古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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こっそり更新


23 メシと命は大切に

 

 

 

「ソラ坊にちゃんと食わせてやってんのか?」

「は?」

 

 

 キッチン専属おじさんことハーディから珍しく話があると聞いてみれば、内容は意味の分からないもんだった。

 ソラが食事をしないって、そりゃーあやつは機械だもの。

 

 機械の身体を持つソラは太陽光を浴びることで発電を行い、電力を蓄えた分だけ行動する。それがソラにとっては生物全般の行う食事の代わりなので。

 ブロンテはそう推察し、実際にその通りであるらしく、猫のように日向ぼっこをしているのをよく見かける。

 

 坊呼びはともかく、そんなソラが食ってないって?

 そりゃあ当たり前じゃんかさ。

 そもそも食わないんだから。

 

 

「きびきび動いてた奴が急にのろまになっちまうなんてメシ以外考えらんねぇ。トーマスに聞いても食ってるとかぁ見た事ねぇっつぅし」

 

 

 がさ、とハーディがクッキーの詰まった袋を置く。

 

 

「お前が拾ったんだ。俺達もフォローはするが、頭がまずはしっかりな」

「それは、まぁ。そうだけども」

「じゃ」

 

 

 拾ったというか、買わされたというか。

 次の仕込みもあるんだろう。言うだけ言って去ってしまった。

 

 

「うーん。ソラが不調……?」

 

 

 一昨日見た時は普通だったんだが、急にどうしたってんだ?

 出勤表やタイムカードを確認しても特段変わりないし、仕事の内容だって……。

 

 ……あ、もしかして庭仕事が辛いのか……?

 

 でもソラって自分の体調というか調子というか、そういうのちゃんと管理できる子だし。

 直接聞こうにも向こうは内面を伝える手段を持たない。

 一応“はい”か“いいえ”だけで答えられるけど、それじゃあ具体的な内容とかは分からんからなぁ。

 

 

「しつれいいたします!」

 

 

 おじさんと入れ違いにアンがやってきた。

 ソラとどっこいな小っちゃい身体をちょこまか動かしながら、ことかたとティーセットを並べていく。

 最近ソラとはなんやかんやで仲良くなっているらしい。

 そだ。仲良いなら聞いてみるか。

 

 

「──ソラさまのちょうし、ですか」

 

 

 大きなネズミ耳をぴこぴこ動かしながら首を傾げていく。

 どうやら心当たりないようだ。ご苦労。

 

 

「特になきゃいいよ別に。クッキー食べる?」

「くるみのクッキー!」

 

 

 差し出すとかりかり端っこから食べていく。

 小動物の食事ってなんか癒されるよね。

 

 

「おいしい?」

「おいしゅうございます!」

 

 

 あらよかった。

 

 

「ハーディには内緒だぞ」

「ないしょ、でございますか」

「元々ソラに食わせる予定だったらしい」

「?」

 

 

 食べてる手を止め再びの首傾げ。

 大きな耳が折角並べた食器を倒そうとしたのでずらしておく。

 

 

「ソラさまはきかいのおからだで、おしょくじはしないはずでは?」

「だよなー」

「このまえはチーズをおゆずりいたしてくれました!」

 

 

 わしゃわしゃ撫でると、ソラとは違い目を瞑って受け入れてくれる。

 小動物だねぇかわいいねぇ。

 しっかし、ハーディは何でソラに食ってねぇだとか……。

 

 

「……あ」

 

 

 そういや最初の紹介の時、喋れないってだけしか教えてなかったような……。

 もしかして機械だって知らないのかなあのおじさん。

 

 

「ま、そこはいいか」

 

 

 なんにせよそこは調子が悪そうって話に関係しないもんなー。

 

 

「なー」

「ぴぎゅー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Battery: 33%

 System: Power Saving mode.

