かつての昔、約1000年前。
ソラの生まれた機械戦争時代は全大陸の文明が滅びてしまう程の規模だったらしい。
今となっては各地に残る遺跡群がその歴史を細々と語るのみだが、それらは珍しいものではなく、探せば身近な所にもまだその痕跡が沢山ある。
大きな湖や崖、植林地に平原、廃墟。色々とあるが一番見て分かりやすいものは何といっても慰霊碑や墓所だ。
歴史ある町ならどこだって設置してあるそれからも、戦争や兵器の恐ろしさがこれでもかと読み取れる。
「機械戦争時代の終了直後に作る予定だった墓場群。裏山のあれかな……」
日が暮れてしばらく。
メインの仕事(とブロンテの相手)がひと段落したので空いた時間に資料を整理していると、ずいぶん昔の区画整理の企画書が出てきた。
流石に戦争直後のって訳じゃなくてそのしばらく後に作られたものだけど、今存在している町並みとは少し異なっていて興味深い。
特にうちの屋敷の裏庭から続く裏山へ入る道。
どうやら山頂の広場へ向かう道中から脇に逸れた所に慰霊碑を作り、景色の良い場所と合わせ気軽に参拝へ立ち入れる観光場所にする手筈だったらしい。
らしい──というのは、今やその慰霊碑どころか広間すら外部に公開してないからだ。
現存してるのは予定地と思われる場所にぽつんと残された慰霊碑のみ。
ひとまず参拝可能な慰霊碑を作ってからその周囲と意味を整備しようとした所で運悪く大雨や崖崩れ等々、色々な事情が重なって大規模な工事は頓挫してしまった様だけど、気になるのはそこではなく。
「どう見ても、あれ一個じゃないよなー……」
工事は頓挫したとはいえ手始めに作ったモノは残っている。
それ故に領主の業務として代々、年の瀬にはひっそりと存在する慰霊碑の管理はしているのだ。
しかし俺の知ってるのは“慰霊碑”という存在一つだけ。
なのにこの企画書のデザインは、沢山の墓石の並んだ大きな墓場としか思えない。
「もしかしてあの近くに、他にも──」
「──ジョージの旦那ぁーっ!」
シャーロット?
「どうした?」
資料室から廊下へ顔を覗かせると丁度シャーロットが走ってきていた。
あの町内マラソンで毎年一位をキープし続ける鉄人シャーロットには珍しく息を切らせている。
「何のんきしてるっすか! いないんすよ!」
「なにが?」
「ソラっちとエミリーっす!」
そういやしばらくあの二人の姿を見てないな。
「もう退勤したんじゃないのか?」
「タイムカードは放置されてたっす。警備の人に聞いても門から外へは出てないみたいっすし、どこかで動けなくなってるとか、かもす!」
「ソラが電池切れになったとか、エミリーがそれの下敷きになって動けないとか? ありえなくはなさそうだなぁ……」
太陽光で動くソラがどれくらい電気を蓄えているのは分からないが、事情が重なればそうして動かなくなる可能性は十分あるとブロンテが言っていた。
幼い少女にしか見えないと言えど鉄の塊。推定×××kgにただの人間たるエミリーが押し倒されていたら動けないだろう。
もしかしたら気を失ってるとかで助けを呼ぶ余裕がないのかも知れない。
「どこか心当たりは?」
廊下へ出てシャーロットに聞いてみる。
ずんずん歩き出した高身長のメイドについていくと、階段の手すりを指した。
どう見たって人間技じゃなく握り潰された手すりはソラの足取り(手取り)だ。
「粉々だな」
「こんな事できるのソラっちかシャロしかいないっす。シャロは当然やってないっすし……」
「お前できんのかよ」
「できるっすよ? これ丸っと交換でしょっすし試してみるっす! ふん!」
やらんでいい、やらんで。うわ本当に手すり握り潰した。
きっしょ。
「弁解はあるっすか?」
「……ないっす……」
素直な感想を伝えたらアイアンクローされたので力を込められる前に謝る。
「そんで、手すりが壊されてるって事は?」
