古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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40 アガの市

 

 

 ──そろそろ節目だし何かしよう。

 

 そうトリブレに告げられて首を傾げる。

 何がどう節目なのだろう。記憶している限り誰かの誕生日ではないし、かといって記念日な訳でもない。

 だとすれば……ああ、もしかして新年か?

 

 冬の終わり、春が訪れる時期。

 機械戦争の終わりと新たな歴史を始めたその日を今は年越しとしている。

 きっとトリブレが言いたいのはそれだろう。確かにそれなら何かするには丁度良い。

 本で得た知識だけではあるものの、新年を節目に心機一転、目標を掲げたりするんだとか。

 

「えっと、ちが、違うけ、ど……。ででも、と、特別、なことするぅ、には、いいいいいかなて、かなって」

 

 腕を組み首を傾げ壁へ背を預ける。

 椅子にしている木箱から体重が少し離れてぎしっと音が鳴った。

 

 本日お邪魔致しておりますはトリブレハウス。倉庫か空き劇場のような所だ。

 お休みにいつまでも自室に居続けるのもなという気まぐれでトリブレの住まう場所へやってきております。

 いつでも遊びに来てねと言われているのに中々行く機会がなかったので、散歩ついでに寄ってみたのだ。

 相変わらず原理の分からない道順を鍵とした裏世界的場なものの、特段危うさを指摘されていないので入場に抵抗はない。もし何かあるならトリブレが警告してくれるか助けてくれるだろうし。

 

 それでともかく、何かするっていうなら一枚噛ませてもらおう。

 面白そうだ。

 

「き記念、記念日、みたいなことっ、でいいい、い、から、どどうかな」

「……」

「な、なにか、何か思い、……つく?」

 

 ただ、うーん。急に言われてもなぁ。

 私自身あんまり発想豊かという訳ではないし。

 

「あも、も、あもぁ、あ、()も、あも」

 

 バグったようにトリブレが同じ文字を繰り返し、やがて沈黙して呼吸音だけがマイクに届く。どこにいるのか分からないが、一旦喋るのを止めて息を整えているらしい。

 思うに、その“()”という一文字の一人称があまりよろしくないのではなかろうか。私とて()を常用するのは難しそうで憚られる。

 こだわりがあるのなら止めやしないけども。

 

「……ごめ、ごめんね。形だけっ、だけでも、せせんだ、先代、に近付きたいい……からっ」

 

 先代道化師がどれほどの実力者なのは私は知らないものの、実力あるトリブレがまだまだと目標にするのだ。

 さぞ立派なお方なのだろう。

 

「んふふふ、ソラちゃ……ん。が、よく読んでる本ぅ、せん、せ先代が、書いたっ、書いたものっ、なの」

 

 ほう、道化師学なるコミュニュケーション実験室シリーズの作者が先代だったのか。

 最初はびっくりして焚書してしまおうかと思っていたが、落ち着いてゆっくり読めば面白い事に気が付いてからは過剰摂取に気を付けて運用している。

 まさか身近に作者がいるとは思わなかった。その先代は今なにをしているのだろうか。

 

「せ、先代、は。……ほほ北極圏っ、にぃ、むむ向かっ、向かって……行方っ不明に……」

「……」

「あっ、でっでもっ! 時々どきと、き、時々っ……手紙がと、届くから、へい、平気だと、おも、思う」

 

 本業はトリブレへ任せて旅を楽しんでいるらしい。

 まぁいないならいないでしょうがない。そも直接会ったら耐えられるか分からないし。

 でだ。本題は節目なる時に何をしようかという話。

 

「あ、ああ、あある歩き、ながら、か考える?」

 

 それもよかろう。

 それに実は私、こっちの町を少し見物してみたいと思っていたのだ。

 

 特殊な道順を経て辿り着く地図に無い町。

 時代が違うのか、世界が違うのか、よく分からない場所。

 不思議体験に心躍らせるという表現が適切だろうか。トリブレの住まう町がどういった所なのか知りたい。

 

「んふふふふ……」

 

 椅子にしている木箱からトリブレの笑い声がして、通り過ぎるように小さくなって消える。

 外へ通じる扉がひとりでに開いていった。

 

「……」

「あ、あないっ、案内、するるぅ……よ」

 

