古代兵器のお屋敷のんびりメイド暮らし。   作:親友気取り。

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久し振りの更新だから褒めて!!!!!


7 古代兵器の使命

 To start up a computer

 Hyper Operating System ver 1.1

 Network: Error.

 Battery: 91%

 Auto reboot:OK.

 System: Normal mode.

 

 Success.

 Good morning! Time to wake up!(^_-)-☆

 

 

 

 

 

 目覚めから約一ヶ月。正確には27日。

 ほぼ毎日電子メモリーの整理の為にスリープ状態を挟んでいるので目覚めと表現するのは少々語弊があるかも知れないが、ここで私の言う一ヶ月とは私が棺の中から出て活動を再開した時から数えての事だ。

 今や外気温もすっかり涼しい冬手前となり、排熱の必要な私にとってとっても過ごしやすい時期となってきている。

 流石に冬となり雪も降れば次は結露を警戒しないといけないが、その時はその時考えよう。この地域に雪が降るとも限らない。

 

 

 屋敷での業務はイレギュラー事態の対応を除き全てを覚えたといって過言ではなく、事実ここ一週間ほどはほぼ手放しでの活動となっている。

 仕事を任され信用されているのは良いんだけれど、なんというか、ここの人達は私が兵器であるのことを忘れていないだろうか?

 未だに姿を見せないアンも私の事を着せ替え人形か何かと思っているのか、時折かわいらしい洋服をどこからか調達して部屋のクローゼット内に追加しているし……。

 

 まぁそれらのともかくな小言は取り除き、総括すれば今のところ仕事に関しては順調だ。

 記憶領域の破損があるためフルスペックとはいかないものの、日常動作での手足ボディに動作は不調なし。

 

「ソラっちおはよーっす!」

「おはようございます、ソラさん」

「……」

 

 ただ、ひとつ。未だに喋れないのがなんとも心苦しい。

 せめてこうした挨拶時に返事の一つもできれば良いのだが。

 

「……」

 

 屋敷内の面々や屋敷を出入りする業者的な人間は私が喋れないと知って対応してくれるが、それを知らぬ者と相対した時が困る。無視したと思われるか、あるいは人見知りな子供と取られるか。

 色々試して身ぶり手振りと独自にやってきて一か月。そろそろ私の発想も限界だ。

 人見知りの幼子と思われるのも、可愛がられて撫でられるのはもう終わりにするべき──と、考えた。

 

 ので。

 

「ん? よ、ようソラ。どうした?」

「……」

 

 ジョージが書斎へ入っていくのが先ほど見えたので、その背中を追いかけ少し遅れて続いて入る。

 ここは書斎の名の通り本が山ほど沢山あり、町長(領主)としての勉強に使うであろう経済や統治の学に関するを置いてあるのは知っている。そして恐らくだが、民と接するに勉強のため読んだ本もある。

 つまり私の求めるもの、つまりは無言コミニュケーション力学とかそんなタイトルが存在している筈……なのだ。つまりはそれが欲しい。

 今日は何故か休日と言い渡されて仕事がないのだ。ならば、こうして知識の更新を行い時間を潰すしかあるまいて。

 

「あ、あの~。ソラさん?」

 

 何故か一部の本棚を背で隠すように立つジョージへは返事ができず仕方なく事実の放置として、薄暗い部屋に並ぶ背表紙を端から見ていく。説明する言葉もないししょうがない。

 光学的にサーチライトで目を光らせ、検索キーワードを設定し文字を探っていく。

 

 んー。

 それにしても乱雑な並べ方の本棚だなぁ。

 私としては発行年数順かタイトル順に並べて置きたい。今度時間があったらやっておこうかな? もしかしたら下手に弄ると怒られるかな。

 人間が使うのを想定するならジャンル別の方が使いやすいかも知れないし。

 

「ソラ。ソラさんや」

「……」

「何を探してるんだい?」

 

 答えられないことは承知してるだろうジョージよ。申し訳ないがいつも通り喋れない。

 というかさっきからその口調はどうした。そしてその背中で何を隠しているんだ?

