古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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お気に入りが増えるとうれしい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ので、ソラちゃんをお風呂に入れた(意味不明な動機)


5 お風呂(洗車)

 この屋敷を守る警備人らへの挨拶が終わる頃にはもう日も暮れて、既に夜へと移ろう時刻となっていた。

 国の外れにある田舎の港町とブロンテは冗談混じりに話していたが流石は領主。戦争の無い平和な時代と慢心せず守りは万全で、私が警らに加わる必要も無さそうだ。

 意志疎通もできないのに下手な事をして現場を混乱させてはいけない。

 

 

 前を歩くふたりに置いていかれないよう、歩幅の小さい私は少し早歩きになりながら背中を追いかける。

 廊下を抜けて階段を昇って2階、そして再び廊下。

 

 しかし今はどこへ向かっているのだろう?

 

 もう私達を照らす光は電灯やガス灯のみとなった。

 残念ながらこの程度の光量ではまともに発電もできないので、私としては用もなければ休みたい時間である。

 だが先頭のジョージはまだ何処か案内したい先があるらしい。

 しばらく歩いて辿り着いた先は……確かここは、エミリーが掃除をしていた部屋だったような?

 

「……」

 

 かちゃりと扉が開けられ、当たり前のようにふたりは部屋へ入っていくので着いていく。

 内装は私が眠っていた部屋と殆ど同じく、普遍的な人の住む個室と言えばな様相。向こうと違う所を上げるとすれば、棺が中央に置かれていない事くらいだ。

 どうしてこの場所へ案内したのだろうか。

 生活感は無いが実は誰か重要人物の部屋で、覚えておけという話だろうか?

 

「ここはソラくんの部屋だよ」

「……」

「という訳でソラ、ここがお前の部屋な」

 

 …………え、私の?

 一階の、棺を置いているあの部屋ではなくて?

 というかいつそんな示し合わせが?

 

「ブロンテが“泊まるから部屋を用意しとけ”って今日に限って言うから不思議に思ってたが、やっぱそういう話だよなぁ」

「はっはっは。和解したソラくんに部屋が必要なのは事実だろう?」

「起きなかったり駄目だったりしたらどうしてたんだ?」

「その際は普通に泊まって誤魔化した」

 

 うん?

 だから、私の部屋は一階のあの場ではなく?

 

「ま、向こうの部屋は倉庫扱いだし必要はあったから助かるけど。つーわけでソラ、寝泊まりというか住むのはこっちな」

「それともソラくんは棺で寝る方が良かったかね?」

 

 そういう訳ではなく。

 私の顔を覗き込むように身を屈めるブロンテの不敵な笑みから逃れるため視線を逸らし、ちょうどベッド上に何かが置いてあるのが目についた。

 よく見てみればそれは、四角く綺麗に折りたたまれた衣類。幾つか重なったセットが二つ並んでいる。

 

 まさか、これも私の為にか?

 というかいつの間に?

 指差して首を傾げれば伝わった。

 

「ふふ、流石はアンくんだ。察しの悪いジョージくんと違って先回りして動いてくれる」

「いつ買っていつ置いたんだよ。ちゃんとサイズぴったりだし……」

 

 並んでいる片方を持って広げ、私の身体に合わせてジョージがしみじみと呟く。

 用意したのは未だに姿を見ていないアンというメイドらしいけど、いつサイズを確認したんだろうか。

 私が休眠している間に採寸していたというなら分かるけど。

 

「ちょっとジョージくん。まだ服を買ってなかったのかい?」

「だってシャーロットがメイド服着せてくれたし……」

「言い訳しない! 着替えは必要だろう? 全く、これだからジョージは……」

「ジョージは余計だっつの」

「……」

 

 ブロンテはジョージを攻めるが、それは人間の話であり極論を言えば私に着替えは必要ない。

 よほど今着ている物が汚れない限りは着替える必要がないからだ。生き物である人間と違って私は機械であり、老廃物的な汚染物質が出ないし。

 

 ああ、喋れるのならこう伝えておきたい。

 私は機械であり、ただ生きているだけで段々と臭いが発生してしまう生物とは違って──

 

 

 

「一日三回着替えるように」

 

 着替えは必要ないんだってば。てか、多っ。

 

「ふむ。彼女が用意したのは寝間着と普段着か。数は最低限だが、時間も限られる中だったしそれも仕方ない」

「仕事中はメイド服、業務時間外は私服、寝る時はパジャマに替えるんだぞー」

 

 必要ない上に、そんな細かく変えるなんて面倒……もとい無意味じゃないか。

 それに業務時間外って、稼働中は常に使えるのが機械だろうに。

 

