古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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 1000年前に起きた終末戦争。機械戦争時代と今は呼ばれるそれによる被害はすさまじく、高度に発展していたらしい当時の文明は滅んでしまう事となった。

 わずかに残った人類はその反省から各国全て非武装化するという決断を下す運びとなり、そのさい先頭に立って行動したのが皆さんご存じ貿易商のオッペンハイマー商会。

 航行関連技術やそも船そのものすら消え失せた中で唯一稼働可能な大型船を保有し、かつ以前から慈善事業に力を入れていたため各国の窓口となり復興の希望となったのだとか。

 

 それからというものの商会はいかなる国をも超越した権限を持ち、貿易の傍ら使命として遺構の調査をしては兵器類の破棄を続けている。

 権限を持ち過ぎではないかとは思うが、非武装のまま1000年も世界平和を保っているのだから私や書籍では把握できない何らかの法があるのだろう。それこそ魔法とか?

 

「……」

「喋れないってのは本当なのね」

 

 えー。はい。日も暮れて暗くなった頃のお屋敷ですが、なんとオッペンハイマー商会が会長のソフィア様がいらっしゃいました。

 どういう商会かは前述の通り、そしてそんな商会の会長ともなればどんな方かとは言わずとも分かる通り。

 

 ……ん? あれ。

 でもそういえば初代会長の名前って、確か……。

 

「私の名前は内緒にしてね。まあ、喋れないの分かってて教えたんだけど」

「……」

 

 ソフィア・オッペンハイマー!

 前身となる慈善組織から理念を引き継ぎ、商会として発展させた初代会長の名前だよ!

 

 え、あるぇ?

 機械戦争が確実に1000年前で、その時点ではっきり名前を記されてたのがソフィアさんで。で、代替わりの資料も残ってて、今の会長さんとは名前が違う? でも会長を名乗れる? メモリ内の資料からソフィアを名乗りつつ会長と言われても私は納得して……?

 

「あれ、固まっちゃった。ちょっとやり過ぎたかな……」

 

 ──この会長、いったい何歳?

 

「……」

 

 顔写真を照らし合わせれば答えは出る!

 でも目を開けたらカメラなのがバレて終わる!

 

「そろそろあのずっと言い争ってる二人に声かけましょっか」

 

 はっ!

 そうだジョージにブロンテは私をどうするかとかどうしてこうなったとかずっとわーきゃー言ってる!

 会長を名乗る会長の目の前で! 止めなきゃ、止めて、知らせなきゃ!

 

「……」

「なんだいソラくんそんなに引っ張って。わたしを気にすることはないよ、わたしはこの鈍くさアホ町長を正さねばならないからね。策があるとはいえ撃たれ崖から落とされるなど許されるはずがない。そんな危険な事。死んだらわたしが悲しむとは思わないのか!」

「今そんな話してる場合じゃないだろってば。確信があったとはいえ俺だって怖かったんだぞ! それよりソラのことだよ、ほらソラがこんなに引っ張ってるって事はなんか伝えたい事があって──」

 

 あ、あの。

 

「──やあこんにちは。御馳走になった海鮮丼、中々おいしかったよ」

 

 たぶんもう手遅れです。

 色々聞かれてます。

 

『あ゜』

 

 人間ってそんな音出るんだ。

 ふたりが押し殺した悲鳴と言われるそれを発した時、会長は手で口を抑えクククと笑っていた。

 楽しんでるな、ソフィア会長。

 

 

 

♪ 

 

 

 

 場所を移して執務室。

 こういう場合って応接間とかなんじゃないのって感じだけど、こっちでいいらしい。

 ローテーブルとソファのセットが置いてあるからいいんだろうか。会長も別に気にした様子ないしいいのかな。

 

「このピザは?」

「え、ええ、メイドのひとりが軽食にと焼いたモノでして……」

「おひとつ貰っても?」

 

 シャーロット製のピザがちょっと残ってた! しかも目に留まって食われてる!

