ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る 作:竜羽
大変お待たせ致しました。凄く悩んで、書き直しました。
02 The BEGINNINGを映画館で見なければ、モチベーションがもたなかったです。
原作と同じサブタイトルですが、全く異なる内容となります。
ウルの町の教会。メフィスモンの襲撃によりボロボロになった礼拝堂。
倒壊寸前の有様だったが、ハジメの錬成による応急修理で壁や床は元通り、いやそれ以上に頑丈な作りになっていた。まだ掃除が済んでいないので、瓦礫が散乱しているし、机などの調度品も壊れたままだが、教会の形は保っている。
その教会の中で、壊れていなかった椅子に座りながら、ハジメは深く考え込んでいた。
明日からの依頼についてだ。
明日の早朝、冒険者ギルドからの依頼を遂行するために、香織達と一緒に北の山脈に向かうことになった。
ハジメ達がウルの町を離れることによって、町の守りが薄くなってしまうことが懸念されるが、残るブラン達に任せるしかない。幸いにも完全体のマミーモンがいるので、一方的にやられることは無いだろう。他にも保険をいくつも用意し、愛子達に渡してある。
それでも、まだ何か見落としは無いか、手抜かりは無いかという不安が無くならない。
何せメフィスモンは幾重にも罠を張り巡らせて襲い掛かってきた。油断できない難敵だ。
それに加えて、ハジメの心の中には、ずっと離れない考えがあった。それは──。
と、そこでハジメ以外の誰かが教会に入ってきた。
「南雲君。明日は早いはずです。寝なくていいんですか?」
「先生か?」
やってきたのは愛子だった。
「すみません。眠れなくて」
「やっぱり明日の事が気にかかっているのですか?」
「まあ。あといろいろ考えていたら、目が冴えてきて」
「よければ考えていることを話してもらえませんか? 話すことでまとまるかもしれません」
愛子はハジメの対面にやって来ると、椅子に腰を下ろしてちょうど面談のような形になる。
「まあ、そうかもしれませんね。でも、さっき打ち合わせしたこと以上に、話すことなんてないですよ。だから、大丈夫です。もう寝ます」
「待ってください」
立ち去ろうとするハジメだったが、愛子に引き留められる。
「今の南雲君、まだ悩んでいるように見えます。もっと話したいことがあるんじゃないですか?」
「……そんなこと、無いです。もういいでしょう。先生がさっき言った通り、早く寝ます」
「南雲君がちゃんと眠れるなら、先生は何も言いません。でも、何か悩んでいるなら、放っておけません」
愛子は真っ直ぐにハジメを見つめながら話す。あまりにも真っ直ぐで曇りの無い目と、言葉に宿る強い意志に、気圧されたハジメは立ち上がるのを止めた。
しばらく無言で2人は向かい合っていたが、遂に耐え切れなくなったハジメがポツリポツリと話始めた。
「先生。僕は地球に戻ったら人とデジモンが共存できる世界を作るっていう夢を叶える為に、トータスを旅してきました。でも最近は、その夢を思うだけで心が痛いんです」
強い心でここまでやってきたハジメ。しかし、本来はまだ両親や大人達の庇護下で学んでいる少年なのだ。心の内には当然、弱さがあった。
普段ならその弱さは見せるはずのなかったが、ここまでの出来事で積もり積もった心理的な負担と、教師という立場を崩さずに自分に向かってくる愛子の真摯な態度を受けて、徐々に出てくる。
「助けようと思ってもうまく助けられず、むしろ迷惑をかけました」
ベヒモスから助けられたが、心に深い傷をつけてしまった雫。
オルクス大迷宮の底まで助けに来たのに、暴走して襲い掛かってしまったガブモンと香織。三人の事が頭に浮かぶ。
「覚悟していたはずなんです。僕の進む道には辛いことが幾つもある険しい道だ。僕の行動で仲間が死にそうになることもある。望まない結果に直面しても、進む覚悟はあるかって、ある人に言われました」
ライセン大迷宮を去る時にミレディに言われた言葉。
ハジメは仲間を守り、全てを受け止めて進むと、自分の覚悟として答えを返した。しかし、その言葉がここ最近の出来事の所為で、彼を苦しめている。
「ウルに来て、雫さんが傷ついている姿を見て、何もできなかった。むしろ一歩間違えば、暴走までしそうになって、それがさらに雫さんを傷つけた。覚悟を決めていたのに、あっさり崩れそうになる。そう感じてしまう自分が嫌になるんです」
