
「あ、また!」
するりと近づいた雫がハジメと腕を組む。
香織がそれに憤慨。対抗するように雫と反対側のハジメの腕に腕を絡める。
そのままハジメは二人と腕を組んで校舎の中に入っていった。
「……くそ、白崎さんと八重樫さんとイチャイチャしやがって」
「本日の粛清委員会の集まりは装備のアップデートだ。今度こそかの南雲ハジメに天誅を!」
「対南雲用汎用人型決戦兵器アマノゲリオンをけしかける。これこそが人類補完計画の全容だ!!」
あとにはハジメへの嫉妬の念を洩らし続ける男子生徒と。
「今日の先手は八重樫さんね。一歩リードかしら?」
「でも白崎さんも負けてないわ。恋敵を引きはがすことよりも傍にいることを選ぶんだもの」
「果たして南雲君はどっちを選ぶのかしら?どっちにしてもあの二人なら南雲君に釣り合うわよね」
三人の関係を面白そうに予想する女子生徒が残された。
■■■■■
三人がこのような関係になったのは高校受験が終わった頃だ。
ハジメと香織は希望していた国際進学科に、雫も普通科とはいえ同じ学校に入学できて一安心。
早速お祝いをやろうと、テイマーズのみんなも一緒に恒例となったルキの家に集まってパーティーをした。
子供達だけでなく、その家族も交じってそれぞれが望む進路に進めたことを喜び合うパーティーはとても盛り上がった。
その最中に香織はハジメと抜け出して二人きりになると、受験勉強中ずっと胸の中に秘めていた思いをハジメに告げた。
「ハジメ君。あなたが好きです」
突然の告白に驚きながらも、ハジメが応えようとしたその時だった。
「待って!」
雫が二人の間に割って入ってきたのだ。そして、
「私も……私もハジメ君が好き!」
雫もハジメに告白したのだった。
だって、雫もハジメのことが好きだったのだ。
かっこいいという周囲の評価とは裏腹に、雫はかなりの少女趣味だ。
幼少の頃は童話のお姫様に憧れ、危機から救い出してくれる白馬に乗った王子様と結婚することを夢見ていた。
しかし、その夢は現実では実現しないことをある事件で思い知り、心の奥底に封じていた。
だがそこに現れたのだ。
雫の危機をさっそうと救ってくれた王子様が。
それがサラマンダモンからガルルモンと共に守ってくれたハジメだった。
自分と香織を守ってくれたその姿に、封じていた夢が顔を覗かせた。
そして三年もしてやっと再会できたとき、冷静にふるまっていたがとても嬉しかった。
なのに、彼の隣には香織がいた。
そもそも再会からして香織が先であり、しかもとてもドラマチックだと思った。
そのあともハジメと出会うときは香織と一緒だったし、積極的に話しかけているのも香織だった。
自分は香織のおまけに過ぎないと思い、心を抑圧していった。
でも、ハジメは雫のこともちゃんと見てくれていた。
雫が好きそうなデジモンの写真やイラストを贈ってくれたし、ハジメの母の菫の漫画のファンだと知ると作業部屋に特別に招待してくれた。
その時、自分が少女趣味なのは変ではないかと聞いてみると「そんなことはない。雫さんに似合っているよ」と言ってくれた。
香織からもらった宝物だったのに、壊れてしまったコロモンのぬいぐるみを自作してクリスマスに渡してくれた。もう製造が停止していたため手に入らないと思っていたのでとても嬉しかった。
(なお、再び光輝に見つかってしまい、捨てるように諭されたときは彼の頬を思いっきり往復ビンタした)
そうしてハジメへの気持ちが溢れそうになって来ていたのに。
ハジメが香織に連れ出されたのが偶然目に入って、嫌な予感がしたから後を付けたらハジメに告白しているのが目に入った。
悔しかった。
自分も同じタイミングで彼に出会ったのに。
なんで香織ばかり。
親友なのに、同じデジモンテイマーじゃないのに、なんで香織ばかりが。
酷い嫉妬の念が溢れてくる。
本当なら親友である香織の恋を応援しなければいけないのに、ちっともそんな気持ちになれなくて、そんな自分が嫌で気持ちがグチャグチャになった雫はその場を逃げ出そうとした。
しかし、そんな彼女の体を誰かが引き留めた。
