グラサン提督   作:カレー味

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第四十二話 ほぼ北西に進路を取れ

 まず、水軍との演習も数えればこのところ半月間にもわたる懸案だった、泊地南海域における潜水艦群の討伐。さらには、新能力を使い過ぎた叢雲の昏睡からみんなも含めた大規模改装。それに加えて、ハジメさんの悪戯によって俺と叢雲は成長上限の突破という名目でケッコンまでさせられてしまった。かようにどでかい問題をいくつも片付けた昨日までの俺たちであったが、一夜明けて今日は燃え尽き気味にダラダラ過ごしていた。いや問題片付いてなんかないぞ、どうしようこのケッコン指輪…… 俺本当に家族のもとに帰れるのだろうか、帰れたとして無事にいられるのかなぁ!?

 

 そんな俺個人の切実な事情はさておいて、わが泊地を巡る状況の変化はいつまでも俺たちにぐうたらを許さなかった。今度は、かねてより島周辺を広範囲に戦略偵察を続けていた彩雲隊が、我々のもとに新しい重要情報を伝えにきたんだ。それは、この島を中心として、他の島々までかなり広範囲を網羅した新しい海図だった。

 

「そうだ! この島の並び、たしかマーシャル諸島ですぞ。間違いないです!」

 

 漣がポンと掌を打った拍子に、俺の脳内でも古い記憶が繋がった。

 

「それ確かなの漣ちゃん、もしかして昔こっちに来たことがあったとか?」

 

 この泊地で海図の作成と管理を引き受けてきた五月雨が、漣の記憶からより詳細な手掛かりを聞き出そうとしていた。

 

「あれはたしか昭和18年秋のことだったんですけどー、漣はその頃トラック泊地を拠点に動いてたんっすよ。それで、陸の兵隊さん連れてきた那珂さんや五十鈴さん達がマーシャル諸島に向かうのを途中まで護衛したことがありました。そん時に一応目的地までの海図は頭に叩きこんでありましたので、たぶん間違いないはずです」

「たしか丁四号輸送作戦、なのでしたか? でも、漣ちゃん自身がここいらまで来たってわけじゃないのですね」

 

 電が念を押すようにたずねた。

 

「そうですね。けど、那珂さんたちが向かうって聞いた島はよく憶えてます。ほらこの島、クェゼリン島っていうんですぞ」

 

 漣が指さしたのは、海図に並ぶ多くの環礁の中でもひときわ大きなもので、への字が右に傾いたような形をしていた。

 

「俺も思い出したことがあるから補足させてもらうが、漣の記憶は確かだ。現代でもクェゼリン島は重要な軍事拠点でな、ミサイルの実験や宇宙衛星の監視などを行っていたはずだ。まあ、俺も来たことはなかったんだけどな」

「来たことないわりに詳しいじゃないの。どうしてこんな遠洋の基地のことを?」

 

 現代の軍人だった俺の横槍を、太平洋戦争当時までの情勢しか知らない叢雲が不審がるのは別におかしなことではない。だが、俺が訪れたこともないマーシャル諸島について知っているのには他にわけがあった。

 

「俺がマーシャル諸島について最初に知ったのは米軍時代のことじゃない。もっと昔、自衛隊時代と傭兵時代のことだ」

 

 自衛隊時代には、クェゼリン島での戦いについて教わった。太平洋戦争中のマーシャル諸島における日米間の戦いでは、米側はそのクェゼリン島の他にも拠点とする必要のある島だけを攻め落とし、重要度の低い島はあえて無視して素通りする飛び石作戦を用いた。すでに米側が制空権と制海権を握っていた以上、戦略的価値の低い島に押しこめられたまま打って出ることもできない日本軍をわざわざ相手にする必要がなかったからだ。

 

 そんな話をしてやったら、日本軍側であった皆はやはり渋い顔をしていた。特に、当時の輸送にいくらか関わった漣などは兵の無駄遣いですぞといたく憤慨していた。しかし、守る日本側としては、たとえ戦略的価値が低かろうとただ島を空けておくわけにもいかなかった事情があったのだろう。

 

「そういった放置された島々の日本兵は、劣悪な環境下でろくな補給もないままに、米軍よりも餓えや病気を相手に闘うほうが深刻な問題だった。それに比べりゃ、今の俺達は妖精さんのおかげで餓え渇きや病気とは無縁だ。まったく妖精さん様々だな」

 

 ハジメさんがドヤ顔で胸を張っていたので頭を撫でであげた。今日もかわいいぜ。

 

「クェゼリン島よりも、むしろ俺にとって印象深いのはこっちの島だな。ビキニ環礁だ」

 

 俺はこの島から見てずっと西北西、テーブルに投げ出したネックレスのような形の環礁を指さして示した。

 

「ビキニ鑑賞!? カズ様、見たいんですか!? もしかして漣のビキニを?」

 

 漣がまた妙なこと言い出した…… ビキニなんて呼ばれる水着が出てくる頃には漣含めみんな戦没していたはずなんだが、なんでこいつはこんなに世情に詳しいんだろう?

