ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る 作:竜羽
本当にお待たせしました。Ifのストーリー最終話です。
大迷宮の町ホルアドに現れた異形の魔物は、ハジメが用意していたアーティファクトとコキュートスブレスにより凍結され、動きを止めた。
しかし、ハジメが解析したデータによると体内の重力場からのエネルギー供給は止まっておらず、一時間もかからずに自力で凍結を食い破って来るという。
「あの魔物を仮称として深怪柱、ディープピラーと呼ぶ。命名者は遠藤だ」
「流石だ。アビィ。見事な厨二だ。深き者から深海、さらに怪異を絡めるとは脱帽だぜ!」
「いや、何が流石? あとアビィって何のことだよ?」
ハジメとワーガルルモンにサムズアップされたこの世界の遠藤浩介がわけもわからず困惑する。
名前が無いのは不便と思ったハジメが、何となく近くにいたから話を振ってみたところ、自分の存在に気が付いてくれたことに感激しながら、名付けてくれた。余談であるが、遠藤の南雲への好感度が上がり、後の2人の関係に変化を与えたとかそうでないとか。
それはともかく。ディープピラーを倒すためにホルアド近郊に集まった面々による話し合いが始まった。
ハジメと南雲達はもちろん、メルドと勇者パーティーもいる。ちなみに勇者は気絶して磔に拘束されている。磔の上には「僕は命令違反を行い、町を壊した勇者(笑)です」と書かれた木の板が取り付けられている。
メルド以外の騎士団員はホルアドの住人を出来るだけ町から遠くに誘導中だ。
「復活するまでの時間がないなら次はどうするんだ? 放置か?」
「正直そうしたいのは山々だが、あれは明らかに異常だ。凍っていても内包するエネルギーはすでに核融合炉レベルまで上昇している。しかも上昇が終わらない」
下手をすれば大爆発を起こしハイリヒ王国を巻き込む大爆発を起こし、トータスという世界そのものに甚大な被害を与える事態になりかねない。
「対処できるうちにやらないと、手に負えなくなる可能性がある。お前らも嫌だろ? 帰る前にこの世界が滅んで帰れなくなるなんて」
ハジメがそう言うと南雲も苦い顔になる。
南雲の手持ちの武器の中に、あれほど巨大な魔物を撃破できるものは無い。兵器であるがゆえに、設計時よりも大きな破壊力を発揮できないのだ。
「協力するのはいいぜ。だが、ちゃんとディープピラーを倒せる手があるんだろうな?」
「ああ。切り札はこれだ」
ハジメは一枚のカードを取り出す。
それは「トリニティバースト」という技のデジモンカードだった。
その効果は三体のデジモン達による三位一体攻撃。
オルクス大迷宮の最終試練で現れた究極体と同等の力を持ったメタリックドラモンを倒した技で、その戦いのデータを解析し、開発していたカードだ。
今後究極体レベルの相手と戦う際に必要になると思って用意していたのだが、まさか並行世界で使うことになるとは。
カードの効果をハジメは説明していく。
「幸いにもここにはデジモン達が三体。ペガスモンだけがアーマー体だから力のバランスが崩れるという懸念があるから、ちょっとプログラムを書き直す必要があるが、十分勝率がある」
言葉通りにハジメの左手はアナライザーのキーボードを叩き続けていた。並列思考の技能を使い、説明しながらカードのプログラムを書き換えている。
どんなに厳しい状況に陥ろうとも、諦めることなく勝ち筋を模索し続ける姿は、何となるんじゃないかという安心感をもたらしていた。
「さらに確実性を期すために、もう1つのサブプランを使う」
■■■■■
話し合いから数十分後。
ハジメ達はディープピラーを倒すための作戦を開始していた。
