古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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ギャギャ! コウヒョウ! コウヒョウ!
カンシャ! カンシャ!
シリアス! イッシュン! シリアス! イッシュン!


3 生きていたソラ

 フィクションに出てくる仕込み杖での暗殺術を極めた盲目メイドなんてここにいないが、全裸包帯片腕欠損ロリ人形の兵器ならここにいる。

 どうせなら前者がいて欲しかったと嘆いたところで仕方ないだろう。いても恐ろしいが。

 

 

 チュイィィン──と、擬音にすればこうだろうか? 

 細く、高く、耳障りと音楽の狭間を行く独特の音を立て、機械の兵士がベッドから立ち上がる。

 沈み行く太陽の逆光と窓から入る風に包帯の切れ端をたなびかせて、俺とブロンテが相対するそれは小柄ながら恐ろしい存在と映った。

 

 体格は確かに子供のそれに変わりない。

 しかしこちらを睨んで離さない黄金に光る鋭い目と後頭部に備えた二つの三角が、まるで今は獰猛な獣か悪魔として認識させる。

 

 古代の機械戦争時代に生まれた兵器。

 正式名称は二八式軽自立機械人形、与えられた名前はソラ。

 

 そいつが今ここに、今の時代に、蘇ってしまった──。

 

 

「……」

「っ!」

 

 

 無言のままのソラが左足を一瞬引いたかと思えば、既に飛び掛かられていた。

 咄嗟に手に持っていた物──先ほどブロンテに武器として渡された重たい人形の左腕を構えようとしたが、呆気なく守りは弾き飛ばされ体は突き飛ばされる。

 

 気が付けばシャーロットを逃がした扉を突き破り廊下の壁に背を叩きつけられ、地面に倒れていた。

 一瞬だ、一瞬でこれか。

 重たい機械の身体のくせして、とんでもない瞬発力だ。

 

「ジョージくん!」

「う、ぐ……」

 

 背を打った事で息が詰まり、呼吸がままならない。

 それでもともかく動かねばと、とりあえず立ち上がらないとという無意思の動作で地面に手をついた時。

 視線の端に、すぐ目の前に小さな素足が見えた。

 辿るようにそこから見上げていき、恐怖のあまり固まり動けなくなる。

 

「……」

 

 悪役然とした風貌の表現が似合う古代の兵器、ソラが一切表情を変えないまま冷たい目で俺を見下ろしていた。

 止めを刺そうというのか?

 最初に見つけた片足が、ゆっくりと持ち上げられる。

 

 

「止まりたまえっ!」

 

 ここまでかと諦めた所へ、ブロンテの声が耳に届く。

 諦め伏していた目を開けると、そこには身長差もあり覆い被さるようにして背後から組み付いたブロンテの姿があった。

 虚しくも一瞬で投げ飛ばされてしまっていたが、お陰で時間は稼げて俺は離脱し立ち直れ向き直れる。

 

 まだだ、まだ終わってない。

 こいつを何としても止めなければいけない。

 今ここで俺達が止めなければ。

 

「ブロンテ、平気か!」

 

 俺と同じく廊下へ出されたブロンテを助け起こす。

 

「ああ、彼女は確かに兵器だ!」

 

 そんな事を言ってるんじゃない。

 

「兵器だが、今はもう戦う必要ないぞ君!」

 

 隣に立つブロンテがそんな事を言う。

 まさか、説得する気なのか? 

 言葉を発さない、会話ができるかも怪しい兵器を相手に? 

 

「……」

 

 半身を向けて地面に転がっていた左腕を拾い上げたソラの動きが止まる。

 

「武勲栄冠の時代の戦争は終わったのだ。我々は硝煙(しょうえん)焼土(しょうど)攘夷(しょうい)の科学火薬を手放し和平を目指し、今は手にした平和を謳歌している。ソラくん、戦う必要はないんだ」

 

 ゆっくりとソラの首が動いて顔がこちらへ向く。

 言葉が届いたのかは、一貫して微動だにしない仮面のように固まったままの表情からは分からない。

 もしかしたら、言葉は通じていないのかも知れない。

 あるいは、通じているのかも知れない。

 

「……」

 

 片腕を失っている包帯だらけのソラの姿は、戦争を題材とした作品に出てくる終戦を知らず平和な故郷へ戻った傷痍軍人の様にすら見えた。

 ブロンテは言葉を続ける。

 

