シャニこべ   作:あんふゆ

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さくさく

親に家を追い出された。結果だけ聞くと親が悪いように感じてしまう人もいると思うから言っておくけど、これに関しては私が完全に悪いのだ。

何かしたの?と聞かれれば答えはノー。むしろ何もしてなかった。

私は二年前に大学を卒業した身なのだが、実は就職活動という重大イベントを面倒臭くてサボっていたのである。

まあ働くなんていつでもできることだから今はまだ遊んでいたいな~、なんてゆるゆるな考えを持っていたことは否定できない。

 

四年間過ごした大学にサヨナラグッバイ別れを告げて私は実家へと凱旋した。

父母も当初は「ゆっくり考えればいいよ」と優しく声をかけてくれたのだが、まさか息子が社会不適合者になってしまうなんて考えは彼らの頭の中にはなかったようだ。

半年ごろごろしたころにバイトもしないのかとせっつかれるようになり、それからも半年だらだらしていれば将来を真面目に考えろとお説教を食らう毎日に変わった。

妹にも冷たい目で見られるようになってしまった。つらい。

 

それでもすっかりニート生活に慣れてしまった私はどうにも動こうという気にもなれず、のらりくらりと父からの叱責を躱し続ける日々を送っていた。

適度な運動!過剰な睡眠!素晴らしい、天国とは自宅にあれり。

今日も手作り餃子とビールで優勝していくわね……わははは。

 

そんな毎日を送って二年。

ついに本日、とうとう家から追い出されてしまったのであった、まる。

うそーん、まさか神話で描かれるような楽園追放をこの身で体験することになろうとは……

 

所持金二百円。もちものなし。

こんな装備で旅立たせるなんて、パッパは私のことを本当に可愛いと思っているようだ。

初代ポケモンでもこんな状態で出発することはなかったぞ。

まるで今の私は『ここに三匹のポケモンがおるじゃろ?』みたいな素敵な仲間との出会いイベントに遅れてしまったサトシ君だ。あれ?じゃあピカピカ発声する黄色いマスコットがいるはずなんだけど……ネズミさんどこ……?ここ……?

 

思いのほか慌てている脳みそを冷やすために、近くにあった自販機でお茶を購入して一服する。

キンキンに冷えたペットボトルを傾けて一気に飲めば、カテキンが身体に染みわたった。

フーーースッとしたぜ。私は常人と比べるとチと荒っぽい性格でね。ほぼ勝ち確の試合を運ゲーでひっくり返される時なんかによく発狂しそうになるのだが、そういう時はお茶を飲んで頭を冷静にすることにしているのだ。

うん、流石は選ばれしお茶だ。のど越しが違う。頭が冷えたよ。

 

落ち着いて考えてみたんだが、この状況はなかなか悪くはないのではないだろうか。

実は私はサバイバル生活というものに憧れを抱いていたのだ。

幼少の頃、芸能人が無人島に放り出されて過ごすテレビ番組を見て興奮していたものだ。私も人生で一度は狩りで獲得した獲物を掲げて「とったどー!」と叫んでみたい。いや、やるならこのチャンスを生かすしかない。

 

クラーク博士だって今日も札幌の青く広がる空に向かって腕をかざしながら言っているじゃないか、少年よ大志を抱けと。

ぼーいずびーあんびしゃす、やはり先人のありがたい言葉はいつだって勇気を与えてくれる。まだ体力の残っている若い時分に無茶するしかないのだ。

 

ありがとうクラーク博士。私は今日からホームレスになってサバイバル生活を始めます。

 

決まったからには善は急げ。

私が生存するに適した拠点を求めて旅に出る。

さすがに家の近くに陣取ったらご近所さんの噂の的になってしまうだろう。

私は他人からの評価なんてどうでもいいが、家族に迷惑が掛かることは間違いない。

家から追い出されたといっても大切な家族だし、厄介ごとが起こらないように遠ざかっておくとしよう。

 

 

 

 

 

そんなわけで実家から徒歩で五時間ほどかかる別の町に移動。

どこかいいところがないか吟味しながら歩いていると、広めの河川敷を発見した。

大きな川にかかる橋の下は暗い影が差していて人が潜むにはちょうどよさそうだ。

お邪魔するわよ~とさっそく侵入。浮浪者の姿、なし。痕跡、なし。

雑草は無造作に生え、整備されている様子もなし。

 

いけると確信して、道中のスーパーでもらってきた大量の段ボールで仮住まいを構築する。段ボールは万能の素材。陣地を貼って自分の縄張りを主張するだけでなく、このようにベッドを作成することもできる。

数時間かけて住居が完成。背の高い雑草に遮られて外からは見えにくいが、橋の下の一角には六畳一間くらいの段ボールハウス(屋根付き)が鎮座していた。

 

疲れたな~とベッドに寝そべって、ここまで来た道中を思い出す。

なんかやたらと女の人が多かったな……そもそも男を見ていないような。

なんとも珍しい日だ。

いや、珍しいのは私の方か。休日の昼間から汗を流して段ボールを両手いっぱいに運んでいるジャージ姿の男などなかなかおるまいよ。

よっぽど珍妙な格好だったのか道行く人がみんなこちらに目を向けていた。

 

……待て、自意識過剰か?

