古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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30 事後処理

 

 

 

 早いものであれから10日

 詐欺や兵器開発に殺人未遂等々余罪が云々で二人を逮捕というニュースが一面を飾り、しばらく屋敷どころかケィヒン一帯がそれはもう大変な大騒ぎだった。

 夜通しわいわいがやがやと取材が止まらない。もう一泊と言わずがもな、シャーロット以下一同全員しばらく屋敷へ留まらざるを得ない状況だった。

 ちらっと窓から顔を出すだけで目をギラギラに輝かせた人間共が押し掛けるのだ。あの情熱というか、勢いというか、いったい原動力は何なのだろうか。

 バッテリー切れを常に恐れる私にとってそれはもう、とても羨ましいところである。

 

『ウォオオ! ォァアアアアアッ!』

『おやめくださいましシャーロットさん! 気を確かに!』

 

 先ほど大騒ぎだったと言った中に屋敷も含まれていたが、原因その2はシャーロット。

 予想されていた通り、家族に被害が及んでいたと知った後はそりゃもう大荒れで。

 恐ろし過ぎてジョージが崖から落とされたこと、私が投石に被弾したことを伝えたくないな。

 

 ただでさえ咆哮一つで窓が割れ、止めようと抱き着いたエミリーが吹っ飛ばされたのだ。

 きっと真実を知れば、捕まっているあの男女は牢ごと消し飛ぶ。

 

『全力で潰すッ!』

『きゃあっ! ほ、本当に人間ですのっ!?』

 

 ……冗談抜きに、かの者共は()()()()となろう。

 中庭で吠え、面したガラス窓を全て破壊した後。それでも収まらず頭上で両手を握り合わせて地面へ放った強烈な叩きつけは、この屋敷を物理的に傾けるのに充分なエネルギーだった。

 そんな事件があった故、押収した兵器が爆発を発生させのではないかと大騒ぎだったのだ。

 

 薄々感じていた事だがやはり、シャーロットは他人から見ても人外かと疑われてしょうがない人物らしい。

 獣人という存在や、恐らく存在するであろう混血の可能性を考慮すれば珍しいで済むモノなのかも知れないが。

 

 あ、ちなみに屋敷の傾きや陥没した中庭はトリブレが直してくれたよ。

 どうも私が中庭を壊されて怒るんじゃないかと気を回してくれたらしくて。

 尤も私は恐れられるほどこれっぽっちも気にしてはないが。

 

「ほん、と、本当に?」

 

 割れていない窓から夕暮れに沈みゆく町を眺めていると、いつの間にか近くへトリブレは来ていたらしくそう尋ねてきた。

 きょろきょろと見渡す。──いた。執務室の入り口に掛けられた暖簾をスクリーンにして、影絵のように眠たげな瞳が浮かんでこちらを見ている。レイヤーを間違えたか瞳以外を消し忘れたみたいだね。見た目が。

 

「んふふふ……」

 

 トリブレと会うたびにちょっとしたかくれんぼとなるが、実はこちらも楽しんでいるので全然バッチコイ。

 で、さっきの質問に答えておこう。恐らく中庭が云々というのをどういう訳か察してのことだろうな。

 

「……」

「おー」

 

 頷いて、サムズアップ。

 ところで私の表情に一切のアップデートはないが、どう思考を検知したのだろうか。

 読み取られているのならそう肯定しているはずだし。

 

「友達だっ、……から。そそソラちぁ、ちゃんのここと、分かる。よ」

「……」

「んふふふ」

 

 やはりそれか。それは嬉しい。人を笑わせる道化師がゆえ察しが良いと言った所か。

 あるいは、おどけながらも仲介をする宮廷道化師。いずれにせよ、愚者や道化人とは言葉の響きに反して尊敬すべき存在であろう。

 

「てれ、て、照れれれるか、からっ」

 

 いなくなっちゃった。

 

「──あれ。ソラ、トリブレいなかったか今」

 

 眠たげな瞳のトリブレが先程までいた暖簾をくぐりジョージが顔を出す。

 つい今までそこにいたが、直前で消えてしまったぞ。首を横に振る。

 

「聞きたい事あったんだけど……呼べない?」

「……」

 

 いつも向こうから遊びに来てくれるので呼び方は残念ながら分からない。居住地への道順は覚えているが、そういう話ではないだろう。

 かなり仲は良いと自負しているものの、道化師業の忙しさを私は知らないからなぁ。

 アルバイトしてるって言ってたし、暮らし的には本業一本だと厳しいんだろうか。現実は残酷だなぁ。

 

「まぁいないならいいや。ちょいと来てくれ」

 

 もう今日の仕事は仕舞いだが、ここ最近のジョージは働き詰めで忙しそうだし付き合おう。

 疲れたように見える背中を追い執務室へ足を踏み入れるとかなりひんやりしてる。席へついたジョージもずいぶん不服そうだ。

 

「今回の件、兵器製造があったから首都から検査官が来るんだよ」

「……」

「ついでに裏山の整備計画の方も見てもらえるよう連絡しといたから、今すぐ工事って訳にはいかんが春先にすぐ動けるぞ」

 

 おお! それは嬉しい知らせ。

 なるべく早く墓石の方々を弔ってやりたかった。アン(怪奇現象)も浮かばれよう。

 

「……」

「あー……。その窓は、後々な……。寒っ」

 

 いつもの癖で怪奇現象出現スポットの窓を見たが、誰かさんが割ったせいでないんだよね。

 ただどこかでこちらを確認しているような気配は感じるので、やれやれのジェスチャーでも送っておこう。

 

「な。困ったもんだよな」

「……」

「ああ、で。その検査官が来るときにだ。喜べ、ブロンテが帰ってくる!」

 

 ブロ……ンテ……? 