 ええんか、ええんか会長。それ毒盛られてたりしたらどうするんすか、食中毒とかは。

 

「ちょっと冷めてるけどおいしいわね」

「温め直させます!」

「いいわよ別に。食べられる」

 

 ちなみに私は現在に至るまでずっと目ことカメラを瞑っており、未だ会長の顔は見ていない。

 ジョージとブロンテが並んで座り、その正面ひとり掛けソファへ会長。私はメイドなので立ちっぱ。

 会長がどんな顔をしておりどんな表情でピザを頬張っているのだろうかと気になるが、命には代えられない。

 あとブロンテはだんまり。ずっと微振動しているので、もう余裕がないんだろう。

 

 目の前でわーきゃーしちゃったしなー。

 

 私だって余裕がある訳じゃない。

 裏庭作業で汚れた服の代わりにいつもの特性メイド服を着ているし通気口を隠してないし。

 それに本当は茶のひとつでも入れに行かなければいけないんだろうけど、離脱するタイミングを失って立ち尽くしている。

 

「この屋敷で働いているメイドの一人が焼いたものでして……」

「そうなんだ。しばらくこの町に留まるし、また作って貰おうかしら」

「ご要望とあらば!」

 

 研修中に来賓対応のマニュアルを受け取り読み込みはしたが、いざ実際にとなれば、しかも会長相手となれば。

 無言がゆえ一声かけてなんて事も出来ない。そもそもマニュアルも喋れる前提だったしもう破綻してる。指摘しておくべきだった。どうにかして。

 

「そ、ソラ。お茶を頼めるかな」

 

 キタ!

 こくりと頷き──

 

「──失礼致します」

 

 はい終わったー。

 シャーロットきたー。

 タイミング良すぎる―。

 気が利くね流石メイド長ー。

 

「ありがと。君おっきいわねぇ」

「お褒めに預かり光栄です」

 

 ことんことんと食器が並べられる音が終わり、私の横へ立ったシャーロットがそっと私の後頭部を抑える。

 頭を下げろって事かな。お辞儀を始めた瞬間にはもう手が離れており、ついで背中をつままれ後ろへ引かれる。

 

「……」

 

 下がれってことか。流石はメイド長。この場合にやってきて物おじせずいられるだけある。

 これは私のピンチを察しての行動だろう。ならばそのチャンス逃す訳にはいかない。

 

 ジョージ&ブロンテの2人がここからどうにか巻き返す前にまず会長の前から私は逃げなければ、この違法性ありあり屋敷に明日は無いのだから。

 

「ん? ああ、ソラとは話したいこともあるし残ってていいわよ」

「……」

 

 え、あの。

 

「というかこっち来て座りなさい」

 

 はい……。

 

「あの、会長、そちらの者は研修中でして……」

「知ってる。ちょっと別件でね」

 

 並んだひとり掛けソファの隣へ座らされられられるるらら。

 あかん、詰みの文字がメモリを支配し過ぎてトリブレっぽい喋りになっちゃった。

 道化師なら上手く橋渡ししてくれないだろうか。流石に友達料金の物言いが過ぎるか?

 宮廷道化師と普通の道化師ってどう違うんだろう。あははー。

 

「……」

 

 ソフィア会長は真横なので、バレないと判断し人間なら薄目というもので我が主を観察する。

 

「それでは話を進めさせて頂きます」

 

 ジョージは表面上なんとか営業スマイルを浮かべているが、横のブロンテはもう気絶してる。顔が死んでる。

 

「まずは例の件、兵器密造と使用についてね。現物はある?」

 

 ソフィア会長は私よりまず予約された仕事を優先するらしい。

 今はこちらに興味がないようなので、このまま様子を見させてもらおう。観察を続ける内に突破口を拓けたらうれしい。

 

「はい。少々お待ちください──」 

 

 違法なものは執務室の金庫にしまってある。いくら部下を信頼していたとて誰にも触らせる訳にはいかないのだ。

 それを取り出し、手渡し、会長自らによる違法性のチェックが始まった。

 今回議題にあがるのは一定重量以上を一定速度以上で発射できる機構を持つモノであるかどうか。今回あの男女が保有していた物はもどきとはいえ紛うことなきクロスボウだ。

 もどきと断定している私はクロスボウの現物を覚えている訳ではないが、少なくともこんなちゃちなモンじゃないと感じているのでもどき。

 室内で発射速度を測定する訳にはいかないので、まずは構造の確認から入る。

 

「木とバネで構成して、弾は削った石と。金属パーツが既製品の流用って事は、そこの自作はできなかったってわけね」

「私が撃たれた際は幸いにも掠める程度で済みましたが、直撃していたかと思うと恐ろしいものがあります」

「石も立派な質量武器になるからねぇ」

 

 しばらく手元で可動部を弄っていたが、やがて機構を理解したのかソフィア会長は弾である石を装填してしまった。

 いいのかなあれ。危なくない?