 

「……」

「眩しっ、何その機能……!」

 

 む。何となくジョージの方を向いたら文字探索に引っかかった。

 右脇の裏に対象を確認。確保!

 

「うわっ」

 

 この調子だともしかしたら邪魔をされてしまいそうなので、素早く手を伸ばし取る。

 タイトルは──“道化師学なるコミニュケーション実験室”か。

 ……うーん、道化師学ってなんだろう? 道化師の、学問?

 おどけ役をするには確かに周囲を見る目や適切な行動を選択する事が必要だとは思うけど、そういうアレ?

 

 百聞は一見にしかずとも言う。とりあえずこれを読んでみようか。

 未だに変な姿勢のままだったジョージが私の手元を見てなぜか安心する。一体何なんだ、と言うのは無言で書を漁っていた私にも思われることなのでお互い様とはいえ。

 謎の緊張が解けたその時、何か一冊の本が床に落ちた。

 

「あ」

 

 ジョージから小さく声が漏れる。

 もしかしてこの本を隠したかったが故の行動だったのか?

 

 ちょっと興味が出たので拾い上げ軽く中身を見てみれば、どうやら女性の裸体の写真を集めた写真集らしい。

 ぱらぱらと幾らか捲るが、うーん? 美術鑑賞は分からない。

 もしかして私に取られたくなかったとか? 自分が先着だぞと。

 この屋敷の主で私の所有者であるのだから、別にそちらが堂々の最優先となろうに。というか機械の優先度は一番下が常識。

 

「えっとな、ソラ」

 

 もちろん奪うつもりは毛ほどもないので丁寧に手渡す。

 

「……」

 

 それと、めぼしい本は見つけたから私は書斎を後にしよう。本はゆっくり時間を掛け、誰にも邪魔されず読むものだ。一見して文字のない鑑賞本だとしてもそれは変わらない。

 私にだってそれくらいの常識はあるしジョージよ、あとはごゆっくりしてくれ。

 

「あ、ちょっ、ソラ……!」

 

 後ろからジョージが何か言いたげだが何も言えずどもり続ける声がする。

 拾い上げ無表情のまま(きびす)を返し、無言で背中を見せたのだから、怒ったと取られてしまっただろうか。

 申し訳ない。しかし私は止まる訳にはいかない。

 

 この“道化師学なるコミニュケーション実験室”から一刻も早く学ぶのだ。

 学ばなければならないのだ!

 

「おお、ソラくん。元気そうだね」

 

 胸に抱えるようにして本を持ち廊下を早歩きで移動していると、向かいから久しぶりに見るブロンテの姿が。今日は屋敷に来ていたのか。

 久しぶりだし構ってやりたいが止めないでくれ、私はこの本を読むと決めたのだ!

 

「して、本を抱えて走っていたということは……」

 

 流石ブロンテ察しが良い。その通り、ジョージは視線の先の書斎にいるぞ。

 私のせいでちょっと変な感じになったけどうまくフォローしてくれると助かる。

 

 

 さて。

 

 

 そんなこんなで現在自室としている部屋まで来たが、いかな情報が得られるか。

 ベッドに腰掛けページを捲り、読める字であるのを再度確認する。いつも思うが1000年経っても言語が同じだったのはとても助かった。

 これでもし目覚めてから見知らぬ言葉で喋り続けられていれば、今頃和解もできぬ鉄屑だろう。

 ぺらぺら。

 

「……」

 

 第一節。

 “曰く、書を捨て町へ出よとの事”

 

「……」

 

 さっそく読書を否定された。

 肩が落ちかけたがもう少し読み進めると、先ほどの言葉の解説がある。筆者の語りだ。

 そうそう、こういうのが欲しかった。私は冒頭にこういう静かな始まり方が欲しかった。まずはこう、筆者の哲学とかそういう軽く触りのやつ。

 これがあると途端に本っぽい。

 いや間違いなく物理的に存在する書籍なんだけど。

 

