古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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違うんです、競馬場に行ってるワケじゃないんです。信じてください
ゆるして!


11 おえかき

 廊下の清掃中、ふと急に視界が暗くなった。

 最近にしては珍しく今日は晴れたと発電効率を安心していたのに、また急に曇って来たなと窓に目をやるが晴天である。むしろ雲一つすらない。

 とすればオートで調整していたカメラの設定が何らかの原因でおかしくなってしまったのかと考え、マニュアルに切り替えて調整していくけど特に変な所は見当たらない。

 

 ふむ、と物理的な故障を疑って顔を上げる。

 ……私服のシャーロットが目の前にいた。

 目が合った瞬間に、彼女は叫ぶ。

 

 

「お絵かきターーイム!」

 

 

 うわああ。

 マイクがああああ。

 

「……」

「あれ、ソラっち?」

 

 急に叫ぶな、急に大声を出すな、あああ、マイク感度があああ。

 

「……」

 

 テステス。マイクテスト、微調整。あーあー。

 で、どうしたんだいったい。

 

 改めて見上げれば、シャーロットは普段の数倍に体積が膨れ上がる程の重装備……もとい木箱を幾重も重ねて背中に取り付けている。

 ただでさえ高身長にも関わらずそんな装備しているせいで上は天井すれすれ。中身がぎっしり詰まっているであろう木箱はとても重たそう。

 お絵かきタイムというのだからお絵かきの道具を揃えているのだろうが、そんなに必要なものなのか?

 

 というか、私に向かって叫ぶ必要は? あとシャーロットは今日非番では?

 いつもは休みの日に屋敷へ来ることはないのに、もしかしてそのお絵かきタイムの為だけに来たのか?

 なんも分からん。

 

「……」

「お絵かきターイム!」

「……」

「お、お絵かきターイム!」

 

 何回言うんだ。うるさいし。

 マイク感度を手動のままにしておいてよかった。

 

「ソラっち、お絵かきっすよ!」

「……」

 

 そうだね。

 

「おーえーかーきー! っす!」

 

 うわぁ肩を掴むな。揺らすな。

 まさか私を巻き込むつもりか。巻き込むな、仕事の邪魔をするな。

 

「昨日アンとエミリーがお絵かきしてるの見て羨ましくなったんすよ。だから、ソラっちはシャロとお絵かきをする義務があるっす!」

「……」

「ね!」

 

 絶対に義務はないと思う。意味も分からないし。

 というか、それに付き合ったら仕事サボって職務怠慢になると思うぞ私。

 どうしても連れていきたいならジョージを通してくれ。一応私の持ち主だから。

 

「あーもう。機械みたいに融通が利かないっすねー」

「……」

 

 機械みたい、じゃなくて機械そのものなんですけど。

 

「しゃーないっす!」

 

 なんか分かってくれたみたいなので、こくりと頷いて掃除を再開。

 今日はこの後に倉庫の整理もしておきたいんだ。

 小柄なボディとはいえ力仕事が得意な機械なので、私がちゃちゃっとやっておきたい。

 私がいる限り、この屋敷の誰も腰痛にはさせんぞ。

 

「仕方ないからジョージの旦那に直接言って無理くり休み取らせるっす!」

「……」

「ソラっち、そこで待ってるっすよ! 決して動くなぁー!」

 

 がっしゃんがっしゃん。

 フルアーマーシャーロットは廊下をずんずん進んでいった。

 

 

「……」

 

 

 よくもまぁあんな総重量で動けるものだ。見た目だけでとても重いだろう事くらい分かるぞ。

 私があんなに荷物を持ったらバランスを──いや崩さない。シャーロットができてるんだ、機械の私にできない筈がない。

 

 シャーロットは言うて生身の人間だぞ? それ相手に機械の私が負けるなんて事ありえんだろ。

 せいぜい劣るとすればお風呂のような極端な熱に弱いとかそういう機械として仕方ない面だけだし、まさかパワーで劣るなんてあってはならないだろう。

 ……大丈夫だよね? 人間相手にパワーで押し負けるとか、ないよね?

