「よぉーし! 三本目行くぞォーー!」
「「「うぉーー!!」」」
色々なことがあり過ぎた特濃の昨日から一夜明けて、俺たちは今朝も早くから砂浜で特訓の真っ最中にあった。急遽始められたこの特訓、その内容は子供たち五人に俺も加わり、五月雨一人を相手に四人でかかっていく四対一での変則CQCかかり稽古である。
「叢雲、目をつぶるな! 自分の視覚を遮断するな、自分も前を見たまま仲間の視界にも注意を払えるようにするんだ!」
「わ、わかってるわよ!」
対戦人数の計算が合っていなかったのは、現状ではまだ叢雲が試合に加わっていないからだ。叢雲だけは離れたところに控えていて、そのかわりに彼女の超能力を利用して俺たち四人に無線やかけ声で指示を出させている。もっと能力に慣れてきたら、いずれは叢雲自身も試合に加わって五対一の形式にもできるだろう。
でも、そうなれたら俺試合を抜けてもいい? この対戦で五月雨が一人チームなのは、彼女は彼女でまた自らの超能力に慣れてもらうためだった。けれども、CQCの達人五月雨は元々そんなの関係ねぇレベルで強かったのだ。
一試合につき三分間のかかり稽古、何回投げようが投げられようが、どちらも時間内は目一杯動き続ける決まりだった。しかし、まだ三本目で五月雨は涼しい顔をしたままなのに、俺たち四人はもはや砂まみれにされつつあった。
戦場カメラマン妖精さんを得ることによって叢雲と五月雨が身につけた超能力、艦隊全員分のカメラマン妖精を統括し自らの視覚に加えられる叢雲と、五月雨の戦場を俯瞰できる感覚。この二人の能力を艦隊行動に活用できるようにすることが特訓の目標であり、現在この島を狙っていると思われる敵に立ち向かうために必要になると考えている。そう結論づけるに至ったのは、昨夜の夕食後に皆で集まった会議でのことだった。
昨夜の夕食後、さっと片付けを済ませて俺たちは再びロビーに集まった、まずは俺と五人の少女たち。妖精さんは大半が自分の持ち場に帰ったが、工廠妖精のハジメさん、家具妖精の棟梁、設営隊妖精の監督、そして艦載機妖精のヘルダイバーちゃん、天さんこと天山、おにいちゃんこと零戦21型、零水偵11型乙改夜偵…… 長いから今後は零夜偵と呼ぼうか、零夜偵コンビの夜戦ちゃんとゆらゆらさん。以上のメンバーが出席者ではあるが、他の妖精さんも暇そうな子が近くをうろついている。多分気が向いたらそんな子たちも話に加わるだろう。
「まずは皆、忙しい中に時間を割いてくれてありがとう。さて今夜の議題なんだが、本日夕方に確認された当泊地への敵性工作員の侵入について、皆が気づいた点を共有し今後の対策案を協議していきたいと思う。だが、本題に入る前に、まず前提条件として我々が進めている戦力増強計画の進行状況を確認しておきたい。各部署の妖精さんは報告を頼む」
最初に手を挙げたのは監督だった。
『それでは、せつえいたいよりごほうこくもうしあげます。かねてよりすすめておりましたこうしょうとうおくじょうのこうくうたいきち、こちらはよていどおりにこうじをかんりょうしております』
『つづいてだいばのせっちでありますが、けっきょくのところまずはきた・ほくせい・なんせい・みなみのよんかしょとさだめ、いまはようやくなわばりをはじめたというところでしょうか』
「今後の工程はどうなる?」
『かんじんのたいほう、たいくうきじゅう、たいくうでんたんなどはものじたいはもともとざいこがそろっております。ただ、だいばのこうじはまだはじめたばかりですのでほうがすわるまでにあといっしゅうかん、ぼうへきをそなえちかのきゅうだんとんねるをくっさくし、しけんてきにでもかどうをかいしできるまではとおかあまりというところです』
「なるほどな。急な話で短い工期を押しつけてしまってすまないが、この調子で続きを頼む」
監督は一礼して着席した。なお各台場にはそれぞれ弾薬庫を備える予定だが、それだけではなく設営隊からの提案を受けて、工廠地下の貯蔵庫から各台場へ弾薬を供給するためのトンネルを掘りトロッコを通すことにした。妖精さんサイズの地下鉄環状線だなんて、なんだか妖精さんたちの格好の遊び場にされそうなイヤな予感しかしないな。でも、簡単に攻撃を受けやすい地上に給弾路を作ったり、妖精さんや子供たちによる人力で弾薬を搬入するよりはずっと効率がいいだろう。
『つづきまして、こうしょうよりごほうこくします。せんぱんよりすすめておりましたきちこうくうたいにはいびするきたいのせいさんでありますが、よていのしげんをしょうかしておおむねよそくの9わりじゃくのあたまかずをそろえられております』
ハジメさんの報告には、ガリ版刷りの保有機体数リストと、副産物的に開発できた駆逐艦向け装備品などのリストが添えられていた。ノリに任せて予定とは違うものを作ってしまう工廠妖精さんにしては、当初予測していた期待値にかなり近い成果が上がっていると思うが、艦載機妖精さんから見るとどうだろう、数は充分かな?
