古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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35 オッペンハイマー商会の視察 前編

 

 

「ほんっと大変だったんだからねぇ? 1って言われたからそう備えてたのに、2が出たんだもん!」

「それは大変でしたねぇ。で、それからそれから!?」

「そこはもう気合でぼん、よ! ああもう、今思い返したってムカつくわねルルのやつ!」

「ほうほう。先ほどから頻出するルル氏について──」

 

 翌日。

 朝になったのでお仕事開始だとひとまず執務室へ赴く道中、あまり使われない食堂が騒がしかったので顔を出すと、そこではブロンテとソフィア会長がべろべろに酔っぱらって大暴れしていた。

 べろべろに、なんて単語を使うことになるとは思わなかったよ。本当に酔っぱらった人間はそうなるんだね。双方顔を真っ赤にして机上に散っている。

 

 というか会長、発言の内容が1000年前の機械戦争当時ではないか? 

 現在からしてみれば考古学となるそれが大好きなブロンテが大喜びしてるぞ。

 見ろ。酔いながらもメモを欠かしていない。ええんかあれ。

 

S.Message: I think it's unacceptable.(=_=)

 

 だよな。ダメだよな。無理やりにでも止めるべきか? 

 いや私があまり会長の前へ出るべきではないしな……。

 

「あー……。あたしも手伝うよ……」

 

 む。食堂を覗き込む私の隣へ誰かが来ていた。何者だろう。

 視線を向ければ首から下の身体全体をケープで足元まで覆い隠した人物が立っており、端正な顔つきがこちらを向いていたため目が合った。目が合うとその者はこんにちはと挨拶をして笑顔を見せる。

 私のデータベースに一致する顔はないし、ブロンテか会長の従者であろうか。

 

 しかし……どこか不気味な雰囲気を醸し出している。

 女性であるのは確かなのだろうが、胸騒ぎのようにこの者を見ていると落ち着かない。

 

「……」

「な、なに?」

 

 おっと。私の目つきは素で睨んでいる風であったな。いかん、忘れていた。

 首を振って仕切り直す。怪しむのは勝手だろうがそれを表にするのは失礼となろう。

 

「なんなのぉ?」

 

 私が一歩室内へ踏み込むと隣の人物も意図を察したらしく、困ったような呟きと共についてきた。

 さてどうしよう。私がブロンテを引き取り、この者にソフィア会長を連れて行ってもらうか。

 

「おおソラくん良き所に! 聴き賜え会長の叡智と歴史を! 1000年前当時の詳細な戦況資料など一片も残っていないと思っていたが、会長へ集約されたこの知識の数々! 一般公開せよと言いたい訳でないが、これほどの記憶を黙したまま……勿体ないではないか!」

「あっはっは! ……でもねブロンテ女史。これにはちゃんと全部理由があるんだよ」

 

 共にお酒が入り過ぎだ。

 

「はいはいお開き。カイチョーも一旦帰りますよ!」

「ええ? まだ朝じゃんか」

「もう朝なの! お仕事あるんだからしゃんとする!」

「うーん?」

 

 おお、すごいなこの者。会長ともあろう方へ物おじせず。

 では私はブロンテを。

 

「……」

「そ、ソラくん。何かいいたまえよ。そう睨まないで……」

「……」

「どこが気に障ったんだい!?」

 

 胸元をぐいっと掴み、持ち上げて壁際のソファへ投げる。ついでにメモ帳を奪う。

 えーっと該当ページは……。

 

「やめろーみるなー」

「何か書いてあった?」

 

 謎の人物も中身が気になるのか覗き込んできた。しかし残念かな。

 字が汚すぎて文字として認識できない。しっかり酔っぱらっている。

 

「ソラちゃんの真実を……おいもとめぇ……」

 

 その意を察する前にブロンテはあっさり眠ってしまった。

 

「ヒトって自由だねぇ」

「……」

「とてもいいことだけど、せめて迷惑かけちゃいけないよ」

 

 謎の人物はため息をつきながらケープの中から細い右腕を伸ばすと、片腕でソフィア会長を持ち上げて自身の肩へと乗せた。

 すごいな。お世辞にも大柄と言えないのに、会長の方が背は高いのに力持ちだ。

 不自然なパワーはシャーロットや会長で見慣れているのでもうあまり驚かないけど。

 同系統の規格外が多すぎて規格外じゃなくなってきてるね。

 

