古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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ひ、ひさしぶり、に、書くの……むず、むずかししい、ね!


20 プレゼント作戦

 

 

 

 次の休日。

 前回のお出かけで入手した土産(プレゼント)を屋敷の各面々へと手渡しして回っているのだが、どうも遭遇が難しい人物がひとり。

 もちろん首都へ向かったまま帰ってこないブロンテの事じゃない。

 近くの窓に映り、自身を指差しながらくるくる回って笑って消えた怪奇現象でもない。

 

 

「……」

 

 

 怪奇現象と名前は一緒だけど生きている方。

 ネズミの獣人のアンだ。

 

 

「……」

 

 

 プレゼントとは手渡ししなければいけないというのに、アンばかりは確実に直接会う方法がない。

 会えないだけで私の近くをちょこちょこ動いているのは分かってる。

 分かってるんだけど、アンの隠密性が高すぎて捕獲できねぇ。

 耳の先ひとつ、尻尾の先ひとつを見せる事無く、彼女は自身のタスクを達成していく。

 

 

「あれ、なにやってるっすか?」

「……」

「チーズのスケッチ?」

 

 

 現在地はこざっぱりとした裏庭。

 自由にしていいと許可されているので倉庫に仕舞いっぱなしだったカフェテーブルと椅子を出し、先程厨房からちょろまか……トーマスから譲り受けてきたいかにもな三角チーズを皿に置いて待っているのだが、全く現れない。

 代わりにシャーロット来ちゃった。

 

 

「ちょっときゅうけーい!」

 

 

 対面の椅子にどかっと座ると、古くてボロイ椅子は悲鳴を上げた。

 べぎゃっと音がしてシャーロットの座高が急激に下がる。

 

 

「ちょっとボロ過ぎやしないっすかね」

「……」

「んもー、うら若き乙女としておしりで壊しちゃうのはへこむっすよー」

 

 

 立ち上がったシャーロットは、デカかった。

 紹介して貰った頃の写真とスケールを合わせて比べてみる。

 明らかにでけぇ。180cmを普通に越してるじゃん。まだ伸びてるのか。

 

 

「シャロが重すぎるって思われるじゃないっすか。もうっ」

 

 

 いや、うん。

 重いというか。

 

 ハイパー・シャーロットは持っていた本をテーブルに置くと、近くの飾り石に腰かける。

 流石に石は悲鳴を上げたり砕けたりしない。

 

 

「で、ソラっちはチーズを前に何してたんすか?」

「……」

「うーん? それって前にくれたプレゼントっすね」

 

 

 がさがさと紙袋を見せて、続いてチーズを指差す。

 

 

「もしかしてアンを待ってるっすか?」

 

 

 そうそれ!

 首を縦に振ると、シャーロットは満面の笑みを浮かべて伸びをした。

 

 

「じゃあシャロが捕まえた方が早いっすね!」

 

 

 うん!

 ……うん?

 

 

「ソラっちに負けてらんないっすからね。ちょっと鍛えたシャロを見るっすよぉ!」

 

 

 鍛えたって何よ。

 機械である私と張り合おうとしないで欲しい。

 万が一にも超えられたらへこむから。

 お前やりかねんから。

 

 

「ふんぬっ!」

「ぴぇえええええ!」

 

 

 巨体からは想像もつかない機敏性で駆け、角を曲がると一瞬でアンを捕まえ戻ってきた。

 なんだ、普通のやり方か。もっとこう、拳で解決するんじゃないかと。

 捕まえてるんだし拳に間違いはないんだけども。

 

 

「あ、あ、あのっ! なにかごようでしたでしょうか!」

 

 

 なぜか片手に花を持っているアンは抱えられたまま落ち着きなくきょろきょろと視線をさ迷わせ、私を見つけると叫ぶように喋った。

 対面の椅子はシャーロットが破壊してしまったので私の座っていた席を譲り、まぁまぁと座らせる。

 どうぞこちらへ。どうぞどうぞ。

 

 

「な、な、なになになに」

「……」

「んじゃ。お邪魔虫だしお勉強に戻るっすー」

 

 

 ひらひらと本を掲げながらシャーロットは去っていった。

 お邪魔虫ではないけど、勉強しているのならしょうがないな。

 さて、アンよ。

 

 

「あのっ!」

「……」

「ふくろ、でございますか!」

 

 

 そうだ。紙袋だ。

 アンの好みは分からなかったのでマフラーだ。

 小柄な生命体なら寒さに弱かろうと思い選んだのだが、どうだろうか。

 

 

「ありがとうございますっ!」

 

 

 紙袋からマフラーを取り出したアンはマフラーを机の上に置き、紙袋へ顔を突っ込むとわしゃわしゃと笑った。

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 

 お互いに会話が途切れる。

 元から喋ることのできない私なのでなにか言って欲しいのだが。

 なんでアンは紙袋に顔を、匂いを嗅いでるのか? なんで?