 

 

「あら、ソラさんどうされましたの?」

 

 シャーロットと正面から戦ったら下手すると負けてしまうのではないかと予感が頭をよぎった時、エミリーが現れた。

 どうやら私を手伝いに来てくれたようだ。

 

「……」

 

 エミリーは……ワンパンで倒せるよな。問題ない。

 蜘蛛のように壁と天井の隅に張り付ける身体能力の持ち主だけど。

 それって倒せるか? 倒しきれるのか? 本当に?

 何だか平然とこの屋敷に異物である私が迎えられた理由、元から人外魔境だったって説が出てきたな。

 

「掃除が終わったら、次は倉庫の整理でしたわね。一緒に参りましょう?」

「……」

「ふふ、ソラさんでもうっかり予定を忘れる事がありますのね」

 

 動かない私をエミリーは撫でながら(撫でるな)微笑む。決して予定を忘れて立ち尽くしている訳じゃない。

 私が今ここに留まっているのは、シャーロットが「動くな」と動作コマンドを設定してしまったからだ。動いていいと言われるまで動けない。

 首を床に振っても伝わる訳がなく、勝手に私の手をにぎにぎするエミリー。やめれ。

 

「参りましょう?」

「……」

 

 おっけ。動いて良しの指示が出たので歩こう。

 片手をにぎにぎされながら階段を下り、一階の廊下を奥へ進み、私の棺が納められた小部屋を通り過ぎ、資材倉庫へ。

 倉庫に収められる前にとりあえずで仮置きされた物々が、扉の前にいくつも並んでいる。

 

 こんな山盛りの物品をこの屋敷内でどう消化していっているのかは不明に思ったが、横で解説してくれているエミリー情報によると、送られてくる物資の半分くらいはやはり消化しきれずこの倉庫に送られ眠っているらしい。

 町の中で作られた陶芸品工芸品のサンプルだったり、ブロンテが勝手に送ってくる試供品だったり。

 特産品は贈呈とか手土産で使えるらしく緩やかに消費はされるけど、試供品は使いどころに悩むしブロンテの送るペースもペースなので溜まっていく一方なのだとか。

 

 試供品といえば、私が先日装着した半透明の雨具とかもそうか。

 ブロンテの性格もあるし、これからは私に関連するアイテムも送られてくるのかな。

 発掘した腕だとか、脚だとか。単純にスペアは欲しいし、パーツ取りして自作とかやってみたい。

 無骨なパイプや配線剥き出しのロマンなスクラップアーム……じゅるり。

 

 がっしゃんがっしゃん。

 それはともかくこれらを早く運ぼう。シャーロットが帰ってくる前に。

 そしてシャーロットよりも積載量が多い事を証明するために。

 

 

「ソーラっちぃーーーーーっ!」

 

 

 5分程度の時間しか経っていないのに、シャーロットの声が!

 くそ、思ったより早い! どこだ、どこからくる!

 

「! ソラさん上から!」

「……」

 

 ずどん!

 二階から飛び出したのであろうシャーロット強襲型が窓越しの向こうに一瞬見えて、着地の勢いで足裏の土を爆発させ巻き上げながら大地に立った!

 

 がらっと窓が開き、煙と共にシャーロットが上半身を乗り入れてくる。

 

 

「もう、シャーロットさん危ないですわ!」

「わはは、ついショートカットしちゃったっす!」

「……」

 

 つい、の勢いで出来んだろうそれは。

 私がやったら膝か腰かどこかサスペンション的な何かが痛んでしまう。

 

「で、ソラっち。半休取らせ……取れたから一緒にお絵かきしにいくっすよ!」

「シャーロットさんずるいですわ!」

「こういうのは行動した者勝ちっす! 許せエミリー……」

「……」

 

 ぐい、とシャーロットに手を引かれる。

 おい私を窓から外へ引っ張り出そうとするな。

 腕が取れるとかの前に私の重量を無理に持ち上げようと……できてるな。

 

 シャーロット力持ちすぎないか?

 私の重さ分かってるか? 鉄の塊なんだぞ?