 S.Message: Be careful, it's really cold out there.Miss Solar!('◇')ゞ

 

 

 

 現在時間、昼。

 とんでもない事に、私の生命線たるバッテリーの残量が半分を下回っている。

 特別な理由等は特になく、今日含めここ数日間ずっと悪天候続きだからだ。

 

 曇り曇り雪今日曇り。

 

 一応は裏庭の整備という名目を使い表へ出ている時間は長くしている。だが全然発電が追い付かない。

 ぎりぎりトントンの発電効率の中でも他の業務を頼まれれば室内へ赴かないといけないし、そうなれば収支はマイナスとなってしまう。

 

 昨日なんて雪が降ったから一切なんにもできていないぞ。

 運よく休日だったから寝て過ごして乗り切れたが。

 

 

「……」

 

 

 という事情な訳で、現在は通常モードから節電モードへ切り替え中である。

 出力を制限することにより俊敏な動きや高速での処理作業が不可となるものの、通常と比べて30%の節電となるのだ。

 

 日常生活では過剰ゆえ持て余す我が身(性能)なので常にこれにしとけとは思うが、弱点が一つ。

 

 それは、見てくれがとっっっても悪い事。

 

 怪奇現象が鏡に注視させることで教えてくれたのだけれど、どうも節電中は処理速度以外にも効率重視に動くために俯き加減で姿勢が悪く、とっても気だるげに見える模様。

 流石に人と関わる時はそんな姿を見せられないのでオフらざる得ないのが残念。

 

 

「ソラ坊」

 

 

 ベンチで休んでいたらハーディがやってきた。

 節電スイッチオフ!

 

 

「喋れないっつうのは不便だな、お前さん」

「……」

 

 

 喋れないし文字も書けないぞ。

 聞けるし読めはするがな。

 

 隣へハーディが座り、影が被る。

 

 影を避けるには詰めるかそれなりに距離を取るかの二択。

 不自然に距離を開けるのは失礼だな。では詰めよう。えい。

 

 

「……自分から決して触らせないと聞いてたんだが」

 

 

 心外な。

 頭に影を落とさない限りは何したっていいぞ。

 

 

「お前メシは?」

「……」

 

 

 メシ、エネルギー補給。

 そういう話であれば、今現在も食事中だ。

 しかしキッチン担当として聞きたいのはそういう事ではないだろう。

 首を横に振る。

 

 

「そうか」

 

 

 なんか納得してるが、何か言いたいのだろうか。

 しばしの沈黙。

 ……あ。もしかしてお食事のお誘いってやつだったか?

 

 うーん。確か小説等での食事へ誘うシーンというのは、えーっと。

 なるほど? 機械の身とはいえ私は“空”という少女をモデルとした少女型。

 中身は別でも見た目は人間そっくり。とすれば、もしや私を好いているのだろうか。

 

 応じられるかは分からない。が、できることはしてやろう。

 なんせ私は人に使われる機械だからな。ふん。

 何も食べられないし応じた所でどうすればいいのか知らないけど。

 

 

「……」

 

 

 立ち上がったハーディの背中を追って歩く。

 この時間はだいたい料理してるはずなのに、わざわざ私を誘う為だけに来たんだなぁ。

 

 

「……」

 

 

 てくてく。

 てくてくてくてく。

 

 

「ソラ坊?」

 

 

 廊下を進む途中、ハーディの足がふと止まって振り返る。

 なあ、ところでその坊呼びってなんなの?

 

 

「……まかないでいいなら来い」

 

 

 どういう意味だ?

 背中を追われてる側の人間が撒く事はあれど、私から撒くとは。

 なんにせよ来いと言われたのならついて行く。

 ところで少女の姿をした私へ向かって坊呼びっていうのは、どういう。

 

 

「先に手を洗えよ」

「……」

 

 

 厨房へ辿り着き、手洗いを促される。

 しつこいほどの多種多様な石鹸が設置されているが、どれを使えば?

 

 

「気になるならエミリー嬢のを貸してもらいな」

「……」

「ほらそれ」

 

 

 どう効果が違うのかは分からんが、促されてなんか高そうな石鹸を使う。

 手洗いが終わったのでハーディを見て首傾げ。これでいいか?

