古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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41 メイドが犯人だ!

 

 

 それにしてもアガの(いち)というこの町は不思議な所だ。

 建物は前述の通り三角屋根のみにも関わらず、出歩く人々や出店の数々は多種多様なスタイルに分かれて統一感が一切見当たらない。多種多様、これが雑然。混沌。

 ふふ、この混沌か。神出鬼没な摩訶不思議の道化師トリブレが住むに正しく似付かわしい。

 

「んふふふ」

 

 胸元にぶら下げた筒からトリブレの笑みがゆったり響く。

 流れでベリテットさんから貰ってしまったままだが、これは便利だな。なんせ一緒にお出かけしてる実感ができる。今まではどうしても一緒に行動するというより、怪奇現象と同じく「そこにいるだろうな」で目線を向ける事しかできなかったのだから。

 次に彼女と会ったならしっかりとお礼をしておこう。無言のまま突然そうしては困惑させてしまうだろうが、こちらが喋れない事を理解しているので意を汲み取ろうとしてくれると信じている。

 

 それはともかくトリブレ。

 あまりにも無作為に歩いてそろそろ一周という所だが、何かおすすめスポットとかないだろうか。

 見て回るだけでも楽しい。しかし折角なので友として理解を深めたい。

 

「……」

 

 そういう意図を込めて首を傾げてみたが、伝わるだろうか。流石にか?

 

「そそそそしっ、そしたらそ、す、そソラちゃん。て、テントぉ……見に、み、見にく、くる?」

 

 おお、流石トリブレ。我が心の友。テントなる場所を案内してくれるとは。

 まぁこれは分かりやすかったかな。先ほどシャーロットと別れた所まで戻ってきて立ち止まっていたし。

 

「こっ、ここ、こっ……ち」

 

 どっちだろうかと首を傾げた所、ふと壁に貼られたポスターが目に入った。驚いて壁伝いに視線を這わせると等間隔に並んでいる。

 意識していなくともこの場を一周する内に一度は視界に入っただろうに、全く目にした記憶がない。とすれば、今のタイミングでトリブレが張ったのか。

 なんという早業。道化師のなせる業。

 

「……」

 

 もしかしてと宙へ手を伸ばしてみれば風に吹かれたポスターが一枚剥がれ、さぁどうぞと言わんばかりに飛んでくる。

 ははっ、今回は私が意を汲んでやったぞ!

 

「……どどど、どうか、どうかな。どうかな?」

 

 妙にわくわくしているな。それも分かるぞトリブレ。

 さて、この赤と白で彩られた見るからにサーカステントな絵は何ぞだろうか。

 この町向けの広告なのだろう大きなタイトル文字は読めないが、添えられているものは私でも読める。

 

『レーヌカーニバル臨時公演 16時より ニコル孤児院にて』

 

 その名は確かトリブレの所属している一座だ。

 ニコル孤児院とは聞き馴染みが無いので、このアガの(いち)にある孤児院の名だろう。

 

「き、今日、ここここれ、これから、あ、あるの」

「……」

「見に、み、見にこ、み、見にっ! こここ、ここ、こ……な、ない?」

 

 わくわくというより、これは緊張しているのか。いつにもまして言葉が詰まっている。

 初めて会ったあの日あの時してくれた私だけへ向けたものとは違うからか?

 私以外にも大勢の客へ向けて披露するのだ。内容は変えるだろうし緊張も──

 

「……」

 

 ──いや待て、道化師たる者がどうしてそこまで緊張するのだろう?

 喋る事や人前へ身体を出すのが恥ずかしいと言えど、トリブレはかなりの実力者であると普段の立ち振る舞いからはっきりと分かる。

 一発勝負の仕事が緊張しない訳がないとはいえ、それでも道化師家業の者がこれほどというのはいささか不自然に思える。

 私が見に行くからか、それとも大役を任されたか、あるいは?

 

「じじ、実は、わ、わた、あああ()がっ、()がぶ、舞台にで、出るのは、出るのは、初めて、た、単独っで……」

 

 晴れ舞台じゃないか!