「壊れた感じを見るに、上から下に向かったっぽいっすね」
「いいねぇ探偵だねぇ」
「うちのチビ共がもの壊した時の犯人捜しもこんな感じっすから」
流石お姉ちゃん。
「一階なら料理場連中が見てないか聞こう」
「それなら先にトーマスに聞いといたんすけど、クッキー貰ってどっか行ったらしいっすよ?」
「クッキーを?」
話が早くて助かる。でも不思議な話だ。
ソラは自分が物を食べられない事を理解しているし、勿体なさと無駄を嫌って受け取らないはず。いつも首を横に振っているのを知っているし目撃してる。
それなのに、今回に限ってクッキーを貰ったのか……。
「普段から怪力で物を壊さないように気を使ってくれてるソラが、手すりを破壊しながら階段を降りて、クッキーを貰って去った。どう考えたって変な話だ」
「調子悪いっすかね? クッキーも実は食べてみたいとかー」
「うーん、確かに調子悪い、のか?」
シャーロットは最近何だか忘れているっぽいが、ソラは約1000年前に作られた機械だ。
長い間ずっと棺桶に放置され、なんやかんやで稼働している今現在もブロンテですら整備の方法が全く分からないからと可愛がるだけで特に手は加えていない。
故障か何か、人間でいう“調子が悪い”にあたる事が起きていても仕方がないのかも。
なんにせよ早いところ見つけてあげよう。
エミリーが潰されてたら危うい。
「警備の人達が見てないなら、屋敷の中にいるはずっすけどねぇ……」
「ブロンテはなんか知らないか?」
「んえ?」
ちょうどトイレから出てきたブロンテに聞いてみる。
どうやら知らないらしい。
「待て、何の話だい?」
「ブロンテ先生も知らないとなるとお手上げっすねぇ」
「何の話?」
「エミリーのやつもどこいったんだかな」
「おーい」
うるさいよブロンテ!
こっちは真面目に考えてんの!
「ええ、理不尽じゃないか……?」
「普段この俺を振り回すからこうなる」
「ソラくんに頼んで物理的に振り回して貰おうじゃないか。ん?」
「そのソラがいないって話をしてたんだが、知らないか?」
「わたしが知る訳ないじゃないか。さっきまでずっと棺桶とにらめっこさ」
まだあの棺桶調べてたのか。ソラが入ってたやつ。
考古学ってのは意味が分からん。
オッペンハイマー商会ってこんなんでちゃんと儲けられてんの?
「喧嘩売ってんのか貴様」
「口調」
「まーまーお二人とも喧嘩せず。猫も食わない喧嘩した所でソラっちは食べてくれないっすよ!」
「犬も食わない、だ」「ソラくんに消化機能はないよ」
戯れが過ぎた。
ブロンテ、ソラとエミリーが行方不明なんだが何か知らないか?
こう、どこかで見たとか。
「ふむ……。ソラくんとは君と一緒に部屋で会ったきりだね。エミリーくんは確か、夕方くらいにランタンを貰いに来たかな?」
「ランタンっすか?」
「ああ。わたしが細部を照らそうと借りてたものなんだが、少し用事ができたと言っていてね」
どこへ向かうとかは聞いてないか?
「流石にそこまでは。特段興味もなかったし」
「だよなぁ」
ソラは情報なし、エミリーは明かりが必要な所へ向かったのか?
一応地下倉庫的なのもあるにはあるけど、ちゃんと月一の点検で明かりがつくのは確認してるし必要ない筈。
てかそもそも何で地下へってのも。んんんー? 謎だらけだぁ。
「夕方に用事ができたと明かりを持って行ったのなら、向かう先は外じゃないのかい?」
「それが警備の連中によると町へ向かったって事もないらしい」
「町に明かりを持ってく必要はなかろう? 森だよ森」
ブロンテがどや顔で裏庭とその先を見る。
そっちぃ?
「なるほど、流石はブロンテ先生! 考古学者! シャロ達一般市民とは違った視点!」
「わっはっは、照れるなぁシャロくん」
……待てお前ら。
仮に裏山だとして、山林のどこへ向かったかの確証も無い連中を、日も暮れた今から探索するのか……?