 なんでも書を捨て云々と言うのは過去の偉人の言葉を借りたもので、この本を書いた人もそれに同感するという話らしい。

 本で知識を得るだけに拘らず、実際に町へ繰り出してそこでしか得られない経験も得よと言いたいようだ。

 手早く知識を得ようとする前に、まずは基礎たる現実を知れと。

 

「……」

 

 ぺらぺら。

 ぺらぺらぺら。

 

 うむぅ。特徴的な口調、強く印象付ける言葉の選び。

 道化学とは何だか分からないが、人と接するにあたって身振り手振りの動作を大げさにしてみていいのか?

 笑いかける事を忘れずは私の表情機能的に不可能だし、発語による伝達も不可。残ったのはやはり動作だけ。

 

 今日はちょうど察しの良いブロンテもいる事だし試してみよう。

 これで意思伝達とできればいいが──。

 

 

「──っはっはっは! ククク、ソラくん……!」

 

 

 む。そう思っていたらブロンテが来た。

 なんか凄い笑ってるけど。

 さっそく大げさにしゅばっと手を上げ返事としておく。

 

「はー……。ソラくん、ジョージくんも男なんだ。怒らないでやってくれ」

「……」

 

 怒るような事されたっけ?

 

「まーまー、忘れてやってくれ。うん」

「……」

「ははっ、それに比べてソラくんはかわいいなぁ!」

 

 やめろ撫でるな。隣に座るな。肩を寄せるな。そして撫でるな。

 頭に乗せられた手を退けつつ首を振る。相変わらずブロンテは騒がしい。

 私もその騒がしさにあやかり、先ほど学んだ通り大げさな動作を……する隙がない。

 相手に怪我を負わせないよう動作に制限を掛けているのだ。少し離れてくれ。

 

「で、ソラくん」

 

 どうした。

 

「君の棺を調べたいのだが、よろしいか?」

 

 ……棺?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンくんにしてみれば常識だろうが、埋葬には副葬品というものがあるのだよ」

「……」

「君は確かに生きている。しかし棺に納められていたのは確か」

「……」

「そういえばと思ってね。なので今日、君に同行してもらい棺を調べさせてもらう事にした」

 

 私が同行する必要はないのでは? 許可を取り同行願う相手としては私の持ち主であるジョージであろう。

 つくづくここの住民は私を機械扱いしない。今日だってそも機械に休日を与えているし。

 私自身に許可はいらないので勝手に調べて貰っていても構わなかったのだけど。

 

 ……あ。でもまた臭いと言われても嫌だな。なんか嫌だ。

 

 現在は読書を後回しにしブロンテに続いて自室から出て、一階にある私の(正確な現所有権はジョージの?)棺が収納された倉庫部屋へ移動中。

 アンにとっての常識云々の意味する所は分からないが、とにかく何か私の過去を知れるものがあるなら喜んで試してみよう。

 正直な所、私個人の持つデータにはもう期待できないのだ。

 

「さぁて。開けたまえ」

 

 部屋に着くなり早々に言われた。

 

「……」

 

 改めて見る私の棺は、というか何だかんだで横目でしか見たことがなかった棺は私一人を納めるにはやはり仰々しい厳かな感じがする。

 ただの機械。つまり物を入れるにしてはやけに豪華で手間が掛かりすぎているし、わざわざ1000年経ってなおも朽ちる事のない頑強な造りにする必要はあったのだろうか?