「……」

 

 試しに首を横に振ってみる。

 喋れないのが色々ともどかしい。本当に。

 言語出力機能、最初から搭載されてないんじゃないかと思えるほど跡形もない。修復のしの字も掛からずエラーとか完全にお手上げ。

 

「気に入らなかったか?」

 

 色々と気に入ってないので頷く。

 まず着替えはメイド服の予備さえあれば良い。

 次に、充電できるタイミングを用意してくれれば休憩は必要ない。

 

「ジョージくん。センスがないと申しているよ」

「俺に言うなよ。てか用意したのアンだし」

「あーあ。君が一通り種類を発注しておけばなぁー」

「あんなぁ……。つか、お前も首都に戻ったんなら適当なの見繕ってくりゃ良かったじゃん」

「ぬいぐるみにガチってて忘れてた」

「えぇ……?」

 

 ち、違う。デザインがどうのとかそういう話じゃない。断りたいのはそっちではなく。

 全力首振り。

 

「ああ、ソラくんいいんだよ。こんな乙女心の分からない男を庇わなくて」

「何でいつも悪役なんだよ!」

「……」

 

 ブロンテはそう言って私を抱きとめジョージに非難の目を向けるが、何もかもが違うんだって。

 

「……と、いうかソラくん」

 

 暑苦しく引っ付いていたブロンテが鼻を抑えながら離れる。

 

「何というか、その……」

 

 とても言いにくそうに、言葉を捻り出す。

 

「少し臭うから、お風呂にだね……?」

 

 おふ、ろ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チビ共嫌がるそれ何か♪ なぜか嫌がるそれお風呂♪」

「……」

「匂い立つもの許すなメイド♪ 汚れ落とすは使命ぞメイド♪」

「……」

「さぁさ観念洗われろっ、我が名その名はシャーロットーっ♪」

 

 大人しく手を引かれているのに、なぜゆえシャーロットはさも私が嫌がっていると言う風な歌をくちずさんでいるのだろうか。

 お風呂とは汚れや臭いを落とす場らしい。洗車のようのものだろう。断る理由はない。

 臭いは発生しないし着替えは必要ない、と豪語(無言)した直後だというのになんだこの流れ。

 

「んふふ。うちのチビッ子が最近お風呂が嫌いになったのか手間かかるんすよねー。ソラっちはそうでもなさそうっすけど」

 

 ……若く見えるが、シャーロットって子持ちなのか?

 

 ふと気になった疑問の答えが話される訳でもなく、屋敷一階西側の裏口から出て裏庭の端を通り、離れの建物へ。

 からからと心地良い音の鳴る扉をスライドして開き足を踏み入る。入り口の上に掛かっていた布がシャーロットの肩や胸に押されて揺れて、続く私の頭頂に触れた。

 

「この暖簾を潜ると“お風呂だーっ”て気分になるんすよねー。ソラっちはどうっすか?」

「……」

「あまりテンションは変わらない、と」

 

 本館とは違いこちらは全て木造となるようで……えっと、大丈夫だろうか。

 構造も古く見えるし、私の体重だと床が抜けてしまいそうで怖い。

 私の重量は閲覧不可な上に全長125cm。全長から分かる通り姿形は子供なので小さな足のサイズ的に重量が分散されず集中してしまう、柔らかな床は片足を踏み込んだままめり込んでしまいそうだ。

 

「ありゃ、どうしたっすか?」

「……」

 

 後ろ手に扉を閉めて、そろりそろりと摺り足で進む。

 ぎぎぎと軋む音がしただけで、これは踏み抜く心配ないと判断するにはとても心細い。

 

「……」

「ソラっちって意外と重いっすからね!」

 

 ぐ。

 そうはっきり言われると……。

 

「音はすれど、結構丈夫だし平気っすよー」

 

 目の前でシャーロットが跳び跳ねて、着地する度ぐわんぐわんと揺れる感じがした。怖いからやめて。

 

「それに、床抜かしたら今度こそ建て直すよう旦那に言うから大丈夫っす。てかなんなら派手に壊しちゃってオッケーっすよ。建物が古くて隙間だらけなせいで夏とか特に、裏庭で湧いた虫がわんさか来て酷いんすよぉ」

「……」

「さ。とりまお洋服脱ぐっすよー。ここはまだまだ脱衣場で、お風呂は向こうっすから」

 

