グラサン提督   作:カレー味

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グラサン提督、第六話をお届けします。
今回はちょっと問題ある内容かもしれない……
心の準備とバケツの用意をオナシャス。


第六話 セーラー服と機関銃

 誰よりもサングラスが似合うナイスガイな俺、ことベネディクト・カズヒラ・ミラーは、アラスカの隠居宅を突然謎の武装集団に襲撃された。なすすべもなく殺されてしまった、と思いきや、目覚めた時には真夏の砂浜で、俺自身も二十代の姿に若返ってしまっていた。

 

 そこで邂逅したのは、なんだかエキセントリックな五人の少女たちと、二十年も前に死んだはずの元戦友、ストレンジラブ博士だった。世界を脅かす危機に立ち向かうため、日本への帰国を目指すという少女たちに流れで協力することになった俺は、いつもの口八丁でとりあえずの飯と寝床を確保することに成功したのだった。

 

 

 

「何はともあれ、これで交渉成立、ということでいいかな? よろしくな、みんな」

 

 笑顔で一人一人と握手して回る。電はまだちょっとむくれた顔だったので、握手した手をわざとらしくブンブン振ってやった。スマイル、スマイルだぞ。ムカつく時ほど、ふてぶてしく笑ってみせるんだ。だから舌打ちするのはやめなさい。

 

「ところで、君たちが立ち向かおうとしている世界の危機ってのはいったいどんな相手なんだ? 説明してくれないか」

 

 君らはザ・ボス仕込みのCQCが得意だそうだが、まさか徒手空拳で戦える相手じゃないんだろう?

 

「吹雪ちゃん、下の棚からアレを。 ……それでは、こちらの映像をごらんください」

 

 吹雪がオフィス棚から引っ張り出したプロジェクターを白壁に向け、漣がスマートフォンをセットして操作する。ピントを合わせて壁に映し出されたのは、サイズが合わずぱっつんぱっつんの、多分色から見て吹雪のものだと思われたが、セーラー服を着こんだザ・ボスの姿だった…… うわキツ。

 

 

『ちょっと、何を撮っているの! カメラを止めなさい漣!』

『そんなこと言われましてもー、戦術検証のために漣たちの装備を評価したいからちょっと貸せって言ったのも、漣に記録を撮れって命じたのもボス自身ですよ?』

 

 

 無慈悲にも再生を開始された映像の中で、ボスは必死でスカートの裾を押さえていた。身頃だけではなく当然着丈も足りておらず、上は鍛え上げられたシックスパックが全開してるし、下も見えてはいけないCER〇レーティングが上がるサムシングがワカメちゃん寸前である。俺はソファから滑り落ちて尻餅をついた姿勢のまま、心の終末時計の針が破滅に向かってグングン進んでいくのを感じていたが、ストレンジラブは拳を握りしめて立ち上がり、目を輝かせて食い入るようにこの衝撃映像を見つめていた。すまない、変態は帰ってくれないか!

 

 

『だって、まさかこの服まで着ないと艤装が起動しないだなんて思わないでしょう!? とにかく一度着替えるから、こらっ!』

 

 

 ボスがダッシュでカメラに急接近し、漣の短い悲鳴に続いて画面が暗転すると再生は終了した。お通夜のごとき沈痛な雰囲気がロビーに流れる。フレディ・マーキュリーばりのガッツポーズを決めてるストレンジラブ以外にだが。

 

「えー…… なんと言いますか、そのぅ、見せたい映像を間違えてしまいました。てへぺろ」

「よりにもよって、なんてものをカズに見せてくれてるのよ…… もう、ボスに合わせる顔がないわ」

「叢雲ちゃんこそ、さっきこのスマホを検閲してたんダルルォ!? なんでこれは残ってるんですか!」

「だって、ボスの映像なんて他にいくらも残ってないじゃない!? いくらこんなのでも、消したくないわよぅ……」

 

 言い争う二人に、ストレンジラブが小声で耳打ちした。

 

(漣。今の動画、あとでコピーをくれないか?)

(むぅー、フォートナム&メイソンのロイヤルブレンド一缶と引き換えなら)

(ぐっ…… 足元を見てきたな。だがいいだろう、一缶だな?)