「先ほど殴ってしまったのは謝ろう。飛び掛かった事も。……君さえよければ、ひとりの人間として仲良くしてはくれないだろうか」

 

 ソラは床から拾い上げ手にした左腕をかちゃんと装着し、見た目だけで言えば完全な人間の姿になる。

 人間の子供の姿。暗闇に沈み、シルエットだけとなったソラは今、ひとりの人間となろうとしていた。

 

「……」

 

 俺の後ろから、廊下の向こうからどたばたと走ってくる気配がした。

 逃がしたシャーロットが警備を連れ戻ってきたんだろう。

 

 先ほどまでは良かったが今はまずい、今は説得中だ。

 今武装した面々で囲めば、ソラに裏切られたと取られてもおかしくない。

 ソラにとって武器というには弱い存在である警棒とはいえ構えて囲めば、あっという間に闘争の意思在りと思われる。

 

「お前らストップ!」

「ジョージ様、お下がりください!」

「今そいつに近づくな! 全員武装解除!」

 

 あっという間に俺とブロンテからソラの距離が離されて、割って入った多数の警護人が取り囲む。

 命令だってのに、誰も聞かねぇ! 

 

「いいやジョージくん。大丈夫だ、よく見ろ」

 

 俺の横に並ぶブロンテが、警護人の隙間から見えるソラを指さす。

 中途半端な猫背で停止したソラだが、自身を取り囲む面々に対し何のリアクションも示していない。

 

「説得成功、なのか?」

「いいや」

 

 違うのか? 

 でも動いてないし……。

 

「電気切れだよ。恐らく」

「はぁ?」

 

 線も何も繋いでないのに、電気? 

 

「恐らくは小型の蓄電装置か何かが内蔵されていて、今回はその残りの電気を使い動いていたんだろう」

「じゃあもう動かないのか」

「か、とも言えない」

 

 動かなくなったソラに困惑する警護をかき分けて近づいたブロンテがソラの頭を示す。

 暗くてよく分かりにくいが、俺も近づきよく見てみればただの髪の毛にしては何か違和感を覚えた。

 ブロンテに倣って髪の毛を手に取ってみる。

 黒に近い青、紺色に見えるそれの一本一本は何か透明なガラス状のもので包まれているが……これは一体?

 

「太陽光発電……だったかな? 光をエネルギーに変換する装置が昔あったらしい。恐らく、ソラはそのお陰で一時的に動けるだけの電気を得たんじゃないだろうか」

 

 確かに今日は今までとは違い、あの部屋でソラは棺から出されていた上に換気の為に窓もカーテンも開けていたため光を浴びる事が出来ている。

 それで動いたのなら、今後も管理をしっかりしないとまた動ける可能性があるのか。怖いな。

 

「警護人達、ご苦労だった。この子はわたし達が後を継ぐので配置に戻りたまえ」

「なんでお前が仕切ってるんだよ……」

 

 俺が雇い主やぞ。

 そういえばシャーロットはいないがどうしたんだろう。大丈夫だろうか。

 困惑しつつ言葉の通り配置へ戻ろうとしている一人を捕まえて聞いてみる。

 

「腕を痛めていたようなので、医者の所へ向わせております」

 

 ……後で何か手当出しておこう。労災だ労災。

 

「よし、ジョージくん。今度また起動実験をしよう。今日は部屋に戻すぞ」

 

 正気か!?

 また暴れたらどうするんだよ!

 

「その時はその時さ! はっはっは!」

 

 少しは懲りてくれ! 

 

 

 

 

 

♪ 

 

 

 

 

 

「そういえばシャロくんの容体は?」

「聞いて驚け。超無傷」

 

 骨も折れてないどころかアザにすらなってなかったって。

 翌日にはケロっとしてたしソラの行動も寝ぼけてたなら仕方ないよって許してた。

 超寛大過ぎだろあいつ。つか、超頑丈過ぎだろ。相手は機械だぞ。機械の掴みを痛いで済ませるなよ。

 

「んで、今日は起動実験だったな」

 

 ソラの暴走事件から二週間後の今日。

 一度首都へ戻ってから再びこちらへ戻ってきたブロンテは、ついにソラを再び動かそうと提案してきた。

 

 ベッドで寝かされているソラを動かす方法はシンプルに日光に当てるだけ。

 この部屋のカーテンを開いて、しばらく放っておけばまた動き出すのだろう。

 