 そんなに言うならと半ば開き直って歩き、籠の収まった棚の前で服を脱ぎ始めたシャーロットに並んで私もメイド服を脱いでいく。

 自分で着た覚えのない服なので脱ぐのに手間取り、人間には無い頭の通気口が引っ掛かったりとする度助けて貰い、ようやく一糸纏わぬ素体となれた。

 

「こうして見ると、本当にお人形さんなんすねぇ」

「……」

 

 腰を曲げて素体となった私を観察するシャーロットが呟く。そんなに良く見て特に珍しい作りは……あるか。

 今の時代に私のような機械物はないらしいし。

 

「あ、そういえばこの左腕ってブロンテ先生に直して貰ったんすか?」

 

 左の肩口をつんつんとつつかれる。

 ブロンテが持ってきていた物を取り付けた、が正解だけど説明はできないしあながち間違ってないので頷いておく。

 この左腕、実は少しバージョン違いらしくちょっとだけ性能が良い。私本体が現在様々なシステムの処理中でスペックダウンしてとんとんのため、意味のない注釈だけど。

 

「それと、いろんな所に隙間あるけど水かけちゃって平気なんすか?」

 

 シャーロットの細い指が肘や手首等の隙間を撫でた。ちょっとくすぐったいからやめて欲しい。

 耐水性については、潜水する訳で無ければ大きな問題はないので頷く。

 

 取り外せる腕脚以外も、確かに各種可動部に隙間はある。隙間といっても防水防塵の為に専用素材の柔らかいシーリングで塞がれてるので内部は見えず、溝のラインが各所に見える構造。

 ただこの構造のお陰で全身に空気の通る隙間がなくなり、人工スキンの下に通している冷却パイプと外からでも分かる頭部の猫耳的通気口二つだけが排熱の生命線となってしまっている。

 一応緊急時や高出力時は取り外せる腕脚に隙間を作って排熱はできるけど、耐久度とか気密性的な所が下がるし設計ミスを疑う。

 

 

 ──あ、ちょっと待って。

 

 

「どうしたっすか?」

「……」

 

 手を引いて浴室へ向かおうとしたシャーロットから一歩引いて、両こめかみをそれぞれの手で触って確認する。やっぱりだ、そうだ何も付けていない。

 ここにある拡張スロットは普段何かしらで塞がる構成なので意識外だった。今は接続ポートが剥き出しなので、錆びるとは思わないがショートくらいするかも知れない。

 

「そこは駄目なんすね?」

 

 頷く。

 

「うーん、髪の毛洗えないのは残念っす」

 

 わしゃわしゃ撫でられた。やめろ撫でるな。

 

「でも耳とかに水入ったら大変っすからねー。ソラっちは機械っすから壊れたら大変……」

 

 いや耳でも猫耳でもなく頭のそれはただの通気口──わ、通気口に指を入れようとするんじゃない。

 中には大型のファンが付いてるし指が引っ掛かったら危ないぞ。

 

「んひ、んひひ、なんすか? ん? なんすかこれ?」

 

 断るために首を横に振りつつ伸びていた手を払うと、シャーロットの顔がにやけた。

 遊びでやってるんじゃない、普通に危ないから。指を入れたら怪我をするからっ。

 

「あばばばばっ」

 

 するりと抜けたシャーロットの手が通気口に入り、かんかんかんとファンに何度も指の当たる音が頭の中に響く。

 ほら言わんこっちゃない……と言いたい所だが大丈夫だろうか?

 千切れはしないだろうが、回転物に巻き込まれてただじゃ済まない。爪とか割れてない?

 

 そこそこ力を込めて強引に引き抜いて、しっかり確認する。

 これで仕事に支障の出るとなれば私の責任……。

 あれ……怪我してない。傷はない。

 

「あはは、ソラっちの頭ん中なんか回ってたっす」

 

 ……無傷、だと……?

 

「……」

「なんなんすか? 扇風機?」

 

 好奇心でまた手を入れようとするんじゃない!

 急いで引き剥がし通気口のシャッターを閉める。

 

「そんなこともできるんすか!?」

「……」

 

 ぐいぐい覗き込むように近付くけど、私は見世物じゃないってば。いたずらはやめて欲しい。

 というか何でフィルターの手前にファンがあるんだ。また設計ミスか。

 止めさせるため怒ってる風を装ってぷいと顔を背け、お風呂と思われる方へ向かう。

 

「ああー。ごめんなさいっすー!」

 

 磨りガラスの扉をスライドさせ、ここがお風呂か。

 結構広々としており、時によっては複数人同時の利用も考えられていそうだ。

 水の張られたエリアの反対にある壁際には鏡や木の椅子、浅くて口の広いバケツ(?)が置いてある他、気になるのは床。

 先程までは破壊の恐れがある木材だったが、こちらは一転して石畳。水捌けを良くするためだろうが、私にとっては氷上のような恐ろしさがある。

 

「……」

 

 ……そういえばお風呂は始めてだ。

 何にも分からないけどどうするんだろう?