 

 叢雲が二人を張り倒した。いくらなんでも、紅茶一缶で世界を救った英雄の尊厳を売り渡すとか絶対に許されんよ。

 

 それにしてもとんだ衝撃映像だった。今ここに来ているのが、俺でなくてスネークだったらきっと死んでいたかもしれん、一目見るなり腹カッさばいて。ゼロだったらどうだろうな、俺は声しか知らんが、あいつは確実にボスキチ世界第二位、紅茶なみなみ、ジェントルマンの変態だ。もしかしたら、ストレンジラブと手を取り合って大喜びしたかもな。

 

「それでは、今度こそ正しい映像をごらんください。あ、ぽちっとなー」

 

 流れ始めた映像には、今度はボスの後ろ姿? が映っていた。映像がものすごく揺れて見づらいのだが、今度のボスは白いスニーキングスーツの上から吹雪のセーラー服を着ているようだ。下に何か着ているとわかってはいても、風に翻るプリーツスカートが目とSAN値に毒だ。ついさっきの強烈な映像が想起されて背筋が震えたが、まあアレよりは随分マイルドだ。

 

 

『本日はお日柄もよろしく、2015年7月14日カッコカリ、時刻はヒトマルマルマル。本時刻より、吹雪ちゃん型艤装の海上公試を開始します』

『記録はわたくし、みなさまの不滅の恋人、いちご畑に咲くマジ天使、綾波型9番艦の漣が務めます。それではボス、第一戦速ようそろー』

『ふざけてないでちゃんとついて来なさい! いつ敵襲があるかわからないわ、テストは駆け足で済ませるわよ』

 

 

 いちいちふざけたナレーションが入るなか、海上公試? とやらが始まった。背景から察するに、どうやらボスと漣はほとんど生身で海上を高速移動しているらしい。ボスは背中に煙突のような、またマストのようなバックパックを背負い、右手と両脚には砲塔のようなものを装備している。それから三十分くらい映像が続いたのだが、まず初めにボスはアイススケートか何かのように海上を滑り回り、波に乗って跳んで跳ねては右手の砲を撃ち、両脚からは魚雷を発射し、時には缶詰くらいのサイズの爆雷を投げた。あちこちに的が用意してあったが、俺が見取れた限り全弾命中、パーフェクトだ。タイムも驚異の速さで、これがMSFの訓練ならばSランクはほぼ間違いない。

 

 ボスのテストは五分かそこらで終わってしまい、続く映像はテストに同伴していたらしい叢雲、五月雨が同じコースを回っていたのだが、ボスに比べると二人ともまるっきり産まれたての子鹿のようだった。速度は上がらず真っ直ぐ進めず、大波がくるたびにバランスを崩し、時折転んではボスに引き起こしてもらっているありさまで、もちろん命中率はお察しだった。

 

 息を切らして海面にへたり込んだ叢雲と五月雨を映していた映像の最後のほうで、いきなり漣の真剣な叫び声が上がった。

 

 

『ボスー! 電探に感あり、東南東に距離3000』

『数は!?』

『反応三つ、うち一つはやや大きめです!』

『敵の哨戒に引っかかったかもしれないわね、今日のテストはここで中止するわ。漣、今すぐ記録を中止して、叢雲たちを連れて泊地に戻りなさい。戻ったら総員デフコン4で待機! 私は、ここから敵の迎撃に向かい、あなたたちの帰投を援護する』

『ほいさっさー!』

『復唱は正確になさい!』

『い、イエスマム! 漣はただちに叢雲、五月雨両名を連れて泊地に向かい、帰投後デフコン4で待機に入ります!』

 

 

 映像はここまでで終わった。なんというか、これはこれで衝撃映像だった。人間が海の上を走る装備、それを駆るのは伝説の英雄ザ・ボスに鍛えられた女子中学生だ。まるでジャパニメーションか何かの世界に迷いこんだ気すらする。君らは何と戦っているんだ。

 

「動画はここまでですが、この後ボスは軽巡一、駆逐二で構成された敵水雷戦隊を単艦にて撃滅、死にかけを鹵獲した駆逐艦一隻を曳航して無事帰投しました。次の映像はその姿ですぞ、ちょっちグロいから心の準備とバケツの用意をオナシャス」

 

 次の動画は、砂浜に投げ出された奇妙な生物を映し出していた。少し離れて砲を構え警戒している叢雲と比較すると、おそらく体長は3メートルくらい、額の突き出たような尖った頭と、歯を剥き出した大きな口を備えている。肌は真っ黒で金属光沢があり、横っ腹に二つ、砲弾で空いただろう大穴の周りはひび割れ裂けてめくれあがっていたりしている。半開きのままの口からは、砲身のようなものが半分突き出ていた。

