グラサン提督   作:カレー味

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第二十五話 デスクトップネイビー

『かずさんみてください! このしまのしゃしんをとってきました、いいできでしょ?』

 

 こないだ俺たちが麻雀賭博で捕まってからすでに数日が過ぎた。工廠屋上では日々航空隊基地の建設が進んでいて、工事と並行して配備する機体のほうも急ピッチで生産が続けられている。設営隊と工廠妖精は毎日大忙しだ。

 

 機体のうちでも水上機で早々と完成したものなどは、ドックから飛び立てる利点を活かしてさっそく搭乗員志願者の訓練に利用され始めている。訓練教官は先日のイカサマ麻雀の犯人、零夜偵コンビの二人だ。忍者っぽい黒髪を夜戦ちゃん、長いサイドテールを揺らしている方をゆらゆらさんと呼ぶことにした。

 

 そして、今日は飛行訓練生の一人が島の上空から写真を撮って帰ってきた。聞けばその子も元はガンカメラ妖精からの転身らしい。先日戦場カメラマン妖精に引き抜いた欠員を補充したばかりなのに、また欠員か? ガンカメラは妖精さんには人気のない職なのだろうか、一度話を聞いてみるべきかな?

 

 その写真は額縁サイズにプリントされた。引き伸ばしすぎて画質はそれほどよくないが、島の地形は十分わかる。あとで俺の部屋に飾らせてもらおうかな? 俺は感心しながら、おやつ中の妖精さんたちと一緒にロビーのテーブルに拡げた写真を眺めていたんだ。

 

 この島の形は、南北に縦長の杵形というか、数字の8のように中央がくびれた形をしている。大きさは南北が約2km、東西が一番広いところでも1km足らずの小さな島だ。西側のくびれは以前俺たちが組み手をした砂浜で、その辺りから島の北側にかけては広範囲に遠浅が拡がっている。砂浜から北東に階段を登ると俺たちの暮らしている建屋があり、そこから西に渡り廊下を下ると工廠棟とドックがある。つまり、砂浜から見てドックはやや北に位置することになるな。

 

 島の東と南側の水深は、海岸線間近からすぐに深くなっている。また、さっき説明したとおり北側は遠浅ではあるが、島の北・東・南側の地形はかなりの急斜面になっていて、登り下りはできなくはないが難しそうだ。この島に上陸するなら、西の砂浜から上がるしかない。

 

「あれ? 皆さん揃って何を見てるんですか?」

 

 そこへ声をかけてきたのは五月雨だった。そうだ、たしかここの泊地で作っている海図の編集責任者が五月雨だったな、彼女にもこの写真を見てもらおうか。

 

「へぇー…… このお写真を妖精さんが? いい出来ですね、島の地形も施設もはっきり写ってます。ほら、屋上の電探設備や工廠屋上に建設中の航空基地もくっきりと見分けられますね」

「そうだろう? これだけしっかり写っていれば、今後の航空偵察に十分利用できるよな。 ……まあ立ち話もなんだ、座って君の意見もよく聞かせてくれよ」

 

 写真を褒められた妖精さんは嬉しそうだった。まだ訓練中だからこの先どの分野に進むかはわからないが、偵察機でもいい搭乗員に育ってくれそうだな。五月雨にも席を勧めると、彼女は躊躇なく俺の隣に腰を下ろした。長い髪が俺の膝にサラリとかかってなんかいい匂いがする。自分の髪でなくとも豊かな髪を見るのは気分がいいものだ、いいぞもっとやれ。

 

「ほら、この島ってだいたい西側が開けた地形になっていますよね? 西の砂浜と、遠浅を利用したドックと…… だから、これまでの敵侵攻はほとんどのケースが西側から攻められることが多かったですね。工廠を陥として抗戦能力を奪い、砂浜から上陸して島を制圧する…… そういう狙いだと思うんですけど」

 

 俺がここに来た初日に聞いた砂浜での水際作戦、そして叢雲から聞いた工廠を狙って攻め寄せた艦隊。あらためて島の地形を知ると、これまで攻めてきていた連中の意図にも納得がいくな。そして今後我々が活動を拡大すれば、奴らもこれまで以上に強大な兵力を差し向けてくる可能性もある。それに備えるため、航空隊だけでなくもう一手布石を打っておきたい。ふと思いついた感想を、俺は皆に打ち明けてみた。