 ……えっと、どちら様でしたでしょうか……。

 

「おいなんだその首傾げ。まさか、忘れた訳じゃないよな!?」

 

 おおう揺さぶるな、肩を掴むな。

 顔が近いのでぐいっと遠ざける。ちょっとした冗談じゃないか。

 

「お、覚えてるんだよな、大丈夫なんだよな!?」

「……」

 

 ぐいぐい引き剥がしながら頷いて肯定。

 なんなんだもう、しつこいな。冗談の通じないめんどくさい男だと思われるぞ。

 

「良かったー……」

 

 大げさな。

 

「いやあのな? お前、言っちゃ悪いが古い機械じゃん。だからその、いつの間にか壊れてたりって」

「……」

「一発頭に石ぶつけられてたし、怖かったんだよな」

 

 ああ、そういう話か。

 そうか、そうだな。そうなっていてもおかしくはない。

 なんせ動作でしかコミュニケーションの取れない私の不調を察するにはこうした些細な所からしかない。

 大げさなとは貶せない。なんせ、察する努力をしてくれなければ私自身困る事になる。

 無用な心配をかけさせた。

 

「……」

「大丈夫そうなのは分かったけど、そのポーズが何を指すのかは分かんないかな」

 

 む。そうか。

 健在を示す為にドスコイなジェスチャーをしてみたのだが。

 

「そんで話を戻すと、数日中には首都から人が来る。なんで、今の内に準備しておこうって話よ」

 

 ジョージが全部喋っていけばそれで済むのではないのか? 

 

「もちろん俺が前に出るけど、一番問題なのがこれよ」

 

 ぱさ、と机に並べられたのはメモ紙。

 首都の方とやり取りした業務的な内容だが、どうかしたのだろうか。

 

「ソラの持ってる映像を写真にするとして、証拠として提出できる形にしないといけないんだよな」

 

 私の手書き出力ではダメと? 

 

「……」

「撮ったカメラ本体とそこから現像したフィルム。客観的に見て捏造の余地がないってモンじゃないとだ」

 

 それもそうか。

 まさか私自身を撮影機材として差し出す訳にもいかないからな。

 

 てかそこら辺まで考えて私を連れ出したんじゃないのか。

 本当に計略だったのか? なんだか胡散臭くなってきたぞ。

 

「トリブレにちょろまかせないか聞きたかったんだけどなぁ……」

「……」

「いてっ、いておい、蹴るなっ」

 

 トリブレは誇り高き道化師であり便利な魔法使い等ではない。

 

「無いならないで手はあるからいいのっ、楽したかっただけだから!」

 

 そうなの? 

 

「じゃじゃん。ここに最新式のカメラがあります」

 

 さい……しん……? 

 なにこの……長方形のやつ。人類はここまで技術を失ったのか。

 いや兵器転用を恐れて規制ばかりのデジタル衰退って事情は分かるんだけどさ、もっとこう、融通利かないの? 

 

「……うん。俺にもソラのその首傾げの指す意味が分かった気がする。ぜってー、自分の両目の方が性能高いって思ってる」

 

 大当たり。

 

「っしゃ!」

 

 そんな喜ぶことか? 

 

「……」

 

 手に取ってあちこちから観察してみる。

 レンズが縦に二つ並んだ長方形で、なんとファインダーは真上についているらしい。

 二つレンズがあるものの、それらを切り替えるようなスイッチはない。とすれば、これは機能の分割か。

 マニュアルを知っている訳ではないけど触っていれば大体分かる。ここの捻りでピントを合わせ、こっちで露出の調整だろう。ファインダー越しだと特に影響してないこれは、恐らくシャッタースピードか。

 

「お、撮るか?」

 

 なんかにやにやしてるジョージを正面に捉え、レバーを下げる。

 このレバーはバネ仕掛けとなっている手触りがする。バネ仕掛けという事は、スイッチを押せば戻るという事。

 

「……」

 

 えいや、ぱちり。

 

「ソラ、ソラ、撮れたと思う?」

 

 それはもちろん。かしゃんとレバーが戻ったのだ。間違いなく撮れただろう。

 

「貸してみな」

 

 手元から取り上げられ、ジョージは手元でくるくると私があまり触らなかったダイヤルのようなパーツを弄る。

 あれは内部で何かが動く気配がしたし、他の機能は全て見つけたのもあってスルーしたが何か意味があったのか。

 

「はいチーズ」

「……」

 

 よく分からないのでピース。平和、平和。

 

「ソラの時代は違うんだろうな。カメラで撮る前にはフィルムを巻く必要があるんだよ」

「……」

「ま、てなわけで。このカメラをソラにあげようと思う」

 

 わーい。と喜んでおこう。

 私が壁に映像データを投影できると知っているので、それをこのカメラで上手いこと写し、証拠として現像してくれという話だろう。

 ワンクッション挟むので品質はどうしても悪くなるが構わないのだろうか。それとも、緊急時に撮った写真ということで多少の臨場感も盛り込みと。

 

「ふっ」

 

 何故笑う? 

