ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る   作:竜羽

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更新・評価・お気に入り登録ありがとうございます。
前回の更新から間が開いてしまいました。展開について書き直しを繰り返していたら、新しい展開を思いついて、またさらに書きお直ししてという負のスパイラルに陥っていました。
やっと納得のいく展開のプロットになったので、お楽しみください。


・前回のあらすじ
激戦の最中、再び暴走を引き起こしたハジメ。それに同調しワーガルルモンまでも暴走し、ギガドラモンとアトラーカブテリモンを倒す。
暴走しながらメフィスモンと戦うハジメに、ユエとクレシェモンも加勢し、何とか退けることが出来た。
メフィスモンが退いてもハジメは未だ暴走していたが、香織とエンジェウーモンの力で抑えられ、戦いは本当に終わったのだった。



11話 目覚めと新たなる波乱の予感

 メフィスモンの襲撃から一夜明けたウルの町。

 ハジメ達が奮闘したおかげで死人は出なかったが、教会を始めとする幾つかの建物が倒壊してしまった。怪我人も多数出ていたが、治癒魔法についてはチートな香織があっという間に治してしまった。

 怪我人や町人達の治療を終えた香織は、すぐにアークデッセイ号に駆け込んだ。車内にはハジメとガブモンが横になっていたからだ。

 戦いの後に倒れたハジメとガブモンは、夜が明けても眠りについていた。香織の見立てでは暴走による心身への極度の疲労のせいだ。彼らの看病をするために、香織は自分の仕事を大急ぎで終わらせた。

 

 彼女がハジメ達の治療に専念している間、ユエとシアが中心となって復興を手伝った。

 それも一段落すると、愛子は宿泊している宿のある部屋を訪ねた。

 

「八重樫さん、園部さん。失礼します」

 

 昨夜の戦闘で意識を失ってしまった雫と優花が眠っている部屋だ。ハジメ同様2人も目を覚ましていなかった。

 2人の事も香織が診ており、外的な傷は何もなく、精神的なショックだった。安静に寝かせていた。

 戦いの後始末が一段落したので、愛子は様子を見に来た。

 すると、すでに雫も優花も目を覚まして、ベッドから身を起こしていた。

 

「2人とも目を覚ましたんですね! よかったです!」

「愛ちゃん先生」

「私達、一体……あ、昨日、メフィスモン達が襲ってきて」

「そうだ。南雲……南雲はどうなったんですか!?」

「そうです! ハジメは無事なんですか!?」

 

 どうやらついさっき目を覚ましたようで、2人は状況がよくわかっていないようだった。しかし、徐々に何があったのか思い出して、愛子にハジメの事を尋ねる。2人の最後の記憶では、ハジメはメフィスモンの攻撃でボロボロになって捕まっていたから、不安に駆られていた。

 

「南雲君は無事です。白崎さんが付いていますから、落ち着いてください」

 

 愛子は何とか2人を落ち着かせる。その後、戦いの顛末を伝える。

 2人はハジメが無事という言葉に安心するが、自分達と同じように意識を失っていると聞き、様子を知りたくなった。

 香織の治癒魔法の腕は知っているが、実際に見ないと安心できない。2人は愛子にハジメの様子を見に行きたいと言う。愛子もハジメのことが心配だったので了承した。

 とはいえ、2人はさっき起きたばかり。着替えや食事もしなければいけない。

 

「……大丈夫よね? ハジメ」

 

 着替えをしながら、雫はどうしても不安が拭えなかった。

 実は優花と違って彼女は、うっすらとだが漆黒の鎧を身に纏って暴れ回るハジメの姿を見ていた。その姿がどうしても脳裏から離れなかった。

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 2人が着替えと食事を終えると、3人で町はずれの人目に付かない茂みにやってきた。

 事前にハジメ達が伝えていたアークデッセイ号の停車場所だ。ここに光学迷彩が施された車体が隠されている。加えて、ハジメ達の内の誰か一人が見張っていた。今いるのは、シアとコロナモンだった。

