その邂逅は変化と波乱を呼び寄せる。
「提督、本土侵攻中の戦艦棲姫を旗艦に擁する敵水上打撃部隊、空母ヲ級 flagship を旗艦に擁する敵機動部隊の双方撃破完了しました!」
横須賀鎮守府第一艦隊旗艦大和は無線通信で、鎮守府にて後方指揮を執っていた三枝美月海軍中将に喜色を隠しきれずに作戦の成功を報告する。
「──そう!まずは被害報告と戦果確認をお願い!」
そういえばそうですね。この大和としたことが、対深海棲艦戦線での天王山とも事前から言われていたこの MI/AL 作戦を成功させた喜びから少し浮かれてしまっていてようです......お恥ずかしいことですね。
いつも那智さんも言っているではありませんか。勝って兜の緒を締めよと。
まあ、あれはお酒を飲みたいが為の口実に過ぎないような気がしないでもありませんが。
「我が艦隊の損傷は、私こと旗艦大和が中破、随伴艦は重巡利根、筑摩がそれぞれ小破と大破、軽巡川内は損傷軽微、駆逐艦時雨、夕立がそれぞれ大破、中破となっています。
また、戦果確認は艦隊の中で比較的損傷軽微である、利根と川内の二隻に向かわせています」
彼の大戦の時は空母部隊が全滅してしまったことに加え、私はまだ作戦海域に向かう途中で何もできませんでしたからね。
役に立てて嬉しい限りです。
「......ご苦労様。なら、戦果確認が終わったら駆逐艦二隻を中心に輪形陣を作って、敵潜水艦を警戒しながら母港に帰投してきて。間宮と伊良湖を用意してるから、楽しみにしててね」
「提督!ご配慮ありがとうございます!」
私も甘味は好物ですので、とても嬉しいです!
「......!?──水上電探に感有りッ!!」
今、私は母港に帰投している途中なのですが、電探設備に損害がなかった川内さんの水上電探に反応があったようです。今、無線通信で報告が来ました。
今は正直に言ってものすごくキツいので、深海棲艦側にも遠慮願いたいのですが。
「隻数と艦種の報告をッ!!」
「敵は一隻、艦種は反応の大きさからすると、空母か戦艦の模様ッ!! ねえ、どうする?夜戦する?」
......川内さん。こんな時くらい、自重してくださいよ。でも、一隻なのに戦艦?
駆逐イ級くらいなら、はぐれ深海棲艦として納得出来るのですが......。
「川内さん!零観を飛ばしてくださいッ!詳細の確認を急いでッ!!」
「了解ッ!!」
「偵察機から報告が来たよ。
......え? それ、本当? ......大和さん、妖精さんがね。
見つかった艦が深海棲艦じゃなくて、艦娘っぽいっていってるんだけど」
「......え?」
......え?
......どうして?
......今は、いつもは哨戒任務に出ている水雷戦隊の皆さんすらも、一時後退させてるはずだから大型艦どころか、すべての艦がこの海域にはいないはずなのに。
────取り敢えず、提督の指示を仰ぐべきでしょうね。
「艦隊の皆さん!今から提督に指示を仰ぎます。皆さんはその未確認艦の警戒をお願い
します!」
「了解じゃ!」
「了解です!」
「了解ッ!」
「了解っぽい!」
「了解だよ!」
......さて、どうなってしまうのでしょうか。
でもなぜか、悪い予感はしません。
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「大和! 何かあったの?」
「はい。少し、提督の指示を伺いたい事態に遭遇してしまっているのですが、よろしいでしょうか?」
「......報告をお願い」
「......実は、川内さんの電探に反応があり、不審に思ったため、偵察機に向かわせたのですが、妖精さんが言うには、深海棲艦ではなく艦娘であるようなのです」
「────それ本当?」
「ええ、信じ難いことですが」
提督はどういった指示を出されるつもりなのでしょうか。
流石に、即戦闘に突入するなんてことにはならないでしょうが、いきなり接触するなんていうことも危険すぎますしね......
遠距離から所属確認、場合によっては警告及び威嚇射撃といったところが妥当でしょうか。
「────そうね。軍共通の秘匿回線があるでしょう? まずは、それで相手方の所属確認をお願い。
まあ、ここはウチの鎮守府の担当海域なのに、海域通過の申請が通ってないから
その可能性はほぼゼロでしょうけどね。
で、何も返ってこないでしょうから臨戦態勢に入りつつ、少しずつ接近していってね。そこからは相手の行動によって、臨機応変且つ柔軟に対応する方向で頑張って」
......提督、最後が適当すぎですよ。
なぜでしょうか、すごく緊張してしまいますね.