ここ最近の出来事は、ハジメの覚悟を大きく揺さぶることばかりだ。
「先に進まないといけないって分かっているんです。なのに、また仲間が傷つくことを想像しただけで、心が痛いんです。あれだけ大きいことを言ったのに、覚悟を決めたはずなのに、辛くて苦しいんです。でも、そんな姿を皆には見せられない」
全てはハジメが始めたことだったのに。
パーティーの中心になって、皆をまとめ上げてきたのも、ハジメが強く地球への帰還とその先の夢の実現を掲げたから、その責任を果たそうと引っ張ってきた。なのに、それが辛いという姿は見せられないと思っている。
しかし、隠している痛みと辛さは蓄積していく一方になってしまい、ハジメの心の負担をより大きくしていく。
「こんなんじゃ地球に戻っても夢を叶えられない。それどころか、僕の夢の所為で大切な人たちが傷ついていくことに、目を背けたくなる。でも、それこそ本末転倒だ。覚悟が嘘になる。僕の夢は間違っていたのか? そんなことまで考え始めて、さらに痛くなる。もうこの痛みに耐えるしかないんだ……」
ハジメの独白を聞いた愛子。
彼女は自分よりも年下で、まだ庇護下にあるはずの少年が背負ってしまった宿業に胸を痛める。
痛々しい姿に、思わずだき締めて慰めようと立ち上がりかける。
(なんで南雲君ばかりが苦しまなければいけないんですか。勝手に連れてこられて戦争に参加させられそうになって。八重樫さんを助けたら死にかけて。助かったと思ったら、体がおかしくなって、心まで変わってしまうなんて)
そんな途轍もない苦しみを背負いながら、なおも他人のために気を使っている。
もはや夢が重荷になりかけている。このままでは彼の心が潰されてしまう。
(先生とは、教師とは、生徒の幸せを考えて、より良い決断を出来るようにお手伝いすること。こんなに苦しんでいるのなら、いっそのこと──)
夢を諦めさせるべきじゃないか、という考えが愛子の脳裏に過る。
生徒の夢があまりに厳しく、苦しみしかないのなら、時に夢を諦めさせるのも先生の仕事だ。
あまりにハジメが痛々しくてついそんな考えが浮かんでしまった愛子だが、それと同時に、それでいいのかという問いかけが、胸の内から湧き上がった。
(それでいいの? 南雲君は辛い、苦しい、痛いとは言いました。ですが、逃げたいとは言っていません)
どんなにつらい目に遭って、嫌な思いをして、苦しんだ。間違いかもしれないとまで考えている。それでもハジメは逃げたいとは口にしていない。それだけ、夢を諦めたくないと心の底から思っているからだ。
それほどの夢を、歩んできた道を諦めさせていいのだろうか。
(正しいのか、正しくないのか。私にはわかりません。でも、そうまでして抱き続けている夢を、諦めさせる言葉を私は持っていません。だから、ごめんなさい南雲君。私にできるのは、君の夢を重荷から元の夢に戻す、いえ、そのきっかけになりそうなことを言うだけ。もしかしたら、とても残酷なことをしているのかもしれません。この先で君がもっと傷つくかもしれません。それでも、夢を諦めて欲しくないと、思ってしまったんです)
愛子は傷ついてほしくないという本心を隠し、先生としてハジメの夢を後押しする決意を固めた。気持ちと言葉が矛盾していることを自覚していても、微塵も悟らせないように、ハジメとの面談を始める。
まずは、ハジメの夢についてだ。
「あなたの夢の所為で八重樫さんが傷ついたわけではありません。夢はどこまで行っても夢。あなたの理想、目標、指針でしかないんです。人を傷つけてしまったのは南雲君自身の行いです」
「それって、やっぱり俺の夢の所為じゃないですか」
「いいえ。似ているようで違います。手段と目的の違いです。私は他人を傷つけるのは、手段だけだと思っています。誰がどんな夢を持っていても、それだけで傷つくこと何てまずありません。だってまだ実現していないんですから、傷つけようがありません。だから、ずっと大切にしてきた夢で八重樫さんを傷つけたと考えないでください」
夢は見るもの。それだけで人は傷つかないし、救わない。いつだってそれは人の行いの結果でもたらされるものだ。
その持論をもってして、愛子はまずはハジメの夢が人を傷つける原因ではないと伝える。
先生という近すぎないほどほどの距離感から贈られる言葉は、ハジメの内面を考慮しない事実だけの内容なので、否定できない。
