Hyper Operating System ver 1.1
Network: Error.
Battery: 44%
System: Normal mode.
S.Message: Are you having any issues with the battery? (=_=)
バッテリーの確認? うーん、摩耗はしてるらしいけど問題はない。
早かれ遠かれその内に活動時間は減らざる得ないだろうが、そこは仕方がなかろうと受け入れている。
元々今現在でも限界まで充電して丸一日24時間は持たない程、バッテリー含む劣化は起きているのだから。
メンテナンスや部品交換、バックアップ。どれか一択でもあれば話は──
「……」
──待て。あれ。そういえばもしかして私、ひょっとして、問題なく起動できてる?
あんな電池切れかつ発電不可っていう絶望状態からお祈りでも成功させたのか、すげー発電できてる?
しかも46%ってだいぶ順調じゃん! 現在時刻は……え、朝7時……?
「……」
冬のこの時期は当然、朝は明るくなるのが遅い。朝日を最速で浴びられたとて、からっからになったバッテリーが短時間でこんな仕上がってるなんてありえない。どういうことだ?
人間的部位で言えば瞼。パーツで言えばカメラのシャッターをそっと開き、カーテンの隙間から漏れる太陽の煌めきを眺める。
きっと普通の人は朝こうした薄暗闇の中で目が覚めるのだろう。私がそのような生活をできるなんて、待て。
二度目の、待てや。
ばっちりカーテンしまってるじゃんか!?
それでなんでこんな、49%まで電力が……49!? あぁ! 50ゥ!
「……」
もしやシステムエラーか!? 内部システムが壊れてしまったら、それこそおしまいだぞ!
S.Message: I never dreamed you would actually doubt me! (ノД`)・゜・。
ああ、いや、疑ってるというか、疑わざるを得ないあり得ない状態というか……!
シ、システムメッセージが泣くな! 私より機械的なハズだろお前!
あーもう! 取っ散らかってどこから状況整理したものか!
誰か説明してくれよ!
「ソラっちー? そろそろ起きたっすかー?」
シャーロット!
がばっと身体を起こすとベッドの軋みに合わせ、頭からぶちぶちぶちと何か飛び散る感覚がした。
な、なんだ……? 私のこめかみから何か、パーツ外れた?
振り返って枕元を確認すると、何本ものコードが散らばっていた。
なん、だこれ。見た事のない型というか品というか。
「おおぅソラっち、抜け毛じゃないっすよ。ご安心なせ」
そんなこと分かっているが、それにしたってこれは?
持ち上げて引っ張ってみると、一瞬の抵抗のあとずるずると床から本体らしき四角いものが釣れる。
これってもしかして、充電器的なもの? しかしこの部屋ってコンセントあったっけ。
手にした充電器を突き出すと、それだけでシャーロットは私が何を言いたいのか把握してくれた。
「昨日のお人形ちゃん覚えてるっすか? ほら、おやすみーってする前に遊んでた子」
「……」
「あの子がソラっち救うためにはこれしかないんだーって、よっと」
窓へ寄ったシャーロットが一気に開け放ち、冷ややかな外気を取り入れる。
そして、「こっち見てみるっすと」窓の下を指差した。
なんだろう。歩み寄れど、窓枠から身を乗り出し下を覗けるほどの背丈がない。
と、思っていたらさも当然と持ち上げてくれた。もうそのパワーに突っ込まないぞ私は。
それで、何があるんだ?
