古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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感想感謝っすよ!
ストックなくなったんで更新は遅れるっす!


4 メイド衆への挨拶

 各部可動に支障なし。取り付けた新しい左腕の調子も良好。

 こちらも私と同じく長年放置されていたにも関わらず、よく無事だったものだ。

 自分の丈夫さに自分でも驚き。

 

「にしても、この猫耳はなんなんだろうな」

「わたしも気になっていた所だよ」

 

 すぐ出発する、と見せかけてぐにぐにと頭頂部にある二つの排気口を左右から触られる。

 猫耳呼ばわりとは少し疑問に思うが、言われてみればそれっぽい三角形をしているのでまぁ猫耳呼ばわりされても仕方がないか。

 排気口を兼ねて頭部を立体的にし、日照面積を少しでも広げ太陽光発電を効率化する設計──という説明を挟み一応の否定をしたいが喋れないので諦めよう。

 

 

 排気口(猫耳)弄りも程々にし、ついに私の眠っていた部屋から移動し廊下へ。お屋敷らしいお屋敷な雰囲気の場を二人の背中についていく。

 いつの間にか着せられていたメイド服のスカートがヒラヒラとして落ち着かなかったり、胴より上の布に隙間がなく排熱効率に問題があったりとするが今はいいだろう。戦闘する訳でもなければ無視できる範囲だ。

 

 今の私は新人メイド。

 新人ならばここで働く先輩達へ挨拶をせねば失礼というもの故に、自分の不備はおいおいとする。

 

「先にシャーロットん所に行くかー」

「シャロくんも事を気にしてるだろうし、それが賢明さ」

「……」

 

 寝起きで思考回路が非効率的な動きをし、無い腕へ執着した結果生身の彼女に怪我を……。

 いや怪我はしてなかったんだっけ。確かさらっと無傷だとか言っていた気がする。

 今にして思えばあの時掴んだ感触はしっかり人間の物だった。よく無事だったものだ。

 しかし危害を加えようとした前科に違いはなく謝罪をせねばなるまい。

 最初にシャーロットと会わせてくれるのは助かる。

 

「今はたぶん屋上で洗濯物とか干してっかな、たぶんだけど」

「……そろそろ裏庭を使えるようにしたらどうだい。放置して荒れっぱなしだろう?」

「草ぼーぼーでめんどくさい。海水でも撒いとくか」

「それやったら殴るよ」

 

 裏庭? 裏庭なんてあるのか。

 うーん。気になる。ベンチでもあれば座って発電できそうだし。

 

 進む廊下の窓は私からして少し高く、外の景色は覗けるものの庭が存在するだろう手前辺りがよく見えない。

 ちょっと歩みより、つま先立ちになって見てみる。

 そこにあったのは海と長閑な町を見下ろせる景色だった。

 

 荒れ果てているらしい裏庭、というには違う気がする。じゃあこちらは裏ではないか。

 言うなれば表庭……? 表庭という表現があるのかは知らないけど。

 

 

「おーい、ソラー?」

「はっはっは。もしかしてわたし達の会話を聞いて 裏庭を探してしまったかな?」

 

 おっと、置いていかれる。

 階段を上りかけていたふたりに駆け寄り、背後に着く。

 着こうとして、回り込んだブロンテに肩を押され踊り場の窓へと誘導された。

 そこから見えたのは──

 

「──これは繁栄と衰退って名前の作品だよ」

 

 私にも雑草と分かる様々な植物に飲み込まれた平地だった。

 奥には自然林もあるので、何も知らず伺えばただの森と平原だろう。

 ベンチも何もない。

 

「かつてはガーデンアーチや煉瓦の小道もあってお茶もできる良い雰囲気の場だったのに、庭師が引退してしまってね。ジョージくんが新しく人を雇わず放置するからこうなってしまったのだよ」

 

 それは正しく繁栄と衰退。

 高度な発展を遂げたコンクリートの街も手入れが為されなければ滅び朽ち逝くだけ。

 微かに読み込める戦争末期の情勢からして、私の知る世界はこの裏庭のように一度衰退の道を辿ったのだろう。

 機械である私に感性が搭載されているのかは分からないが、雑草だらけの裏庭はアートと呼ぶに相応しいと感じた。

 

「おい、真に受けてないか?」

「うーん。かわいいなぁソラくんは」

「……」

 

 ぐいぐいと肩を引っ張られてジョージに窓から引き剥がされる。

 

「ソラ、ブロンテの言葉はあまり真に受けるなよ。半分以上ジョークだ」

 

 え、ジョーク? アートとかじゃなくて、手付かずなだけ?