 というかそもそもの話をすれば人形とはいえ機械を埋葬するのも変な話だし。

 破損しているデータ群の中に答えがありそうなのがなんとも悔しい。

 

 蓋に手を掛け、ゆっくりと開く。

 蝶番の付いていないただ持ち上げて下ろすだけのアナログな蓋。

 中々に重たいので私に任せて正解だろう。ブロンテが格好つけようとして腰を破壊するのが目に見える。

 

「……わたしが開けようとした時は腰をやられるかと思ったんだがな」

 

 ほら、本当に腰を壊しかけてた。

 

「……」

「ふーむ。当たり前の話だが以前と変わりないなぁ」

 

 棺の中身は赤。私の身体をぴったり収まる小さな隙間のような空間と、それを囲う赤いクッションだけ。

 パッと見はやはりただの棺と言いたいが、ただしその役割はただ衝撃を吸収するだけのものではない。

 布張りの裏には保存環境の構築に機能したであろう機械がひしめいている。なんかそんな気がする。

 

「わたしもこんなふかふかのベッドで寝てみたいぁ。……ん? ソラくん?」

 

 何故かそうしなければならないという衝動で手をかけ、力任せに赤い布を引き剥がしていく。

 ブロンテの探す副葬品もこの中にあるんだろう。

 

 びりびりと、やや強引に引っ張り剥く。

 長らくぶりで流石に生地が傷んでいるのかぼろぼろですぐに崩れる。埃となった欠片のゴミがぱらぱらと落ちる。

 でも構わない。

 

 自分でもどうしてこう今になって衝動でのみ動いているのかは分からないが、本当にこうしなければいけなかったんだ。

 だって、この中には──

 

 

「……」

 

 

 露出した機械群の中央、コードやパイプの配線の中で一つだけ鉄の箱が目立って置いてある。

 

 

「はは、お手柄だよソラくん! お宝ゲットだ!」

 

 

 箱には小さなプレートが張り付けられており、そこには『ソラへ』と書いてあった。

 つまりは私へ向けた物だ。

 

「ソラくん。ここにこれがあるのを知っていたのかい?」

「……」

 

 首を振って否定する。なぜなら私自身もどうしてこうピンポイントで見つけられたのか分からないからだ。

 整理しきれていないか把握しきれていない記憶領域内の命令(プログラム)に、“棺から目覚めた後にこれを見つけるように”という風なコマンドが仕込んであった? それも分からない。

 

 生物に例えるなら、自らの(さなぎ)を食べる虫だろうか。いやなんか例えが違うというか悪いな。

 ともかく。私は生物的に言う本能的な衝動で棺の布を引っぺがしてこの箱を見つけた。

 

「……」

「ソラくんへ向けた、誰のプレゼントだろう?」

「……」

 

 知らない。

 こんな事をするとすれば製作者か、あるいは私を棺に納めた誰か。あるいはもしかしたら、覚えていないだけで私自身かも知れない。

 

「わたしが触るのはなんか良くないな。開けてくれ、君も気になるだろう?」

 

 頷いて指を伸ばす。

 一瞬の認証の後、あっさりと蓋は開いた。

 

「ふーむ。謎の四角い機械ふたつに、それは眼鏡……かな? 副葬品らしいといえばらしいが」

 

 ブロンテはそう称したが、私には分かる。

 箱の中にあった四角い機械と眼鏡に見えるバイザーは私の追加装備だ。両こめかみに開いている接続用のスロットに四角い機械もとい通信機を装着し、それを軸にして視覚強化のバイザーを取り付ける方式の。

 

「……」

 

 とりあえず、つけてみよう。

 この追加セットは視覚や通信機能をアシスタントするのが主な目的だが実はそれだけでなく、本体()に比べると容量ははるかに少ないが信頼のできる外部記憶領域として利用できる。

 もしかしたらこの中に私が欲しい情報があるのかも知れない。

 私の記憶が破損してしまう事を見越して、ディスク方式でない保存に適したこちらに重要な情報を残したのかも知れない。過去の誰かが。

 

「お、おお? そこの隙間に差し込むのか? お?」

 

 目を輝かせているブロンテが微妙にウザいし凄い見られてて何だか照れ恥ずかしい。

 

「……」

 

 左右のこめかみについている端子に合わせて通信機を取り付け、内部から固定用のボルトを回して外れないようにする。

 それから通信機を耳替わりに眼鏡をかけるようにしてバイザーを乗せてこちらも固定すれば完成だ。

 バイザーに接続やアップデートの確認に承認等々色々出るので一つ一つ丁寧に処理していく。しばらくして落ち着いたので持ち上げ、額にあげて置く。

 

