ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る 作:竜羽
やっぱり勇者と深淵卿の人気ってすごいんだなあって思いました。
良くも悪くもですが。
では本文をお楽しみください。
「これで帰れるんだね、僕たち」
薄暗い船内の床に腰を下ろし、ハジメは呟く。
ここはデジタルワールドでの冒険を終えたハジメ達を現実世界(リアルワールド)へ帰還させるために製作された箱舟「アーク」の船内。ここにはハジメ達デジモンテイマーズの面々がパートナーデジモンと共に乗り込んでいた。
ゆっくりと進む船内でハジメはデジタルワールドでの冒険を振り返る。
いろんなことがあった。
リアルワールドとは全く違う世界の法則にデジモン達の過酷な生存競争。
ハジメがデジタルワールドに来た目的であるガブモンのX抗体の謎を知るために、リョウに教えられた賢者の森にいる賢者に会いに行こうとタカト達と別行動をしたこと。
辿り着いた賢者の森で、はぐれデジモン達を守る竜人型デジモンのパイルドラモンと出会い、戦いになるも弱いデジモンをいたわるその優しさに心打たれたこと。
賢者、ワイズモンからX抗体のことを聞いたこと。
賢者の森に現れた真の敵、余剰データを削除するプログラムが異常進化したデ・リーパーから森を守ろうと戦うパイルドラモンに加勢したがデ・リーパーの数に圧倒されてしまい、パイルドラモンに庇われ、死なせてしまったこと。
四聖獣達とデジモン達との間で始まるデ・リーパーとの闘いのこと。
「本当にいろいろあったけど、来てよかったよ。デジタルワールド」
「そうだな。俺たちもパートナーと出会えたし」
ハジメの言葉にヒロカズが同意する。しかし、隣に座っているケンタは拗ねたように言う。
「いいよな~。俺だってパートナー会いたかった「ピーピープ~!」え?」
その時、可愛らしい声がケンタのズボンのポケットから聞こえた。驚いたケンタがポケットに手を入れるとそこから光に包まれた薄紫色の縁取りのデジヴァイスが出てきた。
しかもそこから一体の小さなデジモンが姿を現す。
「ああ!? お前は」
「ピプ~!」
「マリンエンジェモン! そうか、そうなんだ! マリンエンジェモンが俺のパートナーなんだ!! 俺のデジモンは究極体のマリンエンジェモンなんだ!!」
小さな体だが、究極体の力を持つマリンエンジェモン。デ・リーパーと戦うためにやってきたが地面に激突してしまったのを、ケンタが助けたデジモンだった。
アークの中はめでたい雰囲気に包まれる。だが、その時、アークをすさまじい衝撃が襲う。
「うわああっ!!??」
「何!?」
「あ、あれ見て!?」
タカトがアークの前にある窓を指さす。そこにはアークの行先を塞ぐように広がる赤い泡──デ・リーパーの姿があった。
「デ・リーパーだ!?」
「こんなところにまで出てくるなんて」
「まずいよこのままじゃアークが突っ込んじゃう!」
ケンタが叫んだ通り、アークは上昇を止めずにデ・リーパーに突っ込もうとしている。
もしもこのまま突っ込んでしまえば、問答無用でデータを消去してしまうデ・リーパーに飲み込まれてしまう。
「ど、どうしよう」
みんなが狼狽える中、誰よりも速くハジメは決断した。
タカトとジェン、そしてルキはデジモン達と共に戦うことを選んだ。だったら、
「今度は僕達の番だ」
「そうだ」
ハジメの覚悟にそばにいたガブモンも応える。
「行くぞ、ガブモン!!」
「おう!!」
ハジメとガブモンはアークの船尾から外へ飛び出す。
「ハジメ!?」
「何してんのよ!」
それに気が付いたタカトとルキが驚く。
ハジメは空中でガブモンと手を握り、デジヴァイスを掲げる。
そして、二人は光に包まれる。
「ガブモン、一緒に帰ろう。父さんと母さんにデジタルワールドでの冒険を土産話にして聞かせてあげるんだ」
「きっとそれで新しいゲームや漫画を作るんだろうね。楽しみだ!」
「うん! そのために──」
光の中で二人は心を一つにする。
「「進化だ!!」」
──MATRIX XEVOLUTION──
「マトリックスゼヴォリューション!!」
「ガブモン進化!」
ハジメとガブモンが光の中で一つになる。
ガブモンのデータが分解され、再構成される。
成熟期のガルルモン、完全体のワーガルルモンを超え究極体へ。
体は機械化され、蒼い装甲を身に纏う。
右肩にビームランチャー、左肩にはミサイルポッドが装備され、体の各所に重火器が現れる。
左腕には超高速連射能力を持つガトリング砲「メタルストーム」が装備され、究極のマシーン型デジモンとして完成される。その名は──!!
