古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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幻覚かな? 違うな……幻覚はもっとぱーって輝くもんな!(精神崩壊)


6 屋敷の怪奇

 ──がちゃ。

「すぅー……はぁー……」

「幸せは犠牲なしに得ることはできないのか?」

 がた、がたがたがた。

「ソラさんの寝顔……よく眠っていて可愛らしいですわ……」

「時代は不幸なしに越えることはできないのか?」

 ぱしゃ。

「少しくらい……お写真を……」

「その答えを、いつか私に……」

 ぱしゃぱしゃ。

「ソラさん……」

「空……」

 

 

 

 ──ぱしゃ。

 

 

 

 ……。

 …………。

 ………………む?

 定時ではないのに目が覚めた。

 現在時刻は朝の5時頃、まだ薄暗い。

 タイマーの設定ミスかとも一瞬考えたけれど、ログを見るにそういうわけでは無さそうだ。 

 

 非常時に備えてセンサーが異常を検知した際に自動で起動する機能をセットしたままスリープモードに移行していたのだけど、どうやらそれが理由らしい。

 スリープモード中は瞼のパーツを閉じカメラは動いていないし現在の私は追加のセンサー類を一切装備していないので、何か反応できるとすれば音しかない。

 

 音と仮定し正体を探る為この薄暗い部屋に明かりを点けよう。

 異常がないかの確認が取れない限りは再びスリープモードへは移れない。

 めんどくさいけど、非常用の設定とはそういう不便な仕様(もの)なのだ。

 

「……」

 

 明かりを点けると言っても使うのは部屋に備えられた電灯ではなく、ベッドに横になった現在の状態からでも点けられる私自体のライト機能。

 人間が同伴する際やカメラでの撮影時、簡易的な目眩まし等々……。様々な状況を視野に入れ搭載された、両目部位をサーチライトとして光らせる事ができる私自身の機能だ。

 

 欠点は両目部位、つまりメインカメラ付近が光る関係上とても眩しくて視界がとても悪くなる点。

 何も見えない暗闇よりかは確かにマシではあるけど、自分で使う分には不便な点が多いし設計ミスでは?

 

 身体を起こしてベッドのふちに腰かけ、さてと。

 私の起動した理由たるやは──。

 

 

「……」

「……ぁ……」

 

 

 いた。

 メイドのエミリーが。

 壁と天井、部屋の上の隅っこ角に。

 重力を無視するかのように張り付いて、小型の機械を構えながら。

 えっと。えぇー?

 

 

「……」

「そ、ソラさん……おはようございます」

 

 

 両足と左手で壁をしっかりと支え背中を天井に押し付け身体を固定し、開いた右手で小さい機械を持っているエミリー。

 蜘蛛のような状況というか状態というか、何というか……ともかくそんな感じのまま朝の挨拶をしてくる。

 

「……」

 

 私はどう反応すればいいのか分からず、エミリーも引きつった笑顔のまま固まり。

 しばらくしてジーという小さな機械音が静寂の中に響き、エミリーの持つ小型の機械から紙きれのようなものが出て落ちる。

 

「あ」

 

 運よくそれはひらりひらりと舞うように私の手元へと落ちてきた。

 目線を落として手に取ったそれが何なのか確認しようとして、自分で出してる明かりが眩しくてよく見えない。

 サーチライトの光量を下げていき、カメラの設定を変えようやく見えたそれは──

 

「……」

「あは、あはは……」

 

 私の写真?

 

「……」

 

 視線を上げてこれはどういう事なのかと問おうとするも、エミリーは咎められていると勘違いしたのかばつが悪そうに顔を背ける。

 怒っている訳ではない。単純な疑問だ。

 

 どうしてわざわざ天井に貼り付きながら、停止中の私の写真を撮ったのだろう?