 

「お、お気をつけください!」

「へーきへーき」

 

 銃口というか射出部分を自身の手のひらに向け、そして──

 

「──よっ」

 

 ばすん、と射出された石を受け止めてしまった。

 

「えぇ?」

「……」

 

 ジョージがドン引きするが、私もドン引きだよ。

 直接現場で食らった私達にはあの石の威力や衝撃を分かってる。

 私は当たり所が良かったのと距離減衰で損傷なく耐えられるレベルとなっていたが、至近距離で足に食らっていたジョージは跪き動けないレベルだったはずだ。トリブレが気を利かせて怪我を治すくらいには痛がっていた。

 それを、知らないとはいえ、何のためらいもなく自身の手へ……?

 

「この威力なら充分違法ね。連射もできるならなおのこと」

 

 石の詰まった筒を装着する不格好な形でクロスボウもどきは連射可能となっている。

 そこまで見抜き、実践としてソフィア会長は再び自身の手へ向けて発射した。

 1、2、3、と次々射出し、指の間で挟み全て受け止めてしまう。なんだその精密性とパワーは。

 

「あの、会長」

「あぁごめんね? ここまでちゃんとした武器が造られるなんて久し振りで」

「無事なんですか……?」

「こんな程度じゃビクともしないよ」

 

 しかしそこは我らが領主様。咳払いを一つすると、聞き取りを行った範囲の事件概要を資料と共に語り始める。

 普段からシャーロットやらシャーロットやら、あるいはシャーロットやらの破壊力でなれているだけあるな。

 ソフィア会長と戦ったらどっちが勝つんだろう。壁際で待機したままのシャーロットは黙して語らず。流石に真面目な現場でいつものようには振舞わないか。

 

「──なるほど、大変だったみたいね」

 

 私がメモリ領域内で双方の戦闘力を分析していると、こちらは一通りの説明を終えたらしい。

 

「詐欺行為に兵器製造の事実は揺るがず裏に繋がる組織等もなし。兵器関連の記憶を処理しないといけないから一度首都へ移送する必要があるけど、折角だからその辺は私が帰りに連れていくって事でいいかしら」

「会長の手を煩わせる訳には」

「何事もついでついで。写真とカメラは後で受け取るよ」

 

 ひらひらと手を振っているようだけど、記憶の処理ってなにさ。怖っ。

 

「そういえば海鮮丼食べてる時にお店の人が言ってたんだけど、事件後にこの屋敷の裏で爆発が起きたとかなんとかって」

 

 シャーロットァ!

 あの怪物が怒りのパワーで起こした騒ぎが今になって牙を剥いてきたァ!

 

「あれは別件でして」

「そうなの?」

 

 誤魔化しが利かなさすぎる。というかこの件を出されるのは想定外だったようだ。

 そうだよなそうだよな、シャーロットのアルティメットインパクトについては町の噂を聞くか当時の新聞を入手するかしないと得られない情報だからと想定できないよな。

 正直に説明したって絶対ふざけてると思われるもん。本人そこにいるし証言できたって、絶対ふざけてると思われるもん。

 

「ソラがやったとかは、ないわよね?」

 

 うわこっち向いた! こっち怪しんでる!

 

「ソラは関係ありません」

 

 慌ててジョージが言い返す。

 しかし逆にそれが怪しくなってる。例えそれが事実だとしても。

 

「そうね。ソラにそんなことできる訳がないわよね」

「……」

「であれば……」

 

 じゃあ何って言われても、じゃあ何なんだろう。

 ほんと何なんだろうね、シャーロットは。

 

「──申し訳ございません。その度は、このシャーロットめが粗相を」

 

 なっ!?

