ついにソラっちの時代が来たっすね……!
「何とま実験実践恐ろしき、
複雑怪奇な喋り語りは大人気! 印象脳裏に焼き付け道化、目立ってなんぞのなんぼな商売しょうぼんな。
並び立つ物あらざるや? 無双の存在そう独占。
他に代替なければ留まり瞳。頭に
見よ!
これこそ道化師学なるコミュニュケーション実験室!
「次回もお楽しなりぞていつかまた!」
…………。
……………………。
え、が、あアあ。がが、ガガガガガ……。
Systm: ErRor.
syssssS: errrr0r.
DouKeSi: Happy!(廿_廿)
「……」
エラーコードの連なり、矛盾パラドックスの発生。
見つかる答えはななな なな な……
強制的に意味を理解しようとする思考回路を分断して切り離し、くるくる回り続けるプログラムをゴミ箱へ移動させ抹消する。
何なんだこの道化師の学門は。何なんだ道化師とは。
意味が分からないぞ、“道化師学なるコミュニケーション実験室”。こんなもの読まなければ良かった。
ぱたんと閉じた禍々しい本をベッドの上に放り投げて、床にどすんと身を投げる。ベッドに身を投げると重量で壊しそうなので。
今日は朝から雨。静かにしていればマイクにノイズのような雨音が永遠と拾われ続けていた。
ノイズキャンセリングを使わず直に聞く雨の音は、繋がらない無線通信のような寂しさを覚えさせる。
──つい昨日。棺の中から頭部に追加する装備を獲得する次いでに私がこの時代へ取り残された理由が判明し、生まれたからには平和と自由を知れといった旨の使命を受け取った。
私は“
自身の存在が一体何なのか、そして本当に戦争目的の生産なのかも一瞬分からなくなったが、堂々巡りの途中に訪れたシャーロットの言葉に少し救われた。
救われた、が。同時にCPUを困らせる問題がもう一つ追加されたので何というか、イーブン。
というのもなんと私相手に給料というものが発生したのだ。
持ち主であるジョージは、どうして持ち物である私に給料を支払う?
お陰で整理しかけていた思考問題がこのお金をどう使うかという問題にすり替わり、悩み、そして……。
そして!
身体を起こしてベッドの上に放置した本を睨みつける。
とりあえず借りた本でも読んで一旦気を紛らわそうとしたのがいけなかった。
何なんだこの本は。言語崩壊なんてものじゃないぞ。ハックされる。
最初の方はまだ普通のように見えたのに、段々と狂喜が増して最後の方はなんだあの語り。
「……」
こうなったら直談判するしかあるまいて。
何とかしてこの道化師本を書斎へ戻す前に焼却するようジョージに伝えるぞ。
ブロンテもいてくれるとありがたい。彼女は大体どこかに一泊して二日はこの町にいるので、運が良ければ途中で合流し同席して喋れない私の通訳代わりになってくれるかも知れない。
いなければいないで仕方ないと諦める。それほどこの本は危険で悠長な事を言っていられない。
立ち上がり、見るだけでCPU稼働率の上がりそうな魔本を引っ掴み自室を飛び出しジョージが仕事をしている部屋へ向かう。
そもそも私に休みなんかよこすからこんな事になるんだ。休みでさえなければこんな本を読まずにいられたんだ。
ああ、もう! そも私は機械だっていうのに! ジョージめ!
「あらソラさん」
向かう道中の廊下、給仕を終えてティーセットを片付けていたエミリーと出会った。
そういえば今日の出勤はエミリーだけなんだっけ。メイドひとり仕事は大変そうだ。
……いや、アンもいるんだっけ。未だに姿を見ていなければシフトも知らないので数えていなかった。そろそろ私も噂だけでなく姿を見たい。
いいや、今はそんなことどうでもいい。
エミリーの押す台車には飲み終わったカップと中身のないポットが乗っている。
使い終わった直後と言うことはつまり、まだ仕事場にいるという事。
挨拶を交わす言葉を持たないので会釈で通り過ぎ、気を取り直して早歩きで進む。
昨日はこんな感じの流れでブロンテと会えたが今日は会えない。会えたら無理にでも付き合わせ、この本の有害性を共に訴えて欲しかった。
がらがらとエミリーが電動式の昇降機で台車と共に階下へ降りていくのを音と細やかな振動で感じながら、ついにジョージのいる執務室前まで辿り着いた。
ここまできたらあともう少し。
こんこんと扉を叩き、がちゃりと……あれ。
「……」
中から物音はするにはするけど、うん?
