私のマネージャーはヘンテコな人だけれど、とっても優しいの!
それで、今日はこの前の休日の話をすることにするわ。
そう、あれはよく晴れた日のことだった……私はいつもの日課だったマネージャーの家にお邪魔していたの。
こじんまりとしていて、楽しい場所なのよ?
あ、ちょっと話が逸れちゃったわね……そうそう、休日の話なんだけれど、この日は2人の趣味の話になったの!
私は洋服、それにファッションについてマネージャーに説明してみたの。
最近の流行にウチのブランドの特徴だったり、そうそう、エールブルーのみんながどんな服を着ていてどこのお店のものを買っているか、なんてことも話したわね!
ふふ〜、マネージャーが感心したみたいに必死に頷いている姿は可愛かったのを覚えてるもの。
それからしばらくして、マネージャーの趣味は何かって話になって……それでなんて言ったと思う?
まさかのカフェ巡りが趣味らしいの!
マネージャーもオシャレなところがあるのねって私感心しちゃった。
それからね、折角なら私のお洋服選びとマネージャーのカフェ巡り、どっちもしようって話になって2人で家を飛び出したの。
それからは楽しい楽しいデートの始まりってことね!
もちろん、デートなんて思っているのは私だけなんでしょうケド。
~~~~~
今朝、アパートの自室に柚葉が転がり込んできてから早数時間。
ここのところ週末になるとやってくる柚葉の気ままさに多少うんざりしながらも、事務所近くのデパートにお出掛けすることになった。
目的は柚葉の新しい服を買うことと、一緒にカフェに入ること。
側から見れば恋人みたいなやり取り、それに行動なんだけれどあくまでも声優とマネージャー……その一線は超えないつもりだ。
優雅のようでいて、その実は自由気ままワガママお嬢様である柚葉には、付き添って寄り添ってあげることが一番のご褒美になる。
今日も目を付けられたことで何故か手を繋いでデパートに向かっている。
これはきっと逃げられないようにする為の戦術であって、柚葉には恋愛感情といいうものがないのだろう。
少なくとも自分には向けられていない……そう感じていた。
そうこう考えているうちに、デパートが見えてきた。
時間帯も昼間になっているため看板や壁に太陽の光が反射して眩しい。
柚葉が鼻歌を歌いながら、早く入りましょうと声をかけてくる。
よほどご機嫌なようだ。
分かった分かった、と曖昧な返事を返してデパートの中に入っていく。
三階建ての建物に吹き抜けがあるクリアな空間であり、学校帰りの若者から適当にフラつきたいカップルまで幅広い人がやってくる。
「ねえねえ、まずはどこに行くのかしら?」
「うーん、そうだね……」
柚葉の何気ない問いに頭を悩ませる。
最初からカフェや服屋に行っても味気ないだろう。
アパートからはそこそこ遠い場所に位置しているのも足が遠のくポイントだったりする。
フロア全体を見渡した後、何気なしに目に付いたアクセサリー屋さんに入っていく。
もちろん、柚葉との手は繋いだままだ。
煌びやかな店内を見てまわっていく……柚葉みたいな女の子にはこういう場所が好きだろうと思っては行ってみたのだけれど、今度は自分の方が居心地が悪くなってきている。
「やっぱりこういう雰囲気のお店にはなれないね…」
そう柚葉に話しかけたところだった。
一人の店員が自分たちに向かって話しかけてきたのだ。
「いらっしゃいませ〜お客様初々しいですね!こちらのペアリングなんて如何ですか?ただいまお値打ちとなっておりますので…」
これは……すっかり恋人か何かに間違えられているらしい。
自分はともかくとして、柚葉にとっては良い迷惑だろう。
「いえ、自分たちはそういう関係じゃなく…」
「へえ!ペアリングなんてあるのね。これは首にかけるタイプなのかしら?」
やや食い気味に、手を繋いでいた彼女は身を乗り出した。
自分の体を片手で押し除けるようにして、もう片方の手でアクセサリーであるペアリングを手にとっていた。
「あのー、柚葉?別にこれを買いに来たわけじゃないよね?」
そう言いながらも頭の中では理解していた。
こうなった柚葉を止めることは出来ないのだと。
「私決めたわ!これを買う!」
そう高々と宣言するとクレジットカードをその場に出してしまう。
しっかりと柚葉名義のものを出しているあたり、柚葉も本気なのだろう。
「買ってどうするの」
「決まっているでしょう?マネージャーとペアで着けるのよ、オソロイにしたら楽しいと思わない?」
そう言われて仕舞えば弱い。こちらとしても恋人のようなものじゃなく、柚葉とのちょっとした戯れだと思うことにしよう。それでも、大胆なことをするとは思うけれど。