 

 ちょっと待て、私の胴体が伸びる、ぎちぎち言ってる。

 待てやてめぇ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「もー。誰も使ってない山道だからすーぐ自然に還っちゃうっす」

「……」

「道は分かるから遭難の心配はないっすよー」

 

 自然に還りつつある裏庭から伸びる、自然に還りつつある小道(?)をシャーロット先導で歩く。

 私の目には獣道的なものすら分からないが、前を行く重装備の人間には分かるらしい。

 

「アンの為にもちゃんと手入れしないと駄目っすねー」

 

 なぜそこでアンが?

 未だに顔も見ていないアンは、もしかしてこの道の先でいつも仕事をしているとか?

 そういう裏方仕事というか離れた場所で仕事をしているというのなら、いつも姿が見えないのにも納得するけど。

 

 いやでも屋敷内で仕事をしている風に皆言っているし?

 うーん分からない。聞いてみたい。

 ほんっとに何でコミュニケーション機能を無くしちゃうかなぁ。

 

「……」

「ソラっちは足元大丈夫っすかー? 滑りそうだったりしないっすー?」

「……」

 

 首を横へ振る。

 湿った土へいい具合に足がめり込んでいるので滑る心配はない。

 私の意思表示を受け取ったシャーロットはうんと頷くと、じゃあペース上げて行くっすよーとずんずん進みだした。

 

「……」

 

 遅れないようについていこうとこちらもペースを上げようとして、何かつまずき転びかける。

 幸いにもオートの姿勢制御だけで何とかなったが、一体何につまずいて……。

 

「……」

 

 足跡だ。

 重い荷物を背負ったシャーロットの足跡が、私の足首くらいの深さまで陥没してる。

 全身が鉄の塊である私ですら地面を意識せずに歩いてもそこまで沈まないぞ?

 踏み込んで多少は沈むとはいえ、ここまで沈まないぞ?

 

 靴のサイズは私よりも大きいのに、私より沈んでるってどういう事だシャーロット。

 ということはあれか? 今そっちの重量って私以上なのか?

 

 シャーロットの身長が目測180センチちょっと。お風呂で見た素の体形からおよその体重を割り出す。

 続いて足跡のサイズから靴の大きさ、足裏の面積を出して、背負ってる物がどれくらいの重量であり総重量いくらで踏み込めばこの深さまで……。

 

「……」

「どーしたっすかソラっちー?」

 

 ……やめよう。計算したって無駄だ。およその数値なんだし。だいたい、こんなの合ってるわけないし。

 だって特殊な訓練を受けてる軍人でもない町のメイドがさぁ、そんな重量の荷物を持てるワケがさぁ。

 ねぇ?

 ずんずん進んで踏みつけてめり込んでるだけに決まってんでしょ。

 

「……」

 

 シャーロットが本当に人間なのか怪しくなってきたけれど強制的に思考をリセットして、無言で付いていく。

 無言でしか付いていけないから。理由のある無口で助かった。

 話題の無い気まずさを言い訳できる。

 コミュニケーション機能なくて助かったー。

 

 

 

 この植物はこういうの。あるいは、この辺ぬかるんでるから気を付けて。等々。

 喋れない私を気遣ってか途絶える事なく喋り続けるシャーロットの案内がしばらく続き、一時間くらい歩いた末に広場のような所に辿り着いた。

 山頂の広場、展望台。草原。どれが適任かは分からないけれどとにかく見渡しのいい所だ。

 疲れを見せずだかだかと走ってシャーロットが走っていく。

 

「ソラっちこっちっす! 町が見下ろせるっすよー」

「……」

 

 呼ばれたので柵の付近まで行けば、確かに私達の町が俯瞰して見れた。

 町の中で一番高い所にあるジョージの屋敷も見下ろせる。

 いい景色だ。ここでお絵かきをするのか。

 

「荷物開けるからちょっと待つっす。ソラっちはどれで絵を描くっすかねぇー」

 

 どすんとシャーロットの背中から山済みの木箱が降ろされ、中に収められていた画材の数々が展開していく。

 言われなければ到底ひとりでここまで運んだと思えない量。説明しても誰も信じない量。

 まるで露店だ。彼女は帰りの事を考えているのだろうか。

 

「……」

「クレヨンにー、色鉛筆にー、こっちは水バケツ! 絵の具も種類たくさん筆たくさん。ブラシ用の網とかもあるっす! ソラっちがどんな絵を描くか楽しみっすー」

 

 使うかも分からないのに持ってきたの?