「メタルガルルモンX!!」
メタルガルルモンは遠吠えを上げると、背中のビーム上のウィングを伸ばすと急上昇。アークを追い抜きリアルワールドへの道を塞ぐデ・リーパーへ向かう。
「ハジメとガブモンが僕達みたいに進化した」
「あれがX抗体を持つメタルガルルモン」
「メタルガルルモン。究極体。マシーン型デジモン。必殺技はコキュートスブレスとガルルバースト」
向かってくるメタルガルルモンに対し、デ・リーパーは一面に広がり飲み込もうとする。
それに対し、メタルガルルモンは全身の武装を展開する。
『セーフティー解除! ターゲットロック! 行くぞ!』
「《ガルルバースト》!!」
全ての武装からミサイルとビームが放たれ、デ・リーパーに炸裂。
その威力に向かってきていたデ・リーパーは全て吹き飛ばされる。
今度は細かい泡が向かってくるが、メタルガルルモンは俊敏な動きで飛び回り、躱し羽づける。
やがてデ・リーパーはメタルガルルモンを狙うのを止め、今度はアークに殺到する。
『させない!』
「《メタルストーム》!!」
それに対し、メタルガルルモンはアークの盾になる位置に飛び込むと、左手のガトリング砲「メタルストーム」を向け、銃弾をばら撒く。
人間の兵器であるガトリング砲とは比べ物にならない連射速度と威力の銃弾が、正確にデ・リーパーの泡を撃ち抜き、消し飛ばす。
X抗体の力で覚醒したデジコアを持つメタルガルルモンは、全距離に対応した重武装を持つため二足歩行になり、俊敏さも増している。
その姿はまさに俊敏に移動可能な重火器である。
メタルガルルモンの爆撃と銃撃にデ・リーパーはどんどん姿を消していき、残るはアークの軌道を塞いでいる塊だけになった。
『これで決めよう』
「帰るために」
メタルガルルモンはデ・リーパーに向かっていき、射程に収めると止めの攻撃を放つ。
「《コキュートスブレス》!!!」
口から放たれた絶対零度の冷気が一瞬でデ・リーパーを包み込み、凍結させる。
氷塊になったデ・リーパーは対空能力を失いそのまま落下していった。
『やった。デ・リーパーに勝てたんだ』
「ああ。やったなハジメ」
『うん。アークに戻ろう。そして家に帰ろう。メタルガルルモン』
「おう」
メタルガルルモンはアークに戻り、ハジメとガブモンに分離する。
「ハジメ!」
「やったぜハジメ!」
「かっこよかった」
「ありがとうハジメ」
「いきなり飛び出すんじゃないわよ」
「おとなしそうに見えて、やっぱり大胆だなハジメ」
口々にハジメを出迎えるタカト達。ガブモンもデジモン達に出迎えられている。
こうしてデジタルワールドでのハジメ達の冒険は終わった。得られたものもあれば失ったものもある旅だったが、デジタルワールドという世界へ行くという決断は間違いではなかった。
■■■■■
微睡の中から意識が覚醒していく。
とても懐かしい夢を見た。あの頃はガブモンと一緒ならどんなことでもできると思っていた。どんなに怖い相手でも、隣にガブモンがいれば立ち向かえる。
そんな根拠はないが、揺るがない自信に満ちていた。
それが突然ガブモンと別れて、現実を知ったことでいつの間にか無くなっていた。
もしも香織と出会えなかったら、そんな腑抜けた状態でガブモンと再会していたかもしれない。
(そうなったらガブモンの炎の拳にぶん殴られていたかもしれないな)
そんなことを考えながらハジメは二度寝をしようと、再び意識を落としていく。
寝返りを打とうとして身動ぎをした。
「ハジメ!?」
しかし、枕元でした大きな声にハッとして意識が戻ってくる。
それに伴い意識を失う直前の記憶も戻ってきた。
昼休みに香織と向かった雫のクラス。
二人を引き留めようとする光輝。
光輝の足元から広がる魔法陣のような幾何学模様とそこから溢れる光。
光の後に教室から、大聖堂へと変貌した周囲の景色。
見知らぬ大勢の人。
そして、突然遠くなった意識。
まるで現実味のない出来事の連続。特に最後の意識を失ったあの瞬間は、まるで魂に衝撃を受けたような、今まで味わったことのない感覚だった。
