グラサン提督   作:カレー味

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第十二話 いちご100%

 ほぼ騙し討ち同然で始まってしまった俺vs五人の少女たちとのCQC組手大会は、電と叢雲との二試合を終えたところで、遅れていた漣がようやく砂浜に姿を現した。

 

「おっとっと、もう漣の番まで回って来ちゃいましたー?」

 

 そう言いながら漣が階段を駆け降りてきたのだが、遅刻しながらなんだその格好は?

 

「漣、ずいぶんな重役出勤ね」

「電ちゃんが海に投げこまれたって聞いたから、遅れたついでにお水とタオル持ってきたんですぅー!」

 

 遅刻をからかう叢雲に漣がべぇと舌を出した。言葉の通り、漣はまず両手に水が入ったポリタンクを持ってきていた。ついでに頭には洗面器をかぶり、タオルでほっかむりをして止めている。これはこれで冗談みたいな格好だったが、本当の問題はそっちじゃなかった。

 

 他の四人が日本武道の稽古着を着てきたのに、なぜか漣が着ているのは髪と同じピンク色のチャイナ服だった。両脇のスリットはエグい高さまで大胆に切れこんでいるし、裾も膝上15か、それとも20センチか、とにかく中学生には着せちゃあいけないレベルで短いマイクロミニだ。

 

「おぉっ? カズ様、漣の艶姿に興味深々ですかにゃー? こんなサービスは今日限りですぞ、今のうちに見とけよ見とけよ~」

 

 くねくねするな気色悪い。だが水を持ってきてくれたのは素直に評価しよう、仲間想いで偉い。さっそく電と叢雲は洗面器で顔を洗っていた。はずみとはいえ二人を俺のせいで思いっきり塩水と砂まみれにさせてしまったからな、さすがに悪かったと思ってたところだよ。

 

「電ちゃん、目と鼻にまで海水入ったんでそ? 洗眼カップと鼻ポンプもありますぞ?」

「洗眼カップはありがたいのですが、鼻ポンプは全力で遠慮するのです」

「それで、遅れてきてまで漣はなんでそんなイカレた格好してきたんだ?」

「和食もいいけど、カズ様もそればっかりじゃ飽きるっしょ? 中華テイストで味変・カンフー・ジェネレーションですぞ!」

 

 漣が鶴の構えをとった。味、変…… なんだって?

 

「……ほんとのところを白状しますと、カズ様を案内してて遅れて着替えに行ったら、もうこの衣装しか残ってなかったんです…… いったいみんなはどんなの着せられたのかと心配しながら来てみたら、みんな普通に道着じゃないですか! 妖精さん、これどゆこと!?」

 

 漣がハジメさんを鷲掴みにしてガタガタ揺さぶった。こらこら、妖精さんをいじめてはいけない。

 

「いやぁー、こんなの着こなせるのたぶん漣ちゃんだけだと思ったから、残しておいたんだよ」

「漣にぴったりだと思うわ、いかにも色物っぽくて」

「この色はもう漣ちゃん専用以外ありえないのです」

「漣ちゃんスタイルいいからこういうのでも似合ってると思うな、私は絶対着られませんけど」

「カズ様ぁー、こいつらちょっとひどない?」

 

 仲間を指差して漣が不満げに口を尖らせた。

 

「まあいいじゃないか、確かに似合ってるし可愛いと思うぞ?」

 

 なんの気なしについ口走ってしまったのだが、漣は目を丸くして真っ赤になってしまった。というか、他の全員も電流走る顔になってるのはなぜだ。

 

「……可愛い? 漣、可愛いんです?」

 

 漣が期待に満ちた眼で聞き返してきた。

 

「ああ、すごく可愛いぞ」

「でゅふぇふぇふぇひ、カズ様がそう言うんならしょうがないにゃぁ、浜田ポジみたいな服でも漣はガマンします」

 

 浜田ポジって何? 漣は照れくさそうに頬を押さえて身をよじっていたが、その笑い方が実に気持ち悪い。前言撤回してもいいか?