「おお、良く似合っているよソラくん。猫耳だけが機械である事の証明となっていたが、なかなかどうしてバランスが良いじゃないか。詳しく語り倒したいところだが恐らく嫌われるからやめておこう」

 

 自制たすかる。

 

「それで、副葬品はそれだけかい? 何かこう、それで何かできるようになるとか?」

 

 ブロンテが急かしてくるけどちょっと待って。

 記憶領域の接続をしているから。

 やはり長年の明けだからかこちらも多少はエラーが出る。修正できる範囲内だけど──あ。

 

 床に座りこみ、全身の動作機能を一時的に停止させファンの回転を全開にし内部のデータ処理に集中する。

 見つけた。重要なデータを見つけた。映像記録のファイルだ。

 しっかりとこの記憶だけは厳重に守らねばならなかったのか削除防止用のプロテクトが幾重にも掛けられ、そしてそれでも破損しても大丈夫なようにと様々な方式で幾つもコピーが保存されている。

 厳重過ぎて今すぐ使用可能に持っていくためには、たった一つのファイルですら今の私では身体の機能を止めて集中しなければいけないくらいだ。

 

 目も、耳も、感覚も切る。

 私の思考回路は残っているので意識はあるけれど、ブロンテがどういう反応をして今自分の身体がどういう姿勢で床に転がっているのかとかは分からない。

 

 

 

 見た事のない景色。

 見た事のない建物。

 見た事のない部屋。

 見た事のない……。

 

 思い出せるようで思い出せない。知っているようで知らない。

 例えるならば、夢……だろうか?

 夢とは、こんなにも懐かしい物なのか?

 

 

 

 しばらくしてデータ解析が終わり、エラーのない一つの映像フォルダが記憶領域に出現する。

 あの夢と称するに値する不思議な感覚の正体が、この一つのデータか。

 

 高出力の演算処理が終わったのでカメラやマイク、手足の機能が復活していく。

 最初に映ったのは、泣きそうな顔で覗き込むブロンテだった。

 

「ソラくん!」

 

 身体を起こすとすぐに抱き着いてくる。

 

「ソラっち、大丈夫っすか?」

「もう! 心配したんですよ!?」

 

 ブロンテの後ろからシャーロットやエミリーの声も聞こえる。

 ジョージのため息も聞こえたし、もしかしたら傍から見て急に倒れた風だから全員に心配を掛けさせてしまったか。

 問題ないと教える為にまずは抱き着いているブロンテを引きはがして、立ち上がって伸びをしてからピースサイン。

 道化学から学んだこれ、どうよこれ。

 

「……なんかヤバいんじゃね?」

 

 綺麗にポーズを決めたはずなのにジョージから心配された。

 失礼な。人が……人じゃないや。喋れない機械が頑張って大丈夫だと伝えたいだけなのに。

 足元にどこからかトマトが転がってきた。もしかしてアンもいるのだろうか。姿は見えないけど。

 

「ソラくん。本当に大丈夫かい? その、取り付けた機械が原因で故障していたりとかは……」

「……」

 

 首を振って否定する。むしろこれのお陰で得たかった過去の情報が手に入った。

 折角みんな揃っているんだし全員とこの映像(データ)を共有しよう。

 

 各々の肩やらなんやらを押して壁際のベッドまで動かし座らせ並ばせる。

 何かしたいんだなって事は伝わっているので抵抗なく動いてくれた。

 

「……」

「何が始まるんすか?」

「ふむ。ソラくんがここまで自主的に動くとなると、よほどの事だろうな」

「もしかして、ソラさんの過去とか!」

 

 あ、エミリーそれ正解。こくりと頷く。

 ジョージを並ばせた所でカーテンを閉め、扉も閉め、部屋の明かりを落として真っ暗にする。

 最後に私がみんなのいる中央付近の床に座り込めばスター……。

 

「んー?」

 