 

 そこで動画を一時停止して、漣が解説を始めた。

 

「この画面で見えてるのは左舷の射出口のほうですなー。ボスがこの日の戦闘をあとで記録した戦闘詳報によりますと、軽巡を先頭に単縦陣で近づいてくる敵艦隊に対し、ボスは敵が撃ってくる前にいきなり先制攻撃をしかけました」

「敵軽巡のほうが長射程のはずだったんですが、その差を埋めるために曲射で、二発。初弾から見事命中して、まず軽巡が撃沈。普通は当たりませんぞこれ、しかも修正なしでいきなり命中キタコレ!」

「そのまま敵が浮き足立ったところに近づいて、続く二発で二隻目の駆逐も撃沈。最後の一隻は速度を上げてきまして、おそらくすれ違いからそのまま離脱を狙ったものかと思われ」

「ところで、こやつの砲は口から突き出てますゆえ、前方のわずかな角度にしか撃てないんですなー。ボスはやや左に旋回しながら敵の射線から逃れ、すれ違いざま土手っ腹に二発。距離が近かったのか砲弾が炸裂せず反対まで抜けて、それでこんな射出口ができたわけです」

 

 解説の後、再び動画の続きが流れ始め、カメラはこの生物兵器めいたサムシングの各所をズームアップしていく。射出口からは青黒い血が流れ、内側の内臓だか機械だかよくわからないぐちゃぐちゃが覗いている。オエッ、たしかにこいつはあまり直視したくない。

 

 

『吹雪! 射線に入るな!』

 

 いきなりボスの怒号が飛んで、続いてすぐ近くで轟音が響いた。

 

『こいつ、まだ生きてる!』

 

 叢雲の悲鳴が上がり、立て続けに数発の砲声。カメラが旋回して、まず砲撃で崩れた階段、そして煙の立ち上る砲を構えた叢雲と五月雨、二人の砲撃でとどめを刺された生物兵器を捉える。兵器は死んだ途端に煙を上げて全身が泡立ち、崩れ、あっという間に溶けて、血と粘液の跡だけを残して消えてしまった。

 

『吹雪ちゃん、大丈夫ー!?』

 

 叫んだ五月雨が走り出した。カメラは再び階段のほうを向き、階段を転げ落ちて顔面から着地したらしき吹雪の姿をズームインする。砂浜に突っ伏した吹雪が、白パンツ丸出しのままピースサインを出した。

 

『失敗したわね、こいつの砲を海に向けて置くべきだったわ』

『そもそも、活け〆してから持ってくるべきでしたな』

『イケジメ?』

『獲った魚を海の上で仮死状態にして血抜きするんです。生きたままより鮮度が長持ちするそうですぞ』

『じゃあ、今度は漣の夕食に獲ってきてあげるわ』

『そいつは勘弁してくだせぇ……』

 

 舌打ちしてぼやくボスの声と、漣の呑気なツッコミが入って動画は再生を終えた。

 

 

「この日、私はボスに艤装と予備の服をお貸しして、負傷で寝込んでた電ちゃんの看病のため泊地に残ってたんです」

「公試に出ていたみんなから、敵が来たから泊地に戻ると通信が入って、でもなかなか帰ってこないから様子を見に出ました。そしたら、砂浜にアレを引き揚げているのを見つけて……」

 

 恥ずかしそうに弁解する吹雪の声は、最後のほうはほとんど消え入りそうに小さかった。

 

 階段は粉々になったが、とっさに転げ落ちた吹雪にはたいした怪我はなかったそうだ。下が砂浜だったのも幸いしたらしい。ボスは、不用意に砲口に身をさらした吹雪を叱ったあと、砲を拠点に向けて置いた自らの落ち度を皆に詫びた。壊された階段は、不始末の罰として後日ボスと吹雪が直したそうだが、結局皆すすんで手伝ったから皆で作り直したようなものらしい。

 

「こいつは、私たちの間では駆逐ロ級と呼んでいるわ。駆逐艦クラスの武装と、二番目に確認されたタイプだからイロハのロ、そんな命名則で呼称しているのよ」

 

 叢雲がそう説明してくれた。

 

「それにしても、今見ると恥ずかしいわねこの映像…… 私も五月雨も、全然動けてないじゃない?」

「これを撮ったの、ボスさんがここに来てからあまり経ってない頃のことだから、今から二年近くは前のことなんです。今はもっとしっかり動けるんですよ、本当ですよ!? それは、今でも時々転んだりはしますけど、でも今はもう自分で立てるんですから!」

 

 五月雨、それは本当に大丈夫なのか。動画で醜態を見せた二人が口々に弁解する。みんな、この島で二年以上もこんな暮らしをしてきたのか。いやちょっと待て、映像のなかで漣はなんと言っていた?

