古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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39 シャーロットとレア

 

 

 今日は朝一番でレア・スがボイラーの修理へと赴いてくれた。女性の多いこのお屋敷においてお風呂問題を重く見てくれたらしい。

 立ち合いはシャーロットと私。私は荷物持ちとして、シャーロットは機械関連の資格を取ろうと勉強をしているのでそのプロたる手腕を見学したかったんだとか。

 

 片手に少々ずっしりした工具箱を持ち、勝手口から建物に沿って裏手へ回ると重々しい扉が目に入る。

 こんな所にそんなものがあったとは知らなかった。

 

「埃っぽいっすねー」

「あんま弄る人もいないなら仕方ないよ。掃除にも来ないでしょ」

 

 屋敷の探索をせず部屋で本を読み漁っていた非もあるが、裏庭担当である私ですらここの存在を知らなかった。

 当然掃除なんぞ来たことがない。

 

「見たことなかったんすけど、思ったよりでっかいんすねぇ」

「これは発電機を兼ねてるタイプだね。そっちにタービンが仕掛けてあって、お湯を沸かす時についでに発電できる」

「へー」「……」

 

 ちょっとした倉庫のような専用の建物を用意する位には大型だ。

 大きな機械の前でレアが立ち止まり、指示されて工具箱を床へ置く。

 

「まぁ正確に言うと、発電のついでにお湯が沸くって方が近いシステムだね」

「便利っすねぇ」

「けどこれすぐ廃れたんだよねー。触れ込みはよかったんだけど」

 

 ばかっと正面のハッチを開け、色々専門用語の書かれたスイッチを慣れた様子でレアは弄っていった。

 

「そんなに悪かったんすか?」

「今の燃料と技術じゃコストが全く合わない。銭湯でも経営しない限り機能を切り分けた方が安くついちゃう」

 

 ずっと聞こえていた重低音が消える。停止したらしい。

 

「シャロちんが昨日使ったっていう古い薪ボイラーから更新した時、きっとここの人は奮発したんだろうね」

「旦那に聞いたら、自分が生まれた時に浴場を立て替えたんだーって」

「ふぅん」

 

 いくら人を自称していても我々ふたりは機械の身。子を成せぬ故、子に対する想いという思考を正確に理解できているとは言えない。

 我々に置き換えてみればレア・スとソラ・オプトの仲間意識と似たようなものだろうか。

 あるいは、ジョージを攻撃された時に感じた感情の逆。抑えきれない想い。

 

「“愛”、ってやつかな」

 

 そうそれ! それだよレア、私の言いたかったものは。

 

「うちのチビ共に対するこれも愛!」

「いいねえ」

 

 口振りでは楽しそうだが、僅かに見えるレアの横顔はどこか眩しいものを見るような表情をしている。

 ……エンリカ博士の思考パターンを所持しても難しいのか、愛は。

 “空”のものとはいえ魂を抱える私とは違い100%機械だしな、彼女は。

 

「シャロちんは旦那さんとはどうなの?」

「どう、っすか?」

「愛を感じるなーとか、こう、らぶらぶーな」

「うーん」

 

 ん? いや、シャーロットの言う旦那ってのは……。

 

「うーん? 今はチビ共で手一杯っすからねぇ」

「あらあらあらぁ?」

 

 えっとねレア。シャーロットは主人たるジョージの事を旦那と呼び、チビ共っていうのは弟妹でね。

 ああ、主人というのは雇い主っていう関係で。

 

「おチビちゃん達は幾つ?」

「下の子が今年で12っす。双子なもんだから手間かかってしょーがねぇっすよ」

「12かぁー。まだまだ若いねぇ」

「でもそれがかわいいんすよぉ本当に」

 

 愛するチビ共の話を振られたからって照れるなシャーロット。

 1000年単位の非人間のレアは外見年齢からあんたを子持ちだと推測するの無理だからネタバラシしろって。

 いや私も当初はちょっと勘違いしたけどさ!