「うーむ。確かに遭難者の探索には向いてない時間だね。向こうには一晩何とかしのいでもらおうか?」
「エミリーはともかくとして、ソラっちが危ないっすよ!」
「逆じゃないかねシャロくん。だが、太陽光で発電して動くソラくんが薄暗い森で行動不能になる危険は確かにあるね」
しゃーない。シャーロットは警備の人達に事情を話して頭数を集めてくれ。
ブロンテは俺と一緒に装備集めな。
「りょかいっす!」
「任せたまえ」
倉庫を漁れば山の散策に使える道具の数々が出てくる。
でも整理はされてないから探すのが大変。ごちゃごちゃになってる理由?
それはねブロンテくん。君が毎回毎回色々持ってくるもので地層が生まれてるからだよ!
「人のせいとか君も落ちたものだな」
「実際その通りだろが」
今回に限ってはそれに感謝だが。
探すのが面倒でエミリーがわざわざブロンテが使っている途中のランタンを持って行った事から行き先が分かったのだから。
窓から外を見れば、遠くからでも分かる大柄なメイド服がどたばたと駆け巡ってあちこちに声を掛けている。
まとめて説明するとかもう少し効率的に動けないのかと思うけど、あれでもシャーロットは焦っていたんだろう。
「──それにしても、ソラくんが不思議な行動をしているのも気になるね」
「俺もだ。普段からしてみりゃおかしいとしか言えない」
「器物破損、クッキー横領、失踪。時系列を整理すれば、エミリーくんと並んで森へ向かったという訳ではなく、エミリーくんが後を追っていったという説が押せる」
「シャーロット曰く調子が悪いんじゃないかとさ。昔の機械ってこういう故障の仕方するのか?」
「知らん」
「えぇ……」
そういえばアンもどこへ行ったんだろう。
いつもソラの世話を焼いてるアンが何の反応も示してないのも、なぁんか気になるんだよなぁ。
「そうか、そういうことか!」
どうしたブロンテ。
「ソラくんは怪電波を受信してしまい、普段では想像もつかない事をしてしまったのだ!」
「意味が分からんし、ちゃんと倉庫漁り手伝え」
「いやまてジョージくん。ジョジカス。全裸包帯女児型ドール収集趣味」
おいごら最後。
最初にそのソラを俺に押し売りしたのはてめぇだぞ。
で、その怪電波って?
ソラが変な行動をした理由があるってのか?
「センシャやセントーキといった敵の兵器を無力化するために、いびつな電波を浴びせて行動を狂わせたとかなんとか」
「……そんなもんがこのケィヒンにあんのかよ……?」
「ま、確率は低いと思うがな!」
「ソラに襲われたら次はないなぁ」
あったあった。地形図もあった。
そういや裏山の地理辺りの把握、そろそろまたやんないとだなぁ。
この前の雨でまたどっか崩れたとこもあるだろうし、後で商会に依頼の文送っておこう。
「旦那ーっ! せんせーっ!」
諸々を持って表へ出ると、屋敷に残る最低限を覗いただろう人数が揃っている。
それらを集めたシャーロットはひとつ汗を拭うと、「最後にもう一人呼んでくるっす!」とか言いながら町へ飛び出していった。
「二次災害を警戒し、各々見える場所から離れない事! いくぞ!」
「うーん、次第点の呼びかけ。もうちょっと格好つけた方が好みかな」
うるせぇブロンテ。
「どうしましょう……」
その時、墓石と崖の前でエミリーは立ち尽くしていた。 機械であるソラの重量では崖に手や足を掛けても土が崩れて登れない。
暗い夜道を戻るための明かりは眼下でうっすらと目を光らせているソラの手元にあり、自分用のものが無いのだ。
「どうしましょう……!」
誰にも言わずここまで来たので救助が来るまで時間が掛かるだろう、そう思い至ったエミリーは──にやけた。
それはもう、気持ち悪いくらいにやけた。
どうしましょうとか口では言って何とか体裁を保とうとしているようだが、隠しきれない怪しい雰囲気がソラにも伝わっている。
何とか崖の上へ戻れないかと試していたその手が止まり二歩三歩後ろへ歩ませるくらいにはキモかった。
「ソ、ラ、さぁ~~~ん!」
「……」
ぐっとポーズを決めたエミリーが突然の跳躍!
空中で膝を抱え一回転をすると、すたっと綺麗な着地を決め再びかっこいいポーズを決める!