 

「それなら、台場を造ってみませんか?」

 

 そう提案してくれたのは五月雨である。なるほど、悪くない考えだ。先日叢雲から聞いた、押し寄せてきた敵艦隊を急ごしらえの砲台で沈めた話を思い出した。あの時は運良く初弾が敵戦艦を沈めたから勝てた、当てられたのはたぶんザ・ボスの力量あってこそのことだ。そうでなかったなら少なくとも叢雲と電は助からなかった、もしかしたらこの島も陥されていたかもしれなかった……

 

 だからそんな事にならないように今度はあらかじめしっかりとした砲台を用意しておくんだ。妖精さんが作ったまま死蔵同然の戦艦砲、これを島の各所に配置して防衛に利用する。こういうことは昔の帝国海軍でもやっていたことだ、この島でも充分できるはずだ。できることなら、対空機銃や電探も置いておきたい。偵察機と電探で接近する敵艦隊を捉え、まずは迎撃航空隊とこの砲台をもって漸減を加える。それで撃退できればよし、だが艦隊不在の時にたとえ一匹でもこの防衛網を潜り抜けた奴が島に取りついたらどうなるだろうか。子供たちが留守の時、陸に上がってきた奴らに対抗しうる戦力は島にはない。それを思えば、まだまだ留守番なしに全員で海に出られる日は遠いと言わざるを得ない。

 

 せめて俺にもザ・ボスのように子供たちの兵器が扱えたら、と思って試してはみたこともあったが、やっぱりダメだった。彼女らは艤装や武装を軽々と振り回しているように見えるから勘違いしてしまうのだが、これらは適性のないものにとっては見た目通りの鉄の塊になってしまうようだ、とても常人に扱いきれるものではない。たとえ小口径主砲でも、無理に撃ったら反動で死ぬだろうなぁ。

 

 五月雨の提案をもとに、それならどこにいくつの台場を置けば効果的な防戦を行えるか、という議論になった。六方八方にたくさん砲台を置けばどこから敵が来ても恐るるに足らず、というマッチョな意見もあったが、ハジメさんの見解では現在保有する資源で作れる台場は三つか四つ、それ以上の消費は艦隊運営に支障をきたす恐れがあるということだった。

 

「やはり島南北の端に一ヶ所ずつは置くとして、どうする? 東西にも置くのはムダか?」

『それくらいのしげんはありますが、とうざいにおいてもたがいのきょりがちかすぎてあまりこうかがあがらないかもしれません』

『いっそしまのちゅうおうにひとつおけばいいのでは?』

 

 考えこんでいた妖精さんの一人がどこから拾ってきたのかコインを四つ地図に置いた。島の南北端、それから北東と南西にそれぞれ一個ずつ。俯瞰すると縦になった平行四辺形の各頂点に配置されていた。

 

 

『こういうはいちはどうでしょう』

『ていけいはいちか、わるくはないがなんだかむかしのおうしゅうのぐんかんみたいだな』

『しかし、このはいちならてきがどのほうがくからせめてきてもじゅうじほうかをくらわせてやれます』

 

 俺個人の感想としても悪くない配置と思うのだが、北西と南東に隙間があるのが気になる。南東側はまあいい、そっちから攻めてきても上陸は難しいからな。だが北西側にはドックがある、この配置は誰かが防衛の一手としてドックから迎撃に出られることを前提としたものだ。俺は指先で北東のコインを北西までずらしてみた。これも悪くはない、西からの敵には充分な手当ができる。ただし東岸はガラ空きだ、そこがいまいち面白くない。南西のコインを南東にずらしてみた、そうすると今度は砂浜が隙になる。砂浜からの上陸を防ぐには、やはり南西の台場は不可欠だと思う。

 

「やっぱり、無理をしてでももう一ヶ所増やしましょう! 私たちも資源回収を頑張りますから、電ちゃんもきっと話せばわかってくれますから」

 

 五月雨が南西にコインを戻し、新しいコインを東岸の中央に置いた。

 

『それはわかるが、これだけではひがしのだいばはこりつしやすくなるぞ。ここがおちたらけっきょくひがしはすきだらけだ』

 