「太陽光発電はわたしの仮説だから、外れていたら恥ずかしいんだがねぇ」

「そう言ってどうせ当たってんだろ?」

「ふふん。“全知は君だ、君の導き出した解に間違いはない”と、ハッキリ褒めてくれたまえよ」

「やなこった。調子に乗るから。てか乗ってるから」

 

 とりあえずカーテンオープン。

 午後はよく陽の差し込む部屋なので眩しい位だが、太陽光が食事(?)となるらしいソラにとっては丁度いいはずだ。

 光に照らされ青っぽくも見える綺麗な髪の毛からは、傍から見てこれで本当に合っているのか分からないけれど。

 というか、太陽光が電気になるってどういう事なんだ。流石ロストテクノロジーの塊。

 

「後は起きたソラくんとすぐに和解できるように……」

 

 手持ちのアタッシュケースの中からブロンテが取り出したのは……ぬいぐるみ。

 なんでぬいぐるみ? と聞くまでもなくふたつみっつと大量に出てくる出てくる。

 出てきた様々な動物のぬいぐるみ達はまだ動かないソラの枕元へ並べられて行った。

 

「頭に影被っとるがな」

「ちょっと位いいじゃないか」

「実験ならちゃんとしろって」

「けち」

 

 猫だの犬だの熊だの、よくもまあこんなに持ってきたもんだ。

 ブロンテにぬいぐるみの趣味があるなんて聞いたことないし、わざわざソラの為に買ってきたんだろう。

 もしかして首都へ一度戻ったのはこれを買うためじゃなかろうか。

 

「え、そうだが?」

 

 ……そのために二週間、俺はいつ不意に動くか分からないソラに怯えながら過ごしていたと。

 

「え、そうなの?」

 

 ブロンテェ! 

 

「怯えてたのは君の勝手じゃないか! そらこの家に置いたのはわたしの責任だが!」

「せめてすぐ帰ってこいやぁ!」

「わたしにも事情があるというものだ! そんなにブロンテ様がこの家にいて欲しいというのなら部屋を用意したまえ!」

「そんな事言うならほんとに用意するぞ、部屋!」

「よし、頼んだぞ!」

 

 何がヨシか。

 というかブロンテが不法占拠してる部屋がひとつあるじゃんかさ。

 

「……む、待て。馬鹿やってたらソラくんが動きそうだぞ」

 

 え、マジ? 

 

「まじまじ。ほら、耳を澄ませてみたまえよ。この甲高いモーター音……」

 

 甲高い……。

 いや聞こえないけど。

 耳鳴りじゃないのか? 

 

「いや本当だよ。あ、もしかしてモスキート音……」

「それお前も聞こえないだろが」

「なんだと?」

 

 キレてるキレてる。

 ……いや待て、今なんか俺にも聞こえたぞ! 

 

「誤魔化すなジョージくん。君にモスキート音は聞こえないんだ、君はもうおっさんなんだ。認めたまえ」

 

 いや本当だって。

 ほらブロンテ、こっち見てないでソラ見ろ! 

 動いてる動いてる! 

 

「……」

 

 例の高音とブオーという低音を鳴らしながら、ゆっくりとソラがベッドから上半身を起こしていた。

 ぽろぽろと転げていくぬいぐるみを目だけで一瞬追いかけ、続いて首を動かし周囲をきょろきょろと見る。

 今のところは暴れる様子もない。

 前回のブロンテの説得を覚えているのか、最後は俺の横に並んで座るブロンテをじっと見つめた。

 

「やあ、わたしの事は覚えていたみたいだね。ソラくん」

「……」

 

 猫耳のような頭頂部の三角形をちょこちょこと動かしながら、首をゆっくり横に振った。

 

「じゃあ俺の事は覚えているか?」

「……」

 

 頷いて肯定。覚えていてくれたか。

 

「何で君だけ覚えられているのさ」

「イケメンは辛いね」

「覚えやすいアホ面って事かい?」

「キレそう」

 

 っとと、馬鹿漫才してる場合じゃない。ブロンテと会話するとついつい遊んでしまう。

 今はソラが優先だ。

 

「しかし悲しいね。説得を受けて仲良くしてくれていると思ったのだけど、わたしの事は覚えていないか……」

 

 首を横に振った。

 

「ん、わたしの事を思い出したのかい?」

 

 ちょっと横に振った後、縦に振る。

 

「どういうことだ?」

「さあ? というか、何故無言なんだろう」

「……」

 

 ソラも首を傾げた。

 お前が分からなければ俺らも分からないんだが。

 