「逃げちゃダメ」
「っぅえ?」
小声だが力強いその声はルキだった。彼女はそのまま雫を、ハジメと香織のいる方に放り出そうと力を込める。
「ちょ、ちょっとルキ!?」
「あんたもさっさと言ってきなさいよ。ハジメが好きだって」
雫が抗議するとルキは雫の耳元に口を寄せ、雫にしか聞こえないように囁く。
「な、何言って!?」
「お泊り会とかであれだけのろけておいてごまかせると思っているの?私もジュリもシウチョンもアイもあんたの気持ちなんてとっくに気づいているのよ。多分香織もね」
「で、でも私、親友の香織の邪魔なんてできない。それに二人の方がお似合いよ」
「何遠慮してんのよ。今はそんなの邪魔なの。親友だとか、お似合いに思ったとか、そんなことよりも雫の心の方ずっと大事。何より例え選ばれなかったとしても、そのままだと雫が二人を祝えないじゃないの。だから雫も思いっきりやりなさい。……大丈夫。ハジメを信じなさい。あんた達が惚れた男でしょ」
そうして雫はハジメと香織の前に姿を現した。
驚いた眼をする二人を見てそれまで心の中にあったいろいろなものは吹き飛んだ。
後に雫はこの時のことでルキにとても感謝したのだった。
それからはもう酷かった。
いきなり二人の美少女から告白されたハジメは処理落ちしたPCのようにフリーズしてしまい。
実はルキだけでなく、パーティーに参加していた全員が覗いており一斉に姿を現してハジメに答えを迫り。
南雲夫婦が息子を囃し立て、弄り回し。
香織の父の白崎
雫の家族である八重樫家の面々は、ハジメが八重樫の家に連なるに相応しいか確かめようと家の忍者屋敷、もとい道場に連れていく計画を立て始める。
テイマーズの面々はその場の雰囲気に便乗し、タカトにルキとジュリのどちらと付き合うのだと迫った。その結果、タカト、ルキ、ジュリまで慌てふためく。
そして、ハジメに告白した香織と雫は、お互いが親友でありながら恋敵であると認め合ったのだった。
その後、ハジメはどうすればいいのかわからず、春休みの間中自分探しの旅に出かけたり、ハジメを香織と雫が追いかけたりとかなりの騒動になった。
追いついた二人がハジメの泊まっている宿の部屋に突撃したり。
慌てたハジメが思わず二人から逃げてしまい、二人との逃走劇を繰り広げてしまったり。
気が付けば見知らぬ廃村に迷い込んでしまい、奇妙な出来事に巻き込まれ三人で命からがら逃げ延びたり。
突然の雨に濡れてしまい、山小屋の中に避難して焚火を起こしその火に当たりながら夜通し話し合ったり。
その結果、ハジメは二人に必ず答えを出すからと告げ、二人も自分を選んでもらえるように魅力的な女の子になると誓い合った。
その日から香織と雫はハジメと積極的に過ごし、しかし彼が不快になるようなことはせず、女としての魅力を高めるようになったのだった。
ついでにハジメは時々八重樫家の道場に連行されて門下生と百回組手をやらされたり、智一からとても低い声の電話がかかってきたり、雫をお姉さまと慕う秘密結社『ソウルシスターズ』の襲撃を受けるようになってしまい、危機対応能力が向上することとなった。
■■■■■
「そろそろ私の教室ね。残念だわ、もっと一緒にいたいのに」
雫は普通科なので他の二人とは別の教室だ。
「お昼休みは一緒に食べるんだし大丈夫だよ」
「今日は晴れだし中庭で食べる?」
「そうね。じゃあ、また昼休みに」
「やあ、雫。香織。おはよう。また彼の相手をしているのか?全く本当に二人は面倒見がいいな」
雫が教室に入ろうとすると一人の男子生徒が三人、否、雫と香織に話しかけてきた。
そちらのほうを見た雫と香織は困った顔を向けると、「おはよう」「おはよう、天之河君」と答えた。
そう。話しかけてきた男子生徒は天之河光輝。
サラサラの茶髪と優し気な瞳に180センチメートル近い高身長に、細身ながら引き締まった体格。容姿端麗、学業優秀、スポーツ万能という三拍子揃った完璧超人になっていた。
そして、男子生徒たちから唯一ハジメに対抗できる存在として期待されている。なぜなら、