「……」
そこにあったのは、恐らく私がそうなっていたように沢山のコードが繋がれた一つの機械。
バイザーを下げて観察すれば、その周囲だけ異様な熱反応が検出された。
機械の周りの雪はでろでろに溶かされて、そこだけまるで春が訪れたかのようだ。
「シャロちょーがんばった」
「……」
いやそれだけ言われたって分かんないよ。
「ちゃんとソラさんに分かるよう説明なさい」
「あ、エミリー」
ブロンテという通訳の居ない生活で、私への理解度が高いエミリーがやってきたぞ。
私の疑問を答えて貰おう。
「機械であるソラさんへ電力を届ける為に、お人形様が発電設備をご用意してくださったのです」
「……」
「そーそー。じてんしゃ? を漕げと言われたので頑張ったっす」
「……」
ああ、あれは足漕ぎ式の発電機だったのか。お人形とは怪奇現象ことネズミではない方のアンの事だし、シャーロットに捕まり私が眠りについた後も頑張ってくれていたらしい。
窓の反射を見れば、怪奇現象があくびをしながら指を二本立てていた。
お礼をしっかり伝えたいが、意識的な意思の伝達となればやはりできない。せいぜいが目線を合わせるだけ。
しかし怪奇現象はそれだけでも何か言いたげだというのを察してくれたのか、満足そうに微笑んで消えていった。
通常ならこういう演出の場合は成仏だのと話は進むのだろうが、そこはいつもの怪奇現象。猫のような気まぐれな出現を繰り返しているので全く心配ない。しばらくしたら悪戯しにでもやってくるだろう。
「それにしてもシャーロットさん。病み上がりに夜通し動き回るなんてあまり褒められません」
「えへ、そうっすか? いやいや全然この通り、むしろパワーが有り余ってしょうがねぇっす!」
「まったく……」
危機を察し発電機を用意してくれた怪奇現象もそうだが、それを人類最強クラスの力で動かしたシャーロットにも感謝だ。
「……」
当然前述の通り礼らしい礼ができないので、床に降ろされても振り向いて顔を見るしかできない訳だが。
「お? にゃーソラっちはかわいいにゃー」
やめろ撫でるなッ!
というかエミリーも言ってた通り病み上がりだろう、人間はそういうとき休まねばならないらしいだろうが!
それを夜通し──夜通しって言ってたな!? 三度目の待てや!
「おやめなさいシャーロットさん。わたくしも理性が無くなりそうなほど撫でたいんですから」
「それは困るっすね。前にやられたうちのチビ共ドン引きしてたっすよ」
「記憶にございません」
……うん、おう。分かった。
ちょー頑張ったの一言で、表の発電機の周囲を熱波で包み込むなんてな。
シャーロットはやはりおかしい。
「……」
訝し気という風に目線を送ってみるが、いぇい♪ と、小声と謎ポーズで返された。
同意するよなとエミリーを見る。きゃっと赤面された。
表情一つ変えられないせいでいつもこれだ。
さて。
いつまでも私の部屋でうだついていてもしょうがないし、私自身が休日なだけ。これ以上のんびりにつき合わせるのも悪い。
そしてここに留まる限り二人も動かないだろう。私服に着替えて廊下へ出ると、自然と後ろにぞろぞろ続く。
廊下を歩きながらスイッチを操作して伸ばしっぱなしだった私自身の発電機こと髪的部品を収納する。
電量は欲しいが、かといって高エネルギー状態を維持し続けてしまうのもまたね。何事も程々が一番と。
本日快晴なりという感じだし問題なかろう。
「さってー、今日は昨日の遅れを取り戻すっすよー」
「流石に病み上がりでドブさらいは駄目っすですわよ」
「……しにゃいっすよ」
「はっきり申しなさい」
「……」
「ソラさんの真似しないっ。それに全然違います!」
そうだぞシャーロット。私は確かに何事も喋る事はないが、首振りでできる限りを伝える。
「あ、ソラっち」
「……」
何用か。
「ごはん食べたかったらいつでも言うっすよ。命の恩人には飯で返すのが我が流儀っす!」
「……」
「あ! わたくしも! わたくしも手伝いますわ!」
使われるべき機械が人の手を借りるのはいかにという議論はさておいて、緊急時の充電方法が確立したのは嬉しい。
エミリーもありがとう。ただ、小声で「わたくしの作ったものがついにソラさんの中へ……」とか言ってるの聞こえてるからな。どういう意味か分からないが、悪寒とされるものが走るのは確か。
「……」
現在時刻は7時30分。業務の開始まではまだ余裕あるとはいえ、私に構ってばかりで仕事をさぼってしまったりしないだろうか。二人を撒くとの言い方は少々悪いが、仕事の準備をさせるためにも事実上そうしようと思ったが中々離れない。
