古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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猫耳アンドロイドロリが生活に慣れた頃の光景です。


1 とある日のソラ。

 To start up a computer

 Hyper Operating System ver 1.1

 Network: Error.

 Battery: 78%

 Auto reboot:OK.

 System: Normal mode.

 

 Success.

 Have a nice day! Miss Solar!(*'▽')b

 

 

 

 ──午前8時丁度に起動。

 開いたままのカーテンから覗く現在の天気は晴れ。

 バッテリーの充填は少し不安が残るけれど、今日このまま晴れが続くのなら問題はなし。

 

 目覚めと共に横たわっていたベッドから起き上がり、パジャマを脱ぎ、クローゼットに収めていたメイド服を着用していく。これは排熱効率を良くするためにファスナーで開閉可能なスリットを多く盛り付けた、私専用の物だ。

 ただ時間の無駄な作業が増えるだけとなる手間な着替えは本来必要ない。稼働中でない休眠状態の私に寝相や寝汗といった物は存在していないので。

 しかしここの主人に……ここの屋敷の主であり私の所有者であるジョージに、そうするよう命じられたのだ。人間らしい生活をしろと。

 

「……」

 

 だが人間らしい、と言われても私に演じられるのはやはり“人間らしい”まで。

 サイドチェストの上に置いていた四角い通信機ふたつを持ち、左右のこめかみ部分にあるソケットへ嵌める。続いて同じ場所に置いていた視覚強化機能付きバイザーをその通信機へ眼鏡をかけるように取り付け、額の上に乗せて完成。

 これが私にとってのデフォルト装備であり、色々と汎用性の高い装備だ。

 戦時中じゃない今の生活には無くても全く不便はないしなんなら邪魔でもあるけど。でも、これらが無いとなんだか少し不安になる。なので付けている。

 

 “人間らしい生活をしろ”、なので生活面の話ではないこれを身に付けたって怒られないだろう。私はそう解釈した。

 必要ないのに怒られるか否かを判断してまで装着するなんて、自分でも無為な事をするなぁとは一応思っている。

 

 まぁ別に機械の身体である事を隠している訳でも隠せる訳でもないし。というか隠せとは言われてないし重大事故でも起こさない限り外せとはならないだろう。たぶん。

 こんな追加装備を付けなくたって、排熱用に取り付けられた頭頂部の三角形をした通気口ふたつ(よく猫耳と呼ばれる)が目立っているし。

 

 

 色々考えながらも手は動かし続けて準備完了。

 鏡の前に立ち、身だしなみに乱れがないのを最終確認。

 

 

 私の名前はソラ。

 今は昔、機械戦争時代と呼ばれている過去に生まれた戦うための自立人形兵士。

 

 今は、平和な港町の邸宅でメイドをしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在地はモリカマ国、ケィヒン海岸にある港町。領主ジョージの屋敷。

 時刻は9時26分。ほぼ計算予定の通りに業務を続け、今の所は支障なし。

 邸宅とは名ばかりの、実質は豪邸程の敷地面積を誇る無駄に広い館内のカーテンと指定されている窓を開け換気し、その後食堂へ料理を運び、そして定時にジョージが食事中となるのは毎朝年中変わらないルーティン。それがお仕事。

 

 メイドらしく主人が食べる横にすらっと佇みながら食べ終わるのを待つ。

 雑談の話相手としては力不足だが許して欲しい。

 

「……」

「……」

 

 ──私がこの屋敷へ来る前までは3人いる他のメイド達が交代で早出を決め朝の業務をこなしていたようだけれど、今は屋敷の一室を借り住む私が専任で担当している。

 専任ではあるけれど、しかし年中無休という訳ではない。時折休日として業務の存在しない日も存在する。

 私は機械であり仕える為に生まれた存在なので休みは必要ない筈なのに、例の“人間らしい生活を”だ。

 休日にやる事もないし働いていた方が良いと思えどそう伝える手段がないので断る事も出来ず、かといって命令を無視する訳にもいかないのでその日は余暇を過ごさざる得ない。

 

 

「なぁソラ」

「……」

 

 む。ジョージが話しかけてきた。

 話しかけられた所で私に返答する事は出来ないのだけど、それは向こうも分かっているし話を続けてくれるはずだ。

 私も、ジョージがこう話す時は大体何かお願いしようとしている時だとわかっている。

 

「ずっとほったらかしな裏庭をそろそろ片付けようかと思ってな。お前さえ良ければちょっと手伝ってくれないか?」

 