 …………し、知ってる知ってる。

 分かってたし。

 知ってて分かってて、あえて乗っただけだし?

 

「……」

「な、なんだいソラくん。睨まないでくれ」

「あんな大人になっちゃダメだぞー」

「……」

 

 頷く。頷いたが、もう騙されない。これはよくブロンテとジョージが繰り広げるじゃれ合い合戦と同じノリ。

 つまりはこれはジョージのジョーク。

 ……ジョージジョーク……。

 

「なんか今、ソラ笑わなかった?」

「ふむ? わたしは何も分からなかったが」

「……」

 

 私が笑う訳は、たぶんない。

 少なくても読み込めるデータ内には喜怒哀楽の感情を表に出す様な機能は見当たらない。そも戦争兵器に感情機能が搭載されている必要はないし、じゃあ存在しない……はず。

 恐らく内部に溜まった埃を飛ばすために先程から全力で稼働させているファンが、何か少し引っ掛かって震えた音か振動だろう。

 

「ソラくんは無感情的に無表情、しかし内部では見た目の子供さながらの感性程度は持ち合わせている……というところかな」

「全部機械なんだろ? だってのに、昔の技術はすごいねぇ」

 

 撫でるなブロンテ。まだバッテリーの充填は不十分なので光を遮ろうとしないで欲しい。

 首を振って拒否する。

 あと、ブロンテに感情感性はたぶんないと教えてあげたい。

 …………ええい、だから撫でるな!

 

「撫でられるのは嫌いと。猫みたいでかわいいねぇ」

「兵器というよりは本当に人形みたいだな」

「……」

 

 私にも一応、兵器としての面子的なのがあるのだが。

 

 裏庭の話はそこそこに階段を昇り二階。更に階段を昇り、次はもう屋上。

 左右を屋根に囲まれた中、四角く刈り取られたような平たい屋上はあまり広いとは言えない。

 そこの空間で所狭しとシーツや衣類の洗濯ものが風に吹かれてたなびいていた。

 シャーロットがここで作業をしているという話だったのだが、どこにいるのだろう?

 

「……」

 

 いや、待て。

 何かいる気がする。

 扉の前から動かないジョージとブロンテが探してみろと言わんばかりに背中を押した。

 二人にだってシャーロットが隠れていると分かっているんだろう。

 

「……」

 

 その勝負、乗った。

 メイド服と共にいつの間にか装備されていた革靴がタイルを打ち付け音を出さないように気を付けつつ、そろりそろりと移動。

 私の背では洗濯物の下を覗き込んで探す事も可能だが、相手はメイド。つまりスカート。流石にやめておこう。

 

 ばさばさと鳴る布の隙間を歩き、中央付近まで来る。

 

「ばぁ!」

 

 後ろから抱き着かれた!?

 

「……」

 

 咄嗟に投げ飛ばそうと構えて、一瞬でまずいと気が付き止まる。

 また私は危害を加える所だった。

 

「やっほーソラっち。久しぶりっす」

「……」

「ありゃ、驚かせ過ぎちゃったすかね?」

 

 離してくれたので振り返り、やはりそこには前にも見たシャーロットがいた。

 長い茶髪を後ろで一つ縛った頭と私より圧倒的に高い身長、間違いない。

 

 私が喋れない事を知らないだろうし無視しているようにも思われかねない。

 ジョージかブロンテに手伝って欲しいので首を回して、目線で助けを求める。

 瞬時に私の悩みを察してくれたブロンテはうむと言いたげに頷いて、すぐに来てくれた。

 

 遅れてきたジョージと共に私の横に立ち、私の存在を解説してくれる。

 とても助かった。

 