ネズミっこのアンがこの冬休みをどう過ごしているのかは分からないが、だが彼女の性格の事だ。もし屋敷の業務が滞っているのを察したら群れの為にとでもするかのように、きっと意気揚々と働くだろう。
……休日に働いてないよな? 獣人とはいえ生物のアンが、機械よりも働き者だったりしたら流石に傷つくぞ。
「ところでこれどこ向かってるっすか?」
「さあ? わたくしはソラさんの休日を把握できて嬉しいですけど」
「流石にこの時間から普段はいないっすからねぇ」
シャーロット一家がしばらくこの屋敷に泊まる事となっているのは、昨日床に転がりながら聞いたところである。領主の館は緊急時の避難所にもなるので、部屋に余裕もあるだろう。が、だからといってエミリーまでも泊まったのか?。
立ち止まり、振り返ってエミリーへ向かって首を傾げる。
尋ねるしぐさが会話のタイミングと噛み合えば、上手くいけば望む対話が可能なはずだが此度はいかがだろう。
「あ、ソラっち。シャロ達これから一緒に住むことになったっす!」
それは知ってる。聞いてた。
「深夜まであのお人形さんと遊んでいて、結果としてわたくしもお泊まりいたしました」
首を回してエミリーを真っ直ぐ見て頷くと、ガッツポーズで返された。
しかし人形か。中身は怪奇現象だと私は知っているが、本人はどう説明したんだろ。
特に名前。あっちもアン、こっちもアンでは情報伝達が大変だとは察しているだろうし。
「あの子、次いつ来てくれるっすかねー」
「あのお身体もお借りしただけと話されてましたし、そもそもどういう方なのか……」
そもそも名乗らず正体も明かさずといった所か。怪奇現象らしい。
「トリっちと同じじゃないっすか? 考えるだけ不可思議不思議のきらきらりーん」
お陰で道化師トリブレと同じな存在と思われてしまってるけど。
彼(あるいは彼女)は少なくともご存命ではあるが、しかし近しいシステムではあるのか。
ヒトの身ではなく借り物で前に出て、私の友人である。おお、確かにトリブレと同じだ!
階段を下って辿り着きしは我が裏庭。
それなりに雪は溶けてしまったが、中央に再建されたジャンボビッグ雪だるまはまだまだ健在だ。
「……」
うむ。季節で庭の様相を変えるというシステムはいいな。
飽きるだ嫌だは機械たる私に無いはずだが、それでも無意味を疑問に思ったりする。
自然に逆らうことができないなら、その時を楽しみ受け入れるワビ・サビの方がモチベーションも保てるだろう。
「春になったら溶けちゃうっすかねぇ」
「トリブレさんが手を加えたとなると、望めば夏まで残してくれそうですわね」
「ぶー、あの子は魔法使いじゃないっすよー。どーうーけーしー」
道化師のひと単語で片付けられるレベルではない超常現象をトリブレは行えるが、愛読書である“ベリテット冒険記”の登場人物たる道化師も似たようなもの。
そう考えればもうそういうものなのだ。怪奇現象が魔法がと非現実的に思えるそれは確かにこの世界にひっそりと存在していて、それら原理を科学ではもはや納得できようはずがない。私は諦めた。
ならば我々はそれに驚き楽しみ感動するしかあるまいて。娯楽とはかくありき。
「……」
「あり、ソラっちもういいっすか?」
「雪だるまの無事を確かめたかったのね、かわいらしいこと!」
ま、あ。語弊はあるが行動としてエミリーの訳は間違っていないので反論もできない。
正確には雪だるまをではなく、担当している裏庭をなので訂正はしたいが。
次はどうしようかな。
暇をもてあますというか、私へついてくる二人を何とかしたい訳だが。
なんだかんだでもういい時間だからなぁ。
「……」
そうだ。ジョージの所へいこう。
昨日の「籠って何かしている」という証言も気になるし。
「そういえばシャーロットさん。下の子供達は?」
「朝早くに出たっすよ。今日は漁船に乗るんだーとかなんとか」
ジェーンとヘレンもは早くから働いてとてもえらい。
君達もそろそろ始業の準備したまえ。階段に足を掛けながら振り返る。
「ちゃんとついてきてるっすよー」
「ソラさんとならばどこまでも」
いつの間にか私による館案内となっているが、ふふふ。
信用している私が雇い主ジョージの下へ赴いたらどんな顔をするかな。
というわけでトコトコ歩いてやってきましたは、いつからか扉の代わりに暖簾の掛けられた執務室。
情報通りならここにかの町長こと領主ジョージがいるはず。
たのもう!
