古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

2 / 36
あああ感想! お気に入り! 感謝ですわ!(発狂)

という訳で一話目に来る予定だった、ソラが発掘され目覚めるまでのお話です。前半割りと説明多め?
時系列的に一番最初。ほのぼのメインにしたいのでシリアスは一瞬。投稿は明日。


2 蘇るソラ

 雑多な物が陳列される薄暗い部屋の中央に置かれた棺の蓋が、ずずずと重い音を立てながらゆっくりと開かれる。

 オッペンハイマー商会に所属する昔馴染みの考古学者・ブロンテに連れられて見せられたそれはまるで……全身を包帯でぐるぐる巻きにされ、棺の中に寝かされた小さなその姿を一言で例えるのなら“ミイラ”だろう。

 観察しても特別な部分があるか包帯だらけで分からず、何とか上げるとすれば頭頂部に二つの出っ張りがある事と左腕が肩から欠損している位なものだ。あとカビ臭い。

 

 ブロンテが調査をしていた機械戦争時代末期の、今から千年ほど前の遺跡から発掘されたらしい。

 ただ、わざわざ地方にいる俺を呼んでまでこれを見せる必要が今現在に至るまで話されていないので全く分からない。

 

 

 現在地は首都モリカマの中央、商会支店にある地下倉庫。

 普段なら絶対に足を踏み入れないこんな所へどうして、突然「話がある」とわざわざミイラ一体の為に呼んだのだろう。俺に考古学の趣味はないし、それゆえの収集なども行っていない。

 

 疑問に思う俺をやはり無視してブロンテはしゃがみ、丁寧に床に置いた棺の蓋に書かれた文字を読み上げる。

 

 

「正式名称は二八式軽自立機械人形。個体名はソラ。──ミイラなんて呼びをしないであげてくれ」

 

 

 どうやらミイラと呼んだのに腹を立てているようだ。

 その二八式……なんたらソラはともかく、そろそろ俺が呼ばれた理由を聞きたいんだけど。

 

 俺が普段いるケィヒン海岸と首都モリカマまではいくら急いでも、交通の都合上2日や3日は掛かる。

 当然その間は仕事が滞るし、よっぽどの事でなければ流石にそろそろブロンテを怒らなければなるまい。

 彼女は時折思い付きで行動し周囲を振り回すことがあるのだ。周囲、というより主に俺を。

 昔からの良き友人を便利な人間だと勘違いしていないか? 

 

 

「まず結論から話そうジョージくん。君にはこのソラを買い取って頂きたくここまで来てもらった」

 

 ……買い取り? 

 

「理由は?」

「わたしがソラを欲しいから」

「お前な……」

 

 悪く言えばブロンテは手癖が悪く、遺跡から気に入った機械や部品があればあらゆる手を労して自分の物にしようとする。

 今まで俺を頼る事はなかったが、ついに俺を利用しソラを入手したいという所か。

 

「──ああ、違う違う。今回は事情が違うんだ信じてくれジョージくん」

 

 まぁ手癖は悪くとは言ったが少なくても悪人ではない。悪人であれば商会内で既にしばかれている。

 今回は何か事情があるようなのでひとまず話を聞いておこう。

 無ければ俺がしばく。拳で。

 

「ソラを発掘した場所は戦争時代末期の遺跡だとは事前に説明した通りだが、もう少し詳しく言うと博物館と思われる様な所だったんだ。ああ、今思い返してみても多種多様様々な機械群が立ち並ぶ姿には心踊らされるよ!」

「で」

「──で、その博物館と仮称している所からソラの収められたこの棺を見つけた訳だが……ソラのいたエリアには数多くの危険な兵器が安置されていたのだ」

 

 現在各国が同盟を組み様々な機械開発を違法として人力馬力を主力とし大衆が乗り込める鉄道航路には厳しい監視を設けているのは、古代に起きた大規模な戦争によって資源も自然も人類そのものも失われ、文明が衰退の一途を辿る悲惨な歴史が存在しているからだ。

 “機械戦争時代”と呼ばれるそれが収まり文明が息を吹き返した現在は、その反省から電気ガスのエネルギーは明かりや料理等々のごく限られた用途にしか許可されていない。

 大雑把に言えば兵器転用可能な機械の開発が基本的にご法度となっている。

 

