古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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44 ニーナ・ウォーカー

 

 

「……」

 

 昨日はとても有意義な一日であった。

 トリブレの道化家業を見られたのはもちろん、かの“ベリテット冒険記”の主人公ベリテットご本人にも会えた。

 それに夜間飛行! ソフィア会長がドラゴン形態の披露だけでなく抱えて飛んでくれた!

 

 いやー、色々あって楽しかったなぁ。

 ……その後は、大変だったけど……。

 ソフィア会長とエミリー、親子の再会は阿鼻叫喚だし……。

 

「全く! 母にも困ったものですわね!」

「……」

「ほら、ソラさんも頷いてる!」

 

 頷いてないよ。手元のペン先を気合い一つで動かそうとしてるだけだよ。

 やはりどれだけ力もうが睨もうが、メッセージを出力と認識すれば動けない。

 

「ところで本日は……お手紙を?」

 

 うむ。今日は午前休みだし、この時間に方々へと招待してくれた感謝と礼を伝えたくてな。

 なんとか抜け道を探して一筆できないかと試しているんだよ。

 無関係な一文字だけならやはり問題なく書けるんだがなぁ。

 先ほどから私の後ろでやいのやいのしているエミリーへ一文字だけ書かれた紙を渡す。

 

「タイプライターのように正確な文字! 流石ですわソラさん!」

「……」

「でも、これが指す意図は一体」

 

 それなんだよなぁ。

 私が意図的に意志を伝えようとするだけでダメなんだ。

 ダブルシンク。あるいは並列思考。“考えているけど知らないフリ”っていうのができればもしかしたら抜けられるかもしれんが、機械的特性のある私はそういう自己複製事は慎重にならざる得ない。素直に動作過ぎて下手をすれば本当に増えかねないからな。

 大掛かりな嘘が苦手な理由である。

 

「頭文字……寿司、酢飯? いやソラさんはそれくらいなら食堂へ案内し魚を手にするはず」

「……」

「ソラさんはご自身の意志を伝える手段がほぼ絶たれている状態。なら今のようにすっと手渡せるわけが……」

「……」

「つまり! この文字は全くの無意味!」

 

 うむと頷く。流石!

 ある程度の意図は伝えられるが、全員がエミリーのようにはいかない。

 

「うーん、やはり難儀ですわね」

 

 再びの頷き。ぐぎーと伸びて、椅子の背持たれが悲鳴を上げた。

 あーあ、棺から取り出された直後にレアが来て例の何とかできる方法を試せてたらよかったのになー。

 まったく何度目の堂々巡りだろうかこの問題は。

 

 ……んお、なんか手が引っ張られる感覚。

 

「……」

 

 乗っ取られるというより、細い糸で一生懸命動かそうとしていると言った風。

 糸が千切れないよう慎重に力を入れるような明確な意思。

 怪奇現象は窓の反射に映ってくるくる回っているし違うということは、彼女とは違う第三者か。

 となれば誰だ、我が腕を弄ばんとするものは。

 

S.Message : ワタシ ダ

 

 お前だったのか。

 “(そら)”がシステムメッセージをハックして意思を伝えているスタイルは変わらないものの、文字表記が現代に変わったな。

 怪奇現象のような乗っ取り能力が僅かとはいえ芽生えた事と合わせ、また力をつけてきている。

 良いぞ良いぞ。私とお前は文字通り一心同体だ。好きなようにこのボディを使ってくれ。

 

「……」

 

 あ、一瞬より強く引っ張られたかと思ったら何も感じなくなってしまった。

 前述の例えに合わせるなら糸が切れたという所か。

 時間制限なくこの身体を軽々乗っ取れる怪奇現象先輩が特別すごいのか、それとも“(そら)”が力不足なのか、はたまた両方なのかは分からない。

 

 窓に浮かぶ怪奇現象(あん)へ首を傾げてみると、顎に手を当てつつどこかへ消えてしまった。

 

 同族のよしみというか雰囲気というか、そういうあれで“(そら)”が苦戦していることを察してくれただろうか。

 気まぐれなあいつのことだ。分かって放置するとかありえる。あるいは、私の身体を使って実践しそう。

 

「ソラさん?」

 

 じっと窓を見ていたからエミリーに不思議がられた。

 なんでもないと首を振る。

 

「やっぱりこのお屋敷、何かいますわよね」

「……」

「先ほどもソラさんの意志とは無関係に右腕が動いておりましたし」

 

 そこまでわかんのぉ!?