 

「どうしたんですか?」

 

 どこからかシアが姿を現す。兎人族の特徴である気配操作を身に着けているので、突然現れたように見える。愛子達はギョッとするが、シア達だと分かると落ち着きを取り戻す。

 

「南雲君の様子を見に来ました。まだ目は覚めませんか?」

「……そうですね。まだ目を覚ましません。でも大丈夫ですぅ! 香織さんが付いていますし、あのハジメさんですからね。きっとすぐに目を覚ましますよ」

 

 愛子が要件を告げると、変装用のアーティファクトを外して露わになっているウサミミを、大きくピコピコと動かしながら、笑顔で言い切るシア。彼女の元気な様子は、雫と優花にも伝わり、起きてから暗い顔をしていた2人の心を少し軽くした。

 

「……何話しているの?」

「あ、ユエさん! おかえりなさいですぅ」

「ルナモンもお帰り! ご飯ちゃんともらってきたか?」

「ん。みんなの分、貰って来た」

 

 そこにユエとルナモンがやってきた。彼女達は昼食を調達に行っていたのだ。

 何せ、一行の台所であるアークデッセイ号はハジメの治療のために使われているからだ。静かに調理すればいいが、ハジメ達の安静を守るために、食事は町で調達することにしたのだ。今の彼女の手には、サンドイッチやウルの米で作ったおにぎりのような料理が入ったバスケットが2つある。そのうちの1つをシアに渡し、もう1つを持ってアークデッセイ号の中に入ろうとする。香織とテイルモン、そしてハジメ達の分だ。

 

「香織達に届けてくる。シア達は食べながら待っていて」

「あの、ユエさん。私達も南雲君の様子を見たいのですが、いいですか?」

「お願い。ハジメが無事だって、自分の目で確かめたいの」

 

 アークデッセイ号に入ろうとするユエに愛子と雫が懇願する。

 少し思案したユエは「香織に訊いてくる」と言い残し、中に入った。

 しばらくすると中から出てきた。そして、雫達にさっきの願いについての答えを告げる。

 

「まだ駄目。会わせられないって」

 

 まさかの面会謝絶に、一瞬固まる雫達。だが、すぐに答えを理解して、雫がユエに詰め寄った。

 

「そんな!? もしかして、何か悪いことが起きたの!?」

「そうじゃない。あと近い」

 

 ユエは冷静に雫を引き離す。

 

「まだ目を覚ましていないけど、体調に異常はない。ゆっくり休んでいるから、騒がしくしたくないだけ」

「だったら、静かにするから顔を見るだけ」

「今は中が散らかっている。不用意に触って事故になったら大変」

 

 食い下がる雫をユエは押しとどめる。

 しばらく2人は問答していたが、どうしてもユエが譲らないので、3人はその場を後にした。

 

「いいんですか? 送り返しちゃって。会うことくらいは良いと思いますが」

「カオリの判断。カオリ以上にハジメの身体の事を知っている人はいない」

「ですが、納得していませんよ。特にあのシズクさん」

「……」

 

 シアが言う様に、雫はまだチラチラと振り返ってこちらを見ている。

 それを見ながら、ユエは何事か考えていた。

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 一方、ユエから朝食を受け取った香織とテイルモンは、手を付ける前にハジメの診察を行っていた。

 

「やっぱりメフィスモンの魔力は濃密な暗黒のエネルギーなんだ。それを受けた人は負の感情を増幅させられる。ただでさえメフィスモンに怒っていたのに増幅されて、ハジメ君の中で均衡を保っていた膨大なエネルギーのバランスが崩れた。そんな状態で〝ハイブリッド化〟を使ったから、暴走しちゃったんだ」

「ガブモンはテイマーからの暴走エネルギーの逆流だろうな。ライセン大迷宮の試練で深くシンクロできるようになった弊害かもしれない。ずっと懸念されていたことでもあった。だからこそ私達は〝聖園〟を作った。役に立ってよかった」