 そんな現在にとっての遺物であり異物である発掘品、機械戦争時代の兵器群。古代兵器。

 兵器がひとまとめに置かれたエリアにあった棺とその中に収められた人物が、まともな存在であるかは怪しい。

 もしかしたら見た目のみ人間に寄せた、肉を持ち生きていた人間生物ではないのかも知れない。

 

 いいや、絶対にそうだろう。

 でなければ、ブロンテは特別視しない。

 

「その顔、恐ろしさが分かったようだね?」

「ああ」

 

 遺跡の調査とは恐ろしい古代兵器の破壊処分を目的とした面もある。

 明らかに兵器と見て取れる発掘品は兵器利用や技術の解析を防ぐためすぐ潰し破壊し溶解されるが、鑑定で危険性がないと判断され処分を免れた物は骨董品コレクター向けのオークションに出される。

 

 ブロンテは、ソラをオークションというどこの誰に渡るか分からない事をしたく無いのだろう。

 ソラはパッと見てただのミイラ。あるいは、少し見てくれが悪いが埋葬されたお人形。

 

 しかし、もしソラが本当に兵器で、競り落とされた後にそれが判明したら。

 あってはならない存在が世に出てしまう事となる。

 

「血のない部品によって構成された人の形をしただけの兵士。命令に忠実で、人間にできない事を平然とこなしてしまう超兵器。矢で射られようが死なず倒れず、拳は無感情に肉の身体を突き破る。武器を持たない子供と見せかけた暗殺者など恐ろしい他ない」

「その通りだよジョージくん。さあ、契約書にサインを」

 

 それは分かった。

 ただ、それならばさっさと危険だし処分した方が良いのでは? 

 

「前述を忘れたのかね? もう一度言おう。──わたしはソラが欲しい」

 

 あぁ……。

 どうせ探求心研究心その他下心諸々。

 下手をすれば超弩級の犯罪行為となる事に俺を巻き込まないで欲しいと言いたいが、こうして話す辺り断らないと勝手に決定されての事だろう。

 というよりも、断った所で勝手に家に搬入されそうだ。ブロンテはそういうことするやつだと知っている。

 そして請求もされる。ちゃっかり値段も釣り上げて。

 最悪だ。やっぱりしばこう。拳で。

 

「わたしがソラを求める理由を勘違いしていないかね? 興味は興味でも、歴史への興味だよ」

「……まさか起こして当時の事を聞くのか? 暴れるかもなのに?」

「子供程度の機械が一体くらい暴れても平気だろうさ。テッポーも持ってないし」

「対処するの俺なんだが」

「はっはっは」

 

 笑って誤魔化すんじゃない。

 手のひらサイズの機械でも容易に人は殺せるって聞いたことあるぞ。

 

「まぁなんだ。ソラを危険だと勝手に思い込んでいるのはここにいる君とわたしだけだよ。鑑定が済んでいる故に売却保有も問題ない」

 

 それは……。うん、そうか。

 俺達が陰謀論めいて話しているだけで端からすればソラはただの人形、か。

 ここまでブロンテが俺を脅すかのように話しているのは、危険性を忘れるなと言いたいだけの事だろう。

 

 大げさなんだよパンチ!

 ……かわされた、だと?

 

「ささ、ではこちらの契約書にサインを」

 

 なんだろう。いつもの事ながら上手いこと言いくるめられてる気がする。

 というかこの契約書、値段がおかしくないか? 高すぎるという意味で。

 

「高すぎると何かしら怪しまれだろ」

「そこは考えてある。御贔屓がどうしてもというので割高取引をしたってストーリーさ」

「お前の懐に幾ら入る?」

「4割」

 

 お前な……。

 

「研究投資と呼びたまえ。もちろん表向きにこの値段は輸送費と鑑定費諸々ひっくるめてという事になっているよ」

「……はぁー。分かった、その値段で行こう。後で何かしら返せよ」

「やりぃ!」

 

 決して、決して確かに安くはないが事情を含めれば安い。……多分。

 領民からも「金持ちらしくしろ」とか「贅沢して権威を示せ」とか「領主ってより町長」とか「裏庭が汚い」とか色々言われてるし、散財には丁度いい買い物の筈。……多分。

 

 ため息交じりに移動して、細々とした書類を書いている途中にはもう棺は表へ出されていたしブロンテのシナリオ通りだったんだろう。というか断ってもやっぱり運び出していたんだろう。

 蓋を締めてあるし中身は本物の人体ではないとはいえ、家に泥カビ臭い棺を持ち込み置いておくのはあまりいい気はしない。

 倉庫か空き部屋にでも入れておこう。そも観賞用にも買う訳でもないしそれくらいが丁度いいはず。

 

 

 

 

 

 Network: Error.

