まずハッキリさせておきたいのが、私が機械であるという事。
今の技術では到底理解の及ばない超複雑なロストテクノロジーの塊なのだ。
そしてその正体、中身は恐ろしい兵器である。
開発の状況的には兵器としてというより“空”という人物の代わりを作ろうとはしてたらしいっぽいが、それでも元が兵器である事には違いない。
そんなこんなで見た目がモデルとなった“空”の容姿そのままであるのなら、私が褒められた容姿を否定するのはに失礼に当たるだろう。
だが。だがな。
我が元となる“空”には申し訳ないのだが、今ここにいるソラはとても不服に思っている。
「ボーイッシュも似合うっすねぇ。アンが用意する服ってスカートばっかりだからこういうのも新鮮っす」
「……」
「パンツルックにストッキン! にぃ、スカジャン!」
「……」
「うーん、いいっすね。シャロの目に狂いはないっす」
ここにいる私は機械であり、兵器であり、屋敷のメイドだ。
確かに正式名称は二八式軽自立機械人形だが、あくまで機械人形。着せ替え人形ではない。
今日日どころか最近ずっと私を人間として見ている節があるし、シャーロットの目に狂いがあると思う。
ほらここ見てみ? 両こめかみの追加装備にそこへ掛けたバイザーあるでしょ? どう見たって機械じゃんこれ。普通の人はこんなのくっつけてないよ。
「あー……」
自身の頭を指差してアピールすると、流石に気が付いたのかシャーロットが言葉を詰まらせた。
思い出せ。私は機械だ。
「それ、似合ってて可愛いっすよ!」
思い出してくれ。
私が私が機械だって事を。
分かってくれ。
ファッションアピールしたい訳じゃないって事を……。
「シャロ的にはもうちょっと色抑えた方が似合うと思うんすけど、サイズが今手元にないんすよねー」
もういいよ……。
それで、なんで急に私をこんな格好に変えさせたのかの説明をして頂きたい。
説明をして頂きたい、が。聞けないのでまずはこの着せ替えを終わらせる他ないのが苦しい。
「ソラっちに任務を課す!」
メイド服に比べて子供っぽいというか、いや私の背に合わせれば子供なのは確かだけど……なんだこの服。
脚にぴったりくっつくこの黒い薄い布はなんなんだこれ。いつもの肌着と違って凄い熱いから外したいんだけど。
あとこの上着も分厚い素材だから熱が籠って辛い。涼しい季節は免罪符ではないのだぞ。
それはそうとして任務か。なら任せろ。
この私にかかれば大体なんだってこなせるぞ。なんせ精度100%の機械だからな。
庭の草むしりから悪党の粉砕まで何でもできる。
「我が家より脱走せしチビーズと接触し、和解せよ―!」
「……」
おー!
──って、待て。喋れない私にどうしろと?
和解するのは私じゃなくてシャーロット、そっちがだろう。
「ごー!」
喧嘩した仲直りに私を使う必要は?
「……」
仕事の続きは話を付けておく、と言われて背中を叩かれ家を追い出されてもどうすればいいのか分からん。
そもそもなぜ私に。命令とあらば、まぁ機械故せざる得ないんだが……納得いかない。
あれか? 仲直りの橋渡しついでて私と友達にしてやろう的な、トリブレの時みたいなアレ的な。
屋敷だけでなく町とも関係を持つという事に利点があるのは分かる。分かるんだけど、今必要かなぁ。
「……」
家の前に広がる海を見る。内海なのか島が近いのか、すぐ対岸の見えるのんびりした風景だ。
読んだ本によれば、分からなくなった時は海を眺めると良いらしい。
「……」
よし、今は置いといて目の前のすべきことをしよう。
シャーロットは確か今が幸せだと言っていた。それに関わり、それを守ることで何か掴めると信じよう。
「……」
そろそろ行こうか。シャーロットはもうとっくにいないし、とりあえず動かない事には始まらない。
去る前に捲し立てられた情報として、双子であるというのが分かっている。あと年齢も。
12歳の男女二人組で双子、一つの町にそう二つといない特徴を探せば良いのだ。
ちなみにシャーロットから見た身長的な話じゃなくて、5つ下の年齢だから子供扱いしてチビ呼びらしいよ。
──あれ、それだとシャーロットって今もしかして17歳なの? あの身長で?