 ああ、確かに裏庭は雑草だらけ。去年の夏はそこから虫が大量に出て酷かったと聞く。

 そこを片付けられるのなら私としてもやりたかった事だし問題ない。

 

 ここのメイド仕事も私が来る前までは先輩メイド三人で回せていたし、私の仕事はそのお手伝い程度なので何かご用とあれば時間は作れる。

 分かりやすいよう大きく頷く。

 

「そしたら今日は他の仕事は良いから、裏庭を頼もうかな」

「……」

 

 私情もあり夏までに片付けたいので、確固たる意志を示しもう一度大きく頷く。

 ただでさえ夏は排熱の為に頭の猫耳的通気口のシャッターを全開放しファンを大回転させ耐えるしかなさそうなのに、そこの隙間へ虫が入ってこられたら堪らないのだ。

 機械の身とて色々と困る。本当に色々と。メンテナンスが大変になる。

 

「おっけ。今まで虫の駆除とかドブの掃除とかそういうなんというか……泥臭いとかめっちゃ疲れるのは俺かシャーロットしかやれなかったんだが、お前もそこらへんを手伝ってくれるのは本当助かる。ありがとな」

 

 いや、ドブは流石に生体スキンが変色してなかなか直らなさそうだし虫も前述の通りでちょっと嫌なんだけど。

 

「ごちそーさん。じゃ、こっちも仕事片付いたら手伝いにいくぜ」

「……」

 

 言うが早いか席を立ち、食堂を後にされてしまった。

 ドブは流石に嫌だと訂正する声は出せない。

 会話ができないのはこういう時やっぱり不便だ。

 

「……」

 

 会話不能は今更だし仕方がないので諦めて、とりあえずまずは使い終わった食器を厨房へ戻そう。そこまでが朝の業務だ。

 台車に食器を乗せて、がらがらと移動する。

 移動距離はそんなにない。廊下を一分と歩かず到着した厨房の扉を開けて、指定の位置で台車をストップ。

 食器類を流しへ置いて、ミッションコンプリート。

 

「おはようございますソラさん。──あのっ」

 

 厨房を後にしようとしたら部屋の奥から声を掛けられた。

 テーブルや道具の影に隠れて私からは見えないが、声からして今のは料理人のトーマスだろう。

 まだ若い男性だけれど仕事としてこの場に立ち、もう一人の料理人であるハーディと共に厨房を任されている人。

 

 実は彼とあまり関わった事が無い。というより、ハーディのいる状況だと直接話し掛けてこないようだ。

 しかし今は例外的にハーディが何故かいないので私に話しかける様子。一体何の用だろう?

 早く言わないと今はどこにいるのか分からない彼が戻ってきてしまうぞ。

 

「その、これ作ってみたんですが……」

 

 周囲をきょろきょろと警戒しながらこちらへ歩いてきた彼は、背の低い私の目線に合わせて少し屈みながら小皿を差し出す。

 そこには、焼き立てだろうクッキーがいくつか乗せられていた。

 

「……」

「食べて、みませんか……?」

 

 かわいらしい小ぶりなクッキー達。私や、他のメイド達へ向けて作られた物だろう。

 しかし大変申し訳ない。残念ながら、食事はできない。

 仕事とかそういうのを抜きにして、機械の私は人間的な消化器官を保有していないから。

 断るために首を横に振るう。断るのはとても心苦しい。

 

「──トーマス」

 

 せっかく作ってくれた物を拒む私とどうにかして私に食べて貰いたいトーマスによる短い攻防は、低い声によって終了した。

 

「は、ハーディさん……」

 

 寡黙で厳しい(と、私は評価している)ハーディが帰ってきた。私の後ろにある扉からぬっと現れた。

 彼の目には、トーマスがメイドである私の仕事を邪魔しているように映っただろう。

 別にトーマスは悪い人ではない。それどころか、喋れない私と仲良くしてくれさえしようとしているのだ。

 

 振り返り、エプロンの裾を摘まんでちょいちょいと引っ張り首を横に振る。

 トーマスを怒らないでやってくれという意思表示なのだが、通じてくれるだろうか。

 

「ん、なんだソラ」

「……」

「んだよ、首振ってもわかんねぇよ……」

「……」

 

 ふるふる。ふるふる。

 

「だぁもう分かったよ、仕方ない。トーマス、一個だけな」

 

 一個だけ?

