Battery: 6%
System: Power Saving mode.
S.Message: You are working too hard! Miss Solar! ( ´・ ・)-з
「いやー、迷惑かけたっすね! でももう大丈夫っす!」
「まだ日暮れ過ぎですわよ? そんなすぐ良くなるなんて……」
「ソラっちのお布団がふかふかで良い匂いしたからっす!」
「うらや……いやなんでもないですわ」
その日の夕暮れ過ぎ、もう外は真っ暗な中にシャーロットの元気な声が響く。
どうやら極限冷凍庫ハウスから適切な環境へ移動させたのが功をそうしたようで、あっという間に回復してしまった様だ。
そんな回復力を持っていながら、いや持っていたから今まで生きていたというか長引いてでも完治できていたんだというか。
ともかく元気になって何より。エミリーもビビる復帰の速さ。
私はちょっと……限界かな……。
電気残量は驚きの6%。しぬ。
「ソラっち、なんで廊下に転がってるっすか?」
「シャーロットさんとジョージ様を運んで往復したからお疲れですの」
「それは確かにソラっちといえど疲れるっすねぇ」
「……」
疲れるというか、電気残量。
残り一桁はまずいぞぅ。下手に動いて朝を迎える前に残量ゼロとなったら恐らく死だ。
現在問題なく動けているとはいえ流石に経年劣化もあるだろうし、すっからかんからただ充電しただけで再起動が可能かどうか分からない。
一応この屋敷で最初に起動した直後にも電池切れで停止した事あるが、だからと二度目もあるか分からない。
次バッテリーが干上がったらもうダメになりますって気もするし、そもそもシャットダウン抜きにぷつんは想定外のエラーが起こりそうだし、そういうのお試しでやろうにも修復できるメカニックはいないし、だから頼む。二人とも私をこの廊下の片隅に置いたままにしていてくれ。
ここなら朝一番に日が差し込むのを記録しているのでそっとして頂くだけで幸いなり。
あーあ。季節柄しょうがないんだけど、連休最後の一日をぐだぐだ充電で費やしてしまうであろうことは確実なのが悲しみー。
ま、感情ない機械ですがね。
「ソラっちー。ベッド空いたからそっちで寝るっすよー」
「……」
え、いや。ま、待て待てシャーロット。
私は好きでここにいるんだよ、朝日を待っているんだよ。
朝日を迎えたら私は復活し救われるんだよ、その行為はトドメを刺す一手となりうる!
「やっぱりソラさんを軽く持ち上げるのはおかしいですわよ……」
エミリーもドン引きしてないで助けて!
私が電気で動く機械だって知ってるでしょ!
「……」
当然言葉は発せず、首を振る力もない。
唯一私の事情を分かってくれそうなブロンテもいないし、これは詰んだか?
病み上がりだというのに相変わらずの怪パワーでずんずんと運ばれていく私。
シャーロット本人と合わせれば総重量200kgは、いや250kgは絶対超えてる。私単体で既にもう閲覧不可だし。
こんなもん床板を踏み割ってしまうぞ。だからよさないか。今からでも遅くはない、今すぐ私を床に置いて下がるんだ。さぁ今すぐ。
「シャーロットさんはこのまま泊まっていきますの?」
「うむ。ジョージの旦那がしばらくチビ共と一緒にこっち住んどけーって」
「そんなにひどいんですの?」
「もはや半壊っす」
「ええ……シャーロットさん、壊し過ぎですわ……」
「な! シャロがやったのは半分くらいっす!」
「半分」
和やかに会話しているところ悪いのだけど、今その人片手で私を持って扉開けましたよ?
こないだの熊殺しが自称でない可能性大。そういえばヘビビンガーなる謎の生物兵器も退けたと伝説が残っているし、ここまでやったならいっそ熊も倒せて納得。
猟銃とかないだろうから町の治安維持に役立つでしょ。過剰防衛な気もするけど。
「詳しい事は教えてくれなかったっすけど、どうも手違いがあったみたいで。今ジョージの旦那が籠って色々やってるっす」
「手違い? 住むところが?」
「うーん。詳しいとこは教えてくれなかったっすからなんともー」
中々入り組んだ話なようだ。
手違いだとかあのジョージが詳細を伏して手を回してるとか、中々事件香ばしいぞ。
私をベッドへ運んだシャーロットは布団をかけ、ぽんぽんと撫でてからカーテンを閉めてエミリーを伴い退室する。
暗い室内に静寂が訪れた。
「……」
──うん、これ完全に詰んだわ。
「……」
指一本動かせない状況で、ベッドの上で、誰にも察して貰えることなく。
メーデーメーデーメーデー。つつつ、つーつーつー、つつつ。
「……」
せめて手話、せめて筆談、せめて……。
「……」
……。
…………。
かたん、と暗闇の中で物音がした。
続いてきぃという、蝶番が動く細くて甲高い音。
これは……これはまさか?