そんな風に思い返していると、今度はさらに近い位置から声がした。
「起きたのハジメ!? ハジメ!!」
「う、お、おき、起きたよ」
「あ、ああ……。よかった。よかったよぅ」
少し煩く思いながらも返事をするハジメ。それに声の主は安堵する。
目を開ければ思った通り雫の顔があり、その目には涙が溜まっていた。
初対面の時はとてもしっかりしていて冷静沈着な雰囲気を纏っていたのだが、ハジメに告白してからはこうして弱い姿も見せるようになった。
ハジメは雫を安心させようと、まだ気怠さの残る体を奮い立たせて上半身を起こす。
「全然目を覚まさないから、心配したわ」
「ごめん。心配かけて」
「いいわ。ちゃんと起きてくれた。それだけで私は……」
そう言うと雫はハジメの胸元に抱き着いた。その背中をポンポンと叩きながらハジメは状況把握を始める。
周囲に目を向ければここはどこかの部屋の中で、ハジメはベッドに寝かされていた。
ただしベッドといっても普通のベッドではない。天蓋付きの豪奢なベッドで、横になっているマットもとても柔らかい。
このベッド以外にも部屋の中は高価な調度品で溢れていた。
まるで映画に出てくる中世ヨーロッパの貴族の部屋のようだ。
──ガシャンッ
その時、部屋の入り口から何かが落ちた音がした。
そっちを見ると香織がいた。その足元にはトレーと食器が転がっており、中に入っていた食べ物が周囲に散乱している。
香織はしばらくハジメの方を見ていたが、やがてその目に雫と同じように涙を溢れさせると、猛烈な勢いで駆け寄ってきた。
「ハジメ君ッ!!!」
「ムギュッ」
そしてそのままハジメに抱き着いた。すでに胸元に抱き着いていた雫も巻き込んで。
ハジメは起きたばかりであまり力が入らず、再び上半身をベッドの中に戻した。
「ハジメ君ハジメ君ハジメ君!!! よかったよかったよぉぉっ」
「むぐうっぐぐっ」
「か、香織さん。あまり力を入れると、大変なことに。主に、雫さんが」
香織は抱き着いたままハジメをぎゅうぎゅうと抱きしめる。
しかし、ハジメと香織の間に挟まれることになった雫は苦しそうに呻く。
ハジメの鍛えられた胸元に顔を押し付けられ、香織の柔らかい胸元に後頭部を包み込まれている。さらに二人の体の臭いに包まれ、段々と意識が遠のき始める。
「な、何をやっているんですかあッ!?」
そんな中部屋に入ってきたのは畑山愛子だった。
ハジメの高校の普通科の社会科教師で、あの異常事態に巻き込まれた唯一の大人だった。
今年で25歳になる立派な大人なのだが、150センチ程度の低身長に童顔、ボブカットの髪とかなり子供っぽい。そんな姿で生徒のために奔走する姿はなんとも微笑ましく、一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念なところも相まって、教師というよりマスコットのような扱いを生徒たちから受けてしまっている。ちなみに愛称は“愛ちゃん”だ。
部屋に入ってきた畑山先生──愛子はまず香織と二人の間に挟まっていた雫をハジメから引き離し、落ち着かせた。
そのあと、香織が落とした食事を愛子が呼んできたメイドが片づけ、白衣を着た人物が現れハジメの様子を確認していった。どうやら医師らしい。
気になったのはメイドも医師も、まるでハジメ達を敬うような態度だった事だ。
彼らが退出した後、ハジメは香織達三人から現状を問いかけた。
「南雲君。落ち着いて聞いてください。ここは地球ではありません。異世界トータスというらしいです」
「でしょうね」
重々しく伝えた愛子にハジメはあっさりと納得した。
そんなハジメに愛子は目をパチクリする。
「お、驚かないんですか?」
「気を失う前の状況とまるで映画に出てくる貴族みたいな部屋。さっきのメイドさんたちから可能性の一つとして予想していました。こういう状況になるアニメやマンガも読んでいますから」
そしてハジメは言葉にしなかったが、経験もあった。6年前にデジタルワールドという異世界に行ったという経験が。