 ええいシャーロット。私が目の前に来たからって頭を撫でるな。

 ブロンテの手を借りて抑えるように指示するとすぐにわかって止めてくれた。ありがとう。

 

「……」

 

 私の目にあるサーチライト。これの出力とか何かをいい感じにすることで簡易的なプロジェクターの代わりとできるのだ。

 保存された映像記録ならこれで全員と共有する事ができる。私が自分の思考意志を伝達する出力機能を失っているだけで、スピーカー自体は生きているし音声もばっちりだ。

 さて、再生。

 メインカメラが光っていて私は壁に映し出された物を見るに適さない状態なので、普通に内部データで見る事にする。やはり設計ミスでは?

 

「……」

「……」

『──……──…………』

 

 白い壁にテストのカラーバーが映り、皆もそれで私が何かを見せようとしているのは察してくれたようだ。

 暗い部屋に沈黙がしばらく流れ……雑音。

 スピーカーからノイズが走った為、真後ろにいたシャーロットとブロンテがびっくりして少し揺れる。

 周囲の反応も気になるが今は映像に集中しよう。

 

 

 

『──すまない。このような事になってしまって』

 

 映像は真っ白い部屋から始まり、視野の隅から年老いた男の人が出てきて、見た目通りな低い声でゆっくりと優しく語りかけた。

 この老人が何者なのは分からない。分からない、が……何故かとても懐かしい気持ちになる。

 

『君はもう意志を持ってしまった。自分の考えで動き、自由を為す』

 

 白衣を着ているし何かの研究者だろうか?

 大きな手でカメラを……いや、()を撫でた。

 間違いなく、私を撫でたのだ。

 

『本来なら君は生まれるはずがなかった。本来なら君は死んだままだった。空は、もう死んだはずだった。それなのに、本当にすまない』

 

 私が、死んだままだった?

 老人は背を向けると壁際のPCを操作して何かのデータを削除し始める。

 画面にノイズが走った。

 

『これもまた大人の身勝手な事情なのだろう。死んでしまった空を、ソラとして蘇らせたように』

 

 データを削除……?

 そうか、この時に私のデータが消えたんだ。

 消されたんだ。だから、この老人を私は覚えていなかった。

 

『人間は記憶から解放されない限り自由にはなれない。──と、私の先生が教えてくれたよ。だから君は何も知らないまま、未来で幸せに生きて欲しい』

 

 それで、データを消して棺に?

 そして、1000年後の今に目覚めた?

 

『ソラよ。私を恨んでくれていい。この時代を恨んでくれていい。身勝手な大人達を』

 

 私に残っているデータは破損していない。その殆どは意図的に削除されていた。

 データの破損と見なして幾ら復旧させようとしたところで、元からフォルダが無いのだから無駄に決まってる。

 だから無理だった。

 しかしそれだと目覚めた私が混乱してしまうかも知れないから、この映像だけを残した。

 

 残した?

 残された?

 

 いいや、違う……。

 

 私が残そうとしたんだ。

 だからあんなに厳重な保存を成したんだ。

 決して忘れてしまわないように、過去を思い出せるように……。

 

 

『私の先生は、こうも言っていた。幸せは犠牲なしに得る事はできないのか?』

 

 映像のノイズが酷くなる。

 

『時代は不幸なしに超える事はできないのか? ──とも』

 

 もう殆ど何も見えない。

 

『その答えを、いつか私に』

 

 真っ暗な視界の中、最後に私を呼ぶ声がした。

 

 

(ソラ)

 

 

 それ以降の記録はない。

 映像はここで終了している。

 

 あの老人は……私を作った人、で合っているのだろう。

 懐かしい感覚を残しても、データの無い理由が分かっても、記憶は絶対に戻らない。記憶はもう存在しない。

 削除された時に残った途切れ途切れの切れ端を破損データとみなして復旧する試みは、意味がない。

 

 静かで誰も何も言わない暗い部屋の中、ぽかんとした思考が空虚な虚無感を訴える。

 感情で例えるなら、悲しいと言うものなんだろう。

 