ばさっ。
カーテンの音……そうか、さっきのは窓が開いた音で今のは風が入ったんだ。
誰もいない真っ暗な部屋で勝手に窓が開くなんて普通あり得ない。
しかしこのお屋敷内に限っては、その普通ではないことがありえる!
待っていたぞ怪奇現象!
お前すき! こういう時頼りになるぅ!
「……」
姿勢は変えずに目というかカメラだけを動かすと、暗闇の中に人形が浮いていた。
ほのかに発光しながら、お人形がふわふわしてた。
あー、うん。おっけ。
これは、あやつとは別件かなぁ……。
そういう事もあるよねぇー……。
……ま、明日を信じてスリープモードだ。
幸いにも私は光が当たるだけで充電がなされる簡単発電なので、つまりオートリブートだけを信じて耐えてればおけ。1000年それで耐えて復帰できたんだ。絶望するにはまだ早い。
ではでは。瞼を閉じておやすみなさーい。
「いや無視しないでよ」
「……」
ぽすんと叩かれた。
誰、とか言わずとも分かる。この声は怪奇現象だ。
ネズミじゃない方のアン。ガチアン、幽霊の方。
要件は手短にという願いを込めてカメラを起動すると、視界いっぱいにさっきの人形がいる。
にしても私以外の憑依(?)でも動けて喋れてってできるんだね。
発光しっぱなしでちょっと眩しいのだけど何とかならない?
「せっかく二人きりになれたから遊ぼうと思ったのに、ひどいなー」
「……」
「あ。その様子見るにやっぱり結構大変な感じ? もしかして電気足りてないとか」
そういうこと。
頷けないから停止した状態だけど、今回の場合は全く動かない様子で察してくれ。
「うんうん。前々から思ってたんだ。その制限、中々にめんどくさいよねぇ」
「……」
「てなわけで、ちょっと何とかしたいと思います」
ふむ? まさかと思うが、充電器とか作ってくれるのか?
怪奇現象の入った人形はふわふわ浮かびながら右へ左へ動き、何やらポーズを決めているようだがよく分からない。
だが今は何でもいい、くれ。電気を。エネルギーを。
「ネズミっ子が色々集めてるのを拝借してきたんで、やっちまいましょ」
……なんか今、階下の方でぴゃーという声が聞こえたな。
もしや勝手に持ち出してきたのか? なんかかわいそうだし今度埋め合わせしておこう……。
「まずは第一号! 軍事用指向灯、なんと明るさ驚き桃ノ木200燭!」
ばんと目の前が明るくなった。
もはや逆光で人形の姿が見えない。
明るいには明るい。燭がどれほどの単位か分からないけど、少なくとも人が直視してはいけない輝きをしてる。
「どうかなソラちゃん。明るくなっただろぅ」
「……」
ううーん……明るいには明るいけど発電的には微妙。
仰向けに寝かされているので折角伸ばしているファイバー型太陽光発電機のいち部分しか使えてないっていうのもあるけど、それにしたってフルで光を浴びても私を動かすほどのエネルギーにはできないだろう。
太陽という天体の力を引き出してようやくぼちぼち充電なされていくのが私だ。人形が手持ちできるモノでは“腹の足しにもならない”ってやつである。それを光らせてる電力そのまま欲しい。
「反応なし、と」
「……」
「じゃあ次! 手鏡にございまーす」
ごとんと床にライトを投げ捨てた怪奇現象が続いて持ってきたのは、ハンドミラーだった。
それなら私も持っている。というかエミリーに渡され持たされている。“淑女のたしなみ”なるものとして。
それをどうするつもりだろうか。
「こちらはエミリーちゃんから拝借いたしましたー」
階下でひゃーという声が聞こえた。
埋め合わせ二人目じゃん。
「月光も元を辿れば太陽光! なので、文殊という訳でもなくば集めればぁ!」
枕元や机の上、姿見の角度も調節し外の明かりを取り込み私へ集めてくれている。
うむ。いいなそれ。その発想とてもいい。
私を動かすには先程と同じくとても足りないが、このまま朝を迎えれば問題なく日の出と共に復活できそうだ。そうなれば後は何とでもできるし、褒めてつかわす。
そういえば雪の照り返しでも発電効率上げられたっけ。この急速充電方法は今後も活用できそう。
……で。ちらっと見えたんだけどそのハンドミラーさ、なんで私の写真が裏にびっしり貼ってあったの?