『えびしんずおーらい、これだけあればじゅうぶんよはにー♡』
『やはりじょういきたいよりもかいきたいにかずがかたよるのはしかたがないことです。あとはわれわれのうんようしだい、むだづかいはけしてせぬようきもにめいじます』
『わがてんざんたいとしてはじゅうぶんすぎるかずをよういしてもらえたこと、ふかくかんしゃする。きゅうしきの97かんこうもけっこうおおめにつくられてしまっているが、こいつのつかいみちについてはちょっとしたていあんがある。そのときにまたはなしをきいてほしいが、いまのところはこれだけだ』
基地航空隊の要員については以前にも言った通り、滑走路の完成を待たずして水上機組だけは先行して訓練を開始していた。すでに多くの搭乗員が訓練課程を修了しており、希望者は今後艦載機や陸上機への機種転換を経てなおも訓練を続けることになる。また水上機組に残る者も、零水偵や瑞雲を駆って島周辺の哨戒や遠方への偵察といった任務をいつでも始められる状態だった。
「うん、これで駆逐艦の皆が交代で哨戒を続けなくてはならない自転車操業状態はかなり解消されたんじゃないか? これからは全員で揃っての訓練にかなり時間を割けるだろう」
「そうね、ありがたいことだわ」
「じゃあ、今まで積んでたゲームを消化する余裕も……」
「漣ちゃん、ゲームは一日一時間までだからね?」
「ウッス」
漣はすぐ吹雪にたしなめられた。ゲーム機あるんだ、それもやっぱりクラーク博士の仕業かな? 俺も少しくらいは遊んでみたいものだが、いまだに俺は寄宿棟立ち入り禁止のままだ。ゲーム機はロビーに置いてくれてもいいんじゃないかと言いたいが、今日は真面目な話なんだ。遊ぶことは後で考えろ俺。
「じゃあ、現在の我々が得られている成果を確認できたところで、そろそろ本題に入ろう」
ことの発端は昨日の日没頃のことだった。泊地防衛のために余剰の戦艦砲を据える台場を造ろう、そのための候補地の一つである島の南西部で、以前俺が海で失くしたサングラスとブーツが発見されたのだ。沖合いに沈んだはずのそれらが、揃ってこの島に流れ着くはずもない。何者かが海底からそれを拾い上げ、ひそかに置いていったのは明白だった。
皆の目撃証言を擦り合わせてみたところ、少なくとも昨日の昼間の時点ではまだ何も見つかっていなかったのは間違いなさそうだった。だから俺の大事なグラサンが置かれたのは、昨夜から今日の昼間にかけてのことになるな。
「俺の大事な宝物を返しに来てくれたんならお礼くらいは言ったのにな」
「カズさんそれシャレになんないです……」
「そんなに大事だったのですか、その黒眼鏡?」
「なにかいわれでもある物なんですか?」
いや別にいわれというほどのことではないんだが、戦後の横須賀で過ごした少年時代、街を我が物顔で歩いてた米兵たちはよくこんなサングラスをかけていたものだった。ガキだった俺に取っちゃあサングラスがアメリカの証みたいなものだったんだよな。
受けなかった冗談は置いておいて、俺は皆に意見を求めてみた。誰にも見咎められることなくこんな芸当ができるとしたら、相手はいったいどんな奴だろうか?