「スピーカー的な何かが故障しているのかも知れない。ちょっと待ちたまえ、紙とペンを……」

 

 アタッシュケースを漁るブロンテを尻目にソラは動いて、ベッドから足を出して座り、俺達と正面から向き合う形となる。

 立ち上がり移動しようとしないのは気を使っての事か、あるいは動く必要がないからか

 

「あったあった。はい、文字は書けるかね?」

「……」

 

 ブロンテから紙とペンを受け取り、アタッシュケースを台にして膝の上でソラは何か文字を書こうとするが……。

 

「……」

「……書けない、か」

 

 書き出されたものは、文字と呼ぶには理解不能なものだった。

 ブロンテが書けないと判断したのだから、古い文字ですらないんだろう。

 

「ふぅむ、筆談も不能と」

「……」

 

 無表情のままだがソラの肩ががっくりと落ちた気がする。

 こくりと頷いているので、自分でも上手くいかないと嘆いているように見えた。

 この前は恐ろしい傷痍兵みたいだったのに、何というか借りてきた猫という言葉が似合う少女だな。見た目は。

 

「俺らの言葉は理解しているんだろ?」

「……」

 

 頷いた。

 

「ふむ。では手を変えよう。ちょっと準備に時間がかかるから君らで自己紹介でもしていたまえ」

 

 そういえばソラの視点では寝起きで知らない人達に囲まれているんだよな。

 ソラから筆記用具一式を返してもらったブロンテが何かを準備している間に、言われた通り自己紹介をしておこう。

 

「俺はジョージ。モリカマって国の端っこ、ケィヒン海岸にある港町を統括している領主だ。この建物の主でもある」

「……」

 

 領主、とは言うが堅苦しい物ではなく昔の呼び名がそのまま伝統的に残っているだけ。

 知らない人に紹介するなら今は町長の方が通じやすい。

 町長より領主の方が響きはかっこいいのに、いつも町長って言わなきゃいけないの辛くて泣いちゃう。

 

「で、こっちにいるのはブロンテ。オッペンハイマー商会所属の考古学者で、ソラの収まっていた棺を見つけてここに持ち込んだ……なんだろう。疫病神?」

「聞こえているぞジョージくん。訂正すると、わたしとジョージくんの間柄は幼馴染だ」

 

 うーん、まあ親が仲良かった関係で子供の頃から顔は知っていたけれど。

 でもそんな幼馴染っていうほど親しかったかって言うと、年に二回会えば多いくらいだったし?

 今みたいにちゃんと話すようになったのは大人になってからで、幼馴染って称するには微妙なラインじゃん?

 

 ま、いっか。ブロンテの事は。

 そんな説明せんでも間柄は大体雰囲気で分かるやろて。

 よし次。

 

「あとはあれ、起きてすぐ腕を掴んだあのメイド覚えてるか?」

「……」

 

 こくり。

 この様子だと前回あった事は全て覚えていそうだ。

 

「あいつはシャーロット。愛称はシャロ。ここで雇ってるメイドで、んー……。大家族の長女で鋼の女。以上」

「もっと言い方あるだろ君。さっきから適当過ぎだよ」

 

 両親が早くに亡くなったから沢山いるチビっこを一個下の弟と共に頑張って養ってる、とか言ってもクッソ重い雰囲気になるじゃん。

 料理場にいるトーマスがその一個下の弟って言っても、ソラはトーマス知らんし。 

 まぁ色々総括して鋼の女。以上。

 

「君ねぇ……。ま、いい。さぁ完成したぞ」

 

 ブロンテの準備も終わったようだ。

 ソラに渡した紙には細かく一文字ずつが書いてあり、言わずともこれで何をするのかは分かった。

 発声も筆談もできないなら、全ての文字が書かれた物を用意し指さして貰おうというのだ。

 こちらの言葉が聞こえて理解できているのなら、よっぽど非協力的でない限りは行けるハズ。

 

「まずは君がこれによって挨拶可能かを知りたい。“こんにちは”、とできるかね?」

 

 紙を受け取ったソラは人差し指で一文字ずつ指そうとして……首を傾げた。

 しばらく空中で指をさ迷わせたあとにもう一度チャレンジしようとして、また止まる。

 まるで自分の理想に体がついていってないような……。

 

 もしかして、その方法でも言葉を伝えられないのだろうか。

 今の所ソラは敵対どころか協力的ですらあるので、誤魔化しているという事ではない。 

 

「参ったねぇ」

「だな」

「……」

「ふぅむ。文字自体の認識は出来ているようだけど、外部に言語として形作り伝える際に何か障害が……」

 

 ブロンテと俺はため息を、ソラは息を漏らす代わりに無表情のまま猫耳から埃混じりの温風をばふっと出した。

 その猫耳、どうなってるんだ? てかなんで兵器に猫耳付けてるんだ?