 郵便受けの小さな窓で黄緑色の眠たげなトリブレの瞳がゆらゆらしている。

 姿を見せないままどうついてきてくれるのだろうか。町中であの大きな黒豆機械を出す訳にもいくまいし。

 トリブレの事だから何か方法があるのだろうな。それも私を驚かせるような、面白い方法で。

 

「あれ、えっと、あ。そんな……」

 

 どうしたのだろう。

 

「ううん。あ、あんまり、あんまり気にし、しないで」

 

 なにを、と思ったがトリブレは私の心境をかなり正確に察している所がある。

 もしかして道化師的職務を期待していると思われてしまっただろうか。

 道化師だからと役目を押し付けるようになっては申し訳ない。ただでさえ普段から助けてもらってばっかりなのに。

 今日はビジネスではなく友達として一緒に遊ぶのだ。

 

「……」

 

 木箱から降りて扉へ向かい、とても明るい外へと出る。

 改めてみると、やはりここはケィヒンと建物の様式が全く違うな。

 前時代的と言っては失礼だが、木と石を中心としていて基礎が違う。

 

「よ、よぅこそ! ああぁあ、アガのす、あ、アガの市へ!」

 

 ぱん! とクラッカーが弾けて紙吹雪が舞い上がる。

 アガの(いち)と言うのか、この町は。町という括りでいいのか分からないけど。

 

「いいいろ、色、んなお店っ、……お店がぁあって、賑やか、ぁだっ、だよ」

 

 (のみ)(いち)というマーケットの形態は知っている。広場で即席の出店を沢山の人が所狭しと構えるらしいものだろう。

 ではアガの(いち)とはなんだろうか。トリブレの説明を聞く限り、特に内容に差異のない地域での呼び名だろうか。

 

 おのぼりさん、というであろう気分で見慣れない建物を見上げながら歩く。

 角度の鋭い三角屋根の先からロープが伸びて、別の屋根と繋がっているのは何だろうか。小さな旗が沢山ついている。

 おお、あちらでは洗濯物が干してあるぞ。そう使うのが正規なのか? それとも路地裏限定?

 しかしトリブレが普段使いしている大きな黒豆に手足が生えたような機械はどこにも見当たらない。こちらの町でも機械類は禁止であろうものなのか。

 

「るる、る、るルールは、お、ぉお同じだから、そっ、そこは、気を、気を付けてね」

 

 窓に飾られた花壇の中から声がした。こちらでも機械は駄目と。

 

「こっ……ちのお金はっ、持ってぇ、る?」

 

 首を横に振る。

 ポケットに幾らか現金は入れてあるが、口振り的にケィヒンのお金は使えないだろう。

 

「じゃあ」

 

 ずし、と服の一部が重くなった。まさか投入された?

 ポケットだろうと手を入れて手探りで硬質なそれを取り出してみると、見事にそれは見知らぬコイン。

 これに刻まれている文字も全く知らないものだし、本当に違う場所なんだなぁ。

 私は摩訶不思議について怪奇現象を始めとした諸々で慣れているが、シャーロットやジョージはどう受け入れたのだろうか。獣人が実在するならなんてものじゃ済まされないだろ。

 

「か、勝手に、ごごめんね。ぷぽ、け、ポッケにあっ、あった分、両替ししして、きたっ」

 

 いや助かる。市へ来たのに何も手持ちがないんじゃ寂しいからな。

 それにトリブレから借りる形になっていないのもいい。

 

「んふふふ、そすぅそ、ソラちゃん、なならっ、こ、こっちの方がいいぃい、かなっ……て」

 

 普段から携行しておくべき最低金額はエミリーから習っている。今日もそれくらい持っていた。

 それが両替されたこのコイン数枚でどれくらい何が買えるのかは分からないし為替レートも知らないが、持ちすぎず不足せずくらいは変わらないだろう。

 しっかりとポケットへ仕舞い前を向く。何か変わったものがあるだろうか。

 

「……」

 

 さっそく人とぶつかってしまった。

 上手く避けたのかするりと風が抜けたような感覚だったが、気を付けないとな。

 この機械の身体でがっつりぶつかれば相手に怪我をさせてしまう。

 

「あ、ああああ、あそ、ソラち、ソラちゃんっ」

 

 どうしたトリブレ。

 ──なんだこの出店。工芸品か? 仮面にしては小さい木製の、円柱に掘られた顔?