「十中八九、夜間に潜水艦の仕業と見てまず間違いないと思うわ」
「自惚れるつもりはねーんですけど、昼間に水上艦がこっそりこの島に近づくのは無理でしょ」
叢雲と漣は自信ありげだった。この島は周囲360度どっちを向いても水平線、近場には
「潜水艦か。一応訊いとくが、潜水艦を相手にしたことは?」
「はっ、陸さんは海のことはなんも知らんのですなぁ。われら駆逐艦は、言わせてもらえば潜水艦狩りのプロですから? 艦隊に随伴し、魚雷艇や潜水艦の接近から大型艦艇を守る。それが駆逐艦のメイン任務なんですヨ」
誰が陸さんか? まあ陸さんには違いないかもしれんが、そんな俺の質問を鼻で笑った漣はドヤ顔で胸を張った。
「でも、昔漣ちゃんを沈めた相手も潜水艦だったのです」
「昔のことなら、電ちゃんだってそうだったでしょ? ……あっ、そういう私も実は潜水艦にやられちゃったんです。座礁して動けなくなったところを的にされてしまって」
電と五月雨のツッコミが連鎖した。昔というのはこの身体に生まれ変わる前、彼女たちが本物の
「まあ待ておまえたち、いがみ合うのはよすんだ。つまり駆逐艦は潜水艦にとって天敵ではあるが、それでも気を抜けば逆にやられる程度には潜水艦は楽な相手じゃないって認識でいいんだな?」
「そうです。足も遅いし装甲も薄いけど、あの隠密性は厄介ですよね」
「どのみち楽な戦などないものよ、みな心なさい」
「はぁ〜ぃ……」
吹雪や叢雲は即座に同意してくれた、潜水艦にやられた組の三人は揃って少々不服そうだったが。
「俺がここに来た日、ザ・ボスが吹雪の艤装を公試した映像を見せてくれたな。あの時缶詰くらいの爆雷を放ってたのを憶えてるんだが、あれが君らの対潜戦闘か?」
「はい。あの時ザ・ボスは目視で、手で爆雷を投げてましたが、漣たちならソナーで索敵したり爆雷投射機を使ったりしたほうがより効果が上がります。精度が違いますからね」
爆雷というものは、投下用のレールや投射機を用いて舷側方向に多数バラ撒くのが元々の運用法だったはずだ。だが時代が進み、対潜迫撃砲やロケット砲などの前方に投射できる兵器、もっと後には対潜ミサイルや対潜魚雷といったさらに命中精度の高い兵器が現れるようになって、古い戦術はだんだんと廃れていった。この子たちの爆雷は形状こそ古いタイプに近いが、運用法は少し進化した形になっているのかもしれない。自在に動く二本の腕を備えた人の姿をとっているからこその進歩だろうか、あるいはこれもザ・ボスの教えであったのかもしれない。
「うちのシマにちょっかいをかけてきてるのが潜水艦であることは間違いないとして、どこの馬の骨か心当たりはあるか?」
「……あります、大有りですよ」
五月雨が大きな海図を持ち出してきてホワイトボードに貼った。ちょっと鼻息が荒い、彼女にしては珍しくおこなの? 五月雨謹製の海図、その中央に描かれたこの島から南へ向かう航路は、しばらく延びたところまででぷっつり途切れ、大きな楕円に囲われて「せんすいかんがいっぱい」とやや投げやりな筆跡で書かれていた。
「この島から南に少し離れたところに、潜水艦がやたらと出現する海域があるんです。対潜装備を手厚くしてもきりがないほどの数が出てくるので、そこから先は私たちも探索の手を進められていません。現状では、こっちまで勢力を伸ばしてこないよう定期的に叩きに行くのが精一杯なんです」
「モグラ叩きだな」
「もぐらたたき……?」
五月雨は不思議そうに小首をかしげた、今日もかわいいぜ…… そういうゲームがあるんだ、日本に行ったら一緒に遊ぼう、ウフフ。
『ちょっといいか、かずさん』
天さんが妙にかっこつけたポーズで手を挙げた。なんだ、さっきの話の続きか?
『さっきいいかけた97かんこうのつかいみちなんだけどな、てんざんにじゅうぶんなかずがあるげんじょうでは、くんれんきかよびきとしてしかつかいみちがない。いっそのことたしょうのかいしゅうをくわえてたいせんこうげききたいとしてさいへんするというのはどうだ? いますぐに、ただでできるというものではないが、きょうみがあるならあとではじめとそうだんしたうえでみつもりをだすぞ』
対潜攻撃機隊か…… 定期的に潜水艦狩りをさせるなら、いちいち艦隊を差し向けるよりもそっちの方が長い目で見ればコスト的にもお得だと思うが、どうかな電?