 

「しかし漣よ、本当にその格好で試合する気か? あんまり裾が短すぎる気がするんだが」

「ああこれ、やっぱ気になっちゃいますぅ? 安心してください、はいてますぞー!」

 

 いきなりペロンと裾をまくって見せた下には服と共地の一分丈のスパッツをはいていたのだが、ストレンジラブと叢雲は無言で漣の頭をひっぱたいた。

 

 

 はからずも小休止が入った後、今度は俺と漣の試合になった。漣のファイティングスタイルはなんというか、正統な武術というよりは、珍妙な構えからけったいな技が繰り出される、まるで日本で流行った格闘ゲームのキャラクターのような戦い方をしてくる。ゲームキャラのような動きを再現できる身体能力はかなりのものだと思ったが、それでも突き蹴りのキレやスピードならよほど電のほうが上だと感じた。正直、この程度が漣の実力なら、電や叢雲より勝率が高いとは思えないのだが……

 

「ちぇりゃ!」

 

 変な掛け声とともにテコンドーのような連続蹴りが飛んでくるのをブロックした。

 

「ちょわー!」

 

 右の連続蹴りに気を向けておいて、左の下段回し蹴りだ。バックステップでかわして間合いをあける。

 

「とぉぉ↑おう↓」

「わぷっ!」

 

 こいつ、前蹴りと見せかけて思いっきり砂を蹴ってきやがった! だがな、俺のグラサンは伊達にかけてるわけじゃない、そんな目潰しなんぞノーダメージだ。

 

「博士ー、ちょっとタイム」

 

 反撃を仕掛けようとしたところで、漣が横を向いて審判にタイムを要求した。ストレンジラブは困惑した顔で俺を一瞬見て、俺が構えを解いたのを確認すると右手を上げて待てを宣言した。

 

「漣、もう試合中なのになんだ」

「このスパッツちょっとキツくて…… 蹴ろうにも足を上げづらくて邪魔なんです」

 

 ストレンジラブの苦言にも構わず、漣はその場でスパッツを脱ぎはじめた。さすがにストレンジラブも止めようとしたが、漣は涼しい顔で平気平気と言うばかりだった。

 

「吹雪ちゃん、悪いけどこれ預かっててくれますー?」

 

 丸めて投げたスパッツは吹雪まで届かず、中程の砂地にぽとりと落ちた。

 

「お待たせしました、今度こそ漣ちゃん100%をお見せしますぞ?」

「見せるのがいちごパンツでなきゃいいけどな」

「……なんで知ってるんです!?」

「昼飯前のロビーで、おまえが吹雪に締め落とされて転がされてた時に見えた。俺は悪くないぞ、だって誰もスカート直してやらないんだもん」

「カズ様のエッチ!!」

 

 再開の声がかかるかかからないか、絶妙なタイミングで漣がラッシュを仕掛けてきた。砂かけに不意討ち、なるほど、なんでもありなんだなこいつの戦法は。ある意味では、他の誰よりもCQCらしいと言えないこともない。

 

 ただ、漣本人も気にしてるのか、打点の高い蹴りはこなくなり、手技の応酬が増えた。拳ではなく掌打を打ちながら、隙あらばこちらの手首を取ろうとしてくる。

 

「ひぃやぁぁぁーー!?」

 

 いきなり吹雪が悲鳴を上げた。何事かと思ったが、漣のラッシュをしのぐのに手一杯でそっちを見る余裕はない。

 

「漣ちゃん、パンツ! パンツまで一緒に脱いじゃってるよ!?」

 

 衝撃の告白に不覚ながらほんの一瞬眼が逸れてしまい、吹雪が見覚えのあるいちご柄の布切れをブンブン振ってるのが見えた。

 

「隙ありです」

 

 しまった! 手首と肘の関節を取られて、そのまま回転投げに投げられかけるが、この投げは前方宙返りの要領で抜けられた。だが腕は取られたままだ、ここからまだ変化がある。

 

「博士、試合を止めてぇ!!」

「ちょっと、吹雪!」

「試合中なのです!?」

 

 電と叢雲二人の制止を振り切り、吹雪が俺と漣の間に割って入ってしまったので、さすがにストレンジラブも待てをかけざるを得なかった。

 

「吹雪ちゃぁん……」

 

 漣は困った様子だったが、吹雪は構わずパンツを差し出してはきなおすように迫った。

 

「だめだよ漣ちゃん、女の子がこんなことしちゃ! よりにもよってそんな短いスカートで、ぱっぱぱぱパパンツはかないで試合なんて!? 色々見られちゃったらどうするの!」

「色々って何です? そこんとこもうちょっとkwsk」

「そんなこと口に出せません!」

「吹雪ちゃん」

 

 こんな状況であるにもかかわらず吹雪をからかっていた漣が急に真顔になった。

 

「リングには、島一番の男カズヒラ・ミラーが漣を待っているんですぞ」

「だから…… いかなくっちゃ」

 

 吹雪の肩を押しのけて漣が進み出た。いや、島にいる男ってもしかしなくても俺一人じゃね?