180cm越えてなおまだまだ成長中らしいのに?
「……」
双子の情報に高身長も追加した方が良いだろうか。
町の地図を視界の端に文字通り浮かべながら陽向を歩く。これは理想的な発電の仕方だね。
さっき家の外で音がした辺りを中心に路地裏を行っているが、探し方は合っているかな?
こうやって町をうろつくのはトリブレへ会いに行った以来だ。
道はしっかり覚えているし、今度の休日は私から会いに行ってみようかな。どうせ休日あるし。
「あ? 何見てんだチビ」
「……」
「何この子、猫耳ついてんじゃんウケる」
「……」
うーん……この二人組ではないな。それぞれの年齢が違う。
「……」
「うわこっちきた」
「……」
「迷子? 道分かる?」
服装と顔は似てるけど、惜しい。一応候補にはしておくか。
「……」
むぅ、こっちは薄暗いから行きたくないな。
しかし行かない事には探せもしないし。
「……」
「おっと、あぶねぇな」
「気を付けなよチビ」
明度の調整で一瞬視界が暗くなった矢先、何かへぶつかりそうになったのを回避し、同時に聞こえたチビという発言に首を傾げた。
この言い方、聞き覚えがあるな。
ピントを合わせて目の前の人間二人組を観察する。
「んだチビ。なに睨んでんだよ」
「……」
「やめなよジェーン。チビ相手に」
「……」
チビチビうるさいなー。
だが、お陰で音声サンプルが集まった。そのチビの発音の仕方、シャーロットと全く一緒だ。
そしてそれを言う男女の似た二人組。お前たちが私が会うように仕向けられた双子だな。
「……」
「ごめんね君。ジェーンはちょっと今気が立ってるんだ」
「……」
「おいヘレンほっとけよ。そのチビ何にも言わねぇし」
喋れないのは仕様だ。
それにしたって、会ってこれからどうしようか。
相手を観察してみる他ないのだが。
「……」
12歳の双子とは聞くけれど、子供とはいえ男女の違いや髪を伸ばしているか否かで既にだいぶ印象も分かれるものだ。
似てるといえば似てるが、親族だしある程度パーツが似ているものだろうというくらい。全くそっくりと言うほどではない。
お互いに名前を呼び合っているお陰で女の方がジェーン、男がヘレンだというのも分かった。
「ん? これ
「ほんとだ。てか俺達が昔着てたやつじゃん」
「“俺達”というか、オレが主に着てたけど」
「そだね」
気が付かれた。謎の着替えに。
町中でメイド服は目立つというかシャーロットの職場関連とバレるから着替えさせたのだろうと適当な推察できるが、結局これシャーロットハウスにある古着だから本人達を前にしたら意味ないじゃん。
まさか本当に着せ替えさせたかっただけじゃなかろうな。
「……」
気が付かれたからにはしょうがない。
もしここで手先だとバレて怒られ襲われても、相手の武器はなんて事のない木材。
全身鉄の私と正面でぶつかって勝てると思わない事だ。
こっちには必殺技のエルボーロケットがあるぞ。腕を飛ばす遠距離技だってある。
「この子が着てるって事はまたシャロ姉だな?」
「あーあー、ジェーンが家出みたいな事するから」
「オレのせいかよ。ヘレンだって腹立ててたじゃんか」
「そりゃあ……そうだけど」
なんだなんだ。姉とその下だけでなく双子同士でも喧嘩中か?