この場にいるのはハジメ達と南雲達、この世界の勇者パーティーとメルドだ。
住人達の避難はとっくに完了し、町には誰もいない。しかし、戦いの余波に巻き込まれないために、可能な限り遠くに移動中だ。メルド以外の騎士団員は彼らの護衛と誘導の任についていた。
ちなみに檜山達を含める小悪党パーティーも住人の護衛についていたりする。こちらは護衛というより、不確定要素として省いたというのが本当の理由だったりする。特に檜山はハジメと南雲がオルクス大迷宮で死にかけた原因だ。今回もどさくさに紛れて何かしでかすと懸念した。こんな時に何か言う勇者は気絶して、近くで勇者(磔)になっている。
「よし。作戦開始」
「了解ですぅ!」
「ええ!」
ハジメの掛け声にシアと雫が応える。
「カードスラッシュ! マトリックスエヴォリューション!!」
「《希望のデジメンタル》! デジメンタルアーップ!」
──MATRIX EVOLUTION──
──ARMOUR EVOLUTION──
「コロナモン進化!」
「パタモンアーマー進化!」
シアがブルーカードを、雫がデジメンタルのカードをデジヴァイスにスラッシュし、コロナモンとパタモンが進化する。
「フレアモン!!」
「ペガスモン!!」
すでに進化してエネルギーをためていたワーガルルモンの両隣に、フレアモンとペガスモンが並ぶ。
三体のデジモンが揃い踏みになった光景に南雲が感動する。
「壮観だな」
「……気になっていたけど、ハジメはデジモンの事元々知っていたの?」
ユエからの質問に南雲が首を縦に振る。
「ああ。ガキの頃は結構はまっていた。だから並行世界の自分がデジモンテイマーっていうのはなんつーか嬉しくもあり、気恥ずかしいぜ」
「……ん。そう」
「ハジメさん! ユエさん! 私達も準備しますよぉ!」
「早く来てよハジメ君!」
ハウリアと白崎に呼ばれた2人は「そうだった」と持ち場に向かう。
そこではこの場に残った全員が集まっており、ハジメが用意したサブプランの準備をしていた。
そこには全長10メートルもある巨大な大砲が設置されており、砲口をディープピラーに向けていた。
ハジメが用意したサブプランとはこの巨砲のことだった。
名前は〝魔力収束砲ヴァナルガンド〟
魔力を撃ち出す大砲である。
これまでハジメは弾丸を撃ち出す銃火器を中心に作成してきた。しかし、それだと威力は一定であることや、弾丸が効かない相手と遭遇した際に手詰まりになることを懸念した。
そこで魔力そのものを撃ち出すアーティファクトを開発に着手した。
作成は時間がかかったが、フェアベルゲンで魔力を補充することで魔物よけの効果を発揮するフェアドレン水晶を解析したことで開発は一気に進み、ウルの町に到着する少し前に試作品が出来ていた。
まだ試射も済ませていないが、計算上では完全体デジモンの必殺技に匹敵する威力を発揮する。それほどの威力を発揮するために、チャージする魔力が膨大になるという欠陥を持っている。ステータスの数値に換算すると10万。トータスの住人はおろか、召喚された勇者達でも最大値までチャージするのは難しい代物となってしまった。
ハジメは先ほどのコキュートスブレスでかなりの魔力を消費したため、完全にチャージできない。南雲達がこの場にいたのは幸いだった。彼らのチートと言える魔力が加われば、ヴァナルガンドの最大火力が発揮できる。
ヴァナルガンドを最初に撃ち込んでディープピラーの肉体を穿ち、デジモン達の《トリニティバースト》を核に直接ぶち当てるというのが、作戦の全容だった。
すでにヴァナルガンドへと魔力供給を終えたハジメ達テイマーはパートナーデジモンとタイミングを見計らっている。
