グラサン提督   作:カレー味

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 わけあって更新が遅れ日付が変わって土曜日になってしまいましたが、第七話をお届けします。


第七話 世界地図は血の跡

 少女たちが世界を揺るがす脅威、と位置づけた謎の生物兵器、駆逐ロ級。生体でありながら、ちょっとした艦砲なみの大砲を備えている。あとで聞いた話では、魚雷発射管も持っていると言っていた。

 

 それだけではない、奴らは駆逐級のみならず、その武装から判断するに、巡洋艦・空母・戦艦などの多岐にわたる分類と、数多くの個体数が確認できているらしい。射程に勝る相手にはうかつに近づくことも難しく、漣の持つスマートフォンの小さなカメラでは、写真を撮ることすら困難だったそうだ。

 

 幸いにして、この泊地にまで近づいてくるのは現在駆逐級あるいはそれを率いる軽巡級のみにとどまっており、なんとか対処が可能となっている。

 

「奴らは少数の群れ、艦隊単位で受け持ちの海域を縄張りにしていて、近づく者に攻撃をしかける習性を持っているようなんです」

 

 そう吹雪が教えてくれた。奴らを倒さずに逃げたとしても、自分の縄張りを離れて追撃を仕掛けてくることはないらしい。もっとも、その頃にはまた別の群れの縄張りに踏み込んでいるわけだが。

 

「奴らの縄張り同士に隙間はほとんどないわ。わずかな隙間を縫って進めるような場所がまったくないというわけではないのだけど、戦闘を避けてこの海を進むのは難しいわね」

「私たちは、海図を作って戦闘の起こったポイントを記録しながら、少しずつではありますが比較的安全な航路を模索しています」

 

 叢雲の言葉に続いて、五月雨が大きな海図をテーブルに広げた。いくつもの島らしき陸地や、赤青緑などの何色かでポイントが描かれ、ポイント同士は航路らしき点線で結ばれている。

 

「海図の真ん中が私たちのいるこの島ですね。赤は比較的弱い敵の縄張りで突破しやすいルート、青は縄張り同士の隙間らしい抜け道、紫は敵はいませんが、海が荒れてて抜けにくいところです」

 

 ふと思いついて、俺は隣り合う赤点同士に点線の通ってないところを指でなぞって示し、こういう進み方はできないのかと尋ねてみた。

 

「バカね、五月雨が言ったでしょう? 突破しやすいルートだって。この点線は、つまりは強力な群れの縄張りを避けて進める道よ」

 

 叢雲が憤慨した。悪かったよマヌケな質問しちゃってさあ。それでも、なんとかインチキできんのか?

 

「何度も苦労して、さんざん痛い目にもあって、それでようやくこの道を見つけたのよ。ルートを外れるのは勧められないわね」

 

 海図には、何度も何度も描いては消しを繰り返した跡が残っていた。一度描いた赤点や点線にバツを入れているところも多い。海図の右下には、「第九版 編集責任者五月雨」と小さく書かれていた。

 

「新しい情報を得るたびに何度も描き足しをして、そのうちに見づらくなってきたら清書しなおすんです。今では、この島の近海ならかなり正確なルートが確定できてると思います」

 

 五月雨が胸を張った。ああ、俺たちもアフガンやアフリカでこういう地図作ったよなあ。道路網の地図に抜け道やらも書きこんで、敵の拠点や兵員の配置、物資集積所なんかも示した。そうやって作った地図を任務に役立てていたんだが、その基になった情報は、隊から現地に送り込んだ諜報班員たちが命がけでかき集めてくれたものだった。まさに、血で描いた地図に等しかったんだ。この子たちも、どれほど苦心してこの海図を作り上げてきたのだろうか?

 

「なあ、この大きな、赤鬼みたいなポイントはなんだ?」

「あちこちの海域に分布する群れのなかには、周辺の群れを統括しているらしい上位のグループがあるみたいなのです。そこを叩けば、一時的にでも周辺に存在する群れたちの活動を抑制することができるようです」

「そこがHQ、司令部ってことか。よくわからんな、こいつら、ただの野生動物じゃあないにしても、まるで軍隊のように統制された行動をとっているってことなのか?」

 

 電がうなずいて先を続けた。

 

「先ほどミラーさんにお見せした駆逐ロ級は、比較的海洋生物に近い姿形をしているほうでしたが、より上位の個体はもっと違う形をしているのです。駆逐級から巡洋艦・空母・戦艦級と、強力になるにつれてサイズも形状も四肢を備えた人間型に近づいていく傾向があるのですが、そういう個体が随伴を指揮するような行動をとっているのを見たのです」