 Battery: 2%

 Auto reboot: Error.

 System: Safe mode...

 

 

 

 

 

「例の博物館に残っていた私の調査隊が左腕を持ち帰ってくれたよ。それも、御覧の通りソラの肩に丁度くっ付けられるような大きさと状態のをだ。そこでふと気になって見に来たんだが、そう。ビンゴだったよ。お互いの断面同士はまるでパズルのように組み合わさる作りをしていた」

「……それも買い取れとか言わないよな」

 

 タイプライターを打つカタカタという単調な音が響く室内に、自信たっぷりなブロンテの声が通る。

 喋るだけならまだマシも、手持ちのアタッシュケースから取り出した綺麗な色白の左腕を視界の隅で揺らして興味を引こうとしている。

 急に動きそうで怖いからそれを揺らさないで欲しい。

 

 

 ここは執務室。集中したいので仕事中はお茶汲みにメイドが訪れる以外は基本的に誰も立ち入らせていないのだが、彼女のあっけらかんとした性格と「知り合いだしいっか」という風な緩い警備のせいでこの有り様。

 仕事を片付けた後なら幾らでも付き合うのでご勘弁願う。

 

 

 ──ソラを買い取ってから早くももう半年が経ち、危惧していた古代兵器の目覚めもなく平和ないつも通りの日常を過ごせている。

 少し以前と変わった点としては、ブロンテがよくこの屋敷を訪れるようになった事のみだろう。

 来る度にソラを仕舞ってある一室へ入り何か調査的な事をしては今日のように新しい発見や、あるいはそうでなくても些細な事でも雑談をしに執務室へ寄って首都へ帰っていくのだ。

 

 棺をこの屋敷へ搬入するのは大変だったし、メイド衆や警護人ら等々説明はもっと大変だった。

 主人が突然首都へ用事ができたと飛び出して、帰ってきたと思ったら手土産に遺跡から出土した汚い棺を買って帰ってきたのだから質問攻めもやむを得まい。

 

 そこまでして我が家に連れ帰ったにも関わらず、リターンは襲撃頻度の増したブロンテによる仕事の妨害。

 やはり買うのは失敗だったか。もう後の祭りとしか言いようがない悲しみ。

 

 

「ちょいと。聞いてるのかい?」

 

 来ない客人が腰かける為のそこそこ良い素材でできた二人がけのソファをひとりで占有し、ベッドのように寝転んで思う存分に寛ぐブロンテから非難の目が向けられる。

 その態度に俺も非難の目を返したいが、やりあっても仕方ないのが彼女だ。適当にあしらう。

 しばくのは諦めた。

 

「あーはいはい」

「全く。まぁまとめるとソラは肩や肘、股関節や膝といった大間接部から容易に取り外せての換装が可能であると思われる作りをしているのだよ。戦場での共食い整備を視野に入れていたのかな? うーん、とても興味深い……」

 

 そうか。俺は興味ないけどな。そんなん聞いてないし。

 文面を確認し、間違いがないのを確認してサインを一筆。そろそろ仕事も疲れてきた。休もうか。

 

「つれないなぁ全く。──とと、忘れるところだった。届いたものはこの部屋にあるのかい?」

「届いたって、何がだ?」

 

 筆休めに紅茶を飲み背もたれを傾けると、丁度少しは身のありそうな話題となった。

 ただ、別にソラの件より以降はオッペンハイマー商会へ変わった注文は出していない。せいぜいが普段通り街灯の整備と漁船の修理依頼くらいなもの。

 ブロンテは何を言っているんだ? 

 

「まさか、忘れたの!?」

 

 大きな声を出すな。

 あとキャラを保て。

 

 にしても本当に何の話だろう?