 明け方かつ灯りを点けていない今じゃ暗くてちゃんと写らないだろうというか、言われれば別に写真くらいはいつでも──

 

「とうっ!」

 

 壁を蹴ったエミリーは空中で身を翻し、その最中で私の手から写真を取ると綺麗に床へ着地した。

 その身体能力はなんなのかとも聞きたい。なんなんだこの屋敷は。シャーロットも鋼の女だし。

 結局まだ会えてないアンだって何をするか分からない。ここまでくると最後は人外なのかもと恐ろしくなってくるぞ。

 

「えと、ソラさん」

「……」

 

 何でしょうか。

 

「お写真、よろしいかしら?」

「……」

 

 もう撮ってるでしょとは思うし訳は分からないけど頷く。

 写真の一つや二つ断る理由はない。

 

「ありがとうですわ!」

 

 さっきの一枚では足りないのか、エミリーは許可が降りるや否やぱしゃぱしゃと撮り始めた。

 いくら撮ったってこの顔は少しも変わらないし、つまらないと思うんだけど。無機物だし。

 

「……」

「ぐへ……いひひ…………」

 

 エミリーの呼吸が荒くなってきた。よだれも垂れてる。

 うーん。データベース的にはこういう症状を趣味の一環的に括れると判断を下してるけど、人間ってこういうものだろうか。

 

 しばらく(9分23秒)好きなだけ色々な角度から撮りまくったエミリーは満足したのか、一つ咳払いしていつもの優雅な感じを繕った。けどもう繕えないよ。遅いよ。

 滅茶苦茶に取り乱して一心不乱にフィルムが空になるまで撮りまくっていたあの姿はもうばっちり映像として記録しちゃったよ。

 なんなら壁に投影もできるよ。サーチライトを応用させればそういうのも可能。名誉の面もあるからやらないけど。

 

「ソラさん」

「……」

「そろそろ朝のお仕事、始めましょうか?」

「……」

「ごめんなさい、元々その為に来たのに忘れていました」

 

 あ、仕事を教えに来てくれたんだ。

 盗撮しに来たのではなく。

 ……いや嘘でしょ。ごまかされんぞ。出勤時間にはまだ早い。

 

「……」

「さ、さぁソラさん着替えましょ?」

 

 そういって私を立ち上がらせ、パジャマを脱がせようとする手付きは……なんかこう、所謂“いやらしい”という表現に該当する。

 人間相手ならともかく機械の私だし……。あ、もしかしたら素体の写真も撮りたいのだろうか。

 そういうのならちゃんと言ってくれれば──

 

「す、ストップソラさん! ストップ!」

「……」

 

 首を傾げる。

 全部脱ぐんじゃないの?

 

「お着替えで脱ぐのは肌着までで、えっと、それはお風呂の時に脱いでっ」

「……」

「お、お待ちなさ、ぁああ、わたくしお死にますわ!」

 

 死ぬの!?

 

「と、止まってくれた……」

 

 えっとエミリー。

 私が脱ぐと死ぬの? どういうこと?

 仲間は殺したくないよ?

 

「ソラさん。女の子が安易に脱いではいけませんっ」

 

 ?

 分からないけど、そうしろと言うのなら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エミリーは猫が好き。

 

 ブロンテにはそう教えられたけど、実際のところは可愛いものが全般的に好きだという。

 朝の業務を教えて貰い、習いながらの合間で本人が雑談として話してくれる事から推察すると、趣味的な物を取り上げられ続けた子供の頃の教育環境が原因のようだ。

 親元を離れ一人立ちし自身を縛るもののなくなった今は加減ができず、暴走し、可愛いものを見ると狂いそうになる──という。

 

 狂いそうになるというか、写真を撮ってた時はもはや狂気しかなかったけど。

 

 ある種、もしかしたら理性が無くなってる分シャーロットより危険人物なのかも知れない。向こうは少なくても理性的だし。

 少なくても犯罪へは至らないとは思うので、そこは心配しなくても良さそうだけど……。

 ……あ、いや。私がもし人間なら盗撮に当てはまっていたのか。結構ギリギリじゃんか。

 

 それにしても、私がその可愛いもの判定に当て嵌まっているのにも驚きだ。

 私の顔は自分でも可愛らしくはないだろうと思う。

 

 睨むような鋭いツリ目だし、喋らない(喋れない)ので口は動かず笑う事もしないので表情は絶対に動かないし。ていうか鉄の塊だし。

 上げるとすればやはり頭の猫耳と称される通気口と子供さながらな体格位なものだけど、こんな程度でいちいち狂っていたらキリがないだろう。

 

 とすればだ。

 残るのは。

 

 ……機械に対する異常性癖?