「──と、言う訳だ」

「ふむふむぅ? ま、難しいことは分かんないけどソラっちが可愛いのでオッケーっす」

「……」

「シャロはシャーロット! 得意なのはネズミ捕りと家事全般! これからメイド仲間としてよろしくっすよ!」

 

 握手するための右手が出される。前の事ぜんぜん気にしてる気配ないんですけども。

 気にしていたら絶対に握手なんてしようとしないはず。

 

 いくら相手が気にしてなさそうとはいえ、何にせよまず私が行うべきはただ一つだ。

 ごめんなさいと頭を下げる事のみ。

 申し訳なかった。

 

「……」

「な、なんすか急に」

「多分前の事謝りたいんじゃないか?」

「前の?」

 

 うーんと首を捻られる。

 

「いやなんでシャーロットが覚えてないんだよ。ほら、腕掴まれたやつ」

「あー! あれっすか!」

「シャロくんは頑丈だねぇ」

「全然気にしてないっすよ!」

 

 いや気にして欲しい。

 

「確かにびっくりしたっすけど、怪我もなかったしソラっちは可愛いので許します」

「……」

 

 許された。

 

「ちなみにジョージくんは君の事を鋼の女と称していたよ」

「まじすか」

 

 まじまじ。頷く。

 

「心外っすね。か弱き乙女なのに……」

「そこそこ頑丈なぬいぐるみが軽く潰れる位の力で握られて、何がか弱き乙女か」

「え、そんな強かったんすか?」

 

 うむ。

 今手元に物がないから示せないけど、敵の腕をもぐという目的の為だったのでそこそこ力を込めていた。

 握力は数値にして……いや、明記するのはやめよう。それを耐えてしまったシャーロットの立場を考えて。

 

「ま、それはさておき次へ行こうか。仕事の邪魔をしたら悪いし。シャロくん、アンくんとエミリーくんは?」

「エミリーは今頃二階の部屋を掃除してるっすね。アンは……まぁいつも通りっすかね?」

「センキュ。んじゃ、行くか」

 

 確かに仕事の邪魔はあまりしてはいけない。

 背後で洗濯物がはためく音と新しく干されていく音、シャーロットの明るい声を聞きながら屋上を後にして建物内へと戻る。

 階段を下って二階の廊下へ。

 足取り的にエミリーの所へ向かうのだろう。

 

「ソラ」

 

 む、ジョージよどうかしたか。

 

「シャーロットはあんなあっけらかん的な性格してるし口は軽いが、一応仕事はちゃんとこなすし面倒見はいい。なんで、仕事で困ったらあいつに相談するように」

「彼女がメイド長というのも覚えておきたまえ」

 

 相談、といっても喋れないのだけど。

 

「困ってるジェスチャー……手話でも覚えさせるか」

「ふむ。それは妙案だねジョージくん」

「これすらダメだったら、最低限のサインでも考えるかぁ」

 

 文字や発声だけでなく伝える手段とは様々ある。

 そのどれかで可能なのであれば、ああ少し待って。

 エラー、エラー、エラー……。

 

「ん? どうしたソラ」

 

 首を横に振る。

 私が言語として物事を伝えようとする行動自体にエラーが出てしまう。

 つまり例え手話だろうがモールス信号だろうがあるいはハンドサインだろうが、その全て“思考を伝える手段”であれば途端に不可能となっていることが判明した。

 

 何というか本当に、言語出力の機能が綺麗に抜け落ちてるなぁ。

 首振りのイエス・ノーだけがせめてもの生命線。せめてこれくらいが残されていて良かった……。

 

「ふぅむ? ソラくん、言語を形作る事が不可能なんだね?」

 

 こくりと頷く。

 ブロンテの勘が良くて助かる。

 

「難儀なやっちゃなぁ。──あ」

 

 がちゃりと廊下の先で扉が開いて、中からバケツが出て置かれた。続いて掃除用具らしき一式も出てくる。

 そして最後にメイド服の女性。

 話からして彼女がエミリーなのだろう。

 ブロンテに似た金色の髪をした、シャーロット程ではないが私よりも背の高い少女だ。

 ……私の背が低すぎるから比較にならない。たぶん全員私より身長が高い。

 なぜ私は少女の姿なのだ……兵器だろう……?

