ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る   作:竜羽

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前話の裏側、暗黒の海での出来事です。



17話 暗黒デジモン出現

 ハジメ達が北山脈に足を踏み入れた時から少し遡る。

 暗黒の海に迷い込んだ雫達は、先に迷い込んでいた竜人族のティオ・クラルスに助けられ、一先ずの休息を取っていた。

 だが、暗黒の海は世界そのものが暗黒のエネルギーに満ちている。ただいるだけで、人の心を負の感情に引っ張っていく。

 例えば、精神に深い傷を負って弱っていた雫はもっとも影響を受けていた。

 

「…………」

 

 何もすることなく、膝を抱えて座り込んで海を眺めていた。

 彼女の目には意志の光は無く、生きる気力は皆無だった。

 ふと気が付けば、暗黒の海の底に自ら沈んで行ってしまうような、危険な状態だった。

 

 だからこそ、彼女の傍にはシアとコロナモンが付いていた。

 

「う~み~は~広いな~大きいな~って聞いていましたですが、本当に大きいですぅ」

 

 ハルツィナ樹海で生まれ育った彼女は海を見たことが無かった。話に聞いただけでワクワクした。ハジメ達が見せてくれたアニメで見た時は、本当にこんな場所があるのかと、期待がさらに高まった。大迷宮の中には海底洞窟もあるので、いつか行ったら思いっきり泳ぐのだと決めていた。なのに、

 

「まさか初めての海がこんな場所になるなんて。流石にこんな海には入りたくないですぅ」

「入ったらあいつらに引きずり込まれるぜ。俺そんなの嫌だ」

「私もですよ。次は泳げる海に行きます」

 

 コロナモンと海の事で盛り上がるシア。ちらりと雫を見て見るが、微動だにしていない。

 

(はふぅ~。気が重いですぅ。仕方ないですね。もうこうなったら、最後の手段です。できればこの手は使いたくなかったんですが。あああああ。シズクさん絶対怒りますよねえ)

 

 苦いものを口いっぱいに詰め込んだような顔をしながら、シアは覚悟を決めて口を開いた。

 

「まあ、シズクさんの気持ちも判りますよ。自分の所為で大切な人が辛い目にあったら辛いし苦しいです」

「…………ッ」

 

 シアの言葉に沈黙を貫いていた雫がピクリッと反応した。

 

「でも、そんな風に悲劇のヒロインを気取っていても、迷惑をかけるだけですよ?後から痛々しさに恥ずかしくなって笑いものになりかねません」

「…………」

「早く顔を上げましょう。ここを抜け出してハジメさん達の所に帰りましょう」

「……あなたに、何がわかるの!?」

 

 シアの言葉についに我慢できなくなった雫が彼女につかみかかった。そのまま押し倒して、シアの顔を殴りつける。

 まるで香織とユエの殴り合いの再現の様だったが、弱っている雫の拳には全く力がこもっていなかった。まるで幼子の駄々のようだ。だからシアの方も全く反撃をせず、雫の気の済むままにしていた。

 2人の様子にティオ達もすぐに気が付いて止めようか逡巡したが、コロナモンが手出し無用と伝えた。

 やがて、疲労から雫の手が止まる。それでも怒りは消えずにシアを睨みつける。

 

「はぁはぁ」

「わかりますよ」

「だから!「私も大切な人に、家族に迷惑をかけて殺しかけましたからね」」

 

 しかし、シアが教えた自分の境遇に固まった。

 ウルの町ではユエとシアの詳しい境遇は話さなかった。

 

「私は魔力を持たない亜人族ですが、魔力を持っていて魔法が使えます。そんな存在は忌み子として、生まれたら殺さなければならない掟になっているんです。ですが、私の部族のハウリア族は愛情深い一族ですから、魔力を持って生まれた白髪の私も家族だと受け入れてくれたんです」

 

 自分の髪を触りながら、家族のことを少し誇らしげに話す。

 