「雫そろそろ剣道部に戻らないか?中学校までずっと続けていた剣道を辞めるなんてもったいないよ。香織も道場でやっているように剣道部のマネージャーをやってほしい。君の的確なサポートがあれば俺たちは全国大会で優勝できる。南雲にわざわざ付き合わなくてもきっと二人のためになる」
優しい声で二人に諭すように言う光輝。
遠まわしであるが二人をハジメから引き離すようなその内容に、香織はムッとした顔になり、雫は目を吊り上げ光輝を睨みつけるように見る。
光輝は二人のその様子をハジメに付き合わされているからだと思い、さらにニコニコする。
これが光輝がハジメに対抗できると言われている理由である。
ハジメが独占している学園の二大女神を、あの手この手で引き離そうと何度も話しかけるその姿勢にいつか奇跡が起きると思われているのだ。
もっとも香織と雫がハジメに真剣に好意を寄せていることを知る生徒からは、他人の恋愛に横から口を出すのはどうなのだと眉を顰められているが。
「光輝。去年から何度も言っているけれど、高校では剣道はやらないわ。手芸部でやりたいことをやるって何度言えばわかるの?」
雫は光輝にきっぱりと言い切る。
実は雫は高校に入学した際、部活動をそれまで続けていた剣道ではなく手芸部にした。
ハジメやテイマーズと交流するうち、周囲に流されずデジモンが好きということを貫く彼らを見て自分のやりたいことをやりたいという思いが強くなり、高校入学を機に好きな可愛いぬいぐるみを作る手芸をやりたいと思った。
そこでそれを家族に相談。剣道は家の道場でもできるので、一生に一度の高校生活、好きなことをやったほうがいいということになり、雫は手芸部に入部した。
そこで雫は日々可愛いぬいぐるみやクッションを作成するようになり、毎日が充実している。去年の文化祭での手芸部の展示では一年生ながら、雫のゴマモンのぬいぐるみ(デジモンであることは伏せられた)が高評価を受けた。
余談だが、凛とした雫が可愛いぬいぐるみを作るというギャップに、雫を慕う女子生徒がさらに増え、秘密結社『ソウルシスターズ』の勢力は大幅な拡大を果たした。
「私も何度も言っているけれど剣道部のマネージャーをするつもりはないよ。私の夢のためにやることはいっぱいあるんだから」
香織も雫に続いて光輝の提案を断る。
香織は部活動に所属していないが、国際進学科に所属しているため毎日勉学に勤しんでいた。そしてそれがない日はハジメや雫などの友人達に、別の学校だがタカトやルキたちテイマーズの面々との日々を過ごすことを優先している。
「あと私はハジメ君の相手をしているんじゃないの。ハジメ君と過ごしたいから一緒にいる。これも何度も言っているよね?」
「私も香織と同じよ。ハジメと一緒に過ごしたいからこうやって別のクラスだけど話しをしているわ」
「うっ、ふ、二人は本当に優しいな。南雲、いくら勉強ができるからってその優しさに付け込んで引き留めるのはどうなんだ?」
二人の反論に気圧された光輝は、それをハジメに気を使ったものだと思い込み、今度はハジメに言葉を向ける。
これは光輝の昔からの悪癖で、自分の信じたことを疑わないことから、それが否定されれば、その否定を頭の中で自分に都合のいい理由で間違いだと思い込むのだ。
今までは光輝が善人であり、彼が信じたこともほとんどが世間一般では正しいことだったため、この悪癖が問題になることはあまりなかった。しかし、今この光輝の悪癖が悪いように作用してしまっていた。
二人がどれほど自分の意思でハジメと共にいるのだと言っても聞き入れず、離れるように諭す。反論してもハジメが縛り付けていると解釈して、ハジメを責める。これが半ば日常と化しているのだ。
雫が溜息を吐き、香織がハジメの腕を引っ張りこの場を離れようとすると、ハジメは二人の間から前に出た。
「天之河君。まずはおはよう。最初に会ったら挨拶するのは当然だと思うんだけど、なぜ僕にしなかったんだい?」
「え?あ、そんなことは。ちゃんと挨拶をした」