 動かしたっていってもほんのちょびっとズレただけよ!?

 

「これ以上ソラさんを勝手にはさせません! 悪霊退治ッ!」

 

 あぁいっちゃった。

 たぶんエミリーの中では恐ろしい敵を倒す英雄的ストーリーが繰り広げられているんだろうが、根本的に間違ってるんだよなー。

 まず怪奇現象は悪霊じゃない。ただこちらを娯楽のように観察し、時折必要と思えば干渉してくる。ただそれだけ。

 いや今までも結構悪霊ムーブしてたけどさ。私を崖から落としたり。

 

「……」

 

 ま、なんにせよエミリー程度じゃどうにもできんでしょ。

 いくら母がちょっと空飛んだだけで嵐を呼ぶとはいえ。

 

 いやワンチャンあるな。

 できそうだな。

 

「……」

 

 で、だ。

 エミリーが退室し、なら無人となったハズの私の部屋でございますが。

 眩しい朝日もそろそろ真上に行きそうな頃、言っておきたいのでございますが。

 

「おー?」

 

 なんでお屋敷にニーナが残ってて!

 なんで私のお部屋にいるのさ!

 

「なにか、です?」

 

 そう首を傾げたって私の方が疑問だよ!

 

 え……っとさ?

 昨日は夜遅いからってソフィア会長が首都から飛んでここケィヒンまで送り届けてくれたじゃない?

 んで、アガの(いち)はニコル孤児院内で会長の背中に引っ付いたままのニーナもオマケで付いてきた。

 そこまでは私も知っている顛末。

 

 夜遅いし喋れんし痴話喧嘩に巻き込まれたくないしで後始末は各々方へ任せ、すぐ部屋へ引っ込んだ私の知らないところで何が起こったんだ。

 

 今日は遅いし泊まって行けと言う話であれば、暇そうだしもう帰路についててもおかしくないじゃん。

 アガの(いち)への道が分からず留まるなんて話はない。だってここの人達みんないいひとなんだし、ねだらなくともすぐ案内してくれる。

 みんな心配してるし一緒行くよ! くらい絶対言う。シャーロットを筆頭に。

 

 それがどうして同じベッドで寝かされていて、それがどうしてずっと部屋にいるんだ!

 

「……」

「おー?」

 

 首を傾げたら傾げ返された。

 通訳ー! 通訳帰ってきてくれー!

 帰って来たら悪霊退治手伝うからー!

 

「シャロ姉待ってるです。直してくれる、です」

 

 なにを?

 

「ね」

 

 どした。

 

「お腹空いた、です。あと、トイレ?」

 

 食べにいきゃいいじゃん。後者もまた行けばいい。

 この時間なら下の厨房でハーディが昼食を仕込んでる頃だし、呆れられはするだろうが何か振舞ってくれるさ。

 

 なんにせよまずはお手洗いへの案内か?

 えーっと、それを伝える為には……うん。私が先導するしかないね。

 さっきエミリーが言った通り、伝えるには歩くのが一番だ。

 首振りと同じく意思を伝えるにしては貧弱過ぎる、しかしそれでも私にとっては貴重な伝達手段。

 

 無意味な執筆作業は中断だ。白紙のメッセージカードとペンを懐へ仕舞い席を立ち、ニーナをちらっと見つつ扉へ手をかける。

 ついてこいとははっきり言えない。でもタイミングと立ち止まった様子から察して──

 

「よろしく、です」

 

 ついてこなぁい!

 ニーナ、ベッドに腰かけたまま、うごかなぁい!

 

「……」

 

 いったん部屋を出て、薄く開けた扉から顔だけ出してニーナを見る。

 どうだこのいかにもついてこいと言わんばかりの動作は!

 

「なーなー」

 

 いや行ってこいやないねん! 手ぇひらひらさせっど!

 

「……」

 

 部屋へ戻りベッドの前へと歩み寄る。

 やいニーナ。横暴は許さんぞ。この部屋は私の城だ。

 歩け。ついてこい。さもなくば飯はない!

 もらす……のは、困る!

 

「おぶって、です」

 

 舐めとんのかぁーっ!?