 

「よしっ。はい、ソラさん」

 

 すっと小皿がまた差し出される。

 違う、そうじゃないんだ。

 ふるふるふるふる。

 

「まだ首を横に振ってますね……」

「嫌いなんじゃねぇのか? それ。ソラ坊は意外と苦いのが好きだったりとかよ」

「そんな!」

 

 うーん、嫌いって事でも良いから断っていると気が付いて欲しい。

 あと、こんなことしている間にも時間が……。

 

「……」

 

 あ、そうだ。時計を指差そう。

 柱に掛かっている時計を示す。

 

「……」

 

 これで、伝わるかな?

 

「時計……時間? あ!」

 

 トーマスが気が付いてくれた。

 

「火、入れっぱなしだった!」

「何してんだトーマスッ! 火を扱う時はその場を離れるんじゃねぇ!」

 

 ああああ、そうでもない! 火事を防げたのは良かったけど!

 私は断りたいだけなのだ、クッキーを!

 

「……」

 

 ばたばたと二人が動き回り、止めることもできない。

 ……もう、いいや。逃げてしまおう。

 

 折角私へ用意してくれたクッキーを断ってしまったりと心苦しいけれど、奥でわちゃわちゃしている隙に厨房を後にする。

 ブロンテかシャーロット辺りに上手く取り繕ってくれるよう後でお願いしよう。喋れないけど、頑張ってその辺を伝えよう。

 

 

 

 厨房以外静かな廊下を進んで裏口を開け、雑草だらけの裏庭に出て、離れの倉庫へ。

 朝の業務が終わった後は通常の業務が始まるので、ジョージから指令を出された雑草取りに早速とりかかろう。

 他のメイド達へは喋れない私に代わってジョージからそう話を通してくれているはずだし問題ない。

 

 ぎぎぎと錆び付いた大きな扉を開けて、少し埃っぽい倉庫内へ足を踏み入れる。

 ここに鎌や除草剤といった基本的な物が揃えられているのはいつかに聞いて知っていたが、裏庭が長い間放置されている事から想定される通り道具も放置され錆びたり薬品は使用期限が過ぎていた。あと蜘蛛の巣のように埃が絡み付いている。

 裏庭はいつから放置されているんだろう? 気になるけど聞けない。

 

「……」

 

 ある程度見繕って、私の力に耐えられそうな草刈り道具が無いと判断。素手でむしるしかなかろうし棚に置いてある布手袋だけ持つ。

 ひとまずはこれで良し。

 

 私はかつて戦場で動いていた身。そして機械。

 過酷な状況であろうと鉄の身体には響かず、太陽光さえあれば幾らでも活動できる。

 

 今まで機械らしい仕事と見せ場はあまりなかったが、今日こそ見せてやろう──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手伝いにきたわよ! ……って!」

 

 あ、エミリーだ。メイド仲間のエミリーが来た。

 だが残念な事に横50メートル縦25メートルのそこそこな広さの庭に生えてる大小様々な雑草達は引き千切ってもう生存している個体は存在しない。

 ふふん。ジョージもエミリーも、来るのが遅かったな。

 とくと見よ、今まで埋もれて見えなかった煉瓦の小道も発掘したぞ。あと池と思わしき堀も。

 

「根っこが残ってるわ!」

 

 ? 根っこ?

 怒られた理由が分からず首を傾げる。

 

「あ、急に怒鳴ってごめんなさい……。でもソラ、雑草処理は基本的に根っこから引き抜かないと駄目らしいのよ?」

 

 ふむ? 植物とは根で水分を得る他に、私と同じで太陽光を得て食事としているはず。

 光の受け皿である緑の葉っぱ部分を破壊するのは間違ってないとは思うんだが……。真っ二つにするという致命傷も与えてるし、芝のように短く刈り揃えたし……素手で……。

 

「雑草魂を舐めちゃいけないわ。こいつらは例え根の一本でも残っていればそこから復活する逞しさがあるの」

 

 そんな、まさか!

 当時最先端の技術を駆使して完成した私ですら、胴から真っ二つとなれば流石に生物的な言葉で死を迎えるというのに!