開かないぞ?
「……」
こめかみ部の追加装備、情報収集モードオン。
扉にマイクをくっつけて集音集音……ペンの音。紙の音。ぺらぺら。
真面目に仕事をしている。けどいつもなら返事をしない訳もないんだけど、一体どうした?
こんこん。こんこん。
「……」
究極仕事集中モードか?
邪魔したら悪いかな。くそぅ、一刻も早く訴えたかったのに。
扉の前で本を片手に右へ左へうろうろする。
こんな木製の薄い扉の一枚くらい私の力で簡単に破壊できるが、許可もなくそれはできない。することは容易にできるんだけど。
あー。こんな時に許可が出ればなー。
「やあソラくん。おはよう」
「……」
「こんな所でどうしたんだい?」
お、ブロンテ。
背後から現れたブロンテは私に代わって扉を叩けどやはり返事はしないし、押せど引けど開くことはない。
そしてこちらへ振り向き、私がここでうろうろしている理由に気が付いたようだ。
「なるほどね」
ため息をつき、続いて視線が私の手元へ。本の存在にも気が付いたらしい。
「昨日借りていった本か。こんなに早く読み終えるとはよほど気に入ったのだね」
ちげーよ。
全力で首を横に振る。
「はっはっは、照れなくていいのだよソラくん。人らしくなったというか、良い事だ」
そういう事じゃなくって。
ぐいぐいと本を押し付ける。そんなに言うのなら一回読んでしまえばいい。
頭が爆発するぞ。なんなら炸裂させてやろうか。腕力で。
「どぅどぅ。ん? 道化師に興味があるのか?」
全力首横ふりふり。
なんでこういう時は察しが悪いんだ。
私が興味を持った(と思っている)物の中身を確かめたいのかページを捲り、ぱらぱらと中を確認していく。
しばらくして一つ大きく頷くと、笑って私の頭を撫でた。
これはまずいぞ。
ブロンテが禁止にすべきレベルの書物を耐えたどころか、私が道化師について知りたいとは素直になれていないみたいな扱いになってるぞこれ。あと撫でるな。
「確かこの本の筆者は……。ああ、やっぱりそうだ」
「……」
「運が良いぞソラくん。ちょっと待ちたまえ、わたしにいい考えがある」
違うんだ、その本を焼いて欲しいんだ。二度目を読めば今度こそバグってしまう。
なんなら私が焼いてこよう。サーチライトの出力をアレすれば紙くらい燃やせる光線にできる。虫眼鏡もあれば心強い。
「ジョージ! おいジョージ、開けろ!」
がんがんと強めに扉が叩かれる。めちゃくちゃに叩きまくる。
「ええい、折角ソラくんが人らしい事を見つけたというのに。ソラくん!」
はい。
「扉に向かって全力パンチ!」
命令とあらば仕方ない。仕方がないなぁ。
構えて拳を振りかぶって、肘のカバー解放。エネルギーブーストオン。
指間接と手首の収縮固定。ロック確認良し。
「……いや、何それ」
何って、エルボーロケット。
「……」
凝縮されたエネルギーが臨界点を迎え、点火とと共に固く握られた私の拳をとてつもないパワーで全面へ押し出す。
通常のただ動物的に殴るだけの攻撃とは威力がまさにケタ外れの物理攻撃、エルボーロケット。
チャージに時間はかかるが私の腕の耐久力さえ勝れば壊せないものなどほぼない、今の私にできる最大級の攻撃だ。
無論、こんな木製の薄い扉程度一瞬で破壊できる。
「……」
「ふ、む。うん。あー……」
「……」
「わたしが許可したからか……」
弾け飛び、粉々になった扉の粉塵を吸い込まないように通気口のシャッターを一時的に封鎖しながら前進。
変な姿勢のまま固まったジョージの前まで歩き、例の本を差し出し示す。
ジョージよ。これは早く処分するべきだ。破壊するべきだ。
こんな魔本は燃やして魔界に返すべきだ。さあ、ブロンテも!