 ……はぁ……。

 しゃーなし。お前は客人だしな……。

 そういや初対面でも登ってきてたっけ。そんでずっと会長の背中に引っ付いてたし、孤児というのも合わせ甘えたいお年頃なのかも知れん。

 背中を向けて姿勢を低くし、セーフティ登録を済ませて。さぁこい。

 

「わはー!」

 

 っとと、そんな飛び込むようにこなくてもよいじゃないか。

 するすると腕を伸ばし、マントにでもなったかのように首へ手を回し落ち着く。

 身体が機械の私や頑丈な会長だから首を絞めたって問題ないけど、キミいつもこんなんしてんの?

 

「ごーごー」

 

 はいはい。

 しょうがなくニーナをぶら下げながら自室を出発し、階下へと向かう。

 食事の先に排泄か? 連れていきはするけど自分でするんだぞ。

 

「ねこねこ、ちからもちー」

 

 猫では……まぁもういいか。猫って事で。

 あんまりよくないけど。この身体は人間である“(そら)”のものでもあるし。

 

「階段らくらく、足腰じょうぶー」

 

 お前も自分の足があるならそれで……。

 

「……」

「なにー?」

 

 お手洗い前まで辿り着き、行ってこいと降ろそうとしたところで手が止まる。

 

 ……先ほどから私の膝裏にぶつかるニーナの足先。

 いくら私へ全体重を預けているとはいえ、脱力の仕方に迷いが無さすぎる。

 首へ手をかけるおぶさり方といい、これはもしや……。

 

「あ、ニナっちはっけーんっす!」

 

 やぁシャーロット。

 丁度良い所へ来たな。

 

「ソラっちに預けてたのにいなくなってたから探しちゃったっすよー」

 

 説明ご苦労。

 お前だな、私の横へわざわざニーナを寝かしたのは。

 

「けど、丁度良かったっすね」

 

 と、お手洗いの扉を見てシャーロットは頷いた。

 

「シャロねえだー」

「やーやーニナっちー」

 

 いぇーい、と私の肩越しに2人で顔を文字通り合わせている。

 やはり知り合いだな貴様ら。その会話で裏が取れた。

 そして!

 

「……」

「あ、やっぱ気になるっす?」

 

 その手に持っている謎の機械っぽいもの!

 それはニーナのためのものだろう!

 

「ねえね、トイレ!」

「先にそっちっすね。これ持ってちょっと待ってるっすよソラっちー」

「だって」

「……」

 

 持っていた謎の機械モドキを渡され、私の背中からニーナを受け取ったシャーロットが共にお手洗いへと入っていった。

 当然そういう趣味趣向による付き添いではなく、ジャンルとしては介護に当たるだろう。

 

 ──ニーナは恐らく自力でうまく足が動かせない。

 だから緊急時に要望へ応えざる得ない私のそばに寝かされていたのだ。

 

 初対面や二度目では歩いていたように見えていたトリックは、先ほどシャーロットに手渡されたこの器具だろう。

 鉄の棒にバネが剥き出し。関節部に機械仕掛けは確認できるものの、だからといって商用ではない明らかな手作りな質。

 こんなもの装着していれば覚えてない訳ないのだが、上手いこと丈の長い緩やかな服装で隠されていたな。

 

「お待たせっすー」

「ねこねこ、ありがとう、です」

 

 シャーロットの背中でニーナがぺこりと頭を下げた。

 なぜに突然礼をと一瞬思ったが、タイミング的に個室内で運んでくれた礼を言うようにとでも教えられたのだろう。

 野暮な詮索はせず頷いて返す。

 

「じゃソラっち、預けるから食堂向かっててもらっていいっすか?」

「……」

「よろしく、です」

 

 そう言って私の背に小さき者が帰ってきた。

 ニーナは首にしがみつくので両手は空いたまま、つまり器具を持ったまま歩ける。

 お姉ちゃんは食事を用意してくるのだな?