香織と雫は知っているし、この非常事態だから愛子に伝えてもいいかもしれないが、誰かが盗み聞きしていないとも限らない。なので、今は話さなかった。
「私たちは地球からこの世界に……召喚されました。ここは【ハイリヒ王国】というトータスにある国の一つです」
「召喚ですか。召喚したのはこの国ですか?」
「違うらしいわ」
「私たちがいたあの場所にいた人たちを覚えている?」
「うっすらとだけど」
「あの人たちの一人、イシュタル・ランゴバルドさんっていう人がハジメ君が気を失った後、私たちに説明してくれたんだけど、私たちを召喚したのはこの世界の神様らしいの」
「神様?」
香織の説明にハジメは眉を顰める。そんなハジメに愛子が説明を再開する。
「この世界の人々が信仰している聖教教会の創世神エヒトが私たちを召喚したらしいです。この世界の人々を救うために」
それからハジメは愛子から自分たちが召喚された詳しい経緯と、自分が気絶した後のことを聞いた。
ここは地球とは違う異世界トータス。
トータスには人間──トータスでは人間族と呼ばれる種族だけでなく、二つの知的生命体の種族がある。
一つは亜人族。体に動物の特徴を持つ種族で大陸の東にある樹海に住んでいる。
そして魔人族。南一帯を全ており、数は少ないが個人が優れた能力を持っている。
そしてこの魔人族が問題であり、人間族と長年戦争状態らしい。
今まで人間族はその数で魔人族に対抗していたが、ここにきて異常事態が発生した。
それが魔人族による魔物の大量使役だ。
魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。トータスの人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのことだ。
「魔法? またファンタジーですね」
「人間族や魔人族が使えるらしいわ。亜人族は使えない」
「そのせいで亜人族は奴隷になることが多いんだって」
雫と香織の説明を聞き、ハジメはそれなら自分たちも使えないんじゃと思ったが、どうやら違うらしい。愛子が再び説明をする。
魔人族はその魔物を操る術を見つけた。それにより今まで人間族のアドバンテージだった数の有利を覆され、滅びの危機を迎えている。
それを憂いた人間族の神エヒトは救世主を呼ぶことにした。
それがハジメ達、異世界からの勇者。神の救済を代行する使徒の召喚だった。
ハジメ達の世界、地球はトータスよりも上位に位置する世界らしく、召喚された者たちは強力な力を持ち、トータスの魔法も使えるようになる。
その力で魔人族たちを打倒し、人間族を救うというエヒトの意思を実行してほしい。
それがハジメ達を召喚した理由であり、エヒトから聖教教会教皇イシュタル・ランゴバルドが受けた神託だという。
またハジメが気を失った理由もイシュタルは述べており、ハジメはエヒトから召喚された際に目覚めた力に、体が耐えられなかったのではとのことらしい。
この話を聞いた光輝はハジメのことを情けないと零しており、香織と雫、それに浩介は光輝を睨みつけていた。
「それでその話を聞いてみんなはどうしたんですか?」
「それは、そのう……」
「まさかと思いますが、その話を引き受けたんですか?」
ハジメの問いに愛子は小さくこくりと頷く。
「光輝のせいよ」
雫は頭を押さえながらその時のことも説明した。
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案内されたテーブルと椅子の並べられた大広間で召喚された者たちはイシュタルからの説明を聞いていた。ただし気を失ったハジメは医療室に相当する部屋に運び込まれており治療を受けている。香織と雫もハジメの傍に居たかったが、現状が何もわからないのではハジメが起きた時に困ると思い、断腸の思いで医師に任せた。
そして、イシュタルから話を聞き終わり、抗議をした人間がいた。
愛子だ。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなことは許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