「南雲君の夢は、きっといろんな人に影響を与えたと思います。先生が見るに白崎さんとユエさんが一番影響を受けています。だって、あんなにデジモン達と楽しそうにしていましたもの」
この一週間、ハジメ達は神殿騎士や町の住人に隠れて、愛子と生徒達にガブモン達を紹介し、交流させていた。そこで自分のパートナーを嬉々として紹介し、自慢する香織とユエを愛子は見た。彼女達のあの姿こそ、ハジメの夢見る未来なのだ。
そして、その夢はさらに影響を広げている。
「彼女達の話を聞いて、八重樫さんも園崎さんも、宮崎さんも、管原さんも、玉井君も、相川君も、仁村君も、清水君も。みんなちょっと羨ましそうでした」
なお、雫だけは内心では凄く羨ましく思っていた。テイルモンもルナモンも、さらに言えばガブモンとコロナモンだって可愛かった。可愛いものに目がない雫には、彼らのようなパートナーがいるテイマーが憧れなのだ。
ハジメの夢は着実に形になっている。
「あの夢を見ることが、間違いのはずがありません。一番近くで彼女達の姿を見てきた君がよくわかっているはずです」
「だけど、僕の夢の為の行動が雫を傷つけた。それはどうしようもない」
次に苦しみの大本となった原因について話をしていく。
「八重樫さんが傷ついたのは、変えようのない事実です。でも、そのことを八重樫さんは南雲君の行いの所為にしましたか?」
「それは……」
言葉に窮するハジメ。実はそのことについてハジメは雫に話していなかった。
なにせ、そのことを聞くのはハジメにとってとても……。
「怖かったんですね。八重樫さんに怖がられるのが」
「……はい」
愛子の言葉に首肯するハジメ。
「八重樫さんと過ごしていて、彼女は一度も南雲君の所為で苦しんだ、傷ついたとは言っていませんでしたよ」
愛子はカウンセリングの一環として、農作業以外にも生徒達との面談を行っていた。当然、雫にも行っており、その場で雫はただひたすらに自信の不甲斐なさを責めていた。ハジメの所為だとは、一言も言っていない。
「聞くのは怖いですよね。でも、想像だけで負い目を感じるのは、八重樫さんに失礼だと思います。もしかしたら、八重樫さんは南雲君に感謝していて、南雲君が傷つくことを望んでいないかもしれません。今の南雲君がやるべきことは、夢が正しいのか考えることでも、痛みに耐えることでもありません。八重樫さんと話し合う事です」
「だけど、明日は依頼に」
「もかしたら、山脈にいるかもしれません。どこに手掛かりがあるかわからないんですから。もちろん、町の周辺も私が探します。だから、南雲君は八重樫さんと話すことだけを考えてください」
苦しいときは、それに付随する様々なことを考えてしまう。それがかえって更なる苦しみをもたらしてしまう。ハジメはこの負のスパイラルに嵌っていると愛子は考えた。
そこで「雫との話し合い」という指針を与えることで、負のスパイラルから抜け出すきっかけとした。
「怖いですよね。もっと辛くなるかもしれないんですから。でも、先生は思うんです」
そして、最後に愛子は一番教えたいことを伝える。
「後悔して痛みを感じてもいいんです。だってそれは大切に思っていることの裏返しで、心の特権なんです。心の無い、例えば機械なんかは後悔もしません。痛みも感じません。失敗しても同じ動作を繰り返すだけ。でも、心があれば、後悔して、泣いて、そして、立ち上がることが出来ます。もう起き上がれないと思っていても、同じ思いを共有できる心が傍にあれば大丈夫なんです。南雲君の周りには、そんな心が沢山あるじゃないですか」
ウルに来てから知ったデジモンテイマーとしての南雲ハジメ。彼を見て感じたことを交えながら、苦しみや後悔との向き合い方を教える。
「ガブモン君。白崎さん。ユエさん。南雲君を支えてくれる心を持った仲間達がいます。だからきっと八重樫さんと話すことが出来ますよ。もちろん、私だっています。先生なんですから」
小さな体で精一杯胸を張りながら、笑みを浮かべる愛子。どう見ても見栄っ張りな姿だが、どこか安心感をハジメに与えてくれた。
「できることを精一杯やって、何とかして見せます。私だけじゃなくて、ピッドモンさんやブランさん達もいるんです。絶対に、町を守ってみせますから。だから、先生たちを信じて、任せてください」
「…………」
愛子の言葉に対して、ハジメは無言だった。
だが、言葉に込められている自分の背中を押そうとする愛子の思いは伝わってきた。
それがただ無性に、嬉しかった。