 

「ごはん用意してくるっすー」

 

 じゃあ私達は言われた通り、食堂へと向かいましょうか。

 

「……」

「到着です?」

 

 そう沢山歩く必要もなく食堂へと到着。目と鼻の先だ。

 手近な椅子へニーナを座らせ、スカート……ではないな。袴か? くるぶしまで足元を隠し、両下肢の自由を妨げていないよい具合であるそれを観察する。

 病か、それとも後遺症だろうか。

 ちょいと失礼。少し捲らせてもらうぞ。

 

「うへへ。くすぐった、です」

 

 すまないな。子供とは言えべたべたと触ってしまって。

 少し気になったのだ。この足に対しこんな器具でどうアプローチしたのか。

 こめかみのスイッチを押して額のバイザーを降ろしスキャンする。専門家ではないものの、何か異常があれば引っかかる筈だが……。

 

「あー! いちゃついてるっす!」 

 

 いちゃついてねぇよ。

 おかえりシャーロット。

 

「小さなお客さんに軽いご飯を!」

「オムライス!」

「旗付きっすよ!」

 

 スキャンの結果は異常なし。くすぐったいと申していたし骨や神経の異常ではないな。

 比較データがないので断定はできないものの、筋肉量が少ないように見える。

 腕や肘の力に問題が無さそうだし、となれば足本体よりもっと上、胸より下、腰辺りか。

 

「どうっすソラっち。ニナっちの足は」

 

 なるほど、私が興味であれ善意であれ診るのは想定済みか。

 ことんと置かれた食事へニーナががっついていく。よっぽどお腹が空いてたんだな。

 

「シャロねえいつもありがとう、です」

「いえいえー」

 

 それで、なんと答えようか。

 手元にあるカードは「首を横に振る」、「首を縦に振る」、それと「やれやれとジェスチャー」の三枚。

 三枚目は汎用性が無さ過ぎて使い道がないな。手前二枚は逆に汎用性高すぎて何も伝えられない。

 

 ならシャーロットの求める答えを考えよう。

 彼女の出しているカードは?

 

「……」

「あ、やっぱ気になるっす? それ」

 

 うんと頷く。これだ。お手製器具。

 問われているのはこの器具が使えるかどうか、ではないか?

 

「シャロが最近勉強してる機械工学、その応用っすね。今作るのはグレーっすけど……」

 

 やれやれというジェスチャーで呆れを伝える。

 この首を動かす行為に次ぐ第三の伝達手段(カード)、中々使いやすいな。

 

「作るのは良いんすよ。ただ、機械や医療の資格を取んなきゃいけないっす」

 

 その双方資格を取るなんて時間がかかるだろうね。今すぐ何とかしてやりたい想いが行動させたか。

 私の手から器具を受け取ったシャーロットは関節部のカバーを開けて私に中身を見せる。

 構造的には簡単だ。エネルギー源は発条(ぜんまい)、ギアボックスでパワーを上げて制御は……ニーナ自身か?

 

「今はおトイレ行くくらいの時間しか歩けないっすけど、そのうち半日でいいから歩けるようにしてあげたいっす」

 

 昨日の様子を見るに機能の実証は問題なかろう。しっかり歩けていた。問題はバッテリーの持ちか。

 ただいくら質が良くとも資格を持たぬ者が製作し実践投入するのは危険である。

 善意であれば良い、身内なので例外にする、という話にしてはならない。線引きは必要だ。

 

 器具を手で押さえてしっかり首を横に振りその意志を伝える。

 彼女がグレーゾーンを示していたので、相応の言い訳はあるのだろう。

 

 なら、それを問うてはっきりさせたらよい。

 先ほど自室を発つ前、何となく懐へ仕舞ったメッセージカードとペンを取り出す。

 

「お手紙っすか?」

 

 頷いて一筆。

 宛名はオッペンハイマー商会は会長ソフィア。

 差出人にはシャーロットの名を書き、続いて連名として私の名も添えておく。

 

 私が意志を伝えようとしている訳でなく、本文をシャーロットへ書かせるつもりだからだろうか。

 うむ。こういう事務的な定型文なら問題なく書けるな。

 

「ねこねこ、字、綺麗、です」

「え、えー……っと。おっかない人へ直で送るんすか……?」

 

 うーん。だって、ねえ? レアは私の身内だし、ジョージやブロンテは悪知恵担当。

 この器具開発がグレーゾーンたる理由を聞いて可否を公平に判断するには、思い浮かんだのがこの人しかおらんかった。

 

「……なにを書けば……?」

 

 そこはフィーリングで判断してくれ。

 

「孤児院の支援懇願? 開発の投資? 正式な商品開発?」

 

 そうそれ。三つ目。

 聞き方が上手いな、流石お姉ちゃん。

 

「……ソラっちと同じくらい動ければ、ここで働けるっすもんね」

「働く、です」

 