 

「あ、ちょいとシャロちん」

「はいはい」

 

 喋りながらも作業を続けていたレアが手招きして、機械の中を指差す。

 気になって私も見たいが、呼ばれたシャーロットを優先すると何にも分からない。

 てか皆で覗き込んだせいで暗い。

 軽く照らしたろ。えい。

 

「ありがとソラちゃん。──ここね、ここの配線はテクいし覚えといた方がいいよ」

「なんか違うんすか?」

「あえて緩くしてくれてるお陰で作業スペースを作りやすい。元々メンテナンス性の悪い機械だから、導入の時に現場で工夫したんだろうね」

「へー」

 

 言われても素人には何が何だか。

 

「んじゃ、ぱぱっとやっていくね」

 

 指摘していた空間へレアは身体を潜り込ませていく。

 確かに潜り込んだ上で手を伸ばさなくてならないのなら、できる限り動けるスペースを空けておかなくては後が辛くなるな。

 

「片手で大丈夫っすか?」

「あたしなりのやり方があんのよ。まぁそこでのんびりしてて」

 

 下半身だけを我々に見せながら奥の方でかちゃかちゃと音が鳴り出した。その音は本格的に作業が始まったと取れるが、見えないからと副腕を展開したとも取れる。あれに指のような器用さはなかろうものの、数もあるし補助としては充分だろう。

 もし立ち合いにシャーロットが同行していなかったら私は片腕を貸していたな。どうしたって片手作業は辛かろうしこういう時くらい返してやりたい。

 残された我々は特に手伝えることもなく、並んで無言の空間ができてしまった。

 

「……」

「……」

 

S.Message: We used a gas heater back then. It works even in a blackout!(*´▽`*)

 

 む? “空”の生きていた当時、戦時中の話か。

 当時はガス式の風呂に入り、電気を使わないので停電中でもお風呂に入れたよーと言っている。

 ガスと電気で機能分けしているから電力が途絶えた時でも強いのか。色々安定していない時代だったのだろうな。

 

 一方ここの動力は不明だが、少なくとも発電設備を兼ねているなら電気式ではなかろう。

 ヘンにコストをかける割に便利ではなさそうだ。人数に対して無駄に広いし。

 

S.Message: Since this place can be a shelter, maybe we should just pay the cost to keep it open, you know?д゚)

 

 避難所としても使うならコストを払い続ける価値はある……?

 ああ、確かに災害時等ではこの屋敷を避難所にするらしい。屋敷が高台にあるのもそのためだ。

 もしかして緊急時には町の人が利用する事も考慮しての大浴場なのか? ここは。

 その規模を沸かすための大掛かりな設備となり、そういう設備となるなら発電機を兼ねてと。

 ……子への愛だけではなく、町そのものへの愛も兼ねていたのだろうか。前領主の奮発は。

 

「……」

「ソラっち、なんか言ったっすか?」

 

 へ?

 隣のシャーロットを見上げて、目が合う。

 

「んー。気のせいっすかね? そんな気がして」

 

 もしかして“空”が喋ったからかな。

 昨日のアンははっきりと発言内容まで拾えてたけど、シャーロットはそこまで至ってない様子だ。

 急に双方認識できるようになったのはなんなんだろう。私が変わったか、“空”が変わったか。

 私が現代で目覚めた当初に比べると“空”の意識がはっきりしてきている様にも感じるし、きっと後者なんだろうな。

 

「あー……」

 

 レアのうめき声と共に身体が少し戻ってきて、やがて右手だけがこちらへ差し伸ばされた。

 なんだろ。とりあえず握って反応を見よう。にぎにぎ。

 

「いや握手じゃなくってね?」

「どれっすか?」

「ロッキングプライヤ」

「えっと、メタル洗濯ばさみっすね。ほい」

 

 足元の工具箱からシャーロットの言う通り、デカい金属製の洗濯ばさみみたいなのが取り出されて手渡されていった。

 

「せんきゅ。やっぱ片手ないの不便だなぁ」

「前はあったんすか?」

「ちょっと前までねー。自分で選んでこうなったんだから悔いはないけどさ」

 

 う、左腕貰った私が聞くとちょっと落ち着かない。

 

「やっぱこの辺全部劣化してるじゃん。スペアあるかなぁ」

 

 本人気にして無さそうなのが余計もどかしい。

 

「さっきあたしさー、メンテしにくいって話したじゃん」

「してたっす」

「今の時代、アナログな癖に機械を弄らせるな表へ見せるなってんでこうして内側に仕舞い込むんだけど──」

 

 ぷしゅーと空気の抜ける音が続き、止まる。

 これ機械の私達はいいけど、シャーロットは留まってていいやつ?