 

「あ、もしかしてソラっちってお絵かきした事ないっすか? そしたら最初は簡単に色鉛筆で好きやってみるっす!」

「……」

 

 そういって私に紙の挟まったボードと色鉛筆を渡すと組み立てた椅子に座らせて、机も置いてシャーロットはしゃがみ込み目の前からじーっと眺めてくる。

 早く描けって事か。

 仕方ない、やってやるにはやってやるけど……。

 

 でも絵って何かを描く訳だから、何を描けば?

 写真とはジャンルが違う訳だし。いやでも写実画とかそういうのもあったような?

 

「心の向くまま、心に映った風景を描くっす!」

「……」

 

 うーん、心か。私は機械だから本当にあるのかは分からないけど、でも心を持ってしまった云々って前に見た映像で言われてたし。

 意味もどれがそれに該当するものか分からんけど。

 やってみるか。心にある風景を……。

 ……風景……? 風景ってどのジャンルだ? わがんね。

 

 

「お、動いたっす。芸術ってこうやって生まれていくんすねぇ」

 

 

 まぁいいや。とりあえず適当になんか色を置いとけばそれっぽくなるだろう。

 赤を塗って、次は青。

 濃淡を変えて横線を何度も引く。

 色と力を変え、上から順に、順に。

 

 知識とかそういうの関係なく、性格上人間的な絵の描き方はできないと切り捨てているのでプリンター方式。

 順番に色を重ねていって、最後は参考画像を出力した綺麗な一枚絵が完成するはず……なんだけど。

 なんか上手く色が混じってない気がする。

 もしかして色鉛筆ってそういうの無理?

 

「……」

 

 いったん筆を置いて、ぐいっと腕を伸ばしてちょっと離れて見てみる。

 カラフルな横棒が沢山あるだけで、なんかノイズ混じりの画面みたい。

 ハッキリとこんな風景を出力しようって訳でもなかったからかなぁ。

 何も考えずに画像を出そうとすれば、ある意味こうなるのは正しいのかな。

 これを絵としてしまうのは芸術家達に失礼だけど。

 

「ジャンル的にはなんすかね、印象派?」

「……」

 

 私に聞かれても。

 

「ソラの心の中はこうなってるんすねー」

 

 やめろ、何かそういう目で鑑賞するとなんか私がヤバい人みたいじゃないか。

 いや人ではないんだけど。心もあるかどうか分からないし。

 んん? どうなってるんだ私の機構。

 

「……」

 

 なんでもいいから次だ次。

 今描いたそれは練習だ。出力テストだ。

 

「お、さっそく二枚目っすね!」

 

 そうだとも。

 色鉛筆は上手く色が乗らなかったので、次はクレヨンを使わせてもらう。

 こっちはぺたぺたしてるし色が混じりそうだし今度はイケる。

 そして、さっきの反省からハッキリと描くものを決めておこう。

 

「……」

 

 風景風景……画像設定よし。

 

「いい調子っすよー! ごーごー!」

 

 見た事のある風景をそのままは流石にバレてしまうというかアレなので、今まで蓄積した様々な風景の合成。コラージュを作成してから出力する。

 私の目覚めた棺を中心に、屋敷の廊下や印象深かったトリブレのいる暗い路地、関わった事のある面々の顔を並べて描いていく。

 小説の挿絵か表紙の絵のような構図の、いい感じになるはずだ。

 これが上手く描ければ心のヤバい人的な評価はされない!

 

「……ソラっち?」

「……」

「あの? ソラっち?」

「……」

 

 次の色、次の色、ぬりくりぬりくり。

 ……ん?