 

 ベッドで眠るハジメとガブモンの診察をしながら、診察結果のカルテをまとめる香織とテイルモン。

 彼女はオルクス大迷宮を攻略してから、ユエとの魔法の訓練以上にハジメの肉体の解析に取り組んでいた。

 ハジメはオルクス大迷宮での出来事から肉体と精神が変質し、強大な力を宿したせいで魔物とデジモンの本能に飲み込まれて暴走してしまった。ホーリードラモンの力で鎮静化したが、テイルモンの言うとおり危ういバランスの上で成り立っていた。メタリックドラモンとの闘いで究極体に進化した時、デジモンの力が増えたせいでバランスが崩れてしまい暴走を引き起こし、ブラックメタルガルルモンになってしまった。

 この事実を香織は、ワイズモンとフリージアに頼み、大迷宮の設備を使わせてもらいながら突き止めた。それからハジメのために、暴走を防ぐ術を模索していたのだ。ホーリーリングの力を再現したオリジナル魔法の〝聖園〟はその成果の1つだった。

 

 暴走は収まっているが、ハジメが意識を取り戻して正気であることを確認できるまで、予断は許さない。結果として、ハジメに暴走の兆しはなく、ずっと安定していた。テイマーが無事ならパートナーのガブモンも問題なく、どちらもいつ目覚めてもいいはずなのにまだ目を覚まさない。香織はアークデッセイ号の中にある設備をフル稼働させ、〝聖園〟まで常に発動させていた。それでも原因も解らず、目を覚ましていない。

 ベッドの周囲には治療に使った道具が散乱しており、ユエの言うとおり足の踏み場もないほどだ。

 

「もう魔力がないから、一回休まないと」

「ユエが差し入れを持ってきたのは丁度良かったな」

 

 約5万という規格外の魔力量を誇る香織でも、町人を治癒した後、〝聖園〟という新しい最上級魔法を長時間維持するのは負担が大きかった。魔力の枯渇で疲労感が凄まじい。

 ユエに雫達を中に入れないように言ったのは、疲労した香織の姿を見せたら不安にさせてしまうからだった。

 

 とりあえず、香織達は部屋をある程度片付けると、ユエが持ってきてくれた昼食を食べる。

 食べながら、テイルモンはユエが言っていた雫達がハジメに会いに来たことを思い出していた。

 テイルモンは香織が彼女達の面会を断った本当の理由を知っていた。

 

「ハジメの身体の事、伝えないつもりなのか?」

「……うん。伝えたら雫ちゃんは絶対気に病むよ。それに、雫ちゃんって結構察しがいいからさ。暴走の事を伝えたら、あの事まで知りかねない」

「暴走のその先か」

 

 テイルモンが呟いたことは、香織達がハジメの肉体を調べていて浮かんだ可能性だった。

 暴走し続けた果てに、ハジメの肉体に何が起こるのか。香織は最悪のケースを想定しており、それは仲間内だけの秘密にしている。もしも知られれば、特に雫に伝わったらと考えると、香織は絶対に教えられないと思うのだった。

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 その日の夜。アークデッセイ号の中でハジメは目を覚ました。

 

「ここは……アークデッセイ、か」

 

 しばらくぼんやりしていたが、段々と何が起こったのか思い出してきた。戦いの最後の記憶は定かではないが、滅茶苦茶に暴れ回ったのは憶えている。そして、その記憶の中でハジメは……。

 

 ワーガルルモンを共鳴で暴走させ、2体のデジモンを殺させた。そして、自分自身の手で襲ってきたハグルモン達を叩きのめした。

 

「ッ」

 

 自分の理想を自分で穢す様な行為をしてしまったことに心が悲鳴を上げそうになるが、何とか堪える。

 ライセン大迷宮でミレディに宣言したように、覚悟は決めていた。理想通りにならなくても、折れることなく、受け止めていく。救うことが出来なかった命があったことを、決して忘れないことが、南雲ハジメの決めた覚悟だと。