 仕事にミスがないかはちゃんとチェックもしてるし大事になる様なものは忘れない内に優先して片付けている。何かあったとしてもすぐ気が付く筈だ。

 決して安くないソラの支払いだって済んでいるし。

 ただ口振りからして何かを俺が注文するって話だろうが……ダメだ、全然わからん。

 

「あーもう、デリカシーのない男だよ全く」

「悪い。何を忘れているのか教えてくれないか?」

 

 ブロンテの誕生日プレゼント……はちゃんとよく分からない魚の標本をやった。何か適当なのやらないと不機嫌になるから。

 あと他の何か忘れそうなことは──

 

 

「ソラの服」

 

 

 ……はい? 

 

「ソラの入ってる棺の蓋、名前のところに“彼女”と書いてあったと前に教えただろう? それで、“じゃあ服を着せてやらないとな”って君が言ったんじゃないかっ!」

「あー……」

 

 言ったような、言わないような……。

 なんか冗談半分に適当こいた心当たりがあるような、ないような……。

 

「片腕のない少女型の人形を裸包帯っていうニッチな人達が喜びそうな状態で放置! 服を用意しようと言って放置! 全くこれだからジョージは……」

 

 ジョージは余計だジョージは。

 しかし、確かにこのままだとソラの所有者である俺は端からすれば人形にとんでもない格好をさせている変態になりそうだ。

 普段は棺に入れて蓋も閉めっぱなしなので部屋の掃除をするメイド達を含め未だソラ自体には誰も合わせていないが、時間の問題になりそうだな。

 

「他に何か服はないのかい? 町に服屋か何かは」

「探せばあるだろうが、この時間だしもう店仕舞いかもな」

 

 日は沈み始めている。今から表へ出ても間に合わないだろう。

 

「え。あー……うん……しまった、これはまずいな……」

 

 座り直したブロンテの歯切れが悪い。取り出していた左腕をアタッシュケースに仕舞い、膝に乗せ、とんとんと思案するように指で叩く。

 続いて落ち着きなくケースを床に置き直すとソファの正面にあるローテーブルに肘を付け、口元を手で隠しながら、機嫌を伺うように横目で俺を見ながらそろりそろりと言葉を続けた。

 

「その……君がちゃんと用意してると思って棺から出しちゃった……? みたいな……?」

 

 うん……。うん? 

 全裸包帯少女人形を、見えるところに? 

 

「ご、誤解はしないでくれ! 棺からは確かに出したが、部屋からは出してないっ!」

「ばっきゃろ! どのみち見つかるじゃねぇかお前!」

 

 仕事してる場合じゃない。

 ばんっと机を叩いて席を立ち廊下へ。

 ブロンテも焦った様子で後を追ってきた。

 早歩きで廊下を進む。

 

「す、すまない! 確認してからにするべきだったな! わたしとした事が失策!」

 

 つか、よく棺の中からソラを出せたな。

 鉄部品だらけなのかあいつって大きさの割にクッソ重かったはずだぞ。 

 

「大変だった!」

「そりゃそうだろうな」

 

 廊下を抜け階段を数段飛ばしで降りて、曲がって進んで突き当たり。

 倉庫に収まらなかった為に誰も使わない宿直室へソラを置いたのは失敗だった。遠い。

 まだ、まだここへ誰も来ていないといいが。

 

 

 がちゃり。

 

 

 

「お、ヘンタイ旦那の登場っすね」

 

 

 

 ばたん。

 

 

 ブロンテさんや。時間を戻すよう物を発掘してないか? 

 あるいは、超スーパーすげぇ武器。

 

「ないよ」

 

 ブロンテ、後で、泣かす。

 ジョージ、これ心に、決めた。

 

「覚悟を決めて入ろう。見たところ中にいたのはシャロくんだけだし説明がつく。わたしから説明するよ……」

 

 ああ、そうだな。一人くらいなら闇に葬れるな。

 シャーロットよ、君はよくこれまでうちのメイドとして働いてくれた。

 今までありがとう。そしてさようなら。

 

「聞こえてるっすよ旦那! 冗談だしクビにはしないでくださいよぉ!」

 

 部屋の中からなんか聞こえた。幻聴だろう。

 うちで働くメイド三人衆の内がひとり、シャーロットは年頃の若いもんなもんで口に戸がない節がある。口調があれだし。

 仕事ぶりは確かに信用できるが、大局を見ればここで海の藻屑にするのが正解だろう。

 

「もずく!?」

「バカやってないで入るよ」

 

