マーブル9repe(クレープ)   作:BlueAir

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②歩いて高校から帰りたい

《マネージャーside》

 

いつものクレープ屋、いつもの席。

そして隣の柚葉。

手に持っているのが先月とは違う味であることを除けば、もう何度も見ている景色だ。

 

「アイリもしっかりしてるのねって」

 

柚葉の近況報告も佳境に入り、クレープを食べる手はどんどん遅くなる。

それを見越してこの後の予定はスカスカにしているとはいえ、いつも以上に柚葉がゆっくり話している……気がする。

 

「今度はマネージャーと行ってみたいわ」

 

「なら、楽しみにしてるよ」

 

「あ、そうそうそれでね」

 

柚葉といられるのは楽しいが、一応勤務中の身。

社長からお許しは出ているとはいえ、罪悪感がない訳では無い。

観念して切り出すとしよう。

 

「柚葉、もうそろそろ事務所行かないと」

 

「あら、そうなの?」

 

腰を上げ、柚葉の方を向き声をかけるが。

こう、柚葉の寂しげな顔を見ると柚葉を優先したくなるが、ここは心を鬼にして

 

「柚葉もレッスンあるでしょ?みんな待ってるよ」

 

「そう、ね」

 

いつもはこう切り出せば柚葉は急いで食べてはすぐに手を繋ぎに来るのだが、様子がおかしい

 

「柚葉、何かあった?」

 

「……マネージャー、もうちょっとだけおしゃべりしてちゃダメ?」

 

に上目遣い。この時の自分にはもう一度座るという選択肢以外なかった。

 

「それで?どうしたの?」

 

「別になにも。マネージャーといたかっただけよ。」

 

《柚葉side》

 

マネージャーの仕事が忙しいんのも知ってる。

私にもレッスンがあるし、あんまりのんびりするのも良くないんだって。

でも、やっぱりマネージャーともうちょっと二人でいたいから。

そうやって考えてたらうっかりわがまま言っちゃって。

 

「それで、どうしたの?」

 

そう言って隣に座ってくれるマネージャーにちょっと距離を詰める。

 

「マネージャーといたかっただけよ」

 

そう、正直な気持ち。

本当はもっと……なんて考えちゃうけど、それはもっと仲良くなってから。

 

「それじゃ、行きましょ!」

 

そう言うと彼女は手を取って歩き出す。

毎月の頭、ちょうど新作のクレープがでるこの時期に柚葉を学校まで迎えに行っては、のんびり歩いて事務所に向かう。

手は、何ヶ月か前から繋ぐようになっていた。

 

「それで今日はね」

 

まだ満開になりきっていない桜の下を柚葉の声を聞きながら進むこの時間は、自分にとっては貴重なのんびりとした時間で

 

「その時ユーキがね」

 

出来れば失いたくないとは思うが、桜を見るとそうもいかなくなる。

 

「私ももう三年生なんだもの」

 

そう、四月。

俗に言う出会いと別れの季節。

嫌でも''あの事''を思い出してしまう。

 

「どうしたのマネージャー?」

 

「別に……何かあった?」

 

「なんか暗いわよ、顔。もしかして楽しくない?」

 

「そんなことないよ、柚葉といられて自分は嬉しいよ」

 

「ふふっ、なら良かった!」

 

この笑顔も、いずれ見ることは無くなるのだろう。

なら、せめてその時までは……。

 

「マネージャー、私は卒業したって声優を続けるから、その時もよろしくね!」

 

「あぁ、もちろん」

 

守り抜いていくつもりだ。

 

《柚葉side》

 

マネージャーと一緒にクレープ屋まで手を繋いで歩く。

こんな幸せがたくさんの時間があっていいのかしら…?

ううん、サイコーだからこそ、思いっっきり楽しまないと!

 

って思ってたんだけど

 

「どうしたのマネージャー?」

 

「別に……何かあった?」

 

「なんか暗いわよ、顔。もしかして楽しくない?」

 

「そんなことないよ、柚葉といられて自分は嬉しいよ」

 

「ふふっ、なら良かった!」

 

って返したのは良かったけど、やっぱり暗い。

マネージャーはたまにこうやって暗い顔をする。

落ちこんでるとかじゃなくて、もっと別の……。

なんて言うんだろ?