 別の妖精さんが東のコインを退けた。

 

『どうせおくならひがしかたにもふたつはおきたい、だがすぐにはむりだ』

 

 さらに別の妖精さんが北東と南東にコインを置きはしたが、そのまま腕組みをして唸った。やがてコインを勝手に動かしあいながら妖精さんたちが口論を始め、隙あらばコインを増やそうとする子、そのコインを回収する子、コインの奪い合いから掴み合いのケンカになる子、コインはじきで遊び始める子などが加わるに至り、テーブルの上はちょっとした騒ぎになった。

 

「えーい、やめやめ! みんな一旦手を止めなさい!」

 

 俺は声を張り上げて皆を制止し、写真の上から妖精さんを退けて、余分なコインを手近な棚に飾ってあった黒羊の貯金箱に放りこんだ。

 

「六方配置が理想的なのはわかる、ゆくゆくはそうするにしても今すぐ建設に取り掛かれるのは四ヶ所まで、そもそもはそういう話じゃないか。だったら、重要度の高いところから優先して配置するべきじゃないか?」

 

 俺は四枚残したコインを北端・北西・南西・南端の四ヶ所に置いて皆に示した。

 

「五月雨の言うとおりに敵の侵攻が主に西からやって来るとするならば、まずは島の西側に集中している要地を重点的に守るべきだ。とりあえずはこう置いておけば、ドックと砂浜をそれぞれ複数の砲台でカバーできるだろう? 東から近づく奴らについては、島の地形を考えれば東側からの艦砲射撃も上陸も難しいはずだ。台場の追加はおいおい進めていくとして、当面は航空隊に任せられると思う」

 

 そう俺が意見を述べると、五月雨と妖精さんたちは腕組みをしながら写真を睨んでいた。眉間に皺を寄せて眼を細める五月雨はレアな表情だがそれもまたかわいいぜ……! まあそれはどうでもよくはないんだけど置いておくべき話だ、ただ五月雨も妖精さんたちもなんとなく納得していない、収まりのついてない顔をしている。

 

『ぶぉぉ〜〜んどどどど』

 

 出し抜けに妖精さんの一人が両手に小さな飛行機の模型を持って島の西から近づいてきた。他の妖精さんたちも互いに目配せを送り合うと、数人ずつ台場に見立てたコインと地図上の工廠に控えた。なんだ、机上演習か?

 

『かずさん、いいきかいですからちょっとけんしょうしてみましょう。かんたいふざいのじょうきょうでこのしまにてきしゅうがあったというそうていでもぎせんをおこないます。かずさんはぼうえいがわのしきをおねがいします』

 

 俺にそう促すと、ハジメさんは適当な消しゴムを加工したサイコロを転がした。なるほど、俺がプレイヤーでハジメさんがゲームマスターだな? いいだろう、やってみようじゃないか。

 

『ほくせいだいばのでんたんがしまにせっきんするこうくうきのへんたいをかんちしました。そのかずおよそ60、かずさんだけに』

 

 ダジャレを飛ばしてチラッチラッとこちらをうかがう仕草は可愛らしくもウザい、多分ツッコむと調子に乗るからここはスルーしよう。これはテーブルトークRPGではなくれっきとした演習なのだ、断じて遊びではない。マスタリングは真面目にやってくれ。

 

「よーし、それでは各台場は対空射撃用意、距離1000まで引きつけて各自の判断で射撃開始。砲台も敵艦隊の接近に備えて射撃準備をしておけ。敵は一方とは限らん、電探要員は引き続き周囲の警戒を怠るなよ」

『『『いえっさー』』』

「……えーっと、ハジメさん? 基地航空隊の配備状況はどうなってるんだ?」

『げんざいよそうされているみとおしとおりのかずがすでにはいびずみとかんがえてください、かずさんだけに。うぷぷっ』

 

 だからしょうもないダジャレはいらん。

 

「こちらの航空隊は、まず戦闘機から優先して迎撃に上がってくれ、敵編隊に一当てしたあと水偵と艦攻・艦爆隊を上げる。水偵は敵艦隊を確認したあとはそのまま触接を続け、各台場と連携して砲撃を助けてくれ」