立ち上がりプリプリ怒る愛子の様子に生徒たちはほんわかしていたが、続くイシュタルの言葉に凍り付く。
「お気持ちはわかります。ですが現状、皆さんの帰還は不可能です」
「ふ、不可能ってどういうことですか!? 呼べたのなら帰せるはずでしょう!?」
「皆さんを召喚したのは我々ではありません。エヒト様です。エヒト様の魔法は我々の常識の及ばない神代の魔法。神の御業なのです。私どもでは異世界、それも上位の世界への転移などとてもできません」
「そ、そんな……」
その言葉にそれまでの気勢を削がれた愛子がストンと椅子に座り込む。
やがて生徒たちも自分たちが帰れないとわかるとパニックを起こし始める。
そんな中、香織と雫はイシュタルの話を吟味する。どこからどこまでが本当で、嘘なのか。これからどう行動すればいいのか。
これもハジメと関わっていく中で、南雲家というエリートオタク一家の影響を受けた結果だった。異世界召喚物の小説でよく見た展開だ。
創作物ではあるが参考にはなる。今のところ最悪のパターン、召喚した人物を問答無用で奴隷にするという展開ではないので、平静を保てている。
ふとイシュタルのほうを見てみると、二人はゾッとした。
イシュタルはさっきまで好々爺のような顔をして説明していたのだが、今はその目には冷たい侮蔑の色を浮かべ自分たちを見ている。
(もしかして、エヒト様に召喚されたのに喜ばないなんて罰当たりだって思っている?)
(もしそうなら、ここにいるのは危ないかもしれない)
雫と香織はそう考えると、何とかこのパニックを収めようと考え始める。だが二人が考えをまとめる前に、パンッと机を叩いて一人の生徒が立ち上がった。
それは光輝だった。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。落ち着くんだ」
その言葉に、生徒たちは光輝のほうを見る。
雫はものすごく嫌な予感がした。
「俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間族を救うために召喚されたのなら、救済が終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「それにさっきの話だと俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。
同時に、彼の持つカリスマが遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。光輝を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。普段はハジメに突っかかっている姿に眉をひそめている女子生徒まで、半数以上が熱っぽい視線を送っている。
(やってくれたわね、光輝ッ)
「……雫ちゃん。これってまずいよね?」
「ええ。まずいわ」
頭を抱える雫と不安を露にする香織。
光輝は何かを頼まれると深く考えずに引き受けることが多い。そのせいでトラブルを呼び込むことがあった。中学生の時には雫もそのトラブルに巻き込まれて苦労した。
だが、今回のこれはまずい。今までの頼みごととはわけが違う。
このままでは自分たちはこの世界の戦いに巻き込まれてしまう。雫は苦々し気に光輝を見て、何とか流れを変えられないかと思い立ち上がる。
「みんな待」「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」「龍太郎。ありがとう」
しかし、雫の言葉は同時に立ち上がった龍太郎に遮られてしまう。朝は彼の行動に助けられたが、今は邪魔されてしまった。
しかも、龍太郎に続くように男子生徒たちが「俺もやるぜ」「俺も」と賛同し始めた。そうなると後はあっという間だった。女子生徒たちまで賛同者が出てきてしまい、さらに様子見をしていた生徒も流されるように了承してしまう。