 

「漣は水着の話をしてるようだが、まさにその名の由来となった事件(クロスロード作戦)がこのビキニ環礁で起こった。1946年7月のことだな」

 

 MSFが核武装に踏み切る前後、俺たちは核兵器について当時ある限りの文献をあたって知見をかき集めた。総兵力わずか300人の傭兵派遣業、所詮は一介の私設軍隊に過ぎない俺たちが核兵器を手にしたんだ。それを安全に維持して、場合によっては実用せざるを得ない場合まで含めた運用ノウハウをなんとか手に入れようとしていた。

 

「日本の都市に核爆弾を二発落としたアメリカは、続いて海上艦に対する核爆弾の効果を調べる実験をそこで行った。標的として集められたのは、第二次世界大戦の終結によって不要となった艦艇の数々だった。大半は米海軍自前の老朽艦、余剰艦だったが、一部には敗戦国から接収した艦艇が含まれていた。戦艦長門もその一つだ。長門は、今もこのビキニ環礁に沈んでいると聞く」

 

 皆はなんだか神妙な顔をして目をつむっていた、まるで黙祷を捧げているようだった。戦後生まれの俺には実感がないのだが、長門は帝国海軍にとって象徴的な艦だ。その最期については皆思うところがあるのだろう。

 

「お参りに、行ってみたいですね……」

 

 五月雨がポツリとつぶやいて、しばらくは皆お通夜のように静かになった。

 

 

 ここがマーシャル諸島のどこかだとわかったことで、なにやら手がかりに心当たりのあるらしい吹雪と電がおもむろに席を立った。吹雪はこのロビーから近い本棟のガラクタ部屋に行ったようで、すぐに地球儀を抱えて戻ってきた。

 

「ほら、これ見てください! もしかしたら、この島も載ってるんじゃないでしょうか!?」

 

 吹雪は得意げな顔をしていたが、手元の海図と見比べて見た限りでは、地球儀の上にはこの島は見当たらなかった。海図上のほかの島々との位置関係を地球儀に当てはめてみると、ちょうどこの島があるはずのあたりは、残念ながら「マーシャル諸島」の表記に隠れてしまっていた。

 

「なぁんだ、ガッカリです……」

 

 ショボンとした吹雪を慰めるようにハジメさんがポンと肩を叩くと、地球儀上のこの島があるあたりにお手製の小さな小さな旗を立ててくれた。スタート地点をこの島として、太平洋をほぼ北西に真っ直ぐ進めば日本、東京湾あたりに着けるだろう。直線距離にして何kmくらいあるのだろうな? 決して短い旅ではないだろうが、それでもゴールがはっきり見えた気がした。

 

「ところで、うちらがいよいよ日本に向かう時はどういう航路を取るべきですかねぇ? やっぱ最短距離?」

 

 漣はそう問いかけながら、地球儀上を指先で旗から日本まで真っ直ぐになぞって示した。

 

「それはちょっと厳しいんじゃないかしら? 地球儀の縮尺から見て、ここから日本まではおよそ4000kmあまり。そのルートは途中にほとんど陸地がないのよ、休みなしで日本までたどり着けるかしら?」

 

 叢雲の反論に漣がむうと唸って眉を寄せたところで、電もロビーに戻ってきた。

 

「なんのお話なのです?」

 

 ゴールが見えたところでルートについて意見を戦わせていたと教えると、電は持っていた冊子をテーブルに置いて皆と同じように地球儀を睨んだ。

 

「俺の意見としては、ミクロネシアの赤道近くを西に進むのはどうだろうか? 島が多いから休息も取りやすいし、もし強敵と出くわしたとしても撒きやすくないか」

 

 電は難しい顔をしながら地球儀の赤道をなぞって俺に示した。

 

「安全策としては悪くないと思うのですが、ちょっとこれを見てほしいのです。この地球儀には大雑把な海流も書きこまれているでしょう? 赤道近くまで南下しすぎると、西から東へ流れる赤道反流に捕まってしまうのです。それでは時間もかかるし燃料も余計に食ってしまうのです、中途での補給が期待できない状況ではあまり薦められないルートと思うのです」