「人間型か、ぞっとしない話だな。聞きたいんだが、その人間型した奴らって、まさかどこかの国の兵士だったりはしないだろうか?」

 

 俺の質問に、電は困った顔で腕を組んだ。

 

「どうなのでしょう……? そういう可能性について想像したことはなかったのです。あれは、形こそ人間に似てはいるのですが、あまりにも人間味に欠けているのです」

 

 その言葉に、俺はかつてアフガンでしてやられた、品種改良された寄生虫で体表を覆った改造兵士たちを思い出していた。でも、あいつらは見た目や能力こそ人間離れしてはいたものの、中身はたしかに人間だったんだよな。こいつらはどこから来たんだろう。

 

「そんならカズ様も一度会いに行ってみたらどうでげすかね、雰囲気はキモいけど結構美人でしたぞ?」

 

 漣が幇間みたいな口振りで話を混ぜっ返した。やだよ、俺は凡人だから海の上走ったりできないもの。漣、そんなこと言って俺にもセーラー服着せて動画撮る気でしょう? ホモ同人みたいに! ホモ同人みたいに!

 

「私の服は貸しませんからね!?」

 

 わかってるよ、だから修羅の貌すんのやめて吹雪。

 

 不意に、しばらく黙っていたストレンジラブが口を開いた。

 

「実を言うと以前な、私も吹雪に服を借りて海の上を走れないか試そうとしたことがある」

 

 おまえも着てたのかよ? まあ、ザ・ボスのアレよりはマシだろうと思うが、どちらにせよキッツイなぁ。いかがわしいお店みたいじゃないか。

 

「言っておくがいかがわしい意図はない。ただ、私も皆と同じように海を駆けてみたかった。波を飛び越え、風を切って進むのはどんな気分になるのか興味があった。私も海に出ることができれば、皆のフィールドワークの一助になるのではないかという期待もあった」

「それこそ下着以外は全部忠実に吹雪の装備で揃えたつもりだったが、私では艤装の起動すら不可能だった。無理に海に立とうとしてたら、そのまま沈んでたかもしれないな」

 

 なんでみんな私の服ばかり着たがるんですか、と吹雪が泣き言をこぼした。可哀想だが、五人のなかじゃ一応君が一番背が高いみたいだから仕方ないと思う。

 

「さっき見たとおり、ボスは吹雪艤装の起動に成功していた。適性や相性があったりするのか」

「それはあるかもしれません。私たちは、互いに装備の貸し借りくらいは問題なく行えます。服や艤装も、サイズさえ合えば起動自体は可能です。ただ、自分の艤装と同じように戦えるかと言われると……」

 

 ストレンジラブの疑問に五月雨が首をひねりながら答えた。あんた、私の艤装で走ってみて派手にすっ転んだわよね、と叢雲が意地悪く突っこみ、しっかりカメラに収めといたのに消されちゃいましたなぁー、と漣が残念そうに言った。うん、俺もそれ見たかったな。

 

「まあ、ボスが吹雪ちゃん艤装で戦えたのはボスがボスだからー、で納得するしかないですなぁ。あの人、あらゆる武器や戦術に通じてましたし」

 

 ボスの伝説がまた1ページ増えてしまったな、俺が元の時代に帰ったとしても絶対誰にも言えないけど。

 

「それにしても、まだ疑問が残る。これだけ広範囲の海域を占拠して軍事行動をとっていて、どこかの国の海軍に見つからないわけがない。たとえば米海軍なんかは、自国の領海以外にもほぼ世界中の海に展開してるんだぜ? 何をやってるんだ海軍は。いくら奴らが大砲や魚雷で武装していようとも、現代の海軍力にとても対抗できるとは思えないんだが」

 

 いきなり全員の顔が暗く沈んだ。

 

「カズ、たとえ米軍であろうとも、現代の海軍では奴らに対抗することはできないわ」

 

 悲しげにかぶりを振る叢雲の言葉のあとに、吹雪が語った体験談は衝撃的なものだった。

 

「博士がここに来てしばらく経った頃でしょうか、この島から北方の海域で、どこかの国の艦隊と奴らが衝突したらしいんです。夜間のことでしたが、水平線にいくつもの爆炎が上がるのを見ました。翌朝、戦闘があったあたりに偵察に行ったんですが、ボートや生存者は確認できず、辺りはもう油や漂流物が浮いているばかりでした。そのなかに、こんな旗があったんです」