 そういえば友達になった時、次の祭りの時には頑張ると申していた。

 ふむふむ。とすれば、偉大なる先代の恥とならぬよう練習に練習を重ねて実力を手にしていたという所か。

 配達のアルバイトをしていたのも、そうした活動状態ゆえの金銭的事情と。

 そしてアガの(いち)とは町を挙げてのお祭り日であり、ほっほっほ、こりゃあいい時期に訪れた。

 

 そんな本番直前に付き合わせてしまったのだいぶ申し訳ないけど。16時といったらもうすぐではないか。

 少々早歩き気味にポスターを追っていく。きっと辿った先にニコル孤児院があるはずだ。

 

「に、ニコルっ、こここじ、じぃ……孤児院、の。せつ、せ、設立には、せ、先代も、かかか関わっていていてい……」

 

 サーカスを運営しながら慈善事業にも手を出していたと。

 いい人じゃないか。それで今回は誘致を?

 

「そそそぅ! そう! ……だだだから、はじ、は、しししっかぁり、しっかり、やら、やらなぃ……と」

 

 素晴らしい心意気。それなら絶対に失敗させられない。

 ああいや、言い過ぎたら余計緊張するか。聞こえないだろうと高を括らず態度として示そう。

 

 人々の雑踏をかき分け、ポスターを追って。

 永遠に続くと思われていたアガの(いち)の出店が途切れた辺りにそれらしき建物がようやく見えてきた。

 孤児院というものは知識では知っているものの、こうしてお目にかかるのは初めてだ。教会風の外見を考えていたものの、質素な石造りの平屋というか、なんというか普通の集合住宅? 庭付きの。

 うーん、いや。飾り気よりも住む側の機能性を重視すればこうなるのか。恒久的に利用するのなら手間の掛からない方がいいに決まってる。

 

「せ、せんせんせ、せん……いに、ここ声をかけ、かけてくるぅ……ね」

 

 胸元からトリブレの声がして、恐らく気配が消えた。

 

「……」

 

 無断で入る訳にもいかないので門前で立ち尽くす。

 イメージではあるが、孤児院とはもっとこう、荒れ果てているものだと思っていた。

 お金が無くて重圧を受ける町の爪はじき。家はボロボロで孤児たちはそんな生活に荒み行くばかり。悪循環を止めるには外部の働きかけが必要なものの、そう甘い話もなく。──みたいな。

 

「あ」

「……」

 

 ……いや、どうやら多少はそういうテンプレートに当てはまっていたらしい。

 通りかかったそこのお前、お前は先ほど私の小銭を盗みシャーロットに捕まった子供ではないか。

 ベリテットさんが連れて行ったのにもう帰ってきたのか。さぞこってり絞られたんだろうな。

 

「なんだよ」

「……」

「な、なんか言えよ!」

 

 そう申されても喋れないもので。

 

「文句言いに来たんだろ! お前! 知らねぇからな!」

「……」

「そっからこっち入るんじゃねぇぞ!」

 

 立ち尽くしてじっと眺めているだけで、どんどんビビるのか言葉が強くなっていく。

 普段は少々気に食わない私のツリ目だが、こう威圧的に働くのは中々楽しいな。

 

「覚えてろ!」

 

 その捨て台詞、本当に言ってくれるんだ……!

 

「……」

 

 ひとりで感動していると、少年は孤児院へ向けて走っていった。

 中ではトリブレが話をつけてくれているので、ホームと思っているそこは実のところアウェイなのだが。

 ──あ、帰ってきた。他にも子供達を連れてきて。

 

「メイドだー」「メイドさんだ」「猫耳?」

「みんな、こいつが犯人だぞ!」

 

 なんの?

 

「メイドが犯人だー」「メイドさんが犯人だ」「尻尾ないない」

「かかれ!」

 

 おお、飛び掛かってきたぞ威勢のいいことに。

 ひとりは正面からのタックルというか抱き着き、ひとりは私の腕を引っ張り、ひとりは頑張って通気口へ手を伸ばそうとしている。攻撃なのかどうかは判断に困る所だが、力で勝る私を弱者が足止めする方法としては最適解なんだなそれ。

 なんせ私は人間へ危害を加えぬようセーフティを使っている。万が一にも誰かに怪我をさせぬよう、未登録の人間が密着した場合には動けなくなってしまうのだ。人間を自称しつつも身体は機械だし、そこの理解は必要だからね。