『りょうかい、あむろいきまーす』

『かみーゆでます!』

『じゅどー・あーした、いきまーす』

 

 とんでもねぇエースパイロットをいっぱい抱えてんだなぁうちって。無論これはただのごっこ遊びだ、本物のあの三人をいっぺんに指揮するとなったらたとえ俺がブライトさんだったとしても胃に穴が開くだろう。

 

 なお、演習で航空隊の役を務めているのは本物のエースパイロットでもなんでもなくて、そこら辺にいた工廠や家具妖精さんだ。こんな時こそ本物の艦載機妖精さんが参加するべきだと思うんだが、はて今日は姿が見えないな? どこで油を売ってるんだろうか。

 

『きちこうくうたいはこうせんかいいきじょうくうにおいてせいくうけんをかくほしました、てきへんたいのかんせん・かんこうたいにげきついたすうのだいだげきをあたえております』

『さくてきちゅうのていさつきがしまにせっきんちゅうのてきかんたいをはっけんしました、てきはせいきくうぼ1、けいくうぼ1をしゅかんとし、ごえいにせんかん1、けいじゅんきゅう1、くちくかん2をつれたくうぼにんむぶたいであります』

 

 忙しくサイコロを振りながらハジメさんのアナウンスが続く。敵の航空兵力は大きく削れた、ここから先特に注意を払うべきは、敵艦隊で最大の射程を持つであろう戦艦だ。奇しくも先日叢雲から聞いた敵艦隊襲撃の時と似た状況になってきたな。

 

「我が方の攻撃隊はもう上がってるな? 敵戦艦を集中的に狙え。奴を先に潰せれば、敵の射程外からこちらの砲撃が先に届くはずだ」

『ぶぶー』

 

 ハジメさんがバッテンの描かれたプラカードを挙げてみせた。えっ、なんで、ダメなのか?

 

『こうげきをしかけるあいてをしていすることはできません』

「なんでさ?」

『かいせんにせよくうせんにせよ、ぶたいはたがいのすきをふぉろーしあうようにじんけいなりへんたいなりをくんでしんこうしているのです。とうぜんながら、じゅうようどのたかいふねはじゅうてんてきにまもられます。よほどあいてのうんがわるいかれんどがひくいかでもないかぎり、つごうのいいあいてだけをねらっていっぽんづりとはなかなかいかないものです』

 

 その言葉にふと思うことあって、俺は隣に座っている五月雨を横目で覗った。もう何度も語ってきたが、彼女はほぼザ・ボスに迫る勢いのCQCの達人だ。俺がここに来た日、CQC組手で彼女と相対した時のことを思い出した。まったく隙のないところへ無理に攻めかかっても、かえって手痛い反撃を食らうばかりだった。攻撃しなくても一方的にやられるばかりだったけどな。

 

 まあそれはいい。相手の堅い守りを崩すために、あるいは陽動を仕掛け、あるいはわざとこちらから隙を見せて罠に誘いこんだり、正面から地道に敵戦力を少しずつ削っていったり。そうしてリスクとリターンを天秤にかけながら手を尽くして相手と取っ組み合い、崩れたところをすかさず咎めていく。戦争も格闘技も、とどのつまりはボードゲームと本質は変わらないということだな。

 

「……そういうものなのか」

『そういうものです。こうげきをしかけるあいてはあくまでさいころできまるとかんがえてください』

 

 なんかうまく丸めこまれてしまった気がするが、そういうルールであるなら仕方ない。そして我が航空隊側の攻撃は敵駆逐艦1を撃沈、軽巡を中破に追いこみ、敵艦隊の対空射撃によりいくらかの損害を受けた。まあまあ悪い結果ではないと思う。その後はごく少数ながらも空戦を抜けてきた敵方の攻撃隊が泊地に爆撃を仕掛けてきたが、台場からの対空射撃により有効な戦果を挙げられないまま逃げていった。

 

『そろそろてきかんたいがほくせいおよびなんせいだいばのしゃていにはいります、ほうだいたんとうはだいすはんていをおねがいします』

『よっしゃー』

『ぜんもんせいしゃー』

『うちまくれー!』

 