「悪いね猫ちゃん。という訳で帰ってくんない?」
「……」
「なにさ首振ってさ」
私は猫ではない。これは猫耳ではない。
通気口だ。ほら、動く。
「それ付け耳じゃないの!? すげぇ!」
「黒猫義賊みたい! かっこいい!」
やっぱり伝わんないよねー。
「知ってる? 黒猫義賊って小説。猫の獣人が良い事するの」
「かっこいいんだぜ?」
うわぁ目がキラキラしてる。
シャーロットの親族とはいえ12歳。まだまだ遊び盛りの子供か。
私も子供の頃は……ないわ。子供の頃。機械だし。生まれつきこの身体、この性格だ。
機械だから性格でもないか。生まれつきこの設計だ。
「本当に獣人っているんだなー」
「とっくの昔の機械戦争で絶滅したって聞いてたもんな」
うっ。機械戦争時代、その時代の遺産として申し訳ない……。
「あ、ごめん知らなかった?」
それは、うん。知らなかった。最近読書はしてるんだけど。
文明滅ぼしたんだもんなぁ私の時代。
「……オレ達さ、シャロ姉に代わって家を守りたかったんだよ」
唐突に、どかっと近くの木箱に腰を下ろしたジェーンが呟く。
どういった心境かは分からないが、話してくれる気になったようだ。
「黒猫義賊みたいにって言ったらあれだけど、ほら。俺らってずっとシャロ姉に負担かけてたからさ」
「長女だから死んだ親との約束だからってあいつ何でも一人でやっちゃうの。オレらのこといつまでも子供扱いして」
「……」
「働いて家の借金返しながら家事もして、色々我慢して格好つけて……」
シャーロットもそれを楽しんで苦には思っていないが、庇護下の者は不服か。
小説でよく見るすれ違いだ。たまたま最近そういう感じの読んだ気がする。
「だからっ、家はオレ達がっ、せめてっ、守るんだっ」
「という訳だから、シャロ姉にはよろしくね」
ジェーンは手にしている木材で素振りを繰り返し、ヘレンは優しく私を撫でて話を終わらせようとする。
もしや帰る流れになってないか?
喋れないから帰った所で伝わらないしどうしようもないんだけれど。
首を振って否定。
まだだ、まだ終わってない。
「ちょっとなに? まだなんかあんの?」
「……」
「というか、なんで喋らないんだろ」
「……」
「黒猫義賊だってプロローグは喋れなかったじゃん。ほら、道化師に喋れるようにしてもらうまで」
「あぁ確かに。──いやそれは関係ないでしょ」
「……」
駄目だ。ぜんぜん駄目だ。駄目機械だ。
やはり私にどうしろって。
「おうおうガキ共。テメェらこんなとこに居やがったか」
「……」
なんか唐突にガラの悪い三人組がやってきたんだけど。何こいつら。
「もう。時間になったじゃんか」
「俺達の事は……いや、これシャロ姉には言わなくていいよ。じゃあね」
「……」
待て。
さっきから持ってる木材といいあのガラの悪い連中といい、黙って帰る訳にはいかないぞ。
「……」
「あ、おいチビ」
ジェーンにヘレン。背伸びをしてもまだ子供だ。
先程ちらっと聞いた家の借金という単語と並べると、こういうのは大抵借金取りだ。
金が払えねぇならって揉めてるに違いない。木材で武装してる辺り絶対そうだ。
戦闘であれば任せて貰おう。
私は機械戦争時代に生まれた兵器。人の少女の成りをしているが、今この場で最強。
きちっと手加減してやるからかかってくるがいい。
「ほらどけって、おっも! 重たいなこいつ!」
「ちょっとヘレン。女の子に失礼──本当に重たい!」
「……」
「何してんだお前ら」
肩を掴んだ程度で動かせると思ったか双子よ。
内部はガチガチの鉄がぎちぎちに詰まったガチガチの機械だぞこちらは。
シャーロットは窓越しに持ち上げる奇行をしてしまったが、普通であれば押し動かすのも無理なのだ。
「──ソラっち。シャロがやるっすよ」
ふと薄暗い路地裏へ影が差す。
続いて落下音。着地音。シャーロットか。
「……」
「その目は仕事に戻ったんじゃないかって顔っすね? すね?」
「……」
その通りといえばその通りだけど。
「アンに全部押し付けて駆け付けたっす!」