もしかしてみんな私が持っていた段ボールを見ていたのでは……ふふん、だとしたらなかなか見る目がある。

なんたって私が各地のスーパーで厳選した選りすぐりの素材だからな。HPと防御に秀でた個体たちよ。

 

そうなると、この街に来てから話しかけられたイケメンな女子高生には悪いことをしてしまったな。突然声をかけるものだから逃げてしまったが、今思えば彼女はおそらく段ボールを譲ってほしかったに違いない。

しかし彼女も悪いだろう。声をかけられてびっくり、振り返ったら美少女でびっくり、口から出てきた言葉がイケメンでびっくりの驚き三段重ねだったのだから。

 

『どうしたんだい?あなたのような可憐な花がそんなに大きな荷物を運んでいるなんて。困っているのならぜひ私に手伝わせてほしいな』

 

きみ、ひょっとして夢小説の中から出てきた人?

いや、顔面偏差値高いとは思ったけどまさかセリフまでそんなこと言うとは思わないじゃん。ファーストインプレッションはただの超美少女だったけどそれを聞いてから王子様にシフトチェンジだよ。初めて家系ラーメン野菜増し増しで注文した時よりもインパクト強いよ。

 

しかしながら、彼女の提案は非常に嬉しかった。

私はその時点で四時間以上段ボールを抱えながら歩いて疲れていたのだ。

手伝ってもらえるなら(しかもこんなに綺麗な子に)すぐにでも手を取りたいと思ったのだけれど……冴えない男と女子高生が並んで歩いているさまを想像して動きが止まった。

 

『今日の午後、○○市で高校生の少女を連れまわしたとして住所不定無職の男が逮捕されました。男は”そんなつもりはなかった”と供述していますが、警察は男が少女と淫らな行為に及ぼうとしたとして─────』

 

アカン(アカン)。

ニュース速報一直線。

通報、逮捕、私トホホ。

当事者たちが合意していても世間には理解してもらえない事例は星の数ほど存在するのだ。みんなも自分の身は自分で守ろうね。世知辛いのじゃ。

 

若干息を切らせつつ、だ、大丈夫ですぅーと断ったがなかなか彼女が折れないのでダッシュで逃げた。

こういう時に体力って必要だよね。日ごろから運動していてよかった。

って思っていたら彼女も「待って!」と追ってきた。

 

なんで?(半ギレ)

 

「本当に心配なんだ!」

「怪しいものじゃない!私は283プロのアイドルで──」

 

背後からついてくる少女の声は本当に私のことを案じているように聞こえて後ろ髪を引かれるが、刑務所暮らしはさすがに拙いので振り払うように速度を上げた。

しかし彼女もかなり速い。必死に逃げつつ後ろにチラチラと視線を向けると、ポニーテールを風になびかせながら綺麗なフォームで追い上げてくる。

 

ど゛う゛し゛て゛女゛子゛高゛生゛と゛鬼゛ご゛っ゛こ゛す゛る゛羽゛目゛に゛な゛っ゛て゛ん゛だ゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛!゛!゛!゛

 

心の中の謎のギャンブラーが絶叫するが、走っている私にそれを表に出す余裕はない。

なおも追いすがる少女と数分のチェイスをしたところでようやく撒いたのだった。

 

 

 

……なるほどね、ずっと追ってくるからなんなんだと思ってはいたけど、段ボールが欲しかったのなら納得だ。もしもまた彼女に会うことがあったらお詫びのしるしに最高の段ボールを分けてあげよう。

ベッドの上で考え事をしていたら瞼が重くなってきた。どうやら思っていた以上に疲れていたらしい。食事に関しては眠りから覚めた後にどうにかしよう。じゃあおやすみ。

 




かんたん世界観
・おとこ
 かずが すくなく ちからもない。 ひとりだと わるい おんなに つかまり ゆくえふめいになる よわくて なさけない いきものだ。

・おんな
 ちからが つよく たよりになる。 りせいを うしなった おとなは きょうぼうになり おとこを おそう。 くちからだす はかいこうせんは すべてのものを やきつくす。

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