「やあジョージくん。びっくりしたかい?」
「ああびっくりだ。何したお前」
「わたしも分からん。ソラくんに扉を破壊するようにお願いしたら思いっきり殴って壊してくれた」
「お前に襲撃されないように鍵閉めてたってのに……。ソラなら開ければよかった……」
「……」
どうだ恐れおののいたか。私は人間じゃなくて機械だからな。これに懲りたら人間扱いを程々にしておくんだ。
まあそれはそれとして、この本についてなんだけど。
「これって、昨日ソラが書斎から持ってったやつか。もう読み終えたのか?」
「……」
こくりと頷く。そこに間違いはない。
そしてそれが間違いであったのだ。
「どうやらそれの続巻か、あるいは道化師そのものに興味があるらしい」
「……」
おーい。違うよー。違うんだってー。
全力で首を横に振るが、まだ私が照れて否定しているんだと間違えられたまま説明されてしまう。
ジョージも納得するんじゃない。ブロンテの言う事を信用し過ぎかこの。
「そういやこの町に道化師いたな」
「だろう? ちょうど良いと思ってね」
いやいやいや、いるんかい。
さっきの良い考えとはそれか。
「あの道化師っ子にソラくんを会わせてみないかい? ほら、この屋敷だけじゃなくて少しずつでも町と関わっていった方がソラくんの将来的にも良いだろうし」
「でもなぁ……あいつ癖あるからなぁ……」
「ものは試しと言うじゃないか。そこの間を上手く取り繕うのが町長の仕事だとわたしは思うよ」
「領主な」
本人を置いて話を進めるんじゃない。
くらえ、機械ビーム。
「まぶしっ」
どうだまいったか。
「分かった分かったってソラ。俺が話つけておくから……」
「ふふん。思い知ったか」
「なんでブロンテが得意げなんだよ」
違う、そういう話じゃない。
喋れないというのは、会話できないというのは、そして断れないというのは、とてもつらいモノである。
これね、つらいモノっていうのは私自身を示す“物”っていうのと掛かってるの。どう?
……。
…………はぁ……。
人間生物なら溜息大連発だろう。
そうはできないので、代わりに頭の通気口から生暖かい風をドライヤーのように出す。考えすぎて熱がすごい。
そういえばこの前、この風でシャーロットが自分の髪の毛を乾かそうとしてたなぁ……。
現実逃避、現実逃避。
スリープモードはとっくに解除されて行動可能になっているけれど、動く気にはなれない。
前回の休みから次の休み、数日後の今日。
ブロンテの良く分からないゴリ押し解釈のお陰でこのケィヒンの町にいる
ジョージのいう“少し癖のある”のこの“少し”の部分が警戒心をより際立たせているんだけれども、説明のしようがないし。
だってそも他人の少しとは少ししかアテにならないし、それで指し示す対象は奇想天外の塊の道化師。
ここでのジョージの“少し”がいか程なのか、そして道化師にとっての少しとはいか程なのか。
昨日の夜から考えて、朝に目覚めて考えて……。
身体を動かすと重みでぎしぎしとベッドが歪みまくる。転がるのはもうやめておこう。
頭に倒れ込んでくるぬいぐるみ達をどかして起き上がり、カーテンを開く。
今日は朝から雨か。充電は……64%。分厚い雲の下とはいえ、多くを野外で過ごすとすれば1日くらい持つか。
「……」
きぃ、と丁番の音がして振り返るとクローゼットがひとりでに開いていた。
歩み寄り、中を確認する。見た事のない衣装とそれに対する注釈のメモ書き。
これはいつもの通り姿を見せないアンがいつの間にか色々仕込んでいる証拠だ。今日は道化師と会うという予定もばっちり聞き及んでいるそうで、メモには『道化師も好きそうなド派手柄のワイハーなシャツ』という文が添えられている。