 

 ジョージの声かけを受けてエミリー(仮)はバケツと掃除用具を置いて歩いてくる。

 姿勢も歩き方も品があり、何というかとてもメイドらしい。このモーションは参考にするべきだろう。

 

 軽い挨拶をしてから両脇の二人からエミリー(確定)へ私の説明が入る。

 反応は、歓迎してくれている。よかった。

 

「よろしくお願いしますわ、ソラさん」

「……」

 

 握手。みんな握手好きだね。

 力加減を間違えないようにする。

 

「ふふ、それにしても……」

 

 少し屈んで私に目線を合わせたエミリーの手が私の頭へ。

 おい撫でるな。

 

「ソラさんはかわいいですね」

「……」

 

 な、なんか怖いんですけど……。

 ものすっごい笑顔で私の頭を撫でているけど、若干狂気を感じる。

 

「ソラくん気を付けたまえ。エミリーくんは猫が大好きでね、恐らく君も……」

 

 も? もって何さ。

 あれか、まさか頭の通気口か! 猫耳だからか!

 猫っていうか三角形が好きなだけじゃなかろうかエミリーは。

 あとまだ撫でないで欲しい。屋上で多少余裕ができたとはいえ、まだまだ充電は不十分だ。

 

 撫でている手を首振りで落とし、距離を置く。

 

 まずは光を遮らないで欲しいという意思。

 次は恐怖を感じたから。

 

 もしかしてこれが、感情……?

 

「なんだか猫みたいな反応なのもかわいいですわね」

「そこまでにしとけエミリー。なんというか、狂気を感じる」

「失礼いたしましたわ」

「……」

 

 佇まいから内面までは察せられない。それがエミリー。

 口調と態度から仕事評価を察せられない。それはシャーロット。

 この調子だとまだ見ぬ最後のメイド、アンも良い性格をしてそうだ。

 次は何で来る? 抱っこ大好きか?

 

「エミリーくん。アンくんが何処にいるか知っているかい?」

「ええっと。たぶんいつも通り裏方仕事だと思いますわ」

「分かった、センキューな」

「……」

 

 シャーロットの時と同じく仕事の邪魔をしてはいけないという為に長居せず別れる。

 いつもの場所、裏方作業、とそれぞれに表されたアンは一体何処にいるのだろう。

 悩むそぶりを見せずジョージが先導して歩き、その後ろをブロンテと私は着いていく。

 

 来た道を戻り、階段を下り、角を曲がって。

 

 たどり着いた先は、私の眠っていた部屋だ。

 ここにアンがいるのだろうか?

 

「……」

「……」

「……」

 

 無言のまま全員で部屋へ入るが誰もいない。

 元いたように私はベッドへ腰掛け、ふたりはその前に置かれた椅子に座る。

 

「……」

「……」

「……」

 

 えっと、アンは?

 

「……アンがどこにいるか分からない」

「やっぱりか!」

 

 すぱーん、と心地のよい音と共にジョージの頭が叩かれた。

 

「いやシャーロットもエミリーも知ってるよねって感じだったから言いにくくってさ、ほら俺が部下の仕事把握してないって思われたらやだし」

「そう言ってる時点でお察しな事に気が付きたまえ」

「……」

「ほら、ソラくんも蔑んでるよ」

 

 まじないわー。

 ちょっと男子ー。

 ……駄目だ、喋れれば二人の会話遊びに混じれたのに。

 

「えっと。まぁ見た事ないメイドを見かけたらそれがアンだ。ソラ程じゃないが小柄で、不思議な雰囲気の奴だが悪い奴じゃないぞ」

「先程あった二人から分かる通り、癖はあるから接触した際は飲まれないよう気を付けたまえ」

 

 ええ、どんな人なのさそれ……。

 飲まれないようにって何さ。丸のみでもしてくるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンは普段からどこにいるのか分からない。

 いるにはいるし仕事はちゃんとこなしているけど、その仕事風景を直接見る機会はとても少ない。

 

「……」

 

 色々説明してみたがソラの目は厳しく俺を見ている。

 そりゃそうだよな、雇い主なのに部下の仕事場を把握してないもんな……。

 