「こちら、横須賀鎮守府所属の大和です。味方であるならば早急に応答してください。繰り返します。こちら、横須賀鎮守府所属の大和です。味方であるならば早急に応答してください」
......どう出てくるのでしょうか。
というより、そもそもこちらの無線は通じるのでしょうか。
もしかすると、いきなり砲撃してきたりするのでは?......嫌な想定ばかりですね。
まあ、警戒するに越したことはありませんし────
「艦隊の皆さん!未確認艦からの応答がなかった場合、警戒しつつ接触を図ります!
そのとき、大破艦は足手まといになりかねません!ですので、艦隊を二手に分けます! 私と利根さんは......」
「──────ザザ────────ザザ──────こちら、無所属の艦娘であるヲノゴロと申します。当方に敵対意思はありません。そちらが宜しければ接触したいのですが、大丈夫でしょうか?」
────え?
無所属の艦娘なんて聞いたことないのですが.というよりヲノゴロって誰ですか?
私の記憶にある限りでは、旧海軍どころか、自衛隊......いえ、他の国の艦船の名前でもありませんよね?
正直言って、未知の情報が多すぎて思考が飽和してしまいそうです。
とりあえずこの疑問を解消したいですね。
「わかりました。そちらから向かって来てください」
下手すると、こちらの動揺が表に出てしまいそうです。できるだけ動揺を殺したつもりではいるのですが、向こう側に伝わっていたりしませんよね?
「了解。姉さん」
「──────へ? ちょっと!? それはどういう意味なのですか!」
って、無線切れちゃってますし.私の妹は武蔵とまだ逢えていない信濃だけです!
それなのに妹ってどういうことなのでしょうか?
本当にこのヲノゴロって自称艦娘は謎ばかりです......
「......皆さん。未確認艦はヲノゴロと名乗る、自称私の妹です。
一応、聞いておきたいのですが、心当たりなどはありませんか?」
「────さすがにないのじゃ」
......残念です。まあ、あったらあったで驚きなのですがね......
「......ねえ、大和さん。四番艦以降の大和型とか、超大和型って線はないかな?」
......確かに第五次及び第六次海軍軍備計画充実計画で、計七隻の妹たちの建艦が計画されていたらしいですし、その可能性も無きにしも非ず、といったところでしょうか。
「────時雨さん、ありがとうございます。もしそうだった場合、利根さんや、阿賀野さん、島風さん、秋月さんたちの妹艦たちが現れる可能性がありますね。
鎮守府の戦力が向上することは、喜ばしいことです」
「島風は、姉妹艦がいなくて寂しがってたからきっと喜ぶっぽい!」
それもそうですね。島風ちゃんもどこか寂しがっているように見受けられましたしね。
まあ、あくまでこれはヲノゴロの正体の考察に基づいた、ただの可能性に過ぎませんし、
あまり期待しすぎると痛い目に遭うかも知れませんね。────でもやっぱり、こういう平和な結論に終わってほしいですね。
「大和さん! ヲノゴロ、だっけ? もうそろそろ水平線に見えるくらいまで近付いてくるみたいだよ!」
────いよいよ、ですか。とても緊張しますね.
「大和さん!10時方向に艦影らしきものを確認しました!」
「筑摩さん!10時方向ですか? ありがとうございます!」
......本当ですね。確かに10時方向にそれらしき艦影が確認できました。
......徐々にその艦影が近づいてくるごとに、心臓が外まで響いてしまうほどに、うるさく鳴っています。
......やっとその全貌が確認できました。────黒のセーラー服に、比較的長めの丈をしたスカートを履き、胸部装甲は私や武蔵より遙かに小さめの標準的なサイズですね。
────私は、九一式徹甲乳じゃないんですよ?
......私への痛烈な風評被害はともかく、ヲノゴロさんは、どこか儚げで、目を離した隙にどこかへ消えてしまいそうな雰囲気を纏っていますね。
────本当に緊張しますね。
「こんにちは。私は大和型戦艦七番艦ヲノゴロ。
こうやって大和型の名を冠してはいるけれど、別に旧海軍どころか、大日本帝国にすら関係のない怪しい艦娘だよ。あ、でも深海棲艦って訳でも、敵対勢力って訳でもない純然たる味方だから安心してね。ああ、ちゃんと姉さんこと大和に血縁? はあるよ。中東の魔術協会とかと日本国の共同で作られた私だけど、ちゃんと海軍軍備計画充実計画の系譜は継いでるしね」
────え、は? どういうことですか? 魔術ってなんですか? あれですか、メラゾーマとかアバダケダブラとかそんな類いのものなんですか!? ......本当に全くもって理解できませんよ......
「あ、海軍軍備計画充実計画で計画された、他の艦船は多分出現することはないと思うから、安心していいよ」
────どうしてそれで安心できたりするんですか。私は、これほどまでの情報を投下されることになるであろう提督の、胃と肌荒れが心配です。