グラサン提督   作:カレー味

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第四十話 こんな夜更けにたぬきかよ

 泊地南海域の手強い潜水艦に立ち向かうため、苦戦のさなかに開眼した新たな能力を全力で使った叢雲。その負荷から、常人ならば命を失いかねないほどの損傷を脳に受けてしまった。ナノマシンの力で命は助かったが、今後もこの能力を使って戦い続けるためには、高い負荷を受け止めきれるだけの強い身体が必要になるのだという。そう判断したハジメさんによって、子供たちはかつて自分たちが生まれたカプセルに再び入り、大規模改装と呼ぶ強化処置を受けることになった。

 

 皆の無事を願う俺ことカズヒラ・ミラーは、目覚めを待つ間はこの地下室に詰めっきりになってもいいように、ここから地上の妖精さんたちを指揮できるだけの機材を運びこむべく、一度地上に戻ることにしたのだった。

 

 地下では普段から泊地での生活をすべてまかなえるほどの発電や浄水を行っているだけあって、電気と水ならいくらでもある。ありがたいことにトイレだってある。あの地下室はいざという時シェルターとしても機能するため、必要十分な生活を当分続けられるくらいの設備を備えているのだ。でも食べ物は置いてあったっけか? とりあえず俺は手近なダンボールにノートPCとスマホ、空いたところに適当な食品を手早く詰めて地下に戻った。ところで、この箱個人的にすごく見覚えしかない、これは懐かしきMSF時代の支援ダンボールだ。なんでこんなものがここにあるんだ?

 

 

「あーっ、カズヒラさん戻ってきたよ!?」

「待つと誓った舌の根も乾かぬうちに、いったいどこをほっつき歩いていたのですか!」

 

 地下に降りると右から二つカプセルが開いていて、俺は戻るなりふくれっ面の五月雨と電に指差してなじられてしまった。

 

「どこって、長期戦に備えて上で通信と食糧を確保してきたんだが…… 俺のことより、二人ともどうしたんだ? まだ二十分も過ぎていないぞ、もしかして改装にトラブルでもあったのか?」

『そんなことはありません。おふたりとも、ぶじにだいきぼかいそうにせいこうしています。しんたいのうりょくのこうじょうにともなって、ぶそうをせいぎょするようせいのぞういんもできました』

 

 いつものごとくにハジメさんの説明が長かったので要約するが、これまでも子供たちは普段から主砲に魚雷に爆雷に機銃にと、一通りの装備は全部備えて出撃していたんだそうだ。ただし、それらの装備を制御して戦闘を支える妖精さんが乗り組める数には限りがあるらしい。

 

 だから、魚雷担当の妖精さんばかりを乗り組ませると、雷撃は強力になるが砲撃は大きく威力を落としてしまう。爆雷担当の妖精が乗り組まなくても潜水艦に攻撃はできるが、一撃で仕留めるほどの精度は出せなくなるし、逆にソナー・爆雷投射機・爆雷とシナジーのある担当妖精を乗り組ませることで、強力な潜水艦すら一撃必殺するほどの威力を与えることもできる。ただし、その分だけ砲雷撃戦はおろそかになってしまうのだが。

 

 ハジメさんいわく、これまでのみんなは装備二つ分の妖精を乗り組ませるのがやっとで、そのなかで最低限のやりくりを続けてきたんだそうだ。

 

 それが、改装の成果によりこれからは三つ分の妖精さんを載せられるようになった。一つ増えるだけでも、相当に戦術の幅を拡げられるのだとハジメさんは胸を張った。

 

「そうなのか、見た目はまるで変わってないように見えるんだがなぁ」

 

 当初覚悟していたよりもずっと早くみんなの大規模改装が済みそうなのに安心してか、俺はついうかつなことを口走ってしまった。

 

「そんなことないのです、電は1センチ背が伸びたのです。あなたの眼は節穴なのですか」

 

 俺の失言を聞き咎めた電にさっそく詰め寄られた、でもそれくらいは誤差じゃないのかなぁ……

 

「私のお洋服だって新しくなったんですよ、ほら見てください! 裾に残ってたお醤油のシミ跡だってすっかり真っ白になったんですから!」

 

 醤油のシミはともかく、五月雨も服装そのものはまったく変わらないように見えるなぁ。俺がまだ納得してないと見たか、五月雨はスカートの裾をたくし上げながら迫ってきた。うむ、たしかに先入観はよくないな。ここは五月雨の言う通り、じっくり見て確かめてあげなくてはな。わぁ…… 確かに真っ白だぁ……!