「ですが、流石に隠し通せるものではありませんでした。ある時、亜人族の国フェアベルゲンの長老の1人、森人族のアルフレリック様に見つかってしまいました。もうだめかと思った私達ですが、私はアルフレリック様に保護されました。実は森人族は亜人族ですが、生まれつき魔力を持った種族だったんです。彼らは殺されるはずの忌み子を可能な限り保護して、安全な場所で匿ってきました。私もそこに送られるはずでしたが、家族が私を受け入れてくれていたから、魔法を勉強しながら暮らし続けられました。魔法の勉強も出来て、新しい友達もできました。ですが、それも終わる時が来ました」

 

 幸せだった時間は終わり、シアにとっての地獄が始まった。

 経緯はハジメ達に説明した通りだ。

 友人と子供達を助けるためにしたことで、責められる日々は彼女の心を傷つけた。兎人族であるがゆえに、鋭い聴覚を持っていたことが仇となり、自分の処刑を望む多くの声が聞こえてしまったからだ。

 アルフレリック達が処刑から追放へと減刑することが出来たが、それに家族まで付いて来ようとしたことを知った。

 

「巻き込みたくなくて、突き放すようなことを言いました。酷いことも一杯言って、集落を飛び出しました。それから北山脈を目指してコロナモンと旅をして、ハジメさん達と出会いました。色々ありましたが、樹海に戻った私はそこで家族が、皆が私の後を追ったことを知りました。私の追放処分に納得できなかった人たちに責められていたそうです」

 

 アルフレリックの自宅で他の長老達からこのことを聞かされた時はとても辛かった。

 亜人族が唯一の住処である樹海の外に出たら、魔物に食い殺されるか、奴隷になるかの二択だけだ。ハウリア族の末路が想像できたあの時のシアは絶望した。

 

「自分さえ生まれてこなければと思いました。生まれたこと自体が罪なんだと、それしか考えられなかったです。パートナーのコロナモンの事も目につかず、フェアベルゲンを出ようとしました。あの時は深く考えていなかったですが、きっと死んだと思った家族の所に行こうとしていたんでしょうね。あとこのまま一緒にいたら、ハジメさん達まで巻き込んでしまうとも思ったのかも」

 

 そこまで話してシアは雫の目を見つめる。

 

「どうです?いろいろと共感できると思いませんか?」

 

 シアの言うとおり、彼女と雫の境遇には共感できる点が多い。特に自分の存在の所為で、大切な人が傷ついてしまったことについては、雫の境遇と重なった。

 そして何より、天真爛漫な笑顔を見せていたシアには、そんなにつらい過去があったなんて、全く感じなかった。

 

「そんなに辛いことがあったのに、何であなたはあんなに元気に笑っていたの?」

「ハジメさんに言われたんですよ」

 

 体を起こして、シアは雫としっかりと目を合わせながら、あの時ハジメに言われた言葉を雫に伝える。

 

「〝過去は変えられない。でも、未来は変えられる〟って。私の〝未来視〟の魔法で見られる未来は1つだけですが、行動1つでいくらでも変えられる。絶対の未来なんてない。だから、私は私の事を思っている人と一緒にいる未来を諦めたくないんです。悪い未来だと決めつけて逃げても、余計に皆を傷つけてしまう。だったら、大切な人と一緒にいい未来を掴んだ方が良いと思うんです!!」

 

 ハジメの言葉に気づかされたことと、胸の中に宿った熱い決意を、輝く太陽のような笑顔で言い切るシア。

 

「よう言うた!!まっこと見事な決意じゃ!!」

 

 シアの決意を傍で聞いていたティオが、取り出した扇子を広げて称賛する。

 彼女は2人の傍に近づくと、屈んでシアと同じく雫と目を合わせながら語り掛ける。

 

「シズクよ。生きておれば辛いこと、悲しいこと、色々なことがある。妾もこう見えて長く生きておるからのう」

「ティオさんって竜人族ですよね。確か、竜人族ってものすごく長生きですから、まさか!?」

「うむ。女同士じゃから教えるが500年は生きておる」

 

 小声で周りに聞こえないように、自分の年齢を教えるティオ。

 それを聞いたシアは竜人族の国が滅ぼされたのと同じ頃だと気が付いた。

 

「やっぱり、竜人族の国の滅亡と同じときを生きていたんですね」

「知っておったか。そう。妾は国の滅亡をその目で見た。まだ生まれたばかりで弱く、何もできなかったがな」

 

