ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る 作:竜羽
大変お待たせいたしました。まさか七月中に更新できないとは思わなかったです。
凄く難作でした。何せ、書くだけで心が痛くなったので、文章が思い浮かばなかったです。
それに正直、この展開は受け入れられないかなあと思ったのですが、これくらいの荒療治が必要と考えたので、寛大な心で読んでいただきたいです。
※今章で続けていた前回のあらすじは余計かなと思ったので、今後はやめます。
目が覚めた。
しばらくぼんやりしていたが、ハジメと話をしていたところに、雫とユエが現れて、レキスモンの技で眠らされたことを思い出して飛び起きた。
「よかった。香織。目を覚ました」
「テイルモン?」
駆け寄ってきたパートナー。周りを見るとアークデッセイ号で自分が寝床にしているスペースだった。
「私……あの後」
「シアがハジメと一緒に運んで来たんだ。無理が立ったんじゃないかって」
「違う! 私は、ユエに眠らされて……!」
「え?」
困惑するテイルモンに、何があったのか説明しながら身支度を整える。
あれからどれくらい時間が経ったのか確認すると、すでに夜は明けていた。むしろ、昼近くだった。やはり疲労が溜まっていたのだ。
ハジメの様子を見に行くと、香織と同じように眠っていた。傍らにはガブモンもいる。
テイルモンにも看病を頼み、香織は変装のアーティファクトを付けるとアークデッセイ号を飛び出した。
あの後、ユエが雫に何を話したのか、気が気ではなかった。
アークデッセイ号の中にはユエとルナモンの姿は無かった。という事は、まだ話をしているだろう。大っぴらに話せる内容ではないから、密会に適している場所にいると見当をつけた香織は、真っ先に教会に思い至った。
教会に向かった香織はすぐに中に入る。
半壊したとはいえ、無事な部屋はあった。
そこにノックもせずに飛び込んだ香織が見たのは、ルナモンを抱きかかえながら静かに座るユエだった。対面には、愛子と優花がいた。
いつもの無表情のユエに対して、愛子と優花は悲痛な表情を浮かべている。
「雫ちゃんはどこ!?」
「……」
「その、八重樫さんは……」
怒気を露わにする香織だが、ユエは無言で答えない。代わりに愛子が、香織の怒気に少し怯えながら、教会の奥にある寝室に案内した。
ユエに言いたいことが沢山あるが、まずは雫の事だと香織はついていった。
そして、辿り着いた部屋に入った香織が目にしたのは、涙を流しながら気絶している雫だった。
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昨晩、ユエがハジメと香織を眠らせた後、2人を横にしたユエは雫にハジメの肉体に起こったことを説明した。
ハジメの肉体が人、デジモン、魔物の要素が混ぜ合わさった全く違う存在になってしまったこと。そのせいで暴走の危険性を孕んでしまっており、メフィスモンとの闘いでも、暴走してしまったことに途轍もないショックを受けた。
そして、話を聞いてしまったことで、彼女は強い自責の念を感じてしまう。
バランスを崩したきっかけはエヒトによる異世界召喚の際の能力の付与だったが、あのオルクス大迷宮65階で雫を助けるために、橋から落ちなければハジメの肉体の変異は、急激に起きなかっただろう。
もしもの話だが、あの時ハジメが落ちなければ、暴走するような肉体の変化は起きなかったかもしれない。考えても仕方ないことだが、雫はそう思ってしまった。
だがしかし、次にユエが話し始めた内容で吹き飛んだ。
「香織が調べた結果、ハジメの肉体の変異は抑えられているだけで、止まったわけじゃない」
「え?」
「ハジメの魔力量は10万。人間が持てる魔力じゃない。最低でもそれほどのエネルギーが宿っている。そんな状態で暴走したらどうなると思う?」
香織の約5万が人の魔力値の極致といえる。それ以上の魔力を宿すには、人の身をやめなければならず、そうでなければ肉体が耐えきれずに、崩壊してしまう。ハジメは神水から得ていた超回復力と肉体の変異、そしてホーリードラモンの力によるエネルギーの鎮静化で食い止めることができた。
しかし、再び暴走して鎮静化されたエネルギーが荒れ狂ってしまうと、肉体の崩壊が再発してしまう。それを防ぐために変異と超回復も同時に再発してしまったのだ。
