古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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37 お風呂場どうしよっか

 

 

「ソラさんんんんん!」

「……」

「こわかったあああああ!」

「……」

 

 レア・スが帰り、ソフィア会長も帰り。フロレンス号は帰り支度の停泊中。

 日が暮れてようやくご帰還なさったエミリーは、帰ってくるなり部屋で休む私の下へと飛び込んで泣きついてきた。

 怖かったってなにさ。家出をしたというのならば怒られるくらい覚悟の上だろう。家庭の問題って他人が踏み入るの中々難しいし何も言わないが。言えないが。

 

「起きてます? 起きてますわよね! お話聞いてくださいましー!」

「……」

 

 今日は色々入手できた情報があるから整理のためにもう寝たいのだが。

 

「母上……会長は首都へ戻られますが、エンリカさんはこの地に残るそうで、絶対監視に置いていきましたわ!」

 

 ほう、我が姉貴はこの町に残るのか。

 家出した娘っ子の心配もあるんだろうけど、レア・スの事だから()もあって進言したんだろうなぁ。

 こういうのなんて言うんだっけ。利害の一致……違うな、うぃんうぃん? そだ、一石二鳥。

 

「……」

 

 エンリカを模倣していたとはするものの自罰的な素顔を隠せていないレア・ス。

 私の知らない所で使命を終えたからと自決しそうな雰囲気をどこか醸し出していたので、こうして近くにいてくれるのは安心できるかも。

 

「あの方なんだか怖くってぇ……!」

「……」

「ローブの下に武器を隠してるなんて噂も!」

 

 それは正しいね。あの、なんか、トウモロコシに虫の足生やしたみたいなバトルフォーム持ってるし。

 

「そんな方ですから絶対わたくしが何かしたら告げ口しますわーっ!」

 

 事情を汲んでくれるからちゃんと話せばわかってくれるよ。

 

「シャーロットさんかトリブレさんに頼んで消してもらうしか……」

 

 やめておきなさいよ。

 レア・スの身体ってボロッちぃし、私と違って摩訶不思議が入ってる訳じゃない。

 シャーロットがふざけて叩いたらそのままぼごーんって壊れちゃいそうで怖いんだよ。

 

 あ! てかそれより! お仕事としてこの屋敷へ通う事になるならまずいんじゃ!

 アンが、怪奇現象アンがお怒りになられてしまう!

 

 

 

♪ 

 

 

 

「──という訳で、現場監督責任者として商会より遣わせられましたレア・ス・エンリカです。レアって呼んでね」

「ほう、君がこの町に残るのか。てっきりもっと下の者が来るかと思ったが」

「色々と思う所があってね。ほら、ソラちゃんの事とか」

「はっはっは、君も見る目があるじゃないか。しかし、レア・スとは?」

「やだなぁ。あたしだって長く生きてれば名前だって変わりますよぉ」

「それはおめでたい」

 

 翌日の執務室。エミリーの嘆いていた通りエンリカが監視として屋敷へやってきた。

 驚くべきはブロンテが指摘した通り、名を改めてレア・ス・エンリカとしていた所だ。

 正直語感はあまりよろしくない。でもあのエンリカ2号という状態からは前進していていいと思う。

 私もお前も、過去に縛られ過ぎてはいけないからな。

 

「なぁ、一つ良いか?」

 

 デスクで顔を俯かせていたジョージがついに言葉を捻り出す。

 

「なんで、メイド服なんだ……?」

 

 そう。

 レア・ス・エンリカの恰好は。

 なぜかローブの代わりにメイド服となっていたのだ。

 

「え。ここの制服って聞いたんだけど」

「……誰に?」

(あん)って子だよ。玄関でちょっと話したらじゃあこれって渡されたよ」

 

 ジョージとブロンテが首を傾げ、恐らく脳裏にはネズミの姿を思い浮かべている事だろう。

 そうなんだよなあ、こうなるよなぁ。弊害だなぁ。

 

「新人かと間違えちゃったかぁ? アンは叱りにくいんだよなぁ俺」

「わたしも嫌だよ」

「ダメなの? 結構気に入ってるんだけど」

「まぁ本人が気にしてないならいっか」

 

 私の前でくるくると回ったレアはスカートを足元までしっかり伸ばしており、あのそのまますぎる機械の身を隠す努力は怠っていない。

 しかしローブと違いメイド服は当然身を全て覆い尽くせている訳ではない。左腕が欠損しているとはひと目で判明してしまっている状況ではあるが、そこはいいのだろうか。

 

「じゃああたし、あいさつ回りしてきますんで」

「いってらっしゃーい」

 

 頭を下げレア・スが退室する。

 メイド服のままどこまで行くのだろう。現場監督と言っていたし、職人さん達の所へ行くのだろうか。

 あのメイド服のままで。ジョージの趣味だと思われなければいいけど。

 

「あの人って隻腕だったんだな」

「わたしも初めて知ったよ。普段ローブを決して脱がないんだが、ふぅむ。名が変わったからか」

「心境の変化ってやつかねぇ」

 

 それは確かだな。少なくとも皆へ自身をレアと呼ばせ、怪奇現象も攻撃をしないくらいには変わった。

 それにどこか感じられていた危うい側面も鳴りを潜めている。良い事ではないか。

 

「名前が変わるって、やっぱり変わるもんなんかね」

「さあねぇ」

 

 それで、お前達は名を変えないのか?