 

「……」

 

 ……ま、それならば仕方ない。

 世の中広いんだし、たまにはそういう人もいるだろう。

 私にはそういう感情と知識(データ)はないので応える事ができないけど、今度私から見て可愛い感じのする機械があればお土産に渡してみようかな。

 需要に対して供給が少ないのはさぞ辛かろう。太陽光が無いと私も充電が苦しいしそんな感じなはず。

 

 エミリーの内部事情はさておき、さてと。お仕事の続きだ。

 いっぱいまで水を入れたバケツを床に置き、昼頃となった現在に行っている仕事は掃除。

 一階はエミリーとシャーロットが担当するようなので、二階の宿直室と空き部屋の掃除を任されている。

 

 私の相方としてアンが共に二階の掃除をする手筈で話が進んでいたのだけど、今に至るまでやっぱり姿を見ていない。

 シャーロット曰く、「アンはほっといても大丈夫っすよ」との事。むしろ私がほっとかれてるけどいいの? こっちは見習いメイドだぞ?

 

 ──嘆いた所で仕方ない。

 アンが仕事をしてようとなかろうと、ともかく私はしろと言われた事をするのみ。

 戦えと言われれば戦うし、掃除をしろと言われれば掃除をする。何の事はない。

 その証拠に早くもここで最後の部屋なのでもう手慣れたものよ。

 

 シャーロットに教わった通りの道具を選別して扱い、教わった通りの順番でこなす。記録(データ)にしっかり手順を明記しているので、後はそれに沿って行動するだけの簡単な仕事。

 背が低く届かなそうなところもエミリーが気を効かせて持たせてくれた台に乗って、パワーの調節を間違え破壊がないように気を付けつつ。

 

「……」

 

 この屋敷は小部屋が多い。

 私に与えられた部屋も元は空き部屋らしいし、二階の空き部屋は三つある上に宿直室もある。

 多分ジョージとその親族が住む為なのと警備人用なんだろうけど、それぞれ今は使われてないようだ。

 宿直室まで使われてないのはどうかと思う。傍で見守らんでいいのか?

 

 

「……」

 

 一応、現在掃除中の宿直室はいつでも使える事を示すかのように花瓶に花が生けられ窓際に置かれている。

 リネン類も定期的に取り換えられた跡があるし、他の部屋と比べて細かく手入れがなされている様子は随所にあるのに使われてはいない。

 うーん。まぁ準備ができているのならいつでも使えるし、警備員は暇なのが一番いいと言うし。

 ここまで準備を色々やって勿体ない気がするけど。

 

 この部屋で任された仕事は最後なので、早く終わらせて一階の二人を手伝おう。

 一階は厨房と食堂と応接間、それと倉庫にやはり空き部屋しかないのに無駄に広く──

 

 

 ──ゴト。

 

 

 ん?

 

「……」

 

 窓を拭いていると後ろで何かが落ちる音がした。

 振り返ると、部屋の中心に何故か人形が落ちている。

 

 ブロンテが私に買ってきてくれた土産のぬいぐるみのような子供向けではなく、ドレスを着せられたお堅いアンティークドールだ。

 こんなものこの部屋に置いていたっけ? 記憶を漁っても視界に一度も映り込んだ形跡がない。

 とすれば誰かのイタズラだろうか。

 

「……」

 

 わざわざ人形を部屋に投げ入れるイタズラの真意は分からないが、可能性として挙げられてしまったのは非科学的な超常現象。ありえないだろうが。

 持ち上げて近くの椅子に座らせ掃除を再開しようとした矢先、今度は振り返った先の窓がひとりでにばたんと開いた。

 不思議な事が続くもんだ。先ほど換気をしていたから鍵を締め忘れ、そして風で開いたに決まってる。

 

「……」

 

 今度はちゃんと鍵を締めて、窓拭きを再開。

 流石にもう何も──

 

 

 ──ゴト。

 

 

 また何かが落ちる音がした。

 窓は閉まっている。風は入り込まない。

 扉も閉まっている。そこが開いた音や閉まる音も聞いていない。

 

 まさか?

