シャニこべ   作:あんふゆ

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感想、評価ありがとう……それしか言葉が見つからない……


にちにち

結局あの後、天才少女──芹沢あさひちゃんはコモドドラゴンを退治する……こともなく帰っていった。

 

いや、思わず私の方がドキっとしてしまうくらいかっこよかったんだけどさ、冷静になってみるとコモドドラゴンがいるはずないんだよね。

もし本当にいたとしても中学生とコモドドラゴンを対峙させるわけにはいかないし。

だましてごめんよあさひちゃん。

 

そのお詫びと言ってはなんだが彼女には水切りの極意を伝授してあげた。

いつまで経っても出てこない(存在しない)コモドドラゴンに、さすがにしびれを切らせた様子の彼女を誘ったらすぐに食いついた。

あさひちゃんが飽きっぽくて助かった。あとは水切りを知らなかったという点も優位に働いたようだ。

私が川に向かって石を投げれば、水面をシュピピっと十数回跳ねていくそれを見て彼女は大いに喜んだ。

すごい!なんなんすか今の!やりたいやりたい!と両手を胸の前で握りながら詰め寄ってくるさまは、さながら人懐っこいわんこを相手にしているようだった。

 

わはは、子どもからキラキラした目で見られるとたいへんに気分が良い。

妹も少し前まではこんなふうに私と遊んでいたのになぁ……時の流れって無常ね。私の周りをちょこちょこ動き回っていたあの姿が遠い過去のようだ。

 

ちょっとだけ思い出に浸っていたらあさひちゃんにせっつかれたので遊び方を教えてあげる。

 

一つ、適した石を見つけること

二つ、力任せに投擲しないこと

三つ、“回転”を意識すること

四つ、自然に敬意を払うこと

 

『そんなの全然理論的じゃないっすよ』

 

あさひちゃんがムーっ頬を膨らませるので笑ってごまかした。

指摘された通り四つ目とか全然関係ない。それっぽいことを言ってみたかっただけである。

まぁ水きりなんて、平べったい石を探して手首のスナップを意識すればある程度は飛んでいくものなのだ。難しいことなど考えず楽しく遊んだ方がいい。

 

その後しばらくの間、跳ねる石を投げて喜ぶあさひちゃんを見ていたのだけれど、一緒にやるっすよ!と腕を引っ張られたので付き合ってあげることにした。

お昼ご飯も食べずに日が傾くまで遊ぶとは予想外だったが、かなり充実した一日になったと思う。一日中水切りすることなんてなかなかないからね。

疲労困憊。家を出てからなんにも食べてなかったのだから当然と言えば当然か。

 

しかし私に比べたらあさひちゃんは元気いっぱいだったな……遊び終わる直前も何か叫んでたし。

彼女の声はよく通るので、用を足しにちょっと遠くへと席を外していた私にも聞こえてきたよ。

 

───回転…自然に敬意…スケール…9対16…黄金比率!

      見えたっ、黄金長方形…!黄金の回転エネルギー!!

 

うんうん。天才とはいってもやはり中学生なのは変わらないな、かわいらしいじゃないか。

そういうことに夢中になる時期はみんな等しく訪れるし、そういうことをして人は大人になっていくものなのだ。

私も昔、体育の時間中はよくグラウンドに落ちていた大きめな石に向かって、一撃で二度の衝撃を放つパンチの練習していたものさ。右手の指が複雑骨折してしまったけど。

関節たくさん増えちゃった☆って友達と笑っていたら、体育教師が泣きながら救急車を呼んでいたっけ。わはは。

 

ちなみにあさひちゃんには『めちゃくちゃ理論的だったっすよ!教えてくれて“どうもありがとうございます!”、お兄さん!』と感謝された。どういうこと?

 

そんなこんなで彼女は夕方になったら帰っていった。

コモドドラゴンのことは頭からすっかり抜け落ちていたようである。

また来るっすよおにいさーん!と嬉し気に大きく手を振って夕陽に向かい駆けていく彼女の姿を見ると、なぜだかこっちまで嬉しくなってしまうね。

 

結局私はその日、汗まみれになった着衣を洗って干し終わるともう疲れて動けなくなってしまった。

流石に何も食べないのは拙いと思い、そこらへんに自生しているタンポポやハルジオンといった雑草をもしゃもしゃ食べて眠りについたのである。

 

 

 

 

 

 

 

おはようございまーす!