 

「俺達は何も変わんなかったなぁ」

「だねぇ。しかし、傍から見れば変わっていたのかも知れないよ。アンケートでも取ってみようか」

「やだよ恥ずかしい」

 

 ん?

 

「じゃあソラくんが来てからどうだい? この屋敷は」

「……明るくなった、かな。仕事がとかじゃなくって、みんなどこか心にゆとりができた」

「ふふん。ならわたしがソラくんを引き取ったのは間違いではなかったという訳だ」

「俺の胃が大変なことになる回数は増えたけど」

 

 おいおいおいおい、待てよお前ら。え?

 その話もうちょっと詳しく聞きたいんだけどさ、なあ。

 ねえ。ただの幼馴染って話はどうしたのよ。そういう関係だけじゃあなかったの?

 ちょっ、誰か私の通訳はおられぬか。やっぱ言葉が通じるよう処置を受けるべきだったんか?

 

「それはともかくソラくん。例の話をしたいのだが」

 

 それはともかくで流すな。

 まぁいい、どの話だろうか。首を傾げる。

 

「君に隠された秘密の話だよ。ジョージくんはあまり乗り気じゃないがね」

「やっぱやめとけってお前」

「いいや! わたしの長期に及ぶ調査によって得た情報を、そう易々と捨てられるものか!」

「だからおまえ勝負ごとに弱いんだよ」

 

 私に隠された秘密……。

 以前に受け取った手紙に書かれていた、私が見つかった当初のカビ臭さだの左腕欠損の理由だのか。

 それってたぶん、レアが全部語ってたことだよな。

 私の身体の中に“空”がいるっていう。

 

「……」

「うわ」

 

 右腕を外してジョージへ渡す。文鎮と化した腕がごとんと音を出した。

 

「え……っと、ソラさん……?」

 

 ドン引きしたようなリアクションを取らないで欲しい。

 そりゃ1000年前に亡くなった“空”の遺体がそのままその腕にもこの身体にも残されてるってんじゃ、なんというかあまり気分は良くないだろうが傷付く。

 

「その様子だと、もしかしてソラくんは把握してるのかい?」

 

 こくりと頷く。

 全部レアに聞きました。

 

「……わ、わたしの、心血を注いだ決死の調査が……」

 

 そんなに?

 私の身体を直接調べずどうやって情報を得たのかは知らないが、ものがものだし危うい橋を渡ったらしいのは確かだろう。

 どれ、撫でてやろう。よーしよしよし。

 

「えへへへ」

「外された腕で撫でられてんのはいいのそれ。それでいいのお前」

 

 ちょっとした悪ふざけで腕を掴んで遠隔撫でをしてみたが、思いのほか突っ込まれなかった。

 

「いや俺はいいから。いいって」

「……」

「なんでそんな頑なに!?」 

 

 今まで私をかわいいかわいいしてきたのに、中身が干物だと知った途端ドン引きしやがって。

 やーい撫でさせろ。撫でさせろやーい。

 

「旦那ー! ジョージの旦那ー!」

 

 ばごーん。

 暖簾のかかった執務室入り口、の上部分をわざわざ小ジャンプ挟んで破壊しやってきたのは皆さんご存じシャーロットさんだ。

 急に騒がしいが突然どうしたいったい。がしゃこんと腕を戻して振り返ったところに瓦礫が飛んできていたものの、瞬時にシャーロットが駆け寄って回収していった。

 自分で飛ばした物に追いついてキャッチするってどういうことなんだろう。数メートルしかないこの距離で。

 

「たいへん、大変なんすよ!」

「まずお前はことあるごとに破壊する癖を何とかしろ?」

「それどころじゃねぇっす!」

 

 瓦礫の掃除はいつも私がやっているのでこっちからも文句を言いたい。

 

「シャロくんがそこまで慌てるなんて、よほどなんだろうね」

「そうなんすよ!」

 

 それで、用件は?