 ゆっくり振り返ろう。

 

「……」

 

 例の人形が、椅子に座らせたはずの人形が……床に落ちていた。

 ありえない。

 

「……」

 

 まさか、私のように自立稼働する存在?

 機械技術のすっかり衰退した現代において、私以外に?

 

 ……危険物質として闇に葬るべきだろうか。

 今の私は火器を所有していないので、するとすれば焼却か。確か裏手に焼却炉があったと聞いたような無いような。

 

 持ち上げて、最大出力のライトをちかちかさせて威嚇。

 フラッシュバンの代わりにもならないが、どうだ恐ろしいだろう。今はこれくらいで済ませているが、ビームが出そうで怖いだろう。

 

「……」

 

 流石に爆殺光線とかは出せないけど。

 

「……」

 

 アホらしい。

 ただ人形が勝手に。ああそうだ、置いた場所が悪くて落ちただけで、私は何をしているんだ。

 身に付けている自分のメイド服のエプロンを外し、それで人形を椅子に括り付ける。これでよし。

 

 さて、窓拭きは……窓綺麗だし開けておこう。

 風が通るなら、もし万が一人形が動いたりしても何かこう……たまたまいい感じの物理学で仕方ないんだよ。

 この屋敷の怪奇は天井に張り付くエミリーと超絶硬いシャーロットだけで充分だ。

 

「……」

 

 棚を拭く。ちらり。

 

「……」

 

 クローゼットから埃を払う。ちらり。

 

「……」

 

 姿見の鏡を磨き──。

 

「……」

 

 ──だ、誰かがいる!?

 

 鏡越しに、私の後ろ、人形を座らせた椅子に、だ、誰かが座ってる。

 思いっきりなんか鏡に誰か映ってるっ!

 

「……」

 

 め、メイド服を着ている子供?

 あれは誰だ? 見たことないぞ?

 子供とはいうが私より少し背は大きく、無表情の私と反対ににこやかな顔でこちらを鏡越しに見ている……。

 

 ……よし、いちにのさんで振り返ろう。そして撃退する。

 物理的に解決するのは得意分野だ。

 

 作戦はこう。

 振り返ると同時に右肘間接をパージ。遠心力で投げ飛ばす。名付けてロケットパンチを食らわせる。

 一時的に片腕は使用不能になるけれど、必要なのは先制攻撃だ。

 飛び道具を持っていないと思わせておいての不意打ちは、相手が何者であれ通じるはず……。

 その後は飛び掛かって鉄の塊タックルでも圧し掛かりでも追加のパンチでも見舞えば良い。

 

 ……。

 …………。

 よし。やるぞ。相手はまだ動いてない。笑顔なままこっちを見ている。

 

「……」

 

 いち。

 にのー。

 

「ソラさん、ここに──」

 

 さん!

 

「……」「──きゃあ!」

 

 視界の隅に映ったエミリーが回転する景色に吸い込まれて消え、代わりに背後の椅子が一瞬目に入る。

 1コマ後の次の瞬間には飛んでいった私の拳がその椅子を打ち砕き、駆けた私は左手で対象を──

 

 ──あれ、いない。

 た、確かにここに座っていた何者かがいない。

 

「わ、わわ! ソラさん、手が、ご無事ですか!?」

「……」

 

 ……え、エミリー!

 この屋敷やばいって! 何か、何かおるって!

 お化け的な科学に喧嘩売る非科学系のやつが!