そして残ったのは愛子と香織、雫だけになった。
「雫と香織も一緒に人々を救おう」
光輝は二人にそう言う。彼の中では二人も賛同していることになっているようで、問いかけではない。だが、
「私はやらないよ」
「え? な、なにを言っているんだい? 香織」
香織は光輝の言葉をきっぱりと否定した。
「そもそも私たちがやる理由が分からないよ」
「やる理由って、俺たちはこの世界の人々を救うために召喚されたんだぞ。だったらやるべきだ」
「私はその召喚に同意していない。さっき愛子先生も言っていたけど無理やりここに呼ばれた、つまり誘拐されたんだよ。それなのに戦うなんて私にはできない」
「し、雫は? 雫なら一緒に戦ってくれるよな!?」
香織ににべもなく断られた光輝は雫に話を振る。
雫は少し考え込む。もしもハジメ達と出会う前の自分なら、自ら戦いに飛び込もうとする光輝やクラスの皆を放っておけず一緒に戦おうとしていただろう。
でも、今の雫は自分の心に素直に行動することの大切さを知った。そして戦いに臨むということは自分の身が傷つくということだ。最悪の場合命を落としてしまう。しかもそうならないためには相手の命も奪わなければいけない。
そこまで考えた雫を襲ってきたのは途轍もない恐怖だった。
自分と相手の命を秤にかけて行うやり取りの重さと背負いかねない罪の意識。
こんなものを抱えながら自分と香織を助けてくれたハジメは、本当に凄いと思う。
自分にはまだそんな覚悟はできない。こんな状態で戦いに参加するなんてできないと思った。
「光輝。私も香織と同じよ。今聞いた話だけで戦いに参加するなんてできないし、一刻も早く家に帰りたいわ」
「そんな。雫、いつからそんな臆病になってしまったんだ。やっぱり南雲のせいで」
「ハジメは関係ないわよ。もともと私はこういう性格なのよ。責任感もあるし、任されたことはしっかり果たしたい。でも、いきなり戦えって言われて戦えるほど強くないし、怖いのよ。それに家族や友達と過ごす日常が大好きだから早く帰りたいわ」
「だったら帰るためにも、なおさらこの世界の人々を救うために戦うべきだ!」
「帰る方法なら他にあるかもしれないじゃない。私は香織と一緒にそれを探すわ。みんなが戦って、同時に私たちが帰る方法を探す。手分けしたほうがいいと思うけど?」
「そ、それは」
「それなら私は雫ちゃんに協力するよ。帰る方法は多いほうがいいと思うし」
言い淀む光輝に畳みかけるように香織が言う。
それにハジメ君もそう考えるしね。
言葉にしていないが香織も雫もそう思ったのだった。
■■■■■
「そのあと、私たちが召喚された場所、神山っていう山の上にある聖教教会の本山から麓にあるハイリヒ王国の王都に案内されたの。いきなり国王様とかに挨拶されたり、晩餐会に出席させられたりして大変だったよ」
「特に香織なんて王子様に話しかけられていたものね」
雫がニヤニヤしながら言うと香織は苦笑いする。
雫の言う通り、香織は昨日の晩餐会でハイリヒ王国の国王、エリヒド・S・B・ハイリヒの息子であるランデル王子に終始話しかけられていた。
もっとも香織はランデル王子を、テイマーズのマコト同様可愛い弟分としか見ていないが。
「とりあえず現状はわかったよ。……最悪の状況ではないけれど、最善の状況とは言えないなあ」
ハジメはそう呟く。どいうことかと三人が尋ねるとハジメは説明する。
「まず着の身着のままで放り出されることがなかったこと。神様の使徒という扱いなら生活の保障はしてもらえる。何せ僕達にはこの世界で生きていく当てがないんだしね」
「確かにそうですね。生徒の皆さんを抱えたまま、右も左も分からない異世界で生きていくなんて不可能です」
「でもそうなるとまずいのが、香織さんと雫さんが戦争参加を明確に拒否したことだ」
「うっ」「あう」
「え? え? どういうことですか?」
雫と香織はバツの悪そうな顔をして目を背け、愛子は疑問の声を上げる。愛子としては二人とはいえ生徒が危険なことを拒否してくれて安堵していたのだ。