サバイバル生活三日目の今日はなんと、火を起こしたいと思っています。

なぜかと言うと……さすがにね、雑草だけじゃ生きていけないから……川魚を捕ってたんぱく質を摂取しないと倒れてしまうのではないかと心配し始めたからである。あと純粋にキャンプファイヤーがしたいという思いもある。

 

というわけでこの試みに挑戦しているのだが、結果から話すと全くうまくいかなかった。

まず渇いた木片が見つからない。川辺だってこともあるせいか近場で見つけられるものはみんな湿っているのだ。

それでも頑張って木と木を擦り合わせれば着火するのではないかと思ったのだけれど、午前中一杯時間をかけても成功することはなかった。サバイバルって難しい。

 

こうなってしまうと最終手段に移行するしかない。

それすなわち───着火装置の入手。

どこか道に落ちているライターやマッチなどの火種を手に入れ、安定的な熱源の供給を可能とする。

 

え?落とし物を拾ったら届け出ないとダメ?

窃盗罪?遺失物横領罪?

 

……

違ウヨ。ちょっと預かるだけだよ。誰か悪い人に拾われてしまうかもしれないから私が一時的に預かっておくだけで盗むつもりなんてないよ。なぜか一度か二度くらい偶然火がついてしまうかもしれないけど故意じゃないよ。

 

……

 

で、でも私が拾った様子を見て周りの人が泥棒だと勘違いするかもしれないな。

勘違いされたくないから人気の少ないところで落とし物を探そうかな。

間違って通報した人が警察から怒られてしまうと可哀そうだし。

うん、そうしよう。

行ってきまーす!

 

 

 

 

 

 

 

 

うそをつきました。

故に罰当たりな私は現在進行形で危機に陥っているのだと思われます。

 

「よぉよぉ兄ちゃん、一人でこんなところに来て何してんのぉ?」

「きひひ、自分から人の目がない場所に入り込みやがった。こいつ馬鹿だぜ姉貴ィ~」

 

街の路地裏で、ガラの悪い二人組の女に絡まれてしまった。

いや、だってこんな古典的なカツアゲに遭遇とは思わなかったし……。

ライターが落ちてそうな所を探してウロウロしていたのだけれど、まさか路地裏に入ったらいきなりこんなハプニングに陥るなんて。

 

路地裏は行き止まりの一本道。壁を背後にする形で退路を断たれた。

 

お、落ち着こう。幸い相手は話の通じる日本人である。

誠意をもって会話すればきっと見逃してもらえるはずだ。

冷静になりつつ、上着を脱いで金目のものは持ってないことを証明して見せる。

 

「オイオイオイオイ、自分から裸になるなんてとんだ好きものだぜ。どうする姉貴?」

「金はないだってぇ?何言ってんのさ、そこにあるじゃんお前の身体がさぁ」

「きひひ、だってよ!安心しなって、うち等が使った後でいいとこに売り飛ばしてあげるから!」

 

か、身体……!?

身体、男、ホームレス……つまり狙いは私の臓器か!

確かにホームレスなら消えてしまっても騒がれない。

しかもまだ私は二十代前半の若い身体だから、比較的値段がつきやすいはず。

故に狙われた……あまりにも理に適っている!

彼女たちは只のヤンキーではなく、薬だとか人身売買だとか、薄暗い組織とかかわりのある人物……!

 

とんでもない奴等に絡まれてしまった。

相手をするのは拙い相手だと認識し、逃走経路を探そうとした。

 

その時だった。

 

「う、うちの店の裏で何をやってるんですかねー!」

 

突如聞こえた、ところどころに怯えをはらむ声。

路地裏の出入り口から逆光を纏い、一人の少女がエントリーした。

 

徐々に目が慣れると少女の姿が明らかになる。

あさひちゃんよりも少し高い身長。

少し暗めな緑の髪に同色の瞳。大き目なパーカーの上には『七草』と書かれた名札の付いたエプロンを身に付けている。

おそらくはどこかの店でバイト中の高校生か。

しかし拙いな。今のタイミングは非常に良くなかった。

 

「男の人に寄って(たか)って…は、恥ずかしくないんですか!」

 

「あぁ~?見世物じゃねぇぞコラ」

「きひ、ガキは回れ右してママのおっぱいでも吸ってな!」

 

「ぅ……」

 

やはり、ヘイトが私から彼女の方へと移ってしまった。

 

かわいそうに、少女はチンピラたちに睨まれ下を向いて震えている。

ここは私がなんとかするしかあるまい。

待っていろ少女よ。いま私がこいつらの気を引いて……

 

そう思った瞬間、少女の雰囲気がガラリと変わった。

 

「───ッ!可愛い、上手くいく、大丈夫……可愛い、上手くいく、大丈夫……ッ!」

 

「─────私の名前は七草にちか!283プロ所属のアイドル、『SHHis』の七草にちかです!あなたたちにライブバトルを挑みます!」

 

覚悟とともに咆えた宣戦布告。

怯えの混ざっていた瞳は消え去り、そこに立つのは一人の偶像。

少女──七草にちかはチンピラ二人を真っ向から睨み返して言い放った。

 

……はい?