 

「お陰でせまっ苦しくてやりにくいったらありゃしない。やってみれば分かるよー」

「だからやたらと背丈を聞かれるんすねぇ」

「でしょ?」

 

 大柄とはいえシャーロットは女性の骨格。より面積のある成人男性ではもっと大変そうだ。

 

「シャロちんが取ろうとしてる資格って、口振り的に保全技師?」

「そうっす。あとは一応、設計も視野っすかねぇ」

「いいねぇ欲張るねぇ」

「えへへ。まぁそっちは理解のための勉強って言いますか。取れたらいいなってくらいっす」

 

 シャーロットが機械関連の資格を取る事は応援したいものの、ここでメイドを続けるつもりはないのだろうかという疑問が浮かぶ。

 いや、別に本人の自由だし、前向きな理由の転職とかならいいんだけどさ。

 でもなんか、こう、そうなると寂しいなっていうか……。

 ……やめて欲しくは、ないな……。

 

「ん? どしたっすかソラっち」

「……」

「なんか用あったすか?」

 

 無意識のうちにシャーロットのスカートをくいくいと引っ張ってしまっていたらしい。

 ぱっと手を離し、首を横に振る。

 

「どうかしたの?」

「いやー。お恥ずかしい話、ソラっちのことまだまだ理解してやれなくて」

 

 屈んで目を合わせ、大きな手で私を撫でる。

 いつもはやめろと断りたいところだが、今はどうしてかやめろと首を振る気にはなれなかった。

 

「意思伝達にストッパーがかかってるみたいだし、やっぱり難しいよねー」

「……寂しいっすよ。もっと、お話したいっす……」

 

 うわっ、抱き着いてくるのは流石に予想外。

 

「やっぱり喋れるならそっちの方がいい?」

「そりゃもちろん! 生きてる内にいっぱいお喋りしないと後悔するっす!」

「そっかぁ。うん、そうだよね」

 

 普通はそうか。そうだな。死とは永遠の別れだ。

 私は怪奇現象や“空”との交流を果たしているからその感覚が薄かった。

 シャーロットは早くに親を亡くしているが故、言う通り後悔があったのだろう。

 チビ共を愛する明るい姉というのも、生きている内になるべく多く接したいという気持ちの表れか。

 

「……よし。ひとまずできる事はこれくらいかな」

 

 がしゃがしゃがしゃ。

 絶対に副腕を収納したであろう音を発してからレアが帰ってくる。

 抱き着いていたシャーロットもそれを聞いて襟を正した。

 

「おつかれさまっす」

「ありがと」

 

 最初に切っていたスイッチを弄り、再びあの重低音が響き出す。

 私には違いが分からないものの、レアはうんうんと頷いているのでいい感じらしい。

 

「応急処置みたいなものだから、タイミングを見てちゃんと点検するように伝えておいてね」

「りょかいっす。その時はまた勉強させてもらっていいっすか?」

「ごめん、これ以上大掛かりな内容になると立ち合いすらできなくなってくるから約束できないかも……」

「あちゃー、しょうがないっすね」

 

 ここはちょっと駆動音がうるさいので表で話そう。

 ジェスチャーすらできないので手を引いて連れ出そうとすると、察してくれて二人とも素直についてきてくれた。

 制限ある中で十分意思伝達はできていると思うけどな。私は。

 私以外が納得してくれるかはあれだけど。

 

「代わりと言っちゃなんだけど、勉強を教える事はできるよ。申請書類は後で届けとくね」

「おー! 助かるっす!」

「ここでのお仕事が終わったらお休み貰えるはずだし、ゆっくり教えられるよー」

 

 ……もしかしてレアさん、あなたもしかして働き詰めで全然休んでないんじゃない?

 というか、ボランティア精神で休日にも働いちゃってる……?

 

「じゃあ歓迎会しないとっすね! 好きな食べ物あるっすか!?」

「え、ええ、好きな食べ物ね……」

 

 私もレアも機械の身体ゆえ食事は取れない。困ったような顔で私を見ても助けられないよ。

 意地悪とかではなく、シンプルにどうしようもなくて。

 ここの人達なら受け入れてくれそうだし、身の上を告げた方が楽なんじゃない?

 

 

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