 

「君が? ……ふーん……」

 

 ジョージは絶句し、ソフィア会長は席を立ち壁際で頭を下げるシャーロットの目の前まで歩く。

 

「確かに良い体格してるわね」

「恐れ入ります」

「でも爆発なんてこと、どうやって」

 

 と言い、シャーロットの肩へ会長が手を伸ばした所で言葉が止まった。

 そしてしばらく確かめるように、ばんばんと両手で肩やら腕やらを挟むように叩き出す。

 

「なるほどね」

 

 え、うそ。納得した? 可能だって、納得した?

 うんうんと頷いた会長は「珍しいね」とだけ呟き、最後にひとつ握手を交わすと席へ戻ってくる。

 なんにも分からないけど、どうやらシャーロットなら可能だと判断したらしい。

 安心したようにジョージが息を吐くのが見えた。

 

「詐欺の被害者と同じ名前だけどもしかして?」

「はい。彼女が」

「運が良かったわね。彼女が優しいお陰で連中も助かったでしょう」

「その通りだと、こちらも考えております」

 

 ああやっぱりそれくらいできるんだ。

 私やジョージが考える通り、本気になったシャーロットによる敵対者の“行方不明”化は。

 

「そしたらちょっと待ってね。あとは書類をまとめて終わりにできるから」

「ありがとうございます」

 

 兵器関連の確認で首都の人間が必要だっただけで、現物のチェックが済めばその他罪状と合わせ通常通りの手筈で済むらしい。

 それと現物の回収。もどきとは言え違法なものは当然残せないので、ジョージが書類の確認と一文を書いている間に真っ黒い布と袋で厳重に仕舞われていった。恐らくあのまま焼却炉行きなのだろう。

 

「残りはあと裏山の申請だけど、もう暗いしそれは明日にでもしましょうか」

 

 さて。となれば当然、これから始まるのは“別件”だよな。

 ま隣のソフィア会長の顔がこちらへ向く。慌てて目を伏せる。

 頑張って抵抗してるけどやっぱり通気口と改造メイド服は致命的だ。背丈の関係でばっちり頭頂を視界に抑えられてる。

 

「事件云々は殆ど口実でね。立場もあるし本当は部下に任せるべきなんだけど──」

 

 ごくり、とジョージが喉を鳴らす音が聞こえた。

 ブロンテからは何も聞こえない。もはや微振動もしていない。

 心停止はしてなさそうだけど心配になるレベル。

 

「──の前に。ブロンテ女史は無事なのかなこれ」

「申し訳ございません。緊張している様子で」

「うーん、やっぱ会長って立場相手だとこんな反応になっちゃうかぁ」

 

 そうだけどそうじゃない。

 

「あー……。うん、明日だ。明日にしよう」

「宿泊の準備をさせます。お食事は如何なさいましょう」

「部屋はいいよ船持ってきてるし。でもピザは食べたいかな、ほらメイドさんが焼いたっていうさっきのやつ」

「かしこまりました。シャーロット」

「失礼いたします」

 

 一礼してシャーロットが退室する。背は高いしスタイルいいし、こうしていれば完璧なメイドだなぁやっぱ。

 どうして普段はああなのかな。どうして破壊力が凄まじいのかな。会長は分かってそうな雰囲気出してるけど聞けないのがもどかしい。

 

「焼き上がるまで時間かかるだろうし別の話でも」

 

 すっとソフィア会長が前を向いて喋る。

 もしかしてピザが食べたいっていうの、最高戦力であるシャーロットを遠ざける口実だった?

 

「ここで働いている獣人についていいかしら」

「獣人、ですか」

 

 くるか、くるか? こんなの獣人じゃないよなってヤツ、くるか?

 実はさっきから私は平静を保とうと必死だ。人間であれば表情ぐるぐるで挙動不審となっているだろうところを、無理やり回路を断ち切り表面上余裕っぽく思考することで何とかなっている。

 つまり空元気とかそういうやつ。機械の特性が無ければブロンテと同じ感じになっていた。

 

「ソラ、が、どうかされましたか」

 

 下手かジョージ! そこはアンの名前を出して誤魔化すんだよ!

 アンを売るようで悪いけど、でも今までそういうの躊躇わない性格だったじゃん!

 

「ん? いや、気になるのはアンって子の方ね」

 

 ありがとうソフィア会長!

 ほらジョージはこっちを見習え、こうやって話題を逸らせるんだよ!

 ……あれ、なんかおかしいな?