 台場付きの妖精さんたちがサイコロを振った。二ヶ所の砲台と敵戦艦との撃ち合いは、やはり十字砲火を仕掛けている分だけあってかこちら優勢で進行していた。敵戦艦の砲撃によりこちらも台場に多少の損害を受けたが、やがて敵が近づくにつれて北台場も砲撃に加わりはじめた。三方からの苛烈な攻撃を受けて戦艦は沈められ、そこまでで敵方の残存艦隊は侵攻を諦めて反転し逃亡を始めたが、そこへ再度出撃した基地航空隊の追撃を受けて総崩れ、あっけなく全滅させられた。我が軍の勝利だ。

 

『わーい』

『やったー』

『とらとらとらじゃー』

「やりましたねカズヒラさん、大勝利ですよ!」

 

 妖精さんたちと五月雨が無邪気に喜び合っているところで、ハジメさんが出し抜けにサイレンのような警告音を上げた。

 

『じゅいーん、じゅいーん、じゅいーん』

『あ・ひゅーじ・ばとるしっぷ、きんぐ・ふぉする・いず・あぷろーちんぐ・ふぁすと』

 

「「は?」」

 

 なんのことか多分わかってないだろう五月雨とわかっちゃった俺とが期せずして声を揃えた。宇宙戦艦出してくるのはズルいだろう、と反駁しようとしたが、そこへ法被を着こんだ妖精さんたちがシーラカンスに見立てた木彫りのシャケを担いでやってきた。ほとんどねぶた祭り状態である。あれこないだガラクタ倉庫から出てきたやつだな?

 

 そこで俺はロビーの掛け時計を見た、おやつの後のんびり机上演習なんてやってたら時刻はもう4時近かった。いかん、今日は先日麻雀賭博の罰として電に命じられた入渠ドックの掃除当番の日だったんだ。

 

「おいハジメさん、そろそろドックに行かないと時間に遅れるぞ」

 

 夕方になれば午後の哨戒当番の子たちも泊地に戻ってくる。今やうちの子たちが哨戒で大怪我をして帰ってくることなどほぼ皆無と言っていいのだが、それでも帰還に備えてドックの準備は済ませておかなくてはならない。帰投予定時刻までに間に合わなければ、俺たち全員まとめて電にどんな懲罰を受けさせられることになるかわからないぞ!?

 

『これはしたり! かずさん、いそぎましょう』

『まていはじめ、えんしゅうをほうりだしてどこへいく』

『そうだそうだ、あそびじゃないんだぞ』

 

 最初の一戦はともかくとしても、遊びでなければキングフォスルなんか出てくるもんか! 俺とハジメさんはゲームを中断してドックへ急ごうとしたが、すっかり続きを遊ぶ気満々になっていた他の妖精さんたちが不満を言い立てた。

 

「すまん皆、俺たちはすぐにでも掃除当番に行かなくては後で非常にまずい事になる、悪いが今日のところはこれまでだ。続きをやるんだったら誰かがハジメさんの代わりに判定役を引き継いでくれないか」

『……いなずまさんのさしずとあらばしかたない、つづきはわれわれでやろう。だがぷれいやーがわまでようせいだけではおもしろくないぞ』

 

 その場の妖精さんたちはしぶしぶながらも俺たちがゲームを抜けることをなんとか理解してくれたが、まだ完全に納得はしてくれていないようだった。

 

「ならば守備隊の指揮は五月雨、君に任せる」

「……えぇ、わ、私がですかぁ!?」

「大丈夫だ。君のCQCの腕前と見識、それをちょっと水平展開して戦術に応用するだけだ。これも兵法というものだ、いい機会だから取り組んでみろ」

 

 自分自身でも適当言ってるなあと自覚はしている。俺は引きつった作り笑いを浮かべて五月雨の肩をポンポン叩くと、踵を返して工廠へと急いだ。

 

「あぁっ、カズヒラさん! 待ってください、置いてかないでぇぇぇ……」

 

 俺たちの背後を五月雨の悲鳴が遠ざかっていく。すまん五月雨、だが一戦だけとはいえ真面目な演習はほぼ上々の結果に終わったと言っていいだろう。ぶっちゃけここからは際限なく暇を持て余した妖精さんの遊びになるであろうことはあのシーラカンスならぬシャケの木彫りを見れば明らかだ、悪いが俺の代わりに付き合ってやってくれ。