 無敵の兵士と呼ばれていたらしいそんな私よりも、そこらの雑草の方が強いのか……。

 なんということだ……。

 

「大丈夫よソラ。知らなかったなら仕方ないし、失敗しても落ち込まないで」

 

 うう……。私はエセ不死身だ……。

 

「むしろ背丈のある草や厄介な蔓状の奴が多かったしそれを取ってくれてるなら助かったわ。だから大丈夫」

 

 エミリーは慰めてくれる。その失敗も確かにへこんでいたから助かる。

 でも、どうしようか。土をほじくり返して根っこを除去するにも、広さと数があるので大変だ。

 夜通しの作業でもすれば明日までに間に合いそうだけど。

 

「そしたら、後は耕しましょ?」

「……」

 

 首を傾げる。耕す?

 不死身の根っこがあるまま土を柔らかくしたら、それこそ再び雑草だらけになるのでは?

 

「背の高い植物が生えるには硬い地面が必要なの。だから、土を柔らかくしてよわよわでザコザコな雑草だけ生やさせるのよ」

 

 うーん。それで、いいのか。

 耕すだけでいいのなら、疲れ知らずの私にとっては楽な方法だけど。

 

「それに、ああは言ったけど最近は根から引き抜く方法はあまりよくないなんて話もあるからね。色々試してみましょ」

 

 そうなのか。雑草処理一つに色々な解があるのか。

 私は全く専門外でよく分からない。破壊は得意なのだけど。

 

「倉庫に(くわ)ってあったかしら」

「……」

 

 頷く。確かそれっぽいのがあった。

 

「時間は作ってあるし手伝うわよ」

 

 それは助かる。疲れ知らずの力自慢とはいえ小柄な私一人ではどうしても効率は悪い。

 今日こそ機械の力を見せてやると息巻いたのに、雑草を引き千切るだけで半日を既に要しているのだ。

 特段今日中に済ませろとは言われてないものの、気合いを入れたからには終わらせて自慢したい。

 

 倉庫からエミリーと鍬を持ち出し、早速土へ突き入れ耕していく。

 根っこの混じった土は所々私にも分かるほど固まっている部分もあるのでそれを崩したり、芯のように張り巡らされた根を押し切る際に力加減を間違えないようにしないといけなくて少し大変だ。

 私の力では簡単にこの程度の、木製の持ち手な生身の人間用の道具はちょっと力を入れるだけですぐ握り潰して──。

 

 

 ──ばきっ。

 

 

 ……ほら、こんな感じに壊してしまうんだ。

 …………うん。真っ二つに折れてしまいました……。

 

 

「ソラさん!?」

 

 も、申し訳ない。私が強すぎるあまり、道具を破壊してしまった……。

 

「お怪我はありませんか!?」

 

 この程度で損傷は起きないけど、鍬が……。

 はぁ……なんか今日は上手くいかない事ばかりだ。

 

「道具が古いのかしら。後でジョージ様に言わないと」

 

 壊れていない自分の鍬をさくっと地面に刺したエミリーは手を叩き、今日はお開きとでも言いたげな雰囲気を出す。

 私はまだ終わる気はないのだが。素手でも構わないし。

 道具を壊してしまった以上、名誉挽回としないと……。

 

「──お。思ったより進んでんなぁ」

 

 む、ジョージ?

 

「あら、ジョージ様」

「……」

 

 仕事が一段落したらしいジョージが現れ、私の頭をわしゃわしゃとしながら良くやったと褒めてくれた。

 それは、うん。草むしり頑張ったけど。芝生みたいにしたし。

 

「エミリーも手伝ってくれたのか?」

「いいえ。雑草処理は全部ソラさんがしてくださいましたわ」

「すげぇな。ありがとう」

 

 いや、その。

 褒めてくれている所申し訳ないのだけど、色々問題が……。

 

「……」

 

 ふるふると首を振って撫でているジョージの大きな手を振りほどき、土を掘りわけ根っこを示す。

 これの処理をミスしてしまって……。

 

「ソラさん、まだ気にしていたの?」

「根っこがどうした?」

「……」

 

 もうひとつ、ふたつを拾って集めていく。

 

「雑草処理は根っこから引き抜くと私が言ってしまったばかりに……」

「んー? ああ、あの草の山はそういうことか。引きちぎって処理してたんだな」

 

 その通り。

 それに鍬を破壊してしまっているので、それも差し示す。

 私は今日、色々と問題行動ばかりなのだ。

 本当に申し訳ない。

 

「ソラにエミリー。そこまでやんなくていいぞ? 今いくら丁寧にやった所で、後からまた雑草は生えてくるんだし」

「それは……そうですわね」

 

 その話はエミリーに聞いた。

 雑草は、根さえ残っていれば無限に生えてくるのだと。

 

「どうしても毎日の管理が必要なんだよなぁ。新しく庭師雇うにも探さなきゃだし。…………よし、ソラ。だったら明日からここに畑作ってみるか?」

 

 ……畑?