 さらりとティオのとんでもなく重い過去も話されて、雫はもうなんと言えばいいのかわからなかった。

 

「おっと。別に妾達の過去と比べる必要はないぞ。人によって辛いことの基準は違うものじゃ。妾もシアも、シズクも辛いという思いに軽いも重いもない」

「ですです。シズクさんの境遇も私達と同じだと思います」

「じゃが、気にかけてくれる者がいる以上、ずっと沈んでいるのは感心せんのう」

 

 そう言うとティオは立ち上がり、大きく深呼吸する。そして、霧に覆われた海を眺める。

 

「どうにもこの海にいると、負の感情が膨れ上がるようじゃ」

「ああ!だから私もちょっとネガティブな感覚がしたんですね!」

「うむ。実に厄介な世界じゃ」

 

 この世界は暗い感情が形になった世界と言われている。ただここにいるだけで、心はマイナスの方向に向かってしまうのだ。

 

「そんな時こそ、思い出すのじゃシズク。お主の大事な者達を。暗い闇の中だからこそ、より輝いて見えるはずじゃ」

「ティオさんの言うとおりです。気にかけてくれる人を思い出してくださいです!」

 

 ティオとシアはそう言うと雫に手を差し出す。

 2人の手に困惑していると、パタモンが飛んできた。

 

「雫。愛子が言っていた。君は立ち直るために、愛子に付いてきたって」

 

 パタモンはウルの町にやってきたとき、愛子と情報交換を行った。それで愛子が雫達のカウンセリングを行っていることを知った。

 立ち直るという事は、直したいという意思があること。

 ハジメのことを知る前だったとはいえ、雫はPTSDを乗り越えようとしていたのだ。

 

「その時の気持ちがまだ雫にあるなら、きっと立ち上がれる」

「パタモン……」

「まだ暗黒の海に飲み込まれていないんだから、だいじょ……」

 

 ニコリと笑顔を見せたパタモンだったが、突然力を失って倒れた。

 

「え……パ、パタモン!?」

「シア水を持ってくるのじゃ!」

「はいです!!」

 

 いきなり力を失ったパタモンに驚き、抱え上げる雫。ティオの指示に従ってシアが水を取りに行っている間、ティオはパタモンの様子を見る。

 

「一体何が」

「うーむ……、デジモンの事はよくわからんが、似たような症状に心当たりがある。熱中症じゃ」

「熱中症?」

「うむ。呼吸が荒く、疲労が見られる。もしや、パタモンにとってこの世界があっておらんのかもしれん」

 

 ティオの説明に雫はあることに気が付いた。

 パタモンはエンジェモンの進化前で、聖なる属性を有している。対してこの世界は暗黒の海。全くの正反対の属性の世界だ。

 長い時間留まっていることに加え、戦いで傷つき退化してしまっている。

 体に何らかの不調が起こってもおかしくない。

 

「早く脱出せねばならんが……間が悪いのぅ」

 

 パタモンを診ていたティオだったが、海の方から嫌な気配を感じとる。

 霧が濃く立ち込め始め、海の中から無数の深き者達が現れた。

 比較的安全だったこの灯台下だったが、危なくなってきたようだ。

 

「シア。あ奴らは妾が相手をする。その間に逃げる準備をせよ。頃合いを見て離脱する」

「はいです。コロナモン、進化を」

「待てシア。あいつら何か変だ!」

 

 コロナモンが深き者達を指差す。

 海面の深き者達は一塊に集まり合い、混じり合っていく。その分、大きさもどんどん膨らんでいき、不定形だった姿もはっきりしていく。

 それを見ていた雫は、トラウマがフラッシュバックしてしまい、パタモンを抱えたまま震え始める。

 そして、姿を変えた深き者達、その集合体が咆哮を上げる。

 

「何じゃこ奴らは」

「一体は知っています」

 

 悪魔のような身体に背中から二本の強靭な触手が生えている姿。ハジメ達に見せてもらったアニメにおいて、東京の竹芝ふ頭に出現した暗黒デジモンの一体。

 

「マリンデビモン。完全体です」

 