 

「ソラっち、ヤバいっすね!」

「……」

 

 なんで真っ黒の絵が生まれてるの?

 

「あの、ソラっち。なんか、その、ツラい事が……」

 

 違うぞ!?

 これは、その、黒をベースにしたら色が、黒色の混ざり具合が強すぎて、その、だな!

 待て、違うんだ!

 

「ソラっち、シャロはいつでもソラっちの味方っすからね! なんなら家のチビ共に加えてもいいくらい!」

 

 ええーい!

 なんかもうややこしい!

 次だ、次の絵を描く!

 

「うう、シャロもお絵描きするっす……!」

 

 と、次を描こうとしたらシャーロットがクレヨン一式を持っていってしまった。

 色鉛筆、は使えないのが分かってるし。じゃあ消去法で絵の具にしよう。

 

「絵の具の使い方分かるっすかぁ……? バケツとキャンバスはこっちっすよぉ……」

 

 うわ、なんで泣いてるのシャーロット。

 でも丁寧に手本を描きつつ教えてくれた。

 

「……」

「水で溶かしてー、わしゃわしゃってやってー」

 

 よし今度こそいいのを描こう。

 無理に変な事を考えず、のんびりのんびり。

 平和な風景をいい感じに描いて、そしたらおっけーだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぬーりぬーり。

 何枚は無駄にしちゃったけど、だいぶノウハウは溜まったし次こそ本気で描く。

 これぞ機械学習だ。ロジカルを極めし機械の力を……。

 

「……」

「ソラっちぃー」

 

 どうしたシャーロット。

 

「もう真っ暗っすよぉー」

「……」

 

 そうだね。

 あ、明かり欲しい?

 

「みんな心配するし、もう帰るって話っすよ!」

「……」

「首を傾げない! 暗くなったらおうちに帰るのが鉄則!」

「……」

 

 なるほど、それは仕方ない。

 荷物を纏めて屋敷に戻ろうか。

 

「アンがもう準備してくれてるっすよー」

「……」

 

 え、アンが?

 振り向くと、私の使っている一式以外が全てもう木箱に収められていた。

 

「暗くなったら早く帰れって言ってるっす!」

 

 夜道は危ないって話は分かるけど。

 でも、アンはいつからいた?

 というかどこにいる? いないけど。

 

 首を傾げると、シャーロットは少し首を傾げた後に「ああ!」と何か思い至った様子。

 珍しくスムーズに意志が伝わって嬉しい。

 

「今日はもう遅いから、今度また案内するっすよ」

「……」

「じゃ、帰りましょっかー」

 

 案内……?

 なんだろう、意志がちゃんと伝わってない気がする。てか伝わってないわこの感じ。

 疑問があれど聞けず、着々と荷物を背負い始めたシャーロットに乗り遅れないよう木箱を数個抱えて私も持つとアピール。

 

「ありがとっすー」

 

 アピール……のはずだったんだけど、搭載する手伝いのように思われたようで抱えた物を持っていかれた。

 あーあ。またA級ヘビーメタルシャーロットMk.2の出来上がりだ。

 

「ソラっち、道は分かるっすか? 流石に暗いから足元照らしながら先導頼むっす」

「……」

 

 それは任せろ。今日は午後からずっと野外にいたので充電はばっちり。

 文字通り目を光らせて、オートマッピングを頼りに歩く。

 何だろうな。夜道を走る車のヘッドライトになった気分。

 言っても伝わらないんだろうけど。

 

「……」

 

 ……なんで、こういうどうでもいい記憶的なのだけ残ってるんだろうな?