 

「それはそ、そ、えっとち、違くて、そ……ぅ、ポケと、ポッ……ケ!」

 

 木製の円柱に掘られた顔から何かを訴えるトリブレの声が聞こえる。

 ポケットがどうかしたって?

 

「あぅえ、っと、ご、ごごめん、ごめんね、ちゅち、ちうこく……」

 

 動揺し過ぎて言葉の続かないトリブレの答えを待たずポケットをまさぐると──

 

「……」

 

 ──ない。さっきしまったコイン達がいない。

 ぱ、ぱ、ぱ、とあっちこっちのポケットや隙間を探ってみるが、どこにもない。

 ふむ、なるほど。これが巷で有名な、外国でスリに合うという状況か。

 

「お嬢ちゃん手持ちがないのかい?」

「……」

「それとももしかして、ぎられちまったかぁ?」

 

 首を傾け分からないのポーズ。通じるかな。

 

「あー……。外国人さんか。そりゃ狙われちゃうよなぁ」

 

 駄目っぽい。

 

「ん? おーい、憲兵さんや!」

「はいはーい!」

 

 店番のおじさんが手を上げて呼ぶと、憲兵さんとやらがすぐさまやってきた。

 物々しいというか、ぴしっとした制服をしているので警備員をしていたのだろう。

 

「こっちの嬢ちゃんが困ってるみたいでな。助けてやっちゃくれないか」

「ああ、観光客の。分かりました、あとはこちらで引き継ぎますので」

「頼むよ。言葉も分かってねぇみてぇだ。さっさと連れてってくれ」

 

 ふむ。どうやら私の振る舞いは異国の言葉も分からない子供と。

 このおじさんも親切心で憲兵を呼んだというより、邪魔だからどかして欲しいというのが大きいらしい。

 お金もない奴相手じゃそれは商売の邪魔だろう。市の個人スペースは狭く、誰かひとりが立ったら次の客が来られないのだから。

 

「こっちで話そうか。──君、名前は? 名前、ネーム」

「……」

「伝わらないと。えっと、ベリテット。おーけー? ベリテット」

 

 喧騒から離れて壁際へ案内され質問が始まる。

 憲兵さんは必死に自分自身を指差しながらベリテットと語り、次に私を指差す。

 こちらの初老の女性がベリテットさんと言う名前なのは分かったが、残念ながらそもそも喋れないんだよな。

 トリブレに現状を喋って貰おうかな。さっきから声しないけどどこいっちゃったんだろ。

 

「……」

「参りましたね……。……もしかして、そもそも喋れないとかでしょうか」

 

 おおそれ! 察しがいい!

 こくりこくりと頷いて示す。

 

「やっぱり! ふふ、今はもうあまり見かけませんが、昔は喋れない獣人がそれなりに多くいたものですよ」

 

 獣人ではないのだが、まぁこれで話が通るなら問題ないか。

 

「言葉は通じるのですね? 親や兄姉等とはぐれたのでしょうか?」

 

 これはNO。友達とははぐれてしまった。

 

「おひとりで?」

 

 これもNO。

 

「少なくとも連れ合いはいたと」

 

 頷く。初めて会うのにベリテットさんは中々話が通るな。

 きっと喋れない獣人という前例があるからスムーズなのだろう。

 

「なら迷子センターで待っていた方がいいかも知れませんね」

 

 うーん、響きがお子様でやだ!

 私が迷子になってのではなく、トリブレがいなくなったのだ。

 

「そそら、ソラちゃん、ごめ、ん」

 

 あ、帰ってきた。

 

「とと特ちょ、特徴、わ、わ分かんな……くて、おおおお追えなかっ、た」

 

 ああ、追跡してくれていたのか。ありがとう。

 こうなってはお金はしょうがないだろう。勉強代として受け取っておく。

 手持ちの現金がなくなっただけで、貯金に困ってる訳ではないからね。

 

「ごめ、ごめ」

「ん? この声、トリブレさん?」

「ベリー!」

「あはは、お久しぶりです」

 

 なんと都合のいい事に、トリブレとベリテットさんは知り合いだったのか。

 お店のおじさんは目の前でトリブレが喋っても無反応だったのに対してしっかり会話しているし、そういうものなんだろうな。

 