ヴァナルガンドに魔力が充填されていく。すでに南雲以外の面々は魔力を充電し終えている。南雲は最後の魔力を充填するのと同時に、射撃の腕を見込まれて砲手として引き金を引く役目を担うことになっている。照準器を覗き込みながら、準備を進める。
「ティオ。右に少しずれている。動かせ」
「了解なのじゃ」
南雲の指示に黒竜化したクラルスが従う。
試作品であるヴァナルガンドには射線を調整する機能が無く、人力で照準を合わせなくてはならない。その役目は魔力を少し残しておいたクラルスが担当することになっている。また防御役としてティオも控えている。
「よし。そのまま動かすなよ」
照準器を覗き込んだ南雲だが、ふと彼のオタク心がひょっこりと顔を出してきた。
「ターゲットスコープオープン。電影クロスゲージ明度20。……薬室内圧力上昇。エネルギー充電120%」
エネルギーの充填率を示すゲージが最大値になったのを確認した南雲が、このシチュエーションに相応しい、かの有名な宇宙戦艦のアニメのセリフを口ずさむ。それが聞こえた遠藤がビクッと反応する。他の聞こえた男子も同様だ。男の子ならば仕方ない。
そして、ヴァナルガンドの発射準備は完了。砲門から充電された魔力による白い輝きが漏れ出てくる。
同時に、ディープピラーを封じ込めていた氷が融解して水蒸気になり始めた。
「凍結限界だ。やっぱり一時間ももたなかったな。来るぞ!」
ハジメが知らせた瞬間、ディープピラーの氷がはじけ飛び、醜悪な魔物が自由になった。
だがそれと同時に、ハジメ達の作戦も始まった。
「総員対ショック対閃光防御!!」
南雲がさっきの呟いたセリフと同じアニメのセリフを叫ぶ。
遠藤達が羨ましそうな目をする中、全員が手で目を覆う。
「発射10秒前。10、9、8、7、6、5、4」
南雲のカウントが進むとともに充填された魔力が重力魔法で収束され、ヴァナルガンドの砲身が輝き始める。
「3、2、1。ヴァナルガンド発射!!」
南雲の指が引き金を引く。
砲口から眩い光と共に魔力砲撃が放たれる。この場の全員の魔力を集めた一撃はそのまま直進し、ディープピラーに直撃した。
──アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!?!?!?
ヴァナルガンドの魔力砲撃を受けたディープピラーの悲鳴が轟く。
「うわあああああああ!?!?! 目が目がああああああああ!?!?」
ついでに気絶から目覚めてしまったために、ヴァナルガンドの閃光で目を潰された勇者(磔)の悲鳴も響いた。
ヴァナルガンドの砲撃はディープピラーに命中したまま重力場を抉り出そうとする。
自身の弱点に向かって攻撃していることを察知したディープピラーは、ホルアドの町を破壊した時のように、無数の魔物の口からハジメ達に向かって攻撃してくる。
その内の一発の火球が、ヴァナルガンドを撃っている南雲に向かってきた。
「させんよ!」
その攻撃は砲身を支えているクラルスの代わりに、ティオが炎の盾で防ぐ。
「ぶち抜けえええええええ!!!」
南雲の咆哮と共にヴァナルガンドが最後の魔力を放出。ディープピラーの肉体が大爆発を起こした。
アナライザーでスキャンしていたハジメが、今の一撃で重力場が露出したことを確認する。
「よし。次は俺達だ。ワーガルルモン!!」
「フレアモン!!」
「ペガスモン!!」
ハジメ達がパートナーデジモンの名前を呼ぶ。
ワーガルルモンとペガスモンは勢いよく飛翔し、フレアモンが炎を纏いその勢いで地上を疾走する。
ハジメ、シア、雫がトリニティバーストのカードを同時にデジヴァイスにスラッシュする。
「カードスラッシュ!」