他にもフレームに猫耳風の飾りと半目のイラストが描かれてるやつもあったけど、あれってもしかして私イメージなのか?
エミリーから借りて来たっていってるし、そういうのあり得そうなんだよな……。
「で、どうすかソラちゃん」
「……」
このまま放置でおっけー。
動け親指、動き我が首。ぜんぜん動かん。
「だめかぁ」
駄目じゃないって。最高だって。
伝わってくれ怪奇現象、お前の方法は最高だ。
まじで。機械たる私を喜ばせるお前に感謝。
「──窓閉め忘れてたっすー」
先程からの騒ぎを聞きつけたのかシャーロットが現れる。
同時に浮いていた人形は床へ落ち、怪奇現象は沈黙してしまったので部屋には奇妙な痕跡ばかりが残った。
「ありゃ? こんな散らかってたっすかね」
「……」
「ソラっちが寂しくないように添い寝しておやりー」
床から人形が拾い上げられ、私の枕元へ置かれる。
いくらシャーロットでもここまで不自然な状態だしもっと異常へ反応するかと思ったが、ここまでスルーするとはなんかもうあっぱれだぞ。
ソラっちが風邪ひいちゃうっすーとか言いながら窓とカーテンを閉め、私の額へ軽く口をつけるとそのまま出ていく。
「……っぶねー……」
お、怪奇現象が再起動した。
人前で動けないとか動いちゃいけないとかあるのかな。
「あんのシャーロットちゃんめ。ソラちゃんが危篤だってのに」
「……」
危篤て。
うーん……間違ってはいないのか……?
「ソラちゃん、やっぱり動けないの?」
「……」
「やだよね、その状態」
暇といえば暇だけど、スリープモードへ移行すれば済む話。
目下の課題は節電のみだ。
どうせ返事も反応も出来ないなら怪奇現象ほっといて寝てればいいんじゃないかとは考え着くけど、人として頑張ってくれてるのを無視する訳にもいかな──
ん。人として、か。
こういうところ、機械の合理性じゃないよな私。
やっぱり魂だとかっていうオカルト混じりかなぁ。
「ねぇソラちゃ──」
「たびたびしっつれーい! っす!」
「!?」
「……」
おわっ、シャーロット。
「ありゃ?」
「……」
「……あ、あはは……」
私の顔をもそもそ動いていた怪奇現象入り人形と、恐らくシャーロットの目が合っている。
こちらからではシャーロットの動きが見えないがたぶんその状況で間違いないはずだ。
バレちまったな、怪奇現象。動いてたのが。ついでに喋っちまったな。
だからどう、という話ではあるが。だって何で隠してるのか知らないし。
「まままま、まさか……」
がしゃがしゃと何か重たいモノが散らかる音。シャーロットの震える声。
「ソラっちの魔法っすか! すげーっ!」
「……」
「え。うん、違うけど……」
がしっと人形がわし摑みにされさらわれていく。
なんだ、まだ私が魔法を使えるとかって話か。
「ねぇねぇソラっち、この子はなんて名前っす!?」
「……」
「君! 喋って喋って! もっとお話しするっす! ソラっちとはどんなご関係で──」
矢継ぎ早にシャーロットが怪奇現象を振り回し、いつも余裕たっぷりの怪奇現象は流石にそうされては参ってしまうのか時おり私へ助けを求める声を発している。
「……」
怪奇現象がどうしてこそこそと私だけに姿を現して遊ぼうと誘っていたのか、なんか分かった気がする。
若人の元気に勝てないんだ。根本的な元気というか、そういうエネルギッシュに。
幾ら若ぶっても本物を目の前にしては流石の怪奇現象もたじたじ。これは意外な弱点だ。
さて、そろそろ本当にスリープモードへ移行しないと本気でまずいな。
頑張っている者を無視するのは忍びなくずるずると起きていたが、こう騒がしい中で眠りにつくのは中々……心地よいと言えるものだ。
アンに倣って表現するなら群れの安心感とでも表現できようか。とにかくそういう感じ。
「あ、ちょっ、ソラちゃん寝ないでっ、見捨てないでぇー!」
「このぬいぐるみどこのっすかね? ふわふわっすー!」
ではでは怪奇現象にシャーロット。また明日。