 たっぷり10秒数え、そろそろかと肩を突いてみる。

 動かない。

 

 

「……あ」

 

 

 もう数秒経ち、ようやくアンは再起動した。

 本当にどうしたんだ一体。怖いぞ。

 

 

「も、もうしわけありません! くらくてせまいところでちがうにおいをかぐのがたのしみでしてっ!」

「……」

「かわったたのしみとおおもいでしょうが、ほんのうが……っ!」

 

 

 そうか。本能か。本能なら仕方ないな。

 私は生物ではないので分からない感覚だが、生物はそうした抗えないモノを持つという。

 人間で言えば三大欲求。獣人の場合どういう配分なのかは資料がなく分からないが、ふむ。

 もしや獣人少なく資料もない現代においてアンの行動原理、抗えない本能についてをまとめたら発表できる内容になるのではなかろうか。

 

 身内を売るようで嫌だしやらないが。

 というか、それを言うなら発表されるべきは機械たる私の方がだし。

 今の世界情勢的にこのお屋敷がひっくり返るけど。ついでにブロンテも飛ぶ。

 

 

「……」

 

 

 とりあえずプレゼントの本体はマフラーなので、紙袋を置いたアンに巻いてあげる。

 メイド服の上からマフラー。似合うかどうかは怪しいがかわいらしいのではなかろうか。

 

 

「もしや! これを!?」

「……」

「あたたこうございまし!」

 

 

 うむうむ。よろこんで貰えて何より。

 

 

「もしや! ソラさまからのおかえしでしょうか!」

 

 

 そうそれ!

 アンは満面の笑みを浮かべ、しかし笑顔を作れない私は無表情のまま頷き返すしかできない。

 

 

「おきになさらずよかったでございますに、アンめなどみてみぬふりを……っ!」

 

 

 アンの経歴は詳しくしらないが、自分なんかと思わないことだ。

 ジョージやブロンテ。シャーロットにエミリーの助力も確かにあるが、この屋敷に馴染めた要因はアンのお陰なところが大きい。

 姿を見せずとも普段から先回りして着替えや道具を用意し、仕事に慣れていない私でも見れば分かる状態を作ってくれていた。

 こんなマフラー一つでは返せない恩だが、言葉の無い機械たる私なりのお返し。

 

 

「もしや、このチーズも?」

「……」

「しつれいいたします!」

 

 

 頷くと、アンは両手でチーズを持って早速ちょこちょこと食べ始めた。

 小さな手で少しずつ小さな口へ運ぶ様は、やっぱり小動物。

 私でもかわいいと思う。エミリーがいたら自爆するんじゃないかな。

 

 

「んむ……。もうすうねんまえまではこのようなせいかつ、そうぞうもつきませんでした」

「……」

「あたたかいねどこ、あたたかいかたがた。ごはん。じゅうじんたるアンめすらもむかえいれてくれたジョージさまには、あたまがあがりません」

 

 

 大げさ、とも言い切れないのがなんとも。

 両親を亡くし借金もあるシャーロットは弟のトーマス共々、都会のお嬢様エミリー、そして兵器の私をも快く迎え入れてるのだ。懐が云々とかって次元ではない。

 

 

「──ゆぅ、ゆうれ、い……。もいる、ぅよ」

「ぴゃ!?」

「……」

 

 

 声のした方へ目を向けると、いつものずんぐりむっくりとした機械が。

 視界外から唐突に現れるヤツなんてトリブレしかいない。もはやどうやってとか言ってもしょうがなかろう。

 今日はどうしたんだろう。というか、トリブレも怪奇現象を知っているんだ。

 コックピットの鏡面に映った怪奇現象は驚いた顔をして、くるくる回りながら消えてしまった。

 

 

「……」

 

 

 あ、トリブレに驚いたのと怪奇現象が近くに来たせいでアンがどこかへ行っちゃった。

 野性味のある警戒心というかなんというか。

 

 

「こここんに、ち……は。んふふ」

 

 

 こんにちは。

 

 

「あ、あえ、と。おじゃ……ま、ししゃしちゃ、……た?」

 

 

 上手く聞き取れなかったが、たぶん“お邪魔しちゃった”かな。

 いやいや。アンにマフラーとチーズを渡せたから大丈夫だよ。

 

 

「ご、ごめん、ね。あんま、り、し、しぃし喋るの、と、得意、じゃな……く、て」

 

 

 トリブレは詰まりながら喋りつつ、背中に搭載していた木箱を降ろしていく。

 それは?