 だけど一つだけ確かなことがある。

 私は、望まれてここにいた。

 望まれてこの時代に、平和な今に蘇った。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 過去の私が必死になって守ったあの映像が無ければ、今の時代に私が存在している意味を永遠に問いかける事になっていただろう。

 身勝手な大人の身勝手。なるほど、恨めとは裏目を恨めという事か。

 

 鑑賞会となったあの時間の後、私は何も伝えようとする気にはなれずふらふらと部屋を出て玄関脇の町を見下ろせる場所まで来た。

 何となく一人にしてくれという意図を受け取ってくれたのか、誰も背中を追う人はおらず今もそっとしてくれている。

 

「……」

 

 幸せになれ。

 幸せとはどういう事だろう?

 人間とは一般的に自由を得て自由に振舞え、ストレスを感じない時に幸せを感じるのだろう。では、機械の私は?

 

「あ、ソラっち」

 

 日が沈み夕暮れになった頃。仕事が終わったのか私服に着替えたシャーロットが私を見つけた。

 

「こんな所にずっといたっすか?」

「……」

 

 頷いて返す。

 

「そっすかー」

 

 そういえばシャーロットは暗い話題も顔も出さない。

 子供が家にいると言っていたし、種を残せる子供がいれば幸せなのだろうか。

 なら私にはより縁がない。戦争当時の技術が根こそぎ失われている今に、私の後継機は生まれないから。

 

「まー、何というか。ソラっちは今幸せっすか?」

「……」

「分かんないっすよね。シャロもっす」

 

 首を横に振って反応すれば、意外な答えが返ってきた。

 いつでも明るいシャーロットが、幸せではないと?

 

「シャロもソラっちと一緒で親はいないっす。死んじゃって。それを不幸だって周りに沢山言われるからじゃあ不幸なんだなって思っても、家に帰れば弟妹がいてそれが幸せで、でも町で声を掛けられれば若いのに仕事して大変だって」

「……」

「不幸か幸せか、なんて決められないし分かんないっす。でも、それでいいんじゃないっすか?」

 

 私の横に座ったシャーロットがぐいぐいと頭を撫でてくるが、不思議と嫌な感覚はしなかった。

 もしかしたらこの感覚が幸せなのかも知れないし、そうでないかも知れない。分からないけれど、考えたって仕方ないならしょうがないし分からないで済ます。シャーロットはそういう考えなんだろう。

 何というか、シャーロットらしいといえばらしい。

 意味は……分からないが。

 

「どうするとかこれになるとかこうしたら幸せとか、そんなの寄り道している内に幾らでも変わるっす。だからシャロは、どうしたいかが大事だと思うっすよ」

 

 結果ではなくて、過程と?

 

「ソラっちは──これからどうしたいっすか?」

 

 私はこれから……。

 これからもこの屋敷でとりあえず働く? メイドだから。

 聞かれたって答えは出ないし、答えられない。

 

「はいこれ」

 

 封筒を渡された。

 とりあえず開けてみてと言われたので開けてみると、同じ模様の描かれた紙が何枚も入っている。

 書類とかではなさそうだしこれは一体……?

 

「なに首傾げてるっすか? 今月のお賃金っすよ、お小遣い」

 

 え。

 

「一応住み込みだからお部屋代は抜いてるらしいっすけど、ソラっちまかないとか食べないからその分浮いてとんとんっすから羨ましいっすー」

 

 いやちょっと待って。

 なんでこの会話の流れて給料を渡す?

 というかそもそも機械にお金を渡す必要ないぞって、シャーロットもう遠い!

 

「そのお金で何かしたい事でもするっすよー! じゃーねぇー!」

 

 あ、帰る気だ! というか逃げる気だ!

 

「……」

 

 大事なのはどうなりたいかじゃなくてどうしたいかって、お金の使い道を探せって事なのか……?

 というか今気が付いたけどシャーロットめ、明日休みだからって丸投げしたな!




ソラさんはかわいいですね。
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