 

 チャーララチャーラララー♪

 

 俺たちがそんなバカみたいな押し問答をしていたところ、なんだかどこかのバーガーチェーンで聞いたようなBGMが鳴り響き、今度は真ん中のカプセルがゆっくり開き始めていた。あれは、漣が入ったカプセルだな。

 

「漣ちゃん、無事なのですか!?」

「聞いて漣ちゃん! カズヒラさんったらひどいんだよ、私も改装されてきれいになったのに、ちっとも気づいてくれな…… い、の……?」

 

 五月雨の愚痴は後半から途切れ途切れて、最後にはほへぇぇぇとかいう間の抜けた溜息に変わった。そうなるのも無理もなかろう、俺だって驚いた。大あくびとともにカプセルから出てきた漣は、先に出てきた二人とは異なり、すっかり見違えた姿に変わっていた。

 

「ふぁぁ…… あれ、さみちゃんに電ちゃん、なんか縮みました?」

「これでも1センチ伸びたのです! それにしても漣ちゃん、ずいぶん成長したのですね……」

「脚、ながーぃ…… 背も抜かされちゃったぁ」

 

 これまでの漣は、たしか身長なら三位タイくらいだったはずだ。吹雪が一番高くて、次いで五月雨、叢雲と漣がドングリの背比べ、一番低いのが電だった。そのはずが、改装された漣は吹雪以上に背丈が伸びていた。これまではみんな中学生くらいだったのに、今の漣は高校生ほどにも見えた。高校といえば、制服もいろいろ変わってるなぁ。セーラー夏服という基本は変わらないが、エプロンだとかソックスだとか、妙に装飾的なパーツが増えたようだ。

 

 みんなに成長を指摘されて洗面台に新しい自分の姿を確かめに行った漣は、戻るなりハジメさんの前にひざまずいて深々と頭を下げた。

 

「ありがとうございます、ありがとうございます……! ニュー漣ちゃん超絶美少女じゃないですか、そのうえおっぱいまで増量してますし。こんなに立派に育ててくれて、どこからお礼すればいいやら」

 

 足でも舐めそうな勢いの五体投地で感謝する漣を、先の二人はやや引き気味に眺めていた。

 

「なんか腹立つのです?」

「まあ、漣ちゃんが喜んでるならいいんじゃないかな」

『さて、これにておさんかたのかいそうはぶじかんりょういたしました。みなさんはこれより、それぞれさざなみかい、いなずまかい、さみだれかいとなります。まあ、それもとうろくじょうのことですから、なのりはこれまでどおりのかんめいでかまわないでしょう。ぶじのさいしんすい、われらこうしょういんいちどうこころよりおいわいもうしあげます』

 

 ハジメさんが一礼したところで、俺は口を挟んだ。

 

「ところで、吹雪と叢雲はいったいどうなってるんだ? 皆よりも大幅な改装を要する叢雲に時間がかかるのはわからなくもないが、吹雪まで遅れているのはどういうことなんだ」

 

 ハジメさんは、その質問を待っていたとでも言いたげな得意顔で答えた。

 

「とくいちがた…… いわゆるきょうぎのふぶきがたは、わたしどもがさいしょにつくったぎそうです。しかも、ふぶきさんのすたんだーどたいぷ、むらくもさんのあどばんすどたいぷと、こんせぷとのちがいからたかくてきなふぃーどばっくをえることができました。それゆえに、このおふたりにはさらなるかいそうぷらんをごよういできたのです。つまりはだいにじだいきぼかいそう、ふぶきかいに、およびむらくもかいにです」

「カイニー?」

 

 漣は分かってないようで変なアクセントで聞き返していたが、なるほど改二か。先に改になった三人よりも、もう一段さらに強化されているのだろうな。いったいどんな成長を見せてくれるのか?