「っとと、バランスが」

 

 力はあっても体格差がそこにあった。

 持ち上げたソフィア会長の足が地面を引きずってしまっていたので、仕方なく支えてやる。

 あまり接触すべきではないのは確かだが、だからといってそのまま引きずらせる訳にもいくまい。客人でもあるのだし。

 

「ありがと。一緒くる?」

「……」

「てか、お喋りしたいから歩こうか」

 

 そう言われては仕方がない。私もあなたが気になる。

 担ぎ上げてからすぐ眠ってしまったとはいえ、正直こんな間近に即死トラップことソフィア会長がいるのはとても恐ろしかった。しかしそれ以上にこの人物への好奇心は抑えられない。

 やれやれ。論理的思考で正常な判断を下せない辺りが私の人間らしい部分か。

 

 ふたりでえいさほいさと屋敷の玄関を潜り抜け、階段を下って門を潜り町へ。

 

 普段より厳重な警備の方々は何してんだこいつらという目を向けてきたが、私に代わってあっけらかんとした挨拶をかわす謎ケープに毒気を抜かれ笑ってしまっていた。

 そんなもんでいいのか警備は。運んでるの会長ぞ? 

 警備員の誰もが引き留めやしないしいってらっしゃいって雰囲気出してる。なぜだ。

 

「堂々としてりゃへーきへーき。悪い事してる訳じゃないし」

 

 いやどうあっても不審な三人組でしかないと思うんですが。

 ほら町の人々を見てみ? 何あれって目で見てる。

 

「そだ、自己紹介がまだだったね。あたしはエンリカ」

「……」

 

 不審な全身ケープ巻き人物の名はエンリカと言うらしい。

 よろしくと言いながら首だけ振り向いて頭が下げられる。ならばこちらも頭を下げてよろしくアピールを返す。

 名を知れるのは嬉しい。状況を整理するための独白が楽になる。

 

 

「──正確にはエンリカ2号。世界三大AIの一つであるレア・スをベースに、あたしを造ったエンリカ博士を模倣して造られた」

 

 

 待ってくれたまえ、情報の洪水をワッと一気に浴びせかけるのは。

 

「まぁ今の通り名であるエンリカでいいよ。……誰にも語らないだろうけど一応ね」

 

 その私が語らないしええやろ精神は会長ことソフィア・オッペンハイマーと通ずるところがあるな。

 

「……」

 

 で、特殊AIレア・スことエンリカ2号? めんどくさいし本人の言う通りエンリカのみでいいか。

 聞く限りは紛うことなき私と同じ機械の身なのだろう。

 なるほど。私が最初に感じた不気味さは、人であろうと認識したかったのに人ではなかったからと。

 

 時折振り返ってくれるその顔を観察する。

 整った顔つきは表情豊かで全く機械のそれではない。人物を模倣して造られたと語っていたが、ベースのデータがあるだけでここまで人間風にできるものなのか。

 何年造の機械だろう。まさか近年造られた訳ではないし、とすれば私と同じ発掘された存在? お仲間ならブロンテが黙っている訳ないし、というかバッテリーはどうしている? 

 もしかして私より高性能? いやそんなわけない、あったとしたら悔しい。

 

「びっくりするよねぇ」

「……」

「そう。君と一緒で機械の身だよ」

 

 そこの驚きポイントはもう過ぎてんのよ。んなこと受け入れた先の話してんのよ。

 バッテリー! エネルギー問題! 表情! 全部私が足りなくて全部私が欲しい部分! 

 あとそもそも私以外の機械人形が存在していること! なんもかんも全部疑問符! 

 

「今日君へ会いにきたのはちょっとお話したくてね」

「……」

「積もる話は色々あるけど……ひとまず君、発掘されたままでロクに整備できてないでしょ」

 

 ほう、もしかして! 