「……」
「ちょすー」
「おはようございます」
私の頭頂が暖簾を揺らし、エミリーが手で避け、シャーロットが壁をぶち抜く。
おはようジョージ。調子はどうかな。
「ようおめぇら……元気だな……」
書類の束に埋もれる成人男性の顔色はだいぶ悪い。
しっかり徹夜だったのだろう。エミリーがカーテンを開くと眩しさに呻く。
そもそも壁を肩でぶち抜かれた事に対するリアクションすらないあたり、相当追い詰められているようだ。
どうしよ。半分からかいに来たようなものだが、これは遊んでいる場合ではなさそう。
「ソラ」
「……」
「ちょっとこれに目ぇ通して、内容が破綻してる書類こっち寄越してくれ」
「……」
書類の束から一部を抜き出し渡してきた。上から下まで手書きの文字がびっしり。
何らかの機密に触れる事なのかも知れないので、記憶領域へはなるべく入れずメモリ上で処理しパッパと数枚弾きジョージの手元へ飛ばす。
目にした限りは多少なりとも覚えてしまうが、内容はいずれも家計簿のようなものだ。興味はない。
「せんきゅ。流石に機械は計算が早くて便利だなぁ……」
「……」
だろう。もっと頼ってくれていいんだぞ。
こういう計算処理なら絶対に間違えようないからな。
「ソラさんは機械ですが、なんかちょっと癪に障りますわね……」
「急用だ。しゃーないだろ今回ばかりは。構ってられんし」
いつも私を人間扱いしようとするのに、今回ばかりはそうも言ってられないと。
受け取った書類にペンを幾らか走らせ唸るジョージ。
シャーロットのボロ家が手違いという話からスタートしらしいが、ふーむ。
「ジョージさま! おしらせでございます!」
「やっほ!」
「ぐえ」
とたたたたっと軽やかに一陣の風が駆け抜けシャーロットに捕まる。
誰だと言うまでもなくネズミの獣人ことアンだ。手にはさきほど私が査定した書類に似たものが握られている。
これを届けに来たのだろう。頬ずりされてるアンから受け取りジョージの下へ。
「うん、うん。アン、防寒具の用意よろしく」
「はいっ!」
「……」
「……ジョージ様?」
「なんか変な雰囲気っすねー」
エミリーはともかく、流石のシャーロットも不穏な状況に気が付いたらしい。それでも今さらと言うべきか。
裏でなんらか手を回しつつ徹夜で資料をまとめて精査、私の機械的特性を利用してまで厳格なチェックをなし、そして報告を見て防寒具の用意。
どう考えてもこれは事を起こす寸前だな。
すぽんっと軽い音と共に巨大メイドから抜け出したアンが廊下へ出て、姿が見えなくなった一瞬後。ぴょええええという悲鳴と共に帰ってきた。
手にはしっかり頼まれたものが用意できてる辺り、怪奇現象が気を利かせて手伝ってくれたようだ。
ジョージは一連の流れに特に何も疑問を呈すことなく用意された衣類へ袖を通していく。
「エミリーとシャーロットは資料室とかの片付け。それが済んだら今日はもう休んでよし」
「らじゃっす」「は、はい」
「ソラは今日お休みな訳だけどさ、ちょいと付き合って貰っていいか?」
「……」
気になるし、一枚噛ませて貰えるなら構わないが。
「あの、ジョージ様。わたくしもっ!」
「んにゃここで待っててくれぃ」
「なんかよくわかんないっすけど、頑張るっすよー」
ジョージに同行し向かい行くは、町の裏道を進んだ先にひっそりとある旧街道なる場。
国道が整備されてからは全く使われなくなったとの事だが、しかしなぜそこへ。
この時期は流通が滞るほどに道は閉ざされるのだろう? そんな危うかろうところを領主様が歩かんとしていいのか?