「トリニティ!」
「バースト!!」
三人のデジヴァイスから蒼、緋、緑のエネルギーが放たれ、デジモン達に宿る。
エネルギーと共にトリニティバーストのカードのデータを受け取った三体が、その身を高純度のエネルギー体へと変化させる。
そのまま三体は1つとなり、ヴァナルガンドの魔力砲撃以上のエネルギーとなってディープピラーへと向かって行く。
「「「《トリニティバースト》!!!」」」
ディープピラーの重力場とトリニティバーストが激突する。
強大なエネルギーの激突にディープピラーの肉体が吹き飛んでいく。
このままトリニティバーストが重力場を吹き飛ばすかと思われたが、更なるエネルギーが重力場の向こうから流れ込んできた。
「まずい。このままだと押し負ける」
「一体、あの向こうに何がいるんですか!?」
「諦めるか。諦めてたまるか!! ワーガルルモン!!」
「フレアモン! 頑張ってください!」
「お願いペガスモン! 勝って!!」
テイマー達がパートナーを信じて心を1つにする。するとトリニティバーストの威力が上がっていく。
後もう一息というところで、更なるエネルギーが重力場の向こうから送られてきた。
あまりのエネルギー量に周囲の時空が歪み、崩壊し始める。このままでは押し負けるだけでなく、空間の崩壊に巻き込まれかねない。
何かもう1つ、後押しが必要だとハジメが思ったその時。
「「《デスペラードブラスター》!!!」」
強力なエネルギー弾がトリニティバーストに加えられた。これにより、再び均衡は傾いた。そして、ハジメ達の目の前に突然謎の光と共に2人の人物が現れた、
「お願いパイルドラモン!」
「ワーガルルモン達に力を!」
1人は黒髪をしたハジメ達よりも年下の少女。清楚な顔立ちで髪型はショートだが、どこか香織に似ている。
もう1人は同じ黒髪だが長いストレートで、眼鏡をかけた知的な雰囲気の少女だった。こちらはどこか雫に似た顔立ちをしている。
そして、彼女達の出現と同時にホルアドの上空に新たなデジモンが姿を現した。
強靭な竜のパワーを宿した肉体に、堅牢な昆虫の甲殻を纏った竜人型デジモン。
エクスブイモンとスティングモンがジョグレス進化したことで生まれる「完全なる竜戦死」、パイルドラモンだった。
「君達は一体……?」
問いかけるハジメだが、少女達は少しハジメ達を見ると何も言わずに、右手を大きく掲げる。
その手にはハジメ達と同じデジヴァイス、Dアークが握られていた。
カラーリングは2人とも青と緑で画面の縁は金色のカラーリングだ。
「「一気に決めるわ。究極進化よ!!」」
その言葉と共に2人のデジヴァイスが眩い光を放つ。
「「パイルドラモン究極進化!!」」
パイルドラモンが光に包まれ、より強大な肉体へと進化していく。
青い竜の肉体に黒金の装甲が装着される。翼は赤く染まり、より大きく雄々しくなる。
巨大になった肉体を支えるために四足歩行になり、背中の翼の間には巨大な大砲が装備される。
「「インペリアルドラモン!!!」」
これこそパイルドラモンの究極進化形態。かつて古代デジタルワールドに君臨したとされる古代竜型デジモン。他のデジモンとは存在や能力の面で一線を画している。
あまりにいきなりの展開の連続にハジメ達はついていけない。
インペリアルドラモンはワーガルルモン達の後ろに移動すると、背中の砲門にエネルギー砲を放とうとする。
それを見たハジメは慌てて香織に似た少女の肩を掴む。
「お、おい、一体何をするつもりだ!? あそこにインペリアルドラモンの攻撃何て撃ち込んだら、ワーガルルモン達が!!」
「大丈夫だよ」
「信じて」
焦っていたハジメだが、何故か彼女達の一言で焦りが少し収まった。