 

「起きた? ハジメ」

「ガブモン……」

 

 掛けられた声の方を向けばガブモンがいた。

 

「よかった。俺もちょっと前に起きたんだ」

「ああ。……ガブモン」

「何?」

「無事でよかった。それと、ごめん」

 

 ハジメはガブモンに頭を下げる。

 

「お前を俺の暴走に巻き込んじまった。それでそのままギガドラモンとアトラーカブテリモンを殺させた。本当にすまなかった」

「謝らないでよ! 俺だって暴走しても止めるって言っていたのに、できなかったんだから」

「何を言っているんだ。ガブモンは、ちゃんと止めてくれた」

 

 あの戦いの時、暴走してしまったワーガルルモンはエネルギーを使い果たした。それと同時にハジメとのシンクロが解除され、暴走が止まった。この時、実はワーガルルモンはハジメの暴走の停止を試みた。暴走が共鳴するならば、逆にワーガルルモンの方が止まろうとすればそれも共鳴すると考えたのだ。

 

「君が最初に止めてくれから、僕は元に戻れたんだ。ありがとう」

 

 口調を昔に戻してガブモンにお礼を言う。

 あの時、ハジメの意識にはガブモンの暴走を止めるという決意が伝わっていた。それも暴走を抑える一助けになっていたと、今なら思い出せた。

 

 しばらく2人はお互いに謝り合って、お礼し合っていたが、次第に可笑しくなって笑いあった。

 それから、話は戦いの後の事に移る。

 

「メフィスモンはどうなった?」

「ごめん。わからない」

「僕が教えてやるよ」

 

 2人に声がかけられた方を見ると、ドアから入ってきたコロモンがいた。どうやら2人の声を聴いてきたようだ。

 

「メフィスモンは逃げていった。襲ってきた2体のデジモンもおまえが倒したってさ」

「みんなは無事か?」

「誰も怪我をしていないってさ」

「……よかった」

 

 コロモンの言葉にハジメとガブモンは安堵の息を吐いた。

 そんな2人をみたコロモンは目を細めると、皮肉気に笑いながら話しかける。

 

「ふぅ。結局、あいつら倒したんだね。で、いつか僕もああなったら倒すの?」

「「……」」

 

 突然の言葉に驚き、コロモンを見る2人。

 コロモンはギガドラモンとアトラーカブテリモンに自分を重ねていた。あの2体もコロモン同様にメフィスモンの実験体にされていた。何かが違えば、コロモンも同じ立場だったかもしれない。

 だからこそ、ハジメ達にいつか自分も倒すのかと問いかけた。

 それに対してハジメとガブモンはしばし顔を見合わせる。

 そして、ガブモンが無言でうなずくと、ハジメがコロモンに近寄り、しゃがんで目を合わせながら答えを返した。

 

「……どうにもならない、ギリギリの最後になるまで、香織達が救ったお前を諦めない。それでももし助けられなかったら──」

 

 ──僕を恨んでくれ。君の恨みを、叫びを、決して忘れないから。

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

「なんてかっこつけたけどなあ」

 

 光る月を眺めながら独り言を零す。

 ハジメがいるのは町から少し離れた林の中にある原っぱだ。寝起きの身体を動かしたくなり、アークデッセイ号から出てきた。

 ガブモンはいない。コロモンと話をしている。

 ハジメの言葉を聞いたコロモンは何も言わずに出て行ったので、今度はガブモンが話をしに行ったのだ。デジモン同士だからこそ、話せることもあるだろう。

 

「……やっぱり、きついな」

「ハジメ君」

 

 振り向けば香織がいた。彼女はハジメが寝ていた部屋の隣で横になっていた。ハジメ達が話をしていても目を覚まさなかった。付きっきりで看病してくれていたようだったので、起こさないように出てきた。

 だが、それはちょっと失敗だったかもしれない。

 ガブモンから外に出たことは聞いたのだが、ちゃんと元気なのか目で見るまで心配できなかったから、急いで探していたのだ。そのせいで息切れしている。

 