 ちなみに登録済みなのは私のパワーに理解ある屋敷の面々のみ。セーフティを使い出して一番最初に登録したのはシャーロットです。復活直後の暴走状態を痛がるだけで耐えた彼女ならどうあっても平気かなって。

 

「……」

「どうだ参ったか!」

 

 子供って軽いね。3人乗っかっても全然積載量を超えない。

 サイズからしてアンが数人乗りかかってきたかのような感じ。当然参るなんてないよ。

 

「ところで犯人てなんの?」「犯人ってなんだろう」「おヒゲもないない」

 

 いやみんな何が何だか分かっとらんのかい。

 少年くん、プライドがあるのは分かるがあまり周りを振り回すんじゃないよ。

 おねーさんをあまり困らせないでおくれ。

 

「こ、こいつが弱みを握ってこの孤児院をどうにかしようとしてる、黒幕だ!」

「やっぱりメイドが犯人だ!」「メイドさんが犯人かー」「おツメはぴかぴか!」

 

 あー……。なるほど?

 つまりウチにはレーヌカーニバルを呼ぶお金なんかないのにって話か?

 貸しを与えて強請るつもりなんだろおまえーって。

 なるほど小説ではよくありがちな話だ。現実でどうなのかは分からないが。

 ただ、少なくとも一介のメイドがその黒幕という話は難しかろう。

 

「もももど、戻ってき、来た、よ」

「喋った!」

 

 喋ってねぇです。トリブレが先生と話をつけて戻ってきたんだよ。

 

「えと……」

「お前をこれ以上先へは進ませないぞ!」

「メイドが犯人!」「メイドさんだ!」「にゃーにゃー」

 

 つかずっとひとりだけ私を猫扱いしてるやつおるな。

 

「──映画を貸し出したのは悪影響だったかしら」

 

 え。

 

「ソフィアだ」「ソフィアさんだー」「こんにちは!」

「はいこんにちは。ソフィアさんですよー」

「……」

 

 え、いや、オッペンハイマー商会は会長のソフィアさんが、なぜここに? フロレンス号はレアを置き去りにして出港したはずでは?

 この世界というか町の入り口は巧妙に隠された秘密の通路であり、偶然辿り着くなぞあり得ない。

 ケィヒンから通じるというのに、子供たちの口ぶり的に以前から交流があるっていうのはどういうこと?

 映画の貸し出しっていうのもちょっとどういうことなんだ。疑問をぶつける順番すらわからない。

 

「ソラ。驚かせて度肝を抜いてやってもいいんじゃないかしら」

「……」

「びっくりするわよ」

 

 いやあなたの存在がびっくりなんですが。

 置いてかれたレア姉が「これ有給取らせるつもりないやつだ……!」って嘆いてましたよ。

 退職すらさせてくれる気配がないとも言ってたしだいぶかわいそう。

 

「あああああの、うご、う、動けないい、から」

「こいつビビッてやがるぜ!」

「うるさいガキ共ねー」

 

 トリブレが現状を報告しようとして、子供が遮り、ソフィアはため息。

 どう収拾つけたものか、この状況。

 

「はぁ。私に任せときなさい」

 

 お、解決法がなにか?

 

「あんた達」

「なーにー?」「なんだー?」「どらごーん!」

「出資打ち切るわよ」

「えぇー!?」

「!?」「!?」「がおー!?」

「……」

 

 いや流石にそれは大人げなさすぎるだろ!

 もっとこう、巧みな諭し方というか話術とかってのは!?

 

「そそそそソフォアあ、ち、ゃん……。そそそそそその」

「冗談よ」

「冗談になってねぇよ!」

「メイドが犯人!」「メイドさんが犯人かー!」「つばさばさばさ」

「……」

 

 驚いた子供たちは私から離れたから結果的にいいけどさ、もっとこう、やり方っていうもんがあるだろ。

 そしてお前らはまた私を犯人扱いか。どういうことなんだよそのノリは。若い子のテンションとミレニアムジョークが分からない。

 じゃあもう何にも分かんないや私。助けてー。

 

「ほら行くわよ」

「……」

 

 首根っこ捕まんでくださいよ。どこいくんすか。

 

「ふたりとも尻尾ないないー」

 

 あとあの子はずっと何言ってんの?