ワイハーってなんだろう。
「……」
取り出すと……うん、確かに派手だ。
明るいオレンジを基調に明るい水色を入れまくった、人間の視界的に眼球が耐えうるのかって光彩の暴力。
一色地に差し色程度とかじゃ駄目だったのか? アンのセンスは分からない。
もこもことした排熱効率の悪いデザイン重視のパジャマを脱ぎ捨て、ハンガーに掛けられているそれを着用していく。
下衣は私お気に入りのゆったりとしたハーフパンツ、上衣はシャツの上に先ほどのド派手なナニカ。たぶん服の種類的には“ワイハーなシャツ”なんだろうけどそもやはりワイハーってなんだろう。
貰っておいて着ないのは駄目だろうし、アンも拗ねてしまうだろうしとりあえず羽織っておく。
「……」
姿見に映してみるが、やはりなんかもう意味が分からないな。なんだこのファッション。
浮かれているというか……。
「……」
……出たな、以前にも見た怪奇現象。
鏡越しの背後、私のベッドに座って足をばたばたさせている子供のメイドがにこにこと笑ってこちらを見ている。
もうビビらないぞ。
いっせーのせっ。
「……」
振り返っても、やはりいない。
鏡を見る。もういない。
何だろう。道化師を恐れるようになった今はあんな怪奇現象より道化師の方が怖い。
むしろ一人で心細かった時に来てくれたので嬉しくもある。
……いや、そもそもアレなんだよって話なんだけど。
くそう、私に喋る機能があれば。たぶんだけど大量にデータを削除した時に巻き込まれて言語出力も消えたんだろうなこれ。
インストールし直すか組み直すかすればいいんだろうけど、私にプログラミングはできないしもう詰み。
ため息代わりに再びファンを大回転。湿った重い空気と同じく足取りはとても重い。
廊下へ出てとぼとぼと歩く。
まだ待ち合わせの時間まではしばらくあるので、とりあえず歩いたり、後はエミリーやシャーロットと会って気を紛らわせたいのだ。
「……」
──が、こういう時に限って誰もいないのよね。
今日はブロンテも来ていないようだし、ジョージは仕事場にいるんだろうけど邪魔したら悪いし。
「……」
気が重い。
というかそもそも雨なら中止で良いんじゃないか?
ほら、私ってば機械じゃん。浸水したらあれじゃん。なんなら湿気で今若干調子悪いじゃん?
……なんて思っていたら、頭の上に何かが降ってきた。
地面に落ちたので拾い上げると、半透明の……というかビニール?
戦争時代の終わりと共に工場や技術が失われたのか今の今まで見たことなかったからこれが本物か疑わしいけど、まぁビニールとしか言いようのない半透明の物体だ。
広げてみると私が今着ている服ごとすっぽり納まる羽織になる。頭も覆えるフード付き。
なるほどレインコートか。
して、これはどこから?
「……」
裾が足元付近までくるそれを首のボタンで仮止めし、半透明なら発電効率の問題も少ないとフードを被り、自室へ。
姿見にこれを映すと……やっぱりいた。子供メイドこと怪奇現象だ。
振り向くと消えてしまうので、振り向かず手を振る。手を振り返してくれる。
相変わらず良い笑顔だ。ニコニコニコニコ。
じゃ、ない!
これじゃお出かけを楽しみにしている子供のようじゃないか!
私は兵器だぞ!
部屋を飛び出てそのままの足で屋上へ。
雨に打たれるとこの半透明謎素材レインコートが良い音を出して楽しい。楽しいけれど、そうじゃない。
現在時間からあと1時間もしない内にこの屋敷を経って目的地に向かわないといけないんだぞ。
何を悠長な、こんな時間を無駄にするような……。
いや無駄にしようがしまいがいずれ出発しなければならないんだけど、ああ!
「──あれ、ソラっちだ」
「……」
その口調はシャーロット!
