タンデムで見た海   作:印旛沼まで徒歩五分

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初日の出

12月も気づけば大晦日

 

 

阪神ジュベナイルフィリーズをレコードで勝利し、GⅠを初制覇したウオッカはURAにその功績を認められ最優秀ジュニア級ウマ娘に選出される運びとなった。

 

喜ばしいことだがスケジュール調整や取材対応に追われ、まさに師走といったここ2週間は俺もウオッカも休みなく稼働し続けヘトヘトである。

 

いや分かるよ?独占インタビュー記事みたいなの書きたいのはさ。けど年末にくい込んでもお構い無しに申し込みしてくるから困ったもんだ

 

たづなさんが合同会見に調整してくれなければ年明けまで休みが無くなるところだった···勘弁してくれ

 

 

 

そんなこんなで勝ち取った休日、トレーナー室でコタツに足を突っ込みのんびりとしている。

 

普段は賑わうトレセン学園も、例年ならこの時期はウマ娘もトレーナーも帰省でほとんど居ない。

ささやかな冬休みというやつだ

 

「あー、12月はなんというかあっという間だったよな」

「ホント思うわ」

「何もやる気しねぇ」

「それな」

 

目の前にはコタツ引力にやられたウオッカがグデりと顎を乗せて蕩けていた

余り物のコタツを貰ってきたのだが、これは宜しくないヤられる

 

「てかお前さんは帰省しないの?」

「休みになってからかなり日付も過ぎちゃったしな。それに父ちゃんと母ちゃんで北海道に行ったら雪が凄すぎて帰ってこられないんだとさ」

「あー」

 

ウオッカに限らず北海道出身のウマ娘たちが帰省を躊躇するぐらいに、今年の雪は凄まじい。

雪まつりの材料には困らないだろうな…

 

 

【豪雪などの理由で帰省を取りやめたウマ娘が監督者不在となってしまうため、担当トレーナーは帰省する場合極力日程を調整するように】というお達しがトレセン側から出されたのだ

ぶっちゃけた話が、今年は帰れない子が多く手が足りないので、トレーナーは担当ウマ娘の冬休みの面倒を見なさいということである。

 

 

「お前さん課題は終わったの?」

「んぐっ」

「おい」

「ピ~·····」

 

わざとらしく口笛を吹くウオッカ。視線があっちこっちに飛び回る

 

「こっちを見ろォ!」

「だぁぁ!わかったよチクショー!終わってねえよぉ!」

 

スカーレットからウオッカの学習面については聞いてるので、そこはしっかりやって頂かないといけない

 

「はぁ···後どのくらいだ?」

「8割くらい···」

「終わったのか?」

「残ってんだよぉ·····」

 

クタッと耳が折れ、バツの悪い顔をして頭をガシガシ掻く彼女。

このままでは仕方ないので発破掛けるか

 

「じゃあ今日の晩飯までに全部終わらせたらどこかに日の出見に行くか」

「ヴぇ!?マジ!???ソレってタンデムあり!?」

「ソレでもいいョ」

 

ヴぇって、どこから声出したし

 

「言ったな!!言質取ったからな!終わらせたら連れてけよな!!!」

「分かった!分かったからはよ課題やれ!」

 

めちゃくちゃ食い付いてくる···

彼女も近頃の休み無しハードスケジュールで溜まるものがあったのだろう。

 

どこかいい場所は無いか頭の中で探しながら、課題を片付けていく彼女を眺めていた

 

 

 

 

*****

 

 

 

「ぅ終わったぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあァぁ」

 

裏返った声をあげて全力で伸びをするウオッカ。

頭から蒸気を噴き出しコタツに突っ伏して完全にオーバーヒート状態だ。

 

「お疲れ」

「もう嫌だ無理だ古文も分数も墾田永年私財法も助動詞も周期表も見たくねぇよ···」

「普段のレース論もそれぐらい真面目にやって欲しいんだがな」

「前向きに取り組めるよう善処します」

「絶対ぇやらねーやつじゃねーか」

 

時刻は18時を回ったところで、丁度いいので夕餉にしよう。

ゴマをすり潰して混ぜたごった煮味噌鍋で2人揃って空腹を満たしていく。何故カセットコンロとかがあるのかは聞かないでくれ。

 

フジキセキにこっそりウオッカを借りる旨のメッセージを送っておき手を回しておく。程なくして返信があるあたり、フジキセキもトレセンに残っているようだ。

 

長い休みでも残ったりするウマ娘がいるはずで、管理人は必要なわけだから、寮長はいったいいつ帰省したりするんだろうか···

 

考えれば考えるだけドツボにハマりそうなので適当なタイミングで切り上げる。

 

「じゃあ一旦寮に戻って寝てきな。あぁフジには言っておいたから外出許可も忘れんな」

「分かってるって」

「なら良し、夜明け前に裏門で。冷えない格好してこいョ」

「で?どこ行く予定なんだよ」

「そりゃーお前お楽しみってやつだよ」

 

 

 

*****

 

 

 