 

 

 

「それにしても、お腹すきましたねぇ」

 

 押し問答がなんとなくうやむやになって、まだ目覚めない吹雪と叢雲が出てくるのを皆で待っていたところ、不意に五月雨のお腹が可愛く鳴った。腹の虫までカワイイとはまったく罪な子だよ。しかし、あらためてそう言われて思い出したが、本当なら今夜はステーキで祝勝会の予定だったんだ。それが、夕刻に皆が帰還するなり叢雲が倒れて大騒ぎになり、気がつけば晩飯抜きのままもう真夜中近い時刻になってしまっていた。

 

「そうだなぁ、祝勝会のステーキは明日に回すか。祝勝会とみんなの改装記念を併せてやることにしよう」

「美味しいものはみんな揃って食べたいですもんね。だからカズヒラさん、明日はお寿司もやりましょう」

 

 君、隙あらば寿司を欲しがるなぁ。こないだやった素人寿司、そんなに気に入ってくれたのだろうか?

 

「へっへっへ、でもカズ様がいいものを持ってきてくれたじゃあないですか。せっかくだから漣はこの赤いかぷ麺を選びますぞ」

 

 漣が勝手にダンボールを漁って、早くもきつねうどんのフタをベリベリ剥がしはじめていた。お前人のモノを…… と言っても、どうやら改装完了まで長時間待機の心配はいらなくなったみたいだからな。お夜食にみんなで食っちまおうか。

 

「わぁい、じゃあ私はこのお蕎麦にしようっと」

 

 五月雨は緑色のやつか、なぜだかギターが弾きたくなるな。まあそんな話は置いておこう。俺たちだけでカップ麺食うってのもなんだからな、今日も頑張ってくれた妖精さんたちの飯のことも考えてあげなくては。

 

「そうだハジメさん、まだ飯食ってない妖精さんたちを呼んできてくれないか? どうやら今夜はもう飯を作っている時間がなさそうだからな、すまないがみんな揃ってカップ麺だ」

「ミラーさん? いくら地下に籠るつもりだったからといって、そんな栄養の乏しい食べ物ばかり持ちこんで…… まぁ、事態が事態ですから今夜だけ特別なのですよ」

 

 お小言を並べながらも、自分だってちゃっかり良さげなものを確保してるじゃないか。電が選んだのはスタンダードなカレーのヌードルだな。あれ麺を食べ終わった後、残りスープにご飯とチーズ入れるのもガッツリジャンクで好きなんだよなぁ、一足先に取られてしまったか。

 

 妖精さんたちにはラーメンみたいな汁物のカップ麺は食べにくそうなので、なぜかあったクソデカカップ焼きそばを作ってあげた。これどういう目的で作られたか知らないが、どう見てもレギュラー品四つ分くらいあるんだよな。以前ハンバーガーを作ってあげた時にはフレンチフライ登山で油テカテカになっていた妖精さんたちであったが、今回はカップ焼きそば海水浴でソースベタベタになっていた。

 

 妖精さんの分を作ってあげていた分だけ自分のが遅くなって、ようやく俺がシーフードなやつをすすっていた頃、やっと吹雪のカプセルが開き始めた。

 

「カイニー改装おめでとうございますぞ、ところで吹雪ちゃんはどれ食べます?」

 

 カプセルから出るなりぞんざいな祝いの言葉とともにカップ麺の入ったダンボールを突きつけられて、吹雪は状況も分からないまま目を白黒させていた。

 

「えっと、じゃあ私はこのお味噌のやつ…… いやそれどころじゃないよ、カズさん、叢雲ちゃんは!?」

 

 叢雲は重篤な損傷を受けてたうえに二段階改装だから、吹雪よりもまだ時間がかかってもおかしくないな。ただ、ハジメさんが大丈夫と言うなら大丈夫だと思うぞ。

 

「ほぇ~、吹雪ちゃんもだいぶんデカくなりましたなぁ。漣もだいぶ伸びたはずなんだけど、結局追い越せませんでしたか」

「いいなぁ、漣ちゃんすっごいハデハデになってる…… 脚もまつ毛も長いし髪だってフワフワだぁ」

「言うに事欠いてハデハデとはなんですか、そこはガーリーって言ってほしいですぞ。 ……ウフフ、吹雪ちゃん背は伸びてもこっちは据え置きだったんですな」

「あっ、ちょ、ちょっと! ダメだよ漣ちゃん、カズさんが見てるからッ……!」

「ほら見てください。漣は改止まりでもなかなか装甲増加してますぞ、ちょっと触ってみません?」

 