 

「漣ちゃん……!」

「ありがとう……」

 

 君らまだ若いのに、なんであしたのジョーなんて知ってるんだ? 寄宿棟には図書室があるって言ってたな、もしかして全20巻揃ってたりするのか、今度貸してくれ。いや今はそれどころじゃない、漣に振り切られ、いちごパンツを握りしめたまま砂浜にくずおれる吹雪。あぁ、パンツ砂まみれだぞこれ。

 

「いやー、たびたび中断しちゃってスマソ」

「せっかく止めてくれたのにいいのか、パンツはき直さなくって」

「いーんです、カズ様に勝って堂々とはき直します」

「もう砂まみれになっちゃってるんだが……」

 

 えっ、と驚いて漣は一瞬吹雪のほうに振り向いた。俺はその隙を逃さずジャブを仕掛けたが、それは簡単に防がれてしまった。やっぱりだな、こいつはロビーで最初に会ったときからそうだったが、ふざけているようでいても、決して油断せず相手をよく見ている。おちゃらけた態度に終始しているようで、その裏では冷静に相手の反応を分析しているんだ。こいつは意外と諜報に適性があったりするんじゃないだろうか?

 

 実際さっきの投げは危なかった、吹雪が騒いだのに俺が一瞬でも気を逸らされたのは、たしかに漣の詐術の成果だった。俺は最初の投げこそなんとかしのいだものの、そこからの変化にきちんと対応できたかはまったく自信がない。だが、まさかそこで吹雪が乱入してきたことまでは漣の予想の外だったろう。皮肉なことに、イカサマで作ったチャンスはイカサマの効き過ぎで潰れてしまったわけだ。

 

 相変わらず漣は足技を使ってこない。手首関節の取り合いを続けながら、今度は指を捕ろうとしてきたので前蹴りを出した。蹴りは防がれたが、そのまま押し返して間合いを離す。さっきはこの間合いから砂かけがきた。だが、漣は今度は身を翻して跳んだ。大技だ、旋風脚か!

 

「漣ちゃんそれダメぇーー!?」

 

 吹雪がまた悲鳴を上げた。大きく脚を開くからなあこの蹴り、気持ちはわかるが俺もそんなんじっくり見てる余裕ないよ。

 

 旋風脚は全体重に遠心力まで乗せてくる。いくら漣が俺よりずいぶん小さくて軽いといっても、ブロックしては防御ごとブッ飛ばされる。だからむしろ前に出て、蹴りが出る前に跳び上がったところを捕まえた。

 

「は、離してください!」

 

 かかとでゲシゲシと俺の脚を蹴ってくるが、しょせんは悪あがきだ。この程度では一本にはならない。

 

「誰が離すか。ずいぶん小細工をしてくれたが、これで終わりだ。ちゃんと受け身取れよ!」

 

 漣の尾を引く悲鳴とともに、綺麗なアーチを描いてジャーマンスープレックスが砂地に突き立った。カウント3を数えるまでもなく、ストレンジラブが一本を宣して試合終了だ。

 

「カズさん、見ないで、見ないでぇーー!」

 

 大の字に転がって目を回す漣に、必死の形相で吹雪が駆け寄ってきた。片手に砂まみれのパンツを握りしめて。

 

「心配いらんよ、よく見ろ」

「……あれ、ちゃんとはいてる」

 

 スパッツと一緒に誤ってパンツまで脱いだように装っていた漣だったが、本当は一番下にレオタードかなにかを着ていたようだ。

 

 思い返せば試合の初めは、漣はあえて足技中心で戦っていた。砂蹴りまで使ったのは、まず足癖の悪さを俺に印象づけるためだろう。

 

 一度試合を止めてスパッツを脱いだあと、吹雪がパンツを回収するのが試合再開してからになるように仕向けるため、わざわざ中途半端な位置にパンツ入りのスパッツを投げ、ややフライング気味にラッシュを仕掛けてきたんだ。

 