 

「しかしハジメさん、君まで抜けてきてよかったのか? 電に掃除を命じられたのは俺と艦載機妖精さんたち六人だけだ、君まで掃除に付き合う義理はないはずだが」

『いまさらみずくさいことをいいなさんな。このはじめ、かずさんのいちのこぶんとじにんしております。かずさんあるところわたしあり、どこまでもおともするしょぞんです』

 

 くぅっ、泣かせるじゃないか。俺こんなこと言われたのいつが最後だったっけか、故郷の横須賀で悪ガキ大将をやっていた頃以来くらいじゃないか? 思い返せばそれから後は日米のハーフとして生まれて心ない陰口や揶揄を受けた中高時代、渡米してからは大学でもやはり腫れ物扱い、帰日しての自衛隊時代もそんなもんだったっけな。

 

 混血なんて珍しくもない南米に流れてからはそういう扱いはなくなったが、コロンビアの反政府軍で俺が育てた教え子たちは、みんな俺のせいで死んでしまったか、わずかに残った奴らもだいたいスネークに籠絡されちまった。

 

 MSFの皆とは良好な関係を築けていたと断言できるが、MSFの崩壊後に俺が立ち上げたダイヤモンド・ドッグズにまでついてきてくれた者は結局ほとんどいなかった。ビッグボスのいない部隊に興味はない、気持ちはわかるがはっきりそう言い切られたのは寂しかったっけな……

 

 米軍を辞めた後、アラスカに隠遁することを女房は嫌がった。俺に最後までついてきてくれたのは娘のキャサリーだけだった。その一人娘すらもあの忌まわしい夜に……! 俺の一生をダイジェストで思い返せば不覚にも視界が滲む。俺は溢れ出す涙を振り切るように工廠へ続く渡り廊下を駆け降りていった。

 

 

『おそかったじゃないはにー、どこでおいるをうっていたの!?』

「遅れてすまなかった、基地航空隊のことでちょっと机上演習を試してきて遅くなってしまった。我々もすぐ始めるよ」

『きじょうえんしゅうですと?』

『それはきょうみぶかいおはなしですね、ねっ』

 

 入渠ドックに着いた時、すでにヘルダイバーちゃんたちは作業を始めていた。ぷりぷりと怒りを露わにする彼女らに遅刻を詫びた俺たちもすぐ仕事に取りかかり、作業を進めながらさっきのロビーでの出来事をかいつまんで話してみた。

 

『ほほぅ、ほんしょくのぱいろっとたるわれわれをはぶいてえんしゅうとは、ふそんだな?』

『そうねぇ、ちょっといってりある・まっこいなぱいろっとのとうそうというものをきょういくしてあげなくちゃならないわね』

『やせんえんしゅう……』

 

 艦載機妖精ズはすっかりやる気勢だ。なりは小さくとも妖精さんの作業能力は常人のはるか上を行く。入渠ドックは浴槽二つ分とそれに付帯する設備だけでたいして広くないから、瞬く間に掃除を終えるや否や、彼女らはあっという間にドックを飛び出て行ってしまった。

 

『まだぜんぶおわってないというのに、これだからしろうとは……! すみませんかずさん、さいごのかくにんをおてつだいいただけますか』

 

 艦載機妖精ズを呆然と見送りながら、ハジメさんは申し訳なさそうな声で詫びた。続くハジメさんの説明では、掃除した浴槽にこれから高速修復材を混ぜたお湯を張ってようやくドックが使えるようになるのだそうだ。しかし、この高速修復材が貴重でデリケートで、しかも劇薬であるがために湯温と濃度の調整には非常に気を使わなくてはならないのだという。その検査に俺の手を借りたいということだった。

 

『ではかずさん、こちらへどうぞ』

 

 ハジメさんはドック奥の鉄扉を開けて俺に手招きをした。扉の向こうは壁床天井までセメント打ちっぱなしのそっけない作りで、地下に向かう階段が薄暗い蛍光灯に照らされていた。




 あけましておめでとうございます(棒)グラサン提督第二十五話をお届けします。

 今回もまた、一話が長くなりすぎて途中でカットして再構成するという作業をやってます、なんか毎回毎回これやってる気がする…… 構成力が足りてない!?
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