 中途半端なデータ処理しやがって。このー。

 

「いやー、下りは滑っていけるからスムーズっすねぇ」

「……」

 

 ずがががが、と謎の音を鳴らしながら気軽な声が飛んでくる。振り向いたら常識が壊れそうなので振り向かないが、音的にホバー走行みたく滑ってるんだろう。見たいけど見たくない。

 シャーロットはこのまま屋敷に寄って荷物を置くんだろうし、床が汚れないか心配だ。

 一式をそのまま持ち帰るってのはないだろう。実家が有名な画家だったりとかなさそうだし。

 

 だって、シャーロットの絵ってあんまり上手くなかったんだもん。

 

 私の似顔絵として完成品(?)を渡され、喋れなくて良かったと少し思ってしまうくらいにはアレだったぞ。

 なんていうか、例えるなら、紺色のハリネズミを頭に乗せた人みたいというか……。

 私とは別方向に色々振り切った絵だったな。うん。

 

「ソラっちはお絵かき楽しかったっすか?」

「……」

 

 楽しい、というのは分からないけどまたやってみてもいいかなとは思う。

 これが楽しいという感情なら、頷いていいだろう。

 今度はもっとうまく描いて見せる。

 

「うん、うん。なら良かったっす!」

「……」

「今日は思い付きっすけど、今度は時間を合わせてアンもエミリーも誘ってやりたいっすね!」

「……」

 

 そうだな。仲間外れは良くない。

 そしてその状況なら、ついにアンの姿を見られそうだし。

 

 結局、今日もアンも見なかった。

 荷物を纏めるためだけにやってきたのか、あるいは働いてるスペースが近くにあるのか、だから案内するって言ってたのか、色々良く分かんないし。

 やっぱり喋る事ができたらなぁ。あるいは、筆談程度でも出来たらいいのに。

 なんか今日は喋る事ができて良かった喋れなくて良かったって都合のいい事ばっかり考えてる気がする。

 

「しっかし、ふっふー」

 

 ん? どうしたシャーロット。

 

「ソラっちって喋れないし文字も書けないし、シャロ達にモノを伝える手段がないじゃないっすか」

「……」

「でも、今日は違ったっすね」

「……」

 

 どういう事だ?

 

「ソラっちが考えてる、思ってる、見てるモノ。それらがシャロには分かったっす」

「……」

「初めてちゃんと、ソラっちの内面が少し知れて嬉しいって事っす!」

 

 うわぁ抱き着くな!

 こんな斜面で、後ろから!

 

 てか、重ッ!? 荷物云々じゃなくて、シャーロット自体もそこそこ重いぞ!?

 まさか私と同じ機械……ではないな、結構筋肉が引き締まってる!

 クマかおまえは! 

 

「おっとっと」

 

 あれか、子育てしてたとか言ってたしそれで鍛えられてるのか、おのれ!

 

「とーうちゃっくーっすー」

「……」

 

 あ、いつの間にか屋敷の裏庭まで着いてた。

 もうこれ、どこから山なのかどこまで庭なのか一切分からない。

 まぁ野生動物に襲われる事なく無事に帰ってこれたしいっか。雨の影響で道が崩れたりとかもなかったし。

 野生動物みたいな生物(シャーロット)には抱き着かれたけど。

 

「じゃあ、ソラっちが描いた奴は渡しておくっすね。はい」

「……」

「シャロはこれ仕舞ってくるっすー!」

 

 言うが早いか、シャーロット陸戦重装型は地面を転がっていた小石を踏み砕き散らしながら小走りで一足早く館内へ消えていった。

 ため息代わりにファンをぶぉーっと回して、渡された絵を見る。これは今日私が最後に描きあげたものだ。

 色々試して、考えて、ようやくできた一枚の絵。

 

「……」

 

 何となく思いついて描いた、日向で寝転んで伸びてあくびをしている猫の絵。

 これを指して私の内面表現とするのは少し気恥ずかしいけど、悪い気はしない。

 言葉や音にして伝えるよりも深い意味を汲めそうな、喋るより難しい一つの絵。

 

 これが楽しみか、あるいは趣味とするならば。

 これからも少しずつ描いてみよう──

 

 

 

 

 

 ──数日後。

 

 

 

 

 

 絵が、描けないっ!?

 

「どうしたんすかソラ先生! スランプっすか!?」

 

 す、スランプ……?

 

「負けるなソラ先生! 新作期待してるっす! 進捗! 先生!」

 

 うぉーっ!

 焦らせるなシャーロットーっ!

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