「「《ポジトロンレーザー》!!!」」
インペリアルドラモンの背中の砲門から、螺旋がかかった紫色の破壊光線が放たれ、トリニティバーストへと撃ち込まれる。すると破壊光線のエネルギーがトリニティバーストと一つになった。
「「「「「《トリニティポジトロンバースト》!!!!!」」」」」
重力場の向こうから放たれるエネルギーさえものともせず、《トリニティポジトロンバースト》はディープピラーを全て消し飛ばした。
■■■■■
インペリアルドラモンがハジメ達の前に舞い降りる。
すると背中から青い光が降り注ぎ、退化したガブモン達が現れた。
「ガブモン!」「コロナモン!」「パタモン!」
テイマー達が駆け寄って疲労困憊のパートナーデジモンを抱き上げる。
全員意識を失っているが無事だった。
ハジメは改めてインペリアルドラモンと2人の少女に向き合う。
「助けてくれて感謝する。だが、君達はいったい何者なんだ?」
南雲達も近づいてきて2人を警戒する。
まずは香織に似た少女が自己紹介を始める。
「初めまして。私は
「はい?」
「あ?」
少女──一香の言葉にハジメと南雲が口をポカンと開ける。
他の面々も驚愕する中、もう一人の少女が自己紹介をする。
「南雲
「おうふ」
「マジかよ」
追撃によってふらつくハジメと南雲。
2人はハジメの事をパパ、お父さんと呼んだ。特に澪は「若い」と。つまり2人は……。
「……どういうことハジメ。いつの間に子供を作ったの!?」
「そうですよハジメさん! あの二人どう見ても私にもユエさんにも似てないですよ!! むしろそちらのお二人にそっくりですぅ!」
ハウリアが白崎と八重樫を指差す。
白崎は一香の言葉を聞いてまさかと思いつつも頬を押さえてテレテレしている。八重樫は「え? え?」と困惑して、南雲を見て首を横にブンブン振っている。
「あ、私達のお父さんの南雲ハジメはそちらです。デジモンテイマーの心得なんかもお父さんから学びました」
「大体デジモンテイマーなんだからそっちだってわかるものじゃない?」
澪が丁寧に説明する横で一香が呆れながら言う。
「つ、つまり澪ちゃんはハジメともしかして私の」
「はい。私の母は雫。旧姓は八重樫です。お母さんとも出会えてうれしいです」
「っっっっ!!!」
澪が雫の質問に肯定したことで感極まる雫。思わず駆け寄って澪をギューッと抱きしめる。澪も少し驚いたが、すぐに抱擁を受け入れた。
「じゃあもしかして一香さんはハジメさんとカオリさんの子供なんですか」
「うんそうだよ。ここにはいないだけど、私のママは白崎香織だよ。結婚して南雲香織になったけどね」
サラッと答えた一香にシアは納得した。ハジメもそれを聞いて自分と香織の将来に思いをはせた。
「「一香、澪。そろそろ」」
そこにインペリアルドラモンが声をかけてきた。それを聞いた2人はハッとすると、デジヴァイスを構えるとハジメ達から離れる。
「パパ。皆さん。私達がここに来たのはある目的を果たす為なの」
「お父さんたちがこの並行世界に来たのは偶然じゃありません。原因があるんです」
「何。だがさっきの重力場を介したエネルギーの供給は明らかに自然じゃなかった。やっぱりあれは何かの意志が介在していたと考えたら……」
2人の言葉を聞いて、さっきの戦闘で起こったことがハジメの頭をよぎる。
ハジメはトリニティバーストでディープピラーを十分倒せると計算していた。しかし、それに対抗するように流れ込んでくるエネルギーが増大した。
「原因っていうのはいったいなんだ?」
考え込んでいるハジメに変わって南雲が問いかける。
「それは……」
澪が答えようとしたその時、ディープピラーがいた場所から黒い稲妻が迸った。