 口の周りに食べカスを沢山付けたニーナがフォークを握ったままやる気を示した。

 なるほど。それで敬語を使おうとたどたどしく半端になっているのか。

 少々幼いものの、働くにあたってアンという前例がない訳じゃない。

 それに──。

 

「ニナっちのためっすからね」

 

 一文ずつ考えながらペン先を動かすシャーロットの字は、お世辞にも綺麗とは言えない。

 文字の大きさや間隔はバラバラで、傾いているものもある。

 

 ──それに、若くして働いていたのはシャーロットも同じだ。

 ニーナがどういった理由で労働へ赴きたいのかは分からないが、その意志を尊重したいのだろう。

 

「そのためにも早く資格とってお仕事探して、メイドの席を空けないとっす」

 

 ああ、なるほど。

 最近の勉強は前向きの退職へ向けてだろうと思っていたが、そういうことか。

 

 我らが領主ジョージの館のメイド事業は所謂カケコミデラだ。

 色々訳アリでここ以外で働く口のなかった者達を迎え入れているが、だからといって無尽蔵に人を雇い入れることはできない。

 獣人のアンや機械の身兼所有物である私を外へ出せないとなれば、申し訳ないが人間のエミリーとシャーロットが抜ける候補となる。

 そうなれば真っ先に手を上げるであろう人がシャーロットというお姉ちゃんだ。

 

「……ひとまずこんな感じでどうっすか?」

「ねえね、読めない」

「こういうのは気持ちが大事なんすよ!」

 

 手書きの書類がいいってタイプだな。

 どれ内容は……うん。資格勉強中の課題として製作って理由ね。

 確かに資格を手にしていない状態で合法的に作れる。詭弁だが。

 

 あとを締めるのは実際に使わせてみたら歩けました、便利そうなのでこういった歩行補助具を作ってあげたいです。という熱意の文。

 

 交渉というより懇願だな。会長側も突然こんなの送られて来たら困惑するだろうが、私の名もあるので無視するって訳にもいかないだろう。なんらかのリアクションが返ってくるはずだ。

 それの返事次第だな。今の季節、雪で物流が止まっているとの事で向こうに届くのも、返事がいつになるか分からないが……。

 

「うーん、送って返ってくるまで何日かかるっすかね」

 

 さあ?

 手紙を書けとした手前、一日でも早く前へ話を進めさせてあげたいが。

 

「遠い、です?」

 

 頷く。

 そっか。ニーナはこっちの住民じゃないから事情が分からないのか。

 といっても私もケィヒンと首都モリカマ間の正確な地理を把握している訳じゃないから、これ以上深掘りされたら返事に困るけど。

 

「今の時期結構時間かかるんすよ」

「混んでる、です?」

「……」

 

 ニーナはもぐもぐ口を動かしながら、少しずつ疑問を口に出していく。

 手紙ひとつ届けるのは物流的に大変なんだよ、ロクな乗り物のない今のこの世界では。

 

「自分、届ける、ば、早いです」

「いやいや、流石のシャロでも数日山越えは人寂しいから難しいっすねぇ」

 

 肉体的にはできない訳じゃなさそうなのなんなんだよ。

 

「ねこねこ、道知ってる、です」

 

 む。私か? 私は確かに昨日首都からこちらへ飛んできたが、あれは会長がいないと無理な道だ。ずっと海上だったし。

 両肘のブーストも機械の身体では重すぎて飛べない。なんでついてるんだろうこの機能。

 

「歩いてく、です」

「……」

「ねこねこ、昨日歩いた、です」

 

 ああ! なるほど、アガの(いち)か!

 確かにそれなら物流へ託さずとも、徒歩で首都まで日帰りで行ける!

 首都にある出入口は会長の自宅の庭に通じていたし、ノータイムで返事もすぐ貰えるじゃないか!

 

「なんかソラっちは納得してるぽいっすけど、どういうことっす?」

「……」

「ねこねこ、届けてくれる。です」

 

 そうなれば膳は急げ、だ。

 手紙を丁寧に折って懐へ仕舞い、お手製器具を手に立ち上がる。

 今から急げば午後の仕事までに間に合う!

 

「……」

 

 んじゃ、そういう訳でこれ届けてくるわ。

 

「え、ちょ、ほんとに首都まで今から行くっすか!?」

「ありがとう、です」

「ソラっちすげー!」

 

 うーん、返事できないからどうしようか。

 まぁルートの記憶自体は私の褒められポイントだし、適当にサムズアップしとくか。

 

 

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