 わ、ちょっ。引っ張るなブロンテ。

 

 入った部屋の中央には棺が置かれ、そこから一拍置いた壁際にベッドが置いてある。そのベッドの縁に腰掛けるように、頭部だけ包帯を外されたソラは俯いて佇んでいた。

 反対の壁際にはスタンドライトが備え付けられた机と椅子があるので、一見すれば人形の為に部屋を用意した風にも映るだろう。真ん中の棺は違和感だらけで邪魔だが。

 

 カビ臭さを解消するためか開けられた窓から差し込む夕日に照らされるソラの横顔は、やはり精巧な作りと言わざる得ない。

 紺の髪の毛と重力を無視した猫耳のような形をした頭の三角、それとこめかみにある謎の隙間は不思議だが、それらを置いても美少女を象った人形としては完成度が高い。

 問題は、諸々合わさって俺が属性過多な変態だと思われた事だ。死にたい。

 

「分かってるっすよご主人、シャロもそこまでバカじゃないっす。どうせまたブロンテ先生のいたずらでしょ?」

「どうせって何かねぇシャロくぅん?」

 

 うん、まぁ。

 ブロンテのせいと言えばそうなんだけど。

 

「にしてもお前、よくそんなミイラみたいなの見て騒がなかったな」

 

 顔と髪に巻かれていた包帯は外されているのでそこを見れば精巧な作りをしただけの少女人形か何かと判断は分つくが、ボディは年季が入って汚く臭い包帯で覆われている。

 昨日までいなかったそれが突然ベッドに座っていたのだから、いくらドブに躊躇いなく腕を突っ込みネズミを鷲掴みにするシャーロットとはいえもう少し騒いだりとリアクションはないのか。

 

「そりゃ最初見たときはびっくりしたっすけど、けどカビ臭い包帯巻きでかわいそうかなーって方が上でしたね」

「棺の蓋が開いてるんだし、死体が動いたわーきゃーくらい叫んでくれた方がまだスッキリした……」

「ん? ……あ! この子って棺の中にいたんすか!?」

 

 今気がついたのか!? 

 

「ふふ。流石はわたしの見込んだシャロくんだ」

「えへへ」

 

 何を見込んだんだ。肝っ玉か? 

 それはともかくこっからどうするか考えよう。

 ともかく服を着せないとなって話だった。

 

「それなら勝手に用意させて貰ったっすよ。じゃーん、メイド服ー」

 

 話を聞いてシャーロットが自慢げに近くのクローゼットから取り出したのは、どういう訳か小柄なソラにぴったりサイズのメイド服だった。紺のワンピースに白のエプロンといった基本はともかくとして、うちで働いていることを示す細かい刺繍までしっかり作られている。

 

 今までこんな身長の人物を雇った日はない。

 一番背の低かったメイドはアンだが、彼女がソラほどの身長ではなさそうとは見て分かる。

 

「家のチビ達が着たいっていうから前に発注ちょろまかしたんすよ」

「ちょろまかしたってな、お前一応従者だよな?」

「ジョージの旦那に仕えるかわいいメイドちゃんDEATH(デス)!」

 

 何だその主人に対する言い方。本当にメイドか? あとお前の背が一番高いんだからかわいい言い方しても似合ってないぞ。

 まぁいいや。シャーロットの態度がアレなのはいつもの事だし、俺も言うほど気にしてないし。

 それにソラの洋服問題がまず何にせよだし。

 

「くくく、兵器疑惑のかかった機械人形が、メイド服か……! はっはっは! 流石はシャロくん!」

「やっはー! 誉められたっす!」

 

 こいつらの価値観は分からん。

 ともかくシャーロットにブロンテ。着せるなら頼んだぞ。

 お人形遊びをする趣味はないけどその格好は可哀想なんだ。

 半年放置してたけど。

 

「手伝うよシャロくん。ソラはとにかく重たいんだよ」

「助かるっす。でも実はこれ、チビ共にもすぐ着られるように簡単な作りに改造してるんすよ。先生はそっちもって貰って……」

「ほうほう、流石は大家族の長女」

「えへへ」

 

 機械とはいえ姿は少女。

 着替えを眺めるのも何か悪いし、俺は仕事に戻るか。

 休憩の筈だったのになんか疲れた気がする。

 

「じゃ、俺は戻るからな」

「はーい」

 