「よい提案だと思うのです、まずは資源と時間の問題ですね。見積もりを出していただけるのなら、前向きに検討したいと思うのです」
「ただ、すぐ目先の問題としては、どうしても南の海域を私たちで一叩き二叩きしとかなきゃダメですよねぇ、今度は上陸までされちゃってるんですし」
テーブルに頬杖ついて吹雪がそうぼやくと、お行儀悪いわよ、と一言たしなめた叢雲がそのケツをひっぱたいた。
「どうせ叩かなくてはならない相手なら、叩きがいのある台になってもらおう。そこで少し提案があるんだが」
昨夜の会議はこんな経緯だったんだ。俺の提案というのは、五人全員で出撃できる体制が整いつつある今こそ、叢雲と五月雨の新しい能力を実戦で活用できるようにすること。南の潜水艦どもには、そのための叩き台になってもらう。落とし物を拾ってくれた恩を仇で返すようで気が引けないこともないが、潮水漬けのブーツは使いものにならんし、グラサンはかけようとしたらヒンジが錆びてて折れた。お、俺の大事なグラサンが……! あいつら絶対許さないよ。
無論、熟達の不十分な新能力をいきなり実戦に持ちこむことについては皆から反対の声が上がった。もちろんだ、俺もそんなことには反対する。だから、まずは訓練と演習をもって能力に充分慣れてもらう、そのための訓練法を俺は皆に提示した。その第一歩が、現在行なっている四対一の組手だ。
戦場を俯瞰できる能力、五月雨にはこれを組手中はフルに使ってもらう。そして、叢雲は五月雨の能力すら含めた全員分のカメラマン妖精さんの視界を統括して指揮を行う。さすがに情報量が多すぎるから最初は自分は組手に不参加で、しかしゆくゆくは自分自身も戦場で動きながらこれを行えるようにならなくてはいかん。
『あさごはんでーす』
四本目が終わった後、ハジメさんたち数人の妖精がバスケットを持って砂浜に降りてきた。今日は朝五時に総員起こし、準備運動と説明を経てインターバルを挟みながらの稽古、そろそろ六時くらいにはなってるのか?
「うぅ…… お腹空いたぁ」
「起きてすぐ引っ張り出されてきたのに、いつの間に? まさか、ハジメが作ってくれたんじゃないわよね」
ハジメさんはプルプルと首を振った。
「期待してるようで悪いが、今日の朝飯は俺の作だ。急遽間に合わせで用意したものだが我慢してくれ」
メニューは塩むすびと香の物少々、あと紙カップで風情がないがワカメの味噌汁だ。朝早くからの特訓を計画したのはいいんだが、飯のことをすっかり忘れていたんだよ。気づいたのは昨夜遅くのことだが、幸いにしておかずには吹雪が半分趣味でやってるぬか漬けがあった。味見してみたがなかなか美味いんだよ、やるな吹雪。
深夜に米を研ぎ、翌朝に合わせて炊飯器をセットし、明けて今朝は四時起きで味噌汁を作りおにぎりを握っておいたんだ。明日からはもっと計画的にやらなくてはなぁ。
「はぁー、カズさんのお味噌汁美味しい……」
「吹雪のぬか漬けも大したもんだ、吹雪はきっといいお嫁さんになるぞ」
「……そぅですかぁ〜〜? うぇへへへぇ」
吹雪が照れ臭そうにくねくねしている。今俺たちは、砂浜にレジャーシートを拡げて車座で朝食をとっていた。五月雨と叢雲以外はすでに全員砂まみれになっていたが、シートとおしぼりはハジメさんたちが気を利かせてくれたんだ。
「そういえば、カズのお味噌汁って初めてだわ。日本食もできたのね」
それは叢雲が俺の食事当番のたびにハンバーガーとかをリクエストするからだ。
「俺がガキの時分からお袋は臥せりがちだったからなぁ、日本にいた頃から料理は結構やってたんだぜ?」
「カズ様のお味噌汁なら毎日でも飲みたいですなぁ、これから毎日漣のためにお味噌汁作ってくれません?」
なんだそりゃ、まさかプロポーズのつもりか? だが断る、俺だって上げ膳据え膳したいんだ、おまえも働け漣。
「でもこういうお食事って、なんだか戦闘配食を思い出しますよね」
戦闘配食? 耳慣れない五月雨の言葉を訊き返した。
「海軍では戦闘配置中にごはん時になる場合、各員が持ち場についたまま食べられるごはんが配られたんです」
なるほどなぁ。たしかに、いつ戦闘が始まるかわからない状況下で持ち場を離れて食事というわけにもいかないものな。
「おにぎりの他にも、おはぎなんかが出されたり…… そうそう、私たち駆逐艦には無縁の話ですけど、航空機搭乗員さんにはお弁当箱に巻き寿司を詰めて持たせてくれたりしたそうですよ」
「無縁もなにも、戦闘配食を受けるのは乗組員であって電たち
五月雨と電が顔を見合わせてコロコロ笑った。それいいな、酢飯だから夜のうちに作っておいても保つかな? だからといってこの常夏の島で常温保存など論外だが、冷蔵庫入れとくと固くなるかなぁ……
「さぁ朝ごはんも食べたし、続きやるわよ! カズ、ここからは私も参加するわ!」
「まだダメだ」
俺はシートに寝転がり、うるさく騒ぐ叢雲に背を向けた。食べた後に寝ると牛になるってのは当然迷信だけどさ、肝臓を下にして右向きに寝転ぶといいとか、逆流性食道炎を避けるために左向きに寝転べとかさ、いろんな先生がいろんなこと言うんだけどなんなの? 俺今日四時起きだったんだよ、好きなように寝させてくれ。なんなら膝枕してくれたっていいぞ?