でも、暗い顔ってことはきっと良くないことを考えてる。マネージャーのことは知らない事だらけだけど、それくらいは分かるから。出来れば何とかしてあげたくて。

 

「マネージャー、私は卒業したって声優を続けるから、その時もよろしくね!」

 

「あぁ、もちろん」

 

でも、こうやってかっこいいマネージャーを見ると、やっぱり私が助けなくても大丈夫な気がするし……うーん………………………

 

あ、そうこうしてるうちにクレープ屋さんが近づいてきちゃった。

もっとゆっくり歩けば良かったなぁ……

でも、マネージャーとクレープを食べる時も楽しいもの、暗い話は置いといて、とりあえず今は楽しみましょ!

「マネージャーは、私と一緒にいて楽しい?」

 

わがままついでにもう一つわがまま。

こうやって訊けばきっとマネージャーは。

 

「もちろん柚葉といられて楽しくて幸せだよ」

 

ほらね、マネージャーは私の聞きたい言葉を言ってくれる。

 

「ほんとに?」

 

「ほんとだよ。どうしたの?らしくない」

 

時々マネージャーの言葉が不安になる。

これだけ優しいマネージャーなら、きっと嘘だって得意なんじゃないかって。

きっと誰にだってこう答えるんじゃないかって。

でも、そうよね!こんなこと気にするなんて私らしくないじゃない。

マネージャーが嘘をついてたって……。

私はマネージャーのことが大好きなんだもの!!

 

《マネージャーside》

 

「どうしたの?らしくない」

 

ほんとうに今日の柚葉はらしくない。

 

「何かあったら言ってね、仮にも…」

 

「『親御さんから柚葉を預かっている身なんだから』でしょ?」

 

柚葉に言葉をとられる。

そうそう何度も言ったわけではないのだが。

柚葉はそのまま言葉を続ける。

 

「あのねマネージャー、私は自分の意思でここにいるの。だからね、預かってる預かってないじゃなくて、マネージャーにはマネージャーとして私の隣にいて欲しいの」

 

「それは、ビジネスパートナーってこと?」

 

「それもそうだけど……」

 

柚葉がうつむき、言葉に詰まる。

やっぱり、らしくない。

 

「マネージャーは、ビジネスじゃないと私と居たくないの?」

 

「…そんなことないよ」

 

「なら……ううん、なんでもない」

 

柚葉が言いかけた言葉の先が、わかる気がする。

柚葉とあってしばらく経って、未だに掴めないところばかりだけど、今この瞬間は柚葉のことがわかった気がする。

 

そして、それに応えるように……

 

柚葉に近づいて、背中と頭に腕を回して、それで──

 

 

 

《柚葉side》

 

マネージャーが抱きしめてくれた。

マネージャーはいつも、いつも私のして欲しいことがわかってるみたいに。

 

「本当は人前でこういう事はやめとくべきなんだけどね」

 

マネージャーがそう言う。

それでもしてくれるのはきっと私がマネージャーのことを心配させすぎたんだと思う。

 

「ごめんなさい、マネージャー」

 

「何が?」

 

「その、わがままばっかり言って」

 

今日の私はなんだかおかしい、暗いことばっかりり考えちゃう。

マネージャーが暗い顔してたから、マネージャーの気持ちになってみようって思ったけど

 

「柚葉のためならわがままくらい大丈夫だよ」

 

まぁ、限度もあるけどね。なんて言いながらゆっくりと頭を撫でてくれる。

やっぱりマネージャーには全然かなわなくて……でも

 

「ねぇ、マネージャー。」

 

「ん?」

 

「マネージャーにも頼って欲しいの。こんな風に、私に」

 

説得力がないことなんてわかってるけど。

 

「そうだね、でも大丈夫。自分にはみんなが……柚葉がいるから」

 

マネージャーが私に頼ってくれるなんて想像もつかないけど。

 

マネージャーがこうして抱きしめてくれる時は、マネージャーの温かさを感じて、生きてて、辛いことだって沢山あるだろうから。

だから、マネージャーのことをもっと知りたくて。

 

…………

……

 

《??年後》

 

「へぇ、柚葉がそんなこと考えてたなんてね」

 

「ふふっ、もう今じゃなんだって分かるわ」

 

「じゃあクイズ、今日の夕飯はなんでしょう?」

 

「うーんと……あ、ハンバーグ!」

 

「ならそれにしようか、足りないもの買ってくるね」

 

「なら私も一緒に」

 

「そうだね、昔みたいにクレープも食べよっか」

 

【END?】




お米ライスさんに書いていただきました!
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