暴走するたびにハジメの肉体はどんどん変異を続け、やがて人間でも、魔物でも、デジモンでもない存在になってしまう。
そうなってしまった時、ハジメの精神は元のままでいられるだろうか。
「最悪の場合、ハジメがハジメじゃ無くなってしまう。それは死と同じ。これまで生きてきた全てを無くして、人間じゃなくなる。親も、友達も、夢も──忘れるかもしれない」
これが香織の懸念している、暴走の先に起こり得ることだった。
「そんな、そんな……!?!?」
「根拠と兆候はある。それはハジメの喋り方が昔と違うこと」
ユエの言葉に雫は再会したハジメの口調に違っていたことを思い出す。
驚いて香織に聞いたところ、過酷なオルクス大迷宮を攻略する覚悟を決めるために変えたとのことで、少し怪訝に思ったが納得した。
だが、ユエは香織が説明しなかったことを話す。
「無意識だけれど、ハジメは溢れ出る闘争本能や凶暴性を発散するために、あの口調を使っている。それが徐々に定着している。それはハジメの心が変異している危険性がある」
なぜハジメの内面のことを、ユエが、ひいては香織がここまで把握しているのか。
それはユエがハジメの血液を吸血したことに端を発している。
オルクス大迷宮を攻略後のある日、ユエがハジメから血液を吸血してしばらくすると、突然暴れ出したくなる衝動に襲われた。敵もいないのに沸き上がった衝動に、困惑したユエは香織達に相談。そこから、ハジメの肉体に起きていることに気が付いた香織が、フリージアとワイズモンと協力し、ハジメの検査をさらに徹底して行った。
その結果、肉体の変異が認められ、メタリックドラモンとの闘いで再発していたことも判明した。
心理カウンセリングまで行ったことで、肉体の変異による精神への影響が見られた。ユエが感じた衝動も、変異した血肉からもたらされたものだった。
なお、これ以降ユエは吸血を香織からしか行っていない。ハジメの血を飲み続けて、ユエまで肉体と精神が変異してしまえば、ハジメが大きく責任を感じてしまうからだ。
ユエから説明を聞いて顔面蒼白になりながら雫はヨロヨロと後退り、ガタガタと震える体を抱きしめる。
今の彼女はハジメがそんな肉体になってしまった原因は自分のせいだと思っていた。愛子が連れ出してケアしてくれたことと、香織がハジメを助けて再会したことで持ち直していたが、その自責の念は消えていなかった。
そこにこの事実はあまりに重すぎた。
ハジメの身体が今のようになってしまったそもそもの原因は、オルクス大迷宮の65階層で、ハジメが封じ込めたベヒモスを檜山が解き放ってしまったからだ。もっと原因を辿れば、トータスに召喚し、無理やり力を植え付けたエヒトこそが諸悪の根源だ。
だから雫が自分を責めるのは筋違いだが、PTSDで弱っていた心に、ハジメが雫を身代わりのように落ちたことの衝撃が罪悪感として結びつき、悪い方向へと考えてしまっている。
結果、ハジメの身体の事についても雫は自分が原因だと思い込んでしまった。
雫のことを親友としてよく知っていた香織は、彼女がこう思いこんでしまう可能性を予期していた。だから、必死に雫にこのことを隠していた。
香織の懸念は的中し、雫の心はより深い傷を受け、その場で崩れ落ちたのだった。
その様子を静かに見つめていたユエは、溜息を吐くと念話のアーティファクトでシアを呼び出した。
シアにハジメと香織を任せ、彼女自身は雫を抱えて教会に戻った。
翌朝、雫の事を探しに来た愛子と優花に事情と共に、同じことを伝えていた時に、香織が飛び込んできたのだった。
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雫の様子を見て全てを悟った香織は、唇を噛み締めると何もせずに部屋を後にした。
精神的なショックは、治癒魔法では治せない。香織にできることは何もない。
ユエ達のいる部屋に戻ってきた香織は、静かにユエに近づく。そして、彼女の襟元を掴んで乱暴に引き寄せた。
「白崎さん!? 何を」
「何で、あのことをばらしたの?」
愛子が驚くが、構わずに香織はユエを詰問する。
「どちらにせよ、隠し通せることじゃない。なら、安全な今のうちに明かすしかないと判断した」
冷静な態度を崩さずに話すユエ。香織の目付きはどんどん険しさを増す。