 

 そうか、海流か…… 海流に逆らって進むというのは、例えるなら下りのエスカレーターを走って登ろうとするようなものだろうか。

 

「じゃあこうですか、マーシャル諸島の北側を通過して北赤道海流に乗って西へ向かう。そうするとやがてマリアナ諸島に突き当たりますから、そこから島伝いに北上すれば日本に行けますよ」

 

 五月雨の意見にはうなずく子が多かった。厳しくなるであろう旅の後半戦に、休息の取りやすい島が多くあるルートなのもありがたい。

 

「ただ、やはりどうしても途中で補給を確保したいところだな…… 例えばだな、五月雨の提案したルートをたどった場合、マーシャル諸島西のエニウェトク環礁からマリアナ諸島までの間には、それでも2000kmほどは島のない区間が続く。まずはあらかじめエニウェトク環礁のどこかに物資集積地を作っておいて、そこで補給ができるようにしたい」

「なるほど、輸送作戦なのですね?」

「そうだ。できることなら2000kmを越えた先のマリアナ諸島にも予備を含めた複数の集積地を用意したいんだが、さすがに難しいか?」

 

 エニウェトク環礁だって結構遠いのに、そこからさらに2000km先に何度も往復する、かなり困難な旅だろう。それができるくらいなら、もうそのまま日本まで行けそうかもしれない。

 

「ドラム缶に物資を詰めて担いで行くとか……」

「装備が持てない分、戦力が落ちてしまいますぞ」

「それでも強行するなら、やっぱり誰かがドラム缶ガン積みで輸送艦役を務めて、他のみんなで護衛しながら行くのです?」

「その役を務めるとしたら、やっぱり私かなぁ……?」

 

 五月雨は困惑顔で首を傾げていたが、意外と悪くないかもしれないと俺は思う。五月雨は、この五人のうちで射撃と雷撃が一番下手なのだ。ただし、その代わりなのかなんなのか、ことCQCにおいては創始者たるザ・ボスから一本取ったことすらあると聞く達人だ。俺は五月雨の悩まし気な横顔を見つめながらつい想像してしまった。チェーンで繋いだドラム缶を振り回し、並み居る怪物どもを薙ぎ倒して進む五月雨の勇姿を。五月雨一番乗り!

 

 ふと妄想から覚めると五月雨が俺を見返して目をぱちくりさせていた。いかんいかん、五月雨なら何時間でもみつめてナイトしていられる自信があるが、今は真面目に考えなくてはならない時だ。俺はわざとらしい咳払いをして、皆の注意が集まったところで言葉を続けた。

 

「あー、俺が複数の物資集積地を作る提案をしたのはだな、そもそも守備兵のいない物資を置いておいても、簡単に敵に荒らされてしまうのではないかと考えたんだ。そこで複数を隠しておけば、どれかは無事残るんじゃないかってな」

「苦労の割に非効率すぎるわね」

 

 叢雲が腕組みしてフンと鼻を鳴らした。

 

「おっしゃる通りだな、ちょっとマヌケな考えだった。だからもう一つの提案だ、航空支援ならどうだ」

『ほほう、なかなかにきょうみぶかいはなしじゃないか』

 航空支援と聞きつけるや否や、天さんはじめ基地航空隊の艦載機妖精たちがあからさまに目を輝かせた。

 

「俺たちMSFではな、戦地に赴く隊員のためにダンボール支援というシステムを運用していた。ダンボール箱に詰めたさまざまな支援物資を、ヘリからパラシュートで直接投下するんだ。これにより、少数の隊員だけで派遣された部隊でも、長期間戦場で戦い続けられるほどの継戦能力を担保できた」

「どんなものでも送れるのです?」

 

 そうだな、武器弾薬や食糧のような小物はもちろん、後年のDD時代ともなると車両だって送ることができた。そう聞かせると、皆は感心した様子だった。

 

「自動車が入るなんて、すごく大きなダンボールですね!?」

 

 いつも通りに残念なことに、吹雪の驚きは論点がズレていた。実際のところはさすがに車両は裸で送ってたんだが、それでも俺は吹雪を笑うことはできなかった。本当にそんなダンボールがあったなら、きっとスネークの奴が別荘にしたがったであろうことは明白だったからだ。

 

「ところで、電はさっきなにを取りに行ったんだ?」

 

 ダンボールから話題を逸らしたくて、俺は電に水を向けてみた。

 