 改装によりだいぶん姿の変わった吹雪と漣は、みんな見てるのに互いにあちこちベタベタ触りあっていた、なんか妙な空気だ。俺から見ると、改装後の吹雪は基本は元のまま上に伸びたって第一印象だな。素朴なJCがそのまま地元の高校に進んだという感じで、制服はセーラー襟やスカートが黒に変わっていた。

 

 

 それから吹雪も味噌ラーメンを食べ終えた頃。カップ焼きそばの海でソース味になっていた妖精さんたちには湯を張ったタライを用意して行水をしてもらっていたのだが、上がってきた鶴姫さまが叢雲のカプセルを見て難しい顔をしていた。

 

『ふぅむ、たのものはすでにみなめざめたというに、むらくもどのはまこといぎたないことじゃのう。めをさまさすにはもうひとおしがいるかの』

 

 すかさず姫さまの副官ちゃんがスルスルと近づいて大幣を差し出した。姫さまはサッサッと軽やかに幣を振ると、先日の祝詞と同じように何事か呪文のようなものを唱えた。

 

『なかきよのとおのねぶりのみなめざめなみのりぶねのおとのよきかな』

 

 なんのことかと考えていたら、それを知っていたらしい電が俺にそっと耳打ちしてくれた。

 

(あれは、ずっと昔からある和歌で、回文になっているのです。よい初夢が見られるという縁起物なのですよ)

 

 それに今どういう意味があるのかと訊き返そうとしたところで、幣を捧げ持つ姫様が別の歌を詠んだ。

 

『むらくもとなみにこそなはつたはらはたつはなそこにみなともくらむ』

 

 そう唱えて今度は力強く幣を振ると、叢雲のカプセルが少しずつ開き始めた。

 

『みなのものよ、いざうたいおどれ! われらがあらたなるみこのめざめをことほぐのじゃ』

 

 いつのまにかカプセルの前に集まってきた三島水軍の踊り子たちが、整然と並んで唄い踊り始めた。

 

『『♪こんぴらふねふねおいてにほかけてしゅらしゅしゅしゅ、まわればしこくはさんしゅうなかのごおりぞうずさんこんぴらだいごんげん、いちどまわれば』』

 

 なんだこれ、香川の民謡『金毘羅船々』じゃないか。叢雲が生まれ変わって眠りから目覚める神事というのなら、もっとスタイリッシュでノムリッシュな荘厳な曲を流しそうなものなのに、俺の眼前では今まさにお座敷遊びめいた、陽気でにぎやかでちょっと間の抜けた歌を歌っていた。

 

『ほれ、ぬしさま! おとじゃ、おとをださぬか!』

 

 鶴姫さまが幣を俺に突きつけると、気がつけば家具妖精さんたちが俺のギターを運びこんできた。エッ、アタシッ!? ヒ、ヒケルケドッ

 

『『♪ぞうずのおやまのおふだをかかげりゃしゅらしゅしゅしゅ、さかまくどとうもいつしかしずまりへさきにはためくたいりょうばた、いちどまわれば』』

 

 これは実際お座敷の芸者遊びとかでも唄われる曲だからな、盛り場でギターを弾いて小遣いにしてた俺だってこの曲は知ってる。しかしなんなのこの状況、叢雲が倒れて命すら危ぶまれた時の悲壮感なんて、いまやもうどこにも残ってないぞ……?

 

「わぁ、なにこれぇ!?」

 

 すっとんきょうな悲鳴は吹雪だった。半分開いたハッチの中から、桜の花びらがどっさりとこぼれ出てきたのだ。妖精たちは面白がって花びらをすくってはあたりに振りまき、踊り子はますます熱を入れて唄い踊っていた。あまりのことに子供たちは呆然と立ちつくしていたが、いち早く気を取り直した俺はギターなど放り出してカプセルに駆け寄った。しかし、その中身は花弁に埋もれていて、人が入っているかどうかすら見えやしない。俺はためらわず中に手を突っこんで、桜の花弁をかき分けかき分け、叢雲の姿を探そうとした。

 

「あ痛てて、一体なんだこれは!?」

 

 なにか尖ったものにでも触れたのか、いきなり左手に鋭い痛みを感じた。だが今そんなことはどうでもいい! たいして大きくもない、たかが人ひとり入れる程度のカプセルだ。花弁に埋もれて誰かが寝かされているのはすぐわかった、俺は彼女を助け起こした。

 

「ペッペッ、なんなのよこの花は」

 

 いつもの叢雲の声だ。口中にまで花びらが入りこんだのか、眉をしかめて吐き捨てていた。

 

「叢雲、無事なのか! よかった、心配したんだぞ」

 

 俺は人目も構わず叢雲を抱きしめていた、本当に心配させやがって!