 

「しばらく前に首都で墓荒らしが流行ってねー。で、なんとその犯人はネズミの獣人! 足取りを辿ったらケィヒンの方に流れてたのよね」

 

 ええー! アンーッ!?

 全く別の方向性から刺されたー!

 そういえばアンって、自身の名前すら分からない状態で裏山の墓地で倒れてたんだったー!

 

「うちのアンが、犯罪者とでも」

 

 ガイジュー呼ばわりの経験から人里近くで生活していたのは判明していたのに、しかしその実アンの詳しい経歴は不明!

 身元不明が窃盗強盗その他色々犯罪行為で生計を立てていたとしても不思議じゃないのに、今かー!

 

「別にとっ捕まえたいわけじゃないよ」

 

 え、そうなの?

 

「え、そうなの?」

 

 ジョージと被った。緊張が解けたのか口調も戻っちゃってる。

 

「孤立したまま保護できていない獣人による被害はこっちで補填する事になっているからね。問題は獣人に対する教育」

「教育……ですか」

「アンって子をここで働かせているんでしょ? 正当な教育は受けさせているのかしら?」

「さ、最低限文字や常識について持ち回り教えていますが……」

 

 ちょいちょいと小声で言いながら会長は天井を指差す。

 

「足りなさそうね」

 

 あーっ! きのう私が勢いあまって開けた穴!

 それアンのせいじゃなくって私です! 私がやりました!

 

「いい? 獣人は確かに元となる獣の影響を多分に受けているとはいえ人は人。魔物じゃない。個人としてしっかりと向き合い正当な評価と教育をすることが保護者としての役割であり──」

 

 ソフィア会長の語りが止まらない。

 それはさながら、悪い言い方をするなら絡み酒の説教おじさんという生物だろう。

 人ではないとされ偏見と差別で虐げられてきた暗い歴史から始まり、それは世界の隅っこでおとなしく生きていた獣人達が機械戦争により居場所を失ったり使い捨ての兵として利用されたりした時代へと続き、各地へ散り散りとなりどんどんと数を減らしている現在に続いていった。

 

 うーん。やっぱりこのソフィア会長、1000年前当時の方と同一人物だよな……?

 

 でも見なよジョージの顔を。最初は真面目に聞いていたのに、段々と素の顔になってきてる。

 内容だけを本でまとめてくれたら休日ひとつ潰してもお釣りがくるだろうけど、語り部たる会長がお説教おじさん的生命体なのでだるい。

 横にいるだけの私ですらだるいのに、内容に合わせて相槌を打たなければならないジョージはもっとだるいだろう。

 

「ピザまだかなぁ」

 

 虚無を向いてシャーロットに祈るな。

 しかし会長はどうしてこんな……。

 

「あ」

「……」

 

 ジョージと目が合ったような気がする。

 たぶん、きっと同時に全く同じ答えへ思い至ったんだろう。

 

「あの、会長。もしかして酔われてます……?」

「そんなことっ! ……あるの、かもぉ?」

 

 アン特性の果実酒!

 廃棄された後も空気だけでエミリーをダウンさせたあの気化酒で、まさか会長まで倒されたァ!?

 まさかエミリー以外にもここまで弱い人がいたなんて……。

 

「失礼いたします。ピザが焼けました」

「待ってた!」

 

 と、ここでシャーロット登場。片手にほっかほかのピザを持ったメイドというシュールな様子を気にすることなく会長は両手をあげて喜んだ。

 

「ねえ君うちこない? おいしいよこのピザ!」

「恐縮ですが、養わなければならない者がおりますので」

「そっか残念だなぁ。じゃあ代わりにお酒ー、ワインー」

「少々お待ちください」

 

 絡まれたシャーロットは勧誘を見事に回避し、それどころか部屋を後にした。

 メイド長つえー……。

 

「たまには飲んでもいいわよねーっ。無礼講だぞジョージ少年!」

「アッハイ」

 

 時間が経つにつれソフィア会長の酔いはどんどん酷くなっていく。

 アルコールマジックによって私への言及が行われず済んで良かったと考えよう。

 

 うん、きっとジョージもラッキーと思ってくれている筈だ。

 だる絡みの相手だけでうやむやにできたならそれに越した事はない。

 

 

 

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