 

 吹雪が棚から引っ張り出してきたのは、紅白縞の旗だった。きちんと洗濯はしたようだが、あちこちに油の染みや破れ、焼け焦げなんかも残っている。

 

 吹雪と叢雲の二人がかりで旗を広げて見せてくれたのだが、俺はその旗に見覚えがあった。

 

 旗は、紅白の横縞の地に、斜めに延びるガラガラ蛇の姿と、自由と権利を守る決意としての「DON'T TREAD ME」のモットーが記されていた。元をたどれば独立戦争にまで遡る、アメリカ海軍の国籍旗だ。そう教えてやったら、漣が首をかしげた。

 

「英語が書いてあったから、もしかしたらアメさんの艦じゃないかなーって予想はしてましたが…… アメリカ海軍の国籍旗といったら、青地に白い星をハチロク48個並べたやつじゃーないんです? あの、星条旗の四分の一の」

「漣は変なことを知ってるなぁ。だが、そりゃあずいぶん古い旗だ、俺が産まれた頃くらいのだな。あの星は、星条旗と一緒でアメリカの州が増えるのに合わせて数が変わるんだよ。今なら50個だ」

「まあ、ほとんどの期間では大筋で漣の言うとおりなんだが、この紅白縞の旗は期間限定で使われてるんだ。合衆国建国200年を記念して‘70年代にも一年ほど使われたし、俺がいた2005年現在でも、2002年から継続して使われてたっけな」

 

 まあそれはどうでもいいことか。問題は、奴らはアメリカ海軍の艦艇を襲って沈められるくらいの戦力を持っているってことだ。吹雪の話では、その後も数度艦艇が派遣されてきたようだが、それ以降はもう軍艦を見かけることはなくなったそうだ。すべて沈められたのか、あるいは逃げ帰ることができた艦がいたのか…… どちらにせよ、一筋縄でいける相手じゃないと理解して手を引いたのだろう、まさか精強なアメリカ海軍を退けるとはな。

 

「おそらく、あいつらには普通の人類の兵器は通用しないのです。ボスがここに来られたとき、変に短い機関銃をお持ちだったのですが、あいつらにはまったく通じなかったと仰ったのです」

「奴らに通用したと確認できているのは、今のところ私たちの持つ武装だけです。こうしている今でも、世界中の海で軍艦や民間船舶が襲われているのかもしれません。海に囲まれている日本にとっては、それは致命的な痛手になるでしょう?」

 

 電と吹雪は真剣な面持ちだった。なるほど、この技術を日本に持ち帰り、世界に広めようというのか。

 

 しかし、そんな謎の技術で作られた兵器が、なんでこんな島にあるんだ? ここの子供たちはなんでここがどこかもわからないままにこの島で暮らしている?

 

「さっき、君たちはここで生まれ育ったと言ってたな。後から来たボスやストレンジラブはともかくとしても、この島には君たちのほかにはどんな人がいたんだ?」

 

 五人の少女が扱う艤装や武器は、誰かがこの島に持ちこんだのか、あるいはここで造られたのか。彼女たち自身ではないだろう、ほかにどれだけの人間がいたのか。

 

「そうだ、ボスの前になおみ先生という人がいたんだったよな、もしかして、その人が君たちの装備の開発者か?」

 

 漣が持つスマホの元々の持ち主だった人物だ。俺より九年後の未来からここに来たのだと聞いたが、このスマホのように、俺が知らない未来からの技術を持ちこんだものなのか?

 

「なおみ先生はお医者様よ。機械にはそれなりに詳しい人だったけど、そういう武器を作ったりできる人じゃなかったわ」

「でも、先生がいてくれたからこそ、私たちは奴らと戦うことができたんです。なおみ先生がいてくれなかったら、私たちはもう生きてはいられなかったかもしれません」

 

 俺と、ストレンジラブもおそらくはその先生のことを知らない。子供たちは目を閉じて、なおみ先生との思い出を回想しているようだった。




 自分が書いてるのがメタルギア小説なのか艦これ小説なのかよくわからなくなってきてますが、今回はようやく艦これらしき話に近づいてきました。お、おかしいぞ? 当初の予定じゃカズをダシにして艦これSSを描くつもりだったのに、いつまでたってもメタルギアから離れられない。

 第七話まで進めてきてるにもかかわらず、まだ本文中では一回たりとも艦娘とか深海棲艦とかって言葉が出てないんですよ、どういうことなんやろなぁ?(すっとぼけ)

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