 

「そういえば、記録の最初に漣が日付を読み上げてたよな? 2015年7月とかなんとか。ってことは、今は2017年になってるってことなのか!?」

 

 俺の最後の記憶から、もう十二年が過ぎてるということになる。スネークだって九年昏睡してたが、その記録をぶっちぎりで更新してしまう。それでは俺の娘、キャサリーの足取りを探すのも難しくなりそうだ。

 

 しかし、この発言には俺以外の全員が難しい顔をして、スマートフォンを示しながら漣が語り始めた。

 

「そもそも、このスマホはボスのさらに前にここにいた先生が置いていったものなんです。半田なおみ先生とおっしゃる方でしたが、なおみさんは2014年の世界からここに来たそうで、つまりさっきの映像で漣が読み上げた日付は、あくまでなおみちゃんのいたところの暦に基づくものなんですから、この島が実際に今2017年かどうかはたぶんあてにはできませんぞ」

 

 確かにそうかもしれない。俺は2005年から来たし、ストレンジラブは1983年から来たという。でも二人ともそろって1974年当時に近い姿になっているから、明らかに時間軸にズレが生じている。なおみ女史とやらが持ち込んだスマホの日付は、この島では不確かなものだろう。

 

 そこから、代わって電が話を続けた。

 

「この島の正確な暦だけではないのです、電たちはこの島がどこの海のどこにあるかすらわかっていません。電たちは、この島で産まれて、ずっとほかの土地に行ったことがないのですから」

「ボスにこの話をしたら、次の日からボスは太陽の観測を始めたのです。コンパスとお手製の四分儀を使って、日の出日の入りの方角や太陽の南中高度を毎日欠かさず観測したのです。電もお手伝いしたのです」

 

 細かい計算方法は省くが、太陽の南中高度の観測により現在地の時刻が、夏至と冬至を確定することで日付が、そして太陽の観測でもできるが、北極星の観測からは現在地の緯度が測定できる。ボスの観測記録とそれを引き継いだストレンジラブはこれらの方法で泊地の日付と時刻を修正させ、またこの島が少なくとも北緯10°から11°の範囲内にあることがわかったのだそうだ。ただ、今が西暦何年であるかと、この島の経度がいまだに特定できてないのだという。

 

「正確な年の特定はもう諦めたのです、あまり意味がないですから。いざ日本に帰り着いたときに、壇ノ浦の合戦の真っただなかに飛びこんだりさえしなければもうそれでいいのです」

 

 電が珍しく冗談を言った。えぇー、そこは安徳帝をお助け奉ってこうぜー、と漣が乗ったが、電は九郎判官さまに弓は引きたくないのです、とだけ答えて話を続けた。

 

「でも、おそらく現在2010年を過ぎていることだけは間違いないのです。去年この島に流れ着いた木箱に腐った缶詰が入っていたのですが、その製造年が09年と表示されていたのです」

 

 ああ、あの魚の缶詰ね、と言って叢雲が眉をしかめた。腐っているから中身をあけて捨てようと思ったら、缶切りを刺した瞬間缶が破裂して凄まじく臭い腐汁が吹き出したのだとか。近くにいた者は全員嘔吐したうえ、しばらく悪臭がとれず散々な思いをさせられたと叢雲はぼやいたが、それスウェーデン名物のあの缶詰だったんじゃないかな。

 

 電の推論が正しいとしたら、最低でもあの襲撃から五年以上は過ぎてしまっているということになる。キャサリー、おまえはいったいどうなってしまったのだろう。




 ワシントン条約制限下で設計された、世界中を驚愕させたクラスを超えた特型駆逐艦の一番艦、ボス雪十七歳ですっ☆(低音)

 私たちは、後の艦隊型駆逐艦のベースとなりました。はいっ、頑張ります!
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