「話を聞いた限り、この世界では神という存在が大きいし、そこから神託を受ける聖教教会の影響が強い。その力は国すらも動かしているんじゃないですか?」
「確かに私たちがやってきたとき、イシュタルさんに国王様が跪いていました」
「つまりそんな神様が下した神託を拒否した形なんだ。いつ背信者だって追い出されても仕方がない。それこそ中世ヨーロッパの魔女狩りみたいになったら最悪だ」
「あ」
社会科教師である愛子はハジメの言ったことをすぐに理解した。地球の歴史でも宗教関係で無実の人が理不尽に殺された。この世界でもそれが起きないとは限らないのだ。
「昨日私たちも後からそれに気が付いたわ」
「せめて保留とかにすればよかったよ」
「まあ、そのあたりは何とかしよう。帰還方法を探す中で見つけたもの──例えば神代魔法の手がかりとか、僕たちの世界の知識とかを国に提供するとか言っておけばいいと思うし」
落ち込む二人をハジメは慰める。
ハジメとしては戦わないと言った二人の判断を間違っているとは思っていないし、自分がその場にいれば同じ選択をしただろう。
幸い、交渉材料はある。
「よし、僕も二人に協力するよ。それで今日はどうするの? 早速帰還する方法を探すの?」
「あ、そうだ。この後訓練を受けるんだった」
「訓練?」
香織の言葉にハジメは質問する。
「戦うための訓練。この国の騎士団が私たちの力の使い方を教えてくれるんだって」
「戦うのを拒否した私や香織、愛子先生もせめて自衛ができるようにって」
「南雲君はまだ横になっていていいですから」
「……いえ。僕も行きます」
ハジメを気遣う愛子には悪いと思ったが、ハジメは訓練に参加することにした。
今は一刻も早く行動するべきだと考えたのだ。
それに自分が倒れた理由も知りたい。本当にイシュタルの言う通り、強大な力とやらに耐えられなかったからなのか。訓練で体を動かせばわかるかもしれないと思ったのだ。
そのあと、手早く身支度を整えたハジメは、メイドさんが改めて用意した食事を軽く食べた。そして、香織達と共に訓練が行われる訓練場に向かったのだった。
冒頭は書き貯めしてあったテイマーズ編の一部です。ちょっとハジメが昔どんな冒険をしていたのか出しました。
これもちょっとした前振りですね。
本文ではトータスの説明回。
本来はステータスプレートまで行きたかったのですが、長くなったので分割します。
書きたかった原作に入ると執筆が進みます。早くカードスラッシュをしたいです。
ただどうにも光輝が悪く見える書き方になる。作者としては光輝が嫌いなわけではないんですよ。でも彼には物語のプロット上どうしてもキツイ展開が続くんですよね。
原作開始前にテコ入れするということも考えたんですが、原作前の彼に対してデジモンに理解を示してもらうには、テイマーズの時点でハジメと一緒にテイマーになってもらうしか思いつかず、それは物語上どうなんだと思いました。
他のハジカオ作家の方のように香織関係で改善するというのも考えましたが、その方の二番匙になるので没にしました。彼には私が思う覚醒をしてほしいので。
まだまだ光輝には厳しい展開が続きますが、温かい目で見守っていてほしいです。
次回はステータスプレートとハジメ達の活動です。キーポイントはハジメの鞄ですね。
評価していただきました
三悪様、 ははもり様、 キティー様、 衛置竜人様、 もろQ様
誠にありがとうございます。
誤字報告もしていただき感謝です。結構見逃しててびっくりしました。
お気に入り登録も増えてとても恐縮です。期待を裏切れないと思いつつも自分が面白いと思う話を書いていきます。
デジモン紹介
ギルモン 世代:成長期 爬虫類型 属性:ウイルス
幼さを残す恐竜のような姿をしたデジモン。タカトが考えた設定メモから生み出されたデジモンで、世界に一匹しかいない。
普段は幼いしゃべり方だが、戦闘になると戦闘本能をむき出しにして凶暴になる。
得意技は強靭な前爪で岩石を破壊する『ロックブレイカー』。必殺技は強力な火炎弾を口から放つ『ファイアーボール』。