 

「それは良いですわね!」

 

 畑って、野菜とかを作る?

 えっと、流れがよくわからないのだけど。なぜそんな話に?

 

「明日以降、裏庭の管理と一部スペースを使いちょっとした農園を作ろう。んで、その仕事をソラにやらせてみよう」

「……」

 

 裏庭の管理というのは、私の宿敵である雑草を倒し続ける使命でいいのかな。

 でもどこから畑、農園、そういうのが? どこから?

 というか農具を使うとなれば、また壊してしまう恐れが……。

 

「趣味探しも兼ねたお仕事って訳でどうよ? 嫌になったら別にやめればいいし」

「ソラさん。私もお手伝いしますわ」

 

 ま、まぁ……うーん。

 裏庭の管理、管理人……。

 

「……」

 

 力加減、学びつつやろう。

 任されたのならば全力で答えるのみ。喋れぬゆえに断れないし。

 今度は失敗しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後6時丁度。

 二階の廊下の窓から外を見れば、薄暗くなり始めた街路のガス灯に光がゆらめき始める時間。

 午前8時30分から午後5時30分までが業務時間である私は、最近こうして風景を眺めて仕事を終えるようにしている。

 

 何となく、煌めき揺らめくガス灯が好きなのだ。

 何となく眺めたくなる。

 

 もうすぐ夏となり日照時間が延びて仕事終わりに見られなくなるのは寂しく思え、これは趣味や趣向と言った感情なのかも知れない。

 機械である私にそのような思考回路があるのか、本当に感情があるのかは実際のところわからないけど……。

 

「……」

 

 窓から離れ自室へ戻る。

 仕事の時間は終わったので私服に着替えるのだ。

 

 メイド服はメイド業務時間中のみ。それ以外は与えられた私服、寝る時はパジャマ。

 人間らしい生活とはいうが、一日に何度も着替えなければいけない人間は不便じゃないのだろうか?

 

 疑問に思えど断る気はしない。

 単に時間が余っているというのもあるし、メイド仲間のアンが世話を焼いて持ってくるカラフルな衣類は折角だから着ておきたい。

 勿体ないからというのもあるし、貰い物を着て人に見せると喜ばれるし。

 

「……」

 

 クローゼットからまだ着用したことのない物を出し、ささっと着替える。

 今日のこれは何だろう? ハンガーに付いているメモ紙には「セーラーワンピース白」と書かれているけれど。

 

 ワンピースというからにはワンピースなんだろう。

 でもセーラーって? 水兵?

 でも水兵服ならスカートじゃないだろうし……。

 

「……」

 

 着終わったので姿見の前に立ち自分を見る。

 なるほど、セーラー……水兵服の上部分だけとワンピースを合わせた物か。そういうファッションか。

 服自体は、可愛いんじゃないかな。

 私本体の目付きがとても悪いのと、頭部がオプションだらけなせいで可愛らしさが減点しているように見えるけど。

 

 目付きが悪いのは恐らく威嚇用だ。低身長で子供にしか見えない私に取り付けられた、敵へ威嚇する目的と考えられる鋭い目付き。

 敵を怖がらせたいのならそも子供の体形をベースにするなと思うが、そこはコンセプトがデータに無く分からないので仕方なし。

 平和な今の時代においては可愛いらしい服が似合わない事と、野良猫が怖がり近寄ってくれないという悩みの種でしかない。

 

「……」

 

 ぎしっと自室の窓際にある椅子へ腰かけて、闇に沈み始めた裏庭を見る。今日のお昼に色々と作業をした裏庭だ。

 頭部の視覚強化バイザーには暗視機能もあるが、そこまでして見るほどじゃない薄暗い裏庭。

 

 明日以降は私の管理下になるそうだが、何をすれば良いものか。

 畑を作るとは決まってるとはいえ何を植えるのか、畑と決めた以外のエリアはどうしていくのか、それら全て何も決めていない。

 

 折角なら“人間らしく”振る舞っている通り、自分で手入れした庭園に愛着が沸いてくれる、あるいは土いじりが趣味となるのを願いたいものだ。




次回はソラがこの屋敷へ来た頃のお話です。
特殊タグと和解ができないよ……!
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