 

「ま、いい。現在のソラくんに敵意はなくて──」

 

 ふるふる。

 

「……敵意、あるらしいぞ」

「え、本当かい?」

 

 ふるふる。

 

「無いようだけど」

 

 どういうことだ、とソラに聞いたところで無駄かぁ。

 

「敵意はないんだね?」

 

 こくり。

 

「ま、そこだけ分かればわたしとしては満足だよ」

「俺もだ」

 

 少なくとも兵器として暴れられる心配がないのならいい。

 よしそしたら、これからの処遇を決めようか。

 今着せてるメイド服はシャーロットが持ってきたというか、服が無いのでとりあえずとして与えたものだし本格的にメイドとして雇うためではない。

 

「いやそのままメイドでいいじゃないか。折角だし」

「まじかよ」

「このままにしても持て余すだろう? それとも、可愛いお人形として扱うかい?」

「バカ言え。趣味じゃない」

 

 まあどうせなら働いて貰うか? 

 古代兵器の人形とはいえ、大人しい今は無口な子供なだけだし。

 周囲への説明だってシャーロットやブロンテに任せれば問題ないだろう。

 口に戸が立てられない気はするが悪い子ではないぞシャーロット。手癖は悪いが悪人ではないぞブロンテ。

 めんどくさがりだぞ、俺。まともな大人がいねぇなここ。

 

「ソラくんにとっても──」

 

 ──ふるふる。

 

「また首振りかぁ」

「メイドは嫌なのかい?」

 

 ふるふる。

 

「参ったな、先ほどから何に反応してNGを出しているのか分からない」

「言葉が通じてないってのはもうありえないしなぁ」

「……」

 

 そこはこくりと頷いた。

 言葉は分かるという事は、何かに反応し訴えているという事で間違いない。

 一つ一つ確認していこう。

 

「メイド……従者になるのは嫌か?」

「……」

 

 ふるふる。

 

「ではソラくん──」

 

 ──がしっ。

 ソラの小さな右手がブロンテの左手を掴んだ! 

 

「……シャロくんは余裕で耐えたが、わたしの場合は軽く骨ごと潰れるだろうねぇ」

「一回くらい痛い目に合っとけ。そういえばソラ、お前ってシャーロットの腕をどれくらいの力で掴んだんだ?」

 

 聞いてみるとソラは開いている左手で傍らにいる熊のぬいぐるみを掴むと、その頭が変形し潰れるまで握った。

 ぎりぎりと、元の姿が何だったのか分からないくらい力が込められている。

 すぐに手放されたそれを受け取り、俺も同じように握り潰そうとして見る。

 綿か作りかあるいはどっちもしっかりしているのか、俺の力じゃ全く変形しなかった。

 

「無傷で済ませたシャーロットってマジで鋼なんじゃね?」

「……」

 

 無口無表情のソラはそれを聞いて、ゆっくりと首を横に振った。

 

「冗談だって」

 

 思わず撫でてしまう。

 猫耳付いてるし小柄だし、なんか小動物っぽいんだよなーソラって。

 撫でたらさっきよりも温風が増したし本当に猫耳なのかは分からないけど。何の装置なんだこれ。

 

「……で、わたしの手を握った意味はなんだい?」

「そういえば」

 

 何か訴えたいことがあるんだろう。握ったタイミングと対象からしてブロンテに。

 

「ではソラくん」

 

 ぶんぶんぶんぶん。

 今までにない凄い勢いで首を横に振った。手ごと。

 

「お前のこと嫌いなんじゃない?」

「あ、アタッシュケースで殴った事は謝っただろう!?」

「……」

 

 こくりこくりと頷いているし、そこではないんだと思う。

 やはり良く分からない。

 

「うーん……」

 

 ベッドから落ちそうになっていた猫のぬいぐるみを掴み、膝に置いたソラが自分自身を指さす。

 

「うん? ソラくんは何を言いたい……」

 

 ぶんぶん! 