「なんでよ!? いつまでもちんたら休んでられないわ、こうしてる間にも奴らはここを狙ってるかもしれないのに!」
叢雲は不満気だったが、そういうこっちゃない。次から参加したいというのはおおいに結構だが、食後すぐの運動は禁物だ。あと満腹状態では頭の回転も鈍るし、眠くもなる。食後はたっぷり30分は休息をとってからプレイするといい。(声色)
それに、今日からはもう水上機隊が哨戒任務にあたっている。なにか異状を発見したら、皆の通信機や俺の携帯に連絡が入るはずだ。そんな事態に備えて、工廠でも皆がいつでも出られるよう準備を整えてくれている。俺たちは決して油断はしていない、だから訓練は焦らずじっくりしっかりやるんだ。わかったら叢雲、おまえも少し休め。今日は身体は使ってなくても、脳をフルに使ってたはずなんだからな。
仮眠から目を覚まし、携帯で時間を確認した。十五分ちょっと寝ていたようだ、そろそろ頃合いだな。
身を起こして周りを見回すと、叢雲は吹雪の膝枕でスヤスヤ眠っていた。あら^〜! 俺はためらいなくカメラを起動して、眼前の尊い光景を写真に収めた。そうだ、せっかくだからこれ漣にも送ったろ! メールアプリを立ち上げ、連絡先から漣のスマホに画像を送った。即レスが返ってきた、『カズ様ナイスショットですぞ、でもなんで漣の連絡先知ってたんです? ちょっとキモいっすw』
キモいとか言われて半分寝ぼけてた頭がようやく覚醒した。いつもキャサリーや女房とやり取りしてた癖で、つい撮影から送信までの一連の動作をほぼルーチンワーク的に実行してしまった。
しかし、普通に考えればこんなどこだかもわからん絶海の孤島に携帯の電波が届くはずがない。実際アンテナ0本の圏外なんだが、それなのにこの携帯普通に漣のスマホと繋がるんじゃん!
キモい言われたのはちょっとショックだったが、思春期の娘を持つひとり親としては、ガキンチョにキモい言われた程度でいちいち落ちこんじゃいられねぇんだよォ!(涙目)
いやそんなことはどうでもいい、よくはないがとりあえず横に置いておく、この携帯なにかの役には立たないだろうか?
もう一度周囲を見回す、レジャーシートに残っていたのは俺と吹雪、叢雲の三人だけだ。日が昇ってだいぶ暑くなってきて、漣と電は離れた岩陰に避難していた。そして、やる気満々の五月雨は初日の組手の時と同じように、すでに砂浜の真ん中で正座して精神統一に入っていた。
俺は上着を脱いで砂地に拡げ、さりげなく砂を被せて埋めて隠した。シートに携帯を置きに行くついでに漣にメッセージを送っておいた、『俺が埋めた上着の位置を憶えておけ』
メールに返事はなかったが、遠くで漣が両手で大きく丸を作っているのが見えた。初めて会った日にも感じたが、やっぱりあいつ周りをよく見てるわ。ほんの思いつきからのにわか仕込みの策だが、さて役に立ってくれるかな?
程なくして叢雲も目を覚ました、そろそろ皆を集めて続きを始めようか。ちょっと早いかもしれないがここからは叢雲も参加すると皆に告げると、五月雨の眼があからさまに輝いた。そういえばこの子連続CQCの記録更新を狙ってたな、だがそう簡単にやらせはしないぞ?