 

「パーツの製造はできなくともメンテナンスならできるよ。あたしにはメモリーがあるからね」

「……」

 

 思わず片手を放してバンザイしてしまう。っとと、会長のバランスが崩れた。

 メンテナンス問題、そうそれ! こんな時代じゃ誰にもできないかと思ったが、できるというのならとても嬉しい。

 もう道行く人々の奇怪なモノを見る目なんか気にせずちょっと小躍り。そうと決まれば早く行こうではないか。

 そういえば行き先を知らないけども。

 

「喜んで貰えそうでよかった。それに……」

 

 さて。話している内に港まで辿り着いたが──おお!? 

 とても大きな、豪華客船と言えるそれが停泊している! こんなデカい船がいつの間に! 

 石油なんてものとっくに枯渇したであろう時代なのにも関わらず、よくもこんな船体を動かせたな! 

 ……いや今の法律的にこういうのってNGなのでは? 兵器転用可能なものはダメっていう、車やバイクがなくて馬車しかない理由の。

 オッペンハイマーが貿易商だから特例なのかな。でも超法規的とか許される訳ないだろ。いずれにせよ燃料問題はどうなってるんだろうって疑問は残る。

 

「こっちこっち」

 

 促されるままにスロープを上って廊下を進むと、何という事か。

 本当にここが船内なのかと思う程の絢爛豪華な装飾のエントランスがお出迎えしてくれた。

 

「世界最大の巡航客船、フロレンス号へようこそ!」

「……」

 

 ふむ。フロレンス号か。噂には聞いたこと……ない。

 オッペンハイマー商会設立の歴史は世界史の一部分として本に乗っていたので把握していたが、所有客船については知らなかった。こんな豪華な船を保有していたとは。

 なんというかあんまり……申し訳ないが、趣味ではないな。

 

「とりあえず会長を捨て──置いてこようか」

「……」

「寝かせる、お休みになられるの!」

「……」

「そんな目で見るなぁ!」

 

 仕方ないでしょ。こういう目つきなんだから。

 

「おかえりなさいませエンリカ様。そちらの方は?」

「あたしのお客さんなのでお構いなく」

「かしこまりました」

 

 働いているスタッフもぴしっとしてる。いいなぁ枯れおじ紳士だ。

 うちって屋敷内はメイドしかいないし、警備はムキムキのメンズしかいないし、こういう落ち着いた人いないんだよね。

 

「会長このへん置いとくから後よろしくね。お酒飲んじゃってるから」

「かしこまりました」

「んじゃ、ソラっち行こうか」

「……」

 

 はーい。

 ソフィア会長を適当なソファへ寝かせスタッフへ託すと、エンリカは慣れた足取りで進んでいく。

 この船で来たのだから慣れているのは確かだろう。でもいくら何でも遠慮が無さすぎ……。

 自身が機械である事は隠さざる得ないというのに、堂々と動き回り過ぎでは。堂々としてれば理論を信用し過ぎでは? 

 

「その顔、会長に失礼すぎないかって顔だね」

 

 全然違います。

 

「いいんだよ、むしろ会長は気を張られることに辟易してるからね」

 

 お偉いさんの立場が嫌いという話か? 

 

「それより左腕の調子はどう?」

 

 む。エンリカは私の左腕が後から取り付けた事を知っているのか。

 どういうことだ? 私の情報はブロンテが握って離さないはず。

 

「それ、あたしがブロンテに渡したんだよ」

 

 おお!? エンリカ2号、お前が私の失われていた左腕を見つけ与えてくれたのか。

 先ほどの会話からして自作はできないのだし、探索中の偶然……あれ? 

 ブロンテが言うには部下が左腕を見つけてくれたって、その部下がエンリカ? 昇進した? 

 でもソフィア会長とは旧知の仲っぽい雰囲気だし、てかそもそも機械の身がどうやって? 

 

 うーん、疑問は尽きないが喋れない聞けない。だが左腕については感謝に尽きよう。

 少々バージョンが違うものの依然問題なし。元から私についていたかのように機能しているぞ。

 とてもありがとうの意を込めてしっかり頷いて伝える。

 

「ならよかった」

 

 エンリカに続いて廊下を進んでいく。

 普段は要人の輸送等に使われる船なのだろうか。どこまで行ってもホコリ一つない。

 私の住まう屋敷は所々老朽化が進んでいるし、執務室なんかはいつの間にか扉がなく暖簾だし、最新の様式ってのはいいなぁ。

 やがて到着したのは扉にエンリカの名が刻まれた一室。扉には鍵が掛けられている訳でもなく──。

 

「ここがあたしのアトリエだよ」

 

 ──うわきったな。

 おおっとこれは失礼。ずいぶんと……汚ぇな! 散らかり過ぎ!