 洗車の人間版という認識のみでここまで来たのだけど、こうして浴室に来てみたら見慣れない物も置いてあるし手順が分からない。

 というかこの部屋、湿度と温度が高くないか?

 高温多湿の環境は避けたい。

 

「……」

「とりあえずそこの椅子に座るっすー」

 

 後ろのシャーロットが壁際を指差す。

 水張りエリアの反対にある、鏡の前の椅子だ。

 

「……」

 

 洗車、ともすれば洗剤を洗い流す際に水を使い床は濡れるだろう。

 誰もまだ使用していないらしく乾いている石畳をぺたぺたと歩き、帰りは怖いなと心配にする。

 

「にしても、千年くらいっすかね? 確か」

 

 突然なんの話?

 

「ソラっちが棺に入ってたの」

 

 え、そうなのか!?

 千年……。

 

「ブロンテ先生が機械戦争末期の年代って言ってたっすけど、にしては綺麗っすよねぇ。ソラっち」

「……」

 

 そうか、千年か……。

 長い時を隔てているとは覚悟していたが、千年は流石に予想外だった。

 あの棺に納められ保護されていなければとっくに壊れて二度と目覚めていなかっただろうし、私のように棺で保護され今もなお稼働できる個体はふたつとなかろう。

 左腕が動くのも本当に偶然だと思う。

 

 でも、しかしなぜ?

 なぜ私は、棺に入れられていた?

 破損している記憶領域が修復されれば分かるのだろうが──ってあっつぅ!?

 

「シャワー熱かったっすか?」

 

 熱いよ!

 シャーロットの持つホース? シャワー? を奪う。

 きゅ、急にお湯をかけないで欲しかった……。

 

「……」

 

 首振り全力否定。

 

「ごめんっす。したら、これくらいでどうっすかねぇー?」

 

 温度を緩めてくれた。多少はマシになったけど、うーん……。

 できるなら冷水がいいかな。

 首を振り確認する度にシャーロットが捻っている温度調節と思わしきつまみを借りて、見よう見まねで動かす。

 お湯と水の混ざる割合を変えて温度を調整しているみたいなので、たぶんこうすればお湯0水10のいい感じになるはず。

 

「それ水っすよ!?」

「……」

「ソラっち寒くないっすかぁ……?」

 

 じゃばじゃばと首元からかけて、あー。冷却されるー。

 むしろこれくらいが気持ちいい。

 

「機械基準はわからんっすー」

 

 ひとつ隣の席へシャーロットが座り、自身と私の横に一つボトルを置いた。

 そして私に布を一つ手渡す。

 

「次はこれに石鹸つけて、泡立てて、身体を洗ってくっす。泡が流れちゃうからシャワーは止めるっすよ」

「……」

「泡立てかたは──」

 

 隣で実践しつつ教えてくれるので、それに習って手を動かす。

 ……教え方、うまいなぁ。流石はメイド長。というかたぶん子持ち。

 

「あとはもう洗いまくるだけ!」

 

 身を乗り出し教えてくれていたシャーロットは自分の席へ戻り、「こう!」と言いながらわしゃわしゃ自分の身体を洗う。

 洗いまくる、といえばその通り洗いまくれば良いのだろう。

 

「……」

 

 千年眠って曰くカビ臭くなってしまったし、少し念入りに洗おう。

 私の表面大部分を覆う肌色の生体スキンは電気を使って多少の傷を修復できる素材でもあり、またコーティング剤によって汚れや臭いも基本は寄せ付けない。──性能表ではそうなっている。

 棺だけでなく、生体スキンの性能も千年間破損を免れていた要因なのかも知れない。

 

 しかしコーティング剤の方は、流石にもしかしたらもう経年劣化で朽ちたり剥げたりしてしまってるのかも。カビ臭さがその証明となる。

 こちらは塗り直しもできなさそうだし諦めるしかないが、小まめなお風呂と衣類の取り換えで対応……あれ、やっぱり着替え必要だな?