 

 

「……昔やってた店で食中毒を出しちまってな」

「……」

「しつこいと思われようが、これだけは絶対だ」

 

 

 ふむ。聞きたかったこととは違うが興味深いな。ハーディも訳ありの口か。

 年少から働かざる得なかった者や家を飛び出たお嬢様に獣人。大昔の機械兵器。

 様々な事情から食いつなぐ職を持つことができない訳ありを行き先が決まるまで屋敷に置く、というのがジョージなりの統治。

 ジョージの気さくな人柄も相まってここケィヒンは良い町なんだな。

 

 

「こんにちは。って、ソラちゃん?」

「……」

 

 

 ようトーマス。ぺこりと頭を下げてこんにちは。

 厨房内では先にトーマスが色々と下準備をしていた。

 ニンジンジャガイモえとせとら。

 そういえば摂取する必要がないからと料理系については無知だな私。

 運んだりはよくするんだけど。

 

 ぱさり、とエプロンと三角巾を渡される。

 改造済とはいえメイド服。エプロンにエプロンを乗せるとは。

 

 

「埃が舞うから扇風機は止めてもらえるか?」

「……」

「……というか、なんだその服」

 

 

 なんだ、と言われても皆が私のためにと作成してくれた専用メイド服だ。

 かっこいいだろう。

 

 

「……」

「……なんだ、やり方知らねぇのか」

「……」

 

 

 違うんだハーディ。

 三角巾を頭に付けたくないんだ。

 なけなしの発電量がもっとだめだめになってしまう。

 首振り拒否拒否。

 

 

「嫌だっつったってな……」

「……」

「ソラちゃん、確か頭を触られるとかが嫌だったような」

「……そうなのか?」

 

 

 そういう訳じゃないんだけどそういう事にしておこう。

 理由はどうであれ結果的に発電の邪魔とならなければ。

 

 

「ジョージの旦那なら喜んで食うだろうが、髪の毛一本許せねぇ。譲ってくれないか?」

「喜んで食べるんですか……?」

「……ネズミっ子の作ったドブ飯すら泣きながら食ってたぞ」

「うげぇ……」

 

 

 アンって普段なに食べてるの……?

 それはともかく首振りキャンセル。

 

 

「……そうか。無理させて悪いな」

 

 

 よし、折れてくれた。

 肩をぽんっと叩き背中を向ける。

 

 

「俺達はお前の味方だ」

 

 

 なに?

 なんなの?

 

 

「多分ハーディさん、ソラちゃんが過去のトラウマかなんかで無口無表情になったと思ってるんですよ」

「……」

 

 

 へー。

 ……ん?

 

 

「シャロ姉が面白いから黙ってろって」

「……」

 

 

 ホウレンソウしっかりしろやー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 料理中に知識のない私ができることはない。

 なもんで、窓際に佇みながら見学中。

 積もった雪の反射で地道に発電できているので楽しちゃってる。

 

 

「そっちは任せたぞトーマス。──ソラ坊」

 

 

 お、なんだなんだ。

 バッテリー残量45%まで来たので今日は乗り切れるぞ。

 なんだってかかってこい。

 

 

「カップケーキでも作ってみるか?」

「……」

「今日は混ぜて焼くだけだ」

 

 

 そういえば最初の頃にお菓子作りは教えるとかなんとか言ってたような。

 良い機会だし学んで損はないだろう。

 近付くと踏み台が用意されたので乗っかって……みしみし音がした。

 多分これアン用のだよな。壊しちゃったら謝ろう。

 

 

「用意はしてある。この卵白と砂糖を混ぜてみろ」

 

 

 言われた通りの二つをボウルに入れ、混ぜる。

 ミキサー作業は機械の得意とする所だ。

 うぉおおおおおぎゅぃいいいいいん!

 

 

「ちょっ、ソラぼ──」

 

 

 きゅぃいいいいいん……。

 ──どうした?

 

 

「お前、とんでもないな……」

 

 

 そう? えへへ、照れる。

 それで次は?