 

 

「たのま、れて、た……。お庭の、に、っつ使えそ、ぅなもの……」

 

 

 開けてくれたので中を覗き込むと、私が壊してしまったクワの替えや幾つかの苗等々が詰まっている。

 ジョージが注文していた品々かな? トリブレが持ってきてくれたって、道化家業の傍らに配達?

 

 

「あるばい、と」

「……」

 

 

 へー。

 

 

「ぴゃあああああっ!?」

 

 

 

 おわっ、どうしたんだアン。凄い悲鳴だぞ。

 どこへ行ったのかは分からないけどどうしたんだ一体。

 

 

「ゆ、ゆ、ゆうれいの方、が!」

 

 

 ずざーと土煙を上げながら帰ってきたアンはそのままの勢いで私に抱き着くと、ぷるぷる震えながら窓を見た。

 窓には怪奇現象が映っていて、やれやれとジェスチャーをしては消える。

 たぶん追い込み漁的なことしたんだろうな。もしくは怪奇現象なりの遊び。

 なんて悪趣味なやつだ。攻撃させろ。消えるな。

 

 

「はじめ、ま、ましして」

「しゃべったっ!」

「ねえ。き、機械ぃは……こ、こわ、く、ない?」

「……」

 

 

 トリブレはアンにそう問う。

 その質問は、私にも当てはまる内容だ。

 ……もしかしたら、というか狙ってのことだろう。

 

 道化師とはただおどけるだけでなく、仲介も仕事にあるらしい。

 道化師がゆえ許される、多少の失礼も許される立場を利用した振る舞いだ。

 それが愚者とも切り札とも言われる所以。

 

 彼……あれ、彼女? トリブレどっちだっけ。

 とにかくトリブレは今、アンと私の関係に踏み込んで質問をしてくれた。

 

 以前は魂が云々と誤魔化せた話題であるが、直接だ。

 さて。

 

 

「……」

 

 

 アンはぴんと耳を張ると、尻尾をしならせ──

 

 

 

 

 

「きかいはべんりにございますっ!」

 

 

 

 

 

 ──と、大きな声を出した。

 

 

「……」

 

 

 そうか。最低限の世話さえすれば働くものな。正しい。

 うん、いや、機械である私が便利に思われるのは当然なんだけど。

 ……なんだろう、な。なんか、こう……ヘンな……。

 

 

「……」

「そ、ソラ、そ、ちちゃ、ん!」

 

 

 ぎぎぎと動いたトリブレが申し訳なさそうな声を出す。

 トリブレが気にする事ではない。機械の身に生まれたのが私なのだ。

 聞かれ、答えた。私が機械だった。それだけ。

 

 

 

 

 

「あなたさまやソラさまも、べんりできかいをつかっていらっしゃいますか?」

 

 

 

 

 

 ……ぇ?

 

 

「わた、わ、()、は、は、はず、……しぃ、から……っ」

「そうでございましたか! アンめもおなじにございます!」

「……」

 

 

 アン?

 

 

「ソラさまはどうどうとしていて、かっこいいです!」

「うん、うん! そそソラちゃん、は……かわ、かこ、……いい!」

 

 

 乗らないでくれトリブレ。

 以前にした魂の件といい、アンは重要な所でぎりぎり話題が逸れるんだ。

 

 

「あ! ゃ、じゃ、あソ……ソラ、ちゃん。は」

「ソラさまですか? さきほどマフラーをもらいました!」

 

 

 赤いマフラーで自身の頬を温めながらアンは笑う。

 うーん、そうじゃないんだ。

 喋れない私の代わりに頑張れトリブレ、多少強引でも聴き出してくれ。

 私の為に。

 

 

「あ、アン!」

「っ! はい!」

「……」

 

 

 頑張れ!