何してんだてめー。
「しゃ、シャロ姉……」
「やば」
双子の方はというと、どこからか文字通り跳んできたメイド服の姉にビビっているようだ。
「さっきの話聞いてたっすよ。ごめんっす、気付いてやれなくて」
「あ」「その」
うむ。和解したなら良しだな。
あとはあの目の前にいる危なげな三人をどうにかせねばならないのだが。
「でも、ああいう危ないのはまだシャロに任せるっす」
「あれ?」
「ちょっ、シャロ姉?」
「ほわたーっ!!」
何か言いたげな双子を無視し、シャーロット突貫。
すぐさま大の男三人相手への乱闘が始まった。
相手の拳を寸で避けカウンターに肘を打ち、不意と隙を突いた蹴りを受け止め距離を取る。
明らかに素人の動きをしない謎の高身長メイドに面食らいつつも、相手も荒事が専門なのか徐々に油断を無くし対応していく。
機械を禁止しても、人間同士の争いは止まないか。しかし規模が大きくなれば、戦いの道具を理想化し競争していけばいずれ……。
シャーロットの踵落としが石畳を割り、外した平手が煉瓦の壁へヒビを入れる。
私が止めないといけないな。やはり。
「その人達、自警団の人!」
「オレ達はその人達と一緒に見回りしようとしてたんだよシャロ姉ー!」
「危ないことしようとしてたんじゃないんだよー!」
……まじか。
ああ、私もシャーロットも早とちりか。人を見た目で判断してはいけなかったな。
何とかして止めねばなるまいが、現在あの乱闘へ割って入るのは厳しい。
力業で止めても怪我をさせてしまうし、かといって声は出せないし。
うぅーん。あ。
びっくりさせればいいじゃん。
「……」
「ちょ、チビ危ないって!」
乱闘の最中へ飛び込み、割と本気で振るわれていたシャーロットのパンチを受け止める。
かなり重たい拳だ。やばい単位の威力を計測できてしまった人間離れの拳を停止させ、対峙。
まだ全員臨戦態勢なので、脅して戦意を喪失させてやろう。
全身の出力制限を一時的に解除。
まずは脚。思いっきり、ふんばる!
「床が砕け散った!?」
「あのチビ、重たいし本当に何なの!?」
「あっ。ソラっち! ストップ! ストーップ!」
次に腕。
電力消費なんて何のその。今この一撃に全てを込める。
「……」
「ソラーーーっち!」
エネルギーチャージ完了。関節ロックおーけー。
いくぞ。エルボーロケット!
「うわ──」
「な──」
目の前で驚く三人と、後ろで驚く二人。必死に名前を叫んでいたシャーロット。
それらの声が一瞬かき消される程のジェット音で放たれた一撃が、付近に置かれていた木箱を粉砕する。
中身の詰まっていたそれはたやすく砕け、破裂し、爆発音を響かせた。
少し大げさ過ぎたかも。
でも、争いを収める為に多少は強引でも仕方ない。
「よかったぁ」
「……」
「もうっ。ソラっちったら危ないっすよっ」
なんかシャーロットが安心してる。まさか、この威力を相手に打つと思っていたんだろうか。
流石の機械で兵器とはいえ私だって当てたらマズいことくらい分かるぞ。だから逸らして横を狙ったんだ。
「え、何あれ……」
「やば……」
思えば屋敷の人達が謎に私を受け入れてただけで、この世界での基準からしてみれば機械の私は異常なのか。
しまったな。機械が普通ではない事を忘れていた。
振り返ると、こっちを真っ直ぐに見つめているジェーンとヘレンの目が合った。
だいぶ、怯えてしまっている。やり過ぎたか……。
「……」
すまないシャーロット。友達にはなれなさそうだ。
「すっげー! パワータイプの黒猫義賊じゃん!」
「シャロ姉より強そうでかっこいい!」
あれ。ドン引きするんじゃないのか。
どういうことだシャーロット……は、自警団の人と何やら話し込んでて助けてくれない。
喋れない私を放置しないでくれ。
「え、マジの獣人!? 獣人ってこんな力あるの!?」
「腕光ってたのって魔法!? 魔法なの!?」
あーわ。離して。撫でないで。
助けてシャーロット。こういうのは力で引き剥がせない。
にこにこしてないで助けろ!