「うん。したね。香織さんと雫さんには。でも僕はされていないと思うんだけど、どうなんだい?まさか僕を差別して無視していたのかな?それって立派ないじめだよね?」
「い、いじめ!?俺がそんなことするわけないだろう!」
「ふーん。あ、そう。まあ、別にどうでもいいけど。それでなんだっけ?僕が二人を付き合わせているだっけ?まあ、確かに二人にはこんな面倒くさい僕に付き合わせているっていう自覚はあるよ?」
「ほら見ろ!だったら早く二人を開放して」
「でもそれを強制した覚えはないね。僕としてはいつ愛想をつかされても仕方ないと思っているし、それで二人が幸せになれるなら潔く身を引きたいさ。でもね」
そう言うとハジメは香織と雫を見る。
二人はハジメのそばから離れる気は絶対にないという顔をしている。
「二人が離れる気がないのなら離さないし、そう思われないように僕は生きている。もしも無理やり離そうとするのなら」
ハジメは一歩光輝に近づく。無意識にハジメは光輝に対し威圧感を出しており、光輝は一歩後退る。
「覚悟をしてもらおうか、天之河君」
「ッッ」
その声音があまりに冷たく感じ、光輝は二の句が継げず沈黙した。
いつの間にか周りの生徒たちも固唾を飲んで様子を見ている。
その状況にハジメは内心、
(やばい!思わずやっちゃった!?)
かなりパニクっていた。
光輝が三人に絡んでくるのは高校に入学してからほぼ毎日のことで、いつもは雫と香織が相手をしており、ハジメはあまり関わっていない。
それは雫と香織の配慮であり、光輝とかかわることで、ハジメが傷つけられないようにするためだった。
もしも光輝がハジメのことをガルルモンと一緒にいた少年だと気が付き、デジモンテイマーだと知られれば大騒ぎになる。
そうやって去年の一年間は、光輝がハジメに話しかけても一人が割って入り、一人がその場を離れるという対応をしていた。
その中で光輝に自分たちの意思を伝え、納得している関係なのだと理解してもらおうとしたのだ。
だが、一年経っても光輝は理解せず、二人をハジメから引き離そうとしている。それに憤りを貯めていたハジメが思わず前に出てしまい、脅すような形になってしまったのだった。
デジタルワールドという未知の世界を旅し、デ・リーパーと命がけの戦闘をパートナーとともに潜り抜けたハジメの威圧は、ただ優秀なだけの高校生である光輝には強すぎて反論することを許さない。
ハジメはどうやってこの場を収めたものかと頭を悩ませていると、
「おっす!光輝、雫、香織。おはよう!お、ハジメもいるじゃねえか。おはよう」
「あ、龍太郎君。おはよう」
「おはよう、龍太郎」
空気なんて関係ないとばかりに現れ挨拶をしてきた大柄な男子生徒の名は坂上龍太郎。香織、雫、そして光輝の幼馴染であり、見た目通りの大柄な性格の少年だ。
空手も習っており、雫の家の八重樫道場の稽古にも参加している。
彼は四人、ハジメと光輝の間にある微妙な空気を無視して近づいてくる。
ハジメは内心「ナイス、龍太郎君」と賛辞を送りながら光輝から目を離す。
「おはよう、龍太郎君。この間貸した格闘マンガどうだった?」
「おお、あれか!最高だったぜ!特にライバルとのタイマン中に横やりを入れてきた黒幕に二人で立ち向かうっていう展開が熱かったぜ!しかも全部終わった後に改めて勝負を再開して、紙一重で主人公が勝って、ライバルを認める。漢の友情だった」
「昔の漫画だったから気に入ってもらえるか不安だったけど、楽しんでくれたならよかったよ。ライバルが主人公の外伝もあるからまた貸すよ」
「本当か!?ありがたいぜ」
ちなみに、なぜハジメが龍太郎とマンガの貸し借りをしているのかというと、八重樫家で百人組み手をしていたハジメとたまたま道場に来ていた龍太郎が組み手を行い、その強さを認め合ったからだ。龍太郎は光輝と違いそこまでデジモンに対して偏見は持っていないのと、細かいことを気にしない性格なので雫と香織も光輝のように警戒していない。
「そろそろ予鈴が鳴るわ。じゃ、また後でね」
「ハジメ君、私たちも行こう。またね、龍太郎君」