 

「それはッ!」

 

 天井の角が外れ、エミリーが降ってくる。いつからいたんだよ。

 

「ジョージ様がソラさんの愛くるしさに気が付き、我が子のようなものと母性本能に目覚めたからに決まっていますッ!」

 

 色々と申し立てたい所が多すぎる。

 何を言ってるんだお前は。

 

「何を言ってるんだお前は」

 

 気が合うなジョージよ。一言一句同じとは。

 

「とりまソラ、伝えた通りな。なるはやで頼む」

「……」

「丁度いいし現像の持ち込みはエミリーに頼もうか。俺はしばらく外に出られる状況じゃないし、いつ首都から人が来てもいいようにソラも近くに置いておきたい」

「あら、あらあらあら。ソラさんを独り占めしたいだなんて……独占欲ですわ! きゃー!」

「今日どうしたのお前」

 

 エミリーの狂乱が止まらない。一体どうしてしまったんだろうか。

 

「──あのっ! しつれいしますっ!」

 

 ぴょこ、と先ほどエミリーが開け放った天井の扉からアンの姿が見えた。

 言わずがもな、怪奇現象ではなく獣人の方だ。

 

「どうやらアンめがたくわえていたくだものがはっこうしていたらしく! エミリーさまはみごとよっぱらいなられたごようすでして!」

「え、なに。俺の屋敷って屋根裏にリスの巣でもあんの?」

 

 それを言うならネズミの巣だろう。どっちみち言い方があんまりだが。

 

「つか、発酵て。お前んちどうなってんの?」

「せんじつのさいがいのおり、いれものがごはそんなられました!」

「シャーロットが災害扱いなのは否定しないけどさ、屋根裏に腐ったもん貯め込んだって白状かお前は」

 

 姿なきアンがどこに住んでいるかという疑問はあったが、話をまとめるにどうやら屋根裏に住み着いていたらしい。

 獣人とはいえネズミの習性か、それとも飢えに苦しんだ時期を覚えていてか、そこへ本人は収集した果物を貯め込んでいたと。

 で、シャーロット怒りの一撃の余波でそれが壊れ、奇跡的な発酵を遂げたそれらの匂いは屋根裏に充満しエミリーはやられたと。

 

「……」

 

 ぴぃと泣いて引っ込んだアンがかわいそうだし、何より屋根裏空間を多用するエミリーがまたこうなっては厄介だ。

 ここはひとつ、酒酔いとは無縁な機械の私が掃除に出よう。今日はバッテリーも調子がいいし。

 

「っと待て待てソラ、上に行きたいのは分かったから机に乗るな、手を伸ばすな、危なあぶあぶ!」

「ソラさんのスカート! ちらり! あああ! 甘美! 甘美ですわね!」

「……」

「待て、脚立持ってくるから! 掃除してくれようってんだな! ありがとうな! だからちょい待て!」

 

 そう? 脚立があるならありがたいけど。

 どたばたジョージが走っていく。

 

「あの!」

 

 む、アンがまた出てきた。

 

「おいだすのであればせめてもう、つぎはないのでここで! しあわせなきおくのままはてたく!」

「……」

 

 おいあいつ自決しようとしてないか。

 エミリー、シャーロット呼んで捕まえて貰っていい? 

 

「ソラさんがわたくしを見ている……美しい瞳……」

 

 あーそうだ。トリブレのように詳しく察してくれる訳ないんだ。

 私に言葉、無いんだった。てへ。

 

「……」

 

 しょうがないので両肘のカバーを展開し、久し振りのブースト点火。

 かーらーのー、大ジャンプ! 

 

「ぴぃええええええっ!」

 

 ばごんと盛大に天井をぶち破り、やって参りましたは屋根裏の巣。

 私がぎりぎり直立できない程度の空間しかないが、柱のみで壁が無いぶん暗闇も相まって無窮に思える。

 

「あのあのあの、ソラさま……!」

 

 尻もちをついてすごい涙目になっているアンを発見した。

 もう観念といった様子なので、とりあえず皆が私にするように頭を撫でておく。

 

「ん、えへへ」

 

 くすぐったそうに笑った。

 

「……」

 

 手にしていた小さなハサミを払いのけて首を横に振ってやると、意味を察してくれたのか抱き着いてくる。

 今までみんな私を幼子のように扱って来たため、このような……そう、妹。例えるなら、妹のように振る舞い接してくる存在は初めてだな。

 

「ソラさまにあんないいたしますね、アンめのすを!」

 

 いや扱いは巣でいいんかい。

 

 

 

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