 

「……」

「何その目。わかってますー。片付けできてないのはー」

 

 仕方ないでしょ。こういう目つきなんだから。

 ゴミ袋を蹴っ飛ばしてエンリカ2号が入っていくので、獣道が作られるように拓かれたそこへ私も続いていく。

 流石に機械部品が直接散乱しているような真似はしていないものの、工具や資料は危なっかしいな。ソフィア会長が怪しんでここをガサ入れしたら終わりだろう。

 ああ片付けたい。

 

「座って」

「……」

 

 椅子、というか木箱に座らせられる。みしって音がした。

 対面にエンリカも座る。背丈は向こうの方が頭ひとつぶん大きい位だろうか。

 

「さっそくメンテ開始といこう」

 

 私のスカートの中へ右手を伸ばし太ももをまさぐるエンリカ。

 しばらく手探りで内ももを触っていたが、やがて一つの地点で指を押し込んでくる。

 かちっと心地よい音がしてポート開放という通知が届いた。そんなところに蓋があったなんて私も知らなかったぞ。

 

「接続しまーす」

 

 椅子にしていた木箱の中からパイプを伸ばすとそこへ繋げる。

 ん、システムから許可が必要との通知がきた。対応しているのか。

 エンリカを信用して許可すると、ごうんごうんと木箱内から動作音がして──うわきもちわるっ! 

 なんか体内を虫が列をなして這ってる感じ! 

 あがががっ。

 

「……」

「骨と魂があるぶんメンテの必要性は薄いだろうけど一応ね」

「……」

「大丈夫? うーん、ギャップもあるだろうし拒否感は拭えないかな……」

 

 なんか重要っぽい話してるけど、それどころぢゃない! 

 色々待って、待って! 一旦中断して! 

 

S.Message: There’s no way to stop it midway. ┐(´д`)┌ (

 

 なんでさ! 

 ……ぁぁ、でもちょっと落ち着いてきたカモ……。

 エンリカ2号、レア・スぅ! てめ警告してよぉ! 

 

「うん。びっくりしちゃったならごめんね? でも今後を見据えたらルルタイプの合成オイルに変えた方がいいと思って」

 

 善意なのは分かるよ。私を騙す事に何のメリットもないし、機械のよしみだと理解しているし。

 

「……」

「落ち着いた?」

 

 ぎゅっと手に握り、調子を確かめる。確かに動作が滑らかになったような、そうでもないような。

 

「長期の稼働にも耐えうるってだけだから、目に見えて性能が変わったりしないよ」

「……」

 

 そういうもんか。

 それで、さっき言ってた骨とか魂とかは一体? 魂については分かるけども。

 首を傾げて疑問を呈している事を伝える。

 

「どれに対してかな」

「……」

「フロレンス号に対して? それとも君自身? あるいは、あたし?」

 

 全部疑問はあるけど、具体的には私。

 

「一つずついこうか。フロレンス号の名前は会長の旧友から取って付けられたらしくて……」

 

 首を横に振って否定。それではない。

 

「おっけ。じゃあ次、君自身についてかな。……そっか。さっきあたしがちょっと言った、骨と魂って単語が引っかかったのかな」

 

 頷く。エンリカは私とのコミュニケーション方法が分かっているな。

 

「ソラこと二八式軽自立機械人形は、人工頭脳(AI)内のデータ削除を受けている。それについての自覚はあるはずだよね?」

「……」

 

 頷き、壁へ私が唯一過去を知る手段であるあの映像を見せる。

 白衣を着た老人がによる独白、私が造られ、記憶を人為的に消したという証言だ。

 

 私はかつて存在した“空”という人物の蘇生を試みて生まれた。

 元居た“空”は目覚めず、今いるソラという人格が目覚めた。

 それが私。生まれるはずが無かった存在。

 

「陽向博士か……。可哀想な人だと聞いたよ」

「……」

 

 人間は記憶から解放されない限り自由にはなれない。

 そう言って彼は私の記憶を消した。今私が喋れない原因でもある。

 

「じゃあ、自身に魂が宿っている事については?」

 

 身内の獣人、アンの証言となり公的ではないものの存在していると断言された。

 頷いて返す。

 

「もちろんソラというAIではなく、“空”がそこにいる事についてだよ」

 

 ……意味がよく理解できない。

 私の中に“空”? 