「そもそも、ばらさないって私が決めたはず!」
「聞いただけ。私がそれに従う必要は無い」
「ユエが口を挟む必要がない!!」
「ハジメの為を思うなら、シズクの事は放置できない。これからどうするにしろ、シズクは全てを知るべき」
「だとしても、雫ちゃんは心が傷ついていたの!? それが治っていないうちに、あのことを話すなんて、止めを刺すようなものよ!」
「じゃあいつ治るの? 私達に悠長にそれを待っている時間は無い。話さずにいても、絶対に面倒なことになっていた」
確かに、雫にハジメの事を隠し通していたら、不信感の種となり、いつか不測の事態をもたらすかもしれない。雫達をオルクス大迷宮に隔離しても、その後に予想外の行動に出る可能性もある。ハジメ達の心のしこりになって、心を掻き乱す原因になっていたかもしれない。
とはいえそれらの懸念は、ユエにとっては建前だ。
心から信頼できるパートナーのガブモン。
慈愛と献身を捧げ、心身の傷を癒す香織。
経験と魔法をもってして、戦いを制するユエ。
元気と明るさで、パーティーのムードメーカーになっているシア。
そして、傍にはいないが、元の世界から変わらない友情をもって、同じ目的のために動いている浩介達。
仲間達は戦闘力だけでなく、ハジメの支えになれるほどの心の強さを持っている。でなければ、ハジメの傍にいては負担になってしまうとユエは考えている。
おそらく何もしなければ雫も旅のメンバーに加わりたいと思うだろう。しかし、今の彼女では、ユエの求める基準をどれも満たしていない。しかし、雫はハジメと香織が大切に思っている存在だ。このままではいつかハジメ達の致命的な弱点になりかねない。
そうならないために、ユエは荒療治に出たのだ。
「何より、シズクは知りたがっていた。だから話した。このことを受け止められないなら、ずっと眠っていた方がいい。邪魔にならない」
そこまでが香織の我慢の限界だった。
ドガンッ!!
香織の拳がユエの顔に突き刺さり、殴り飛ばした。ユエは吹き飛び、壁に激突して突き破り、外に出てしまう。
「ユエさん!?」
「ちょっ!?」
固唾をのんで様子を見ていた愛子と優花が驚くのに構わず、香織は怒りを漲らせてユエを睨みつける。
「んんっ。ぷっ」
ユエは痛みに顔をしかめながら、血を吐き出す。殴られて口の中を切ったが、〝自動再生〟の効果ですぐに治っていく。
立ち上がったユエは睨みつける香織を平然と見つめ返す。
「私の、私の親友を傷つけることは、許さない」
「それがハジメの負担に繋がっても、カオリは許すの?」
その言葉が引き金となった。香織は部屋を飛び出して、外のユエに殴りかかる。
普段の香織なら太極拳をベースとした流麗な接近戦を行う。だが、今は荒々しく力任せに殴りかかっている。それに対して、ユエも技も何もない拳で殴り返す。
「私もハジメ君も、雫ちゃんを負担になんか思っていない!!」
「そう思っていても、いつかシズクの事は、ハジメとカオリの大きな枷になる」
「そうならないために、私がどれだけ考えているのか、わかっているの!?」
「傷つけないために気遣い合うだけが、友情なの!?」
拳だけじゃなく、お互いの主張をぶつけ合う香織とユエ。
「カオリだってわかっているはず。隠していても、何も解決しない!」
「雫ちゃんがあんなことになるなら、隠すべきだったんだ!」
「カオリがそんなだから、私が話した。私が、壊した!」
「何の為に!?!?」
香織の拳がユエのボディに炸裂し、その小さな体が浮き上がる。
「ガフッ。それは、シズクが、本当の意味で、ハジメの傍にいる資格が、あるのか」
殴られた箇所を押さえて蹲りながら、ユエは真意を伝える。
「そして、あなたと、カオリと本気で」
小さくて華奢な手を固く握りしめながら、蹲った体勢からバネのように飛び上がりならが、勢いよく香織に向かって拳を繰り出した。
「喧嘩するため!!!」
「がッ!?」
鳩尾に拳を受けた香織が、今度は蹲る。
「カオリ。どこか私の事も庇護下に見ている気がする。その認識を改めさせる」
「そんなこと、思ってなんか」
痛みに呻きながら、ユエに反論する香織。だが、構わずにユエは香織の襟首をつかんで持ち上げると、頭突きを喰らわせる。
「うあっ」