 物理で解決できない何かが!

 

「右手が、肘から取れてしまったの!? 大丈夫ですの、くっつきますの!?」

「何の騒ぎっすかー!?」

 

 窓越しの外からシャーロットの声も小さく届いた。

 

「しゃ、シャーロットさん! そ、ソラさんの手が取れました!」

「まぢすか!」

「あ、あああ、こんな時にブロンテさんがいてくだされば……」

 

 一回落ち着こう。よし。

 あのー。えっと、故障ではなくこれは自分で外しました。

 ちょっと腕返してもらって、ほら元通り。

 

「わ、わ……シャーロットさん! くっつきましたわ!」

「まぢで!? 見たかったっすーっ!」

 

 シャーロット、以前に片腕が無いのを見てるから微塵も心配してなさそう。

 それにしても……椅子の破壊とかどう説明したものか。

 

「……」

「ソラさんは、そういえば機械でしたわね。驚いてごめんなさい。お怪我、ありませんか?」

「……」

 

 怪我はないけど。

 それより椅子……あれ、椅子壊れてない。

 なんで? さっき壊れてたよね? 映像に残ってるよ? 壊れた瞬間と姿。

 てか人形はどこにいったの? 欠片もないけど粉微塵になった? 量子分解した?

 

「お掃除の方は終わりましたか?」

「……」

 

 それは半分くらい。

 ただ、頷きと横振りでは伝えにくい。

 

「答えにくいですわよね。じゃあ、残るのはこのお部屋だけかしら?」

 

 それなら頷ける。

 訳わからない事ばっかりだけどそう声を出せないし、次にでたら現行犯で倒してやる。

 物理が通じるか怪しいと思わしき何かだけど。

 

「そしたら、町へ出てみませんか?」

 

 ……いいね! 今丁度この屋敷を離れたかった所なんだ!

 怖いから!

 

 

 

 

 

 という訳で、逃げるようにしてシャーロットに屋敷内を任せて外へと出る。

 何だかんだでずっと屋敷内で行動していたので新鮮だ。言ってしまえば千年ぶりの外出。

 別に屋内だろうと野外だろうと太陽光さえあればなんでも良かったりするとは考えるけど、でもたまには違う景色を見るのも良い。

 

 長い石段を下り、立派な鉄の門は開けず潜らず横の小さな扉から出る。

 道を少し歩き振り返れば、大きかったレンガ造りの屋敷も小さく見えた。町よりも一段高い丘の上に立っているのも合わせ、ひとしおに。

 そこに住んでいるジョージはともかくとして、通っている人間は大変ではないのだろうか?

 私の棺や食材の搬入もあるだろうし裏口もあるのか? そっちも後で見てみたい。

 

「……」

「さ、行きましょ?」

 

 慣れた道なのか疲れを一切見せることなくエミリーは言って前を歩くので、それに遅れないよう着いていく。

 今まで見下ろすばかりの町は思っていたよりも広く感じられるが、道行き見られる風景は石畳に石造りや木の柱ばかりな古めかしいと感じるものばかり。

 田舎や地方と称していたしこんなものなのだろうか?

 

 道のりは複雑にくねり曲がって先が見にくい。

 建物は派手な凹凸の少ないのっぺりとした壁をしておりそれぞれが一軒ずつカラフルな色分けをされているのが特徴で、もし色分けがされていなければ道の把握も大変だろう。

 色とりどりな景色のあちこちに興味が止まらずついきょろきょろと見回していると、振り向いたエミリーが小さく笑みをこぼした。

 

「今は電気やガスが通って夜でも明るいですけれど、以前までは月明かりに頼るしかなくそれゆえに家を目立つ色にして帰路についたらしいですわ」

「……」

「今では伝統面の町並みとして皆様がこの景色を守っていると、ジョージ様はお話しされておりました」

 

 なるほど?