 

「これ!」

 

 そう言って私の頭頂部に紙が叩きつけられた。

 手頃な高さにあるからって台にしないで貰えるかな。

 

「ふぅむ。これは……何かの設計図?」

「そうなんすよ! 新しいメイドさんが、うちのお風呂場を見て建て直したらどうかって!」

 

 ブロンテからジョージへ、ジョージから私へ設計図が回されてくる。

 浴場の設計かぁ。うちの風呂って確かに木造だし隙間だらけだし薄暗いし、その内にぶっ壊れそうで怖いんだよなぁ。

 私の重量かシャーロットの破壊か、あるいは普通に配線がショートして燃え盛るか。

 古い木造って雰囲気があって好きなんだけど安全には変えられまい。

 

「まぁ確かになぁ、若い子増えたしなあなあで済ますのもそろそろアレよなぁ」

「そしたら皆うち来るっすか? 来るっすよね! 新しいシャロんち! そしてみんなでお風呂!」

「それが目的かい?」

 

 目的だろうな。

 

「せめて春まで待ってくれないと皆風邪を引いてしまうよ。特にアンくんなんて寒さに弱いだろう」

「だな。レアには悪いが」

 

 設計図を手に取ったジョージがささっと数字を書き入れデスクの隅に置く。

 なんだろ。予算とか予定とか書いたのかな。判断が早い。

 

「あ、それなんすけど」

「ん?」

「もう取り掛かってるみたいっす」

「え」

 

 みんな一斉に窓へ張り付く。ねぇちょっと、私にも見せてよ大人達。見えないんだけど。

 そもそも背丈が足りなくて窓から見下ろすには素で難しのに……っとと、シャーロットによって持ち上げられ肩に乗せられた。バランスが悪いので両足を前に出して肩車にする。

 今度は目線が高すぎて逆に見えないんすけど。窓の上の部分で。もっと丁度いい感じにできない?

 もそもそ動いて調整してたら頬ずりされつつ降ろされて、いわゆるお姫様抱っこに落ち着いた。

 いいね、これくらいなら丁度いい。ありがとうお姉ちゃん。

 

 で、外の様子ですが。

 そこでは裏庭へ集められた職人さんの方々へレアが指示を出していた。

 あいさつ回りってこのこと言ってたんかい。

 

「レアってあんな自由な人なの?」

「いつも勝手に話を裏で進めがちだねぇ」

 

 趣深い浴場とこうもあっさりさよならとは。

 

「今日は見積もりだけらしいっすけど、なんか要望ないかーって聞かれたっす」

「急に言われてもなぁ」

「普通要望からの見積もりじゃないのかい?」

 

 すみません、私の事実上の姉がめちゃくちゃで。

 せっかちなのか時間を無駄にしたくないのか、エンリカモードじゃなくってもあんたはこれかいな。

 

「生まれた時からあるし思い入れ深いんだがなあ」

「けど年頃の乙女達のためにも改装はしたいのだろう?」

「そ。だからウマい話ではあるんだけど、もうちょいワンクッション欲しかったなぁ」

 

 うーむ、そうか。ジョージはここの家の出だから幼少期より利用しているのだよな。

 ただ古い物を好んだ私なんかより思い入れ深いだろう。

 どうにか丸く収まる案を考えたい。

 

「ソラっちはどう思うっす?」

 

 お、ちょうど話を振られたな。

 私が考えるに──

 

「シャロは前々から建て直して欲しいと思ってたっす! チビ共が一緒にお風呂入ってくれなくなったのはボロっちいのが悪いから!」

 

 話の踏み台にされた。

 いい案が思い浮かんでいる訳でも伝える手段がある訳でもないしー。別にいいもーん。

 お風呂一緒に入ってくれないのは理由違うと思うよーだ。

 一瞬にしてのぼせるお前の介護大変なんだぞ。

 

「人んちの風呂貶し過ぎだろ」

 

 静かにジョージは泣いていた。

 

「領主命令でいつでも中断させられるが、どうするんだいジョージくん」

「んー……」

 

 なぜか私と顔が合う。

 

「ソラ、中庭のキノコ栽培にどれくらいスペース割いてたっけ」

 

 そう言いつつ渡された中庭の俯瞰図に記されてる通りだけど、それがどうした?