稲妻は四方八方を蹂躙しながら、壊滅状態だったホルアドを完全に破壊しつくしていく。
そして、空間に罅が入り、空が大きく割れて巨大な黒い穴ができた。
その向こうから何か光る巨大な物体が見える。
「なんだあれは?」
「目です」
ハジメに澪が答える。
「目だって? あれはどう見てもさっきの化け物よりもでかいぞ。あれがただの目だっていうのか!?」
澪の言葉を聞いた南雲が焦りを浮かべながら言う。
「澪。もしかしてあれもデジモンなの?」
雫が澪に質問すると、小さく頷いた。そして、彼女が自身のデジヴァイスを取り出すとそこにデータが映し出され、ハジメ達に見えるように読み取ったデータを全員に見せた。
それを見たハジメは今日一番の驚愕に目を見開き、データに表示された名前を口にした。
「ズィード、ミレニアモンッ!? 究極体の邪神型デジモンだと」
「嘘。そんな、あれが」
「前にハジメさんが言っていた最強最悪のデジモンですぅ……」
雫とシアもズィードミレニアモンの名前と、一部とはいえ見えている姿に戦慄する。南雲達もここにきてとんでもないラスボスに冷や汗が止まらない。
空間の穴の向こうからこちらを覗いてくるズィードミレニアモンの
それが少し細められたと思った次の瞬間、そこから凄まじい量の稲妻が放出され、穴を飛び出してこちらに向かってきた。
「「まずい!」」
「インペリアルドラモン!」
一香が叫ぶとインペリアルドラモンがハジメ達の上に覆いかぶさり、青いバリアを張る。
おかげでハジメ達は護られたが、稲妻はハジメ達の更に後ろに向かって突き進み、着弾した。
■■■■■
ハジメ達のはるか後方。ハイリヒ王国の王都の傍にそびえたつ神山。そこにズィードミレニアモンの放った稲妻が襲い掛かった。
神山には王都同様に防護結界が張り巡らされていたのだが、稲妻は一瞬で防護結界を破壊。神山の山頂を消し飛ばし、余波だけで神山を破壊した。教皇イシュタルを始めとした聖教教会は何が起こったのか理解する暇もなく消滅した。
さらに時空間まで歪んでしまい、神山上空にゲートを置いていた神域というエヒトのいる空間まで破壊の余波が届いた。
「ひいいいいいいいいいいいいい!?! な、何なのだあああああああ!?!!!」
突然の事態にエヒトはパニックに陥っていた。
その様はハジメ達の世界の過去において、ズィードミレニアモンが出現した際のエヒトの醜態と同じだった。
■■■■■
「あれは、王都の方角だ。まさか、王都は」
ズィードミレニアモンの攻撃がどこに向かったのか理解したメルドが膝をつく。
神山が崩壊したことで凄まじい轟音が起きたことから、尋常じゃない規模の破壊が起きたことが伺えた。
「くっ、澪ちゃん!」
「うん。一香ちゃん!」
一香と澪は頷き合いデジヴァイスを掲げる。
「おい、待て一香! 澪!」
「行っちゃダメ!」
「「大丈夫!!!」」
戦いに向かおうとする2人を思わず止めようとするハジメと雫。それに対し、2人は振り返ると笑顔を浮かべながら応えた。
「私達は絶対に未来で会える。パパとママたちの所にちゃんとやって来るから。そのためにここに来たんだ」
「ズィードミレニアモンは時空間を自在に飛び交い、あらゆる時代と世界を破壊し続ける邪悪な王。それを止めるためにお父さんたちは力を尽くしています。そのお手伝いをするのが、私達の目的です」
つまり彼女達の目的はズィードミレニアモンによる世界の破壊を食い止めること。
ハジメ達がこの世界に流れ着いたことから端を発する一連の流れも、全てズィードミレニアモンの力が作用していたと考えれば、辻褄が合う。
「それに私達ね、結構強いんだよ?」
ウインクしながら得意げに一香が言うと、2人のデジヴァイスが眩い光を放ち始めた。