 

 

 

 

 

 

「──おや、会長様もいらっしゃいましたか。お元気そうでなによりです」

「こんにちはアイーダ。こっちはソラよ。喋れないからよろしく」

「トリブレより聞き及んでおります。どうぞこちらへ」

 

 会長に半ば引き摺られ孤児院の中へと踏み入ると、そこにはメイド服を着て目を伏せた若い女性がいた。

 トリブレが言うにアイーダという人物がここの代表なのだそうだ。そして会話を聞く限りこのメイドがそのアイーダで間違いないのだろう。

 なぜ代表の方がメイド服を? 先ほどの子供達の会話(あそび)に合わせてあげていたのだろうか。

 

「お茶は入っております。どうぞおかけください」

「頂くわ。……あんたも座りなさい」

「……」

 

 あ、はい。

 案内された一室のテーブルには4つのコップと4つの椅子が用意されており、トリブレも含めて人数分といったところだろう。

 座るや否や、ソフィア会長は自身の立場をもろともせずあっさりと口をつけた。ケィヒンでもそうだったけど、毒殺の警戒とかなさらないので? フリでもいいからしといた方がいいんじゃない?

 

「“なんかどっかいい感じの所から送られてきたいい感じの茶葉を指定された熱と時間でいい感じになんかアレした、たぶんいい感じの味わいになってるお茶”です。お口に合えばよろしいですが」

「なによそれ。確かにいい感じだけど」

「ふふ。お知り合いがそう言いまわしているのを真似させて頂きました」

「またあんたの大好きな妹分から?」

「いいえ。ソフィア様も知っているお方です」

「ふーん」

「……」

 

 アイーダの瞼は閉じられたままだが、そっとこちらを見た気がする。

 確かにそのフレーズはかつて私がジョージへ茶を入れた時にどうせ喋れないしと浮かべたもの。

 ずいぶん前の話だ。それをなぜアイーダが今? どうやって?

 なんだこいつら、次から次へと疑問を増やしやがって。

 

「軽食は如何なさいますか?」

「あるならさっさと出しなさい。こっちは燃費悪いのよ」

「ではこちらのハンカチをご覧ください。種も仕掛けもないこちらをテーブルへ乗せると──」

 

 手品師のマジックのような振る舞いをアイーダがした途端、興味ないと言わんばかりに会長はそれを撥ね退け、下から現れた目玉焼きとベーコンの乗ったトーストを手にした。

 たぶんそれトリブレも一枚噛んだ奇術だったんだろうに、せっかちなこと。

 

「不必要にエネルギーを使ってまで尾も角も翼もと色々隠すの大変なのよこっちは。お陰ですぐお腹すいちゃうし」

「食道楽なのでむしろ歓迎、とお聞きいたしましたが」

「大食らいを恥じる気持ちくらい残ってるって話よ。常に腹八分目の苦しみを知りなさいあんたは」

 

 言いつつも用意されたものをバクバク頂いちゃってる。

 まったく恥じる様子ないんですが。

 

「ああ、申し遅れました。いつも当施設へ寄付頂きありがとうございます」

「そんな取ってつけたような挨拶今更いいわよ」

「それでも感謝と形式ですので」

 

 言葉にするのは大切だ。喋れるのならば猶更。

 ソフィア会長はつっけんどんな物言いをせず素直に受け取った方がいいぞ。形式ですので。

 で、そろそろなんでここに会長がいるのかを知りたいのだけど。

 

「私はフロレンスの慈善事業を引き継いでるだけ。感謝なら私じゃなくてあいつに言いなさい」

「始めたのは確かに今は亡きその方でしょう。しかし続けているのは貴女です」

「……私は、続けてるだけよ」

 

 オッペンハイマー商会の前身は慈善事業。その時の代表はソフィアではなくフロレンスなる人物だったと。

 船の名前にもするくらいだし仲良かったのかな。いずれにせよ、その理念を引き継いで変わらず続けているのは並の事ではないと思う。

 なぜそんな否定する物言いをするのかは知らないが、誇っていいんじゃない?

 

「相変わらずの照れ屋さんですね」

「どこが!」

 

 いやそういうところがでしょ。

 

「フロレンスもルルみたいな、あんな変人共と仲良しって思われたら私までなんて言われるかたまったもんじゃないからっ」

「貴女も相当に変人の類ですが」

「喧嘩売ってる?」

 

 短い付き合いであるが変人でいいと思う。

 

「あんたはどう思ってるのよ」

 

 流れでこっち振ってくんな!

