思い出は色褪せていくし、見ていた風景は時が経つほどに様変わりしていく。九条柚葉とマネージャーの関係でさえも、今までと同じのままではいかなくなるのだろう、それは必然でもあり避けることもできる運命でもあった。しかし、2人は共に過ごすのを大切にした。
そのことは幸か不幸か、九つの願いを柚葉に持たせることになった。
九つあった願いもこれで最後となる……彼女が、如何にして願ったのか、そして最後のお願いとはなんなのか。
今回を最後に解き明かすとしよう、柚葉とマネージャーの物語の終わりを……そして、新たなる旅立ちを。
なんでもない日の休日。
「マネージャー、今日は暇かしら?」
そう言われて何も予定が無かったので、柚葉と一日中過ごすことになった。仕事がないと何もしないししたくないのは昔から変わらないみたいだ。
「それで今日は何をするの?」
ワガママお嬢様ガールに尋ねる。
最近は妙なお願いをしてきたり、遊びに出かけたいと言い出したりとどこか変だった気がする。
「今日はこれ!ジャジャーン!」
そう言って懐から取り出したのはDVD……それも少し古めの洋画だった。
タイトルは『ユー・ガット・エール』確か有名な俳優も参加している恋愛映画だ。
「柚葉が恋愛映画なんて見るんだ……なんか以外かも」
「ちょっと!それどういうことよ!」
「ごめんって、それじゃあ早速観てみる?」
ちょっと待って!柚葉はそう言って身支度を整えたり道具を取り出す。
一つはポップコーン、そしてジュース達だ。
「エイガといえばこれでしょ?」
そうドヤ顔で言っているが、お家映画ではどうなのか知らない為曖昧な返事しか返せない。
柚葉の笑顔が窓から差し込む光に照らされている。
うーん、可愛い…‥と、そうだ。
折角ならと雰囲気作りの一環で部屋のカーテンを締め切ってみる。
灯りも最低限にして映画館の雰囲気を味わう。
……あいにくテレビは小さめのサイズだから2人で身を寄せ合ってみることになるんだけども。
「折角だしソファに座ろうか……ほら、柚葉も隣に座りなよ」
そう言ったものの、柚葉は自分の膝の上に座ってきた。
いやいや柚葉さん⁉︎流石にそれはまずいですって!
「そこに座るかな⁉︎」
「私の特等席よ!ふふん♪ここで映画を観るの!」
何だかんだ言いつつもそんな柚葉を受け入れてしまっている自分がいる。2人きりの時はこんな風に甘えん坊で、一度カメラの前に立てば大人な顔して大人しくなる柚葉に時々困惑してしまうこともある。
それでも……この笑顔を見ると、この子は変わらないんだな、なんて思う。
「ほら、もう始まるわよ!」
膝の上に乗せたままの柚葉の頭を撫でながら、映画を見始める。
そして、それと同時に今までのことを思い出していた。
「いただきまーす!!」
パクっと二人で一口食べる。
味を噛み締めて顔を見合わす……そして、2人には笑顔の花が咲き乱れた。
「これ、すっごくおいしいわね!!」
「あぁ、甘みが当然だが良い。久々にクレープ食べたが、美味しいな」
「でしょ?」
柚葉はもう一口食べる。
「うーん!サイコーね!!」
ものすごい食べっぷりだ……さすが柚葉。
激甘クレープを食べたいなんて言ったときには驚いたけれど、あの時に食べに行けれて良かったと思う。
柚葉の嬉しそうな顔も見れたことだし、満足だった。
そう、柚葉の顔といえば……。
「あのねマネージャー、私は自分の意思でここにいるの。だからね、預かってる預かってないじゃなくて、マネージャーにはマネージャーとして私の隣にいて欲しいの」
「それは、ビジネスパートナーってこと?」
「それもそうだけど……」
柚葉がうつむき、言葉に詰まる。
やっぱり、らしくない。
「マネージャーは、ビジネスじゃないと私と居たくないの?」
「…そんなことないよ」
「なら……ううん、なんでもない」
あの時の決意を固めた柚葉の顔を、忘れることなんてできなかった。
高校を一緒に帰ったその帰り道でのことだとはさすがに思わなかったけれど。
「見て見て!スターバックスコーヒーが出てきたわ!さすが本場のニューヨークね!」
「本当だ……柚葉でも見知ったものが出てくると嬉しいんだね」
もちろんよ!そう返した柚葉は再び画面を食い入るように見つめていた。
柚葉の必死さは映画を見ている時だけじゃなかった。
そう、確かあれは仕事終わりのひと時のことだった。
「デートはともかく、声のプロの前で歌を歌うのはちょっと嫌だよ」
「あら、練習すれば良いのよ!コーチから教えてもらった方法なら1週間もあれば上達するわ」