いつも通りの無表情と猫のような釣り目で振り返ったソラだが、言葉がなくともドン引きしているであろう事は傍からでも容易に想像がつく。
なにをしとるんだこいつは、と。
「大丈夫ですわ。このエミリーお姉ちゃんが付いてますもの! 朝になればきっと、流石に誰かが気が付いて助けが来ますわ!」
「……」
「ああ、こんなにお肌が冷たく……それに震えて……。寒かったでしょう? 怖かったでしょう!?」
「……」
抱き着かれたソラはふるふると首を横に振りさり気なく頭部にある通気口(猫耳)で攻撃をするも全く効果がない。
「……」
正しく無理やり抱っこされた猫のような、死んだような目で遠くを見ているソラ。
その一方で、ソラの危機を救うお姉ちゃんという
全く噛み合わない二人を誰にも見せたくないとでも天は言っているのか、月に雲がかかって更に暗くなってきた。
暗く静かな森に機械の駆動音だけが続く。
「……ここ、お墓でしたの。そうですわよね、夜の墓地は怖いですわよね……」
そう言いソラの肌をさすって温めている……ように見えて、ひたすらネットリとお触りをしているのは気のせいではない。
エミリーはそういうやつだった。シャーロットが危惧した通りソラが色々危ない状況になってしまっている。
折角の静謐な雰囲気が台無しだ。
「……」
幸いなのはソラがまだ下心的な事に気が付いてない点のみ。
最初こそその行動を不思議に思えど、言葉を素直に受け入れ耐えてくれている。撫でられるのは嫌なので死んだ目で。
ちなみに生体スキンを使っているとはいえその下地は鉄なので燃費を抑えている今は当然冷たいし、震えているというのはファンの振動だ。
出会ってから毎日のように顔を合わせていて一緒に仕事をしていても、未だに中々噛み合わない。
「……」
「ああソラさん、お眠ですの?」
「……」
そんなこんなグダついているが、ソラにはもう一つ危機が迫っている。何者かに無理やり非効率的な行動を強いられた結果の電力不足だ。
この調子でエミリーに付き合っていたら朝までどころか数時間も持たないし、自身の重量を把握しているからこそ電池切れで動けなくなった場合も考えなければならない。
崖下というポジションは朝になってもしっかり日が差す保証がない。
朝になったら充電のできる場所まで移動できる程度の電気を残したいので省電力モードにしていたのを、エミリーは“眠い”と勘違いしたようだ。
一度首を横に振ろうとして、人間換算で間違えた表現ではないと思い至って頷く。
ぽんぽんと背中を優しく叩くエミリー。
「ソラさん。大丈夫ですわ……。さぁ、ゆっくりお休みになって……」
「……」
朝まで
でもそちらはどうするのかと座って力を抜きながら指差して首を傾げると、エミリーは大丈夫とのみ返すだけで全く根拠がなかった。
「……」
エミリーは寝顔を見るつもりである。
自分に身を委ね安心して眠るソラの顔を、二人きりで邪魔されない状況というシチュエーションと合わせてたんまり堪能するつもりである。
「大丈夫」
──いや、全然安心できない。
「……」
まずソラの身体を支えるのは(できそうなシャーロットを除いて)人間には不可能なのに抱きとめようとしている。このままスリープモードに移行すればエミリーを潰してしまう恐れがある。
第二に自分が行動不能な状況で(できそうなシャーロットを除いて)動物に襲撃された場合、身を守る術がない。
ソラもソラで思考が斜めへ向かっているので全く噛み合わないのだ。
この二人の組み合わせは間に誰か突っ込みや翻訳を挟まないとどんどん明後日へ向かう。
明日の朝を迎えればいいのに、ずいぶんめんどくさいお二人である。
「……」
「ソラさん、怖くて眠れませんか?」
「……」
何かあれば首を動かし目のライトで照らし、襲われたら一瞬だけ動き撃退。そして日光の当たる場所まで移動する分の電力は残さないといけない。
すべき行動の決まったソラはスカートが汚れるのを厭わず土へ座り、マイクのみをオンにしてカメラ機能すらオフ。