 

 

「これを加えてまた混ぜる」

 

 

 卵の黄色い部分が投入された。

 よし任せろ。

 

 

「ゆっくりでいいか──」

 

 

 うぉおおおおおぎゅぃいいいいいん!!

 

 

「ストップ! ストーップ!」

 

 

 もういいのか?

 

 

「ハーディさんどうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもあるか! ソラ坊が──」

 

 

 な、なにか?

 言われた通りにかき混ぜてただけなんだけど……。

 

 

「……なんでもねぇよ。俺の教え方が悪いだけだ」

「……」

「貸してみろ」

 

 

 とぽとぽとボウルに牛乳を足したハーディが、ゆっくりとかき混ぜていく。

 私基準でゆっくりなだけで人間ならそれが標準速度なんだろうか。

 

 

「これくらいの速さで混ぜてみろ」

「……」

 

 

 あい。

 

 

「それでいい」

 

 

 混ざっていくと重くなるので、細かい調整をしつつ一定速度でぐるこーんぐるこーん。

 ぐるこーんって何だろう。

 

 

「お前さん、華奢な腕して力あるんだな」

「……」

「獣人ってのはどいつもそんなもんなのか?」

 

 

 はい獣人じゃないですー。

 1000年前に作られた兵器ですー。

 純粋な戦闘用とはちょっとワケが違う疑惑の兵器だけど。

 

 首を横に振ったら「そうか」と流されて、ストップが入ったので停止。

 続いてはこの紙カップ的なものに入れ、オーブンで焼くだけらしい。

 本当に混ぜて焼くだけなんだね。

 

 

「あとは待つだけだ」

 

 

 はーい。

 窓際へ戻って発電再開。

 明日は晴れるといいなー。

 

 

 

 それからしばし待ち、他の食事の盛りつけも終わった頃。

 ようやく焼き上がったカップケーキが目の前に現れた。

 

 

「どうなるかと思ったが、上手くいったな」

「ソラちゃんが初めて作ったお菓子ですね」

 

 

 だね。

 良いかどうかは分からないけど、人が食べてもよさそうな色をしている。

 

 

「さっそく食べてみるか?」

 

 

 で、それなんだけどさ。

 私モノを食べられないんだが。

 

 

「……」

 

 

 とりあえず首を横振り。

 そだ。こうしよう。

 食事と台車を交互に指差してアピール。

 

 

「って、運ぶの?」

「……旦那んとこか?」

 

 

 うむ。

 せっかくのところ悪いが、私は向こうで。

 台車に二人前の夕食を乗せ出発だ。

 

 

「気を付けてな」

「……」

 

 

 今日はありがとう。

 振り返ってぺこりと一礼。

 あ、エプロンつけっぱなしだった。はい。

 

 

「……」

 

 

 がらがらと台車を押して廊下を行く。

 エミリーやシャーロットもいるはずだけど見かけないな。

 会ったらひとつあげようかと思ったんだが。

 

 おーい、ジョージ。

 少し早いがお食事だよ。

 食堂行くよー。

 

 

「もうそんな時間か。って、多くない?」

 

 

 2人分はあるからね。

 カップケーキもあるよ。全部ではないが私も手伝ったんだ。

 

 

「……多くない?」

 

 

 かき混ぜたぶん増えた。

 たぶん。

 

 

 食堂へ案内し、食器を並べ、私は対面に座る。

 食事へ誘ったハーディがいないのは正しい事なのか気になるが、食べられないと説明抜きに切り抜ける方法は思いつかなかったし仕方がない。

 

 

「ソラも食うのか?」

「……」

「食わないよな?」

 

 

 そう。

 だから代わりにジョージが食べるの。

 ずい。

 

 

「おいもしかして」

「……」

「……ああー、ハーディのやつぅ……」

 

 

 事情を察してくれたようだ。

 ああ、あとカップケーキもよろしく。

 

 

「……多くない?」

 

 

 かき混ぜたぶん増えた。

 たぶん。

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