 近くの壁に寄って間近で見れば、確かに荒くて固い塗料を使って耐久性を重視しているのがすぐ分かる。

 ちょっと離れて風景として遠目に見れば全くの無問題となるし、町の雰囲気作りと利便性を兼ねた面白い仕組みだ。

 

 面白いけれど、最近まではインフラが整っていなかったのか。千年前の戦争はどれだけ文明を消し去ったのやら。

 当時に生まれた存在、及び唯一の生き残り代表として申し訳ない。

 

 頭を下げても首を傾げられるだけなのでエミリーの背中についていき、町の雰囲気を楽しむ。

 町全体の雰囲気は前時代的なので、私の作られた千年前にこんな町があれば「歴史を感じる!」とか観光客で賑わっていた事だろう。

 戦時中だしそんな余裕なかろうけど、でもそうできる魅力がある。

 

 

「ちなみに領主であるジョージ様のお屋敷が高いところにあるのは目立たせるためという他に、水害時の避難所として活用するためですわ。お屋敷、無駄に広いでしょう?」

 

 へぇ。そうなのか。

 従者たる者が無駄って堂々言ってるけど。

 

「それと町の道が入り組んでいるのは陸に上がってきたサメメンガーの進行を止めるための……って、一気に説明し過ぎでしたわね」

 

 待って、サメメンガーってなに!?

 

「去年はシャーロットさんがなぜか撃退できてしまったらしいけれど、今年はどうかしら……」

 

 だからサメメンガーって!?

 まさか屋敷どころかこの町自体がもうおかしいのか……?

 

「ふふ、ソラさんは強い子ですね。サメメンガーの話を聞いて顔色一つ変えないなんて」

 

 いやサメメンガーを知らないというか表情は固定されてるので。

 首を振って否定しようと思ったら同時に頭を撫でられ、結果として撫でくり回しを拒否する形となった。

 くそう、会話さえ……会話さえできれば例の非科学的存在の騒ぎも……!

 

「……」

 

 ま、仕方ない。

 サメメンガーがなんであれ、危険性の高い敵存在であればジョージやブロンテからちゃんとした注意が入るだろう。

 もしご用とあらば、私は兵器として役に立つ。

 

「わたくしなんて始めて二本の脚を持ち陸を走る獰猛人食い鮫のサメメンガーを初めて聞かされた時なんて、とても恐ろしくて夢にまで見ましたのに……」

「……」

 

 二足歩行する鮫!?

 どういう進化を遂げたんだサメメンガー!

 

「あんな生物兵器を作るなんて、千年前の戦争はとても恐ろしいですわね……」

 

 あ、すみません。

 私の出身時代が……。

 誰だサメメンガーなんて意味不明なの作ったの。

 

「もしかしてソラさん、サメメンガーを見た事ありませんの?」

「……」

 

 そう、そこなんだよ。

 頷く。

 

「ごめんなさい。千年前はあんなのが沢山いると、ついうっかりしてしまいましたわ」

 

 いないよそんなの。

 絶対いないよ。

 

「てっきりソラさんみたいな可愛い子と化け物が戦っていたのだとばかり」

「……」

「千年前の戦争、一体何があったのでしょう?」

 

 少なくとも戦後生まれのエミリーには想像つかない時代だけど、サメメンガーの話を聞くと私も疑問に思っちゃうからやめて。

 私と同系列の大量生産品ならいるとは思う。でもサメの怪物なんてそういないよ。たぶん。

 

「ともかく、この町は昔からサメメンガーの被害があって複雑な道をしているのでお買い物の際は迷わないよう気を付けてくださいね」

 

 そんな気軽に言われましても。

 いやシャーロットが撃退したって言ってるんだしそんなものなのか?

 でも町の道を複雑にするくらいには襲われてるんだし。

 

「出た際には警報が鳴るので、すぐ屋敷に戻ってくるように……!」

 

 さては結構被害大きいな?

 撃退したシャーロットは一体何をしたんだ。食べられはしたけど堅すぎてサメメンガーの歯が砕けたのだろうか。

 鋼の女だしそうしかねない。




サメメンガー!
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