「「マトリックスエヴォリューション!!」」
2人が叫ぶと光に包まれて、空に飛び上がる。インペリアルドラモンも一緒に飛び上がり、上空で1つになった。
「「インペリアルドラモンモードチェンジ!!」」
インペリアルドラモンの肉体が姿を変える。ドラモン系に相応しいドラゴンモードから、内に秘めた強大な力を100%発揮できるように、テイマーと一つになって
「「ファイターモード!!」」
所々にドラゴンモードだった名残を残しつつも、雄々しい人型のファイターモードになるインペリアルドラモン。
インペリアルドラモンの姿を見つけたのか、ズィードミレニアモンから稲妻が飛んでくる。
インペリアルドラモンは背中から右腕に再装着された大砲の砲門を向ける。
「「《ポジトロンレーザー》!!」」
ドラゴンモードの時以上の威力のポジトロンレーザーが稲妻を撃ち消す。
おかげで地上のハジメ達は無事だったが、ズィードミレニアモンの攻撃の余波が周囲をさらに破壊する。
『グズグズしていられない。一気に決めるよ澪ちゃん!』
『うん。一香ちゃん。インペリアルドラモン!』
一体化している2人の指示を受けたインペリアルドラモンは右腕の大砲を取り外し、巨大化させ、胸部の龍の口に装着する。
そこに惑星1つをも吹き飛ばすほどの力を宿すインペリアルドラモンの全エネルギーが収束され、砲門から放たれる。
「「《ギガデス》!!!!」」
ヴァナルガンド以上のエネルギー熱波を伴いながら、超質量の暗黒物質が放たれる。ズィードミレニアモンが覗いている空間の穴に直撃する。
ギガデスは穴の向こうのズィードミレニアモンを押し返し、さらに空間の穴まで強引に吹き飛ばしていった。
こうして並行世界で起きた全ての異常事態は収束した。
ハジメ達はインペリアルドラモンが舞い降りてくるのを待っていた。
時空を超えて未来から来た彼女達の助けを受ければ、元の世界に戻ることも出来る。その話をしなければと思っていたのだが、何故かインペリアルドラモンは降りてこなかった。
インペリアルドラモンと一体化している一香と澪が、一枚のカードを取り出しデジヴァイスにスラッシュする。
『カードスラッシュ。──オメガモン』
『──オメガブレード。インペリアルドラモンモードチェンジ』
インペリアルドラモンの翼と装甲が白銀に染まり、右手に聖剣が現れた。
「あれはまさかインペリアルドラモンパラディンモードか?」
「すごい。映画でちょっとしか出ていない姿をリアルで見られるなんて。でもなんで?」
姿が変わるのを見ていたハジメと雫が感動しつつも首を傾げる。
パラディンモードは真の正義に目覚め、救世主になった聖騎士期の姿だ。古代デジタルワールドを大破滅から救うために現れたと言われている。間違いなくインペリアルドラモンの最強形態だ。
しかし、戦いは終わったのにインペリアルドラモンが最強形態になった理由がわからない。
すると、インペリアルドラモンの背中にさらに十枚の白い翼が現れた。
装甲にも変化が表れ始める。白銀の装甲に青いラインが刻まれ、形状もシャープになる。聖剣も二つに分かれて、反り返った片刃の二刀になった。
「何だあの姿は。俺は知らないぞ」
ハジメ達が困惑する中、インペリアルドラモンが二刀を掲げると白銀の光が放たれて球状に広がっていく。
誰も何も言う暇もなく光の中に飲み込まれていく。
ハジメも、雫も、シアも、ティオも。そして南雲達も光の中に消えていく。
それはホルアドの町だけでなく、ハイリヒ王国の王都、さらにはエヒトのいる神域も含めたトータスという世界そのものを包んでしまった。
■■■■■
「ん?」