「はぁ、ふぅ。目が覚めたんだね。ちょっと診察するから」

「は、はい」

 

 息を整えた香織が有無を言わせずに近づいてきて、ハジメの身体をペタペタ触る。気恥ずかしかったが、あまりに真剣な雰囲気の香織に、抵抗することが出来なかった。

 そのまましばらく香織は診察し続け、ハジメの身体に何も問題がないのを確認したところで、安堵の息を吐いた。

 

「よかった。無事に目を覚まして」

「心配かけて悪い。この通り、もう元気だから」

 

 ハジメは香織を安心させるように笑顔を浮かべる。

 香織はその顔を少し見ていたが、何かに気が付いて、徐にハジメに抱き着いた。

 香織の突然の行動にハジメは狼狽する。

 

「か、香織!?」

「ハジメ君。無理、しているんじゃないかな?」

「無理って、もうこの通り元気だぜ」

 

 その言葉通りに右手をひらひらと動かして見せる。

 しかし、香織はそうではないと首を横に振る。

 

「身体のことじゃないよ。心の問題。昨日の戦いの事とか、いろんなことが重なって心が悲鳴を上げているんじゃないかな?」

 

 香織の指摘に、なぜ彼女はここまで自分の事を見通しているのかとハジメは言葉を失う。

 起きたばかりの時と、ガブモンの前では、暴走の事やデジモン達を殺してしまったことを受け止めていたが、こうしてふと一人になってみると、じわじわと後悔と苦悩が押し寄せてきていたのだ。

 だが、そんなことを仲間達には言いたくなかった。

 明確にはしていないが、何だかんだでハジメは今のテイマーズのリーダーのような立場だ。それに今は生徒達を安全なオスカー邸に連れていくという目的を、果たさなければいけない。それが終われば、危険な大迷宮の攻略に戻らなければいけない。

 大変な時期に弱音を吐いて心配をかけて、仲間達を不安にさせてはいけないと思った。

 こうして1人になったのは、それを隠して押し込めるためだった。

 

 恐らくガブモンも察していただろうが、ハジメの意地を優先して1人にしてくれたのだろう。しかし、香織にとって優先するべきなのは、ハジメの身体の回復だったので、駆け付けたのだ。

 ハジメを抱きしめている腕に力を込めて、無理やりハジメの頭を腕の中に収める。

 

「え、あ、お、おい」

「吐き出していいよ。隠して溜め込むより、誰かに話したほうが精神衛生上は良い場合があるんだよ。私は頼りないかもしれないけれど、話すだけなら」

「あ、だ、大丈夫だって。俺は、もう覚悟を」

「たまには強がらなくてもいいんだよ。弱さを見せることは、悪いことじゃない。ずっと張りつめていたら、いつかプツンと切れちゃう。緩めて、また締めなおす。そうすれば、少しは不安も苦しみも軽くなるから」

 

 徐々に香織の言葉に導かれて、ハジメは胸の奥底に溜め込んでいたものを吐き出し始める。

 

「覚悟していたんだ。いつかこんなことも起こるって。でも、それが思ったよりも早く来て。しかも俺は、殺したことを実感もしないで、暴れ回っていた」

 

 香織の言葉通りに、ハジメの中で溜め込んだ思いが、緩められた入り口から零れ出てくる。

 

「受け止めるなら、ちゃんと意識しないと、意味がないのに。力に振り回されて、命を踏みにじった。踏みにじらせてしまった」

 

 香織は顔を抱いているから見えないが、言葉が震えていることから、彼が泣いているのがわかった。

 

「怖いんだ。俺は、僕は、自分が怖い」

 

 ハジメの腕が香織の背中に回され、2人は抱き合う。

 ハジメの本心が零れているからか、口調が彼本来のものになっている。

 

「香織達を守るには力がいる。でも、本当は力何ていらない。欲しくない。嫌だ。捨てたい。いつか敵だけじゃなくて、皆まで傷つけるようになってしまわないか。大事な人を、手にかけてしまわないか、本当に怖いんだ。僕は、僕は」