「そうだね。それじゃまた放課後にね、龍太郎君」
龍太郎のおかげで空気が変わったこの瞬間を逃さないようにハジメたちは自分の教室に向かう。
ちなみに光輝と龍太郎は普通科で雫とは別クラスだ。
「あ、ま、待て南雲。雫と香織も話はまだ」
「光輝、俺たちも早く教室行こうぜ。朝礼に遅れちまう」
光輝はハジメの威圧感から解放され我に返ると三人へ手を伸ばすが、龍太郎に言われその手を戻す。そして自分たちの教室に向かうのだった。
■■■■■
あっという間に午前中の授業が終わり、昼休みになった。
ハジメはそれまで開いていたノートを閉じると、両手を伸ばし、固まった体をほぐす。
隣を見ると香織も同じように体をほぐしており、なんだから可笑しくなりクスリと笑った。
机の横にかけてある鞄を手に取りその中にお弁当箱とその他諸々が入っているのを確認すると席を立ち、香織に話しかける。
「香織さん、お弁当食べに行こうか」
「うん。まずは雫ちゃんを誘おうか。黙って食べていたら拗ねちゃうし」
悪戯っぽく笑うと香織も鞄を手に取り、席を立つ。
なぜ二人が鞄を手に持っているのかというと、午後は移動教室の授業となっているからだ。そしてその授業内容はデジタル技術の授業なのだ。
デジモンへの偏見とデジタル技術の進歩は別物であり、国際社会に出ていくならパソコンを扱えるのは当然だ。よって国際進学科ではパソコンを使用する授業もカリキュラムに組み込まれており、生徒たちは学校から支給されたノートパソコンで授業に参加する。
ハジメと香織はお昼ご飯を食べたらそのまま次の教室に行くつもりなのだ。
二人が雫の教室に着くと何やら中が少し騒がしい。
入口から覗いてみると、雫の前に別のクラスのはずの光輝と龍太郎がいた。
耳を澄ましてみると、どうやら光輝が雫を昼食に誘い、それを雫が断っているようだ。龍太郎はどちらかといえば雫の意思を支持しているようで、光輝に二人で食堂に行こうと言っている。
「ごめん、ハジメ君。私行ってくるね」
「うん。僕は朝のこともあるし、ここで待っているよ」
香織はハジメに断りを入れると中に入っていく。
学校の有名人である香織が現れたことで主に男子生徒が騒ぐ中、香織は雫のもとに行き、光輝のもとから連れ出そうとする。すると香織が現れたことで光輝はさらに躍起になり、二人と昼食を食べようと言い始めた。
これは長くなるかなとハジメが思っていると、ふと入り口近くの席から「シクシク」という、すすり泣くような声が聞こえた。見てみると一人の男子生徒が体を机に突っ伏して泣いていた。
「今日も出席確認で名前呼ばれなかった。それどころかグループ発表で余っても気にも留められなかった。いくら手を挙げても声を張り上げても指名されない。俺は生きているのか?実は登校中に交通事故に遭って幽霊になっているのか?へ、こんな俺が幽霊になっても誰も気が付かないんだ。つまり生きていても死んでいても一緒なんだ」
なんとも悲しい内容に、顔は見えずともハジメは誰なのかわかり声をかける。
「おーい、いろいろ大丈夫かい?浩介君。心配しなくても君は生きているよ」
「そ、その声はハジメか!!」
ハジメの言葉に突っ伏していた男子生徒が顔を上げる。
「はいはい、君の友達の南雲ハジメだよ。浩介君」
「ハジメエエエェェッ!!心の友よ!」
男子生徒の名は
それは異常なほどに影が薄いというもの。何故か存在感が皆無と言っていいほどないのだ。
それは物心ついた頃からすでにそうなっており、家族にさえ忘れられることがある。しかも一度認識されたとしても時間がたてば、みんな浩介の存在を忘れており、もはや超能力とでもいえる体質なのだ。
この体質のせいで浩介は友人が出来づらく、学校に出席しても教師に存在を忘れられ、後日欠席扱いされ、補習授業を受けさせられかけたことがあった。
もうこんな自分の体質に嫌気がさしていた浩介。しかし、彼はこの学校で運命を変える出会いをした。
「ううっ、俺もうハジメとずっと一緒にいたい」
「いや、ちょっと気持ち悪いよ」