 しかもその問いかけ方だと答えようがないし!

 

「てか、なんでソラがこっちの世界にいるのよ」

 

 それは私も同様の疑問なのですが。

 

「あああああ()が、しししししょうた、招待した、し、したかぁら」

「トリブレが?」

 

 こくりと頷く。友達だよ。

 続いて首を傾げてじっと見つめてみる。これで疑問は通じるかな。

 

「ああ、私?」

 

 こくりと頷く。そうだよ。

 

「フロレンス号の移動が遅くて暇んなったからきたのよ」

「……」

「まだなにか?」

 

 いや全然欲しかった答えじゃないっす。

 なんでこの町を知ってるのかって、いつからこっち来てるのかって。

 もしかしてケィヒン以外にも似たような入り口があるの?

 

「ソフィア様がなぜ隔てたこちらの世界を、とお伝えしたいのではないのでしょか」

「あぁ、ソラからしてみればか」

 

 そうそれ!

 代弁してくれたアイーダへ全力で頷く。

 ありがとう!

 

「この町の成立に関わったからしょうがなく面倒みてるのよ」

 

 会長だけでなく、町長も兼任!?

 

「ルル……オル・ガ・ルヴァとの喧嘩のひずみが異空間を生んでね。色んな時代や人があちこちの入り口から迷い込んでできたのがこの町」

「トリブレや年老いたベリテットを見ることができたのは僥倖でした」

「ちなみにこのアイーダはソラの住んでる時代からだいたい1200年前の人間よ」

 

 へ、えぇ……。特殊だ変だと思ってたけど、想定より不思議な町なんだここ……。一種のタイムトラベル的な……?

 どーりで露店の品ぞろえがしっちゃかめっちゃかだと思った。

 もしかしてソフィアがずっと生きているように見えるのも、この町を経由して様々な時代へ顔を出しているからだったり?

 

「ちなみにこのソフィア様は素でだいたい1600年程のご年齢です」

「なんで急に私の年齢ばらした?」

 

 自信の時代を言われた仕返しか、アイーダは口元だけ笑いながら個人情報を開示した。

 うん。明らか人間じゃないことを仄めかす発言が多すぎたし、あまり若さは期待してなかったよ。

 なんの獣人なんだろうな。飛んだって言ってたし、鳥? でも尻尾や角とも言ってたし?

 

「龍は寿命が長く羨ましいです」

「半分はヒトだし、それに龍とはいえ永遠では流石にないわよ」

 

 なるほど龍ね。……龍!? ドゥラゴォン!?

 フィクションじゃなかったんだ、実在したんだ!

 幽霊だの獣人だのいるしもしかしたらと思いつつ流石にいないよなって諦めてたけど、ガチファンタジーじゃん!

 ……あの、角とか尻尾とか翼とか見せて頂いても? たまに言われるトカゲみたいなのかどうかを確かめたくって……。

 

「寂しいですか?」

「なんでそう繋がるのよ」

「オル・ガ・ルヴァの蘇生を試みたという噂を思い出しまして」

「ぶっ!」

 

 うわきたなっ! なんか口から飛んできた(ドラゴンブレス)! きったな!

 あーもー。……いや、オル・ガ・ルヴァの蘇生って何よ。

 それって(ソラ・オプト)やレア・スに連なる末妹にして、会長が打ち倒した機械戦争時代の原因にして世界を滅ぼした最強の存在のことじゃん。

 

「エンリカの造った機械なら半永久を共に出来るのは確かですが」

「つ、罪を償わせるためよ! 今の時代、死罪なんて合わないしっ!」

「それは肯定と受け取ってもよろしいでしょうか」

「違う!」

 

 がたん、と机が叩かれて私の前に置かれたコップが倒れる。当然中のお茶もこぼれる。

 ものに当たるのはよしていただきたい。

 

「オル・ガ・ルヴァのパーツの一部を少ない知識でレア・スのボディへと移植してまで──」

「──わかった! わかったから、何が目的なのよ!」

 

 レアの謎動力。それがもしかして我が妹のモノだったなら、今でも稼働できている状態に納得できてしまう。

 なんせ世界を滅ぼすエンリカの技術力の結晶なのだ。私の身に起きている摩訶不思議を軽々飛び越えたっておかしくない。

 ……あれ? それってことはレアが機械の身体だって会長は知ってるの? おーけーなの?