「まぁフォローするなら、わたしもわたしの調査隊がどれほど仕事しているか把握していないよ。ソラくんだって戦場で上官が何もかも把握している訳じゃなかっただろう?」

「……」

 

 ソラの首が、正面を向いたままこてんと横に傾いた。

 しばらくそのまま止まって、やがて頷く。

 なんだその間は。なんだその仕方ないなって感じの頷き方。

 

「あ、そだ。じゃあ次の連中を紹介しよう」

「……」

「料理場のやつらなんだがな」

 

 いそいそと部屋を出て料理場へ急ぐ。

 後ろを付いてくる二人の目線が背中に刺さりとても厳しい。

 

「……」

 

 ちらっと後ろを振り返り、無表情のまま視線をあちらこちらに向かせて周囲を観察して歩くソラを見る。

 何というか、ソラはシャーロットやエミリーの言った通り可愛いに分類される存在だとは思う。

 少女的な小柄な体格や猫耳はさておき、動作がまんま子供らしく微笑ましくなるのだ。

 

 裏庭の話を聞き案内を逸れて窓に寄ってつま先立ちになったり、冗談を真に受け、撫でられればいやいやと拒否し……。

 

 戦場で動かす機械の兵士にしては、子供の姿で相手を油断させる目的にしては度が過ぎる。

 そういう目的だったら無表情ではなく笑顔にでもしとけばいいし、そも猫耳やこめかみにある何かを取り付けられそうな隙間が人間じゃないと相手に教えてしまっているし。

 

 というか大体、人間らしい感情とか思考能力とか必要なのか?

 今日見る限りはただの子供にしか見えない。

 でも最初に起きた時はシャーロットの腕を掴んだり俺に攻撃してきたり……。

 

 駄目だ、全然分からん!

 

「ちょっとジョージくん。思考するなら喋りたまえ」

「あ、ワリ」

 

 ソラの内面事情というか「兵器としては」な部分は後でブロンテに話そう。

 こういうのは向こうの方が詳しいし。

 

 てな訳で到着した料理場。

 俺は用もなくあまり立ち入る事はないが、メイドであれば配膳等でここへ来る機会が多いだろう。

 扉を開けて声を掛け、すぐさま二人の料理人が目の前に並ぶ

 

「左の若い方がトーマス、右のおっさんがハーディだ」

「こんにちは」「……よう」

「……」

 

 無言のソラが頭を下げる。

 

「こいつの名前はソラ。これからメイドとして働く事になった奴なんだが、事情があって喋れない。首振りで意思疎通するんで、まぁ上手いこと話を合わせてやって欲しい」

「……喋れねぇのか」

 

 ハーディが唸るように喋った。ソラの状態を知って同情か何かしたんだろう。

 職人気質で強面のおっさんだが、ただの良い人と説明すると照れて怒られるのでよしておく。

 一方でトーマスの方はというと良く分かってなさそうな顔だ。

 

「はいかいいえの二択で聞けば答えられるから、そんな感じによろしくな」

「は、はい」

 

 まあ付き合ってれば慣れるだろう。

 

「これさっき作ったんですけど、食べますか……?」

 

 一瞬後ろを向いたトーマスが、何かを皿に乗せて差し出した。

 見ればそれはカラフルな砂糖菓子で、ソラにあげようというらしい。 

 

「貰おうか」

 

 隣のブロンテが一つ奪って口に入れる。絶対にお前に向かっての物じゃない。

 

「……」

 

 ソラは無言で首を横に振った。

 人間らしくて忘れそうになるけど、一応は機械なんだし食べられなくて当然か。

 

「ま、いい。……つまみ食いじゃなきゃいつでも来い。菓子作りなら教えてやる」

「ハーディさん、今日は優しいですね」

「なんだと?」

「あ、その、いえ……」

 

 相変わらず仲良いんだか悪いんだかよく分からん二人だなぁ。

 さて、仕事の邪魔するのもここまでにしておいて行くか。

 

「次はどこへ行くんだい?」

 

 アン……は見つからないだろうしいいや。

 屋敷の外をぐるっと回るついでに警備の人らへ挨拶して、で今日はお開きかな。

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