 そして、パンツを脱いだあと漣は足技をあえて封印した。裾を気にして蹴りは使えない、そう俺に思いこませるためだ。ついでに、俺みたいなスケベ野郎の集中を乱すことができればなお良いと思ってたかもしれない。

 

 そこでうまい具合に吹雪が騒いだから、俺はうっかり隙をつくって投げのチャンスを与えてしまった。だけど吹雪が騒ぎすぎて試合にまで乱入してしまい、せっかくのチャンスも潰れてしまった。

 

 なにより、吹雪が試合を止めたあとでもノーパンを装い続けたのは失敗だったな、せめてパンツだけでもはき直しておくべきだった。すべては最後の旋風脚への布石のため、足技から注意をそらそうとする作戦だったのだろうが、その状況のあまりの不自然さに、俺はかえって疑念を抱くことになったのだから。

 

「ふにゃ?」

 

 漣が目を覚ました。むっくり起き上がるとうつろな瞳で辺りを見回し、不思議そうに首を傾げた。

 

「ここどこ…… 私、なんでこんな所に……?」

「漣ちゃん」

「漣って、誰? あぁ、頭が痛い……」

「さ ざ な み ち ゃ ん ?」

「ウッス」

 

 吹雪の声に明らかな怒気がこもり、漣は記憶喪失ごっこを一瞬でやめた。俺は漣に歩み寄り、手を貸して立たせてやった。

 

「漣、頭は大丈夫か」

「漣たちは、このくらいへっちゃらです」

「俺が心配してるのは頭の中身だ。まったく、ケレン味たっぷりのふざけた作戦を立ててくれたもんだ。こんな作戦のために、わざわざそんな妙ないでたちでやってきたのか?」

「これしか服が残ってなかったのは本当ですぞ? 作戦は、お水を運びながらスパッツがちょっとキツいなぁ、って思った時に閃きました。ノーパンで戦ってるふりしたら、カズ様どんな反応するやろなぁ、って」

 

 漣は心外そうだったが、こんな恥ずかしい作戦を臆面もなく実行できた神経がおじさんには理解しがたい。

 

「吹雪を巻き込んだのはなんでだ?」

「吹雪ちゃん、エッチなことにまったく免疫ないですから。一番大騒ぎしてくれるかなぁ、と」

「漣ちゃん、あとでお説教ね?」

「ウッス」

 

 吹雪は笑顔をつくっていたが、顔色は紙のようだった。結構本気で頭に来てるぞこれ、真っ赤になって怒る奴より、青白くなる方がよっぽど怖いんだよ。

 

「吹雪を巻き込むなら、あらかじめ話を通しておくべきだったな。おまえら、生身で通信みたいなことができるんだろう?」

 

 米軍でそんなものが研究されてるって噂は以前から俺も聞いていた。ナノマシンを通じた体内通信機、叢雲が俺と一緒に工廠にいた漣を呼んだのも多分それだろう。それがナオミ女史の発明かどうかは知らないが、少なくともここに持ち込んだのは女史で間違いないだろうな。

 

「えぇー、それはさすがに反則かと?」

 

 砂蹴りまでやっておいてなにをいまさら。

 

「口先三寸で友達を思い通りに操ろうなんて思い上がっていると、そのうちみんなからの信頼をなくすぞ? おまえは吹雪を操ってチャンスを作ったが、吹雪の乱入まで予測できなかったからチャンスを潰したんだ。言っておくが、だからといって吹雪を恨むんじゃないぞ。友達がバカな真似をしでかそうとしてたら、止めてやるのが当然なんだからな」

 

 漣が神妙な顔で吹雪を見て、ごめんなさい、と、消え入りそうな声で頭を下げた。吹雪は漣の肩を抱いて、もうこんな心配かけないでね、と耳打ちした。

 

 

 漣は一人でとぼとぼと観客席に戻り、吹雪は試合場に残った。そうか、君が四人目か?

 

「ここからは、この吹雪がお相手します! 三連敗してもう私たちの負け越しは決まっちゃいましたけど、せめて一矢報いてみせますからね?」




 格闘シーンを書くのは難しいんだけど漣が馬鹿やってるのを書くのは楽しい。あまり楽しいもんだから、ついつい漣一人で一話分使っちゃいました。最初の予定では、五人組手を一話で片づける予定だったはずなのに。
 次回こそは組手を終わらせて次々回から新展開にしたい。今回でストックが完全に切れたので、お盆休みはステイホームで書き溜めしたいなぁ。
 
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