ライブバトルってなんだ?

全く聞きなれない言葉。

困惑を隠せない私を置き去りにして事態は進む。

 

「いきます!」

「上等ォォォ!」

「きひひひひ!!」

 

なんと、七草にちかちゃんとチンピラたちは三人とも同時に歌と踊りを始めたのである。

 

急に歌うよ!?

生きていたのか令和の時代で。

しかもダンスも踊っているし、もう実質インド映画だよこれ!

本当に日本なのかここは。私はいつからフランスのロンドンへ渡米してしまったんだ……!?

 

著しい混乱のさなかにも彼女たちのパフォーマンスは続く。

何を基準にして争うのかまったく理解していないが、どちらが有利なのかはっきりと分かった。

にちかちゃんのダンスから伝わる圧倒的な熱量。あさひちゃんのそれとは種類の違う努力に裏打ちされたダンスは、観客席に一人いる私を魅了する。

それくらいレベルが違うのだ。七草にちかちゃんとチンピラたちの間には誰が見ても分かるほど力の差があった。

 

「ほらっ、見て!─────ばーん!」

 

「ぐわぁぁぁぁ!?!?!?」

「あ、姉貴ィ!ぎええええ!?」

 

決着。

息を荒げながらも最後まで立っていた者と、地面に倒れ伏し泥に汚れる者たち。

誰に見られることもなく路地裏で行われたライブバトルは、にちかちゃんの勝利に終わった。

 

「お、覚えてやがれ……!」

「き、きひ、姉貴、まって……」

 

チンピラたちは捨て台詞を残し、這う這うの体で退散していったのだ。

 

「はぁっ、はぁっ……勝った……私、一人でも男の人、守れたんだ……」

 

ぶ、ブラボー!ブラボー!

なにが起こっていたのかはさっぱり分からないが素晴らしい歌と踊りだったよ。

助けてくれてありがとうー!

 

「───ぁ…は、はい……!」

 

よっ、にちかちゃん世界一!

世界で一番かわいいよー!

 

「と、とーぜん!あんな奴等何度来たってぶっ飛ばして───ってお兄さん前!前隠してください!」

 

どうしたの、そんな真っ赤に染めた顔を背けちゃって。

もしかしてさっきのダンスで熱中症になったのでは。

と思ったが、彼女の指が地面に落ちている上着を指しているあたり、どうやら服を着てほしかっただけらしい。

わはは、そうだよね。あさひちゃんはノリ軽すぎただけで、普通の女の子はこんなものだ。セクハラで訴えられないうちに服を着よう。

 

「う、うわ、腕太い……筋肉もけっこう……あっ!?」

 

上着を取りに行こうとしたら、にちかちゃんが前につんのめって頭から倒れそうになっていた。

やはり疲れていたのだろう。あれだけ激しいダンスをしていたのだ、当然ともいえる。

 

すかさずダッシュとスライディングで彼女を胸の中にキャッチする。

やばい、泣きそう。ロックマンみたいな感覚でやるんじゃなかった。

コンクリートの上でスライディングめっちゃ痛い。

絶対背中の皮むけた。

 

しかし咄嗟にやっちゃったな。

誰かに見られたら言い訳もできない体勢で助けてしまった。

でも、にちかちゃんが自分で頭を庇えたとしても腕に怪我をする可能性があったし。

アイドルだと言っていたから、怪我をして仕事がなくなったら取り返しがつかない。

背に腹は代えられない。助けてもらった恩は返そう。

 

大丈夫?にちかちゃん。

 

「む、むねむむ胸むむねむにぇえぇぇ─────」

 

胸に違和感を覚える。

何かドロッとした温かい液体のような感触。

ぎょっとして胸を見ると、にちかちゃんが鼻から血を大量に流しながら目を回していた。

 

ウ、ウオオオオオ─────ッ!?!?!?

衛生兵ィィィィィィィィィ!!!!!!

 




かんたん解説

・ライブバトル
 女と女の闘いで採用される由緒ある決闘方式。Vo.Da.Vi.Meの総合値で勝者が決まる。起源は定かではないが一説には、太古の昔、女の争いに巻き込まれて命を落とす男が多かったために生み出されたのではないかとも言われている。

・あさひちゃん
 自力で黄金の回転を学んで超パワーアップ。今日も冬優子ちゃんの気苦労は絶えないぞ。

・にちかちゃん
 今をときめくアイドル一年生。あべこべで考えると、勇気を出してチンピラを倒したら助けたお姉さん(半裸)に抱きしめられた男の子。えっちだね。

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