南雲ハジメが目を覚ましたのは、日が暮れた夕暮れ時だった。
彼は運転の小休止をしていた時に、うっかり寝てしまっていたのだ。
隣の座席には最愛の恋人、ユエがいた。彼女も寝息を立てていた。
後部座敷を見て見るとシアとティオにミュウ、さらに今朝ホルアドから出発するときに同行を申し出てきた白崎香織もいた。
「なんか、長い夢を見ていたような……」
その光景に違和感を覚えたハジメは少し記憶を探る。しかし、何も思い出せない。
いくら思い起こそうとしても何も思い出せなかったハジメは、思い出すことを諦めた。
とにかく、もうすぐ夜だ。今から全員を起こして出発しても大して先に進めないだろう。
だったら、今日はここで野営をするしかない。
「家に帰ればクーラーやソファーがあるのにな。早く帰りたいぜ。帰った……帰ったら、何か……何か?」
ふと自分の望みを口にしてみたら、何故か帰った後に何かやってみたいなという考えが浮かんだ。
首を傾げながらもハジメはユエ達を起こしにかかった。
■■■■■
時空の狭間で一香と澪、それにインペリアルドラモンが退化したブイモンとワームモンがいた。彼女達の前には気を失ったハジメ達を時空間転送の魔法陣の上に並べていた。
2人が魔法陣を起動すると、ハジメ達は姿を消した。
「これで歪んだ歴史が修正されるんだね」
「うん。さっき並行世界のお父さんたちの様子を見てきたけど、全部忘れていた。お父さんが作ったカードの効果は確かだよ」
ハジメ達を飲み込んだインペリアルドラモンの光。
あれは歪んだ歴史を修正し元に戻す効果を持つ。この力であの世界で起きたホルアドの崩壊や神山の消滅もなかったことになった。インペリアルドラモンの規格外のエネルギーと、「初期化」という類似した能力を持っていることから可能になった。
げに恐ろしきはそんな効果を生み出すシステムを持ったカードを生み出した、彼女達の父親である未来のハジメである。
「ズィードミレニアモンの影響はまだまだ残っているんだよね」
「うん。ちょっと休んだらまた行こう」
「あ。俺ドーナツ食べたい!」
「僕はアンパン。粒あんがいい」
パートナーと和気あいあいと話しながら彼女達は時空を巡る旅に旅立っていった。
駆け足でしたが、これにて終わりです。
好きな展開を出せたのがこのifの楽しい所でした。
本当はもうちょっと原作のハジメ達の事とか掘り下げたかったのですが、書きたいことを優先しました。
ハジメ達、南雲達、そして未来の娘たち全員に出番を与えられたと思います。
娘たちについてのキャラ紹介は次の通りです。今後にまた登場させたいです。
〇娘設定
11歳
南雲家長女。
ハジメと香織の娘。
パートナーデジモンはブイモン。
清楚な顔立ちで髪はショートだが、どこか香織に似ている。
活発な性格で冒険心が強い。学校の休日には、パートナーのブイモンと一緒にデジタルワールドの冒険に出ている。その過程で様々なトラブルに巻き込まれており、ハジメと香織をハラハラドキドキさせている。
実は勇者天之河光輝の事が嫌い。理由は世界救済のために家を年単位で留守にする無職のヒモだから。
11歳
南雲家侍女。
ハジメと雫の娘。
パートナーデジモンはワームモン。
黒髪の長いストレートな眼鏡をかけた知的な雰囲気の少女。どこか雫に似た顔立ちをしている。
知識欲が旺盛で父の研究資料を読み漁っている。一香が冒険した記録を解析して独自の論文をまとめて父に見せている。たまにハジメでも驚くような発見をする将来有望な研究者の卵。
実は勇者天之河光輝の妹の事が嫌い。理由は母親の雫に重ねて変な視線を向けてくるから。
次話からは本篇に戻ります。三ヵ月ぶりですので、話を思い出していただけると幸いです。