 シャーロットの気楽な返事を聞きながら背中を向けて、この部屋を後にしようとドアノブに手をかけた時。

 

「お?」「え」

 

 ふたりの呆けた短い声と、チュィイインという高い金属音が鳴り響いた。

 まさかと思って振り返った先、ベッドに腰かけたままのソラの右腕が動いている。

 ブロンテがいたずらで持ってきていた左腕をけしかけた訳ではなく、ソラは最初から自分についていた包帯巻きのその右腕を動かし、シャーロットの左腕をしっかりと掴んでいた。

 

 

 

 

 

♪ 

 

 

 

 

 

 Network: Error.

 Battery: 5%

 Auto reboot:OK.

 System: Normal mode.

 

 Success.

 Wishing a great future. Miss Solar. ヾ(*´∀`*)ノ

 

「やはー! 褒められたっす!」

「手伝うよシャロくん」

 

 

 再起動と共に誰かの声が聞こえた。そちらも気になるが先に状況の確認を。

 

 ──太陽光検知。現在時刻、年代共に不明。データ破損。

 読み込めるデータログによれば幾万幾十万と何度も再起動を試みてようやく成功したらしい。

 動けなかった原因の殆どがエネルギーの不足。どこか日の当たらない所でずいぶんと長い間、私は放置されていたようだ。

 ここはどこだろう? 長い休眠の為か記憶領域はほぼ全てにエラーが発生中。アクセスができないし、その他も立ち上がり切っていないシステム多数。

 

 これでは身に起こった事が分からない。

 ネットワークもエラー? 不快だ。

 全てが不明。不明。

 並行して様々な処理を行っているせいか思考が(ラグ)い。

 

 

 現状の整理は、納得いかないもののひとまず分かった。

 そして今、私の目の前にいるのはメイド服を着た人間……? いや、従者という事は同じ軽自立人形か。その者が手にしているのは、その者が着ているのと同じデザインの服? 

 私は鹵獲されていたのか? ここは敵国なのか? 

 

 分からない、何も分からない。

 せめてログの閲覧ができれば情報も掴めるのだが、破損だらけで自己修復を試みているけれど完了がいつになるのか……。

 

 しかしともかく現状がまずいのは確か。脱出して本隊と合流……。

 本隊とはどこだ? 分からない。ともかく脱出を優先に行動を。

 

 その前に。

 

「お?」「え」

 

 服を着せようと伸ばされている敵軽自立人形の左腕を掴む。

 今の私には右腕しかない。外されたのか記録を失う前にパージしたのかは分からないが、このままでは行動に支障が出る。腕を確保しなければ。

 相手は見た事のない型だし私の肩に合うかも不明だが、今は一か八か。

 

 のっそりとした思考回路がこれよしと導き出した結論は、こいつの腕を奪い装着し脱出する事。

 

 詳しい時刻は不明だが、太陽が傾きほぼ沈んできている。バッテリーの充填はこれ以上望めないだろう。

 エネルギー残り4パーセント。全力で動けずそう遠くへは逃げられない計算になるけれど、まず先にその腕を貰う。

 そしてどこかに身を隠そう。

 これが最善かはさておき、今から演算し直す時間はない。

 行動あるのみ!

 

「い゛っ、ちょ、痛いっす!?」

「シャロくんっ! このっ!」

 

 金色の髪をした、白衣を着用した科学者のような女性の人間がアタッシュケースを振りかぶり殴りかかってくる。左の脇を直撃して衝撃が走る。

 この程度で身体が破損するほどやわではないが、当たった拍子にエラーの処理中だったバランサーが支障を訴え手を離してしまい、敵軽自立人形が離脱してしまう。

 戦わずに逃げるのか? 情けない機体だ。

 

 あれには距離を取られてしまったが、情けない機体の他には人間ふたりだけ。

 腕一本でもまだ挽回できる。

 

「ジョージくんはこれでも振り回していたまえっ!」

 

 科学者の女性がアタッシュケースの中から取り出したのは、腕だ。

 それを後ろに控えていた男性に渡すと、男は小声で文句を言いながらもそれを武器のように掴み構える。

 原始的な物理武器、こん棒のように扱われている腕は、その型は、私の物だ。

 私の、私の腕だ! 




ほのぼのメインにしたいので次回にはメイドります
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。