「なるほど。連れ合いはトリブレさんでしたか」

「あ、案内、ししししてた、けど。けけど、すぅすり、スリ、ああるって、おし、教えるぅ、のっ。わ忘ぅれて」

「ああー……。最近多いんですよね……。こうして警備の手は増やしているのですが、申し訳ありません」

「……」

 

 顔も分からない犯人を捕まえるというのは難しかろう。

 

「トリブレさんのご友人なら張り切らなくてはいけませんね」

「う、うん。ごめ、ごごごめん、ごめんね」

「いえいえ。こちらの力が及ばなかったが故です」

 

 ベリテットさんが左手の小さな盾の裏に何かカプセル状のものを入れたかと思うと、空へ向けて射出した。

 ぽん、と軽い音共に上空で破裂し色付きの煙が見える。何らかのサインだろうか?

 

「あとはトリブレさんの力をお借りしても?」

「もももももち、もちろ、もちろん!」

「では失礼して」

 

 私の頭の上に筒のようなものが乗せられた。

 

「ふふ、トリブレさんですよ」

 

 そういってベリテットさんが微笑む。

 あまり頭に物を乗せたくはないのだが、この状況ではそうも言ってられない。

 というか、なんとなくこの初老の笑みから逃れられないって感じがする。

 いい歳の取り方をしてるよ。歴戦の猛者って感じ。

 

「よろししししく、ぅよ、ししくね」

 

 この道化師が姿を現さないのは周知でこうしていると。場所が固定されているなら呼びかけやすいしね。

 

「トリブレさん。この子と一緒にいてスリにあったのなら、その描写(びょうしゃ)を読めませんか?」

「う、ん。でもそそ、それは……」

 

 描写を読む、とはどういう?

 まさかトリブレの察しの良さは、もしかして状況整理のために行っている私のこの独白を本のように読んでいるとか?

 

「よ! めないぃ! 読め、ない!」

「わっとと。落ち着いて」

「ご、ごめ、ごめん」

 

 まぁ流石のトリブレも人の思考を読めるまではできなかろう。

 できたら疑似的に会話もできて良きかと思ったが、そう都合のいいようにはいかないのが現実だ。

 試しに“空”、お前はどう思う?

 

 ……。

 …………反応なし。ほら、誰であろうと私の思考を丸まる汲み取るなんてできないのだ。

 かなりさみしい。

 

「とりあえず本格的に()()()()()ですね。盗まれた金額が分かるなら回収したものから補填しましょう」

「あ」

「……」

 

 もし喋れるなら、私もトリブレと同じタイミングで「あ」と言っていた。

 いやいやいやいや、でもねぇ。まさか、ネズミ捕りとは揶揄なもので流石に……。

 

「ソラち、ちゃん。……ためししし、試しぃて、みていいい?」

 

 こくりと頷くと頭上の筒がズレて落ちてきた。手で受け止めて胸元に引っ掛ける。

 ベリテットさんは首を傾げているが、いるんですよ身近に。ネズミを捕まえるの得意なお方が。

 

「ひ、ひ人、呼ぶ、よよ呼ぶ、からっ、てつだっ……手伝ってもらってって、いい?」

「ほう」

 

 手慣れているのかベリテットさんは近くの壁の隙間に指を入れると、そこからするすると大きなカーテンのようなものを取り出した。

 もちろん町のあちこちにこんなものをセットしてあるという訳ではなく、きっとこのモーションをすれば取り出せるようにしてあるだろうという認識のもと行っているのだろう。

 ちょっと説明してもよく分からないと思うが、とにかく目の付かない所へ手を伸ばせば必要な小道具がセットされている、ということだ。いやどういうことなのか分かんないけど。

 

「脱出奇術でいいんですね?」

「は、はぃ」

 

 カーテンの裏表を私へ見せ、一周くるりとベリテットさん本人も回転。

 そうして種も仕掛けもないと観客席にいる私へアピールしてから壁にカーテンを近づけ……。

 

「わんっ、にゃー、よんっ」

「そーれ」

 

 ばさっと一気に取り払うと、そこにはなんと!

 

「ん、あれ、ここどこっすか?」

 

 モップを手に中腰になっていたシャーロットが!