 

「背中やるっすよー」

 

 席を立って後ろへ回りこんだシャーロットが背中を洗ってくれる。

 

「ジョージの旦那を殴り飛ばしたとかブロンテ先生を投げ飛ばしたとか聞いてたのに、ちっちゃい背中」

「……」

「シャロには手加減してくれてたんすよねー」

 

 いやその、あの時は割と目覚めの暴走気味で加減殆どしてなかったというか。

 というかそういえばあの二人もよく無事だった。特にジョージ。

 背中をツーっと指で撫でられる。くすぐったいからやめて欲しい。

 

 

 

 その後もあっちこっちと洗われて、泡を流し……。

 うむ。綺麗になった。

 

「いざ、バーンとォ! 入浴ーっ!」

 

 と言いながらシャーロットが駆けて、石畳に足を滑らせ派手に転倒しながら水張りエリアに消えていった。

 

「わははは、ソラっちも入るがよい」

「……」

「深くないっすよー」

 

 いや深さとか気にしてないんだけど。

 膝立ちになってそろそろと近づいて、温度を確かめる為に手だけを先に入れる。

 ちょんちょん。

 

「……」

 

 熱い。

 やっぱり熱いよねこれ。お湯だよね。

 

「入らないんすか? ……って、そういえば熱いの駄目っしたっけ」

 

 頷く。

 こんなところに入ったら死んでしまう。折角千年を生き延びたのにこんな事で死んでは意味がない。

 そこはシャワーの一件から分かってくれたようだ。

 

「うーん。水風呂なら入れるっすかねぇー。ソラっちと一緒にお風呂で語らいたいのだー」

「……」

「アンに言ってこの建物燃やしてもらおう」

 

 水場(お湯場?)のふちに腕と顎を乗せて不穏な事を言っている。

 冗談だろうし気にしたら駄目だ。仮にここが燃えても私のせいじゃない。

 

 シャーロットはああいう風に温まっても私は手持無沙汰なので、椅子に戻って冷水を浴びる。

 ばしゃばしゃ。

 さっき水風呂と話していたけど、私もああいう風に浸かれたら気持ちいいんだろうなぁ。

 冷却水のプールで普段はできない高出力の演算……やってみたい。

 

「今はまだ冬の入りだからあれっすけど、夏場とかソラっち平気かなぁ」

「……」

 

 夏?

 まぁ耐えられない事はない。

 スペックを絞って出力を抑え、発熱量を低く留めてファンの回転を最大にすれば耐えられる。

 ここの地域がどれくらいの気温になるのかにもよるけど。

 

「今着てる服だけじゃなくて夏服も改造しとこうかなぁ……。風通しを良くするには、えーっと……」

「……」

「あ、ファスナー付けてソラっちが自分で……あー……」

「……」

 

 ……ん? シャーロットが静かになっていった。

 どうしたんだろう。

 

「ああぁ~。のぼせる~」

 

 うわ、ふと見たら上半身だけ水場から出て脱力してる。

 熱暴走……は人間だしないだろう。というかするんだったらお湯になんか入らないだろうし。

 じゃあ電池切れ? ──だから人間だってば。

 

 さっき転んだのが響いたのか? それとも通気口に指を入れたから?

 良く分からないけど、“のぼせる”らしい。

 

「ソラっち~。助けて~。引き抜いて~」

「……」

 

 えと、どうしたらいいんだろう。

 とりあえず差し出されている手を取ってずるずる引きずる。

 

「あとは~。タオルで身体拭いて~。お洋服着るだけっすから~」

 

 片手で背のあるシャーロットを引きずって先ほどの脱衣場へ戻る。

 タオル……タオルって?

 

 服を入れた籠の中にそんなものあったっけ……。

 ……あった。着替えと共に、丁寧にタオルとメモの付けられたタオルが。

 いつの間に用意していたんだろう?

 

「アンが用意してくれてると~。思うっすから~」

 

 ああ、姿なきアンか……。

 手を離すとそのままドサっと力なく床に落ちたシャーロットがぶつぶつ何かを喋っているのを無視して、タオルで彼女を拭いていく。

 生きてはいるけれど、ぬいぐるみのようにされるがままの脱力した姿は少し怖い。大丈夫なのだろうか。 

 服の着せ方は分からないので彼女の籠の中身を渡すと、おもむろにだが自分で着始めた。床で。

 

「復活!」

 

 あ、生き返った。

 私服と思わしきラフな格好となったシャーロットは勢いよく立ち上がった。

 

「……」

「って、なんでソラっちは何も着てないんすか?」

 

 第一にシャーロットの状態が不安だったから。

 第二に、私のと銘打たれた衣類の着用方法が分からないから。

 

「もー。手間のかかる妹分はかわいいっすなぁ。チビ4号と名付けよう」

 

 シャーロットと比べたら私だけでなく誰でもチビになるだろう。

 目測だが、そちらの全長は180cm前後近くだと思う。

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