寂れた小屋が見えてきて、そこにいた浮浪者のような男が我々を確認すると恭しく背筋を伸ばす。
「お待ちしておりました! しかし、本当にジョージ様自らが……?」
「問題ない。馬の用意はできてるな」
「はい。ただいま」
浮浪者の恰好をした監視という所か。
一見すると小柄な少女という私に男は疑問を抱いているようだが、それを表にすることなく小屋の裏から馬を引き連れてくる
「すまん。ソラは歩きでいいか?」
「……」
それは構わないがと頷いた瞬間、ジョージの乗った馬はそれなりの勢いで駆け出す。当然歩きじゃ追いつける訳ないので、置いて行かれないよう私も走る。
馬のペースが落ち着き、小屋も遠ざかり、並走する私との距離も安定した頃。ジョージはついに説明を始めた。
「……昨日お前がシャーロットの家、というか廃屋だな。見せてくれたろ?」
ああ。私が流石にあんなの家と呼べない現状を知らせるため無理やり見せた。
お陰でまるで、一年ほど眠ってしまったかのような深い休眠をする羽目になったが。
「間にいた業者がな、まぁなんだ。中抜きというか、詐欺というか。とにかく、悪質だった」
「……」
「あいつの親が亡くなったのと領主の交代はタイミングが重なっててな、その隙を見事突かれてたらしい。かなり巧妙だったよ」
ほうほう。
それが件の手違いの正体か。
「俺がまだまだ若造だからって舐めてんだろうな。してやられてたんだから、その通りなんだが」
「……」
「全部洗って裏も取った。俺が町をぶん回された事件からして逃げる事も考慮して監視の手も回した。それが今こうして走ってる理由だ」
先程アンがもってきた知らせは「ここから逃げたぞ!」という所か。アンの足なら速報を伝える役目は適任だろう。
私の機械的な側面すら躊躇せず利用していた辺り、手を尽くす事に何ら躊躇いはないと言ったところか。
そこまでする理由は──
「関係者への謝罪や説明はおいおいにして、まずは捕まえる。いいかソラ、殺さない程度なら許す」
──本気だからだ。
ジョージはあくまで冷静にあろうとしているが、口頭での説明を重ねるにつれてその言葉の端々から怒りが隠せなくなってきている。
感情のまま喚き散らすことなく領主として顔を保ちつつ、しかし使える手はなんだって躊躇せず活用し、敵対者は絶対に逃がしやしないという徹底的な姿勢を見せる。これが領主ジョージなりの怒り方か。
殺さない程度にという命令だが、きっとその胸の内ではボコボコにしてやりたいと思っていることだろう。
「おっとと」
並走する馬の耳が私に向き、倒れ、焦るように速度を上げるがジョージは抑える。
走りなれた馬とて、いやだからこそ平然と横を走る私に焦るのだろう。悪い事をしてるみたいだ。
「……」
しかしそれならなぜシャーロットを屋敷において来たのか。
私よりとは言いたくないが戦力として彼女ほど適した者はいないと思うし、シャーロット本人も直接一発二発殴りたくもなるだろう。
雪や泥に足を取られないようしばらく先のマッピングを済ませ、顔をジョージへ向ける。流石にこれじゃ分からないか。
「どうであれ正義は俺達にある。気にするな」
「……」
「ソラならうまくやれると信じてるよ」
手加減が上手いかどうか自信はないが、できる限りはしよう。
「シャーロットが事の次第を聞けば、犯人は見つからなくなっちまいそうだからな」
見つからなく……?
あ、そうか。本人ならいざ知らず、愛しの家族へ事が及んでいるゆえ完全に制御できなくなる恐れがあるのか。
獣人でもない生身の人間の癖して屋敷の軽々飛び越えるほどの跳躍力や、私を軽々持ち上げる腕力を持つ彼女が理性なく暴れたらどうなるか。
罪を償わせるはずの犯人は軽々とミンチよりひどい状態になるだろう。軽々と想像できる。
む。
「……」
「どうした」
前方200m先に不審な熱源とまでは伝えられないが、前方を指差しながら減速していくとそれだけで言いたい事は分かってくれたらしい。
「流石だな。期待通り」
「……」
私の索敵能力すらもあてに連れて来ていたとはな。
具体的な機能までは知らないだろうが、ブロンテを通して把握していたか。
「──相手はソラの強さを知ってるだろうからな。まずは潜伏してくれ」
「……」
「先に手を出させるんだよ。あとは流れでよろしく」
口ぶりからして一発殴られるつもりらしい。
いくら腹立たしくとはいえ、半殺しの口実の為にそこまでするか。
「俺達家族の絆、見せてやろうぜ」
ジョージが悪戯っぽくあえて笑う。
その言葉を真に受ける訳ではないが、身内を攻撃されたのだ。
どれ、ここは一ついいところを見せてやろう。