 

「別に目的などありませんが」

「はぁー!?」

「風の噂に聞いた蘇生、それの顛末を知り置きたかっただけなのですが」

 

 マイペースにアイーダは布巾(ふきん)でテキパキとこぼれたものを拭きとっていく。

 本来ならメイドである私がそういうのやるべきなんだろうが、今は休日の身。

 ……あれ? なんで私、休日なのにメイド服着てるんだ? 出かけた時は私服だったよな?

 疑問が疑問を呼ぶ。

 

「イル、イ、イルー……ジョン」

 

 メイド服の件はトリブレの仕業か。

 アイーダに会うからと合わせてみたかったのかな。

 ありがとうトリブレ、いつもちゃんとすぐ答えてくれるのはお前だけだよ。

 

「顛末なんてつまらない結果よ。ルルの動力コアをメモリーと勘違いした結果、ただ休眠状態だったレア・スを起こすだけだった」

「それは残念です」

 

 死者の蘇生、その失敗と別人格の出現。一種の転生。

 “空”が蘇らず私が現れた話に通ずるところがあるな。

 

「聞いといてそれだけ?」

「目的などないと申しました通りですよ。雑談としてのみで他意は一切ございません」

 

 その物言いはどうかとソフィア側に着くぞアイーダ。

 いくらなんでもマイペースがすぎやしないか。悪意がないだけに質が悪い。

 

「あいっかわらずねこの趣味メイドは……」

「……」

 

 べしっとなぜか私の額が弾かれる。なにか。

 

「心配ないとは思うけど、レアが機械だって口外するんじゃないわよ。ほら、エンリカって名乗ってたヤツ」

「……」

「返事は!」

 

 頷くしかできないんですが。

 

「あとオル・ガ・ルヴァを蘇らせようとしたこともね。こっちはガチでやばいから」

 

 友を救いたいという情で歴史的に許す事の出来ない人物を蘇生しようとしたのは、確かに知られたら立場的にマズいよな。万が一に公表されたら世界からの信用はひっくり返るだろうし。

 友を持つ身であるので生を想う気持ちは分からんでもないが……。しかし、所謂大戦犯ってやつぞ?

 いやまた暴走した日には倒せる自信込みでしょうけど、けどそれってまた世界が滅びる一歩手前じゃんって。

 

 しばらくの沈黙の後、アイーダが「淹れ直してきます」と空になったコップを下げていく。

 私にはいらないとせめて伝えておきたい。

 

「英雄になんかなる気なかったわよ」

「……」

「ったく。フロレンスもルルも、面倒全部押し付けていなくなるんだから……」

 

 フロレンスは慈善事業、ルルと愛称で呼ばれているオル・ガ・ルヴァは結果として滅ぼす選択をしてしまっただけで願っていたのは世界平和。

 双方から託された想いを受け取って今のオッペンハイマー商会とその会長という存在があるのだろう。

 もしかしたら、行動を通して亡き友の存在を側に感じる事ができているのかも知れない。

 アイーダの発言は抜けている所が多く突飛に思えるが、寂しさを指摘したその本質は間違っていないのかもな。

 

「お待たせいたしました」

「ん」

「たぶん出涸(でが)らしです」

「は?」

 

 ティーポットを手に帰ってきたアイーダは飄々と言葉も交わすと席へ着き、肘をつきながらノールックでまず自身のコップを満たしてから私含め他の面々のコップへ茶を注いでいく。当然そこにメイドらしさはない。恰好だけの趣味なら見てらんないし変わって欲しい。

 座って注ぐなし。自分のとこ最優先するなし。テーブルに肘つくなし。

 わざとか? わざとやっとんのかワレ。

 つか出涸らしってなんでだよ。さっき入ってたのは色からして一煎目だったじゃん。

 

「冗談です」

「あんたの感性意味わかんないわ……」

「……」

 

 激しく同意の意を込め頷きかけ、やめる。

 だってソフィア会長もどっこいどっこいなジョーク飛ばすんだもん。

 子供に向かって「出資打ち切るぞ!」はないでしょ。

 

 

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