 

 力に対する恐怖。それがハジメの心の中にある恐怖の根源だった。

 何しろ、ハジメの戦う力は暴走の危険をはらんだ危険なもの。だから普段はガブモンに任せたり、アーティファクトを使ったりした戦闘を心掛けている。だが、今戦っているメフィスモンや暗躍する敵達は、それだけで退けられる程甘くない。力を使い、また暴走してしまう可能性は、かなり高いだろう。

 しかも、今回は暴走に大事なパートナーデジモンであるガブモンを巻き込んでしまった。

 戦い続けて、暴走し続けて、いつかもっと多くの大事な人まで巻き込んでしまわないか。

 心の奥底で懸念していた不安が、どんどん膨れ上がって来る。

 

 そして、暴走の果てに、ハジメはいつか──

 

「──化け物に、なりたくないッ」

 

 香織の胸の中で声を押し殺しながら、心の一番奥底に秘めていた思いをハジメは吐き出した。

 

 そこに、1つの人影がやってきた。

 

「どういう、ことなの?」

「え?」

 

 ハッとした香織が顔を上げると、そこには何故か雫の姿があった。

 

「化け物って、何? やっぱり、ハジメの身体に何かが」

 

 咄嗟に香織は腕に付けた腕時計を操作して、1つの機能を動かす。

 アーティファクトの腕時計には、モデルにした少年名探偵の持っている時計と同じ、麻酔針を射出する機能がある。オルクス大迷宮にあった麻酔薬が塗られており、普通の人間ならどこに刺さってもすぐに眠りに落ちる。

 これで雫を眠らせて、聞かれたことを有耶無耶にしようとしたのだ。

 

 しかし、焦るあまり香織は1つ見落としていた。

 深夜にこんな場所に雫が1人で来るはずがない。必ず、彼女を連れてきた人物がいるはずなのだ。

 

「〝風壁〟」

「《ムーンナイトボム》」

 

 香織とハジメの周囲に風が渦巻き、無数のシャボン玉が2人を包み込んだ。

 

「これ、は!?」

 

 咄嗟に雫とは反対側を振り向いた香織が目にしたのは、ユエとレキスモンの姿だった。

 ユエの魔法で起きた風が香織とハジメを閉じ込め、その中にはレキスモンの技《ムーンナイトボム》による催眠効果を持つシャボン玉が飛んでいる。

 風に煽られたシャボン玉は、すぐにぶつかり合って弾ける。

 すると、2人は強烈な眠気に襲われ、程なく意識を無くした。

 2人は技能に毒耐性を持っているため麻酔などは効かないが、デジモンの技なら効果があった。油断していたのもあるが、至近距離で文字通り浴びるほど受けては、一溜りもなかった。

 2人が眠ったのを確認すると、ユエは雫に話しかける。

 

「話してあげる。ハジメの事。そして、あなたにできる選択の事を」

 




〇デジモン紹介
アトラーカブテリモン(青)
レベル:完全体
タイプ:昆虫型
属性:データ
熱帯圏のネットエリア内で発見されたカブテリモンの進化型種。サイズは約1.5倍と、昆虫型の中でもかなり大きい。飛行能力は若干退化したものの、主力武器である角の強度が飛躍的に高められている。また、前肢付け根に筋肉状の部分が現われ、格闘能力も向上した。性質的には、生存本能以外に弱いものを守るという行動が認められ、その行動は騎士的にさえ見えることがある。必殺技は巨大な角を敵に突き刺す『ホーンバスター』。



今回の話はウルトラマンオーブのサンダーブレスター回を参考にしました。
果たして暴走を抱えたハジメはどうなるのか。

書くのが難航した理由の一つは、ここから鬱展開の導入みたいな内容だったからです。
読むのも書くのも苦手ですが、こういう事を乗り越えることで、絆は結べると思います。
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