話を終えた2人は静かに教会を出た。ハジメは明日に備えて眠るために。
一方、教会を出た愛子に、近くに身を隠していたガブモンが近づいてきた。
「ありがとう先生。ハジメのこと」
「えっと。私、何かできましたかね?」
実は、愛子をここまで連れてきたのはガブモンだった。
ガブモンはハジメの抱えていることにパートナーデジモンとしていち早く気が付いた。しかし、近すぎる立場のガブモンでは、ハジメは心の奥にある弱さを無意識に隠してしまい、簡単に見せないと思った。時間をかければいいだろうが、今はそれが無い。香織達も同じだ。
だから、程よい距離があり、無条件で頼れるような立場にいる愛子に望みを託したのだ。
これからどうなるかはまだ分からないが、後はハジメとガブモン達次第だ。
「あとは、白崎さん達もですね。うまく話せればいいんですが」
「俺も手伝うよ。テイルモンとルナモンの気配はわかるし。何なら手伝ってもらおう」
「すみません。お願いしますね」
愛子とガブモンはその場を後にする。
教師としての誇りを胸に邁進する愛子の行いが、デジモンテイマーズの道行を照らす燈火となった。
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翌朝。月が輝きを薄れさせ、東の空がしらみ始めた頃、ウルの町の入り口で愛子はハジメ達の見送りをしていた。優花を始めとした生徒達もいる。
「南雲、雫の事よろしくね」
「清水の事もついででいいから探してくれよ」
優花と男子生徒の1人、玉井淳史がハジメに声をかける。
生徒達は一緒にカウンセリングを受ける中で仲間意識が芽生えた。なので、行方不明になってしまった2人の安否を彼らはとても気にかけていた。
「お二人の事もですが、南雲君達もどうかご無事で」
愛子としては雫と清水のことは気掛かりだが、ハジメ達の身も気掛かりなのだ。
ちょっとむず痒く思いつつ、ハジメは愛子にあるものを手渡す。
「これ。いざという時のアークデッセイ号のキーです。操縦方法は自動車を参考にしていますので、先生でも動かせるはずです。普通免許持っていますよね?」
それはアークデッセイ号の起動キーだった。
ハジメ達はアークデッセイ号を宝物庫から取り出しておいた。いざという時に愛子達の避難先にするためだ。当然、私物や貴重品、そして危険物は下ろしてある。さらに愛子に預けたキーを使えば、愛子が運転して逃げ出すことも出来る。
「もも、もちろんです。あ、あんな大きな車は動かしたことないですが……」
「まあ、そこは頑張ってとしか。万が一ぶつかっても車体は壊れないです。道路交通法もこの世界には無いですから」
不安そうな顔をする愛子にハジメは苦笑いする。
彼の様子に昨日の教会で見た不安定な姿は見られなかった。
ハジメの左右にいる香織とユエもちょっとぎこちないが、険悪な雰囲気はない。
愛子は少しほっとした。
「じゃあ、行ってくる。そっちも気を付けてくれ」
短く言い残して、ハジメ達は北山脈に向かって行った。
「……はあ、本当に、無力ですね」
残された愛子は生徒達に聞こえないように、小さく呟いた。
その言葉には彼女の抱える葛藤が多分に含まれていた。
昨夜はハジメにいろいろ言ったが、愛子の方こそ痛みと辛さ、そして後悔を抱えている。
本来なら起きるすべての問題を彼女が解決し、生徒達を無事の姿で家族の下に送り届けなければならない。
しかし、そんな理想はとっくの昔に叶わなくなっている。
その現実が、もうすぐ目の前で繰り広げられることになることを、まだ彼女は知らなかった。
〇デジモン紹介
シスタモン ブラン(覚醒)
レベル:成長期
タイプ:パペット型
属性:ワクチン
シスタモン ブランのもう一つの姿。頭部のウィンプル中央にホーリースティグマが現れ、覚醒状態となる。この状態に入ると控え目な性格が一転し、むき出しになった戦闘本能に従うように荒れ狂った動きで戦場を駆け巡る。覚醒状態から戻ると先ほどまでの暴威が嘘のように、その場で穏やかな寝息を立てて眠りにつく。
まえがきでも触れましたが映画「デジモンアドベンチャー02 The BEGINNING」見てきました。
私的にはとても満足する内容で、この作品の今後の展開でも取り入れたい要素がいっぱいでした。
次はテイマーズなのか、またアドベンチャーの映画なのか、今後もデジモンから目が離せません。
このモチベーションを維持しつつ、次話は早めに更新したいです。