 

「ソラっちにトリっちに、誰っち?」

 

 素直にすごい。

 お屋敷で働いていたシャーロットをなんと、何の下準備もなくカーテンを振っただけで召喚したのだ。

 いやほんとう、普段のトリブレといいどうなっているんだろう。

 だってトリブレは私の胸元の筒にいるはずなのに、本人がやった訳ではないのに、どうやって?

 

「んふふふ……すご、すすごい、でしょ」

「流石は道化師ですね!」

 

 大げさにベリテットさんは褒めるものの、それでも少ない位だ。

 

「えっと、なんでシャロが呼ばれたっすか?」

「ねず、ネズミ捕りっ、をぉ……すすする、する、から」

「ああー。ならシャロの出番っすね!」

 

 こんにちはー、よろしくーとシャーロットとベリテットさんが自己紹介。

 で。犯人を捕まえるって意味でのネズミ捕りなんだけど、できるのかな。

 

「相手が誰であろうと、ネズミハンターの異名を持つシャロが失敗する訳ないっす!」

「……うん。気合十分なのはいいことです」

 

 ベリテットさんが呆れたように言うけど、シャーロットのネズミハンティングは規格外でして。

 普通にドブネズミを捕まえるにとどまらず、ネズミの獣人もその範疇で一瞬にして捕まえられるんすよ。

 ただ今回は行為の呼称がネズミ捕りというだけなため、どうなるかは少々未知数だが。

 

「で、どのネズミを捕まえればいいっすか?」

「それが一切情報ないんですよね」

「あらら。んー、でもネズミには間違いないんすよね?」

「……ああ、そういう事。──そうだね。相手はネズミ。コソ泥のネズミ」

 

 何かを察したかのように、認識を強めるように言葉が繰り返される。

 

「んならば!」

 

 四股を踏んで地面を殴り。

 

「シャロに任せるっすーっ!」

 

 先ほど打ち上げられた煙玉を超えるほど天高くシャーロットが垂直に跳び上がり、空中を蹴ったのか衝撃波を出しつつ真横へ吹っ飛んでいった。

 今回ばかりは流石に人間技じゃないだろ流石にもう。物理的におかしいだろ。いまさらか。

 

「彼女、すごいですね」

「で、でしししし、ょ」

「メイド服にはやはり不思議な力がありそうです」

 

 いや、シャーロット本人の性能です。メイド服はただのメイド服です。

 

「つぅーかまえたっすよぉーっ!」

 

 ずがどぉん。

 隕石でも落っこちてきたんじゃないかって勢いでシャーロットが帰ってきた。

 人間ひとりを小脇に抱えて。

 

「こいつが、()()()っす!」

 

 ボロ切れを身に纏った小さな子供だ。握りしめて離さないその手にはきっと、私のお金が握られているのだろう。

 捕まったのならおとなしく返してもらおうか。

 

「……」

「……」

 

 私と目が合うと無言で投げつけてきた。なんと無礼な。

 

「どーどー、怖くないっすよぉー」

 

 ちなみに投げつけられた硬貨は私の下へ到達する前に腕を伸ばしたシャーロットが回収した。

 自分で吹っ飛ばした瓦礫に追いついて回収するような人なので、これくらいは朝飯前ってやつ。

 

「どうやら本人みたいですね。ちなみにどうやって?」

「そりゃもちろん、ネズミだからっす!」

「……そうなんだ」

 

 流石のシャーロットもざっくりとした説明だけでどういう状況かは察しているようで、おとなしくなった子供をベリテットさんへ預ける。

 お金は帰ってきてスリは捕まった。めでたしではないか。

 身なりの整っていない子供なので少々その身の上を察するものの、だからといって施して許すほど私も先が見えない訳ではない。シャーロットも感情に流されず、同じ意見なようで特にコメントはない。

 ただ、少し何かを考えた末に何か紙切れを一枚渡していた。なんだろう。

 

「こちらで面倒を見ますので、ご迷惑をおかけしました」

 

 ああ。手間をかけさせた。

 ベリテットさん対応ありがとう。

 

「ベリ、ベリー、あああありが、ありが、とう」

「いえいえ」

 

 喋れないなりに頭を下げる。

 さて。気を取り直してアガの(いち)を楽しもうか。

 

 




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