「……」
色々と疲れた。いや機械である私が疲れる事は無いのだが、しかし人間で例えるなら気疲れという奴だ。
シャーロット一家の仲直りに貢献できたのなら、それは良い。良いんだ。良いんだよ。
この件、考えれば考えるほど私を巻き込む必要あったかという疑問が出る。
巻き込むべきはジョージじゃないのか。この地域の主として。
「おかえりソラ。今日は誰も相手してくんなくて寂しかったぞぅ」
「……」
執務室にはいるが仕事を終えてのんびりいたジョージへ何となく茶を差し出すと、ぶっきらぼうにそう言われた。
だが……構われたら構われたでうるさいとかやかましいとか言うじゃないか。
良かったな、先に帰ってきたのが無言の私で。
というか、誰もいないってどういうことだ? 分かりやすく首を傾げる。
シャーロットに仕事を押し付けられたアンがいたし、ブロンテだって今朝いただろう。
「ブロンテはとっくに帰ったよ。首都で大急ぎ調べたい事があるそうだ」
「……」
「何でまだ首傾げてんだ?」
アンについてはさ。
──いいや。やっぱりアンは私の前どころかジョージの前にすら姿を現さないのか。最初の紹介の時にすら出てこなかったし。
もしや、かの怪奇現象の正体がアンなのか。皆が話す状況的にそうだとしても今は驚かない。
以前に脱衣場でドライヤーを故障させたのだってアンだろうし、そんなことできるのは怪奇現象の特権だ。
そんな怪奇現象と交渉かなんかして屋敷へ雇い入れてるジョージにはビビるが。
「しっかし」
「……」
「ソラに関係する事とは言え、今さら何を調べるってんだ?」
「……」
おいごら、なんか重要そうな事を勝手に進めるなブロンテ。せめて私になんか言ってから帰れ。
「あ、これあいつが置いてった手紙な」
ありがとうブロンテ! ちゃんと話を通すとこ大好きだぞ!
「んでだソラ。今日はシャーロットん所で一件やらかしたみたいだな?」
もう知っていたか。
代わって家を守ろうとした双子と、亡くなった親との約束で妹弟を守り続ける姉のドタバタ劇。
結局は双子に稽古を付けていた自警団を借金取りと勘違いしたシャーロットが暴れて終わったな。
一件やらかしたと言っても私自身は双子の捜索と暴力沙汰の制止、仲裁を受け持っただけだ。
人を殴りつけたり蹴りつけたりしていないし、何なら本気で暴れようとしたシャーロットを止めたのであって罪はない。
私は無実だ。
「な、なんで拳振り上げてんの? 振り下ろし先に気を付けてくれ……ください」
「……」
何故ジョージは私の拳を掲げた抗議ポーズに驚いている。
「勘弁してくれ……シャーロットのガチパンチを超えるお前を相手にしたくない……」
「……」
「何で首傾げるんだよぉ」
兵器なんだし人間であるシャーロットを超えるのはそら当然だろう。
そんで、人間へ暴力を振るってはいけないなら物に当たるしかない。
以前にこの屋敷で扉を殴った以上の威力をお見せするのは大げさだったかも知れないが、仕方がなかったんだ。
「……」
というか、どうしてジョージは色々知っているんだ?
この屋敷へ最初に戻ったのが私なら、まだ何も知らないはずだろう?
「うーん、もっとお前の言葉が分かればなぁ……」
耳を指差し首を傾げた程度じゃ伝わらない。悲しい事だ。
「戻ったっすよぉー!」
あ、シャーロットが帰ってきた。
話し合いはもういいのか?