 

「……ただいま、カズ。今度こそ、無事に帰ってきたわよ。ありがと」

 

 叢雲の表情は見えなかったが、彼女は俺の背を優しく撫でながら耳元で囁いた。

 

「いやマジで心配かけられたな。まったくおまえは目を離すと無茶ばかりする、昔それでナオミ先生にも叱られたのを忘れたか?」

 

 俺は声にちょっとだけドスを効かせてそのまま叢雲を持ち上げた。叢雲は拘束から逃れようと手脚をバタつかせたが、もちろん簡単には逃さん。

 

「おぉー、これは久々にお尻ペンペンですな」

 

 漣の言うとおり、昔ナオミ先生がそうやって叢雲の無茶を叱った話は俺がここに来た初日に聞いたっけな。いっそ同じようにしてやってもいいくらいかもしれんが、まあ俺みたいなおっさんが年頃の女の子にお尻ペンペンはちょっと問題がありすぎるな。

 

「俺も無茶を罰したいのはやまやまだがな、かといってあの時叢雲がそうしていなければ、今ここに皆が無事に揃ってはいられなかったかもしれなかった。そもそも出撃の責任は司令官たる俺が負うべきものだから、俺から叢雲を叱りはしても懲罰を加えることはしない」

「じゃあ、ミラーさんにお尻ペンペンなのです?」

 

 それは夢のある話だ。いやそうじゃねぇって!

 

「まあなんだ、俺だけでなくここにいるみんなだって心配かけられたのは一緒だからな。心配かけたことに対して詫びの一言くらいあるだろう? ほれ」

 

 俺は皆の前に叢雲を下ろしてやった。やっぱりこの子も少し背が伸びたかな、漣や吹雪ほどではないようだが。叢雲は、居並ぶ皆を一度見回すと、少し言葉を選びながら話し始めた。

 

「えー、っと…… まずはみんな、心配かけてごめんなさい。勝つにしてもあんなやり方しか思いつかなかったのは、ひとえに私の未熟ゆえのことだわ」

 

 ここまでで一度言葉を止めて、叢雲は深々と頭を下げた。

 

「でも、みんなのおかげでこうして成長した身体を得て、これからはきっともっと上手くやっていける。だから、みんなこれからも私に力を貸してちょうだい。必ずやみんな揃って日本に帰るのよ!」

 

 力強く宣言するとともに拳を高く突き上げた叢雲に、皆の拍手と歓声が浴びせられた。叢雲は皆が静まるまでしばらく待つと、神妙な顔で言葉を継いだ。

 

「……改装がうまくいかなかった電と五月雨については残念だったけど、それでもあなたたち二人の能力と頭脳は私たちになくてはならないものよ。だから決して気を落とさず、次の機会を待ちまs」

「ちゃんと改装できてるんだってばぁー!」

「1センチ伸びたのですぅーーーー!!!!」

 

 改装してもほぼ見た目が変わらなかった二人の悲痛な絶叫が地下にこだまして、叢雲の演説はそこでお開きとなった。

 




 グラサン提督第四十話をお送りしました。この作品、最初の頃は一話当たり20kb弱程度の分量で書いてたんですが、話が進むにつれて一話当たりの分量がどんどん長くなり、近頃では一話を30kb前後に収めよう、と心がけてはいたんです。
 でも今回の話もなんだか長くなって40kbに届きそうなくらいになってしまったので、ここでいったん区切らせていただきます。このお話の続きはまた次回にて。

 世間じゃ吹雪改三フィーバーもそろそろ静まったころだというのに、今更吹雪や叢雲が改二になる話を書いている、ワイいったいいつの時代の人間なんだ!?


 大事なことを書き忘れてました。今回本文中で引用した『金毘羅船々』の歌詞は、著作権消滅済みの民謡から引用しております。あしからずご了承ください。
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