「チャートを取ってきたのです」

「そんなものがあったんですか?」

 

 電が持ってきた冊子を五月雨が食いつきそうな目で見つめていた。チャートというのは海図の一種で、航行に必要な案内がいろいろ書きこまれているものだ。五月雨が三年かけて作ってきた海図も同様のものと言っていいだろう。

 

「……こ、これがあるともっと早くにわかっていたなら! 今までの私たちの苦労っていったいなんだったんですか?」

 

 大きな眼を皿のようにしてチャートを読み漁りながら五月雨が嘆いた。

 

「このチャートは、博士がいなくなった日に開いた研究室の開かずの扉、その中の書庫で見つけたのです。ただ、今日の今日までここがどこなのかすらわかっていなかったのだから、活用できなくても仕方ないのです」

「そうよ。それに、このチャートにだってあの化け物どもの縄張りを避けて通れる航路なんて載ってるわけがないわ。五月雨、あんたの努力は決して無駄じゃなかったのよ」

 

 叢雲たちになだめられた五月雨がようやく顔を上げたところで、五月雨に続いてパラパラと冊子をめくっていた漣が目的のページを見つけたようだった。

 

「さぁて、この島はこの辺のページに載ってるはずです。いったいなんて名前なんでしょうね? ……あり?」

 

 疑問符を浮かべた漣の横から冊子を覗きこんだ五月雨が、妙な声を上げた。

 

「変ですね、島の配置がおかしいです」

 

 ページを指差す五月雨の指先を追うと、航空隊が作ってきてくれた海図とチャートの冊子には少しだけ相違点があった。俺たちの暮らすこの島は、チャートの方には存在していない。

 

「えっと、この私たちの島からすぐ西にある島が、先日の対三島水軍演習でも訪れた島ですよね。そこが、チャートに示されたところのメジット島のはずです」

 

 島同士の位置関係を考えると、五月雨の言う通りで間違いないはずだ。俺たちの島は、そのメジット島と比べて縦横とも二倍くらいの大きさがある。実在する島であれば、チャートに載っていないはずはない。

 

「この冊子の元になっているのは、見たところ英国水路部発行のBA海図なのです、海図にかけては世界的権威といっていい機関なのです。 ……つまり、電たちは海図上に存在しない島で暮らしてきた、ということになるのですか?」

『てじなーにゃ』

 

 またハジメさんのしわざかと思ったら、今度は設営隊の監督だった。でもそのポーズ、てじなーにゃじゃなくてこまわり君だぞ……?

 

 監督から聞き出した話によれば、そもそも妖精たちが海の怪物に対抗するべく拠点を構えようとしたとき、候補地として見つけ出したのがそのメジット島だった。サンゴ礁の島にしては珍しく真水を得ることができるのがその理由だったが、サンゴ礁だけあって海抜が低く、海が荒れた場合島全域に波がかぶることも予想された。そこで、思い切って近くに新たな島を造成することにしたのだという。そんな、ちょっと高い車を買うくらいの意気込みでこれだけの自然破壊を……!? まるで小規模なテラフォーミングだ。

 

「マーシャル諸島の島々ってのはみんな珊瑚礁の島だ。だからほぼギリギリ海面上に顔を出してるだけで、高波をかぶれば井戸や畑も塩水でやられたりしてしまう。それなのにこの島はここいらじゃ珍しいはずの地殻隆起でできたような小高い島だ。時化を避けられるこんな高台に住まいがあるのはありがたいが、まさかそんなカラクリだったとはなぁ」

 

 俺は首を振って感嘆するほかはなかった。

 

「ところで、ここがマーシャル諸島なら人が住んでいるんじゃないかしら? 奴ら化け物どもがうちの島に来るようになって三年、他の島々はいったいどうなってるのかしら」

 

 叢雲が眉を顰めて疑問を口にした。実のところ俺だってそこに気づいていないわけじゃなかったのだが、それを口に出すのが怖かった。奴らは世界最強のアメリカ海軍すら退けた恐ろしい怪物だ、この島の子供たちのように奴らに対抗する手段を持ち合わせない島々など、あっという間に攻め滅ぼされてしまったのではないだろうか?