「ならどうしてもっと私に相談しないの? シズクとのことも、全部自分で決めた。私には口出しさせようとしなかった。ハジメのことだってそう。ハジメの身体の事を、もっと相談するべき。私にも頼るべき。それができないのなら、私の事を下に見ているということ」
頭突きを受けてチカチカする香織の視界の中に、真紅の瞳を怒りで光らせるユエが映る。
香織の耳元に口を寄せ、小さな声でユエが囁く。
「私を、いつまでも過去に縛られている小娘と思うな」
「え?」
「ふっ」
掴んでいた襟首を離し、今度は回し蹴りを香織に浴びせる。香織は吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がる。
「もっと吐き出して。思っていること。抱えている不安と不満。憤り。全部、私が受け止める」
「ぐ、うぅぅぅ……アアアアアアアアッッ!!!」
痛みに呻きながら、香織は立ち上がる。そして、叫びながら、ユエに向かっていく。
「知った風な口を利かないで!! 私と雫ちゃんの絆を、繋がりを、見くびらないでよ!!」
再びユエを殴り返す香織。
「だったら、信じて話すことも、選択肢に入れるべきだった!! 本当にシズクの事を思うなら、そういう道も考える!!」
ユエもまた香織を殴る。
それからは泥沼だった。
「優しさだけの慣れ合いじゃ、何も解決しないと思った。だから、シズクと関係が無かった私が、伝えた!」
「こんな、辛い思いをさせるだけって解っていたことを、伝える必要なんかっ、無かった!」
「この程度で立ち止まる女なんて、ハジメに相応しくない! カオリの親友に、相応しくない!」
「勝手なことばかり言わないでよ! ユエは、私の何なの!?」
「カオリの、仲間だ!!!」
互いに思っている思いや不満をぶつけ合いならが、殴り合った。
最後には体力が尽きて、2人はぶっ倒れてしまった。
こうして、ハジメ達のパーティーに起こった内乱は終わった。
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香織とユエが内乱を起こしたその日の夜。教会からフラフラと出て行く人影があった。
虚ろな目で歩くのは、雫だった。今の彼女は、ユエから知らされた真実に打ちのめされて、自暴自棄になっていた。
「ここにいたらいけない。私のせいで、ハジメが苦しんだ。香織も苦しんでいる。私なんかいない方が良い」
負の考えのスパイラルに囚われた雫は気が付かない。彼女の足が向かう先の空間が歪み始めていることを。
突然、周囲には濃霧が立ち込め始める。
湖が傍にあるウルでは珍しいことじゃないが、その霧は生温いぬるりとした不快な霧だった。
雫はその霧に誘われるように、フラフラと歩みを進めていく。
やがて、彼女は霧の中に消えていった。
そして気が付けば、彼女は1人で浜辺に立っていた。
ザァーンザァーンと、打ち寄せる波の音がどこか暗く重苦しい。その先に広がっている海は、どす黒く濁っており、どこまでも深い深淵の入り口を覗かせている。
広がっている岸の端には、黒い光で霧の中を照らす灯台が見える。
異常ともいえる海を目の前にして、雫は自然とその言葉を口に出していた。
「暗黒の、海」
霧の向こうに、巨大な触手を持つデジモンの影が映った。
〇デジモン紹介
ダゴモン
レベル:完全体
タイプ:水棲獣人型
属性:ウィルス
「海底の破戒僧」と呼ばれる邪神デジモン。船舶などのコンピュータに感染して、方位や航路を狂わせていたコンピュータウィルスが進化したと考えられている。無数に増える触手を束ね、人型に姿を変えているが、その正体は奇怪な軟体型デジモンの進化型である。必殺技は凄まじい腕力で、三つ又の鉾を投げつける『フォービドゥントライデント』。倒した相手には、首の数珠を持ち、弔うようなポーズをとる。
暗黒の海という、リアルワールドでもデジタルワールドでもない謎のエリアを徘徊しており、その海を支配していると言われているが、そのダゴモンはデジモンなのかもわからない謎の存在だ。
ずっと書きたいなと思っていた香織とユエのキャットファイト、というにはシリアス成分モリモリの内容でした。なんだかんだで、香織もいろいろ溜め込んでいたので、吐き出す展開にしようと考えていました。
最後。雫が迷い込んでしまったのは、02の物語のキーポイントとともいえる場所、暗黒の海です。果たして彼女はどうなってしまうのか。
次回から更新速度を上げていきたいです。