などと意気ごんで稽古を再開してからさらに二戦、俺たちはやっぱりホイホイ転がされていた。五月雨の連続CQC記録は七回まで伸びていた、こっちの人数より多いのは起き上がってすぐ二回目を投げられたやつもいるからだ。
三戦目の前に漣が不意に俺のケツを撫でた、なにかと思って思わず声を上げそうになったが、気づけば試合場は少しずつ俺が上着を埋めた場所の近くまで移動してきていた。ここで仕掛けるつもりか、俺は了解の意味をこめて後ろ手にピースサインを出した。
俺と漣は何度か投げられながらも五月雨が上着を踏む位置まで追いこんだ、チャンスを見計らって漣が上着を引っ張り出した! 埋めた上着はあらかじめ袖の先を輪に結んでおいた、片足でも引っ掛けて五月雨を転ばすことができれば、俺たちにも勝機があるはずだった。
「引っ掛かりませんよ、だってそれ見てたもの」
五月雨は片脚を上げてあっさり罠をかわした。俺が上着を埋めた時、五月雨はそっぽを向いていたように見えた。でも、能力ではちゃんと俺の動きを見ていたのだ! ウカツ!
しかし、漣にぴったりタイミングを合わせるように突っこんできた吹雪が五月雨の軸足を刈った。さすがに片脚立ちでは避けることがかなわず、五月雨が俺の上に倒れこんできた。
「カズ、五月雨を抑えて!」
すぐに叢雲の指示が飛んできて、俺はとっさに五月雨をガッチリ抱えこんだ。暴れんなよ…… 暴れんな。だがここからどうする?
「電ちゃん、やるよー!」
「はいなのです!」
漣と電の二人が、五月雨を抱えたままの俺の両脚を一本ずつ掴んで砂浜を引きずり始めた。待って君らいったい何をする気だ!? 脱いだ上着の下に着ていたタンクトップが捲れ上がり、熱い砂地に直接肌が擦れた。熱い痛いこれ紙ヤスリで背中擦ってるのと変わらんぞ!?
「吹雪家家訓!」
「『武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つことが本にて候』なのですぅぅぅ!!」
ヤスリ責めはすぐ終わった、終わりはしたが二人は俺たちを波打ち際近くまで引っ張ってくると、今度はジャイアントスイングの要領で振り回し始めた。俺の視界で空と海と砂浜がグルグル回る。
「カズ様! タイミングを合わせてさみちゃんを離すんです、海に投げこむんですぞ!」
始めは拘束を解こうとして暴れていた五月雨だったが、ジャイアントスイングに移行すると逆に離されまいとしがみついてきた。漣が離せとか叫んでたけどもう無理だ。美しい光景が巡る中心でかたく抱き合う俺と五月雨、強烈なGにさらされて平衡感覚と正常な思考を失いつつあった俺はもはや陶酔感すら覚えはじめていた。
「電ちゃん、これあかんやつや。 ……カズ様、お許しください!」
「鳥になってくるのです!」
五月雨だけ飛ばすのは無理と判断したのか、無慈悲にあっさり手が離された。放物線を描いて空を飛ぶ俺たち、五月雨! きみはどこにおちたい? でも五月雨はきゃあきゃあ悲鳴を上げているばかりで返事は聞けなかった。もし聞けたとしても選択の余地はなかった、俺たちは十何メートルを投げ飛ばされて特大の水柱を上げながら着水した。ツープラトンジャイアントスイングから落水まで一分にも満たないめちゃイケ体験にほぼイキかけました、イキスギィ!
背中の擦り傷に潮が沁みる痛みにようやく正気を取り直した俺が浅瀬に立ち上がると、五月雨は目を回して気絶したまま仰向けに浮いていた。これ俺らの勝ちでいいんだよな? まったく勝った気がしないが、俺はフラフラになりながらも五月雨を抱えて陸へと歩み出し、波打ち際まで救援に来た皆に彼女を託した直後に胃の中身を全部ぶちまけた。ああ、苦労した四時起きの成果物が波に浚われて消えていく……
グラサン提督第三十話をお届けしました。
現在開催中の春イベ、筆者は甲丁丙丙丙丙でE6-4を半分削ったところまで来てます。ももちは貰ったも同然(慢心)として、あと掘らなきゃいけないのがヘイウッドとマサチューセッツ。どちらもラスボスマスで出ますから、しばらく闇ももちとキャッキャウフフだなぁ。