「俺もそう思うわ!でも仕方ないだろう。お前しか普通に俺に気が付いてくれないんだし、お前と話した後だとみんな俺を認識してくれやすいんだ!」
そう。なぜかハジメだけは浩介を普通に認識し、話しかけることができた。
入学式の後、クラス分け表のどこにも自分の名前が無くて絶望していた浩介をハジメが見つけ、共に教師に伝えたことから二人の交流は始まり、今では気の合う友人同士だ。
「どんなに目立つ格好してもダメだったんだ。もう俺にはお前しかいないんだ」
「いや、一つだけ注目の的になったやつがあるじゃないか。去年の文化祭の演劇でやったやつ。コウスケ・E・アビスゲ」
「その名前を言うなああああっっ!!あれは封印したんだああああっっ!!」
去年、ハジメは浩介の体質を何とかする方法を考えた際、演劇に出て知名度を上げてみてはどうかという案を提案した。
香織と雫も賛同し、四人で演劇部に乗り込み、出演を交渉。その結果、見事に浩介は演劇の役を与えられた。
劇の主人公の前に立ちふさがる、謎の戦士。
深淵の闇より生まれた、罪を背負いながらも己が使命のために刃を振るう孤高の暗殺者。
漆黒のコートと闇色のサングラスに身を包み、闇夜を駆ける。
その名はコウスケ・E・アビスゲート卿!
という配役だった。
「なぜか浩介君の名前だけは覚えてもらえず、アビスゲート卿のキャラだけは定着したんだよね」
「ううっ、何であんなことになったんだ」
再びシクシク泣き始める浩介。ちなみに、元々の配役名は謎の戦士というだけで細かい設定は決まっていなかったのだが、リハーサルで浩介が目立とうとアドリブを入れまくった結果、アビスゲート卿という存在が生まれた。したがって割と自業自得な部分がある。
この騒ぎでハジメがいることに教室の中の生徒は気が付き、ざわざわと騒ぎ始める。
男子生徒は嫉妬と少しの悪感情を、女子生徒は興味を、光輝はムッとして顔を歪め、さらに香織と雫に声をかけ始める。そうして周囲から様々な視線を受け止めながら、そろそろ香織と雫のところに行こうとしたところで……。
凍り付いた。
ハジメの目の前、香織と雫に話しかけていた光輝の足元に光り輝く円環の幾何学模様が現れたからだ。
その時、ハジメの脳内にはいろいろな可能性が駆け巡った。
明らかな異常事態。人間が起こしたものなのか?自分たちに害をもたらすものなのか。
ハジメが無意識の分析をしている間に、その模様はどんどん大きくなり、教室中に広がっていく。
教室中の生徒と午前中の授業の片づけをしていた社会科の教師、畑山愛子先生が騒ぐ中、ハジメはハッとして行動に出る。
教室の入り口にいるハジメは、すぐに後ろに下がればこの模様から抜け出せた。だがそんな選択肢はハジメの中にはない。
なぜなら香織と雫が中にいるからだ。彼女たちを見捨てて逃げるなんて絶対にありえない。
「香織!雫!」
とっさに駆け寄り、二人の腕を掴み、教室の外に連れ出そうとする。
しかし無情にも模様は広がり切り、一つの魔法陣として完成してしまった。
爆発したように光が溢れ、視界が真っ白に染まる。
畑山先生の「皆!教室から出て!」という声だけが響き渡り、そして光が消えた。
廊下に出ていた生徒や騒ぎを聞きつけた教師たちが教室の中をのぞくと、そこには誰もおらず、食べかけの弁当や倒れた椅子、散らばった教科書などがあるだけで、中にいた人間の姿はどこにもなかった。
その日、一つの高校の一クラスにいた人間が、突然消え失せるという怪事件が発生。
その被害者の中には別のクラスの生徒も数名おり、その親族や友人たちは消えた生徒を探すため奔走し始めるのだった。
■■■■■
溢れていた光が収まり、ハジメは目を開けた。
目の前には咄嗟に腕を掴み、教室の外に連れ出そうとした香織と雫がおり、彼女達も目を開けたところだった。
彼女の無事な姿に安堵すると、状況を見極めるために周囲を見渡す。
目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。縦横10メートルほどはあるそれには後光を背負った中性的な顔立ちの人物が描かれていた。長い金髪がまるで翼のように広がっているため、天使のように見える。