トレーナー室のソファでしばし仮眠を取り、起きてみればてっぺんを超えて新たな年になっていた。

カウントダウンライブなどの一切を見逃してしまったし、あまり普段からテレビを見る方では無いが、大晦日特番などは何となく見て話題にだけできるくらいだけはつまんでいるが特に興味を惹く番組は無かった。

 

 

 

スマホが光っているので確認してみれば、バイク屋のサクや同僚トレーナー、数人のウマ娘から新年の挨拶が飛んできていたので軽くメッセージを乗せて返信しておく。

 

ウオッカ···には後で顔合わせるし、直接言いたい気分だ。

 

 

トレーナー棟の屋上に上がり星空を眺める。

 

タバコに火をつけ吸い込めば、冷えた冬の空気が一気に肺になだれ込み、寝惚けた頭が急激に冷えていく。

 

今年はウオッカのクラシック級に挑戦する年なる。自分はどこまで、彼女にしてあげられるだろうか?彼女とどこまでやれるだろうか?

 

 

1人で居ると、何度もこういう思考に陥る。良くないと分かっていながら抜け出せない。

 

 

雑念を振り払うように、煙草の火を揉み消して灰皿に投げる。

 

年が明けた日ぐらい明るく行こうじゃないか

 

 

 

 

 

─駐輪場に佇む愛機に鍵を挿しチョークを引いて火を入れる。

 

何度かセルが鳴き、心臓に熱が入った。少しだけスロットルを煽るとアイドリングが落ち着いてくる。

もうコイツとも長い付き合いだ。冬の寒い朝なんかは少しグズつくがまだまだ走ると力強く声を上げた。

 

 

「今年も頼むぜ相棒」

 

たんたんとバイクを軽く叩く

 

心臓が温まってくると、だんだんとアイドルも落ち着いてきていつもの回転数に戻ってくる。マフラーも温まり4気筒の特徴である一定の共鳴したリズムに整ってきた。

 

「待たせたな」

「挨拶くらいしてくれてもいいんじゃねーか?」

 

拗ねたように口をとがらせ腕を組むウオッカがこちらにじっとりとした目を向け立っていた。

 

どうやら起きてからスマホにメッセージを入れてくれていたらしいが、タバコ吸ってて確認してなかった···

 

「悪かったな。お前さんには直接言いたくてョ」

「そ、そうかよ···」

 

照れてるのかちょっと目線を逸らして、顔が髪に隠れてしまったので表情は伺いしれないが、耳がコチラを向いているから悪い気はしてないんだろう。

「明けましておめでとう、ウオッカ」

「おう!あけおめトレーナー!」

 

 

*****

 

 

大泉インターから外環道に入り、一路東を目指す。

 

本来ならば都心を抜けた方が早い···のだが首都高都心環状線とそれに接続する区間はバイクでの二人乗りは禁止である上、コーナーやジャンクションが多数あるためバイクでは危ない。

更に大晦日から元旦にかけては、初日出暴走族を取り締まるために警察が検問を行ったりするため目をつけられたら面倒なことになる。

 

多少時間は掛かっても、外環道で迂回る方が色んな意味で安全なのでこの選択だ。

 

 

やはり年始早々だから他の車はあまり姿を見ない。たまに速いのが抜かしていくが、一定のペースを保ちつつ三郷ジャンクションから常磐道を北へ、ひた走っていく。

 

 

少しづつ東の空が白み始め、夜が朝に染められ始めた。もうすぐ夜の終わりも近い。

 

 

 

高速を降り少し走って、町営駐車場の一角にバイクを止めた。

 

ここ大洗町には海産物を食べに訪れていた事があった。近年は戦車で戦う女の子達を描いたアニメが人気を博し、いわゆる聖地になった事により随分と来客が増えたようだ。

ライダー達はよく聞くであろう北海道フェリーが就航している港町でもお馴染みである。

 

 

二人連れ立って信号を渡って砂浜へ入り、適当な段差に腰を下ろすとウオッカも隣へ座り込んだ。

茨城に来れば自販機にあのコーヒーが売ってるので勿論購入するし。これは義務なのだな。ホットもまた乙なもんよ。

 

「うぇ···またそのコーヒー飲んでんのかよ·······」

「飲むか?」

「遠慮しとくわ」

「そうかい」

 

お互い白い息を吐きながら身を突くような寒さに浸り、水平線を眺める。言葉数は少ないが、確かにお互いの存在を感じられ孤独とは思わない。

 

 

暁時

 

にわかに境界が輝きだし眩さに目を細めれば、仄かな温もりが全身を柔らかく包む。

 

 

「──オレ、どこまで行けるかな」

 

ふと、少し不安が入り交じったような声が向けられ視線を向けてみれば、真剣な顔でこちらに向き直った彼女と目が合う。

 

「挑める時に挑め。お前さんならどこまでも行けるはずさ」

「そっか、そうだよな」

 

決意を新たに、期待を胸に。泣けど笑えど、クラシック級はこの1年きりさ──。

 

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