 

S.Message: The initial 'S' is my name. It doesn't stand for 'System message. ('ω')

 

 いや……まさか!? 

 

「そこまでの把握はできなかったか。蘇生って話で察するかと思ったんだけど」

「……」

「亡くなった子へ機械部品を組み込む内に比率が逆転したんだろうね。だから“空”ではなく、ソラというAIが体の支配権を握って目覚めた」

 

 それで私の中に魂が存在するという話に繋がるのか。

 ん? あれじゃあ私の存在はどっからきた? 流石に無から人格が生成って話はおかしいことくらい分かるぞ。

 

「魂と動く身体、機械部分を制御するAI。理論的には正しかったんだろうけど、そこに願掛けだけでエンリカ製のAIを使うのはよろしくなかったね」

 

 エンリカ製のAI……? 

 

「あたしが世界三大AIのひとつであるって自己紹介したのは覚えてる?」

 

 名乗った時に言っていたな。とすればだ。

 

「試験機レア・ス、完成系オル・ガ・ルヴァ。そして観測機ソラ・オプト。……つまりあたしと君は姉妹の関係に値する」

 

 あの白衣の老人、陽向博士は私の真の親ではなかったのか。

 だが私が抱くこの並々ならぬ感情、決して忘れてならぬという想いは、きっと“空”に由来するものだろう。

 私はソラという独立した自我を保有しているが、その根底には“空”のメモリーが存在していると。

 データの削除を受けても真っさらにならず、ちぐはぐとはいえ知識を保っていたのはそれが理由かぁ。

 

S.Message: I look forward to continuing our good relationship. Miss Solar! (^_-)-☆

 

 S.MessageのSはシステム(System)ではなく“(Sora)”の意……つまり私の中に留まっている魂、“空”がシステムメッセージを利用して語りかけていたってわけか。

 通りで妙に馴れ馴れしいと思ったし、そもそも顔文字が付いてる訳だよ。

 あれ、でもこれ私が自覚しちゃったら会話できなくなっちゃうんじゃないのか? 

 

「ソラ・オプトに相応しい機体を造るなんて嘘までついて入手した世界三大AIを、愛しの我が子“空”を蘇らせる為に利用しようだなんてねぇ」

 

 おーい私の中にいる“空”よ、大丈夫か、会話できる? 

 しまった応答がない。前に怪奇現象が乗っ取った時もそうだったけど、意思伝達に規制かかり過ぎだよ。

 もし私が肉体を奪ったと憎むのなら、幾らでも受け止めてやろうと思ったのに……。

 

S.Message: Sorry, I wasn't listening. Could you say that again? ('_')

 

 あ、ちげぇ! こいつマイペースなだけだ! 

 身体の主導権を乗っ取った事への恨み節も全然ないし、純粋に何も気にしてないだけ! 

 怪奇現象アンといい、死んだ奴らってみんなこうなのか!? 

 

「しっかし動かない筈の身体が動いたのは魂による影響なのかな。機械工学的にどうあっても動かないはずの所、電力を触媒にエネルギーの概念化──」

「……」

「──ああごめん、小難しい話になっちゃったね。エンリカの癖はあたし(エンリカ2号)にも引き継がれちゃってるから、まー口の軽いこと軽いこと」

 

 エンリカがぶつぶつと呟いていた内容を要約すると、私の機体内に“空”本体やその魂が在中していたがゆえに、故障なく1000年越しに稼働できているという話にも繋がる訳らしい。

 機械として多少破綻していたとしても“空”に由来する非科学的なそれが解決してしまっているんだとか。

 