 深海の悪魔の名を冠する凶悪なデジモン。しかし、おそらくは本物ではない。深き者達が集合し、マリンデビモンの姿を借りているのだろう。それでも、発している威圧感からとてつもない強さを持っているのが分かった。本物のマリンデビモンと同等だろう。

 それは隣のもう一体も同じだった。深き者達の集合体なので、シアのデジヴァイスでデータを読み取れないため、シア達には名前がわからない。

 多分、デジモンだと思われる。マリンデビモン以上に禍々しく、痛ましい姿をしていた。

 

角と牙はイッカクモン。

顔と脚はシーラモン。

右腕はハンギョモン。

左腕はエビドラモン。

胴体はシードラモン。

背鰭はルカモン。

触手はゲソモン。

角と尻尾はオクタモン。

 

 様々な水棲型デジモンの肉体のパーツを組み合わせて作られた合成型デジモン。

 その名は、マリンキメラモン。

 マリンデビモンと同等の威圧感を発している。

 

 そして、その二体の後ろからダゴモンまで姿を現した。

 しかもダゴモンの大きさは前回現れた時よりも、さらに大きくなっていた。この暗黒の海を統べる邪神の真の姿を現していた。

 

「これは、今度こそ逃がさんという事かのう」

「ですね。私達とティオさんじゃあ手が足りません。かといってお二人に逃げてもらうのは……」

 

 雫と少し離れた所で座り込んでいたウィルの方を見るシア。2人は出現した邪神とその眷属の集合体に恐怖し、動けなくなっていた。下手をすれば恐慌状態に陥って、過呼吸になってもおかしくない。さらには弱って意識不明のパタモン。

 

「難しそうですが、何とかしましょう。最初っから全力で行きますよ、コロナモン!」

「おう!!」

 

 シアが取り出したカードが青く染まっていく。それをデジヴァイスにスラッシュする。

 カードを読み取ったデジヴァイスからコロナモンに進化のデータが送られ、進化させる。

 

「コロナモン進化!」

 

 暗黒の海を照らすように、巨大な炎がコロナモンの身を包み込む。そして、コロナモンは一気に完全体まで進化を遂げた。

 

「フレアモン!!」

 

 紅蓮の獅子が炎を滾らせて、姿を現す。初めて見たフレアモンにティオは驚く。

 

「これは凄まじい炎じゃの。ふむ……。こやつと妾で足止め。その間に何とかして脱出の機会を伺うしかないのぅ」

 

 現状で取れる手段を模索したティオは、〝竜化〟の魔法を発動させ、黒竜の姿に転じる。

 同時に右手に炎の盾を出現させる。

 

 対峙する両者だが、不利なのはシア達だ。フレアモンとティオが足止めできるのは、マリンデビモンとマリンキメラモンまでだ。二体の後ろに控えているダゴモンが手を出して来たら、一気に崩れてしまう。

 それまでに脱出の手立てをこうじなければいけない。

 暗黒の軍勢に対峙する炎の獅子と黒竜。濃霧に包まれた闇の世界で、再び戦いの火ぶたが切られた。

 




〇デジモン紹介
マリンデビモン
世代:完全体
タイプ:水棲獣人型
属性:ウィルス
あのデビモンでさえ、対戦を嫌がるダーティーファイター。デビモンの亜種だが、孤独な深海の生活から、憎悪以外の感情を無くしてしまっている。勝つためには手段を選ばず、相手が戦意を喪失しても攻撃の手をゆるめない。背中から生えた二本の触手は、それぞれ意思を持っていて、獲物を取り合って勝手に行動する。必殺技は口から猛毒の墨を発射する『ギルティブラック』。
シア達の前に現れたのは暗黒の海のダゴモンの眷属が集合してその姿を似せた紛い物。だが、そのベースにはダークゾーンを漂っていた本物の残骸が使われており、本物と同等の力を持っている。



シアが雫と香織とユエの喧嘩のような展開になったのは、当初は意図していなかったんですが、境遇が重なってしまったからです。
何だかんだでヒロインたちのバランスが取れてきたかなと思います。
ここまででようやく準備が整いましたので、次話からバトル展開に突入していこうと思います。
せめて、今年中にテイマーを増やしたいです。


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