 

「参ったな。すまない、お手上げだ」

 

 がくり、と肩を露骨に落とすがソラはやはり無表情なのでとてもシュール。

 今ならこの鋭いツリ目も何となく可愛く見えるな。

 手を掴まれたままのブロンテは珍しく困っているが、普段俺もこれくらい困らされているからちょうどいいだろう。

 

「ソラくん……」

 

 首を横に振る。

 

「ソラさんや、ブロンテさんをあまり困らせんでやってくだせぇ」

 

 昔話の農民みたいなへりくだり方したら、ぎぎぎとゆっくり首を横へ動かした。

 しかし、なぜかそれを見てブロンテは目を輝かせる。

 

「分かった、そういう事なんだなソラくん!」

 

 急に立ち上がったブロンテの手を引っ張り、ソラは無理やり座らせた。

 そして、頷きと首振りを交互に繰り返した。

 

「ジョージくん、全てはわたしのせいだったのだ。そう、全てわたしが悪かった。許してくれ」

「どういうことだ?」

「そう、この子は──ソラちゃんなのだ!」

 

 はあ? 

 

 

 

 

 

♪ 

 

 

 

 

 

「そう、この子は──ソラちゃんなのだ!」

 

 それだけ、その真実だけを伝えたいだけだったのに何という苦労。

 白衣の似合う金髪の女性、名をブロンテ。この女性に私が少女型の自動人形であるというのを伝えるのにとても無駄な時間と労力を要した。

 私の頭部にある髪の毛に形を寄せたファイバー型太陽光発電機はすぐに見抜けたのに、どうしてこういう所で勘が悪いのか。

 

 ……伝える言葉があればそれしき楽に伝えられたのだろう。

 

 記憶領域のエラーだけでなく言語出力の機能にも障害が、それも重篤に出ている。

 前者はいつになるかは分からないが時間をかければ直せない事はなさそう。しかし言語出力については修復のメドも立てられない。

 

 ウイルスやバグ、物理故障はなく全て内部のエラー。まるで元からそんな機能なかったかのように抜けている。

 数万数十万それ以上の再起動失敗の果てに起きられた、つまりはそれ相応の時間が経っているのだし、むしろこの程度の破損で済んで良かったと捉えるべきか。

 幸いなことに言葉や文字を受け取る事自体は問題なくできているし。

 自分の意思を上手く伝えられないのは、とてもとてももどかしいが。

 

「あー。ブロンテって誰でも“くん”付けだもんな」

「こっちの方が研究者っぽくてかっこいいだろう?」

「かっこよさでそれやってたのかよ」

「たまに恥ずかしくなる」

「やめちまえ」

「やめませーん」

 

 ……ワザとなのか。

 性別を間違えられたのかと思って……無駄な訂正に時間を割き過ぎた。

 

「……」

 

 ま、いいや。正確に言えば少女型なだけであって機械の身に性別は存在しない。ベースがどちら寄りな話だ。

 それでえっと確か、私の今後の話をしていたけれど従者か。

 兵士もメイドもあまり変わりないだろう。上からの命令に従う存在で、戦うのがメインか否かの違いだけだ。

 

 立ち上がって現在身に着けているものを確認する。

 前回の起動時にシャーロットが持っていたメイド服をいつの間にか着せられているが、これはもう聞くまでもなくメイド確定だったんじゃなかろうか。

 

「さ、て。ソラく……ソラちゃん……慣れないな。ソラくんでいいかい?」

 

 性別を間違えている訳でなければ私は問題ない。頷く。

 イエスかノーの二択とは言えせめてこれくらいの意思表示は可能で良かった。

 

「まずはここのメイド三人衆への新人参加の挨拶、続いて警備への紹介、料理場にも顔を出させるか? 町へは……」

「町は慣れた頃でいいだろう? まずは人の生活に慣らせたり、後は今の時代についての話をするべきだ」

「そうか」

 

 うむ、うむ。ブロンテは流石学者だ、ありがとう。

 私としても現在の情報が欲しいし、かといって聞けないしで困るんだ。

 

「体に不具合はないかね?」

 

 先日……かは分からないが前回ブロンテに殴られた部分の損傷は全くない。あの程度で壊れていたらキリがない。

 その他の部分も破損はなし。長年放置されていたのに何たる寿命かと自分でも驚き。

 電子頭脳領域の故障はままあるけど。特に言語出力関連。

 

「ではさっそく行こうか」

「もう行くのか?」

「どうせ早かれ遅かれだ。さ、行こう」




次回はなんか挨拶回りとか、そういうのやる予定!
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