「お買い上げですね、ありがとうございますー」
そう言って柚葉に丁寧に包んだ商品を渡す店員さん。
袋に入っているペアリングは指に着けるようなものではないが、一つはアメジストもう一つはエメラルドが小さいがあしらわれており、柚葉と自分の2人で身に付けることになるのだろう。
「良かったね、良いものが買えて」
そう言った自分に、柚葉が不思議そうに返す。
「あら?そうかしら。私はマネージャーとの思い出を買ったのよ。これを着けている間は少しでも2人で過ごすことを思い出せるじゃない」
天使のように微笑んだ彼女をみて、ああずるいなぁ……とぼんやり思うのだった。
~~~~~
それからデパート内を二人でうろついていく。
本当はペアリングを買った後に、すぐさま柚葉のお気に入りの店で服を買うはずだったのだが、そこまでの場所が遠いのでしばらく店々を見て回ることにしたのだ。
「マネージャー!ここなんか面白そうじゃない⁉」
そう言いながら雑貨屋さんのような場所に入っていく……その店自体はこじんまりとしているが、色のついた液体の入った小瓶やガラスの靴が置いてあるようで不思議そうな雰囲気を醸し出している。
「あんまりはしゃぎ過ぎないでよ?」
そう言いながら目をキラキラと輝かしている柚葉に声をかける。
もちろんというように頷いていたが、結局このお店から柚葉を引きはがすのに十五分は掛かってしまった。
「ほら柚葉、柚葉が行きたいっていうお店についたよ」
そう言って呼びかけ店の前までたどり着く。
お洒落な外観に女性物だけではなく男性の服なども売っている服屋で、やや高級そうなところが柚葉らしいと言えばらしいか。
「そう!ここに行きたかったの。マネージャー、ついてきて!」
そう言われて腕を掴まれては引きずられていく。
柚葉は無邪気な笑顔を受かべながら、あれやこれやと服を見ていく。
ネクタイ、シャツ、ジーンズにジャケット……って、これってどれも男物だよね?
「ふふ~、今日はマネージャーに似合う服を選ぶの」
「自分は良いって……それに柚葉が好きなもののためにここに来たんでしょ?」
「私はマネージャーのこと大好きよ」
「いやそういうことじゃなくて」
それからかれこれ1時間ほど、柚葉の着せ変え人形にされ続けた。
カッコいいだの、似合っているだの、相変わらずお世辞がうまくて困ってしまった。
柚葉はこうして自分のしたいことをするのが大得意だが、なによりも人を喜ばすのが好きな子だった。
今も服を選び終わってから、自分を喜ばそうとニコニコしてくれている……よからぬ事を考えてないと良いが。
そしてやっとのこさ、行きたかったカフェに辿り着いた。
デパートに入っているものの、小洒落た雰囲気と少し古そうな佇まいからしてかなり期待出来そうだ。
「それじゃ、入ろうか?」
「そうね!今から楽しみだわ!」
チリンという音とともに店内へ入っていく。
そこそこの人混みで、静かな雰囲気を醸し出している……自分の経験上、こういう店はアタリだ。
2人がけの席に柚葉と座り、メニューを開く。
お昼時だからか軽く腹ごしらえが出来そうなモノが多い。それに、オムライスなんかちょっとレトロな感じがして美味しそうだ。
「悩むわね……うーん、サンドイッチにしようかしら?」
「なんでも頼んで良いよ。この店では奢るしさ」
いいの⁉︎と目を輝かせる柚葉だったが、隙あれば自分で奢ろうとするお嬢様だ。こうして言っておかないと後が怖い。
結局、柚葉はサンドイッチとカフェラテを自分はオムライスを頼んで、さらにブラックコーヒーを注文した。
食事がつくと、柚葉と一緒に食べ始める……話題はそう、普段はしないお互いの趣味についてだ。
ファッションのこと、食事のこと、旅行のこと、映画のこと、アニメのこと、たくさんたくさん……柚葉と語った。
お出かけすることはあっても、こうして語り合うのは初めてのことだった。
必死になったり聞き役に徹したり、柚葉の色んな表情を見ながら会話を興じていく。仕事にかまけてばかりで忘れていた。
おしゃべりする楽しさを。
きっとこの楽しさを教えてくれたのは柚葉なんだ。
語り尽くしたら店を出て、柚葉に何かをプレゼントしてみようと思う。
薄月給だけれど、気の利いたものくらいは買えるだろう。
「ねえ柚葉、次はどんなことお話しする?」
「えっとね、マネージャー……こんなのはどうかしら?」
彼女の笑顔に、自分は勇気すら貰えるのだった。
それから小一時間ほど、柚葉とのおしゃべりに時間を忘れて話し込んだ。
カフェではお代わりをし、ひたすらに時間を過ごし……すっかり夕方になってしまって驚いたのはまた別のお話。
レッド!さんに書いていただきました!