その広げた両腕の中には草原や山々が描かれており、そこには人間や動物の姿もある。まるで描かれている人物が世界の全てを慈しんでいるように見える。
だが、ハジメはそれが慈しんでいるのではなく、もっと別の何かに思えて、目を逸らした。
さらに辺りを見回してみると、どうやら自分たちは巨大な広間のような場所にいることに気が付いた。
まるでテレビで見た海外にある大聖堂の中のような、白亜の大理石でできた建物で、あの時教室にいた生徒と畑山先生がいた。
そして、そんな自分たちを見つめる視線。自分たちは今、台座のようなものの上に立っており、その台座を見上げるように三十人近い人々がいた。
何者なのかと観察していると、突然ハジメは体の奥から強い衝撃と痛みを感じた。
「うっ!?」
「ハジメ君?」
「ハジメ?」
香織と雫が心配そうに寄り添うが、ハジメは自分の体のいうことがどんどん利かなくなっていく感覚に立っていられない。
やがて視界もぼやけ、耳も聞こえなくなり、遂にハジメは意識を失った。
「きゃあっ!?」
香織は意識を失ったハジメを支えようとするが、支えきれず悲鳴を上げながら倒れてしまう。
その恰好はハジメがまるで香織を押し倒しているようだった。
「香織っ!?南雲お前!!」
香織の悲鳴に反応した光輝が目を向けると、その目に怒りを宿し二人に近づく。
そして香織の上に倒れているハジメを掴み上げると右手の拳を振り上げた。
「ダメ!!!」
それを見た香織は咄嗟に身を乗り出した。それは偶然にもハジメを庇う様な位置になり、その結果光輝の拳からハジメを守った。ただし、
「あっ!」
「香織!?」
ハジメの代わりに香織が光輝に殴り飛ばされた。ハジメと共に倒れこむ香織の姿に雫が悲鳴を上げる。
「え?え?か、香織?え、なんで」
「このぉっ!!!」
「へぶっ!?!?」
自分が香織を殴ったことに呆然としていた光輝を、雫が思いっきり殴り飛ばす。
そんな光輝に目をくれず、雫はハジメと香織の元に駆け寄り、助け起こす。
「香織大丈夫!?ああ、こんなに腫れて」
「だ、大丈夫。私より、ハジメ君が」
「ハジメ!しっかりしろハジメ!!?」
「南雲君!返事をしてください南雲君!!」
ハジメの元には浩介が駆け寄っており、必死に意識を戻そうと体を揺すっているが意識が戻る気配がない。
畑山先生も近寄り、頬を叩いたりして意識を戻そうとするも効果がない。
香織と雫も近寄り呼びかけるがピクリとも反応しない。
「誰か!!誰か早くハジメ君を助けて!!」
香織の悲痛な叫びが木霊した。
おかしいです。原作のプロローグなのになぜか1万文字を超えちゃいました。
いや、原因は分かっているんですよ。
何故か雫の乙女心が暴走して、告白して、ハジメが自分探しの旅に出ちゃったんです。
この展開を急遽入れたために、香織の日記も公開したんですよね・・・。
とりあえず、ハジメの一人旅は文章にしたら0.5章を超える冒険になりそうです。
いつか書いてみたいです。
とりあえず、原作開始時のハジメはこんな感じになりました。
学年トップの成績で運動もできる。彼女(候補)が二人いる。
光輝にも負けないほどたくましい。
バイクに乗れる。
誰だこれ???
あと忘れてはいけない。フライングで登場した深淵卿。これも後の伏線というか戦力強化です。だって卿がいないとクラスメイト全滅しかねないので。
とりあえず、恒例のデジモン紹介!今回はこれだ!
メタルガルルモンX抗体 世代:究極体 サイボーグ型 属性:データ
ほぼ全身をメタル化したガルルモンの最終形態。通常はガルルモンと同じ四足歩行だが、X抗体によるデジコアへの影響で二足歩行形態をとっている。
全身に重火器を装備しており、ミサイルにビームランチャー、左腕の超高速連射能力を持つガトリング砲「メタルストーム」は一体で大型都市国家を火の海にする火力を発揮する。
センサーの強化が行われており、狙われれば全身の武装から逃れることはできない。