音で敵の把握をし、時折カメラでも確認し、そうして朝まで耐える気らしい。
ソラの内部で確認できる時刻はいつの間にか真夜中の0時。
日が出るまでの時間を耐えるソラの孤独な戦いが今始まった──
「──は、は、は始まらなくて、も、へ、平気、だよ」
沈黙を唐突に声が遮った。
瞼パーツがガシャっと音がする勢いで急いでカメラを起動させた瞬間は、ソラにしては珍しく表情があるように思えるほどの勢いをしていた。
他に誰もいないと思い込みぐへぐへと顔をだらけさせていたエミリーも跳ね上がるほど驚く。
何の物音も立てず、唐突にそれは現れたのだ。
「ここここんば、んは」
ずんぐりむっくりとして丸々とした胴体と、それとは反対に鋭利な手足を持つシルエット。
その中から聞こえる特徴的な口調は、ソラも聞いた事のある声。
──怪しい事も怖い事もない。あの道化師トリブレが駆け付けてきてくれたようだ。
「……」
「ト、トリブレさん? どうしてここに……?」
あられもない顔をしているだろう事はエミリーも分かっているので急いで整え何とか冷静に振舞おうとしている。
相変わらず生身を見せず先代から貰ったという巨大な人形をちょこちょこ操りつつ、トリブレは気にせず答えてくれた。
「シャロ姐、に、た頼まれて……ささ探しぃ……に、きたんだ……よ」
「……夜中で危ないのに、探しに来てくださったのね……。ありがとうございます」
人が来るのは予想外なものの、危険を顧みず探しに来てくれた事に関しては素直に感謝する。
実のところ心配されていたのはエミリーよりソラの方だが。主に、暴走したエミリーに襲われたりしてないかとか。
古代兵器の機械人形よりも警戒される人間とは一体……?
「……」
「んふ、ふふ……。そ、そソラちゃん、は……と、とも、と、友達だ……か、から」
「まぁ! お友達になってましたの!」
「……」
救助が来たなら、それも戦闘力の高そうなトリブレが来たなら平気だとソラも省電力を止め頷く。
これほど友達という存在がありがたいと思った事はない。
「ところでトリブレさん。トリブレさんはどうやってこちらへ?」
「んん。が、がんばって」
「そうですの!」
「……」
いやそれで納得するんかい。言葉も顔も、手も出さずソラは内部で突っ込んだ。
「みん、な、ししし心、配ししてる……か、ら、帰ろ」
「……」
「皆さんにはご迷惑をお掛けしましたわね」
くしゃくしゃとソラの頭を撫で立ち上がったエミリーが、崖の上でちらちらと照り始めた明かりを見る。口調からして一緒に謝ってくれるようだ。
ソラ的には全て自身に変な行動をさせていた敵か味方も分からない“怪奇現象”に全ての責任があるとさせたいが、どうにも今はいないようだしそもそもそうと説明もできないので泣き寝入り。
いつも通り黙ってしっかり従事して恩を返そうと心に決め、エミリーに手を引かれつつ立ち上がる。
「
「ありがとうございます」「……」
ふと自分が乗っても大丈夫なものかとソラは思ったが、トリブレと呼んでいるこの機体なら平気だろうと意を決し背中の取っ手を掴む。
一箇所だけだと破損させたりする可能性があり危ないので、両手で掴み、身体を持ち上げ、足も。まるで大きなぬいぐるみへ必死にしがみ付く子供のような姿となったのを見てエミリーは微笑んだ。
今度首都からブロンテに頼んで買ってもらおう、そう計画しつつソラへおぶさる様にトリブレの背中へ引っ付く。
当然ソラからは何してるんだと思われたが、掴まる所が少なくてと言い訳をすればすぐそれを信じ何も思われなくなってしまう。怪しさ満点な事に気が付いてソラ。
「じゃ、あ……ゆ、揺れ、るから……」
「お願いしますわね」
「……」
日常で使うには物々しい鋭利な腕を振るい、崖に突き刺し、足は差さずに底の面をしっかり捉え超重量で踏み固めつつ登る。
「トリブレさん、頼りになりますわ」
「んふ、んふふふ……あり、がと。こ、こ今度こ、こ公演するると、時、は……見にき、きて、ね」
「……」
エミリーもソラも、迷わず頷いた。