屋上の片隅、物陰からぬっと長い影が立ち上がった。
何というかいつ見てもシャーロットは背が高いな! わはは!
はぁ……。
「おー。ブロンテ先生の言ってた新素材の雨具っすね、かわいいっす!」
「……」
「ふふふ。表情に出さずとも分かるっすよ、それ着てトリっちに会うのが楽しみなんすね!」
嬉しい訳でも楽しみな訳でもないぞ……って、トリっちとは誰ぞ?
分かりやすく首を傾ける。
「あれ、聞いてないっすか? 今日会う道化師の子の名前っすよ。道化師トリブレ」
「……」
「ジョージの旦那も中途半端な説明するっすねー」
うん。名前は初めて聞いた。聞けなかったもの。
多分ジョージとブロンテ、ふたりして向こうが説明してるだろとか考えてたんだろうな。
今回のセッティングといい愚かな!
「あの子、ちょっと喋るのが苦手なだけで決して悪い子じゃないっすよ。シャロが言うんだから間違いないっす!」
おお。それじゃあ信用できるな。
実はというと私、裏表や含みもなく素直に思ったことを喋ってくれるシャーロットの事をとても信用しているぞ。
「仕事がなければシャロも一緒に会いに行きたかったっすけどねー。最近会えてないっすからー」
「……」
いいやありがとう。おかげで少しは、かの道化師トリブレを怖がらずに済みそうだ。
道化師が変な喋りというのが前提なのはもはや気にせんとして、悪い子ではないというのなら大丈夫だろう。うん。
もう戦争の時代は終わったんだ。人を信用してもいい時代なんだ。
「……」
お礼の意を示す為にぺこりと頭を下げる。
しかしトリブレか。どんなやつなのだろうな。
「で、手ぶらで行く訳にもいかないっすよね。てなわけで」
呟いてシャーロットがおもむろに先ほど隠れていた物陰に移動し、何かをひょいと私に投げ渡す。
赤い木の実のようだけど、これは一体?
「ミニリンゴって品種のリンゴっす! トリっち、昔からリンゴが好きっすからお土産に持ってくっすよ!」
ほう。林檎ってあの木になる果実だと思っていたけれど、今はこんな屋上菜園の低木から採れるのか。
続いてふたつみっつとシャーロットは置いてあった自分持ちの袋に詰めていき、最後に私の手元のひとつを入れてから持たせてくれた。
手土産は確かに大事だ。ありがたく頂戴しよう。
「で、トリっちに渡す時は──こうっす!」
食べられそうにない虫食いのミニリンゴを一つ手に持っていたシャーロットは、そのまま適当に屋上から裏庭へ向かって投げ捨てた。
えっと?
「さっきソラっちに投げたみたいに、軽く下からぽーんって投げて渡すと喜ぶっす。まぁ喜ぶというか、ジャグリングに繋げて道化師らしい演技ができてトリちゃん満足ーって感じっすけど」
なるほど。コミュニケーションの手順か。
好きな物を手土産として持たせ、そして相手の好む接し方も教えてくれるシャーロットはやはり信用に値する。
そもそも雨の中ひとりで屋上にいたのも、私に渡すミニリンゴを採取する為だ。面倒見と人の良さが何というか、とても凄い。
ジョージとブロンテもその、起こしてくれたり屋敷に住まわせてくれたり色んな手引きをしてくれたり恩はあるけど、えと、嫌いではないけど、うん……。悪い人ではないから。
「あとはっすねー……」
「……」
目線が私の頭、通気口に向く。
何だろうな。エミリーと初めて会った時のようなアレを感じる。
「そう、猫が大好きっす!」
「……」
私は猫ではない! これは猫耳ではない!
「リンゴと猫が好きな道化師トリブレって覚えるといいっすよ! はい復唱」
喋れないってば。
「ま、こんな所っすね。そろそろ時間だろうし、これ以上引き止めるのも悪いっすかね」
「……」
「トリちゃんのペースに飲まれないように、頑張るっすよ!」
その応援はどうなんだ。でもありがたい。
行ってくるぞシャーロット。私が帰ってこなかったら後は頼む!