「安心するっすソラっち! なんとこのシャーロット、町への愛を認められて自警団名誉団長の称号を頂いたっす!」
それただ畏怖されてるだけでは?
「……」
「それただ畏怖されてるだけじゃね?」
「もー。なんすか旦那それー」
珍しく私の言葉がストレートに伝わった。ジョージと意見があっただけともいう。
「あ、てかジョージの旦那は今日の話もう聞いてるっすか? ソラっちから聞いた?」
「……」
「ソラからどう聞くんだよ。アンから聞いた」
「あぁー。納得っす」
やっぱアンいるじゃんか。
何でさもいないかのように。
「お、ソラっちなんすかそのポーズ! かっちょいいっす! がおー!」
「……」
「怖いからその威嚇やめさせてくれ……」
抗議ポーズだ。
「アンはどこいったっすか?」
「んー? ソラが帰って来たら消えたな」
「またっすか。そろそろソラっちと仲良くしてるところ見たいっすー」
「なんかあいつ、やっぱソラのこと避けてるよなぁ」
「……」
「ちょっと呼んでみるか」
む?
怪奇現象がイコールでアンで合ってるならそんなに避けられてる感じはしないけど。
あとは……この前だって身体を乗っ取った時にも馴れ馴れしかったし。
ジョージが手元の鐘を鳴らすと、すぐに扉の前でかたんと音だけがした。
この場にいる全員で顔を合わせ、首を傾げる。
ジョージがため息をついた。
「あーあー、ソラがいるって気が付いた途端に逃げちゃった」
「……もしや」
なんだシャーロット。心当たりがあるのか。
「ネズミだから、猫耳のソラっちを怖がってるとか!」
いやこれは猫耳とかじゃなくて通気口──
「……」
──ちょっと待て! ネズミってどういうことだ!
ほら今ちょうど窓に見えてふわふわしてる怪奇現象、あれがアンじゃないの!?
急いで窓を指差して首を傾げるが、なぜか撫でられて誤魔化された。誤魔化されんぞ、あと撫でるな。
「うぅーん。折角なら仲良くなって欲しいっすけど、無理強いは良くないっすよねぇ」
「単に一方的に怯えられてんならソラが可哀そうだし少し取り持ってやれ。はいこれ命令な」
「……」
「分かったっす。今日の恩もあるし、このケィヒン自警団名誉団長シャーロットひと肌脱いだるっす!」
「穏便になー」
先ほど私が指差した窓をがらっと開け、シャーロットが飛び降りていった。
普通の人間なら耐えきれない高さだろうがそこはほら、うん。名誉団長さんだし。
「ふんぬらぁ!」「ぴえぇえ!」
「……」
「アン、大丈夫かな……」
「……」
命じたのはジョージだぞ。私は知らないからな。
というか今ちょっと悲鳴みたいなの聞こえたけど、やっぱり怪奇現象とアンは別なのか?
「捕まえたっすーーーっ!」
あ、捕まったっぽい。
なんか怖がってるらしいのに、ジョージの采配がごめん……。
どたばた音がして、ばんと扉が開かれシャーロットが帰ってきた。
小脇に小動物を抱えて。
小脇に、小動物を抱えて。
見間違い、か……?
でもあれ小動物で間違いないよね……?
「ソラへの紹介が遅れたな。あれがこの屋敷に所属するメイド衆最後のひとり、アンだ」
降ろされたそれはシャーロットと比較せずとも十分小柄な、私と文字通り肩を並べる背丈でメイド服を着た人物。
しかしその人物をただ、“人”と一言で表現してしまうのは疑問が出るだろう。
何故なら、何故ならその頭の先には──
「たべないで……」
二つの丸くて大きな、耳が付いていた。
※ケィヒン自警団
町を愛する若者が集まって出来た組織。
乾燥する時期になると拍子木を持って火事防止を呼び掛けたりする。