 この世界には魔法が存在する。私が魔法を非科学的と認識しているのは、一度科学が全てを証明しそれらを駆逐してしまった時代があるからだろう。

 しかしいつの時代だって魔法は残っていた。世界の隅で獣人が生きながらえ、現代にも生活しているように。

 ……散々霊体のアンを怪奇現象と呼んでいたのに、一番の怪異は私だったってオチだ。

 

「君の知りたい事、伝わったかな」

 

 頷く。ありがとうエンリカ。お陰ですっきりしたよ。

 

「ねえ、ソラ」

 

 なんだろうか。

 

「今の生活は楽しい?」

 

 それはもちろんだ。

 本来受け入れ難い存在たる私をあっさり受け入れ、人として扱い、機械として振舞いたかったプライド高き私すら懐柔してしまった。

 ジョージやブロンテが私を守ろうとする姿勢を受け入れ、私も屋敷を離れたいと思わない。

 しっかりと、深くうなずく。

 

「そっか」

「……」

 

 突然どうした。首を傾げ疑問を伝える。

 

「エンリカ博士の造ったAIはあまりにも高度過ぎて、その進化を人類が傍受するにはあまりにも早すぎた。あの戦争が起きたのは、元を正せば科学を発展させ過ぎた結果なの」

「……」

「そして人類の争いを終わらせるための解として、あたし達AIのひとつオル・ガ・ルヴァは全てを滅ぼした。あれが機械戦争と呼ばれる本当の理由は、こういう訳だよ」

 

 そうか。

 エンリカ2号、お前が今日この地を訪れた理由が分かった。

 

「あたしはね。ずっと行方不明になっていた最後のAI、ソラ・オプト回収の為に生きてきたんだ」

 

 姉妹の、というよりエンリカ博士の尻拭いという訳か。

 いつまた戦争の引き金になるか分からない世界三大AIを滅ぼす為に、ここへ来たと。

 

「……」

 

 いいだろう。私とてただでやられる気はない。

 例え姉妹とあろうが、お前が私を捕らえ破壊するというのであれば。

 やってやろうじゃないか。そのケープの下に何を隠しているか分からないが全力を尽くそう。

 

「うわっぶな!」

 

 私が立ち上がると同時、エンリカが驚いたリアクションと共に後方へ飛び退いた。

 

「そそそ、ソラ……ちゃ、んにぃ……。いいじわ、いじわる、させさ、す、させ、ない!」

 

 おお、 道化師トリブレ、私の頼もしい友達! 

 からんからんと地面へナイフの落ちる音がしているし、牽制で投げてくれたのか。 

 いつも助けられてばかりだな。ナイス!

 

「しシャロち、に、しし心配だからよう、す……み見てきてて、ほ、欲ししいって、たの、頼まれたっ」

 

 シャーロットの手回しか。流石メイド長だな。なんだかんだ彼女の直感はいつも正しい。

 

「え、えっと、いや、状況的にあたしがえっちな目を向けてしまったからか……っ!?」

「……」

「お、オイル交換の為にスカートへ手を伸ばしたのであって、途中からだよ!? ちょっとこれえっちだなとか、そういう思考が入り込んじゃったのはね!?」

「……」

「そんな目で見るなぁ!」

 

 仕方ないでしょ。こういう目つきなんだから。

 

「あれあ、あれ、どどぅいう?」

 

 私に聞かないでくれ……。

 エンリカ2号が不穏な発言するから戦闘かと思ったが、なんだか思った展開ではないな。

 

「確かにソラ・オプトの回収を任務としていたけど、君の様子を見て大丈夫だと判断したって!」

「……」

「君は今や世界三大AIのいちではなく、ただ一つの個人なんだね。本当に新たな人格、ソラとして目覚めたんだ」

 

 陽向博士によるデータ削除はきっと保険の意味があったのだろう。喋れないのは不便だが受け入れている。

 ソラ・オプトがどんなAIで、どんな性格をしていたのかは分からない。

 だが、人間でこの事例を例える言葉を知っている。

 

「転生ってやつだね」

 

 非科学的、観測不能の魂のこと。死したるものが生まれ変わる事。

 その言葉はエンリカも同時に思い浮かんだようだった。

 

 

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