 頷きながら返す。ジョージはふーむと言いながらまた唸ってしまった。

 考えがあるなら聞こうじゃないか。

 よっとシャーロットの腕の内から抜け出して、ジョージの前へ。

 

「……」

「え、なに?」

「……」

「なになになに」

 

 ずい、ずいずいずい、と顔を寄せたが理解は得られなかった。

 

「お、キスかい? するのかい!?」

「きーす! きーす!」

「なんだガキ共!」

「……」

 

 はい当然だめー。

 てか私がジョージと接吻交わす訳がないだろ。

 寄せていた顔を戻し、邪魔にならない立ち位置へ戻る。

 溜息代わりに通気口のファンが回転を増した。意識して回転を制御している訳ではないが、感情に合わせ無意識下での動作がなされる。

 

「いやね? ただ壊すだけだとなんかあれだからさ、アンの作業場兼栽培場等々の自由場として移設できないかなって」

「移設?」

 

 ブロンテが疑問符を浮かべ、私も首を傾げる。

 

「湿気もあり腐っている部分もあるだろう? 思い入れある気持ちは汲むが、曳家をして耐えるかどうか」

「じゃあ使える古材で小屋建てようか。……俺だったらさ、秘密基地みたいなん欲しいと思うから」

「秘密基地、っすか?」

 

 シャーロットも首を傾げつつ、私を抱き上げ先ほどのお姫様抱っこ状態へ戻す。

 撫でるのが駄目だからって頬ずりすんな。「ソラすいー」じゃないのよ。

 ジョージとブロンテはその吸引を見てちょっと止めようか迷っている。内部に遺体が収まっていることを知っているので。

 

 そういえばカビ臭さってどうなったんだろう。表だけ洗っても内部はどうにもならんでしょ。

 身体を洗ったという概念でどうにかなったのかな。凄いね私、摩訶不思議。

 

「栽培にしろ作業にろ、アンは本館(こっち)貸すより落ち着くだろ?」

 

 確かにそうかも。屋根裏から作業場を一室へ移設した後は、部屋が広くて綺麗で落ち着かないと語っていた。

 この案は大賛成だな。こくりと頷い……あの、シャーロットが邪魔で頷けない。降ろせや。

 

「ふーむ。裏庭が狭くなっちゃわないかい?」

「全然秘密っぽくないっすけど」

「反対多数かぁ」

 

 まずい! このままだと発言力の低い領主が押し切られる! 押し切られんなよ!

 

「……」

「うわっとと、猫ちゃんちちちちち」

「……」

 

 ついに私の事を猫っつったなデカメイド。

 身をよじってどすんと四足着地。からの直立。

 異議あり!

 

「ソラっち?」

 

 私はアンの秘密小屋建設に賛成します!

 つきましては、裏庭の担当をしております私の発言を最優先するよう申し出ます!

 

「かっこいいっすね!」

「凄いアクロバットだねぇ」

「人に指差すなや」

 

 びしぃっと裏庭の俯瞰図片手にポーズ決めたが、伝わってくれただろうか。

 

「ソラくんが賛成か反対かによるね」

「どっちすかー?」

 

 その聞き方だと答えにくい。

 

「ソラ。小屋を作っていいなら頷いてみてくれ」

 

 しっかり目線を合わせ、しっかり頷く。

 いいね、ジョージの問い方は返答しやすい。

 これで投票数としては2の2。同数なら権力あるこちら賛成派の意見が通ろう。

 

「ソラっちが言うのならシャロは大賛成に鞍替えっす!」

 

 おお、やったぁ! 3の1!

 

「俺の発言力軽すぎない?」

「アンくんの将来を考えたらご隠居のような小屋は避けて欲しいと、わたしは考えるのだがね」

「確かに人馴れというかそういうあれはあるけどさ」

 

 ブロンテは意見を変えず対立している。

 

「あくまで小屋は集中できる仕事場としてだ。他の業務やシャーロット達を通して町に馴らすつもりは変えないさ」

「ふーむ。そうか」

「てかそうするつもりだから、せめて心休まれる場所を提供しようとだな」

 

 頑張れジョージ。負けるなジョージ。

 私の好きな趣ある木造を守ってくれ。

 ばりーん!

 

「なんか窓割れてね?」

「シャロくんがいないね」

「……」

 

 抱っこを拒否しまくっていたら飛び出していったよ。窓から。

 

「あー。話付けに行ったのか」

「これじゃ幾ら反対しようがもう覆せないね」

 

 メイドが何で一番強いんだ。

 

「ま、いずれにせよソラくんが意見した時点でだったね。そこまで頑なに反対という訳ではないし」

「意見してくれんのは嬉しいよ。アンの問題は確かだしな」

「……」

 

 アンの人馴れねぇ。

 そういえば会長が来た時とかも全く姿を見せてなかったし──。

 

 ──あれ、そういえば会長って私に用があるみたいな事言ってなかったっけ。

 特に何も言わず帰っちゃったけど良かったのかな。日を改めてくるとかないよな。

 お酒であやふやになっちゃったってんなら、まぁ嬉しいことこの上ないけど。

 

「ソーラっちぃー!」

 

 お、シャーロットが呼んでるし行ってくるか。

 割れた窓から飛び出して、空中一回転からのパーフェクト着地。

 さてさて、なんの御用かしら。

 

 

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