 

「……行ける範囲だけでも様子を見ないわけにはいかないよね」

 

 皆の顔色を伺いながらおそるおそる切り出したのは吹雪だったが、他の皆は忸怩たる面持ちだった。

 

「吹雪ちゃんの言う通りだとは思うのです。ただ、今の電たちでどこまで行けるものかとも思うのです」

 

 現代のマーシャル諸島共和国は、アメリカの経済支援を受けながらも独立国として国連にも加盟している。首都はこの島から南に350kmほど離れたマジュロに置かれていて、そこが最大の人口密集地でもある。

 

「そんな遠くまで一日で行って来いするのは難しいですぞ、朝一にここを発って、日暮れまでに着けるかどうかってとこですな。それも、会敵がなければの話です」

 

 マーシャル諸島の現状を知りたければ首都マジュロか、米軍のいるはずのクェゼリン島を目指すべきだとは思う。ただ、どちらも俺たちの本来の目的である日本へ向かう方角からは大きく外れている。

 

「まずは近場から行ってみませんか、ここなんてどうでしょう?」

 

 五月雨が海図上で指差したのは、我々が言うところの西の小島、メジット島からさらに西、引き絞られた弓のような形の環礁だった。

 

「アイルック島……?」

 

 数十の小島が弓形に連なるアイルック環礁の南端、弓に例えるなら本弭(もとはず)にあたる位置にある島がアイルック島だ。彩雲隊が撮った航空写真を確認すると、主に環礁の内側に面した側に集落があるのが確認できた。

 

「集落だけでなく滑走路もあるな、誰かが住んでることには間違いないようだ。 ……ただ、生存者は期待できないかもしれない。それだけは覚悟しなくちゃならない」

 

 皆が息を呑んだ。

 

「わかってると思うが君たちの本質は艦だ。上陸するとなると、これまでとは大きく勝手が違うことになる。もし陸で敵と遭遇した場合、徒歩での戦闘は海の上のようには行かんだろう。まず魚雷が使えなくなるし、速やかに航行して砲撃をかわすのも難しい」

 

 ここまで告げて一度皆を見回すと、吹雪が遠慮がちに小さく手を上げていた。

 

「どうした吹雪、思うことがあるなら遠慮なく言ってみろ」

「あのカズさん…… 私たち、多少なら陸戦の経験があります」

 

 今から三年近く前、まだこの子たちがナオミ先生と一緒に暮らしていた頃のことを言っているのだろう。艤装はあっても上手く使いこなすこともできず、島まで近づいてくる化け物を追い返すために必死の水際作戦を続けていたと聞いたっけな。どんな戦い方をしていたかそれ以上は聞いてないが、そういえばこの子たちにはほかにもうってつけの師匠がいたんじゃないか? ちょっと聞いておこう。

 

「ザ・ボスから陸戦は教わったか?」

「ザ・ボスは言っていたわ。海戦と陸戦では戦場に大きな差はあっても、人間のサイズに準じた距離で戦う以上は、私たちの戦いにも陸戦に通じるところはあるって。だから、さわり程度なら訓練も受けたわよ」

 

 首を傾げて黙りこんだ吹雪に代わって叢雲が答えた。うーん、吹雪を見てると一抹の不安は否めないが、ザ・ボスの教えを受けた以上はただの素人ってこともない。俺なんかが教えるよりずっといい先生だったはずなんだからな。ここはひとつ皆を信じて行かせてみて、俺のするべきことはリスクを潰していくサポートではないだろうか?

 

「わかった、なら明日にでも行ってみようか。ただし、俺から条件をつける。まず事前に水上機隊を出して充分な偵察を行う。そしてもう一つ、もし陸上で敵を発見した場合、即座に海まで後退することとする。たとえ浅瀬でも、海まで出られたならおまえたちの全力で迎え撃てるんだからな」

 

 かくして明日はアイルック島を調査することで話はまとまり、ロビーでのダラダラは一時解散となった。気がつけばもう昼も近い時刻になっていて、今日の昼飯当番である吹雪と漣はキッチンに向かった。五月雨はロビーに残ってチャートを読み込んでいて、時折叢雲と意見を交わしあっていた。

 

「じゃあ、俺は航空隊に顔を出してくるかな」

 

 今のうちに明日のことについて水上機隊と打ち合わせをしておこう。そう考えてロビーを出ると電がついてきた、電は電で工廠に用事があるそうだ。先日預けた対物ライフルからどんな装備ができるのか、進捗を見に行くらしい。




 夏イベは乙丙丁丙丙で抜けました。現在、インディアナとヴァトールとヴィスビィがまだ掘れてません。

 今回ちょっとだけ言及した漣の丁四号輸送作戦、さっき投稿前のチェックしながら資料を見返していたら、今回のイベントで新規実装の日枝丸も参加していた作戦なんですね。ほんの偶然にすぎませんがやっぱりどこかで繋がってくるもんだなぁ、と感慨深かったり。
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