 

 

「そ、そソラちゃ、んも! ききき、機械、だけど!」

「? そうでございますね?」

 

 

 大きなネズミの耳をぴこぴこ動かしながらアンが首を傾げる。

 

 

「ソラちゃん、も、便利、な……き、き、機械……?」

「……」

 

 

 今度こそ引けない。もう誤魔化せない。

 教えてくれ、アン。

 

 獣人と機械の、溝を。

 信じさせてくれ。

 

 

 

「あ! い、いいえ! そういういみでのことばではなく!」

 

 

 

 ──アンは何かに気が付くと、必死に否定をした。

 

 

「ソラさまはただのきかいにございません! アンめらとおなじヒトでございまして、だからただのきかいとはちがいっ!」

「……」

 

 

 まくし立てるアンを手で制し、言葉を止める。

 私の事を便利な機械とは違うと捉え。魂が分かるからか自分たちと同じ人と()()()()()()

 仲間と思ってくれている。

 

 

「んふふ」

 

 

 ふふ、ありがとうトリブレ。

 ようやくアンとこれで、真に仲良くなれそうだ。

 こんな位の、この程度のことでいいのかも。

 

 

「人、で、うれし、い?」

「……」

「はい! なかまはおおければあんしんします!」

 

 

 トリブレは私へ向けて言ったのだろうが、アンが被せて喋ってしまった。

 はは、それにしても仲間か。いやいや、私は感情の無い兵器。機械。

 でも私もカウントすることでアンの安心に繋がるというのなら、それもよかろう。

 

 

「ねず、ねず……み。だか、ら?」

「むれるとあんしんするほんのうにございます!」

「んふふ」「……」

 

 

 というかずっと抱き着いたままだしそろそろ離れて欲しい。

 所謂子供体温というものなのかじんわりと暑い。

 装着しているバイザーを下げてカメラをサーモグラフィーへ切り替えてアンに向いてみる。

 

 耳の先は青くなっていたが、マフラーを中心に赤いアンがいた。

 トリブレも見てみる。真っ青で巨大なジャガイモだね。

 熱を発してないって、機械なのにどうやってるんだろう。羨ましい。

 

 

「じゃ、じゃあ。しししご、と、ももどる。ね」

 

 

 む。そうか。

 トリブレ、仲介してくれて今日はありがとう。

 

 

「んふふふ、とと友達、……だ、だか、ら」

「……」

 

 

 お仕事頑張ってな。

 ずんぐりむっくりとした機械を揺らしながらトリブレは器用に一礼をしたので、アンの目を塞ぎながら回れ右。

 もう一度いた方へ向き直ると、もうそこには誰もいなかった。

 裏庭は最初から誰もいなかったかのような静けさを取り戻している。

 

 

「は! あ、あれ!? さきほどまでこちらにいらしたかたは……!?」

「……」

「ソラさま!?」

 

 

 アンよ。この世には完全に説明できないものがある。

 これはその一つだよ。

 

 

「おなまえをききそびれてしまいました!」

「……」

「なんというおかたなのでしょう?」

 

 

 トリブレです。道化師の。

 もちろん喋れないので教えることはできない。

 その内に誰かが名前を言うだろうし、流れで察してくれ。

 

 

「あ! アンめもこのおはなをおとどけしないと」

 

 

 そういえばさっきから持ってるその花はなんなんだ?

 小さな肩を叩いてから、手に持っている花を指差してから首を傾げる。

 これで伝わってくれるかな。

 

 

「こちらですか? こちらはシオンのはなにございます!」

「……」

 

 

 いや花の名前を聞きたいのではなくて。

 

 

「にかいにあるしゅくちょくしつ、あそこがユウレイさまのすでございまして」

 

 

 ああ、あの花ってアンが怪奇現象のために生けてたのか。

 それと誰も使ってないのに宿直室のリネン類を整えてたのも怪奇現象のためと。

 あぁー。なんか色々と納得した。どんどん屋敷の謎が解明されていくぞ。

 

 ……んん? でも怪奇現象についてジョージは把握してないよな?

 アンが寝泊まりする訳でもなく勝手に部屋を作っておいて気にならないのか?

 

 あれ、というかアンってどこで寝てるんだ?

 

 

「……」

「なにかしつもんがございますか?」

 

 

 首を傾げていたらアンも首を傾げた。

 

 

「えっと、シオンのはなはもうきせつはずれとなりまして。あと、はなことばはついおくでございまして」

 

 

 うまいこと丁度いいニュアンスは当然伝わらない。

 ぼちぼち謎は解明していこう。焦らずいこう。

 

 

「……」

 

 

 よし、アン。アンは怪奇現象というか、幽霊が怖いのだよな?

 暇だし私も一緒にいこう。

 

 仲間だからな!

 

 

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