「練習しろって?」
「of course! 練習にも付き合うわ‼」
どうやら逃げ場は無いらしい、担当声優のお願いなのだからマネージャーをやっている人間にそれを断れるはずがない。
「これでマネージャーの事が少しは分かるわ!」
「そんなに自分語りしてないっけ」
「そうよ、もう出会ってから1年以上経つのに全然教えてくれないもの」
自分のことはあまり伝えてこなかった為にあの時は何とか誤魔化していたが、最近は色々と教えていたりもする。
二人きりの時に少しずつだが、自分のことを知って欲しいなんて思ってしまったからだ。
「だから今から撮ろう!柚葉と俺の二人だけの写真!」
「そんな事言ったって……!」
「ほら!まだちゃんとした、ツーショットの写真とってないし!それに……!」
実際、AiRBLUEの皆との集合写真やBirdの皆と撮った写真はあるのだが柚葉との二人での写真はまだ撮れていない。だからマネージャーも柚葉と撮りたいと前々から思っていたのだ。
「柚葉は自分と撮るの……嫌か?」
「……!」
はじめて二人きりで撮った写真、嫉妬した柚葉を宥めながら得た宝物は今でも大事に持ち歩いている。
今はこうして膝の上にのせているような恰好をしているが、一時的にはこんな関係になれるとは思わなかった。
「きっと私たちは夜空の星なのよ。自ら光続けて誰かに見つけてもらう。その時が私たちの始まりなんだと思う。だからねマネージャー、これからも私たちを輝かせてね。あの星空の様に」
私たちは星か。
柚葉の言ってる事は正しい。この業界に入って知らぬまに消えていくことなんてありえない話じゃない。ただその輝きをしっかりと見つけてもらう為には私たちの力が必要。
「勿論だよ。柚葉」
「ふふっ。それじゃあミチクサは終わり。寮に帰りましょ」
「そうだね」
まだお互いの距離がぎこちなくて、それでも何かが通じ合っていた気がする。
「ねえ柚葉」
「何かしら?」
映画から目を離して下から見上げてくる。
可愛いと一目惚れしてしまいそうになったが今はそうじゃない。
「柚葉のマネージャーで良かったかな?」
「もっちろんよ!あなたは私のナンバーワンなのだから!」
そう答えてくれる、彼女の笑顔はとても眩しかった。
「世界のクレープ100選、クレープの歴史、異世界クレープ……楽しみだわ~」
そう言いながら本を読み耽っていたらしい柚葉の噂を聞いて、同じ本を読んでみようと苦労していたっけ。
今思えば、この子は破天荒だけどみんなのための刺激になったり、誰かを動かせるきっかけになった不思議な女の子だったんだ。
「そう!ここに行きたかったの。マネージャー、ついてきて!」
そう言われて腕を掴まれては引きずられていく。
柚葉は無邪気な笑顔を受かべながら、あれやこれやと服を見ていく。
「ふふ~、今日はマネージャーに似合う服を選ぶの」
「自分は良いって……それに柚葉が好きなもののためにここに来たんでしょ?」
「私はマネージャーのこと大好きよ」
「いやそういうことじゃなくて」
時には買い物に行ったり、柚葉と趣味を語り合ったりした。
柚葉とは、そう自分と柚葉との日々は大切なものだったんだ。
「ねえ柚葉、柚葉はいま幸せ……?」
そう尋ねてみたが、柚葉からの答えは返ってこない。
見て見るとすっかり寝てしまったようだ。
画面の中では二人の男女が熱烈なキスを交わしているシーンだった。
どうやら映画も終わってしまったらしい。
そんな柚葉を抱きかかえてベッドまでは運び込む……起こさぬようにそっと寝かせて布団を掛けてあげる。
良い夢を見れるようにそっと祈る。
今までいろんなことがあった。
そしてこれからもあるんだろう。
柚葉と、一人の女の子と、そして立派な声優とマネージャーとして。
柚葉からの九つのお願いは達成した、それでも、この子のそばに居続けたいしこれからも見守りたい。
10でも100でも、この子の願いを叶えてあげたいなんて思うのは傲慢だろうか。
いや違う。きっとそうじゃないはずだ。
自分がこの子を支えてあげないと、いざって時に、この子が夢をあきらめてしまう前に。
「これからもよろしくね、柚葉」
眠っているはずの柚葉が、なんとなく頷いた気がした。
柚葉にはまだ伝えていないが、来週からオーディションが始まる。
以前からやりたかったという洋画の吹き替えだ。
ある意味、今日のことはいい勉強になったのかもしれない。
自分と柚葉は、これからも未来を歩く……。
了
レッド!さんに書いていただきました!
これにて、マーブル9repe終了となります!